2マニュアルの改訂を繰り返す
マニュアルの成果を上げ続けるためには、改訂が不可欠です。現場の知恵や状況の変化を積極的にマニュアルに反映させていくことで、その精度はさらに上がっていきます。 マニュアルの基本サイクル(作成・活用・改訂)の最後のステップになる「改訂」について説明していきます。
1 「改訂」の基本的な考え方
(1)マニュアルの「改訂」とは
マニュアルの「改訂」とは、「作成した基準を変化に合わせて「進化」させること」と定義しています。 前述したように、 「マニュアルは、変化に対応しなければ、すぐ古くなる」のです。
ですから、マニュアルで成果を上げ続けていくためには、には、改訂は必須条件になります。 それも古くなったから改訂するということではなく、変化に対して積極的に改訂するという、「待ち」から「攻め」の改訂という考え方が必要です。
また、これまで何度も説明してきましたが 「マニュアルは、意見を出させるタタキ台」 としての役割を持っています。意見や気づきなど現場で日々生み出される知恵やノウハウを引き出し反映させる効果的なツールでもあります。
これらは、マニュアルにとって最も重要な使命であり役割だといえます。 この使命・役割を遂行するためには、マニュアルを定期的に改訂する、つまり、改訂を仕組みにすることが必要になります。
改訂は、年に2回(春と秋など)定期的に行います。重要なことは、年2回改訂するということを会社全体で共有しておくこと、そして、その時期が来たら全員に告知する、ということです。 このように改訂の仕組みを明確にすることで、「作成 →活用 →改訂」の基本サイクルが回り始めます。
2 「改訂」のサイクルを回す
改訂のサイクルを回す始めの一歩が、前述した「マニュアル活用報告会」です。 この「マニュアル活用報告会」の開催後に、 1回目の改訂に取り組みます。つまり、「マニュアル活用報告会」は、マニュアルの改訂において必須の取り組みになります。
「マニュアル活用報告会」では、活用のプロセスで気づいた点・修正などが多数報告されてきます。これをもとに、早速「改訂」に取り組みます。 「マニュアル活用報告会」の前に作成したマニュアルは「初版」ですが、この「初版」というタタキ台を利用して、より多くの人たちの意見・提案を吸い上げます。
つまり、最初のマニュアルを活用することによって出された意見・提案を取り入れた、この 1回目の改訂版こそが、本当の意味で初版といえるものになります。
マニュアルの初版と改訂版の流れは以下のとおりです。
マニュアルの初版・完成
2 ~ 3カ月間活用、意見・提案の収集
マニュアル活用報告会
1回目の改訂版づくり
改訂版の発行・配付
以後、定期改訂版づくり
繰り返しますが、 1回目の改訂は、「マニュアル活用報告会」の開催直後に行います。その後は、年2回の定期改訂になります。
3 「改訂」のルールを作る
(1)ルールの基本
マニュアルは、会社の基準です。全員が厳守しなければならない仕事のルールです。 従って、さまざまな意見・提案を無原則に採用することはできません。しかるべき部署や担当が、しっかり検討することが必要です。
また、現場で勝手に変更して「 ○○版」などのローカルルール(ある拠点・現場だけで通用するルール)の存在を許しては、会社公認のマニュアルの価値・評価を下げることになります。 会社が認めるマニュアルは1つです。
2つも3つも基準があるようでは、基準の意味がなくなります。勝手に変更させない(変更しない)・勝手に作らせない(作らない) これが、マニュアルの改訂に関わる原則です。この2つを厳守しなければなりません。
「店舗ごとに創意工夫を発揮させる」、このことを奨励している会社があります。基本姿勢としては問題ありませんが、ことマニュアルに関しては考えものです。
先に述べた2つの原則を厳守しなければ、ローカルルールが蔓延してしまうことになります。店舗で生まれた創意工夫を、しかるべき機関が吸い上げ、迅速にマニュアルに反映させていく。これが基本となる考えです。
(2)改訂のルール
①「マニュアル改訂依頼書」で申請する
マニュアル改訂の提案は、「マニュアル改訂依頼書」を使用して、正式に申請するようにします。 会社(仕事)の基準に対する提案です。 「こんなふうに変えたらどうかな」といったことを口頭で言われても困ります。 “感想や思いつき”を意見・提案の形にしてもらうことで、より具体的になり、また提案者としての自覚・責任が生まれます。
② 改訂時期を明確にする
マニュアルは、 1年に 2回を基準に定期的(例:3月・9月)に改訂します。 変更要請に対して、その都度対応するのは大変です。時期を決めることで、その時期に向けてそれぞれの現場で、意見や提案の準備をしてもらいます。また、この時期を会社全体で共有しておくことが大事です。ただし、緊急性のある事案が発生した場合は、その内容を「臨時便」「特別号」などとして配付し、定期改訂のときに、マニュアルの改訂版の中に組みましょう。
余談ですが、改訂は 1年に 2回ではなく、もっと多くしたほうが良いのです。時代・状況が目まぐるしく変化する環境では、基本サイクル(作成・活用・改訂)を高速に回すことが求められています。 筆者もある会社のマニュアル改訂を年 4回お手伝いしたことがあります。しかし、担当部署(ほかの業務と兼務)の負担があまりに大きすぎて、中止になりました。ですので、最低 1年に 2回は改訂してほしいという意味でご理解ください。
③ 改訂年月日、改訂履歴を明記する
マニュアルは、いつ改訂された版であるかが、見てすぐに分かるように、改訂版を発行した年月日を明記します。表紙のマニュアル名の下に明記するのが一般的です。これは、最新版が常に現場に配付されるようにするうえでも必要です。 また、改訂履歴(改訂時期、改訂箇所、改訂内容など)を明記することで、マニュアル勉強会などでの活用がしやすくなります。
④ 新・旧マニュアルを共存させない
新しい改訂版のマニュアルは、旧版のマニュアル配付先(部署)から旧版のマニュアルをすべて撤去(回収)した後に、配付します。 こうしなければ、 「どれが改訂された最新のマニュアルか分からない」 ということになってしまうからです。
⑤ 旧版マニュアルの撤去・廃棄の徹底
同じ場所に新・旧マニュアルを共存させると混乱の元になります。 現場には、常に新しいマニュアルしか存在しないことが、大前提です。したがって、現場に任せるのではなく、旧版のマニュアルの撤去や廃棄は、マニュアルの担当部署(担当者)が責任を持って、確実に行ないます。
マニュアルは、会社の知的財産であり、社外秘扱いです。会社の貴重なノウハウが流出するようなことがあってはいけません。 新・旧マニュアルの配付手順は次のとおりです。改訂版(最新版)を作成する 旧版を現場から回収する 新版を配付する 旧版を廃棄する
⑥ マニュアル担当部署(担当者)を明確にする
マニュアルの発行または改訂は、権限を与えられた部署または担当者が、「マニュアル管理台帳」をもとに管理します。責任の所在を明らかにすることで、基本サイクル(作成・活用・改訂)が確実に回ります。 マニュアルの改訂ルールの例を紹介します。
1 マニュアルの改訂は、「マニュアル改訂依頼書」に、その趣旨を明記して申請する。
2 マニュアルは、定期的(例:3月、9月)に改訂する。
3 改訂版には、改訂した年月日を記載し、その改訂履歴をつける。
4 新しい改訂版は、旧版のマニュアルを配付先からすべて撤去(回収)した後に、配付する。
5 旧版のマニュアルの撤去・廃棄は、担当部署または担当者が責任を持って、確実に行う。
6 マニュアルの発行または改訂は、権限を与えられた部署または担当者が実施し、「マニュアル管理台帳」で管理する。
4 「改訂」の進め方
(1)意見・提案などの収集
現場の「声」の収集は、マニュアルの作成段階から始まっています。 しかし、一番多く収集できるのは、マニュアルを仕事の中で使ってみたとき、つまり活用段階です。マニュアルという見える形になることで、会社(職場)にいろいろな問題を顕在化させます。
ただし、現場の声の収集といっても、 「はい、分かりました。すぐに提案します」 と、簡単に出てくるものではありません。マニュアルに基づいて仕事をするということが、“当たり前”になるまでは、半ば強制的に意見や提案を収集することも必要です。
「一人最低5個以上提案」といった数値目標を課して集めている会社もあります。こうでもしなければ、マニュアルの改訂を自分の問題として捉えることができない人が多いということです。 マニュアルに対する意見・提案は、「マニュアル改訂依頼書」を配付して現場から収集します。 定型的なフォーマットになっていると意見が出やすいものです。
ただし、マニュアルを配付して最初の改訂をするときは、マニュアル勉強会や「活用報告会」などで出された意見などをもとに、マニュアルを作成した人がまとめる、という方法もあります。 重要なことは、現場の声を吸い上げるということです。
(2)意見・提案などへの対応
マニュアルのテーマにもよりますが、「マニュアル改訂依頼書」によって集められた意見・提案は、膨大な数になることがあります。これらの意見・提案を分類して、しっかり検討していかなければなりません。 意見・提案の分類は次のとおりです。
① 修正──語句、用語などの修正・変更
② 追加──手順やポイント、説明文の追加
③ 削除──項目や内容の削除
④ 新規──同じテーマ(マニュアル)の新しい項目などの提案
⑤ その他──気づいた点、要望、別のテーマのマニュアルの提案など
一つひとつの意見・提案内容を、改訂の評価基準に沿って検討していきます。これらの作業は、マニュアルの作成・管理に関わる担当部署や担当者が行います。
改訂の評価基準は次のとおりです。再現性があるか ー誰がやっても、同じようにできるか(改訂前より)正確にできるか(改訂前より)早くできるか 「会社(仕事)の基準」として、適切かどうか判断する これらの評価基準を満たさない意見・提案は、採用しません。
このとき、改訂前とまったく正反対の提案や作業時間が大幅に違う提案などがあった場合は、現場で実際に検証して判断します。 また、新規の提案については、安易に採用・不採用の判断をするのではなく、実際にできることなのか、どのような効果が見込めるのか、などといった基準でしっかり検討することが必要です。
(3)改訂で気をつけること
マニュアルの追加や新規では、提案した本人に原稿を書いてもらうことが大切です。 原稿のフォーマットを渡して、「第一稿」を書いてもらい、それを検討していきます。これは、より多くの人をマニュアルづくりに巻き込むという意味でも重要なことです。 また、意見や提案をしてくれた人には感謝し、検討の結果を公表することで、マニュアルづくりを全員が参画する活動へとつなげていきます。 一方、提案を「不採用」にした場合には、その理由を提案した本人に直接説明することが大切です。 そうしなければ、 「せっかく提案をしたのに、何も言ってこない!」と不満を持たれて、“抵抗勢力”に回ってしまうことにもなりかねません。このような連絡の配慮は、怠らないように注意します。 改訂で気をつけることは次のとおりです。提案した本人に原稿を書いてもらう
検討の結果を公表する「不採用」の場合は、直接本人に説明する より多くの人を巻き込むことを、常に考える 重要なことは、現場の声を吸い上げることを通して、より多くの人をマニュアルづくり(作成・活用・改訂)に巻き込んでいくことです。 こうした地道な取り組みが、会社における「マニュアル」の認知度を高め、「作成 活用 改訂」の基本サイクルを回す原動力になっていきます。 この認識と自覚を持って、マニュアルづくりに取り組むことが必要です。
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