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Part4「センス」で、仕事を最適化する

目次

Part4「センス」で、仕事を最適化する

「流行っている」=「センスがいい」ではない

「センスには知識が大切だ、あらゆる知識を得なさい」いきなりこう言われたとしたら、戸惑う人も多いでしょう。

「どこから手を付けてよいかわからない」「一から学ぶなんて、そんな時間はないから、効率のいい方法を知りたい」こうした人のために、この章では、センスを養うための知識を増やし、仕事を最適化するコツを整理しておきます。

本題に入る前の前提として、「流行っているもの=センスがいいもの」ではないことを理解していただきたいと思います。

ここを間違えている人は、意外と多いものです。ファッションでいえば、流行のものばかり身につけても、自分の体型や個性に合っていなければ素敵には見えません。商品開発も同じです。

「流行っている商品」のパッケージデザインの雰囲気だけを真似ても、消費者から「いいな」とは思ってもらえないのです。

「そんなのは当たり前だろう」と思うかもしれませんが、この落とし穴に落ちている商品開発者は意外に多いのではないでしょうか。

流行った商品のうわべだけを真似た結果、中途半端に変わったものになってしまい、結局、消費者から受け入れてもらえず長続きしない……こんな商品は多いように思います。

数年前のこと。新発売直後に店頭で見るなり、なるほどと唸った商品がありました。アサヒビールの新ジャンル「クリアアサヒ」。

それまで新ジャンルといえば他社製品が独走状態でしたが、このパッケージを見た瞬間、「これは売れる!」と確信しました。

思わず「すごくいいデザインの商品を見つけたよ!」とスタッフのために買って帰ってしまったほどです。プロローグでも触れましたが、売れるものには必ず、「シズル」が存在します。

シズルとは本来、「肉がジュージュー焼けるさま」を表す英語(sizzle)。転じて広告業界では、おいしそうに見せる演出を指します。

僕は更に広く捉えて、「そのものらしさ」をシズルと表現しています。「クリアアサヒ」は、まさに「シズル」そのものでした。

いまにも缶から溢れ出しそうな泡の表現は、「ビールらしさ」に満ちていました。それでいて、上質感のあるデザイン。実際にはこの商品はビールではなく、第三のビールと呼ばれる新ジャンルです。

しかしそれこそがこのパッケージの肝。「本当はビールが飲みたいんだけど、仕方なく新ジャンルで手を打つか……」と思っている人々の心に、刺さるだろうと感じました。

「クリアアサヒ」は、事実、みるみる売れ行きを伸ばしていきました。売れた理由には、味、広告などさまざまな要因があると思います。

でも一番の理由は、あの素晴らしいパッケージではないかと僕は思っています。それからほどなくして。僕はスーパーで、あっと驚きました。「クリアアサヒ」にあまりにも似たパッケージの商品が、他社から発売されていたからです。

しかし、この商品が大ヒットしたという話は聞きません。消費者は、敏感です。二匹目のドジョウは一匹目には敵わず、多くの消費者に受け入れられることはなかったのでしょう。

流行っている商品のうわべだけを真似ても、競合商品にはなり得ないという一例だと感じます。ですが、こうした例はいくつも散見されます。

もうひとつ気をつけておきたいのは、センスには「賞味期限」がある場合もあり得る、ということ。あらゆるお店を席巻し、多くの人を魅了していた商品が、ある日ぱたりと見向きもされなくなり、店頭から消えていくことは珍しくありません。

そのタイミングを測り損ねて、引き潮になっているときに真似た商品をつくり出しても、世に出たときにはすでにセンスがないものになってしまっていることがあります。常に、自分のセンスの更新をしていくことも大事なのです。

効率よく知識を増やす三つのコツ

知識を増やしていく際は、三段階のアプローチがあります。順に説明していきましょう。

①王道から解いていく

最初に「王道のもの」は何か、というところから紐解いていきましょう。「王道のもの」とは、製品によっては、「定番のもの」「一番いいとされているもの」「ロングセラーになっているもの」と言い換えることができるかもしれません。

たとえば、ジーンズならリーバイス501。一二〇年以上の歴史を持ちながらいまだ多くの人に愛される、定番中の定番です。王道のものには、その製品らしいシズルが必ず含まれています。王道としての地位を確立するまでに、改良され、洗練されて、「そのものらしさ」が磨かれているからです。逆に、シズルが含まれているからこそ多くの人に愛され、定番化していったとも言えるでしょう。

言い換えれば、王道のものはすでに「最適化されている」と言えます。本書で定義づけているセンスのよさとは、「数値化できない事象のよし悪しを判断し最適化する能力」。王道のものは必ず、その最適化のプロセスを経た上でいまに存在しています。ゆえに、王道のものを知ることで、そのジャンルの製品を最適化する際の指標ができるのです。とはいえ、このような声が上がるかもしれません。

「王道のものとはなにか、そこを知るのが難しい」おっしゃる通り。しかも実は、思いのほか難しいのです。僕は、クリエイティブディレクターとして企業のコンサルティングに携わる傍ら、これこそがこのプロダクトの定番、と言える商品を開発する「THE」というブランドも共同運営しています。

デザインは装飾デザインと機能デザインで成り立っていますが、世の中にはあまりに装飾に偏った商品が多い。その現状を打破するには自分たちがメーカーになるしかないというのがスタートで、すでにさまざまなメーカーとのコラボ商品も開発し、いずれは「THE車」や「THEマンション」も手がけてみたいという構想を持っています。

丸の内の商業施設「KITTE」に構えた店舗「THESHOP」には、オリジナル品だけでなく、文具、衣類、雑貨、玩具、お菓子、調理器具から自転車まであらゆるジャンルの「定番」を揃えていますが、商品のセレクト会議は毎回、侃々諤々。一番盛り上がる瞬間でもあります。

たとえば、これぞ定番と呼べるボールペンとは何か。文具店に行けば、あらゆる製品が並んでいます。複数のお店を回ればおおよその売れ筋は見えてくるでしょう。インターネットで「ボールペン定番」「ボールペン人気」などと検索すれば、更に大量の情報が出てきます。

では、定番のボールペンとは何でしょうか。いま一番売れ筋の商品?あるいは、過去に世界で最も売れた商品?いやいや、なめらかな書き心地に定評のある商品でしょうか?それとも、老舗文具ブランドから出ている最高級品?どれも、あながち間違いではありません。

結局THEで選んだのは、摩擦熱によって書いた文字が消せるボールペン「フリクション」。古くからあるスタンダード商品ではありませんが、消せるという特筆すべき機能は、未来の定番になっていくと考えたからです。

スポーツブランドであるPUMAと組んでオリジナルのフットサルシューズを開発したときも、悩みました。定番たり得るフットサルシューズとは何なのか。機能なのか、素材なのか、形状なのか……。ふと思い至ったのが、サッカーシューズの定番中の定番である、PUMAの「パラメヒコ」でした。

一九八六年の発売以来、超ロングセラーを続けるこのスパイクは、三浦知良さんが履いていたことでも知られていました。ちょうど、三浦知良さんがフットサルの日本代表メンバーに選ばれたというニュースが、世間を賑わせていた時期でもありました。

そこで、「パラメヒコ」のアッパーはそのまま使い、ソールには最新のテクノロジーがつまったフットサル用ソールを装備することに。完成した『THEFUTSALSHOES』は、数量限定だったこともあり、またたく間に完売しました。インターネットがこれだけ普及した時代、たいていのことは調べられます。

しかし、どれが「王道のもの」かを見極めようとすると、情報の波に溺れそうになります。数多の情報の中から自分なりに納得のいく「王道」を探し出す過程で、あなたは実はもうひとつ、別の作業も行っています。それは、センスアップに不可欠な「知識」の獲得。

その商品が王道たり得る根拠を求め、調べるプロセスにおいて、いくつもの取捨選択をします。「王道」が見つかるまでには、数多くの「王道とは認定できないと判断したもの」との出会いがあるはずなのです。

手頃な価格のもの。とても高いもの。最も多く売れているもの。品質がとてもいいもの。特別な機能を兼ね備えているもの……。

結果、「王道」を見つけたときには、そのジャンルにまつわる幅広い知識も得ており、その商品を王道とした理由だけでなく、「なぜ別のBという商品を王道と認定しなかったのか」についても語れるようになっているはずです。

製品によっては、「大衆的という条件ならこれ。高くてもいいなら、老舗ハイブランドの最高級品であるこれ」と、どうしてもひとつに絞りきれないこともあるかもしれません。それはそれで、今後知識を増やしていくときの判断基準になるでしょう。

大切なのは王道のものを「ひとつに決めること」ではなく、それを見つけ出す「プロセス」にあります。

そして、ひとたび「王道」を見つけてしまえば、このあとの知識の獲得、センスの獲得も容易になります。

「王道」を基準に、もっと高品質のもの、もっと手軽なもの、もっと機能に特化したもの……と、知識の幅を広げていきやすくなるからです。基準があるおかげで、獲得した知識も整理されやすくなります。

②今、流行しているものを知る

王道をおさえたら、流行のものについての知識収集に着手しましょう。王道の真逆です。流行しているものの多くはたいてい、一過性のもの。

しかし、王道と流行のものの両方を知っておくことで、知識の幅を一気に広げられます。流行を知る手立てとして最も効率がいいのは、雑誌。それもできれば、コンビニの棚に並ぶありとあらゆる雑誌を手にとってみることをおすすめします。

僕は普段から、女性誌、男性誌、ライフスタイル誌に経済誌と、月に何十冊もの雑誌に目を通しており、ここから得た知識はとても役立っています。インターネットは速報性はありますが、流行に関する情報は整理されきってはいません。

しかし雑誌なら、精査された情報が載っています。複数読むうちに流行の流れが見えてくるのです。時代は常に変化しています。数カ月前に出た新製品によって、それまで不動の地位を得ていた定番商品が大きく揺らいでいることもあり得ます。知識を定期的に更新しておくことは、センスアップにつながるのです。

このあとは、自分なりにいろいろな方法で知識を集めていけばいいのですが、ある程度知識が増えてきたところで、三つ目の段階に入ります。

③「共通項」や「一定のルール」がないかを考えてみる

これは知識を集めるというより、分析したり解釈したりすることで、自分なりの知識に精製するというプロセスです。

たとえば、僕はショップなどのインテリアデザインも手掛けています。キャリアをスタートした頃にメインとしていたのはロゴなどのグラフィックデザインでしたから、インテリアデザインを始めた頃は、当然ながらショップインテリアに関する知識はほとんどありませんでした。

そこで、知識のインプットから始めました。第一にしたのは、和風洋風を問わず、長く愛される老舗の内装をたくさん見て回ること。すなわち、「ショップインテリアにおける王道・定番は何か」という知識を蓄えることでした。同時に、多くの人が通い、一定の基準が設けられているコンビニなども、注意して歩いてみました。

第二にしたのは、流行のお店にたくさん足を運ぶこと。第三にしたのは、王道と流行以外にもいろいろなお店を注意して見てみながら、「共通項は何だろう?」と考えてみることでした。そこから、自分なりに見つけた「入りやすいお店(=繁盛するお店)」に共通するルールを挙げていきました。

これはかなり具体的で、「床が暗い色」「入口が高すぎない」「雑貨店の場合は、他のお客さんとの距離が近く少しごちゃごちゃしているくらいのほうが来客が多い」など。「床が暗い色」というのは意外に感じるかもしれません。「おしゃれ、きれい」=明るい色の床の方がいいのではと思う人もいるでしょう。

しかし僕なりの分析は、「日本人は靴を脱ぐ文化があるので、真っ白やベージュなどあまりにきれいな色の床だと、汚してしまうことに心理的なためらいを感じるのではないか?」というものでした。

入口で、「シミひとつない真っ白い床だ。汚してしまいそうだから、この靴でフラッと入るのは申し訳ない」と躊躇する気持ちが生まれては、顧客はスタートでくじけてしまいます。

「雑貨店はごちゃごちゃしているほうがいい」というのも、雑貨という商品の特性を知った上での分析です。雑貨店に、明確な目的を持って買い物に来る人は稀です。

大抵の人は、「かわいい店だから入ってみよう」あるいは「プレゼントに何かいいものはないか」という漠然とした動機で店を訪れます。

そういうお客さんにとっては、ごちゃごちゃした中から面白いものを「見つけだす」のが楽しみ。それを味わえる空間づくりこそ雑貨店に必要不可欠なのだというのが、僕の分析です。

あまりに整然とした見通しのいい空間だと、自分が見ているものが他人から見えてしまう感じがして、落ち着いて選べないとも言えるでしょう。人一人が歩ける通路の幅は、どんなに狭くても六〇〇㎜と言われています。九〇〇㎜あれば譲り合うことで人とすれ違うことができ、一二〇〇㎜あれば支障なく相互通行できるとされます。

しかし僕が見た中では、最低とされる六〇〇㎜を下回る五〇〇㎜の通路幅の雑貨店もありました。確かに狭かったのですが、個人経営の小さな雑貨店だったので、その窮屈さがまた「小さな雑貨屋さんらしいシズル」を醸し出しており、こういうやり方もあるのだなと学びました。

逆に、僕がとあるオフィスのインテリアデザインを手掛けたときは、通路幅をあえて広くとったこともあります。相互通行が十分可能とされる一二〇〇㎜より更に広い一四〇〇㎜にしたことで、広がりのある空間が生まれました。ここで述べたとおり、僕は空間の床の色も商品棚の配置も、天から与えられたひらめきによって決めている訳ではなく、知識にもとづいて決めています。

これらの知識やルールはあくまで僕なりに見つけた共通項であり、インテリアの専門家がなんと言うかはわかりません。ただ、少なくとも僕はこのルールにもとづいて多数のショップやオフィスのデザインを行い、今のところ成功しています。知識の集積によってできたお店が、「センスがいいお店」と言われるものに仕上がっているのです。

センスをもって選択・決断する

仕事で「センスを発揮する」というとき、ゼロからつくり出すケースばかりではありません。

むしろ、いくつかの候補の中からどれがよいかを選択し、決断する場面は多く、その成否を左右するのもセンスにほかならないと思っています。

たとえばあなたが商品開発責任者で、デザイナーから上がってきた複数のパッケージデザインを見せられ、「この中からどれかを選んでください」と言われた場合、どうすればいいでしょう?誰もがベテランではなく、また、ベテランであったとしてもセンスに自信がある人ばかりではありません。

「私はまだパッケージデザインの知識が少ないので、自信がない」「ヘンなものを選ぶと、『あいつはセンスが悪い』と思われそう。評価が下がるかもしれない」こうした不安に襲われて、結局、自信がなくて多数決にしてしまう……。こんな経験をもつビジネスパーソンは、少なからずいるのではないでしょうか。

しかし、デザインに関する「知識」を知っておくだけで、少しは対処できるようになります。具体的なポイントを押さえておくだけでずいぶん違います。デザインを構成する要素はざっくり考えた場合、「①色」「②文字」「③写真や絵」「④形状」に分けられます。

もっと細かな要素もありますが、まずはこの四つに注目するといいでしょう。この中で「①色」「②文字」は、知識による確認作業がしやすい要素です。

①の色に関しては、前述した通り、隣り合う色に注意します。同系色もしくは補色にすると、バランスがよくきれいに見えるものです。「同系色か、補色か?」という二点を気にかけるだけでも、判断の助けになるでしょう。②の文字に関しては、歴史的知識が役に立ちます。書体、特にアルファベットの場合は、歴史的背景があります。

印刷が始まったばかりの頃にできた古い書体から、最近できたばかりの書体。ヨーロッパでつくられた書体、アメリカでつくられた書体。それぞれに歴史が宿っているのです。

書体の知識を集積することも、センスを磨く一助となります。ヨーロッパ風をウリにしている商品には、アメリカの書体を使うよりもヨーロッパ風の書体のほうが相性はいいなどと、わかってきます。

もちろん、デザインのプロではない人が、書体の歴史をすべて知るのは大変です。提案してくる相手はたいていプロのデザイナーですから、率直に尋ねればいいでしょう。

「この書体はいつの時代のどういう書体ですか?」と聞いてみるのです。なかにはこの質問に慌てるデザイナーもいるかもしれませんが、書体を確認することで、「このデザインが適正化されたもの(=センスがいいもの)かどうか」を判断する助けになります。

もし、チョコレートの商品開発担当者になったのなら?

基本をお伝えしたところで、具体的なケースを想定してシミュレーションしてみましょう。あなたは突然チョコレートの新商品の開発担当者に任命され、パッケージデザインの決定を任されたとします。次のステップを踏めば、センスある仕事をしていくことができます。

①まずは王道のチョコレートに関する知識を紐解いてみる。ひとつは、ベルギーやフランスなどの高級チョコレートの味と雰囲気。もうひとつは、昔から長く愛され続けているロングセラーの板チョコなどの味と雰囲気。

②次に、流行りのチョコレートを知る。最近発売された、競合他社の人気商品を調べる。最近話題の、ヨーロッパの新しいショコラティエの挑戦的なショコラを入手する。それらを観察し、味わい、パッケージにどのような特徴があるかをつぶさに知る。

③いろいろなチョコレートを知った上で、「そこに共通項はないだろうか?」と考える。そこからまず、疑問を見つけ、「チョコレートのパッケージってたいてい茶色か赤。なぜだろう?」と考える。「暖色系の相性がいいのは、チョコレートにはあったかいイメージがあるからだろうか?」「とろけるチョコレートというイメージが喚起され、おいしそうと感じるからだろうか?」

④次に、疑問から仮説を導き出す。「パッケージは暖色系、できれば茶色や赤やオレンジがいいのかな」

⑤最後に仮説を検証し、結論に結びつける。「でも、それじゃありがちだ。茶色の補色にあたる青も併せて使ってみるのはどうだろう。

今回の製品はベルギーチョコレートのイメージだから、ベルギー辺りで生まれた書体を選んでみよう」このようなプロセスを踏んでいくだけで、ある程度のラインまではいけます。少なくとも、まるでセンスのないパッケージにはならないはずです。プラスとして、デザインに関するちょっとした知識を知っておいてもいいでしょう。

たとえば、文字や写真をレイアウトするときは見えない矩形をイメージして、まずはスクエアに要素を置いてみること。これが一番基本のレイアウトで、そこから崩していくことで面白さや躍動感が生まれていくこと。ビジュアルの上下左右に余白があるなら、そのサイズは統一されていたほうが美しいこと。

文章が並んでいるときは、各行の両端が、どこかの行だけ飛び出ることなく上から下まできちんと揃っていないと汚く見えること。ひとつのビジュアルの中に使う書体はせいぜい二、三種類にしたほうがいいこと。実は、文字を普通に入力しただけだと文字間の余白は一定ではないこと。

一つひとつの文字の間の余白が均一に見えるように微調整する「文字詰め」という作業を丁寧にやると、ぐんと読みやすく美しいレイアウトになること……などなど。どれもデザインの基本中の基本ですが、当たり前のルールをおさえるだけで、見た目の美しい「センスある」ビジュアルに変わります。

集中し、自分の世界に入り込んで作業しているデザイナーが、うっかり基本を見失うこともあり得ます。選ぶ側であっても基本知識を知っておくことが、センスの時代にはより大切になってくるでしょう。ここから先は「精度」です。僕は、現代は「精度の時代」だと思っており、積み重ねた知識による検証を、あらゆる角度から繰り返していくことで、精度とクオリティを上げていくことができると考えています。

知識のクオリティが精度の高いアウトプットをつくり出す

ロゴでも商品でもキャラクターデザインでも、僕はプレゼンをするときに絶対に使わないと決めている言葉があります。「感覚的に、これがいいと思うんです」は禁句。かっこいいから、かわいいからといった漠然とした表現も一切しません。

クリエイティブディレクターやデザイナーの「感覚」もしくは「センス」を信じて仕事を依頼している、という風潮は、多くのクライアントの中にあります。

「僕の感覚では、この案がいいですよ」と言っても、通用するかもしれません。現に、これを多用するデザイナーやものづくりをする人も存在します。

しかし、センスが知識の集積である以上、言葉で説明できないアウトプットはあり得ません。自分のセンスでつくりあげたアイデアについて、きちんと言葉で説明し、クライアントなり消費者なりの心の奥底に眠っている知識と共鳴させる。これがクリエイティブディレクターの仕事であり、ものをつくるということだと僕は考えています。

そのためには、知識の精度を高め、アウトプットの精度を高めなければなりません。そうした時、はじめて成り立つのがセンスだと思っています。

僕はまた、このところ折にふれて「精度の時代だ」という発言をしています。精度とは言葉を変えればクオリティのこと。どんなものでも、クオリティが高くなければ選ばれない時代が来ていると感じます。

たとえば福澤諭吉について三人の人が肯定的な評価をしたとします。

Aさんは「福澤諭吉って、スゴイよね」と言います。

Bさんは「福澤諭吉って慶應義塾大学をつくった人で、スゴイよね」と言います。

Cさんは「福澤諭吉は『日本を変えてやる』と中岡慎太郎たちが騒いでいた頃、『次の時代には学問というものが必要になるだろう』と考えて慶應義塾をつくったところがスゴイよね」と言います。

三人の意見は同じですが、その信用度とクオリティは格段に違います。

彼らは自分の意見を述べていますが、その意見は「福澤諭吉についての知識」という土台からなる見識です。センスのある発言をするには、正確でハイクオリティな「精度の高い知識」が欠かせないということです。

これは商品やアイデア、企画も同じだと僕は考えています。最終的なアウトプットとは、土台となる知識がいかに優れているか、いかに豊富かで、かなりの部分が決まってくると思うのです。

センスがよい人は豊富かつ良質な知識を材料に発想しているはずだと。こうした話をすると、またしても反論が出ます。「センスがいい、悪いは感覚的なものだから、知識プラスがあるはずだ」というわけです。

しかし、「あっ、この商品はセンスがいいな」と消費者が思う時、感覚で判断しているようで、実はその根っこに知識があります。「いいな」と思った根拠を言葉にするのがとても難しく、なかなか言語化できないので、「なんかいい」「いいものは、いいんだ」と片づけてしまいますが、実は説明可能です。

ありそうでなかったものをつくり出す時、しばしば「差別化」という言葉が使われます。これは本来、「ほんの少しの差」を指すのではないかと僕は解釈しています。ただし、単に「ほんの少し違う」だけでは駄目で、その先に求められるのが「精度」だと感じます。前述したとおり、iPhoneは「みんなが欲しいと思っていた、ありそうでなかったもの」でした。

しかし、iPhoneがすごかったのは、そのアイデアや機能だけではありません。プロダクトデザイナーであり、東大で教鞭も執る山中俊治教授によれば、iPhoneは、通常からは考えられない製造プロセスを経て生み出されているそうです。

初代iPhone3Gの背面はプラスチック。外側はツルンとした平面ですが、内部にはさまざまな部品が内蔵されるため、プラスチックの内側には当然、部品に沿った凹凸が必要になります。

プラスチックパーツの製造工程は、まず型をつくり、そこに原料となる樹脂を流し込んで、冷えて固まったら完成。型をつくる段階で必要な凹凸や穴をすべて型自体に設定しておくので、完成後に穴を開けたり削ったりする必要はありません。

しかし、凹凸や穴がある型を使うと、樹脂が冷えて固まるときにゆがみが出やすくなります。手元にアップル製以外のスマートフォンがあったら、背面を光に照らしてみてください。

投影された光が歪んでいるのがわかるはずです。この歪みはプラスチック製品の特徴のひとつであり、不可避であるとされてきました。

しかし、安っぽさを感じさせる原因でもありました。ある日、iPhone3Gを分解しパーツを確認してみた山中さんは、背面プラスチックの内側に思いがけないものを見つけたそうです。

それは、製造の過程で、最初にわざわざ少し厚めの一定の厚さのプラスチック板を成形した上で、あとから凹凸や穴を削ったことを示す痕跡。

ジョブズは、型にあらかじめ凹凸をつくることで生まれるプラスチック表面の歪みを嫌ったのでしょう。確かに、最初に一定の厚さのプラスチック板を成形すれば、歪みのない背面を実現することは可能です。

しかしこれでは、必要な凹凸や穴は一切ない状態。それをコンピュータコントロールのドリルで切削すれば、必要な凹凸や穴はあとからつくれるものの、信じられないようなコストと手間がかかります。

成型後のプラスチックに更に加工を施すなど、メーカーの常識では考えられない方法。

アップルは、それをやってまで、あのガラスのように平滑な美しい背面の実現にこだわったのです。日本を代表するプロダクトデザイナーとして数多くのデザインを手掛け、アップルの哲学にも精通した山中さんですら、分解によってこの製造プロセスを目の当たりにしたとき、「ここまでやるとは」と驚嘆したそうです。

かくして、過去に類を見ないほど美しいiPhone3Gのボディは誕生しました。消費者は当然、それほどの手間を掛けてつくられたことは知りません。いえ、そもそもiPhone3Gの背面プラスチックに歪みがないと気付いた人自体、ごくわずかでしょう。

ですがiPhoneが、その「精度の高さ」ゆえに広く受け入れられたことは間違いないと思います。「iPhoneてなんだかかっこいいよね」「なんかセンスいいよね」人の感覚は、とても繊細で敏感なものです。

具体的にどこがどう違うのかは言えなくても、その製品が他とはなにか違っていること、理由はわからないけれどもかっこいいこと、高い精度で丁寧につくられたものであることは、鋭く感じ取ります。

どれだけ幅広い知識を得られるか?それらをどう融合させるか?最終的にどれだけの精度でつくりあげられるか?この一連のプロセスこそ、デザインやブランディングに欠かせないものだと思います。

デザインは細部に宿る。ブランドは細部に宿る。こう考えるたびに、精度の時代を改めて実感します。

知識を加えて、消費者へのベネフィット(付加価値)とする

センスで仕事を最適化する一つのケーススタディとして、僕が手がけたプロジェクトを紹介しましょう。二〇一一年に依頼をいただいたクライアントは、興和株式会社。「キャベジンコーワ」などが有名な医薬品メーカーですが、一二〇年以上前の創業時は綿布問屋でした。

今も世界中から材料を輸入し、繊維として商品化してアパレルメーカーや小売店に販売しています。創業にまつわる部門だけに、「繊維部門に力を入れたい」という社としての思いもあるとのことでした。

僕のところに依頼が来たきっかけは、「コルトレイクリネン」。興和を含めた数社が扱っていた、ベルギー・コルトレイク産の世界最高峰のリネンです。人気が出たために、原料である亜麻が、コルトレイクでとれる収穫量だけだと足りなくなってしまったという話でした。

そこでコルトレイクだけでなく、フランスやオランダなど、周辺産地の亜麻も使ったリネンをつくりたい。シャンパンがシャンパーニュ地方でつくられるスパークリングワインだけに許される名称であるのと似た話で、別の名前を付けて売り出したい。周辺地域でつくられている亜麻は、もともとコルトレイクから広がったもので、出来上がるリネンも同じくらい品質が高い。ついては、なんとかこの新しい生地をブランド化できないか──担当者のお話はこうしたものでした。

僕は「プレオーガニックコットン」という綿ブランドの立ち上げにかかわったこともあり、そこを信用してくださったのでしょう。ロゴマークを依頼されたとき、僕はまずベルギーに行きました。言うまでもなく、コルトレイク地方についての知識を集積するためです。

ロゴを考えるのが僕に依頼された仕事ですが、ネーミングが決まらなければロゴはつくれません。「リネンはコルトレイクとその周辺の地方でつくられているんですよね?国が違うとはいえ、あのへんの国境は常に変わっていたはずです。その地方をまとめた呼び名はないのですか?」僕が興和の方にそう尋ねたところ、「フランダース地方といいます」という答え。僕は即決で「フランダースリネンでいいんじゃないですか」と言いました。

興和の担当者は「フランダース地方のリネンでフランダースリネンって、そんな当たり前の名前でいいですか?」とびっくりされていました。もしかしたら、単なる思いつき、あるいは「センスによるひらめき」に見えたのかもしれません。

しかし僕の中にはとある「知識」が浮かんでいました。『フランダースの犬』という物語です。フランダースリネンをまず日本で売れるブランドにするために、「フランダース」という言葉はプラスであると感じました。『フランダースの犬』という物語は、アニメ化によって日本では非常に親しまれています。

僕の「普通」という定規で測ると、「すごくいやな物語だ」と思っている人は少なく、「すごくやさしい素朴な物語である」と感じている人が大多数。このイメージはリネンという布と相性がいいとも感じました。

「リネンという素材が好きな人はどんな人だろう?」とターゲットの特性を考えたところ、これもまた、『フランダースの犬』に合致するのです。ターゲットはリネンが好きな人であり、リネンが好きな人は素材にこだわる人です。素材にこだわる人なら、男性よりもまず女性でしょう。

女性の中でコアターゲットとなる人は誰かと考えれば、リネンの値段が影響します。素材自体が高価なリネンの服は、若い子がポンポン買える値段ではないのですから、コアターゲットはせいぜい二〇代後半から四〇代半ばぐらいでしょう。そこには一九七〇年代前半生まれの団塊ジュニアと呼ばれる第二次ベビーブームの人たちも含まれるので、購買のボリューム層でもあります。

さらに彼女たちのほとんどは、再放送を含めて『フランダースの犬』のアニメを知っているのです。「知識」の集積、自分の「普通」という定規、ターゲットの特性から検証し、上質素材であることから「フランダースリネンプレミアム」と、ネーミングが決定しました。実は『フランダースの犬』は、現地では全く知られていませんでした。

そして、「フランダースリネン」という名前も、現地では使われていませんでした。ところが、今では地元の人たちが、現地周辺で作られているリネンのことを「フランダースリネン」と呼んでいるそうです。ネーミングが決定すれば、ロゴの製作となります。現地の歴史を調べたところ、リネンの原料である亜麻の栽培開始は非常に古く、ドイツでヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を始めた一四四五年以前だったことがわかりました。

書体というものは、印刷機の歴史の始まりとともに発達していきます。このリネンにふさわしい書体は、現存する一番古い書体よりも古い時代のものということになります。活版印刷が始まる前にコルトレイク周辺で使われていた文字は、銅版彫刻でした。今では文字通り、カッパープレート(copperplate)という書体になっているので、ロゴマークはそれを用いることにしました。乾燥工場や生地屋などを見て回るうちに、「リネンというのは、昔は高級素材であり、一般の人にはなかなか手に入らないものだった」ということもわかりました。

上質で高級なイメージに、銅版彫刻系の文字は合致します。このようにして完成した「FLANDERSLINENPREMIUM」のロゴマークには、王冠が三つついています。当初はモチーフとして糸車なども考えていましたが、フランダース地方がフランス、ベルギー、オランダの三カ国にまたがることから、それぞれの国の王冠を使おうと決めました。

そのまま使うと問題があるかもしれないし、敬意を示す意味も込めたかったので、実際の王冠を少しアレンジしたものを使用しています。この一連の作業で、僕はたしかにセンスというものを使っています。

しかし、センスとはひらめきではなく、知識によるものだとおわかりいただけるのではないでしょうか。レイアウトのバランスや書体の知識といったデザイナーの能力も使いましたが、ほとんどのプロセスはデザインの知識がなくてもできることです。

書体はデザイナーでなくともインターネットで調べればほぼわかりますし、現地に飛ぶかどうかは別として、地方の歴史や生活習慣を調べることは誰でもできます。センスとはひらめきでなく、知識によって形成できるのです。

アウトプットの精度をあげてシズル感を最適化する

興和株式会社が僕という外部のセンスを利用して「フランダースリネンプレミアム」というブランドが出来上がっていったわけですが、興和の人たちは当時、担当者以外「ブランド化」という意識を持っていませんでした。

製品ではなく生地という素材をつくる業務であるために、アパレルのように「商品のブランド化」という考え方をしていなかったのです。あくまで「メーカーに求められる素材を納品する」という感覚だったのだと思います。

そんななかで僕がしたことは、新しいものをつくることではなく、すでにあったものをほんの少し飾ってあげることでした。名前をつけて、マークをつくり、タグをつけて販売するというのは、「ブランド化」ではありますが、僕の感覚ではそんなに大げさなことではなく、「よさが伝わるように、ちょっと情報整理してあげただけ」です。

「フランダースリネンプレミアム」は、二〇一二年の春夏商品として売り出されると、各アパレルメーカーのバイヤーから注文が殺到。昨年比一〇倍という売り上げになりました。僕が「これからはクリエイティブディレクターが必要な時代だ」と改めて実感したのはこの体験を通してとも言えます。

「フランダースリネンプレミアム」の価値を守るために、ある程度の値段を保たなければなりませんが、あまりに人気が出たために、需要と供給のバランスがとれません。そこで廉価版のブランド「フランダースリネンベーシック」も立ち上げることになりました。

ここでも僕はロゴやコンセプトづくりを手がけました。さらに「自社でプロダクトまでつくる」という興和の社長の思いを受けて、「フランダースリネンプロダクツ」というブランドもつくりました。僕がデザインしたフランダースリネンのトートなどを販売したところ、こちらも大好評を博しました。

このデザインにおいても、僕は知識を用いています。「フランダースリネンのトートをつくる」といったとき、外部のデザイナーの方が製作してくれた試作品は、いわゆる麻っぽい、分厚くてゴワゴワした生地のものでした。それに対して僕は「すごく薄くてペラペラ、くたくたのものがいい」と提案し、その思考プロセスも説明していきました。

まずリネンというものがどういう見え方をしているか、みんなが持っている共通認識──普通──を洗い出しました。トートバッグのコアターゲットは、リネンの服のターゲットとは違います。カジュアルな服装に合わせて使うものですから、もう少し若い、二〇代から三〇代の女性が中心になるでしょう。

小物ですから、洋服より手頃な価格で生産できます。若い彼女たちは「リネン」と言われたとき、フランスなどで使われるふきんやストール、アンティークの薄い布を思い浮かべるのではないかと予測しました。

僕の持てる知識を動員し、「リネンと言われると、洋服より薄手の雑貨をイメージするのがコアターゲットの特性である」という仮説を立てたのです。これに合致する商品が、コアターゲットにとってリネンのシズルを感じさせる商品になります。

一方で、トートバッグをつくるからにはトートバッグシズルも必要です。「丈夫そう、分厚い、しっかりしている」というシズルがあることはすぐにわかりますし、おそらくデザイナーの方はそちらを優先したのでしょう。リネンシズルとトートバッグシズルのせめぎ合い。リネンシズルを満たしながらトートバッグシズルを満たすにはどうしたらいいかを考えていきました。

トートバッグの構造を調べると、シズルは具体的になっていきます。丈夫そうに見えるのは生地の分厚さだけではなく、形状、ステッチ、帆布が持つざっくりした網目感のようなものが挙げられます。

そうするうちに、リネンというのはすごく強い生地で、同じ厚さの綿の生地とリネンの生地を比べると、リネンのほうが二倍の強度があることも教えていただきました。つまり、薄いリネンシズルを保ちながら、頑丈さを担保できることがわかったのです。

二つのシズルの掛け合わせで、くたっとした生地感の、軽くて丈夫でカラフルなトートバッグができあがりました。僕が運営に携わる丸の内「KITTE」の「THESHOP」でトートバッグの販売を開始したところ、ある月には屋台骨となるほどの高い売り上げを誇っています。

デザインがいいから売れたというより、売れるアウトプットを論理的に考えていったから売れていると僕は思っています。なんとなくかわいいものをつくれる人はたくさんいると感じますが、売れるものを狙いすましてつくれる人は多くありません。

売れるものをつくるには、消費者を欺かないための精度が求められています。その精度を高める作業もまた、センスを構築する一つの要素だと感じます。

知識をセンスで測ってアウトプットを決定する

もしもアリタリア航空からロゴをつくってくれという依頼が来たら、僕だったら絶対に使わない書体があります。それは「ヘルベチカ(Helvetica)」という書体。これでイタリアの会社のロゴをつくったら非常におかしくなると考えるからです。

なぜならヘルベチカとは「ConfoederatioHelvetica」という、スイス連邦をあらわすラテン語からきているから。スイス人とアメリカ人の書体デザイナーが生み出した書体なので、そう名付けられたのでしょう。

その意味でスイス航空の書体が実際にヘルベチカであるのは理にかなっています。もちろん、ヘルベチカは日本を含めて世界中のさまざまな国のブランドや企業のロゴとしてよく使われていますが、国を象徴する航空会社となれば話が別です。「あえてイタリアの会社がヘルベチカを使う」という理由をきちんとプレゼンテーションできなければ、使うべきではないでしょう。

アリタリアの社長が誰かに「あれ?何でスイスの書体を使っているんですか」と言われたときに、正々堂々説明できる理由を用意できなければ、クリエイティブディレクターとしての仕事は完結していないのです。でも、世の中には似たようなことが横行しています。デザインする側も、そのデザインを選ぶ側も、知識の集積なしでは危険な時代とも言えるでしょう。

もしもあなたが仕事でデザイナーとかかわることがあるビジネスパーソンであれば、デザイナーに何か提案されたとき、鵜呑みにするのではなく、「これはどうしてこういうデザインなんですか?」と質問をすることです。それはアウトプットの精度を高めること、売れる商品をつくることにつながっていきます。

もしもあなたがデザインを生業とするならば、自分が何を根拠にそのデザインを決定しているかを「感覚」という言葉に逃げずに説明しなくてはなりません。それができてこそ精度の高いアウトプットであり、商品を売れるものへと育てる最良の道です。

僕は自分の感覚というものを基本的に信用していないので、「この感覚はどこからやってきているんだろう?」という確認作業をすることにしています。

たとえば、僕が手がけている「THE」というブランドは、前述の通り、「THEジーンズといえばリーバイス501」というような、そのプロダクトの定番となるものをつくり出そうというブランド。「THE」というブランドのマークを作る時には、「まさしくザ・書体という書体がいいな」と思いました。

「ザ・書体とは何だろう?」と考えたとき、世界で一番多く流通している書体という考え方が一つ。本当に書体のオリジン、源流みたいなものを探し出すという考え方が一つ。他にもいろいろ切り口はあると思いますが、僕は書体のオリジンに着眼し、トラジャン(trajan)という書体をベースにロゴをつくることにしました。

世の中に活字というものが生まれた当時は、どんな文字にしていいかという基準がありませんでした。そこで、昔から「ものすごく美しい」と言われ続けていた、ローマ遺跡に描かれている石碑の文字を使うことにしたのです。トラヤヌス(Trajanus)帝の碑文に刻まれていた文字だから、トラジャン

「これこそ、THEにふさわしいし、THEのコンセプトそのものじゃないか」と思い、決定しました。僕がこの一連の作業で使っているのは、知識ばかりです。ただし、自分の感覚を使っていないかと言えば、感覚も確かに使っています。

しかし、感覚とは知識の集合体です。その書体を「美しいな」と感じる背景には、これまで僕が美しいと思ってきた、ありとあらゆるものたちがあります。美しいと感じた体験の集積が、僕の中の「普通」という定規になっているのです。それは僕個人のものであると同時に、社会知でもあります。

何を美しいと感じるかは、人種、時代、性別など、自分の属性でかなりの部分が決定されているのですから。僕は社会知の引き出しを開け、感覚を取り出します。それを自分が知らなかった故に、調べ上げた知識とミックスし、最終的なアウトプットを選んでいるということです。

このように、「知識を重ね合わせてつくっていくと、正しい答えにたどり着ける」というのが、僕に言える「誰もが身につけられる、売れるものづくりのヒント」です。今の時代にあったものを作るには、なおさらこのやり方がふさわしい気がしています。

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