第13章脅威と解決策ここで一気に視野を広げてみよう。
本書はここまで、主に二つのテーマに集中してきた。
第1部では加速を推進する要因に注目し、テクノロジーのコンバージェンスが生み出す、かつてないほどの破壊力を持った変化の波を見てきた。
第2部ではこうした波が社会のなかで広がっていく様子、とりわけ私たちの日々の生活に与える影響を追った。
いずれにおいても分析の対象は、これからの10年という範囲に限定してきた。
第3部では、分析の対象を2方向に広げる。
本章で注目するのは破壊的変化の破壊要因、すなわち私たちが実現してきた進歩をぶち壊しにしかねない環境、経済、そして人間の存在そのものをおびやかすさまざまなリスクだ。
言うまでもなく、いずれもそれだけで本1冊書けるようなテーマだが、本書の目的は細部を見ることではない。
問題の全体像を示し、テクノロジーのコンバージェンスによってどのような解決策が生まれる可能性があるか考察していく。
次章では時間軸を伸ばし、視野をこれからの10年から100年へと大きく広げる。
そして今まさに始まろうとしている、テクノロジーを主因とする五つの大移動について考察する。
経済的移住、気候変動による人口移動、バーチャル世界の探究、宇宙の植民地化、そしてハイブマインド・コラボレーションだ。
この五つの大移動によって、これからの100年で世界の人口構成と社会の性質は大きく変わる。
まずは現在進行中の水危機、続いて気候変動や大量絶滅へと話を広げる。
それからテクノロジーによる失業問題、AIの暴走など、エクスポネンシャルな時代の影の部分に目を向けよう。
五つのリスク2018年、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「地球温暖化に関する特別レポート」を発表した1。
その結論は厳しいものだった。
人間は地球を破壊した、工業技術に夢中になる一方、それが引き起こす環境破壊への対処を怠った結果、天文学者のカール・セーガンが「私たちのかけがえのない故郷」と呼んだ地球を急激な破滅の道へと追いやった、と。
世界トップクラスの気候学者らの見解では、この問題を解決するのに残された時間はわずか12年。
平均気温の上昇を工業化以前から1・5度以内にとどめなければ、悲惨な結果に直面するという。
数カ月後には、世界経済フォーラムもそれに同調した。
定期的に刊行する「グローバル・リスクレポート」では、人類が次の10年で直面する最も重大な五つの脅威をとりあげており、従来は石油危機、金融危機など経済的懸念が選ばれてきた2。
だが2018年のレポートでは、経済に関する懸念は初めてトップ5に入らなかった。
むしろ今日の最も重大なリスクは、水危機、生物多様性の喪失、異常気象、気候変動、環境汚染と、すべてエコロジカルなものだという。
本章では世界経済フォーラムが挙げた五つのリスクを克服するうえで、テクノロジーがどのように役立つかを見ていくが、これは放っておけば自然とそうなるというシナリオではない。
私たちはテクノロジーがすべてを解決するといったテクノユートピア主義を唱えるつもりはない。
地球が直面する環境問題を解決するにはもちろんテクノロジーが必要だが、人類史上最大規模の協力的取り組みもまた必要だ。
人類がかつてないほど力を合わせることができたら、成功する可能性は高い。
しかしここに挙げたような近年のレポートからも明らかなように、先延ばしする余裕はない。
水危機ここで注目したい人物がディーン・ケーメンだ3。
ディーン・ケーメンはテクノロジー界のスーパーヒーロー、デニムの作業着を着こんだオタク版バットマンだ。
その隠れ家は要塞のような孤島で、そこには秘密の部屋、ヘリポート、そしてアメリカ合衆国を平和的に離脱してからは独自の憲法まである。
ケーメンはこれまでに440個もの特許を取得しており、そこにはインシュリンポンプ、ロボット義肢、どんな路面でも走れる車椅子などが含まれている。
これほど多くの影響力のある発明を生み出してきた功績が認められ、2000年にはビル・クリントン大統領から発明家にとって最高の栄誉である「アメリカ国家技術賞」を授与されている。
ケーメンが立ち向かおうとしている巨大な敵は、水不足の脅威だ。
今日、きれいな飲み水を入手できない人は9億人にのぼる4。
水を媒介とする感染症は世界全体の死因の第1位だ。
毎年命を落とす340万人の大部分を子供が占める5。
気候変動、人口爆発、一向に改善しない資源管理が、事態をさらに悪化させている。
国連によると、2025年には世界人口の半分が水不足に直面するという6。
こうした流れを変えるため、ケーメンは「スリングショット」を考案した7。
「スターリングエンジン」を使った蒸気圧縮蒸留システム、わかりやすく言うとミニ冷蔵庫サイズの浄水器だ。
動力は乾燥した牛糞など、可燃燃料なら何でもいい。
消費電力はヘアドライヤーよりも少ないが、汚染された地下水、塩水、下水、尿など、どんな水でも浄化できる。
スリングショット1台で1日300人分の飲料水をまかなえる。
さきほど「人類がかつてないほど力を合わせることができたら」と書いたのは、これを10万台つくるというような話だ。
私たちが『楽観主義者の未来予測』でこの話を紹介した2012年時点で、スリングショットはちょうどベータテストを完了したところだった。
アフリカの僻地にある多くの村で、約2カ月にわたって清潔な飲み水を村人たちに供給することができたのだ。
それと並行してケーメンはコカ・コーラと、ある口約束をした8。
ケーメンが高性能なソーダ・ファウンテン(清涼飲料サーバー)を開発する見返りに、コカ・コーラが世界的流通網を使って水不足に苦しむ国々にスリングショットを配る、と。
どちらも約束を守った。
ケーメンは「フリースタイル・ファウンテン・ビベレッジ・ディスペンサー」の開発に手を貸した9。
「微量投入テクノロジー」を活用し、顧客の要望に応じて150種類もの飲み物をつくれる(むしろ選ぶほうが困ってしまう)。
一方コカ・コーラは10のグローバル組織と連携し、2013年に小型店舗「エコセンター」の展開に乗り出した10。
その中核機能の一つがスリングショットだ。
エコセンターは小売店とコミュニティセンターの機能を併せ持つ。
太陽光発電能力を備えた輸送用コンテナを店舗に使い、僻地の低所得コミュニティで安全な飲み水、インターネットアクセス、雑貨(防蚊剤など)、救急用品、そしてもちろん販売用のコカ・コーラ製品を扱う。
2017年時点で8カ国150カ所のエコセンターが稼働しており、そのほとんどが地元の女性起業家によって運営されている11。
そこでは年間7810万リットルの安全な飲み水が配布されている12。
口約束の結果としては悪くない。
だがこの分野で活躍しているのはスリングショットだけではない。
水問題をめぐってテクノロジーのコンバージェンスが始まり、何千というプレーヤーが多種多様なアプローチを試みている。
ハイテク分野ではナノテクノロジーを使った脱塩装置、ミディアムテク分野では太陽光発電を使った地下水ポンプ、そしてローテク分野では霧キャプチャーの仕組みなどがある。
ケーメンのスリングショットのライバルとしては、ビル・ゲイツが支援する「オムニプロセッサー」の例がある。
人の排泄物(人糞)から飲用に適した水と電力を生み出し、さらに灰から肥料までつくれる装置だ。
カリフォルニア州を拠点とするスカイソースもある13。
賞金150万ドルをかけた「ウォーター・アバンダンスXプライズ」の勝者となった会社で、同社のテクノロジーを使うと大気中から1日2000リットルもの水を抽出できる14。
200人分のニーズをまかなえる量だ。
これを再生可能エネルギーを使って、1リットルあたりわずか2セントのコストでやってのける。
地球上の70億人が1日に必要とする水の量は、約13億~約15億リットル15。
これだけのニーズを満たすにはスカイソースのような技術を使って、大気中に常時約4京5000兆リットルほど存在する水分を抽出するしかないのかもしれない。
農業分野でのエクスポネンシャル・テクノロジーのコンバージェンスによって生まれた、「水用スマートグリッド」も忘れてはいけない16。
緻密な土壌モニタ
リング、作物への水やりから、虫や疾病の早期発見まで、さまざまな機能を果たす。
試算によるバラツキはあるが、スマートグリッドによって節約できる水の量は毎年数兆リットルに達するという見方が大勢を占める17。
重要なのは、私たちに足りないのは技術的ノウハウではないということだ。
水を節約するノウハウはある。
足りないのは実行能力だ。
地球生物圏全体にかかわる問題を、断片的アプローチによって解決しようとしている。
ただ、これもエクスポネンシャル・テクノロジーの典型的な成長曲線に乗っている。
水テクノロジーはここに挙げたバラバラな取り組みを、本当に役に立つグローバルな解決策へと結びつけながら、潜行ステージから破壊ステージへと移行しつつある。
自信を持ってこう言えるのは、水テクノロジーはエネルギー・テクノロジーをほぼ5年遅れで追いかけているからだ。
エネルギー・テクノロジーは次に検討する地球温暖化という問題の解決に向けて、世界全体へと広がりつつある。
楽観主義者から見た気候変動400億トンの二酸化炭素。
それが化石燃料を燃やすコストだ。
人類は毎年、400億トンの二酸化炭素を大気中に排出している18。
なかなかイメージしにくい数字だ。
2017年、わかりやすいたとえを考えていた《サイエンティフィック・アメリカン》誌のジャーナリスト、カレブ・シャーフは、森林火災に目をつけた19。
木は炭素を蓄えている。
針葉樹林を1エーカー(約4000平方メートル)燃やすと、4・81トンの炭素を放出する。
つまり400億トンの炭素を放出するというのは、毎年およそ100億エーカー(約4000万平方キロメートル)の林を燃やしつづけることを意味する。
「残念ながら、アフリカ大陸全体でも3000万平方キロメートルしかないので、アフリカ大陸1と3分の1個分を毎年燃やすことになる」石炭、石油、天然ガスを燃やした際に発生する二酸化炭素は、地球温暖化の主な原因だ。
カーボン・メジャーズ・データベースによると、1988年以降に排出された温室効果ガスの71%の元をたどると、化石燃料を扱うたった100社に行きつくという20。
こうした理由から、気候変動を止めるために私たちがまずできることは、クリーンエネルギーへの転換だ。
そして専門家の多くが、転換プロセスは発電、蓄電、環境負荷の低い輸送の三つの部分に分かれると考えている。
発電を変えるそこで人類が今日直面する最大の脅威への解決策として、まずは発電の部分から考えていこう。
状況は悪くない。
風力発電と太陽光発電はここ数十年、エクスポネンシャルな成長曲線を描いてきた。
驚くほど一貫して、価格下落と性能の向上が続いてきたのだ。
たとえば長年最も安価な電源であった石炭火力発電のコスト21は、1キロワット時(kWh)約6セントだが22、すでに比較するまでもない。
風力1セント時代1980年代には、新規の風力発電所の発電コストは1kWh57セントだった23。
今日、風の強い立地では2・1セントである24(政府による補助金をすべて除けば4セント)。
つまりコストは96%減少したわけだ25。
専門家はこれからの10年でさらに半減すると見ている。
つまり2030年には「風力発電1セント時代」が到来するわけだ26。
太陽光太陽光のほうはさらにすさまじい。
過去40年でソーラーパネルの製造コストは300分の1に低下した。
とりあえずkWhベースのコストの話は忘れよう。
1977年には、太陽光で1ワット発電するのに77ドルかかった。
今日では30セント、つまりコストは250分の1だ。
「これほどの費用対効果の改善は、エネルギー産業で過去に例がありません」と、シンギュラリティ大学のエネルギー、気候、イノベーション責任者のラメツ・ナームは説明する27。
「太陽光発電の爆発的成長は、社会の基礎をなすインフラのデジタル変換と同じような効果があるんです」太陽光発電の急成長は、世界最大の非公開石炭会社であるピーボディ・コールが最近破産法の適用を申請した一因でもある。
当然の成り行きではあった。
ここ10年、アメリカの大手石炭会社8社が破産法第11条の適用を申請する状況のなか、石炭銘柄の株価は75~90%下落した28。
この脱・石炭の流れはアジアも同じだ。
2016年だけで中国は160カ所の石炭火力発電所の建設を中止した29。
インドも翌年、同じような行動に出た。
たった1カ月のあいだに、進行中のプロジェクトへの90億ドルの投資を取りやめたのだ30。
コストが劇的に下がる消滅する石炭に代わるのが、再生可能エネルギーだ。
北米最大の石炭火力発電所であるカナダのオンタリオ州のナンティコーク発電所は、最近太陽光発電を始めた31。
イギリスは今、二酸化炭素排出ゼロの電源の発電量が、石炭のそれを上回る32。
そもそもイギリスが一つの国家になったきっかけが石炭だったことを考えると感慨深い。
カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトが実施した調査によると、2017年時点で100以上の主要都市が電力の70%以上を再生可能エネルギーでまかなっている33。
この年、コスタリカは再生可能エネルギーの電力だけで300日間の活動を支えた。
他の国々も同じような取り組みを進めている。
世界全体で電力の8%を太陽光と風力が占め34、既存の石炭発電所を稼働させるより新規の風力や太陽光発電施設を建設するほうがコストは低くなっている35。
要するに、電力コストは大幅に低下しているのだ。
しかも世界のあらゆるところで。
アメリカの日照時間の多い地域では、太陽光発電のコストは1kWh4・5セントだ36。
今世紀を通じて石炭の天下が続くと思われていたインドでは3・8セント37。
アブダビは2・4セント38。
これは価格決定時点では史上最も低いエネルギーコストだった。
だがその後チリが2・1セントとそれを下回り39、さらにブラジルでは1・75セントにまで低下した40。
世界で電気のない暮らしをしている人の大半は赤道直下の国々にいるが、そこでも太陽光は最もコストの低い電源となった。
何より重要なのは、世界で最も貧しい国々は世界で最も太陽光のあふれる国々でもあるという事実だ。
これによって伝統的な電力のパラダイムは完全に覆されるだろう。
「タダの資源」をここまで生かせるしかも変化はまだまだ続く。
今まさに材料科学が太陽光発電と融合し、ソーラーパネルの製法やその性能が変わりつつある。
たとえば「量子ドット」と呼ばれるナノスケールの半導体の塊が、太陽電池に使われはじめている41。
重要なのはエネルギーの変換効率だ。
通常の太陽電池は太陽光の光子一つをエネルギーの電子一つに転換する。
一番高性能のパネルでも入ってくる太陽光のエネルギーへの変換効率は21%前後だ42。
一方量子ドットではそれが3倍になる。
一つの光子が三つの電子になり、変換効率が66%に高まる43。
テクノロジーによって太陽光発電の性能が高まっているだけでなく、価格も低下している。
現在、太陽光発電のコストの3分の2はパネル以外のソフトコスト(土地、メンテナンス、太陽の追跡など)が占める44。
すでに運営会社はドローンやビルトイン・センサーを使って太陽光や風力の発電所をモニタリングし、パネルトラブルを事前に察知しようとしている。
だがそう遠くない将来、ロボット技術者が太陽光と風力の発電設備の建設やメンテナンスを担い、それをAIが監督するようになる。
そしてここまで太陽光と風力を一緒に論じてきたのは、この二つのテクノロジーも融合しつつあるからだ。
そのメリットはきわめて大きい。
「風は太陽が照っていないときに吹く傾向があり、その逆もまた然りです。
1日の時間帯で見ても、季節で見てもそうです。
風力と太陽光を一つの送電網に統合すれば、1たす1が3になります。
そんな設備が今アメリカにあれば、必要な電力の80%をまかなえるでしょう」とナームは語る45。
だが最も重要な点は、最も明白な事実だ。
太陽光はタダで、しかも潤沢にある。
88分毎に470エクサジュール(エクサは10の18乗)の太陽エネルギーが地球に降り注ぐ。
これは人類が1年に消費するエネルギー量に等しい。
112時間(5日弱)では36ゼタジュール(ゼタは10の21乗)のエネルギーが降り注ぐ。
これは地球上の石油、石炭、天然ガスの確認埋蔵量をすべて合わせたエネルギー量に等しい。
その1000分の1でもとらえることができれば、私たちは現在の使用量の6倍のエネルギーを確保できる。
具体的な数字こそ違うが、風力も同じだ。
ことエネルギーについては、問題は資源の不足ではなく利用可能性だ。
そしてエクスポネンシャル・テクノロジーがこれまで解決してきたのは、まさにそんなタイプの問題だ。
蓄電を変える再生可能エネルギーのスケール化には、蓄電技術が不可欠だ。
緊急事態に備えるため、安心して電気を使うため、そして風が吹かず太陽が照らない事態に備えるため、電池は重要な役割を果たす。
だが必要とされる電池の量は、尋常ではない。
カリフォルニア州は最近、2045年までに電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを決めた46。
クリーンエネルギー・タスクフォースによると、この目標を達成するには、3630万メガワット時(MWh)の蓄電能力が必要になるという。
それに対して現在の能力は、15万MWhにすぎない。
つまりカリフォルニア州の目標達成率は0・4%だ。
当初は誰もがこの問題を、リチウムイオン電池で解決しようとしていた。
リチウムイオン電池自体もエクスポネンシャル・テクノロジーであり、30年にわたって価格下落が続いてきた。
1990年から2010年にかけて90%下落し、それ以降さらに80%下がった47。
同時期に性能は11倍になった48。
しかし需要に見合うだけの生産能力の確保は、常に問題となってきた。
テスラのギガファクトリーそこで登場するのが、世界のリチウムイオン電池の生産量を倍増させようというテスラの試み、「ギガファクトリー」だ49。
ネバダ州リノの郊外にあるギガファクトリーでは、年間20ギガワット時(GWh)の電池を生み出す計画だ。
リチウムイオン電池の生産がスケール化されたのはこれが初めてだ。
二つめの拠点はニューヨーク州バッファローに50、三つめは上海に51、そしてヨーロッパでの建設場所が現在検討されている52。
成否はまだわからないが、イーロン・マスクの試算ではギガファクトリーを100カ所に建設すれば、地球上で必要とされるエネルギーをすべて貯蔵できるようになるという53。
テスラの電池は、大規模な使用も可能なことが証明されている54。
2018年、オーストラリアの太陽光・風力発電施設の改良プロジェクトで、テスラは史上最大のバッテリー施設(100MWhのエネルギー貯蔵能力)を100日足らずで建設した。
ここで重要な点は二つある。
一つは太陽光、風力、バッテリーを完全に統合した、石炭より発電コストが低い発電所の建設が可能になったということ。
もう一つは、それがひと夏のあいだにできてしまう、ということだ。
こうした取り組みには、他の自動車メーカーも注目した。
ルノーはEV「ゾエ」のバッテリーをベースにした家庭用蓄電装置を開発55、BMWの「500i3」バッテリーパックはイギリスの全国的な送電網に統合されている56。
トヨタ、日産、アウディもパイロット・プロジェクトを発表している。
ただ各社が一斉に取り組みを倍加させているとはいえ、リチウムイオン電池は選択肢の一つにすぎない。
フロー電池もう一つの選択肢がフロー電池だ57。
リチウムイオン電池は金属のような固体にエネルギーを貯蔵するのに対し、フロー電池は溶融塩のような液体に蓄える。
リチウムは乾燥地域で産出される希少資源で、1トン採掘するのに50万トンの水を使う。
それを安価で潤沢な塩に変えるメリットは大きい。
フロー電池はリチウムイオン電池とは別の用途にも使える。
リチウムイオン電池は軽量で携帯性が高いため、モバイル・テクノロジーには最適だ。
ただ耐久性という弱点がある。
典型的なリチウムイオン電池が耐えられる充電サイクルは1000回だ58。
フロー電池はその逆である。
大型でかさばるが、5000~10000回の充電サイクルに耐えるため、何十年も交換なしに使える59。
このため大規模な公益企業、データセンター、マイクログリッド(小規模発電網)に最適だ。
たとえばカリフォルニア州の再生可能エネルギー強化の取り組みの一環として、このほどサンディエゴに2MWhの蓄電容量を持つフロー電池が設置された60。
1000世帯の4時間分の電気使用量をまかなえる量だ。
コスト面ではまだ課題がある。
フロー電池は現在、リチウムイオン電池より高価だ61。
とはいえ、まもなく大幅に安くなるだろう。
ビル・ゲイツのブレークスルー・エネルギー・ベンチャーズが出資するフォーム・エナジーは、同じ性能のリチウムイオン電池と比べてコストが5分の1になる、硫酸水溶液フロー電池の開発に取り組んでいる62。
成功すれば、このたった一つの画期的発明によって世界の蓄電ニーズの90%を満たせるはずだ。
次世代の蓄電他にも何十という蓄電の選択肢が登場しようとしている。
ハイドロスターをはじめとする多くの企業が、タンクや地下の貯蔵設備に圧縮空気を送り込み、伝統的な蓄電システムの半分のコストで、30年以上使用できるバッテリーをつくろうとしている。
他にも弾み車、熱エネルギー、揚水水力発電に対応した蓄電システムが実用化されようとしている。
材料科学の後押しも大きい。
MITの研究チームはカーボン・ナノチューブを使い、バッテリー容量を50%も増やせる「ウルトラキャパシタ」を開発している63。
これはほんの一例だ。
つまり問題は、再生可能エネルギーの発電やその貯蔵方法ではない。
それをどうやって世界規模に広めるかだ。
ラメツ・ナームの言うようにスマートグリッドをアメリカ全土に広げるだけでなく、すべての大陸に敷設することが重要なのだ。
グローバルレベルの資源管理が求められている。
好むと好まざるとにかかわらず、こと地球環境については人類は一蓮托生なのだから。
加速するEV開発エネルギー問題という巨大パズルの最後のピースが輸送手段だ。
アメリカでは自動車やトラックの使用が、炭素排出量全体の5分の1を占める64。
それに航空機、列車、船を加えると、アメリカの温室効果ガス排出の30%になる65。
世界全体ではやや少なく、20%だ66。
自動運転車(その大部分はEVになる)によって環境への負荷は軽くなるものの、専門家の多くは移行には時間がかかり、地球温暖化を2度以下にとどめるには間に合わないと見る。
この割合を下げようと、各国の政府は将来的にガソリン車やディーゼルエンジン車の販売を禁止すると発表し、自動車産業に圧力をかけてきた。
最初に動いたのは、自動車生産で世界第4位のドイツだ。
2016年に、2030年までに段階的に内燃エンジンと決別すると発表した67。
翌年にはノルウェーがそのさらに上を行き、2025年に内燃エンジンを禁止する方針を打ち出した68。
ノルウェー国民もそれを熱烈に支持し、2017年の新車購入台数の52%をEVが占めた。
それに対して、2018年のアメリカの数字は2・1%だった69。
インドも同じように、2030年までの脱・化石燃料を目指している70。
世界最大の自動車市場である中国も、ガソリン車の禁止を検討している。
そこで先陣を切ったのはボルボで、EV以外の生産をすでにストップした71。
フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、日本、オランダ、ポルトガル、韓国、コスタリカ、スペインは軒並み、国家としてEV販売の目標を打ち出している72。
意志あるところに道は開けるというとおり、大きな市場の変化を感じとった大手自動車メーカーはどこもEVの開発や販売を始めている。
市販されている車種は2010年には二つだけであったのが、2019年には41に増え、消費者の選択肢は広がっている。
フォードだけで2022年までに40車種をEVにするため、110億ドル以上を投資している。
ダイムラーはフォードのさらに上を行く。
完全なEV10車種、ハイブリッド車40車種に合計117億ドルを投資する73。
だが投資額が最も大きいのはフォルクスワーゲンで、2030年までに40車種をEVにするのに400億ドルを投じる74。
世界の自動車メーカー全体で、投資額
はすでに3000億ドルを超える75。
こうした資金の多くが、バッテリーに投じられてきた。
パナソニックはギガファクトリーでテスラと提携したのに加えて、新しいバッテリー技術の開発でトヨタとも提携した76。
一方、ポルシェとBMWは超高速充電装置の開発で協力している77。
フォルクスワーゲンはスタートアップのクアンタムスケープに投資した78。
同社の次世代固体電池は安価、軽量で、しかもリチウムイオン電池と違って出火する危険がない(これで運輸当局も安心だ)。
しかもエネルギー密度は従来の3倍になり、EVの航続距離はガソリン車に大幅に近づく見込みだ。
ただ航続距離にはまだ課題がある。
現在、大方のEVが1回の充電で走れるのは約320キロだ79。
ただ航続距離は伸びる傾向にあり、ここ10年近く毎年15%ずつ伸びてきた80。
2022年にはミッドレンジ(標準車種)でフル充電で約440キロ、ハイエンド(高級車種)で約560~640キロに延び、平均的なガソリン車とほぼ変わらなくなる見込みだ81。
固体電池が実用化されるはずの2025年には、EVが広範に普及する条件とされる航続距離800キロを超えるだろう82。
EVというパズルの次のピースは、充電時間だ。
ガソリン車であれば、ふつうのガソリンスタンドなら10分もかからずに給油できる。
一方EVは充電装置にもよるが、充電に何時間もかかる場合もある。
だが市場の圧力とテクノロジーのコンバージェンスによって、大幅な高速化が進んでいる。
たとえば先ほど触れたポルシェとBMWの共同事業では、平均的なスマホ充電器の2万5000倍のスピードで充電できる、400MWhの充電装置が誕生した。
たった3分で自動車バッテリーに100キロ走れるだけの電気を充電できる。
またこの電池を残量10%から80%まで戻すのに、15分もかからない。
テルアビブのスタートアップ、ストアドットはさらに進んでいる83。
新しい材料を活用した同社のリチウムイオン「フラッシュ電池」は、スーパーキャパシタ並みの高速充電が可能な一方、放電速度は通常の電池並みに遅い84。
この電池を5分充電するだけで、約480キロの走行が可能だ。
充電1分あたり96キロ走れるわけで、旧式のガソリンスタンドと所要時間はほぼ変わらない85。
そして最後のピースが、充電装置の普及だ。
推計値にはバラツキがあるが、アメリカにはおよそ15万カ所のガソリンスタンドがあるとされる86。
それぞれに給油装置が8台あるとすると、装置の総数は120万台になる。
それに対してEV用の充電装置は現在、6万8000台しかない87。
ただこの数字だけでは状況を見誤る。
ここにはEVの充電で最もよく使われる、家庭用充電装置が含まれていないからだ88。
またチャージポイントという新勢力も考慮されていない89。
同社は2025年までに250万台の充電ポートを設置するため(ヨーロッパとアメリカで半数ずつ)、5億ドル以上を調達した。
チャージポイントの事業がうまくいけば、充電ポートの設置台数は給油ポンプと変わらなくなる。
ここで世界経済フォーラムが挙げた五つのリスクのもう一つ、異常気象とのかかわりを指摘したい。
2017年のアメリカの平均的世帯の1日あたりの電気使用量は29・5kWhだった90。
それに対して平均的な「テスラ・モデルS」は85kWhのバッテリーパックを積んでいる91。
つまり緊急時に完全充電されたモデルSが1台あれば、3世帯分の電気を24時間まかなえることになる。
たとえばフロリダ州南部にハリケーンが襲来した場合には、大量のテスラが緊急バックアップ・システムとして活躍するかもしれない。
AIに支えられたスマートグリッドがあれば、EVは全国的電力ネットワークのノードとなり、来るべき異常気象に備えたモバイルなバックアップ電源の役割を果たす。
生物多様性と「生態系サービス」私たちが現在直面する重大な環境危機を語るうえで、種の大量絶滅と生態系の崩壊について触れないわけにはいかない。
気候変動、森林破壊、環境汚染、魚の乱獲などが重なり合った結果、深刻な生物多様性の危機が生じている。
国連によると、1日だけで200種が絶滅することもある。
昆虫種の40%で個体数が減少している。
人間の最も近い親戚であるチンパンジーやサルなど霊長類全般がいまや絶滅の危機にひんしている。
現在のペースでは、今世紀末までに大型哺乳類の50%が絶滅する。
海洋の状況はさらに厳しいかもしれない。
サンゴ礁の4分の3はすでに危険な状態にある92。
サンゴ礁には世界の種の25%が生息しており93、それは5億人以上の生活を支え、大気中の酸素の70%を生み出している94。
だがこのままでいけば、2050年までにサンゴ礁の90%が消滅する。
海洋全体を見渡せば、状況はますます深刻だ。
2100年までに、海洋生物の実に50%が消えるとされる95。
生物多様性は生態系と生態系サービスの健全性の基盤となる。
生態系サービスとは、地球が人類に与えてくれる、人類が自ら生み出すことのできないさまざまな恩恵のことだ。
たとえば酸素の生成、食料や森林を育てること、植物の授粉、洪水の防御、気候の安定など、全部で36ある。
生物多様性の喪失によって、こうしたサービスの60%が劣化し、長期的には持続不可能になる。
ではどうすれば生物多様性を守り、生態系サービスを持続させることができるのか?簡単な対策はないが、悪い流れを変えるのに役立ちそうな五つの変化に注目しよう。
ドローンを使った森林再生地上で生物多様性を守る要となるのが森林だ。
森林破壊が種の絶滅の最大の原因であるのはこのためだ。
破壊の規模はすさまじい。
毎年約7万6000平方キロメートルの森林が失われている96。
パナマと同じ面積と言えばわかりやすいかもしれない。
森林は主要な炭素吸収源であることから、森林破壊は毎年排出される温室効果ガスの15%を占める。
産業的スケールで行われる森林破壊に、どうすれば対抗できるのか?答えは産業的スケールの森林再生だ。
ここで注目したいのが、NASA出身者が設立したイギリスのバイオカーボン・エンジニアリング社だ97。
同社はAI誘導型の植林ドローンを開発した。
ドローンはまず地域の地形データを収集し、植林に適した場所を特定する。
それから生分解性素材でできたミサイルに種子ポッドを詰め込み、地面に向けて発射する。
種子ポッドにはゼラチン状の成長培地が入っている。
それが地面に落ちたときの衝撃を和らげ、その後は木の成長を促進する栄養剤としての役割を果たす。
1人の操縦士で一度に6機のドローンを飛ばし、1日に10万本を植林できる。
バイオカーボン社の計画どおり、全世界で1万機のドローンを飛ばすことができれば、1年で10億本の木を植えることができる。
サンゴ礁の再生サンゴ礁は海の森林だ。
つまり海の健康を取り戻したければ、サンゴ礁を回復させなければならない。
現在開発中のサンゴ礁再生テクノロジーはいくつもあるが、モート・トロピカルリサーチ・ラボラトリーの海洋生物学者、デビッド・ボーン博士はきわめて興味深い研究を進めている98。
組織工学の手法を応用して、100年分のサンゴ礁の成長を2年足らずで再現する方法を開発した。
また通常、サンゴは25年から100年かけて成熟してから増殖していくが、ボーン博士の方法では2年目から増殖を始める。
初めてサンゴ礁を急速に再生させる方法が見つかったのだ。
水産養殖の改革漁業は海洋生物の減少の主な原因の一つだ。
現在、世界の漁業の3分の1は限界を超えた乱獲の状態にある。
漁業資源の管理を徹底することが重要だが、資源を増やすことができれば管理する必要もなくなるのではないか。
幹細胞からステーキをつくるための組織工学技術は、マヒマヒやクロマグロをつくるのにも応用できる99。
現在、まさにそれを目指している会社は6社ある。
養殖の鮭から研究室育ちのエビまで、さまざまなシーフードが食卓にのぼる日も近いだろう。
農業の改革植物や動物が育ち、暮らしていくためにはスペースが必要だ。
地上や海中に、動植物のための人間の手の及ばない広大な生息地を確保する必要がある。
現在、地球上の15%が自然保護区になっているが、ハーバード大学のE・O・ウィルソンら専門家は「史上6回目の大量絶滅」を防ぐには、地球の半分を動植物に明け
簡単に言えば、森林の再生と回復、それに農業改革を結びつければいい。
おおよそ陸地の37%、淡水資源の75%は農業に使われている101。
11%が農作物、残りは牧畜と酪農だ。
だがその総面積は縮小している。
耕作放棄地が記録的なペースで増えているのに加えて、「食料の未来」の章で取りあげた培養肉、垂直農法、遺伝子組換作物などさまざまなイノベーションによって、これまでよりはるかに少ない面積で、これまでよりはるかに多くの食料を生産できるようになっている。
だから話は簡単で、この余った土地を自然に返せばいい。
閉ループ・エコノミー環境汚染も私たちが直面する5大リスクの一つだ。
2017年に医学誌《ランセット》が実施した調査は、環境汚染による死者は年間900万人、コストは5兆ドルにのぼるとした102。
自然への悪影響はそれ以上かもしれない。
言うまでもなく最大のリスクは温室効果ガスによる汚染だが、河川に流れ込んだ化学物質、海洋プラスチック、大気中の微粒子などが地球の生命をむしばんでいる。
それに対し、何ができるのか。
石油中心の経済から、再生可能エネルギーを中心とする経済への移行はプラスだが、それだけでは足りない。
おそらく最も有効なのは、「ゼロ・トゥ・ゼロ製造プロセス」の実現だ。
これは製造業が出てきた廃棄物をゴミ処理場に送るのではなく、廃棄物を完全にゼロにすることを意味する。
トヨタ自動車、グーグル、マイクロソフト、プロクター&ギャンブルをはじめ、ゼロ・トゥ・ゼロを目指す企業は増え続けている。
これは環境にやさしいだけでなく、企業収益にもプラスだ。
GMは最近、廃棄物ゼロを実現した152カ所の施設で、過去数年で10億ドル以上のコストを削減したと報告した。
ようやくイノベーションが追いついた本章ではまず世界経済フォーラムが挙げた、水危機、気候変動、生物多様性の喪失、異常気象、環境汚染という五つの脅威に注目してきた。
それぞれを個別に見てきたが、実際にはバラバラな問題ではない。
異常気象は気候変動が引き起こしたものだが、その被害がこれほど大きくなったのは他の問題が影響しているためだ。
ミャンマーのイラワジ・デルタは生物多様性ホットスポットだ。
かつては地球最大規模のマングローブ林があったが、ここ数十年でデルタの75%近くが伐採され、洪水防御など基本的な生態系サービスが失われた。
2008年にこの地域をサイクロンが襲った際には、13万8000人が死亡した103。
これほど被害が膨らんだ主な原因は、マングローブによる防御機能が失われたことだ。
ただ問題に重なり合う部分があるのと同じように、解決策も重複している。
目下バイオカーボン・エンジニアリングのドローンは、イラワジ・デルタの一部(ニューヨークのセントラルパークの2倍の面積)の植林を進めている104。
それによって切実に必要とされる野生生物の生息地が増えるだけでなく、洪水防御など生態系サービスも復活するだろう。
しかもマングローブ林は通常の森林の3倍の炭素を吸収することから、イラワジ・デルタの森林再生は地球温暖化との戦いにおいても重要な武器となる。
要するに、生命はつながっているというのは単なる比喩ではない。
あらゆるものがあらゆるものに影響を与える。
本章で見てきた解決策はいずれも複数の問題に効果がある。
今すぐ、全力で取り組みを開始しなければならない。
スタンフォード大学の研究者らは、生態系サービスが本格的に停止する前に、種の絶滅を止めるための時間的猶予は数十年と見る。
IPCCは地球温暖化を1・5度に収めるために残された時間を12年と見積もっている。
少なくともこうした問題を解決するのに必要なテクノロジーはすでに存在し、コンバージェンスのおかげで今後も改良されていくのはまちがいない。
イノベーションが問題にようやく追いついたのかもしれない。
パズルに欠けているのは、コラボレーション(協働)だ。
必要なスピードで持続可能な経済への転換を進めるうえで、人類は障害であると同時に希望の星なのだ。
「自動化」によってはるかに多くの「雇用」が生まれる人類に降りかかろうとしている危険のなかでも、一番手は環境問題だが、最近はオートメーション(自動化)も肩を並べる勢いだ。
メディアには、ロボットやAIが雇用を奪うという見出しがおどる。
近年マッキンゼーやガートナー、デロイトといった主要なコンサルティング会社はこぞって、技術的失業は不可避であるというレポートを発表している。
オクスフォード大学のある研究は、これから数十年でアメリカの雇用の47%が失われるおそれがあり、世界全体ではその割合は85%にまで高まる可能性がある、と指摘した105。
だが事実に目を向けると、まったく別のシナリオが見えてくる。
たとえば、このロボットによる大打撃の兆候が最初に表れるはずの雇用市場はどうなっているのか。
意外にも、2017年にジャーナリストのジェームズ・スロウィッキーが《ワイアード》誌にこんな記事を書いている106。
失業率は5%に届かず、多くの州では雇用者が人手が「足りない」と文句を言っている。
「余っている」ではない。
世界金融危機後の大不況では数百万人が雇用市場を締め出されたが、今は戻ってきており、実際に就業している。
それ以上に驚くのは、雇用環境の改善に伴って一般労働者の賃金が上昇していることだ。
確かに過去と比べると上昇幅は低いが、インフレ率や生産性よりも高い。
人間の働き手がまもなく消滅するのだとしたら、こんなことは起きないはずだ。
歴史をふりかえっても、同じようなことはあった。
ラッダイト運動家たちが織機を巨大ハンマーで打ち壊していた1800年代初頭から、理屈の上では労働者はずっと消滅の危機にあった。
1790年、アメリカでは国民の90%が農業を生業としていた107。
現在その割合は2%を下回っている。
それだけの雇用が失われたのかといえば、必ずしもそうではない。
農業経済はまず工業経済に、それからサービス経済に、そして今では情報経済へと変貌を遂げた108。
自動化によって失われる雇用より、新しいものに置き換わる雇用のほうがはるかに多い。
自動化が起きた場合でも、私たちが想像するような悲惨な結果を引き起こすとは限らない。
現金自動預け払い機(ATM)の例を考えてみよう109。
1970年代末にATMが登場したとき、銀行で社員の大量解雇が起きるのではないかという深刻な懸念があった。
1995年から2010年にかけて、アメリカのATMの台数は10万台から40万台に増えたが、それによって銀行員の大量失業は起きなかった。
ATMによって銀行の運営コストが低くなったために、拠点数は40%増えた。
拠点数が増えれば社員の数も増えることになり、実際この時期に銀行員の数は増加した。
ニュースサイト《クォーツ》でジャーナリストのT・L・アンドリュースが指摘しているとおり、同じことが繊維産業でも起きた110。
「生地を生産する仕事の98%は自動化されたにもかかわらず、織物業の雇用は19世紀以降増加した」。
AIの登場によって仕事を失うと予想されてきた、弁護士を補佐するパラリーガルや助手についても同じことが言える。
1990年代に法律事務所が開示手続支援ソフトウエアを導入すると、むしろその逆の現象が起きた。
フタを開けるとAIがきわめて有能であったために、膨大な資料が出てくるようになり、それを調べる人手が足りなくなった。
結局パラリーガルの雇用数は増えたのだ。
企業が業務の自動化を望む最大の理由は生産性だ。
しかし生産性が最も高まるのは、人間を機械で置き換えたときではなく、人間が機械の性能を引き出したときであることは、繰り返し証明されてきた。
アクセンチュアのジェームズ・ウィルソンとポール・ドアティは《ハーバード・ビジネスレビュー》誌でこう説明している111。
「当然ながら、多くの企業がAIを使ってプロセスを自動化してきた。
しかし主に人手を減らすためにAIを使うと、生産性向上は一時的なものになる。
1500社を対象としたわれわれの調査では、人間と機械が協力したときに最大のパフォーマンス向上が見られた」。
たとえばBMWが従来の完全自動型の組立ラインを、人間とロボットのチームによる組立ラインに置き換えたところ、生産性は85%向上した112。
エクスポネンシャル・テクノロジーは雇用にプラスもう一つ、指摘しておくべき事実がある。
エクスポネンシャル・テクノロジーが誕生するたびに、インターネットと同じぐらいのとほうもない機会が生まれる。
こうした機会を活かすためには適応というプロセスが必要になり、それには従業員を再教育しなければならない。
ただ最終的には雇用は差し引きプラスにな
る。
インターネットそのものを見ればわかる。
マッキンゼーが中国、ロシアからアメリカまで13カ国を対象に実施した調査では、インターネットは破壊した雇用の2・6倍の雇用を生み出していた113。
全体として、調査対象となった13カ国のすべてにおいてインターネットの台頭によってGDPは10%拡大し、さらに成長は続いている。
誤解のないように言っておくと、いずれ消滅する仕事もある。
専門家は技術的失業が社会に及ぼす影響が大きくなるのは2030年代と予測するが、それ以前にまるごと消滅してしまう職種も出てくるはずだ。
トラック運転手やタクシー運転手、倉庫や小売業の従業員など、ロボットは幅広い仕事に置き換わっていく。
アマゾン・ゴーによってレジ係はゼロにはならないだろうが、食品スーパーやコンビニエンスストアやガソリンスタンドでは人間のスタッフがいる店よりいない店のほうが多くなる。
問題は、こうした影響が社会全体に広がる前に、労働者を再教育する時間があるかどうかだ。
答えはどうやら「イエス」のようだ。
たとえば最近ゴールドマン・サックスが、自動運転車によって毎年30万人の運転手が仕事を失うことになるという説を唱え、大きな話題を呼んだ114。
だがそれほど注目されなかったものの、そこにはこうした変化が起きるのは25年先になるとも書かれていた。
それと同じように重要なのは、VRを使った学習環境からAIがコントロールする学習カリキュラムまで、教育分野のさまざまな進歩によって、労働者の再教育はこれまでよりずっと容易に、迅速に、かつ効果的に行われるようになるという事実だ。
そして最後に、人工知能というユーザーフレンドリーなインターフェースによって、テクノロジーはこれまでよりずっと使いやすくなる。
その結果、労働者に再教育すべきスキルも変化する。
多くの仕事において、何かに徹底的に習熟することより、技術を使いこなす能力や機敏さのほうが重要になる。
ここにおいても、カギを握るのはコラボレーションだ。
2018年7月時点で、アメリカには670万人分の求人がある115。
かつてないほどの人手不足だ。
単に雇用があるというだけでなく、かつてないほど人手が必要とされている。
こうした求人を埋めるために、迅速に労働者を再教育することができるか。
それこそが私たちの解決すべき課題だ。
テクノロジーは人類をおびやかすか2002年、ニック・ボストロムという無名のオクスフォード大学の哲学者が、《ジャーナル・オブ・エボリューション・アンド・テクノロジー》に論文を発表した116。
そこで展開された「シミュレーション仮説」、すなわち私たちが生きているのは映画『マトリックス』の世界であるという説得力のある主張によって、ボストロムはわずか数年で一躍ギーク界のヒーローになった。
だが読む者を薄気味悪い気分にさせるこの論文は、かなりの批判も浴びた。
この論文は新たな脅威を描き出していた。
ボストロム自身はそれを「人間の存在をおびやかすリスク」あるいは「グローバルな破滅的リスク」と呼んだが、従来の概念とはやや違う意味を込めていた。
これまで「グローバルな破滅的リスク」と言えば、地球を破壊するような小惑星の衝突、地球規模の核戦争などを指していた。
だがボストロムが伝えようとしたのは新たな脅威である。
エクスポネンシャル・テクノロジーには人間の存在をおびやかすリスクになるという厄介な傾向があることを、よくわかっていたからだ。
よく知られた例が、自己複製可能なナノテクノロジーの暴走、つまりエリック・ドレクスラーの言う「グレイ・グー」だ。
もう一つの例が、AIがキレて北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)をハッキングし、世界に最終戦争を仕掛けるといった事態だ。
遺伝子組換生物が生態系を破壊する、サイバーテロリストが送電網を乗っ取ってニューヨークを暗闇に陥れる、バイオハッカーがエボラウイルスを武器化してサンフランシスコにばらまくといったシナリオもある。
いずれもエクスポネンシャル・テクノロジーの時代に潜む落とし穴だ。
それこそがボストロムの不吉な警告である。
私たちの進む先にはたくさんの落とし穴が待ち受けているのだ、と。
だが、本当にそうだろうか?これは多くの論争を引き起こしてきたテーマだ。
イーロン・マスクや故スティーブン・ホーキング博士などの思想リーダーは、人間存在をおびやかす脅威について、はっきりと懸念を表明してきた。
オクスフォード大学やMITのような権威ある学術機関も、こうした問題を専門的に研究する部門を立ち上げた。
意見はまだ分かれている。
人類が生き延びられる確率を正確に把握しようとすること自体が不毛な試みといえる。
ただ、いくつかコンセンサスも形成されつつある。
それは解決策というより、解決策のカテゴリーと言うべきものだ。
ここでは「視野」「予防」「統治」と呼ぼう。
視野──思考のタイムスパンをのばす視野を語るうえで重要なのは時間軸、つまりどれくらい先を見通すかだ。
太古の昔に形成された人類の脳は、近視眼的にモノを考える習性がある。
今日どうやってトラの襲撃を防ぐか、今日どうやって家族の食料を確保するか、と。
長期的に何かを考えるとしても、せいぜい「冬場を過ごせる暖かい場所をどうやって探そうか」といったことだった。
要するに進化の過程で、私たちの将来に関する時間軸は6カ月程度に設定された。
もちろん私たちはこの時間軸を伸ばす方法を発達させてきた。
心理学用語で「満足遅延耐性」と呼ばれる性質だ。
自らの寿命を超える満足遅延耐性を発揮できるのは、人類の顕著な特徴である。
宗教が来世を約束することで現世の行動を制御できるのは、この性質のおかげだ。
他の動物にはできないことだ。
だが私たちはこの能力を失いつつあるようだ。
フューチャリストのスチュアート・ブランドはロング・ナウ協会に寄せたエッセイで「文明は猛烈な勢いで、病的なまでに近視眼的になりつつある」と指摘する117。
「こうした傾向の原因は、テクノロジーの加速、市場主義経済ならではの短期的思考、次の選挙を常に意識する民主主義の特性、あるいは個人がマルチタスクに追われて注意散漫になっていることかもしれない。
いずれの要因も一段と強まっている。
近視眼的傾向を是正する何らかの調整が必要だ」ブランドが考えた是正策が、自らの設立したロング・ナウ協会だ。
ネバダ州のグレートベースン国立公園の奥地にある洞穴に、人目につかないように時計を設置したことで知られる。
この時計は1万年にわたって時を刻むように設計されているが、本当の目的は心理的なもの、つまり私たちに1万年のタイムスパンで物事を考えるよううながすために設置されたのだ。
ロング・ナウ協会の究極の目的は、人間の存在をおびやかすリスクから身を守りたければ長期的視野で物事を考える必要があると、多くの人に理解してもらうことだ。
予防──先回り対策を打つでは長期的思考を現実世界で実践するというのは、具体的にどういうことか。
それが解決策の二つめのカテゴリーである「予防」だ。
一例がオランダの取り組みだ。
国土の大部分が海抜ゼロメートル以下のオランダは、ヨーロッパで最も気候変動の脅威にさらされている国だ。
だが潮位の上昇を、防潮堤をさらに高くするといったその場しのぎの方法で乗り越えようとはしていない。
防潮堤を造れば短期的には維持管理が必要になり、最終的には修理や建て直しが必要になる。
オランダはむしろ長期的視点に立ち、先を見越した対策をとろうとしている。
建築評論家のマイケル・キメルマンは《ニューヨークタイムズ》紙でこう説明している118。
「オランダ人は気候変動を仮定の話、あるいは経済的足かせではなく、むしろ機会ととらえている。
(中略)オランダは世界に先駆けて独創的対策を打っている。
それは突き詰めれば、母なる自然を征服しようとするのではなく、可能なかぎり水を受け入れようとする姿勢だ。
水を打ち負かそうとするのではなく、水と共生することだ。
オランダでは湖、駐車場、公園、広場など普段の生活に役立つと同時に、海や河川の氾濫時には巨大な貯水池になるような場所を整備している」予防のもう一つの例は、AI、ネットワーク、センサー、衛星のコンバージェンスがもたらす。
それによって私たちは、現行のものとは比較にならないほど高度な、グローバルな脅威を探知するネットワークを構築できるようになる。
悲惨な飢餓やテロ攻撃の被害を防ぐためのグローバルな食物網モニタリング、感染症を引き起こす病原菌から核物質まで大気中の多種多様なにおいを嗅ぎ分ける装置、AIを使った暴走AIを探知する仕組みなど、提案されているネットワークは多岐にわたる。
いずれも奇抜なアイデアに思えるかもしれないが、たとえば地球を破壊する小惑星の探知について考えてみよう。
20年前なら陰謀論かハリウッドのホラー映画にしか出てこないような話だった。
だが今では、NASAのジェット推進研究所が地球への小惑星の衝突を監視するために設計した「セントリー(見張り)システム119」や、NASAによる小惑星の軌道を変えて地球を防衛する世界初のプロジェクト「DART」が形になっている120。
そこまで未来的ではないがスケールの大きさでは負けていないのが、しばらく前から実用化されている衛星画像を使った山火事の追跡だ。
NASAは2018
った。
他の研究機関では、探知された火災への対処方法が検討されている。
消火用ドローンはすでに開発が進んでいる。
10年以内に宇宙から森林火災を見守るAIが、地上にいる自律的な消火用ドローンと直接コミュニケーションをとるようになるというのは、バカげた空想ではないだろう。
これは緊急サービスの非物質化の第一歩ともいえる。
このような発想を、誰もが身につける必要がある。
技術進歩の有無にかかわらず、地球というシステムは生きていて、常に変化している。
初期の地球の大気はメタンガスと硫黄がほどよく入り混じったものだったが、そこへ酸素と呼ばれる有毒ガスがやってきて、すべてをぶち壊しにした。
恐竜は地球の圧倒的支配者として君臨していたが、今では博物館で当時の栄華をしのんでいる。
変化の激しいこの世界で恐竜のようになりたくなければ、将来を見越した予防の技術を磨く必要がある。
統治──政府をデジタル化する急速に変化する世界において、予防は人間の存在をおびやかすリスクを克服するカギとなるだろう。
そして究極の予防は、適応力と機敏さを持つことだ。
ただ私たちの社会は、適応力と機敏さを発揮するようにはできていない。
社会を構成する組織や制度の大半は今とは異なる時代、すなわち規模と安定性が成功の指標となる時代につくられた。
20世紀の大部分を通じて、企業の成功はたいてい従業員数、保有資産の多さなどによって決まった。
一方、私たちが身を置くエクスポネンシャルな世界では、機敏さが安定性を上回る価値を持つ。
ならばリースできるものを所有する意味があるだろうか。
そしてクラウドソースできるものをリースする意味はあるだろうか?エアビーアンドビーは世界最大のホテルチェーンだが、客室は一つも所有していない。
ウーバーやリフトは世界の主要都市のタクシー会社を圧倒してきたが、タクシーは1台も所有していない。
そしてこのようなレベルの柔軟性は、いまや企業にとって必須であるだけでなく、国家の統治においても同じように必要だ。
それが解決策の最後となる三つめのカテゴリーだ。
近代の「統治」という概念はおよそ300年前、革命の嵐が吹き荒れた後に生まれた。
当時は暴政からの自由への希求と、安定性への渇望が同時に存在していた。
このため近代の民主主義は分権制を採り、抑制と均衡を働かせるための冗長性を備えてきた。
専制政治と国家の不安定化を防ぐために、統治システムの変化はゆっくりと民主的に進むように設計されていた。
エクスポネンシャルな世界では、反応時間を大幅に短縮することが求められる。
1997年以降、バルト海沿岸の小国エストニアはデジタルガバナンスのパイオニアとして、何をするにも時間と手間のかかる政府部門のデジタル化を推し進めてきた122。
その目的は、反応時間の大幅なスピードアップだ。
国民が政府に何らかの問題を解決してもらいたいと思ったとき、たいていの国では長時間待たされたり、お役所仕事に悩まされたり、さまざまな難題に直面する。
それがエストニアでは公共サービスの99%がオンライン化されており、ユーザーフレンドリーなインターフェースもある。
国民は5分もかからずに納税でき、選挙では世界中のどこからでも安全に投票することができ、自らの医療情報はすべてブロックチェーンによって保護された分散型データベースで入手できる。
国全体で煩雑な手続きが減少した結果、800年分の作業時間を節約できたとされる。
エストニアの例に刺激を受けて、世界中の政府がデジタル化を進めている。
そして多くのスタートアップ企業がそれを支援している。
オープンガブは複雑な政府の財政状態を、わかりやすい円グラフにまとめる123。
トランジットミックスは交通システムの計画立案を、リアルタイムかつデータドリブンにする。
アパリシアスは緊急事態対応を調整するための災害支援ダッシュボードを開発した。
ソーシャルグラスは政府調達の迅速化、法令順守、ペーパーレス化を推進する124。
大手テクノロジー企業も動き出している。
たとえばアルファベットのサイドウォークラボは、「キーサイド」と呼ばれるスマートコミュニティの開発でカナダ政府と協力している125。
トロントのウォーターフロントにあるこの工業地区では、ロボットが郵便を配達し、AIがセンサーデータを使って大気質から交通量までを管理する。
また都市全体が「クライメート・ポジティブ」、すなわち環境基準を順守し、持続可能な動力で動いている。
だがこのプロジェクトが単に不動産ニュースとして興味深いだけではないのは、キーサイドのために開発されたソフトウエアシステムはすべてオープンソースになることだ。
つまり誰でも利用でき、世界中のスマートシティの開発を加速させることになる。
未来を楽観できる三つの理由NASAの小惑星探知計画、オランダの水と共生するための都市の再設計、エストニアの機敏なデジタルガバナンスといったさまざまな予防策は、エクスポネンシャルリスクを除去するのに十分なものだろうか。
答えは「まだまだ」と「まだ」の中間あたりだろう。
だが今後を楽観すべき理由が三つある。
一つめはテクノロジーによるエンパワーメントだ。
500年前にはこのような世界規模の壮大な問題に立ち向かう能力を持っていたのは王侯貴族だけだった。
30年前なら、その役割を果たすのは大企業か主要国の政府だった。
だが今日、そうした力を私たち全員が持っている。
エクスポネンシャル・テクノロジーは小規模な集団に大規模な問題に取り組む能力を与える。
二つめの理由は機会だ。
私たちの前作『ボールド』の中核的テーマの一つは、世界最大級の問題は世界最大級のビジネスチャンスでもある、という事実だった。
つまり環境、経済、人間の存在をおびやかすさまざまなリスクは、いずれも起業家精神とイノベーションの発射台となる。
三つめの理由がコンバージェンスだ。
私たちは人類の直面する脅威について、リニア(直線的)に考えがちだ。
過去のツールを使って未来の問題を解決しようとする。
だがこれからの10年で、100年分の技術進歩が起ころうとしている。
人工知能、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど、これから私たちが手にする最も強力なテクノロジーの多くは、まだようやく実用化されつつある段階だ。
こう考えると、確かに私たちが直面する脅威は深刻なものに思えるが、すでに手にしている解決策が今後ますます強力になっていくのもまた事実だ。
第14章五つの大移動がはじまる世界は「人の移動」で進歩するヒトは移動性の種だ。
過去7万年のあいだに私たちはアフリカ大陸からさまよい出て、ひたすら放浪を続けてきた。
山を登り、森を育て、川を越え、大陸を横断し、海をわたり、最終的に地球の隅々まで広がった。
人間の大移動に伴い、イノベーションも新たな土地へと流入した。
人間が古きを捨て、新しきを求めるなかで、新たなアイデア、テクノロジー、文化もその流れに乗って移動していった。
ユーチューブのダンス動画『ハーレムシェイク』が香港で大ブームになったのはもちろん、今日の世界がこのような姿になったのは、このプロセスの結果である。
ここまでの道のりは平坦ではなかった。
人類の大移動の多くは、危険、大災害、あるいは今では「歴史」と称される筆舌に尽くしがたい恐怖から人々が逃れようとしたことがきっかけとなった。
ただ争いや悲劇に端を発したとはいえ、人々の移動は長い目で見れば文化に好ましい影響をもたらした。
オクスフォード大学のイアン・ゴールディンとジェフリー・キャメロンは共著『特別な人々:大移動は世界をどう形づくり、未来にどう影響を及ぼすのか』(未邦訳)でこう説明している1。
人間社会と世界の発展の歴史をふりかえると、大移動がどれほど社会の進歩の推進力となってきたかがわかる。
大移動というレンズで人類の過去を見ると、文化的フロンティアを超えた移動が、今日のようなグローバルで統合された世界を生み出したことがわかる。
(中略)人は移動するなかで新たな環境や文化と出会い、適応を強いられ、新しい物事のやり方を生み出していった。
思考体系やテクノロジーの発達、新たな農作物や生産方法の拡散は、移民の経験、あるいは移民との出会いを通じてもたらされることが多かった。
ゴールディンとキャメロンが指摘するとおり、移動は単に人が動くというだけでなく、アイデアが動くことでもある。
それは今も昔も変わらず、進歩の大きな推進力だ。
移動はイノベーションを加速させる要因だ。
「移民」こそイノベーションの原動力である数年前、スタンフォード大学(現在はニューヨーク大学に所属)の経済学者ペトラ・モーザーが、このイノベーションの加速の度合いを定量化しようと考えた2。
これはモーザーの個人的体験に根差した研究だった。
「スタンフォード大学の同僚の半数以上が移民だった。
このような能力の高い移民の流入を止めるような政策変更が、科学とイノベーションに及ぼす影響を見極めたかった」と取材で語っている3。
この問いに答えるため、モーザー率いる研究チームは、長年の通説を検証することにした。
ナチスドイツから逃れてきたドイツ系ユダヤ人が、アメリカのイノベーションに重大な影響を与えたというのだ。
それが事実なら、とほうもないエクソダス(大量出国)がとほうもないインパクトを生み出したことになる。
ユダヤ人の大量出国は1933年4月、アドルフ・ヒトラーが公務員制度改革法を成立させ、「非アーリア人」を公職から追放したことで始まった4。
この結果、消防士、警察官、教師、そしてモーザーの研究にとって最も重要な学者ら数万人が仕事を失った。
ヒトラーが首相になってわずか2カ月で、不吉な予兆は明白になった。
それからの10年で13万3000人以上のドイツ系ユダヤ人がアメリカへ逃げた。
たとえるならサウスカロライナ州の主要都市チャールストンの人口がそっくりテキサスへ移住したようなもの、あるいはその移住したサウスカロライナ住民の中にアルバート・アインシュタインを含めて6人のノーベル賞受賞者がいたようなものだ5。
これだけの人材流入の影響を測るため、ペトラ・モーザーはまず化学の特許から調べた。
それからほぼすべての技術分野に対象を拡大し、1920年から70年までの特許出願数と取得数を調べた。
50万件を超える発明の記録を調べることで、移民の影響を追跡したのだ。
その結果、移民が本書で見てきたさまざまな推進力と同じぐらいイノベーションを加速させることが明らかになった。
モーザーによると、ドイツ系ユダヤ人が進出したあらゆる分野で、特許数は31%増えていた。
当時アメリカでは反ユダヤ主義が強まっており、移民の多くは希望する職業に就くことができなかった。
モーザーらがこの事実を踏まえてデータを調整したところ、移民によって特許数は実に70%増えていた。
モーザーの研究は通説を裏づけ、移民のパワーとこの時代の特異性を新たな角度から浮き彫りにした。
ただ特異ではない点も指摘しておくべきだろう。
移民はイノベーションの推進力になるという事実だ。
このパターンは今日も続いている。
たとえば非営利の超党派団体「新たなアメリカ経済のためのパートナーシップ」の2012年の調査では、アメリカで最も特許取得数の多い10大学に認められた特許の4分の3で、出願者に外国で生まれた研究者が最低一人は含まれていた6。
同じ傾向は「製品再配置」からも確認できる7。
これは新たな製品やサービスが市場に登場し、古いものを退出させることを指し、経済学者のジョセフ・シュンペーターは「創造的破壊」と呼んだ8。
研究者のあいだでは特許の数ではなく、製品再配置のほうがイノベーションのインパクトを測るための絶対的基準と見られている。
数年前、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、移民とこの絶対的基準のあいだに直接的な関連性を見いだした。
2001年から2014年のあいだに、外国生まれの高度技能労働者を採用したすべてのアメリカ企業で製品再配置率を追跡したところ、きわめて明確なシグナルが浮かび上がった9。
技能の高い外国人労働者を採用した企業は、イノベーションのペースが高まり、そのイノベーションが市場に与える影響も増大した。
具体的には高技能外国人の従業員が10%増えると、製品再配置は2%増加した。
しかもこの傾向は、会社が投じた研究開発費の多寡とは関係なく確認された。
移民は圧倒的な雇用を生み出す移民がイノベーションに与えるのと同じ影響が、起業分野でも確認されている。
移民は元の住民から雇用を奪うと散々言われてきたが、データはその逆の結果を示している。
移民は雇用を奪うどころか、新たな雇用を生み出す傾向がはるかに高い。
移民はアメリカ生まれの国民より、新たな事業を始める傾向が2倍高い10。
また新規雇用の25%は彼らが生み出している。
2006年から2012年のあいだに、ベンチャーキャピタルの出資を受けて株式を公開した企業の33%では、創業者の少なくとも一人が移民だった11。
フォーチュン500企業(アメリカの主要企業)の40%は、移民かその子供によって設立された。
2016年にはユニコーン(時価総額10億ドルを超える稀有なスタートアップ企業)の半分が、移民の設立した会社であり、それぞれが少なくとも760人以上の新規雇用を生み出していた12。
なぜこうした事実がそれほど重要なのか?理由は二つある。
まず前章で取りあげたさまざまな危機を克服するには、相当なイノベーションが必要になる。
環境リスクや人間の存在をおびやかすリスクに立ち向かうための新たなアイデア、そしてロボットやAIによって消滅する仕事に代わる新たな仕事が必要だ。
また新たなアイデアを実践するには、世界的な協業と協調、そして国境や文化や大陸を超えた深い共感が不可欠だ。
これから起こる五つの大移動によって、まもなくそうした条件は整っていくだろう。
これからの100年を予測する
視野を次の10年から100年に広げる本章では、とほうもないスケールの大移動を見ていくことになる。
なかには大規模な自然災害を避けるため、経済的機会を追求するためなど、過去にも見られたような理由によるものもあるが、それがこれまでよりはるかに短期間に、はるかに大規模に起こる。
一方、これまで人類が越えたことのない境界を越えていく移動もある。
地球を離れて宇宙に出ていく、当たり前の現実を離れて仮想現実に出ていくケースもあるだろう。
また最先端の脳コンピュータ・インターフェース技術がこれまでのようなペースで進歩していけば、個人の意識から飛び出し、集合意識に移動することも可能になる。
テクノロジーがもたらすハイブマインド、あるいは『スタートレック』用語で言えば、やさしく穏やかな「ボーグ」の誕生だ。
だからみなさん、シートベルトをしっかり締めて、乗り物から絶対に手足を出さないように。
大移動はとてつもない加速要因だ。
これからの100年で五つの大移動によって、私たちを取り巻く世界で「ほんの少し前にあったものが手品のように消える」という事態がいたるところで起きるようになる。
気候変動による7億人の移住前章では、テクノロジーによって気候変動を緩和するための方法を見てきた。
しかし、私たちにはそうした解決策を大規模に遂行する能力が圧倒的に不足している。
そして一つ確実に言えるのは、気候が変化すれば人間も変わらざるを得ないということだ。
予想される影響は驚くほど深刻で、しかも広がり続けている。
1990年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した最初のレポートは、わずかな海面上昇でも「数千万人の環境難民が生まれる可能性がある」と警告していた13。
1993年にはオクスフォード大学の科学者、ノーマン・マイヤーズがIPCCの予測を見直し、気候変動によって2050年までに2億人が強制的移住を迫られると主張して物議をかもした14。
90年代が終わるころには、マーク・レビンが《アウトサイド》誌でこう述べるまでになった15。
「気候問題は人類共通の不安となり、テクノロジー、自然、自然からの報復、避けられない運命に関する不吉な予感をかきたてている。
(中略)やりすぎた、気候を変えてしまった、今度は気候が私たちを変える番だ、と」気候変動によって、どれほどの変化が生じるのか。
主要な科学者やジャーナリストによる独立系団体であるクライメート・セントラルは2015年、入手可能なすべてのデータを使ったメタ分析の結果、たとえ気温上昇を2度に抑えられたとしても、異常気象によって1億3000万人が移住を強いられると報告した16。
では2度に抑えられなかったら?クライメート・セントラルの見立ては厳しい。
「現在の状況が続けば、二酸化炭素の排出によって気温は4度上昇する。
そうなれば現在4億7000万~7億6000万人が住んでいる地域の水没は避けられない」これがどれほどの移住を引き起こすかをイメージするために、クライメート・セントラルは温暖化が地球上の沿岸部にあるすべての国家や大都市に及ぼす影響をマッピングした17。
喜ぶのは魚ぐらいだろう。
地球の気温が4度上昇すると、ロンドン、香港、リオ、ムンバイ、上海、ジャカルタ、コルカタなど世界の巨大都市の多くでは、最も手っ取り早い移動手段は徒歩ではなく泳ぎになる。
島国ではまるごと消滅するところも出てくる。
アメリカでは2000万人の住みかが水没する。
ワシントンDCでは海面が国防総省の高さに達する。
今のニューヨークの不動産価格は高すぎると思っているかもしれないが、ウォール街以南が水没したら状況は一変するだろう18。
地球温暖化は洪水だけでなく、昔から人類を悩ませてきた干ばつの危険性も高める。
人類が7万年ほど前にアフリカを離れる理由となった干ばつは、いまだに多くの人に移住を強いている。
世界で最も難民が多いのはシリアだが、その一因に干ばつもある。
ヨーロッパでは温暖化を2度に抑えられたとしても、地中海沿岸部の乾燥は進み、特にイタリア、スペイン、ギリシャへの打撃は大きくなる。
ジャーナリストのエリー・メイ・オヘーガンは《ガーディアン》紙にこう書いている19。
「要するに、今は他の地域からの難民への対応に苦労している地中海沿岸諸国は、いずれ自国民の難民化に悩まされるかもしれないということだ。
こうした国々の気温上昇と乾燥化が進めば、フランス・カレーの難民キャンプにイタリア人やギリシャ人があふれるようになるかもしれない」歴史をふりかえると、1947年のインドとパキスタンの分離は史上最大の強制移住を引き起こしたとされる20。
このときは1800万人が住み慣れた土地を追われた。
一方気候変動による移住は、予測される最低水準に収まったとしても(2度の気温上昇、1億3000万人の移住)、その7倍の規模のグローバルな大移動になる。
ただ気候変動による移住が特殊なのは、それを引き起こしているのが私たち自身であるということだ。
経済的にも人間の苦しみという点でも、そのコストはおよそ許容できないほど高い。
3800万人の人口を抱える東京都市圏は、世界で最も人口の多い大都市だ21。
その15個分の住民を移住させるのにどれほどのコストがかかるか、想像してみよう。
しかもこれは完全に、私たちが自ら招いた事態なのだ。
前章で見てきたように、気候変動への対応に必要な戦略やテクノロジーの大部分はすでに存在している。
こうした解決策を遂行するのにどれだけコストがかかったとしても、7億人に新たな住みかを見つけるコストとは比較にならない。
いずれにせよ長期的に見れば、気候変動によって多くの人が移動を強いられるようになるなかで、イノベーションのペースはこれまでどおり加速していく。
2050年、世界人口の66〜75%が都市に住む気候変動による7億人の移住は、人類史上最大の大移動だ。
しかし二つめの移動と比べれば大したことはない。
これからの20~30年で、ほぼすべての人が都市へと移動していくのだから。
300年前には、世界の人口の2%が都市に住んでいた22。
200年前は10%だった。
だが産業革命の蒸気機関並みの破壊力によって、数字は一変した。
1870年から1920年のあいだに、アメリカでは1100万人が農村部から都市に出た23。
ヨーロッパからはさらに2500万人が海をこえて移住し、その多くがアメリカの都市に住みついた。
1900年までにアメリカでは国民の40%が都市に住んでいた。
それが1950年には50%になり、2000年には80%になった。
他の国々も似たようなものだ24。
ここ50年で中低所得国では都市人口が倍増し、ナイジェリアやケニアなど3倍になった国もある。
2007年までに世界は重要な一線をこえ、世界人口の半分が都市で暮らすようになった。
その過程で巨大都市が続々と生まれた。
1950年には「メガシティ(巨大都市)」の条件である人口1000万人に達していたのはニューヨークと東京だけだったが、2000年には18を超えた。
それが現在は33になった。
今後はどうだろう?とんでもない数字になるだろう。
すでに人口2000万人を超える超巨大都市を意味する「ハイパーシティ」という言葉もある25。
ちなみにフランス革命の時期には、世界の都市人口を全部足し合わせても2000万人に満たなかった。
2025年にはアジアだけで10~11のハイパーシティが存在しているはずだ。
しかも今後ハイパーシティはなくてはならないものになる。
2050年には世界人口の66~75%が都市部に住むようになる26。
その時点で人口は90億人を超えるとされ、これは人類の究極の大移動となるだろう。
気候変動によって生み出される移住の3倍に相当する、25億人を超える史上最大の人口移動だ。
そして移動は一気に起こる。
2050年には東京に代わり、デリーが世界最大の都市の座に就くだろう。
そして中国では300の新たな100万人都市と二つのメガシティが誕生し、都市化でインドを超える。
アフリカの都市は爆発的に拡大する。
カイロからコンゴまで、アフリカ中の都市人口は2050年までに90%増加する。
今世紀が終わるまでに、ナイジェリアのラゴスの人口は1億人に達する可能性がある。
世界全体で見ると、これから2050年まで、毎週100万人が都市に移住する。
トロント大学の都市学教授であるリチャード・フロリダは、これを「現代最大の危機」と呼ぶ27。
あらゆる危機がそうであるように、この危機も機会と危険の両方をはらんでいる。
まずプラス面から見ていこう。
経済的観点からいえば、都市は産業活動にはうってつけだ。
2016年にブルッキングス研究所が世界で最も規模の大きい123都市の経済を調査した28。
世界の人口に占める割合はわずか13%であったにもかかわらず、経済生産ではほぼ3分の1を占めていた。
翌年、全米経済研究所が改めて生産性と人口密度の関係性を調べたところ、同じパターンが確認された29。
人口密度が高いほど、生産性は高まる。
たとえばロンドンやパリは、イギリスやフランスの他の地域より大幅に生産性が高い30。
アメリカの最も規模の大きい100都市は、それ以外の都市と比べて生産性が20%高い。
ウガンダの都市部の労働者は、農村部の労働者より生産性が60%高い。
また中国の深圳の生産高は、全国と比べて3倍高い。
人口密度はイノベーションの推進力にもなる。
サンタフェ研究所の物理学者、ジェフリー・ウエストは、都市の人口が2倍になるたびに、イノベーションの出現率(特許数を指標にする)は15%高まることを発見した31。
それだけではなく、ウエストの研究では対象となったすべての都市において、人口密度が高まると、賃金、生産高、劇場やレストランの数などを指標とした生活の質も高まっていた。
さらに都市が成長すると、必要なリソースは増えるのではなく、むしろ減る。
大都市の規模が2倍になっても、ガソリンスタンドの数から冬場必要な暖房の数まで、さまざまな資源の増加は85%にとどまる。
つまり規模が大きく人口密度の高い都市は、規模の小さい都市や町、農村などより持続可能性が高いのだ。
移動距離の減少、交通手段の共有化、病院や学校、ごみ収集サービスなど必要とされるインフラの効率化がその理由だ。
結果、都市はより清潔になり、エネルギー効率は高まり、二酸化炭素の排出量は減る。
スマートシティの登場によって、そうした傾向は一段と高まる。
2018年のマッキンゼーの調査では、スマートシティのソリューションによって都市の住民一人あたりの温室効果ガス排出量は15%、年間の固形廃棄物は30~130キロ、1日の水使用量は94~302リットル減少するという結果が出た32。
実際、今日存在するテクノロジーを使ってスマートシティに転換するだけで、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の70%は達成できる。
一方、マイナス面はどうか。
悲惨な状態が発生する可能性は確かにある。
無計画な都市化が進めば、犯罪、疾病、貧困サイクル、環境破壊につながる。
しかし本書からも明らかなように、私たちはこうした課題を解決できるだけの手段を手にしている。
難しいのは先見性のあるテクノロジーを、すぐれたビジョン、すなわちすぐれた統治制度や市民レベルの協業と結びつけることだ。
成功すれば、都市化は現代社会が抱える重要な問題の多くを解決する有効な手段の一つになる。
失敗すれば、史上最大の大移動によって史上最悪の荒廃した都市が世界中に生まれる。
バーチャル世界への移住数字で見ると、奴隷貿易によってアフリカの母国と引き離された1200万人、インドとパキスタンの分離によって故郷を追われた1800万人、そして第2次世界大戦後のヨーロッパの政治的混乱で移住を強いられた2000万人が、人類史上の3大強制移住といわれる。
いずれも原因は人類史ではおなじみのもので、一つめが経済(および非人格化)、二つめは宗教、そして三つめは政治だった。
それぞれが世界に大きな影響を与えた。
だがこの三つを足し合わせても、これから起こる新たな大移動のインパクトには及ばない。
テクノロジーが唯一の原因となる初のケースだ。
新たな大移動は、スイッチ一つで始まる。
これから数年以内のいつか、どこかで、誰かがマトリックスの世界に自ら足を踏み入れる。
そして決してふりかえらない。
人類がこれまで経験したことのないエクソダス(集団脱出)だ。
当たり前の現実から、バーチャルな現実への移動である。
すでに準備は整っている。
世界全体でビデオゲームに費やされる時間は、週30億時間33。
アメリカではデジタルメディアの使用時間が1日11時間に達する。
インターネットゲーム障害はメンタルヘルス疾患として認められており、「過剰摂取」の事例は枚挙にいとまがない。
2005年にはBBCが、韓国人男性がオンラインビデオゲームを連続50時間やりつづけて死亡したニュースを報じた34。
その後も似たような事例が頻発している。
2014年には《ガーディアン》紙が、ネットカフェでバーチャルベビーを育てることに夢中になった夫婦が、3カ月になる生身の赤ん坊を自宅に置き去りにして餓死させたと報じた35。
日本には「引きこもり」と呼ばれる、失われた世代、見えない若者、自分の部屋に閉じこもり、ネット世界にしか出ていかないティーンエイジャーが100万人いる36。
こうした人々は新たな大移動のパイオニアだ。
人々がバーチャル世界への冒険に乗り出す足がかりを築いている。
ただこれからの20~30年で、二つの要因がこの大移動を加速させるだろう。
「心理的要因」と「機会」だ。
「没入感」が人々をバーチャルの虜にするまずは心理的要因から見ていこう。
過去の大移動はいずれも外的要因、すなわち外的世界での出来事がきっかけとなった。
一方、この新たな大移動の引き金は内的な心理的要因、すなわち私たちの脳内で起きることだ。
原因は中毒性のある神経化学物質で、それを防ぐ方法はまだ見つかっていない。
ビデオゲームには中毒性がある。
中毒の根本原因は、ドーパミンと呼ばれる興奮剤、つまり快感を生み出す主要な脳内ドラッグだ37。
ドーパミンは没頭、興奮、世界を探究したい、その意味を理解したいという欲求と結びついている。
リスクを取るとき、報酬が期待されるとき、あるいは目新しいものに出会うとドーパミンが分泌される。
ひとたび報酬ループが確立されると、つまりある活動とドーパミンにつながりがあると脳が認識すると、もっとドーパミンの効果を感じたいということ以外何も考えられなくなる。
たとえばコカインは地球上で最も中毒性の高い物質の一つだが、その主な効果は脳内をドーパミンでいっぱいにすることだ38。
ビデオゲームにはリスク、報酬、目新しさが詰まっている。
いわばジョイスティックの形をしたドーパミン注入装置だ39。
ただ、これはビデオゲームだけの話ではない。
メッセージが来たことを伝えるスマホの着信音を聞くと、内容を知りたくてたまらなくなるのもドーパミンの作用だ。
メッセージをチェックして、ちょっと気分があがるのも同じである。
ゲーム、ネットサーフィン、ソーシャルメディア、テキストメッセージや性的メッセージのやりとり、ポルノなど、インターネットの主な用途のほとんどはドーパミンを分泌させる40。
だがVRほど強力なものは一つもない。
研究では、バーチャル環境の没入感は、従来のビデオゲームや他のデジタルメディアとは比較にならないほど、一気にドーパミンの分泌量を増やすことが明らかになっている41。
数字に多少のばらつきはあるが、研究者の多くはビデオゲームが真に中毒性を発揮するのは人口の約10%だと考えている。
VRではその割合は大幅に高まる。
精神科医のキース・アブローは《フォックスニュース》の最近の記事でこう説明している42。
「フェイスブックは中毒性のあるドラッグのようなテクノロジーで、あらゆるドラッグがそうであるように利用者に一時的な快楽を与え、最終的には精神医学的に病んだ状態にしてしまいます。
そこにVRヘッドセットのオキュラスリフトが加われば、状況はさらに悪化するでしょう」ただドーパミンは脳の報酬系神経伝達物質の一つにすぎない。
ほかにもノルアドレナリン、エンドルフィン、セロトニン、アナンドアミド、オキシトシンといった物質もある。
いずれも強い快感を引き起こす。
デジタルメディアはドーパミン以外の分泌にはあまり効果がないが、没入型のVRは六つすべてに作用する43。
VRヘッドセットは、心地よさを感じさせる神経化学物質をすべてミックスした強力なドラッグを発生させるわけだ。
ただ話が本当におもしろくなるのはここからだ。
VRのカギは「フロー状態」次に私たちが目を向けるのは、「フロー状態」に関する研究だ44。
なじみのない人のために説明すると、フロー状態とは「自分が最高の状態にあると感じられ、最高のパフォーマンスができる最適な意識状態」と定義される。
最高のパフォーマンスを可能にするこの状態を引き起こす一因が、脳の六つの快楽物質すべてが分泌されることだ。
研究者がフロー状態を最も中毒性の高い経験の一つと考える理由はここにある。
中毒性が高いだけではない。
フロー状態は最も充実感のある経験でもある。
50年以上にわたるフローの研究から明らかになったのは、人生に並外れた充実感と満足感を覚えているのは、人生で最もフロー状態を感じている人々であるということだ。
ビデオゲームでもユーザーはフロー状態に達することはあるが、VRの没入感のほうがフロー状態を引き起こしやすい。
つまりフローの科学とVRが今後も融合していくなかで、私たちはまもなく通常の現実よりも楽しく充実した別の現実を生み出す能力を手にする。
それを念頭に置きつつ、ここにどんな機会が潜んでいるか見ていこう。
とりわけ雇用、教育、セックスに関する機会に注目したい。
雇用の面では、VRが経済的可能性を秘めていることはすでにわかっている。
セカンドライフは史上初のバーチャル世界だった。
2006年に《ビジネスウィーク》誌は表紙に不動産実業家のアンシェ・チュンを載せた45。
セカンドライフの中での不動産取引を通じてバーチャル世界だけで財を成し、現実世界で大富豪となった初めての人物だ。
ビデオゲームやソーシャルメディアの世界でも同じような収益活動はあり、VRではますます活発になるだろう。
つまりこれからの数十年でロボットやAIが多くの人間の雇用を奪い、リアルな世界では雇用市場が収縮する一方、バーチャル世界の雇用市場は爆発的に成長するといったワンツー・パンチがあれば、バーチャル世界への移住に大きく弾みがつくだろう。
二つめの機会が教育だ。
VRを使えば、分散型で、個々の学習者に合わせてカスタマイズされた加速的な学習環境をつくることができる。
世界人口の増加にともなう教育ニーズの高まり、あるいはテクノロジーによって失業に追い込まれた人々の再教育といった要因から、教育市場はいずれ飛躍的に拡大する。
VRはそれを強力に後押しする。
というのもVRを使うとユーザーはフロー状態に入りやすくなり、新しい情報を覚え、記憶する能力が高まるからだ。
たとえば国防総省の調査では、フロー状態の兵士は通常より230%速いペースで学習できた。
アーネスト・クラインのベストセラー小説『レディ・プレイヤーワン』でも、人々がVR世界に移行するきっかけとなったのは教育だった46。
そして最後の機会がセックスだ。
ビデオデッキからインターネットまで、主要なコミュニケーション・テクノロジーの進歩を後押ししたのは常にポルノだった。
次の波はまちがいなくVRだ。
触覚テクノロジーと組み合わせれば、VRは五感で楽しめる経験となる。
史上初の見て触れるポルノとなれば、中毒性のある神経化学物質が大量に放出されるのはまちがいない。
しかもポルノだけではない。
ソーシャルメディアも同じだ。
マッチングアプリの「ティンダー」のVR版を想像してみてほしい。
通信相手に五感で感じられるメッセージを送れたらどうか。
サイバーセックスに関する大規模で詳細な調査を行ったスタンフォード大学の精神医学名誉教授、アル・クーパーは、ウェブを「性衝動のためのクラックコカイン〔訳注:純度の高い強力なコカイン〕」と称する47。
クーパーの調査によると、アメリカにはデジタルセックス中毒者がすでに20万人いる。
世界でみれば、数百万人になるだろう。
VRセックスのほうが通常のデジタルセックスよりドーパミン分泌効果が高いことを考えれば、それがバーチャル世界への移住の強力な推進力になることがわかるだろう。
それは人間の原始的衝動に根差しているのだから。
奴隷貿易、インドとパキスタンの分離、第2次世界大戦後のヨーロッパの混乱という過去の3大移住を足し合わせると、4450万人が母国を追われた。
だがすでに3億2100万人のアメリカ人が1日11時間をオンラインで過ごしている48。
VRが生み出す神経化学物質のドラッグによって、この数字がさらに増えるのは確実だ。
そこに充実感、征服欲、金銭、セックスといった人間の主たる動機づけが組み合わされば、VRの魅力は一段と高まる。
その結果がバーチャル世界への意識の脱出というもう一つの大移動であり、それはようやく始まったばかりだ。
宇宙への移住競争がはじまる「地球は人類のゆりかごだが、永遠にゆりかごにとどまることはできない」1800年代末、ロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキーの言葉だ49。
ツィオルコフスキーは真のビジョナリーだった50。
宇宙飛行の父と呼ばれ、宇宙船用のエアロック(気密式出入口)、操舵用スラスタ、多段式ブースター、宇宙ステーション、宇宙コロニーに食料や酸素を供給するのに必要な閉サイクル生物システムなどを初めて考案したとされる。
生涯でこうしたトピックについて90本以上の論文を発表し、この最後のフロンティアの攻略に必要なものをほとんど考え尽くした。
ただそこには、宇宙攻略に不可欠な要素が一つ抜けていた。
競争である。
1960年代に人類を初めて宇宙空間へ押し出したのは、「アメリカ対ソ連」というイデオロギーとその扇動者たちの激しい対立だった。
競争が開発の推進力となる構図は今も変わらない。
ただ「アメリカ対中国」などわずかに残った国家同士のせめぎ合いもあるとはいえ、カギを握るのはハイテク業界の大物経営者同士、つまりジェフ・ベゾス対イーロン・マスクの競争だ。
二人とも人類をゆりかごから連れ出し、宇宙というフロンティアを開拓し、地球上でいろいろなことがうまくいかなかったときの「生物圏のバックアップ」として第2の人類文明を築きたい、という強い思いを抱いている51。
二人の夢と競争が、宇宙を目指し、新たな大移動を実現する一つの推進力となっている。
しかもツイッターバトルというおまけつきだ。
@JeffBezos2016年11月24日:めったにお目にかかれない珍獣、使用済みロケットだ。
再着陸は難しいが、うまくやると簡単に見える。
動画を観て。
bit.ly/OpyW5N52@elonmusk2016年11月24日:「めったにお目にかかれない」は言いすぎだな。
スペースXのグラスホッパーは3年前に6回の準軌道飛行をして、まだ現役だよ53。
ジェフ・ベゾスまずはベゾスから始めよう54。
宇宙への情熱を抱いたのは高校時代にさかのぼる。
アポロ世代で、『スタートレック』の熱烈なファンでもあったベゾスの卒業生総代スピーチのテーマは「数百万人が宇宙で生活し、働く未来」であり、「最後のフロンティアである宇宙よ、僕を待っていてくれ」と締めくくられた。
進学したプリンストン大学では、「宇宙探査・開発のための学生組織」(SEDS)の支部代表を務めた。
ベゾスがプリンストン大学にいた時期には、同大学宇宙研究所の創設者であった物理学者の故ジェラード・K・オニールもそこで教えていた。
1980年代初頭、オニールは学生たちに重要な問いを投げかけた。
「人類が太陽系に進出していくなかで、惑星表面は生活の場として最適だろうか」と。
最終的にその答えは「ノー」だと判断したオニールは、巨大な回転式シリンダーを建設すべきだと主張した。
今日「オニール・コロニー」と呼ばれるようになったそれは、地球や火星のような惑星の重力の外側にある素材だけ、具体的には月の表面で採取された素材で建設することになっていた。
ベゾスはこうした宇宙に関する教えを決して忘れなかった。
大学卒業後、ウォール街からアマゾンへとキャリアを変えたのもそのためだ。
「シンプルな2段階計画ですよ。
まず大金持ちになり、それから宇宙というフロンティアを開拓するってね」と冗談交じりに語っている55。
本当に大金持ちになってしまうと、ベゾスはその資金を宇宙に注ぎ込んだ。
2000年にはブルーオリジンを設立し、年10億ドルをこの事業に投資すると宣言した。
そのとき発表した当初の目的は、人や荷物を宇宙へと運び出し、最終的に月に送ることができるロケットの建設だ。
今でも人類による宇宙コロニーの建設を開始する場所として、月が最適だと考えているためだ56。
2019年にワシントンDCで開かれたあるイベントでは、こう語っている57。
「月と呼ばれるこの身近な天体は、私たちの授かりものです。
重力が比較的小さいので、宇宙でのモノづくりを始めるのに適している。
(中略)月の表面からリソースを取り出すのに必要なエネルギーは、地球から取り出す際の24分の1にすぎません。
これは大きな利点です」その次のステップとして、ベゾスは月着陸船「ブルームーン」の開発を発表した58。
繰り返し使用できるロケット「ニュー・グレン」に積んで月に送り、月面で3・6トンの探査機、貨物、人員を降ろす。
挑戦しないという選択肢はない、とも語った。
「他に手はありません。
私たちはこの地球という惑星を救わなければならない。
その一方で、孫の孫世代から活気と成長に満ちた未来を奪ってはならない。
宇宙に行けばその両方が手に入るんです」続いて、オニールの研究成果に再び目を向けた。
ブルーオリジンが月面着陸というビジョンを達成できたら、次に目指すのはオニール・コロニーの建設である、と。
個々のコロニーには100万人が居住可能で、新たな大移動の大きな推進力となる。
「地球は太陽系の宝です。
このため居住と軽工業に用途を限定すべきです。
重工業は宇宙へ移せばいい。
そこには想像できないほどのスペースがあります。
(中略)太陽系は1兆人の人口を支えることができる。
そうすれば1000人のモーツァルト、1000人のアインシュタインが生まれるでしょう。
人類文明がどれほどすばらしく、活気あふれるものになるか、想像してみてください」とベゾスは説明した59。
イーロン・マスクベゾスに対する猛烈なライバル意識があるとはいえ、この点についてはイーロン・マスクも同意見だ60。
「歴史はいずれ岐路に立ちます。
一つの道は、人間がずっと地球にとどまるというもので、行きつく先は絶滅です。
(中略)もう一つは宇宙文明と複数の惑星に生きる種を目指す道です。
後者を選んだほうが、ずっ
と胸のおどる、おもしろい未来になると思いますよ」南アフリカのプレトリアで生まれたマスクが、初めて自作のコンピュータ・ソフトウエアを売ったのは12歳のときだ。
ペンシルベニア大学ウォートン校で学位を取得し、その後進んだスタンフォード大学院の博士課程を中退すると、再びソフトウエアを売るという同じ方法で成功を収めた。
まずZip2を3億700万ドルで、続いてペイパルを15億ドルで売却したのだ。
ようやく成果を出すのに十分な資金が集まったと判断したマスクは、人類が生き延びるのに最も重要だと思う二つのミッションの遂行に乗り出した。
一つは成長力あるソーラーエコノミーを生み出して化石燃料中毒を断ち切ること(テスラとソーラーシティーズでの取り組み)、もう一つは人類が生きる場として複数の惑星を確保することだ。
しかし移住の出発点として月を選んだベゾスとは異なり、マスクが常に夢見てきたのは火星だ。
ペイパルを売却する前年の2001年、マスクは植物(実際には植物の種)を火星に送るというアイデアを思いついた。
「マーズ(火星)・オアシス」と名づけたこのプロジェクトは、宇宙船に地球の大気のような気体を入れた密閉空間をつくり、何種類かの種とその成長をうながすジェル状の栄養剤を入れておくというアイデアだ61。
「着陸したらジェルに水分を加える。
そうすれば火星に小さな温室ができるんです」とマスクは説明していた。
マスクは火星表面で成長する植物の写真を撮りたいと考えた。
そのインパクトは強烈で、きっとアメリカ政府は火星へのミッションに資金を出し、火星に人類の恒久的コロニーを建設する気になると踏んだのだ。
だが温室を火星に送るためにロケットを購入するコストを調べたところ、既存の発射装置はあまりに原始的かつ高価で、およそ人類による宇宙コロニーの建設の役には立ちそうにないことがわかった。
この問題を解決するため、マスクは2002年にスペースXを設立した62。
とんでもない失敗を幾度か繰り返し、破産寸前まで行きながら、2008年6月にはようやく「ファルコン1号」を軌道に打ち上げるのに成功した。
その後は何十回もの成功が続き、回を追うごとにコストは低くなっていった。
続いて再利用という課題に取り組んだ。
つまり航空宇宙産業の長年の夢であった、離着陸を繰り返しても壊れないロケットの開発だ。
こうしてようやく地球最大のロケット「ファルコンヘビー」が誕生した。
2018年初頭、ファルコン・ヘビーはマスクが所有する赤いテスラ・ロードスターを、火星を超えて小惑星帯へ向かう軌道に送り込むことに成功した。
こうして試行錯誤を繰り返した結果、スペースXはファルコンロケットの製造をまもなく中止すると発表した。
人間を火星に運ぶには力不足と判断したためで、代わりに「スターシップ」の開発に乗り出した63。
マスクにとって火星でのコロニー建設は人類のための危機管理計画であり、この10年の間に解決すべき問題だ64。
スターシップはすでに試験飛行を実施しており、マスクは2030年までに火星に人を送り、2050年には本格的な都市生活が営まれるようにするという目標を公言している。
その実現に向けて、スペースXは2027年から50年にかけて、地球と火星の距離が最も短くなるタイミングを見計らって22~24カ月に1度のペースで10回の大規模なロケット打ち上げを予定している。
現行の計画は次のようなものだ。
まずスターシップを地球周回軌道に打ち上げ、それに続いてスターシップ・タンカーを何度か打ち上げ、最初に打ち上げた軌道上の宇宙船に燃料を補給する。
それからロケットはまっすぐ火星に向かう。
クルーのほか、一度におよそ100人の乗客を運べる。
一人あたりの片道切符はいくらになるのか。
マスクは50万ドルという数字をあげ、こう説明している65。
「先進国に住む人の多くが、地球上の自宅を売って火星に移住できる程度の安さにするつもりです」必要なモノはすべて宇宙にある今回の宇宙競争の勝者がマスクとベゾスのどちらになるかにかかわらず、一つ確かなことがある。
コンスタンチン・ツィオルコフスキーも指摘したとおり、人類がこの地球上で大切にしているものの多く、すなわち金属、鉱物、エネルギー、淡水、質の高い不動産、果てしない冒険、欲望と愛、充実感や生きがいといったものが、宇宙には無尽蔵にあるということだ。
闘争心旺盛な大富豪たちが目下繰り広げているのが、この宝の山を手に入れるための冒険であり、私たちがゆりかごを出て宇宙へと向かう理由はまさにここにある。
そんななか、今世紀のもう一つの大移動が今まさに始まろうとしている。
ブレイン・コンピュータ・インターフェースという革命2015年、ハーバード大学の化学者チャールズ・リーバーは、ニューロモジュレーションと呼ばれる新分野で、ある難題に取り組んでいた66。
過去数十年、パーキンソン病患者の治療には「脳深部刺激療法」が利用されてきた。
患者が覚醒しているあいだに、頭蓋にドリルで穴を開け、脳の運動をつかさどる領域に電気的刺激を送る装置を差し込む。
すでに治療法として定着しており、埋め込まれた装置の数は10万個を超えた。
他のあらゆる治療法が効かなかった患者にとって、脳深部刺激療法は運動を制御し、震えを抑える唯一の手段だ。
残念ながら、副作用もある。
しかも奇妙なものが多い。
最も発生頻度が高いのは、ギャンブルの衝動を抑えられなくなることだ。
仕事中毒者が突然怠け者になるというのが二つめ。
慢性的に鬱状態に陥るというのが三つめだ。
理由は、装置の大きさにある。
脳外科医はできることなら、脳への影響をニューロン(神経細胞)一つレベルにとどめたいと考える。
しかしそのような精度の高い治療をするには、今日使われている電極は大きすぎる。
MITの材料科学・工学教授のポリーナ・アニキーヴァは2015年のTEDトークで、今日の電極で個別のニューロンを狙い撃つのは「小型トラックぐらいの大きさの指で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番を弾こうとするようなもの」とたとえた67。
さらに厄介なのは、こうした装置を外科手術で埋め込んだ後には、脳がそれを異物と認識するため、相当な薬物投与が必要になることだ。
設計上の問題もある。
人の身体は柔軟性のある3次元環境だが、今日の脳インプラント装置(脳深部刺激療法の電極に限らず)は2次元で柔軟性はない。
体内組織とは似ても似つかず、むしろシリコンチップに近い。
ぐにょぐにょした熱くて湿っぽい脳内で、電気信号が混線し、副作用が出るのも当然だ。
チャールズ・リーバーはまったく違う方法を採ることにした。
医師は骨組織を再生するとき、損傷した部位に「バイオスキャフォールド(足場)」を埋め込むことが多い。
この足場を支えにして新しい組織が成長していくのだ。
5年ほど前、リーバーはエレクトロニクス材料を使って微細なバイオスキャフォールドをつくってみようと考えた。
フォトリソグラフィー技術を使って4層のプローブに1層ずつエッチングを施し、脳の活動を記録できるセンサー付きのナノスケールのメタルメッシュ(金網)をつくったのだ。
このメッシュを丸めて細いシリンダーの中に詰め、それを注射器に吸い込んでマウスの海馬に注射した68。
1時間も経たずにメッシュは元の形に広がった。
周辺組織へのダメージは一切なかった。
こうしてマウスの脳の状態が手に取るようにわかるようになった。
生きている動物の脳の活動を、リアルタイムにモニタリングできるようになったのだ。
マウスの免疫系はインプラントを敵ではなく仲間とみなした。
メッシュを異物として攻撃するのではなく、ニューロンがそこに取りついて、増殖しはじめたのだ。
別の実験では、リーバーはマウスの網膜にメッシュを注入した。
そこでもメッシュは目の組織にダメージを与えずに元の形に広がった。
視覚を阻害せず、光を遮断することもない。
それでいてマウスの視覚をニューロン一つ単位で、16チャネル同時に、何年も継続的に記録できる装置ができあがった。
この成果によってリーバーグループの名声は一気に高まり、この技術は野火のように広がった。
使用方法を説明するチュートリアル動画はオンラインで閲覧できる。
この技術の進化の次の段階について熱弁をふるうイーロン・マスクの動画もたっぷりある。
マスクはそれを「ニューラル・レース」、あるいは注入可能なブレイン(脳)・コンピュータ・インターフェース、「人間をコンピュータと接続する超高帯域のブレイン・マシン・インターフェース」などと表現する69。
あらゆるテクノロジーの究極の交錯点ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、コンバージェンスの究極の姿だ。
バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、材料科学など本書で取りあげてきたほぼすべてのテクノロジーの交錯点にある。
それらが急速に同じ産業にまとまりつつあることは、すでに見てきたとおりだ。
量子コンピューティングも忘れてはいけない。
それによって人間の脳のような複雑な環境をモデル化できるようになる。
そして人工知能を使えば、量子コンピュータのつくったモデルを解析できるようになる。
神経シグナルをクラウドにアップロードするための、高帯域幅ネットワークもある。
このようにBCIという単一の技術進歩には、私
たちが成し遂げてきた技術進歩のほとんどが詰まっているのだ。
エクスポネンシャル・テクノロジーが人間の知性の証だとすれば、その最たるものがBCIだ。
またBCIは私たちを自らの成功のワナから救ってくれるかもしれない。
AIが支配する世界にしっかりと参画するには、人間がアップグレードする必要があり、その切り札となるのがBCIだと考える人は多い。
その急先鋒がイーロン・マスクとブライアン・ジョンソンだ。
マスクはニューラリンクを、ジョンソンはカーネルを創業し、それぞれがBCIの開発を加速させようとしている。
それ以外にもフェイスブックからDARPAまで、さまざまな勢力がこの分野に参入している。
フェイスブックはキーボードに代わるソーシャルメディアの究極のインターフェースとして、ユーザーが頭に思い浮かべるだけで投稿できるようなニューロテックを開発したいと考えている。
DARPAはBCIを次世代の戦闘用テクノロジーと考えており、100万個のニューロンを同時に記録すると同時に、10万個に電子的刺激を送れるものを開発しようとしている。
スタートアップも続々と誕生しており、対象分野は医療や健康から教育、エンターテインメントまで幅広い。
そして技術は着実に進歩している。
研究者はここ10年でEEG(脳波図)をベースにしたBCI、すなわち外科手術を必要とせず、頭に置くだけの電極の王冠を使って、奇跡のような成果を生み出してきた。
対まひ患者は再び歩けるようになった70。
脳卒中で何年もまひ状態にあった患者が再び手足を使えるようになった71。
てんかん患者は発作が起きなくなった72。
四肢まひ患者は脳で考えるだけでカーソルを動かせるようになった。
そして子供向けのおとぎ話から現実になったのは、ドラキュラ、空飛ぶ車、殺人ロボットだけではない。
いまやテレパシーもその仲間入りを果たした。
2014年、ハーバード大学の研究チームが、インターネットを通じて脳から脳へ言葉を送った73。
専門用語で「ブレイン・トゥ・ブレイン・コミュニケーション」と呼ばれるもので、被験者のうち1人はフランス、もう1人はインドにいる長距離バージョンだった。
送信機にはワイヤレスでインターネットに接続したEEGヘッドセットを使い、受信機には脳に弱い磁気パルスを送る経頭蓋磁気刺激装置(TMS)を使った74。
被験者たちは思考を伝え合うまでにはいたらなかったが、メッセージに相当する光の点滅を正確に読み取ることができた。
それが2014年時点の話だ。
2016年にはEEGヘッドセットを使って、テレパシーでビデオゲームをプレーできるようになった。
2018年には頭で考えるだけでドローンを操縦できるようになった。
次のステップは人間の脳を、クラウドを経由してシームレスにインターネットとつなぐ方法を見つけることだ。
リーバーの注射によってメッシュを埋め込む技術がこれほど注目される理由はここにある。
一般的に、頭に乗せるだけのニューロテックでは、実際に利用価値のある明確なシグナルは得られず、反対に手術で埋め込むタイプの装置は(手術がどれだけ簡単なものであっても)リスクが高すぎて広く普及しないと見られている。
マスクの言う注入可能なニューラル・レースなら、こうした問題は解決でき、それ以外にもさまざまなメリットがある。
「個人の意識」はクラウドに移行するここで話は最後の大移動につながる。
通常の脳をベースとする個人の意識から、クラウドベースの集団意識への移行だ。
それはハイブマインドの誕生であると同時に、真の冒険とは宇宙に出ていくことではなく、自らの心に分け入ることだという事実の再認識でもある。
イーロン・マスクとブライアン・ジョンソンがともに主張するように、経済的観点からもこの移行は必要だ。
人間が人工知能と競争する世界においては、「コストを抑える」という昔ながらの動機づけが働く。
だが動機づけは他にもある。
自分の脳をクラウドに接続すれば、私たちの処理能力と記憶能力は大幅に高まる。
そして少なくとも理論的には、インターネット上で地球上のあらゆる頭脳にアクセスできることになる。
こんなふうに考えてみよう。
コンピュータは1台だけでもおもしろい。
だが何台か接続し、ネットワークをつくれば、ワールド・ワイド・ウェブの原型ができる。
このコンピュータが、既知の宇宙で最も複雑なコンピュータとされる人間の脳だったらどうだろう?そこで思考だけでなく、感情や経験も互いにやりとりできたら?そしてもしかしたら、ひょっとしたら、生きる意味もそこに加わるかもしれない。
そんなことが可能になったら、私たちはいつまでも自分だけの意識にしがみついているだろうか。
それともインターネット上で進化しつづける集団意識に少しずつ移行するだろうか。
この問いに答える前に、あと三つ、考えてほしい点がある。
まず私たち人間は、どこまでも社会的な種だ。
さまざまな研究によると、孤独は現代人の最大かつ最悪の恐怖の一つだという75。
他者とつながりたいという願望は人間の基本的欲求であり、心理学用語で言えば内発的動機づけだ。
ただ、考慮すべき要因はこれだけではない。
人類がこれまで経験したなかで最もハイブマインドに近いのは「グループフロー」、つまり集団で共有するフロー状態だ76。
例を挙げれば、最高のパフォーマンスができているチーム、すばらしく有意義なブレインストーミング・セッション、第4クォーターでの驚くべき大逆転、劇場の屋根が吹き飛ぶぐらい盛り上がったバンドのコンサートなどだ。
このうえなく愉快な状態ともいえる。
心理学の調査で被験者に好きな経験をリストアップしてもらうと、常にトップに挙がるのはグループフローだ。
このためグループフローをいつでもオンデマンドで経験できる機会があるとなれば、集団意識に移行する強力な動機づけになるだろう。
100年で生物の限界を超える「メタ知能」が生まれるそして最後に考慮すべき要因は進化だ。
地球上に生命が誕生して以来、進化の軌跡は常に個から集団へと向かってきた77。
私たちは単細胞生物から多細胞生物へ、そしてとほうもなく多細胞なヒトという生物に進化した。
自然淘汰はたいていこの方向に向かってきた。
今日の淘汰が違う理由はあるだろうか。
人類が知能、発達、可能性のピークに達したと考えるべき理由はない。
テレビのリアリティ番組、ごちゃごちゃとした鉄の塊とアスファルトで舗装された道路が果てしなく続くメガシティが、地球生命の最高の到達点ではないだろう。
むしろ私たちが今いるのは進化のプロセスの一地点、「イマココ」の矢印がたまたま指している場所にすぎない。
そして私たちが今いる地点に長くはとどまらないと考えるべき根拠は十分にある。
ニューラリンクは脳とクラウドを毎秒2ギガビットのワイヤレス接続で結ぶ計画で、2021年末までに人間を使った実験を開始したい考えだ78。
BCIをはじめ、本書で取りあげてきた数々のイノベーションからも明らかなように、かつては時間がかかり、人間にとって受け身的なプロセスであった自然淘汰は、急速かつ主体的な、人間主導の進化のプロセスに変化している。
つまりこれからの100年で、テクノロジーの加速は産業や社会制度を破壊するだけでなく、地球上の生物学的知能の進化をも破壊する可能性があるということだ。
この断絶によって、エクスポネンシャルなスピードで進化する、新たな種が生まれるだろう。
これは大移動であると同時にメタ知能の誕生であり、本書の締めくくりにふさわしい、未来が想像を超えて加速するもう一つの理由である。
メタ知能はイノベーションを加速させる強力な要因になるだろう。
個別の頭脳が集団的組織(企業、文化、社会など)の下で働くことによって、エクスポネンシャル・テクノロジーのコンバージェンスというこれまでで最大のイノベーションの加速要因を生み出すことができたなら、ハイブマインドとなった人類、つまりやさしく穏やかなボーグが誕生したら何を生み出せるだろうか。
別の言い方をすれば、全人類が一つになって思考したら、未来はどれほど加速するだろうか。
最後に本書を読み終えて、少し不安な気持ちになったかもしれない。
その原因を専門用語で「損失回避性」という。
進化の過程で植えつけられた最も強力な認知バイアスの一つで、現在手にしているものと引き換えに、未来に何か新しいものが手に入るとしても、後者のほうがずっと価値が低いのではないかと疑念を抱くことだ。
人が習慣を変えられないのも、企業がなかなかイノベーションを生み出せないのも、そして文化の変容にこれほど時間がかかるのも、すべてこのためだ。
もしかしたらハイブマインドに移行することで、私たちはこの認知バイアスを克服できるかもしれない。
だがそれまでは、エクスポネンシャル・テクノロジーのコンバージェンス、それが引き起こす五つの大移動といったとんでもない話を読んで、頭がクラクラしてくるのも無理はない。
恐怖を感じたり、ワクワクしたり、イマジネーションが際限なく膨らんでいくのも当然だ。
それは私たち著者も同じである。
私たちに言えるのは、ここまで自らに言い聞かせてきた言葉だけだ。
深呼吸して、目はそらすな。
こちらの準備などお構いなしに、未来はもうそこまで来ているのだから。
おわりにそれでも私たちが楽観主義者であるべき理由本書で見てきたテクノロジーの加速は、「豊かな世界に向けた、絶え間ない前進」という大きな流れの一部ととらえることもできる。
これは私たちが2012年に発表した『楽観主義者の未来予測』で最初に提示したテーマだった。
同書の出版以降も一貫して、この流れは続いている。
ますます多くのモノやサービスのコストが、完全にゼロになった。
非収益化が好ましい影響の連鎖を引き起こしていることも疑問の余地はない。
安価なエネルギーがふんだんにあれば、きれいな水がふんだんに手に入る。
自動運転の電気自動車によって、環境にやさしい交通手段の選択肢が増え、これまでより安く住居を手に入れられるようになる。
AI、5G、ARやVRのコンビネーションによって、世界中のあらゆる人が住んでいる地域や社会経済的地位にかかわらず、低いコストで教育、娯楽、医療を受けられるようになる。
こうした見方に反論する根拠も、もちろんたくさんあるだろう。
貧富の差は広がりつづけており、テクノロジーが世界の問題を簡単に解決する手段をもたらすという考えはテクノユートピア主義と揶揄されてきた。
しかしエクスポネンシャル・テクノロジーの進歩は続き、それにともなって非収益化と大衆化も進んでいる。
たとえば2019年1月には《ウォールストリート・ジャーナル》紙にこんな見出しが載った。
「世界はひそかに良くなっている」。
記事は世界銀行の最新のデータを基に、1日2ドル以下で生活する人の数、すなわち極度の貧困が減少していることを示した。
そして確かに富裕層はますます豊かになっているものの、現在の経済指標には表れない、さまざまなツールやテクノロジーへのアクセスの改善によって貧困層もより豊かになっていることも明らかにした。
この二つの変化は、常に相前後して起こる。
1980年代の初期の携帯電話は遅く、通信も途切れることが多く、ひと握りの金持ちしか使えなかった。
それが今日の電話は高速化し、通信に問題はなく、さまざまな機能が詰め込まれているにもかかわらず、価格は最貧層でも手にできるほど安くなった。
つまりいずれ富裕層だけが火星に住んだり、最新の寿命延長治療を受けられたりする未来も訪れるかもしれないが、それは地球上のあらゆる人がより安価に食料、エネルギー、水、教育、エンターテインメントを享受できる未来とつながっている。
ここで私たちが強調したいのは、『楽観主義者の未来予測』の出版から10年を迎えようとするころ(2022年)には、「豊かさ」は単なるビジョンではなくなっている、ということだ。
もちろん、やるべきことはまだたくさんある。
すでに存在する解決策の多くはまだ世界に広がっておらず、水不足、気候変動、世界的な飢餓など重要な問題がむしろ悪化している。
それでも《ウォールストリート・ジャーナル》紙が指摘したように、他の何十という指標は上向いている。
もう一つ例を挙げれば、ハーバード大学のスティーブン・ピンカーは著書『暴力の人類史』(青土社刊)で、戦争や紛争はかつてないほど少なく、私たちは人類史上最も平和な時代に生きていることを説得力を持って示している。
しかも最も健康な時代でもある。
乳児死亡率、10代の出産率、マラリアによる死者数、飢餓による死者数、伸び続ける寿命など、どの指標をとっても劇的な改善が見られる。
それと同時に、補助金を抜きにした再生可能エネルギーのコストは急激に低下し、高速デジタル接続と安価で高性能なデバイスの入手しやすさは劇的に改善している。
そしてこのようなデバイスと接続環境が整った今、私たちの目の前には可能性に満ちた世界が姿を現しつつある。
今日タンザニアの子供はAIを使った教育テクノロジーに加えて、グーグルやバイドゥを通じて世界中の情報にアクセスできる。
まもなく帯域幅が爆発的に拡大することから、その子はさまざまなクラウドベースのサービスを通じてコア数千個分の処理能力も手に入れる。
その結果、ユーチューブがタダで提供する数十億時間分のエンターテインメントから、拡大を続けるギグエコノミーまで、ありとあらゆるサービスを利用できるようになる。
都合のよいことに、地球上の最貧国は最も日照時間が長い国々でもある。
太陽光発電技術の広がりによって、エネルギーはふんだんに確保できるようになる。
エネルギーが確保できれば、きれいな水を確保できるようになり、それは健康と福祉の大幅な改善をもたらす。
それが教育水準の向上と結びつけば、出生率は下がり、世界の人口過剰という流れを止めるのに役立つだろう。
もちろん、テロ、戦争、殺人といった問題は依然として残っている。
独裁政治や疾病が世界からなくなることもないだろう。
だが世界は今後もひそかによくなり続ける。
そして私たちが目指すべきは贅沢な暮らしではなく、可能性に満ちた世界である。
コンバージェンスの推進力のおかげで、豊かな世界の実現に必要な技術進歩はますますスピードを増している。
もちろん、そんな世界は放っておいても自然と実現するものではない。
人類はかつてない規模で協力していかなければならない。
そこで最後の問いが出てくる。
私たちは具体的に何をすべきなのか?進むべき道もう待ちくたびれた、本書に書かれている概念や技術についてもっと深く知りたいという方々、そのなかには加速する技術変化になんとか対応しようとしている企業経営者もいれば、同じ変化を使ってのし上がろうとするガレージ起業家もいるだろう。
ここからはその両方のニーズにお応えしていきたい。
当然ながら、これからの10年で起ころうとしている100年分の技術変化に対応するのは容易なことではない。
しかもそれをローカルでリニアな脳でやろうとするのだから、なおさら厄介だ。
著者二人が少なくとも現時点で、この未知の領域を切り拓いていくための唯一の方法と考えているのは、常に、そして継続的に学びつづけることだ。
学びには、二つの核となる要素がある。
一つは心理的なもの、もう一つは物理的なものだ。
心理面では「フロー」と呼ばれる意識状態に入る方法を身につけ、パフォーマンスを大幅に高めること(生産性、学習、創造力、協業や協力の能力を強化すること)で、変化に対応することができる。
フロー状態では脳の基本的な情報処理能力がすべて強化されるので、思考のスピードを高め、スケールを広げられる。
スピードとスケールは、エクスポネンシャルな世界で成功するための認知的必須条件だ。
それと同時に物理的側面、つまり物理的に存在するテクノロジーに関する学びも必要だ。
今日のエクスポネンシャル起業家やリーダーは、どんなテクノロジーが存在し、そのテクノロジーによって何が可能なのかをコツコツと、間断なく学びつづけなければならない。
このような継続学習は可能ではあるが、容易ではない。
シンギュラリティ大学、アバンダンス360、アバンダンス・デジタルなど、「エクスポネンシャル・テクノロジーによって今、何が可能なのか」という認識を常にアップデートしていけるようなプログラムの人気が高まっているのは、そのためかもしれない。
以下に心理面、物理面の学習に最適な選択肢と機会を挙げておこう。
ゼロ・トゥ・デンジャラス(ZerotoDangerous)世界有数のフロー・テクニックのトレーニング・プログラム最高のパフォーマンスを発揮できる「フロー状態」に入る方法を習得する、起業家やリーダーのための研究に裏づけられたトレーニング・プログラムだ。
特に重視しているのは、スピーディな行動とスケールの大きな思考の実践方法だ。
両者はエクスポネンシャルな世界で成功するためのカギである。
最先端の科学と、有資格の臨床心理士による1対1のコーチングを組み合わせており、世界中のハイパフォーマーのネットワークに参加できるのも魅力だ。
トレーニングを指揮するのはスティーブン・コトラーで、グーグル、アメリカ海軍特殊部隊の「ネイビーシールズ」、アクセンチュアなどでの研修で使ったのと同じツールを活用する。
詳しくは以下を参照。
ZerotoDangerous.comフロー・リサーチ・コレクティブについて詳しくは以下を参照。
lowResearchCollective.comアバンダンス360(Abundance360)起業家がエクスポネンシャル・テクノロジーの引き起こす変化に対応できるよう支援する、1年間のメンバーシップ・プログラムだ(企画・運営はピーター・ディアマンディス)。
毎年キックオフとして、ビバリーヒルズで3日間の集中講義を行い、AI、ネットワーク、ロボティクス、3Dプリンティング、ARとVR、バイオテック、ブロックチェーンの各分野の最新のブレークスルーを学び、それを参加者のビジネスや生活に即座に応用する方法を考える。
アバンダンス360のミッションは、参加者が常に時代の先端を走れるように必要な情報、知識、実践のためのツールを提供することだ。
加速するテクノロジーにどう対応すべきか理解することは、あらゆる起業家にとって不可欠だ。
アバンダンス360は参加者に、チームの能力を10倍に高めるための知識と手段、そして豊かさとエクスポネンシャル・テクノロジーへの意識の高い他のリーダーと交流する機会を提供する。
参加申し込みは以下より。
www.A360.comアバンダンス・デジタル(AbundanceDigital)アバンダンス360をデジタル化、非収益化、大衆化したのがアバンダンス・デジタルだ。
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アバンダンス・デジタルはピーター・ディアマンディス自身を含む、豊かさとエクスポネンシャル・テクノロジーへの意識の高い世界中の実践者たちとのコラボレーションを可能にするワンストップ・サービスだ。
メリットは他にもある。
・アバンダンス・デジタルアプリによる日々のコーチングと情報提供、ディアマンディス博士による100時間を超える動画コンテンツ、講義とコーチング。
・ピーターが毎年3日間にわたって主催する「アバンダンス360エグゼクティブ・サミット」、およびシンギュラリティ大学の「グローバル・サミット」と「エクスポネンシャル医療」プログラムのライブストリームへのアクセス。
・毎月開催のウェビナー。
毎月著名なCEOや起業家を迎えて開催する動画ウェビナーへのライブアクセス。
参加申し込みは以下のウェブサイトより。
www.Abundance.Digitalシンギュラリティ大学大学院生、企業幹部、リーダーを対象に、世界中でエクスポネンシャル関連の教育に特化したプログラムやイベントを実施する。
プログラム一覧は以下を参照。
www.SU.orgXプライズ財団Xプライズ財団は、大規模かつグローバルな賞金付きコンテストを通じて、世界最大級の問題への解決策をクラウドソースしている。
解決策はどこで、誰が生み出すかわからない。
だから新しいアイデアを持った世界中の科学者、技術者、学者、起業家、イノベーターに、チームをつくってコンテスト優勝を目指すよう呼びかけている。
問題に直接資金を投じる代わりに、解決策に賞金を懸けることで、世界にその解決をうながしたいと考えている。
これまでに計2億ドル以上の賞金を懸け、宇宙、海洋から教育、食料、水、エネルギー、環境をはじめ幅広い分野のコンテストを主催してきた。
Xプライズへの参加およびコンテストへの参加を希望する場合は以下を参照。
www.XPRIZE.orgボールド・キャピタル・パートナーズ(BCP)BCPは成長テクノロジーを手がけるアーリーステージの企業への投資に特化した、複数のファンドを運営している。
投資先の多くは本書にも登場している。
BCPが特に興味を持っているのは、エクスポネンシャル・テクノロジーを活用して世界を変え、人類の抱える重大な問題へのイノベーティブな解決策を生み出そうとする起業家たちだ。
BCPは三つの重要な要素のコンバージェンスから生まれた。
先見性のある未来のビジョン、そのビジョンを支持するすぐれた専門家や実務家のネットワーク、そしてビジョンに沿って投資を遂行する能力を持った投資のプロのチームである。
「ボールド」の名はピーターの2冊目の著書から取った。
ファンドと投資先について、さらに詳しい情報は以下を参照。
www.BoldCapitalPartners.comヒューマン・ロンジェビティ社主催の「ヘルス・ニュークレアス」本書では寿命延長の分野でまもなく起ころうとしている画期的発明について取りあげている。
そこにおける最も重要なツールの一つが、ヒューマン・ロンジェビティ社の「ヘルス・ニュークレアス」プログラムだ。
このプログラムは最新のテクノロジーを使って、個人の健康管理の新たな基準を打ち立てている。
全身の画像と全ゲノム・シークエンシングを組み合わせた「ヘルス・ニュークレアス・コア」は、個人の過去、現在、未来の健康状態をより完全に把握するための、世界初のパーソナライズド・アセスメントだ。
有資格の医師、遺伝学者、専門知識を持つ科学者による経験豊富なチームが、革新的テクノロジーを使って生活の質(QOL)の大幅な向上を目指している。
さらに詳しい情報は以下を参照。
www.HumanLongevity.com
謝辞本書では多くの方々から惜しみなく英知をご提供いただいた。
まず共著者の二人の家族に感謝したい。
ディアマンディス家のジェット、ダックス、クリステン、そしてジョイ・ニコルソンのすばらしい愛情と忍耐とサポートに感謝する。
そしてエージェントのジョン・ブロックマン、編集者のステファニー・フレリッチ、そして本書に熱心に取り組んでくれたサイモン&シュースター社のみなさんにもお礼を申し上げる。
さらに編集面では、いつも最高の仕事をしてくれるマイケル・ウォートンが伴走してくれた。
その知識、フィードバック、驚くべきスタミナに感謝している。
参考文献を確認し、整理するという目のくらむような仕事に取り組んでくれたマックス・ゴールドバーグ、完璧なマーケティング・キャンペーンを企画してくれたジェローム・ロングハーストにも感謝している。
フロー・リサーチ・コレクティブのスティーブンのチーム(特にライアン・ドリス)、そしてPHDベンチャーズのピーターのチーム(エスター・カウント、クレア・アデア、マックス・ゴールドバーグ、デレック・ドリン、ケリー・ルハン、ジェローム・ロングハースト、ブライ・レンペシス、グレッグ・オブライアン、トム・コンペア、スー・グランツロック、ジョー・モスリー、コニー・フォックス)のリサーチ、コンテンツのクラウドソーシング、ブログ開設、そして年中無休のサポートといった、すばらしい協力に心から感謝している。
とりわけエスター・カウントとコニー・フォックスには、ピーターのスケジュールと人生を調整するという過酷な仕事を担ってくれていることに改めて感謝する。
リサーチと知的刺激の両面で、シンギュラリティ大学の卒業生、教員、そして共同創設者兼総長のレイ・カーツワイル、副創設者のロブ・ネイル、最高収益責任者(CRO)のキャリン・ワトソン、理事長のエリック・アンダーソン、そしてスタッフのみなさんに感謝している。
アニューシャ・アンサリ率いるXプライズ財団ファミリーにも、オフィスを占拠させてもらったこと、そして本書で紹介した魅力的なイノベーションの物語を提供してくれたことに感謝している。
そして最後にピーターから、ダン・サリバンとストラテジック・コーチのみなさんに、激励と英知と世界に10倍のインパクトを与えるためのサポートを提供してくれたことにお礼を申し上げる。
解説──日本人が今、本書から学ぶべきこと山本康正DNXベンチャーズインダストリーパートナー。
ハーバード大学客員研究員。
京都大学大学院特任准教授。
1981年生まれ。
東京大学で修士号を取得後、三菱UFJ銀行ニューヨーク米州本部に就職。
ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。
グーグルに入社し、フィンテックや人工知能ほかで日本企業のデジタル活用(DX)を推進。
自身もベンチャーキャピタリストとして活動するかたわら、日本企業のコーポレートベンチャーキャピタル活動への助言なども行う。
著書に『シリコンバレーのベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)、『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』(ダイヤモンド社)ほか。
「Whataride.(なんてドライブだ)」本書『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』を読み終えたあなたは、刺激的な未来を巡るジェットコースターに乗せられて戻ってきたような気分に浸っているのではないだろうか。
「そんな馬鹿な」と疑いながらも、前提の条件が添えられた未来予測に引き込まれる。
未来に対する読者の固定観念を壊すトレーニングとして、本書は読むに値する1冊である。
奇しくも私自身、「2025年」をテーマにした本(『2025年を制覇する破壊的企業』、SB新書、2020年)を先ごろ上梓したが、本書『2030年』と拙著の間に大きな乖離はなかった。
テクノロジーの最先端に近い所にいる人間にとっては「当然こうなるだろう」と見当がつく箇所は似ているものだ。
各分野のテクノロジーの「地殻変動」をつかめ本書はまず、テクノロジーに関する各分野で、どのような地殻変動が起こっているかを俯瞰的に把握するのによい入門書だ。
私もかねてから「テクノロジーの発展のマップを自分の頭の中に持つべきだ」と言ってきた。
どのテクノロジーとどのテクノロジーが関わり合っているかを見比べることによって、自分が深堀りすべき領域はどこなのかが浮かび上がってくるからだ。
たとえば、「スマートシティ」という言葉1つとっても、その中には「人工知能(AI)」「モビリティ」「決済」「エネルギー」「シェアリングエコノミー」といった言葉が部品として存在する。
つまり、「スマートシティの専門家」など、そもそも存在しないのだ。
テクノロジーは非連続的な変化をもたらすから、新しい名前がつく。
スマートシティについての見解を従来の都市計画の専門家だけに求めるのはナンセンスだ。
各部品をバランスよく理解して初めて、スマートシティの輪郭が理解できる。
流行りのテクノロジーの潮流や、「ブロックチェーン」「AI」「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」といった新しい流行語も、何が部品として存在しているか、そして、その部品同士がどうやってつながっているのかをよく知っておく必要がある。
本書では複数の技術が交わることを「コンバージェンス(融合)」と呼んでいる。
そして加速度的に変化が起こるのは、このコンバージェンスが理由だという。
私はそれを「AI、クラウド、5Gのトライアングル」と表現しているが、本書も根本的に同じ主張だ。
(ちなみに、本書で取り上げられている各分野の細部については、著者よりも詳しい人は大勢いるだろう。
特にビジネスモデルのところは実務者のほうがよくわかっているだろう。
しかし、かれらのうち一体どれだけの人が、自分の専門分野について、本書のように広範な他分野との比較でわかりやすく説明できるだろうか。
日本は「理系」と「文系」という悪しき分断によって、テクノロジーの理解について敷居を高くしてしまっている。
本来ならば幅広い年齢・職業の人にテクノロジーが理解されることこそ、社会にとって望ましいはずだ。
)日本のメディアが取り上げない分野こそが重要だ本書が米英で出版されて間もなく、世界は新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。
コロナによってテクノロジーがさらに加速している部分もあるし、十分な注目を浴びていない部分もある。
コロナによって予測がずれた面もあるし、それだけで1冊の本ができそうなほど、2020年は変化が「加速」した年だった。
そんな中、本書でしっかり確認してほしいのは、日本のメディアがあまり取り上げないトピックだ。
自国企業が関わっていない「ハイパーループ」などの技術革新は、日本のメディアでは小さく扱われがちだが、海外では重要だとみなされている。
逆に、日本企業が関わっているがゆえに国内メディアだけで過度に大きく扱われるトピックも多い。
たとえば、日本のスーパーコンピューター「富嶽」は、海外ではほぼ重要視されていない。
本書で重要な位置を占めるのは、量子コンピューターだ。
なぜ、Googleなどの企業はスーパーコンピューターではなく、量子コンピューターに力を入れているのかを冷静に考える必要がある。
さらに、イノベーションとは「業界の新結合」を意味するが、日本では記者が業界別に担当している時点で、イノベーションのインパクトを過小評価しがちだ。
記者が複数の業界に通じていることは稀なためだ。
そして読者や視聴者であるビジネスパーソンも1つの業界しか経験していないことがこれまで多かったために、この過小評価はニワトリと卵の関係でもある。
そういった際に参考になるのは「株価」である。
未来予測のインパクトは、株価に大きく現れるのだ。
新型コロナが流行する前、テスラ・モーターズがわずか半年でトヨタの時価総額を抜くことを予想できた人は少数だろう(テスラはもはや自動車会社の枠を越えているし、もし、予測が行き過ぎだと思えば、テスラ株を空売りすればよい)。
科学的根拠とビジネスモデルに基づく知恵を身につけろ本書が取り扱う分野は実に幅広く、AIから空飛ぶ車、遺伝子編集まで、テクノロジーが関わる分野を包括的に網羅している。
こういったテクノロジーは携帯電話のように、ひとたび使われ始めると「なぜ今まで使わなかったのだろう?」とまたたく間に広がるが、それまでは「電波が危ない」など根拠のないネガティブなことを言う人がいる。
日本ではそれが新しいテクノロジーを取り込む際の大きな障壁になっている。
単なる「評論家」の見解に耳を傾けるのではなく、科学的根拠とビジネスモデルに基づく議論が必要なのだ。
残念ながら、今のメディアでこうした議論ができる人は限られているため、業界を越えた人材交流が必要だろう。
また、第13章に見られるように、気候変動などの社会問題も多く取り扱う本書には、SDGSへのヒントが数多くある。
「未来予測」に接する際の注意点「未来予測」というジャンルには悪書も多い。
間違った予測を吹聴することで負うデメリットが少ない論者が、とにかく世間の人びとが想像しにくい未来を衝撃的に語り、そうした予測が10回中1回でも当たれば有名になる、という歪んだ構造がある。
株式の世界で言えば、「結果がすべて」であるヘッジファンドマネージャーは持論を雄弁に語らない一方で、株式については素人の学者が「株価が半額に下がる」などと言い続ける(100年言い続ければいずれは当たるかもしれ
ない)現象と同じ構図だろう。
肝心なのは「その人に予測を当てるメリットが本当にあるのか」である。
テクノロジーも同じだ。
「AIが人類を滅ぼす」といったセンセーショナルな言説や、カタカナ語を多用する人、妄想が得意なだけな人が目立ってしまい、現実的な議論が少ない。
先端の科学者と行政、ビジネスなどの分野を超えた歩み寄りが求められる。
本書はその点でも、前提条件をきちんと説明し、推測できる範囲で語っているところが非常に評価できる。
本書を読んだあなたがすべきこと本書を読んでさらに詳しく知りたいと思った分野やテクノロジーについては、それぞれによい専門家がいる。
彼らの著書や動画を見ていけばいいだろう。
たとえば本書の第14章に登場するブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)にいては、そのトップ企業であるNeuralink(イーロン・マスクが設立)が2020年8月に、マスクによるデモを公開している。
動画サイトで簡単にブタでの実験を見られるので、ぜひ一度ご覧いただきたい。
本書に登場する研究内容は、今この瞬間も実用化に向かって進展中であることを実感できるだろう。
本書の主張どおり、進化はこれまで以上に加速している。
2年後にはまた別の景色になっているかもしれず、定期的に私たち自身で確認し続けるべきだ。
また、本書の中に知らない企業名が出てきたら、ぜひ検索をお薦めする。
それぞれの分野では知っていて当たり前の企業だからだ。
私が危惧するのが、本書が「海の向こうの話だ」と片付けられてしまうことである。
これまでもPCや携帯電話のOSなどは、海外からやってきて、あっという間にプラットフォームを取られてしまった。
今やそれが家電や小売、金融、自動車に波及しつつある。
守るための最低限の努力をしつつ、海外の動向をいち早く知っておくことは必須だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で海外出張がしにくい時期ではあるが、本書に登場するようなテック企業はコロナの影響をほぼ受けずに開発を進めている。
事態が落ち着いたら現地で、それまではデジタルで、自ら積極的に情報を取りにいくべきだ。
迫りくる変化から目を逸らさず、本書をきっかけに、世界の最先端のテクノロジーとビジネスを、ぜひ直接海外から学び始めてほしい。
原注第1章1.Inrix,“GlobalTrafficScorecard”:http://inrix.com/scorecard/.2.https://www.uber.com/us/en/elevate/summit/2018/.3.https://www.youtube.com/watch?v=fmW2Y2nEW1U&feature=youtu.be.4.SarahPerez,“GrouponProductChiefJessHoldentoDepart,IsHeadingtoaBayAreaTechCompany,”TechCrunch5.DennisGreen,“ASurveyFoundThatAmazonPrimeMembershipIsSoaringtoNewHeights—ButOneTrendShouldWorrytheCompany,”BusinessInsider6.ホールデンの詳しい経歴は以下を参照。
9.AAA,“AAARevealsTrueCostofVehicleOwnership,”August23,2017.https://newsroom.aaa.com/tag/drivingcostpermile/.10.この比較はウーバーが社内のフィージビリティスタディの一環として行った。
12.同上。
13.ウーバーのパートナーの詳細は以下を参照。
https://en.wikipedia.org/wiki/Vimana.15.StevenKotler,Tomorrowland(NewHarvest,2015),pp.97–105.16.https://www.intel.com/content/www/us/en/siliconinnovations/mooreslawtechnology.html.17.RayKurzweil,HowtoCreateaMind(Viking,2012),pp.179–198.18.RayKurzweil,“TheLawofAcceleratingReturns,”March7,2001.https://www.kurzweilai.net/thelawofacceleratingreturns.19.ClaytonChristensen,TheInnovator’sDilemma(HarperBusiness,2000),pp.15–19.(『イノベーションのジレンマ〔増補改訂版〕』伊豆原弓訳、翔泳社、2001年)20.MarkMoore,“DistributedElectricPropulsionAircraft,”NasaLangleyResearchCenter.https://aero.larc.nasa.gov/files/2012/11/DistributedElectricPropulsionAircraft.pdf.21.厳密に言えば90~98%だが、詳細およびガスモーターとの比較は以下を参照。
KarimNiceandJonathonStrickland,“GasolineandBatteryPowerEfficiency,”HowStuffWorks22.Holdeninterview,同上。
23.StaffatHenryFord,“WillowRunBomberPlant.”https://www.thehenryford.org/collectionsandresearch/digitalcollections/expertsets/101765/.24.同上。
25.History.comeditors,“FordMotorCompanyUnveilstheModelT,”History26.ElizabethKolbert,“Hosed,”NewYorker27.FabianKroger,“AutomatedDrivinginItsSocial,HistoricalandCulturalContexts,”AutonomousDriving28.企画の詳細はDARPAのウェブサイトを参照。
著者紹介ピーター・ディアマンディス(PeterH.Diamandis)Xプライズ財団CEO。
シンギュラリティ大学創立者。
起業家としては長寿、宇宙、ベンチャーキャピタル、およびテクノロジー分野で20以上の会社を設立。
2008年、Google、3Dシステムズ、NASAの後援を得て、シリコンバレーにシンギュラリティ大学を創立し、エグゼクティブ・チェアマンに就任。
MITで分子生物学と航空工学の学位を、ハーバード・メディカルスクールで医学の学位を取得。
2014年にはフォーチュン誌「世界の偉大なリーダー50人」に選出され、そのビジョンはイーロン・マスク、ビル・クリントン元大統領、エリック・シュミットGoogle元CEOなどから絶賛されるなど、シリコンバレーのみならず現代アメリカを代表するビジョナリーの1人である。
スティーブン・コトラー(StevenKotler)ジャーナリストにして起業家。
身体パフォーマンスの研究機関フロー・リサーチ・コレクティブのエグゼクティブ・ディレクター。
ディアマンディスとの共著に『楽観主義者の未来予測』(早川書房)『BOLD』(日経BP)がある。
ジャーナリストとして手がけた作品は、2度にわたりピュリッツァー賞候補に上っている。
訳者紹介土方奈美(ひじかた・なみ)翻訳家。
日本経済新聞記者を経て独立。
米国公認会計士資格(CPA)所有。
訳書に『NORULES:世界一「自由」な会社、NETFLIX』『HOWGOOGLEWORKS:私たちの働き方とマネジメント』(以上、日本経済新聞出版)、『財政赤字の神話:MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房)、『BOLD突き抜ける力』(日経BP)、『フューチャー・ネーション:国家をアップデートせよ』(NewsPicksパブリッシング)ほか多数。
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