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INTRODUCTION脳は100%ミスをするミスをしない脳の基本原則

はじめに「ミス」はあなたではなく「脳」のせい「仕事が終わらず、結局残業になってしまった」「一通り終えたと思ったら、ささいな『ミス』のせいでやり直しになってしまった」「大事な打ち合わせの予定をうっかり忘れてしまい、得意先との関係が悪化した」「手間暇かけて作った資料のファイルを、勘違いして削除してしまった」誰でも、仕事でこうしたミスをしたことがあるはずです。今までミスしたことがない、という人はいないでしょう。しかし、毎日激務なのにほとんどミスをしない人もいれば、仕事が遅い上にミスばかりする人もいます。その違いはどこにあるのでしょう?仕事上のミスが多くなったとき、「自分は本当にダメだな……」と落ち込んでしまう人は、少なくないと思います。ちょっとしたミスがきっかけで、職場での評価が下がったり、信頼を失ってしまい、自分を責めてしまう人もいるでしょう。そんなあなたにお伝えしたいことがあります。すべてのミスは、脳の情報処理に関わる「仕組み」のせいであって、あなたの能力が低いせいではないということです。「ミス」を引き起こす「脳」の仕組み私はこれまで、精神科医として脳科学の研究を重ねながら、数千人の患者さんの診察を通して、「脳」や「心」のメカニズムを観察してきました。そうした経験から、「ミスをしにくい人の脳」の仕組みがわかってきました。その内容を科学的根拠に基づいた、普段の仕事、日常の生活の中で簡単に実践できる方法としてまとめたのが本書です。本書では、私がこれまで研究してきた脳科学的エビデンスを元に、・集中力の低下・記憶を一時的に保存する、脳の「ワーキングメモリ」の機能低下・脳疲労(脳が疲れた状態)・加齢による脳の老化こうした、ミスを引き起こす「4大原因」を根本的に解決するための行動習慣について解説していきます。

精神科医の私が「ミス」をテーマに本を書いた理由私自身、これまで精神科医として、数多くのうつ病患者さんと接してきましたが、その経験からわかったことがあります。それは、うつ病の患者さんは、ほぼ例外なく、その初期段階において「ミスが多くなる」ということです。「約束していたアポを忘れてすっぽかしてしまう」「絶対に出さなければいけない書類を期日までに提出し忘れてしまう」「書類の小さな間違いが増える」このようなかたちで現れます。「うつ病」の初期段階で、集中力を高める脳内物質が低下し、注意力、集中力の低下が必ず起こるのです。ここまで読んで、皆さんは「自分は別にうつ病じゃないから、関係ない」と言うかもしれません。しかし、「自分の体の状態は、自分が一番わかっている」という認識は誤りです。そして、もしあなたが「うつ病」でなかったとしても、実はその一歩手前の「脳疲労」の状態でも、同様の現象が起こるのです。ストレス過多な現代に生きる私たちは、「うつ病」まで行かないとしても、その一歩手前の「未病(病気未満の状態)」、つまり「脳疲労」には、誰もが陥る可能性があります。もちろん、この本を手にとってくださった皆さんにとっても他人ごとではありません。つまり、仕事のミスが増える、というのは、「脳が疲れていますよ」「脳が正常な判断や情報処理ができなくなっていますよ」「このまま放置すると、ひどいことになりますよ」ということを、私たちに教えてくれる「警告症状」とも考えられるのです。しかし、怖がる必要はありません。病気以前の段階で、自分の身を振り返ってみて、どのようなミスをどれくらいの頻度で起こしているかを自覚することができれば、「自分の脳がどのような状態にあるのか」を自覚することができます。ミスの有無は、病気に対する警告症状(黄信号)であり、脳のコンディションを知るためのバロメーターと言えるのです。「脳疲労」の段階で、「自分の脳は疲れている」と自覚し、ミスをしないハイパフォーマンスな脳を作る習慣を実践すれば、どのような人でも、「健康」な脳、さらには、それより上の段階である、気力が充実した「絶好調」な脳に作り替えることができます。仕事の「質」と「速さ」は科学的に上げられるミスの大半は「脳が十分なパフォーマンスを発揮できていない」ことが原因で起こります。「うっかりミス」「ケアレスミス」「凡ミス」「単純ミス」などの言葉が示すように、私たちがミスをする背景には、「不注意」が存在します。脳のパフォーマンス低下が、不注意を引き起こし、結果として「ミス」につながるのです。つまり、ミスをするのは、「あなたの仕事の能力が低い」からでも、「あなたがダメ社員」だからでもないのです。どんなに仕事がデキる人であっても、日々の生活の中で、脳のパフォーマンスが下がると、結果として仕事でミスを犯します。「ミス」の有無は、生まれつきの才能によるものではありません。ミスをなくすことは簡単です。日頃から脳のパフォーマンスを高める生活習慣を身につけ、脳と体のコンディションを「絶好調」の状態で維持できれば、ミスとは無縁の仕事力を発揮できるのです。「ミスをしにくい脳」は、誰でも作ることができます。「ミスをしやすい」というのは、あくまでも「状態」です。固定的なものでもなければ、変えられないものでもありません。本書でご紹介する、脳科学的根拠に基づいた「脳のパフォーマンス」を最大化させる習慣を身につけることで、誰でも「ミスをしない脳」を作ることができるのです。脳を変えれば、私たちの仕事の「質」と「速さ」は劇的に上がります。「入力」「出力」「思考」「整理」──脳を変えればミスは解決する本書では、誰もが日々の生活で当たり前のように使っている脳の4つの働き、つまり「入力」「出力」「思考」「整理」に着目し、それぞれのプロセスに合ったミスを防止するためのノウハウを解説していきます。ミスの原因は、「集中力の低下」「ワーキングメモリの低下」「脳疲労」「脳の老化」のたった4つしかありません。この「4大原因」のうち、「ワーキングメモリの低下」「脳疲労」「脳の老化」は、「集中力の低下」の原因でもあります。とはいっても、ミスの4大原因はそれぞれ完全に独立したものではなく、それぞれが原因でもあり、結果でもあります。つまり、渾然一体となって現れてくるものです。ではなぜ「原因」を4つに細かく分類したかというと、原因を分解することで「対策」がより具体的になるからです。本書では、脳科学的に原因を4つに分解することによって、既存の「ミスをなくす本」よりもはるかに具体的に、根本的、根治的な対処法を提案していきます。本書で紹介する、脳のパフォーマンスを上げる、ミスをしない人の脳の習慣を実践してゆくことで、皆さんが「冴えわたる脳」を手に入れ、最高に充実して仕事に向かわれてゆくことを願ってやみません。

絶対にミスをしない人の脳の習慣目次はじめに「ミス」はあなたではなく「脳」のせい「ミス」を引き起こす「脳」の仕組み精神科医の私が「ミス」をテーマに本を書いた理由仕事の「質」と「速さ」は科学的に上げられる「入力」「出力」「思考」「整理」――脳を変えればミスは解決するINTRODUCTION脳は100%ミスをするミスをしない脳の基本原則ミスの「4大原因」【ミスの原因】その1集中力の低下「ミス」には不注意がつきもの脳科学的根拠を知れば、集中力低下は防げる【ミスの原因】その2ワーキングメモリの低下「ど忘れ」の正体「テンパる」とミスしやすい理由ミスが増えた時期によって、対策を使い分ける【ミスの原因】その3脳疲労「病気未満」の段階で対策する「健康」と「病気」の二元論をやめる脳疲労で注意力・集中力が低下する理由ミス多発は脳の「黄信号」「未病」だからこそ対策ができる【ミスの原因】その4脳の老化年をとると忘れっぽくなる理由若々しい脳を維持する秘訣何歳でも脳は成長し続けるミスが多発する4つのシチュエーションミスは脳の「インプット」と「アウトプット」障害「思考」と「整理」のミスの怖さPART1入力「インプット」を変えると集中力が最大化するミスをしない入力術「ワーキングメモリ」を使いこなす脳の作業領域がミスの鍵を握るワーキングメモリのキャパシティワーキングメモリを鍛える9つの方法1【タスク術】一点集中タスク術「同時進行」がミスの元音楽を聞くと仕事がはかどる?デュアルタスクで能率アップ2【メモ術】「記憶」しないメモ術書くことで脳の司令塔を活性化

緩急をつけてメモをとる「デシタル」よりも「アナログ」を選ぶ一元化してアウトプットする3【情報収集術】タイムマネジメント情報収集術スマホで調べた情報は記憶に残らない脳が疲弊する「スマホ認知症」に注意スマホの使いすぎで頭が悪くなる時間を決めて情報を集める4【勉強法】①学びを欲張らない「舌切り雀勉強法」「メモ魔」ほど理解が浅いインプットは欲張らない②3ポイント勉強法「3」を意識して学びを最大化③大人のための「脳活性化勉強法」資格試験で脳が劇的に冴える暗記で認知症リスクが減少するPART2出力脳力を引き出せば、仕事の「スピード」と「質」は上がるミスをしない出力術仕事の9割は「出力(アウトプット)」1【時間術】①時間帯・曜日決め打ち時間術「ミスの魔の時間帯」に作業しないミスをしやすい時間帯・曜日は避ける②ウルトラディアンリズム時間術「覚醒度のリズム」に乗る③脳が目覚める「ゴールデンタイム時間術」面倒な仕事は朝一で終わらせる「脳のゴールデンタイム」を延長する方法2【TODOリスト術】①集中力のギアを上げるTODOリスト術そのTODOリスト活用法は間違っている②初公開!「樺沢式TODOリスト」従来のTODOリストの問題点「樺沢式TODOリスト」の使い方やるべきことは「3」を意識して書くオリジナルのTODOリストを作ろう③遊びのTODOリスト趣味・遊びのTODOリストを書く書くだけで実現率は3倍になる④ホワイトボード仕事術TODOリストを決め打ちする書き出してモチベーションを上げる3【スケジュール術】調整日導入スケジュール術「調整日」を入れるだけで余裕が生まれる締め切り+予備日2日で余裕を作る4【仕事術】①1つずつクリアする「プチプチ」仕事術「頭が真っ白になる」を防ぐ方法タスクは「プチプチをつぶす」ように②二兎を追わない「各個撃破仕事術」ドイツ軍の失敗に学ぶ「最も効率的な戦い方」③先送り・ミスゼロ仕事術「先送り」にした瞬間、「TODOリスト」に追加④100点をめざさない「30点目標仕事術」100点をめざすと100点から遠のく

PART3思考トップギアの脳は「自己洞察力」で決まるミスをしない思考術

  • 「自己洞察力」を鍛えてミスをゼロにする根本的にミスをなくす方法「自分の状態に気付く思考」が鍵を握る「自分の状態は、自分が一番わかっている」は大間違い「疲れています」と言える人は健康1【ノート術】たった3分間の「ポジティブ脳ノート術」書くことで自分の状態を客観視する2【SNS活用術】ポジティブ思考を養う「Facebook術」短文日記で脳トレしよう3【思考法】①「忘れ物」をゼロにする「『紙』確認思考」「5」を越えたら「チェックリスト」化「ミス2回」がチェックリスト作成のサイン②不安を消す「転ばぬ先の杖思考」「ミスしたらどうしよう」を取り除く③雑念を排除する「ルーティーン思考」「いつもと同じ」で最高の集中を作り出す④事故を未然に防ぐ「ヒヤリ・ハット思考」医療現場で使われる心理戦略を応用する⑤数値で把握する「C3PO思考」客観視する習慣で自己観察能力を鍛える今の状態は100点満点で何点?たった15秒の「自己診断」ワーク

 

PART4整理脳の棚卸しでパフォーマンスを上げるミスをしない整理術感情を整えてミスを防止する「整理整頓」より「脳内整理」1【脳内整理】①きれいに忘れる「荷降ろし脳整理術」脳内に記憶スペースを作る「逆ツァイガルニク効果」を活用する②電車でボーっと脳内整理法「何もしない時間」で1人会議「ボーっとする」は、脳科学的に正しい2【行動整理】折れない自分を作る「失敗と成功の整理術」失敗は「反省」して忘れ、成功は噛みしめる3【ストレス整理】心を整える「ストレス整理術」ストレスは「裏社会の首領」である多少のストレスは有効活用できるストレスホルモンは「コーヒー」のようなものストレス過多は記憶を破壊する副腎疲労が病気を招く4【休息法】寝る前2時間の「ゴールデンタイム休息法」たった2時間でストレスは整理できるやってはいけない「寝る前」の過ごし方寝る前にリラックスしないといけない理由5【睡眠法】脳のコンディションを上げる「7時間睡眠法」睡眠不足はミスの重大な原因「1時間プラス睡眠法」で能率アップ!睡眠薬を飲んでもいい睡眠はとれない6【感情整理】「人に言わない」感情整理法愚痴でストレスは解消できない「怒り」はストレスを増強する「笑い」で水に流すお酒はおいしく、楽しく「運動」と「睡眠」で感情整理

おわりに参考文献一覧

ミスの「4大原因」仕事におけるミスには、さまざまな要因が関係しているように思えますが、私が多くの事象を脳科学的に分析したところ、本書の冒頭でもお話ししたようにミスの原因は、たった「4つ」しかないことがわかりました。つまり、「集中力の低下」「ワーキングメモリの低下」「脳疲労」「脳の老化」です。これらとまったく無関係にミスが起きることはまずありません。つまり、これらの原因について徹底的に対処すれば、「ミスをゼロにする」ことも不可能ではありません。それでは、これら4つの原因について、詳しく見ていきましょう。

「ミス」には不注意がつきものまず、そもそもミスとは何でしょうか。辞書で調べてみると、「不注意を原因とする誤った行動、つまずき」とあります。じっくり1時間かけて出した結論が、結果的に「間違い」だった場合、普通はミスとは言いません。本来の100%の自分だったらやらないであろう過失や、失敗がミスです。また、「ケアレスミス」「うっかりミス」「不注意によるミス」といった使われ方をするように、ミスと不注意は、不可分な関係と言えます。注意力散漫な状態というのは、言い換えると集中力が低下した状態です。ですから、ミスの主要な原因は、「注意力・集中力の低下」と言えます。「ミスをなくす本」はかなりたくさん出ていますが、それらのほとんどが、「注意力・集中力の低下」に対する対処法に焦点を当てて書かれています。それらの本で紹介される対処法は、「確認する」「チェックする」「整理する」「片付けをする」といった内容がほとんどです。本書では、「注意力・集中力の低下」に対して脳科学的に切り込みます。そして、脳の機能的な仕組みを踏まえた上での注意力・集中力の低下を防ぐ方法や、それらを高めるための方法、注意力・集中力が低下した自分に気付く方法、注意力・集中力をグンと上げた状態で仕事をするための具体的方法など「注意力・集中力の低下」に対する根本的対策についてお伝えしていきます。脳科学的根拠を知れば、集中力低下は防げるミスの原因の1つは、「注意力・集中力の低下」です。では、これらはなぜ低下するのでしょうか?脳科学的な視点も含めて分析してみましょう。(1)1日のリズム集中力というのは、朝が一番高くて、午後、夜と時間がたつにつれて低下する傾向があります。これはほとんどすべての人間に当てはまる生理的なリズムであり、あらがうことは困難です。また、忙しく仕事をしていれば、頭を使えば使うほど集中力は低下していきます。それは、「疲労」と言ってもいいでしょう。そして、疲労による集中力低下は、「休憩、休息」によって、ある程度回復します。集中力にはリズムや波があります。そのリズムや波に逆らうのではなく、リズムに乗ったり、波に乗ったりすることによって、ミスを減らし、仕事を効率的にこなすことができます。だからこそ、「ミスしやすい仕事」を集中力の高い時間帯にこなす。「ミスしにくい単純な仕事」を集中力の低い時間帯にこなす。たったそれだけでも、ミスをする確率を大幅に減らすことができます。(2)慢性的な疲労・ストレスもしあなたが、ここ何週間かずっと仕事が忙しい、毎日23時にならないと帰れない、といった状況が続いている場合、慢性的な疲労が蓄積して、注意力・集中力が持続的に低下した状態に陥っている可能性があります。特に脳の慢性的な疲労状態を「脳疲労」といいます。そうした状態では、精神的なストレスがかかっている場合も多く、腎臓のすぐ上にある副腎皮質から分泌されるストレスホルモン(コルチゾール)が上がっているかもしれません。コルチゾールが上がると、さらに注意力・集中力の低下に拍車がかかります。慢性的な疲労やストレスを防ぐためには、自己洞察力を高めて「自分が疲れている」ということに、あまりひどくならないうちに気付いて、ストレスの原因に対処することが重要です。早め早めに対策を講じて、ストレスをきちんと整理していくことが必要となります。(3)前頭葉機能・ノルアドレナリンの低下注意力・集中力は、前頭葉や脳幹など脳の複数の部位が関わっていますが、中でも前頭葉の「前頭前野」が、注意力・集中力の制御と関係していると言われます。前頭前野の血流が低下すると、注意力・集中力が低下します。たとえば、交通事故などで前頭葉が損傷を受けると、注意力を保つことができなくなる「注意障害」が起こります。なお、脳から私たちの体の各所へ指令を伝える分子言語である、脳内物質の見地から考えると、「ノルアドレナリン」が注意力・集中力と深く関係しています。ノルアドレナリンが低下すると、注意力・集中力も同時に低下します。

ノルアドレナリンは、慢性的なストレスや、脳疲労によって低下します。また、「うつ病」の脳内ではのこのノルアドレナリンが枯渇した状態に陥っています。うつ病の初期から、ノルアドレナリンの不足が徐々に進行して、「うっかりミス」が増えてくる、といった症状が現れます。これらを防ぐためには、病気の一歩手前である脳疲労の段階で対応すること。ストレスの原因を早めに解消することが重要です。(4)ワーキングメモリの低下脳の作業領域とも言われるワーキングメモリ(作業記憶)。これが低下すると、脳の作業領域が減ってしまうため、ミスやど忘れが多発します。同時に注意力・集中力も低下します。(5)脳の老化年をとるごとに、用件をうっかり忘れてしまったり、人の名前が出てこないといった「ど忘れ」が増えてきます。「そろそろ自分もヤバい」と思った方もいるかもしれません。年をとるごとに、注意力・集中力は低下していきます。加齢による変化はとめられない、と思っている人は多いでしょうが、適切な脳のトレーニングで脳を鍛えることによって、60歳、70歳を越えても、脳をイキイキとした状態に保つことは可能です。「ど忘れ」の正体別の部屋にものをとりに行ったとき、部屋のドアを開けた途端に、「そういえば、何をとりに来たんだっけ?」と忘れてしまう。そんな経験はありませんか?こうした「ど忘れ」は、誰にでもあると思いますし、こうした「ど忘れ」がたびたび起きると、認知症にでもなったのか、と心配になるかもしれません。しかし、こうした「ど忘れ」は、認知症とは直接的には関係がありません。「ど忘れ」した瞬間、歩きながら考えごとをしていた、あるいはスマホに気をとられたなどの理由によって、脳が一時的に情報過多に陥ったのです。つまり、脳のオーバーフローが、「ど忘れ」の原因と言えます。人間の記憶力は、膨大な情報を記憶できるポテンシャルを持っていますが、情報入力のための入口は非常に狭く、たくさんの情報が一気に流れ込もうとすると、脳の入口で「交通渋滞」を起こしてしまうのです。脳内には、脳の作業スペース、「ワーキングメモリ」があります。これは、脳内に入力した情報を、ごく短時間だけ保存し、その情報を元に、思考、計算、判断などの、作業を行うスペースです。ワーキングメモリでは、数秒から、長くても30秒ほどのごく短い時間だけ情報を保持します。情報処理が終わると、すぐにその情報は消去され、次の情報が新たに書き込まれていきます。パソコンでたとえれば、「長期記憶」がハードディスク(HDD)とするなら、ワーキングメモリは、メモリ(RAM)に相当します。何かの処理をする場合、メモリに情報を書き込み、処理が終わるとすぐにその情報は消去され、また別の情報が上書きされていく。それと同様の情報処理が、私たちの脳内でも、常に行われているわけです。たとえば、友達から携帯電話の番号を教えてもらったとき、スマホにそれを入力するまでの間は、頭の中にその番号が記憶されているはずです。しかし、番号の登録が終了した瞬間に、その番号は脳の中から消えてなくなります。そんなときに使われているのがワーキングメモリです。「テンパる」とミスしやすい理由たとえば、今日中に締め切りを迎える仕事が、5件あったとしましょう。あなたは切羽詰まった状況に追い込まれ、焦りも出てきます。猛烈なペースで仕事をこなしていかないと、到底終わりません。もしかするとあなたはパニック状態に陥るかもしれませんが、こんな状態を通称「テンパる」と言います。こうしたテンパった状態で往々にして、大きなミスが起こります。しかし、もしその仕事が3件しかなければ、テンパることなく余裕でこなせるでしょう。テンパるというのは、実は、ワーキングメモリが不足している状態です。パソコンでいうところの、メモリ不足で動作が不安定になってしまった状態、と言うとわかりやすいでしょう。脳の中に、次の図4で示したような「3つのトレイ」が存在する、と想像してみてください。

あなたの作業机にトレイが3つ載っていて、それらに書類を入れて、仕事を進めるのと同様のプロセスで、脳の中でも情報処理が行われているのです。処理が終わったらそのトレイから書類が取り出されて、別の新しい書類が入ります。トレイは3つしかありませんから、同時に5件の書類を処理することは不可能です。そうなると「処理不能」の状態になってしまいます。そして、脳がオーバーフローを起こして、「ど忘れ」や「頭が真っ白になる」といったことが起こります。「ど忘れ」や、追い込まれたときに焦ってミスしてしまう最大の原因は、このようにワーキングメモリの容量不足にあるのです。ミスが増えた時期によって、対策を使い分ける「ミスが多い人」には、2つのパターンがあります。「最近」ミスや不注意が増えた人と、「昔から」ミスや不注意が多い人です。「最近」ミスや不注意が増えた人の原因は、ほとんどの場合が、先ほど述べた「脳疲労」と言えます。しかし、ミスが最近始まったものではなく、「子どもの頃からおっちょこちょいで、ミスやうっかりが多いんだけど」という人もいるはずです。昔から「自分は不注意が多いな」と悩んでいる方は、「ワーキングメモリ」の容量が少ない可能性があります。もしかすると、普通は「3」あるはずの脳内のトレイが、「2」であるかもしれないのです。仮にそうだとすれば、一度に処理できる情報量が減ってしまいます。当然、脳の中はいつもあわただしくフル稼働の状態で、「余裕」というものがありません。ですから、ミスが頻繁に起きてしまうのです。一方で、いくつもの案件を抱えて、それを次から次へとスムーズに処理していく人もいます。あなたの職場にも、頭の回転が速く、「仕事がデキる」と言われる人が必ずいるでしょう。そういう人は、「ワーキングメモリ」の容量が人よりも多いのです。つまり、普通は「3」あるはずの脳のトレイが「4」あるとしたら、たくさんの案件を抱えていたとしても、混乱することなく次々と仕事をこなしていけます。さて、あなたは「いつもミスを犯してばかりのダメ社員」と「仕事をバリバリこなすデキる社員」のどちらになりたいですか?当然、後者でしょう。「ダメ社員」と「デキる社員」は決定的に大きな能力差が、生まれつきあるように思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。「ワーキングメモリ」が、人よりもちょっと多いか、少ないかの違いだけなのです。あなたが、仮に「いつもミスを犯してばかりのダメ社員」だったとしても、ガッカリすることはありません。誰でも、何歳からでも、ワーキングメモリは鍛えることができます。ワーキングメモリのトレーニングをしっかりと行っていけば、あなたも必ず「デキる社員」に変身することができるのです。もしあなたが、最近仕事が立て込んでいる、休日に休めていない、疲労がたまっているといった状況だったとしましょう。そんな状況では、もともとワーキングメモリが高い人であっても、ワーキングメモリの一時的な低下を招いてしまう可能性があるので、注意する必要があります。「ワーキングメモリを鍛える9つの方法」については、「PART1入力」で詳しくお伝えします。「病気未満」の段階で対策するあなたは最近、「お疲れ」ではありませんか?その「疲れ」の要因の1つが、「脳疲労」。わかりやすく言えば、脳が「お疲れモード」になっている、ということです。たとえば、Facebookを見ていると、よくこんな投稿を目にします。「電車にカバンを忘れてしまった」「仕事で使う重要なデータを間違って消去してしまった」「家に財布を忘れてしまった」「スマホが見あたらない。どこに置き忘れたんだろう?」私は、こうした投稿を見るたびに、「大丈夫?これって、かなりお疲れモードじゃないの?」と心配になります。「うっかりミス」は、人間なら誰でも起こすものですが、それが短い期間で、何度も連続して起きるようであれば、注意が必要です。「以前はこんなにミスをしなかったのに、最近ミスが増えているな」という方は、脳が疲れているのです。つまり、「脳疲労」が原因で、ミスが起こっていると考えられます。脳疲労とは、睡眠不足や慢性的なストレス、過度な仕事や運動不足などが重なった、脳が「お疲れモード」の状態を指します。健康な状態と比べて、脳のパフォーマンスは著しく低下しています。「健康」と「病気」の二元論をやめる「最近、ミスが多いけど、少し疲れていませんか?」私がそう尋ねると、多くの人はこのように言います。「大丈夫です。病気じゃないですから」ほとんどの人は、自分の状態を「健康」か「病気」かの2つの区分で考えます。そうすると、「不調だけれど、病気というほど深刻ではない状態」も、「健康」のほうに分類されてしまいます。

こうした二元論で考えると、「病気の一歩手前」「病気の発病寸前」の状態も「健康」になってしまいます。つまり、「健康なんだから、別に対処も対策もしなくていい」と考えて放置するようになり、結局、病気への道を突き進むのです。

「健康」か「病気」かという二者択一的な考え方は捨てるべきです。なぜならば、この2分類では、病気を予防することができないからです。私は、前の図5で示しているように、健康状態を4つに分類します。「健康」と「病気」の間の状態が存在します。それは、「未病」です。「未病」とは病気の一歩手前の状態。あるいは、完全に「健康」とは言えない状態です。たとえば、健康診断で「血糖値が少し高いですね」「血圧が少し高いですね」と言われるような人は「未病」の状態です。それを放置すると、糖尿病や高血圧へと進行していきます。一方、「健康」よりも、さらに上の状態が存在します。単に病気でないというだけではなく、モチベーションも高く、心技体がすべて充実していて、仕事のパフォーマンスも最高にいい状態。心から「調子がいい!」と思える、「絶好調」の状態です。このように、調子が悪い状態から順番に、「病気」「未病」「健康」「絶好調」の4つの状態が存在すると考えられます。これらの4つの状態は、明確に4つに区分されるものではなく、私たちは、「健康」の中でも「未病」寄りの状態や「絶好調」寄りの状態へと、日々揺れ動いているのです。これを脳の状態に置き換えて説明すると、「うつ病」「脳疲労」「健康」「絶好調」ということになります。「脳疲労」の状態では、注意力・集中力、理解力、記憶力、論理判断能力、学習能力など、ほとんどの認知機能が低下します。これは、脳のパフォーマンスが低下した状態、自分の本来持っている認知機能を100%発揮できない状態ですから、結果としてミスが起こってしまうのです。皆さんの中には、「私は脳疲労じゃないけど、ときどきミスをする」という人もいるでしょう。その場合は、「健康」状態の上にある「絶好調」をめざしてください。

私たちの脳のパフォーマンス、認知機能は日々変化しています。たった1日、睡眠不足になっただけで、注意力・集中力は大幅に低下するのです。健康な人であっても、多少「脳疲労」に傾いただけで、ミスを起こします。ですから、「健康を維持する」という消極的な目標ではなく、「健康」よりもさらに上の状態「絶好調」をめざして、生活習慣、自分のコンディションを整えていく、という心構えが重要です。「絶好調」の状態を維持できるようになれば、ミスを限りなくゼロに近づけていくことが可能になります。つまり、「脳疲労」の人は「健康」をめざす。「健康」の人は、「絶好調」をめざす。今の自分のレベルよりも、1つ上のレベルにレベルアップすることが、脳のパフォーマンスを高めることであり、ミスをなくす抜本的な対策となります。その具体的なメソッドを、本書では詳しくお伝えしていきます。脳疲労で注意力・集中力が低下する理由ミスは不注意を背景に起きる。そして、脳疲労では、注意力・集中力が低下する。ではなぜ、脳疲労では、注意力・集中力が低下するのでしょうか。結論から言うと、ノルアドレナリンが低下するからです。私たちの脳には、思考、感情、認知機能などを司る「神経伝達物質」、通称「脳内物質」があります。人間の脳内には数百億個もの神経細胞が存在し、お互いがつながりあって、複雑なネットワークを築いています。しかし、これらは電気の配線のように、連続的につながっているわけではありません。神経細胞と神経細胞の接合部分には、「シナプス」と呼ばれるわずかな隙間が存在するのです。シナプス間の情報伝達をする物質が、「神経伝達物質(脳内物質)」です。脳内物質は、50種類以上存在しますが、その中でも私たちのミスの要因となる代表的なものが2つあります。それが、「ノルアドレナリン」と、「セロトニン」です。「うつ病」という病気を脳科学的に説明すると、ノルアドレナリンとセロトニンが低下し、それが、簡単に元に戻らなくなってしまった状態を指します。1つ目のノルアドレナリンは、外的なストレスに対する防御反応として分泌される脳内物質で、私たちの注意力や集中力と深く関わります。人が危機やピンチに陥ったときに分泌されて、注意力・集中力を高めて脳を一気に活性化し、思考のパフォーマンス、判断力などを高めてくれる、救世主のような脳内物質です。ただし、恐怖や不安の状態が長期的に続くと、毎日のようにノルアドレナリンが分泌され、結果として枯渇してしまいます。それが、うつ病の状態です。2つ目のセロトニンは、私たちの精神面に大きな影響を与え、心身の安定や心の安らぎなどにも関与する脳内物質です。他の脳内物質や、人体の覚醒のリズムなどといったものをコントロールする、調整役としての役割を果たしています。セロトニンが低下すると、精神が不安定となり、イライラします。怒りっぽくなり、キレやすくなります。不安が強まり、常に悪い考えが浮かぶようになります。そして、物事に対する意欲がなくなります。それは、注意力・集中力の低下とも関係していきます。「健康」な人が、ある日、突然「うつ病」になることはありません。正常よりも、ノルアドレナリンやセロトニンが低下した状態、「脳疲労」の状態を経由し、それが一定期間続くと、脳内物質が枯渇して「うつ病」を発症するのです。ミス多発は脳の「黄信号」私自身、これまで精神科医として、数多くのうつ病患者さんと接してきましたが、その経験からわかったことがあります。それは、うつ病の患者さんは、ほぼ例外なく、その初期段階において「ミスが多くなる」ということです。「カバンを電車の棚に忘れる」「約束していたアポを忘れてすっぽかしてしまう」「絶対に出さなければいけない書類を期日までに提出し忘れる」「書類の小さな間違いが増える」「上司から言われた話を覚えていない」といったかたちで現れます。「脳疲労」と「うつ病の初期」において、ノルアドレナリンとセロトニンが低下するため、注意力・集中力の低下は、必ず起こる症状と言えます。しかしそもそも、ノルアドレナリンとセロトニンが低下すると、なぜミスが起きるのでしょう。私の個人的な見解ですが、これは「警告症状」だと思うのです。たとえば、感染症にかかったとき、発熱して体全体がだるくなり、普通に活動することができなくなります。会社を休んで、家で寝ているしかない。そうすると、体力と免疫力が上がり、体内の免疫系も活性化して、細菌やウイルスを駆逐してくれるわけです。もし、感染症になっても、発熱も起きないし、体もまったく元気だとしたらどうなるでしょう。普段通りに活動しますから、体は余計に疲れて、免疫機能は低下します。そうすると、体内の免疫系が細菌やウイルスと戦うことができずに、細菌ウイルスが血液中に入って全身にまわり、最悪の場合、臓器不全などが起こる敗血症になって死んでしまいます。感染症における発熱や倦怠感は、「体を休ませなさい!」「今の体には安静が必要ですよ!」ということを教えてくれる「警告症状」なのです。「脳疲労」や「うつ病」の初期における、「ミスが増える」というのも、「脳が疲れていますよ!」「脳が正常な判断や情報処理ができなくなっていますよ!」と教えてくれています。「このまま放置すると、ひどいことになりますよ」ということを、私たちに知らせる「警告症状」と考えられるのです。これは、信号で言えば「黄」信号です。健康は「青」、脳疲労は「黄」、うつ病は「赤」信号。いわば、このまま進むと「うつ病」という非常に危険なレッドゾーンに突入しますよ!という警告です。体はそれを私たちに教えるために「黄」信号として、「ミスが増える」というサインを出しているのです。「うつ病」の症状として「気分の落ち込み」「意欲の低下」「やる気が出ない」といったものがよく知られていますが、これらの症状が家族や職場の人に気付かれるような状態は、多くの場合「脳疲労」を通り越して、「うつ病」の状態に突入しています。ストレス過多な現代に生きる私たちは、「うつ病」まで行かないとしても、その一歩手前の「未病(病気未満の状態)」=「脳疲労」には、誰もが陥る可能性があります。そして、それを放置すると、最悪「うつ病」や、その他のメンタル疾患へと突入していくのです。そうした深刻な病的状態に陥る前に、自分の身を振り返ってみて、どのようなミスをどれくらいの頻度で起こしているかを自覚できれば、「自分の脳がどのよ

うな状態にあるのか」を確認することができます。健康なのか、疲れているのか?もしくは、脳のパフォーマンスが高い状態なのか、低い状態なのか?つまり、ミスの有無は、病気に対する警告症状(黄信号)であり、脳のコンディションを知るための、鋭敏なバロメーターと言えるのです。病気以前の「脳疲労」の段階で、「自分の脳は疲れている」と自覚し、ミスをしない、ハイパフォーマンスな脳を作る習慣を実践すれば、どのような人でも、「健康」な脳、さらには、それより上の段階である、気分がはつらつとして意欲もみなぎった、「絶好調」の脳に作り替えることができるのです。

「未病」だからこそ対策ができる患者さんの中によく、怖い表情で「何カ月も通院しているのに、全然、病気が治りません!」と詰め寄ってくる方がいらっしゃいます。「病気が治らないのは、医者のせいだ!」と言わんばかりです。しかし、「病気が治りにくい」のは医者のせいではありません。治りにくいのが病気の特徴であり、定義と言ってもいいでしょう。健康とは言えない、身体機能の異常な状態が固定して簡単に治らなくなる状態が病気です。一晩寝て治るようなものは、病気ではないのです。「いや、風邪は一晩寝れば治るじゃないか」という反論もあるでしょうが、風邪は「感染症」であって、「感染病」ではありません。「症」というのは、「状態」ということ。感染症は「感染した状態」、脱水症は「脱水の状態」であり、厳密には「病気」ではないのです。つまり、「●●症」と違って、「病気とは治りにくい」ものなのです。でもあなたは思っているはずです。「早く病気を治したい!」と。無理です。治りにくいのが病気なのですから。しかし、1つだけいい方法があります。あなたの「具合の悪さ」「調子の悪さ」「気分の悪さ」「痛み」などを、きわめて短期間で、後遺症もなく完全に治す、魔法のような治療法。それは、「未病のうちに治す」ということです。こちらでご紹介した、「健康の4区分」の図5を思い出してください。「未病」と「病気」の状態は、隣り合わせの状態。非常に近接した状態に見えます。しかし、実はそうではありません。その境目には、大きな溝があります。「行きはよいよい、帰りは怖い」という言葉がありますが、「未病」→「病気」は簡単に進行していきますが、「病気」→「未病」、「病気」→「健康」に戻ることはそう簡単ではないのです。専門用語で言うと、「未病」は可逆的ですが、「病気」は不可逆的です。未病の状態であれば、休養や生活習慣の改善だけで「健康」に戻ることができます。しかし、いったん、「病気」の状態まで行ってしまうと、病院へ行って、薬物治療や外科的治療を受けないと、そう簡単には治りません。たとえば、毎日膨大なトレーニングをしているアスリートに、「疲労骨折」が起きることがあります。これは、トレーニングのしすぎにより、タンパク質が減少しカルシウムが流出→骨密度が低下→その結果骨がもろくなり、折れやすくなった状態です。そんな「骨疲労」の状態のままで、さらに激しい運動を続けると、ある日ポッキリ骨が折れてしまいます。現在、「骨疲労」(未病)の状態であれば、運動量を減らしたり、カルシウム、タンパク質、マグネシウムなどを食事の改善で摂取したりすることよって、短期間で「健康」へと回復することができます。しかし、一度、「骨折」(病気)してしまうと、どうでしょう?骨が元通りにくっつくまでに何カ月もかかります。うつ病もまったく同じです。「脳疲労」の状態であれば、たった1週間の休養でもかなりの回復が期待されます。しかし、いったん「うつ病」が発病すると、元の状態に戻るのに最低でも3カ月。下手すると、半年、1年もかかってしまうのです。これが、「未病」と「病気」の間に存在する深い溝です。一度「病気」まで行くと、簡単に健康には戻れない。ですから、「未病」から「病気」への進行は、絶対に阻止しなくてはいけないのです。そのために大切なのは、「自己洞察力」を高めて、「警告症状」に気付くこと。「ミスが多い」ということに敏感になり、それに対する処置、対策を講じることが重要です。うつ病は「心の風邪」と言われますが、このたとえ、私は大嫌いです。うつ病は2、3日寝ていて治るものではありません。うつ病は「心の骨折」というべきでしょう。いったん、発病すると、治すのに最低でも3カ月はかかります。もし、「心の風邪」ならば、それは「脳疲労」の状態です。「脳疲労」の状態であれば、睡眠をしっかりとって、2、3日休むだけでもかなりの回復が期待できます。結論を言えば、いったん、病気になってしまうとなかなか治りません。だから「未病」のうちに発見して、素早く治しましょう。そうすれば、「病気」になんてかからずに済みます。そのために必要なのは、「自己洞察力」を高めて、自分のコンディションを正確に把握し、不調や異常をいち早く察知することです。その方法については「PART3思考」で詳しくお伝えします。年をとると忘れっぽくなる理由最近、「ど忘れ」や「人の名前が出てこない」回数が、昔と比べて明らかに増えている、という人はいませんか。こうした状態になると「認知症になったのでは?」と心配する人もいますが、まったく心配はありません。ワーキングメモリのピークは、20~30歳。つまり、30代後半になると、「人の名前が出てこない」などの「ど忘れ」が誰でも増えてくるのです。あるいは、年をとると長時間の集中力の維持が難しくなります。若い頃と比べて、体力も衰えますが、集中力を維持する力も衰えるので、結果として年をとるとミスを起こしやすくなるのです。

あるいは、認知症になると、「鍋を焦がす」とか「冷蔵庫にある商品を二重に買ってしまう」といった決定的なミスを引き起こします。脳の老化は、重大なミスの原因となるのです。若々しい脳を維持する秘訣「脳の老化は防げない」ほとんどの人が、そう思っているかもしれません。「生涯を通じて脳細胞は減り続ける」「毎日、10万個の脳細胞が減り続けて、脳細胞が増えることはない」という話を聞いたことがある人も多いでしょう。しかし、20年前はまことしやかに語られていたこの説も、現在では間違いであることがわかっています。脳細胞は1日10万個も死なない。さらに、「脳細胞は増殖しない」と言われていましたが、海馬の顆粒細胞は増殖することが発見されたのです。さらにMRIによる画像診断の技術進歩により、「脳の容積が増える」という現象も容易に観察できるようになったのです。脳の機能は、年齢とともに衰えていきます。しかしそれは、「脳を使わない人の場合」です。脳をあまり使わないと、脳の働きはどんどん低下し、記憶力は衰えていきます。あるいは脳細胞もどんどん死んで、脳が小さく縮んでいきます。このことを「廃用性萎縮」と言います。高齢者の脳をMRIという断層写真で見ると、萎縮していることが多いですし、実際に萎縮の程度を定量化すると、加齢とともに脳は、毎年約1%ずつ萎縮していくといいます。しかし、年をとっても脳を使い続けている人は、ほとんど萎縮が見られません。脳を使わない人は、脳がどんどん老化していきます。しかし、脳を使い続ける人は、いつまでも若々しい脳を維持することができるのです。大学生と70代の高齢者に単語リストを記憶してもらうテストを行い、比較した研究があります。すると、80%の高齢者は大学生よりも記憶力で負けましたが、20%の高齢者は大学生とほぼ同程度の単語リストを思い出すことができました。このように、老化による記憶力の低下には個人差があり、高齢者の中に記憶力がほとんど低下しない人がいることは事実なのです。何歳でも脳は成長し続ける「成人以降は、脳は成長しない。老化によって機能が失われていくだけ」という考え方は、現在の脳科学では完全に否定されています。脳の機能は、神経細胞の数と比例するわけではありません。そうではなく、神経同士のシナプス結合の数と比例するのです。神経は、神経同士でネットワークを構成していますが、その接合部を「シナプス」と言います。1つの神経細胞は、約2000ものシナプス結合によって、他の神経細胞と結合しています。ものすごく緻密なネットワークです。このシナプス結合の数は、脳を鍛え続けることによって、40代でも、50代でも増やすことができます。中年になっても、シナプス結合の数を増やすことによって、「記憶力」を高めることも可能なのです。一方で、何もしないと、どんどん減っていきます。何もしないと、加齢とともに脳細胞は失われ、脳は老化し、記憶力の減退が進みます。しかし、脳を上手に使うことによって、シナプス結合の数を増やすことで、脳の老化を阻止し、記憶力を高め、いつまでも脳をイキイキとした状態で活動させることができます。脳が活性化すれば、「もの忘れ」「ど忘れ」をしにくくなり、その結果として、バリバリ仕事をし続けることができるのです。脳の老化を防ぎ、いつまでも若い状態で維持するための脳のトレーニング方法についても、本書では詳しく解説していきます。ミスが多発する4つのシチュエーションミスは脳の「インプット」と「アウトプット」障害ここまでのところで、ミスの4つの原因を明らかにしましたが、実際にミスが起きるのは、脳への情報の入力=「インプット」か、脳から外界への情報の出力=「アウトプット」の過程です。「インプット」とは「聞く」「読む」などの脳への情報入力。アウトプットとは「話す」「書く」などの脳からの情報出力です。たとえば、課長と廊下ですれ違ったとき、「そういえば、次回のプロジェクト会議は、6月15日、14時からに決まったのでよろしく」と言われたとします。あなたは、「重要な会議なので、忘れないうちにメモしよう」と思い、その場でスケジュール帳を出して書きとめました。「6月15日、4時からプロジェクト会議」廊下が騒がしいせいで、「14時」の10の桁を聞き逃していたのです。あなたは、会議を飛ばしてしまい、課長からこっぴどく叱られるハメになります。これは、「聞き間違い」。つまり、入力のミス、インプット・ミスといえます。別のパターンもあります。あなたは、6月15日の朝、その日の予定を確認します。「えーっと、4時から『プロジェクト会議』か……」。あなたはあわてて手帳にメモしたため、文字が乱雑になってしまい「14時」の「1」の部分が読めなくなっていたのです。きちんと丁寧にメモを書いていれば防げたミスです。これは、「書く」という出力のミス。つまり、アウトプット・ミスと言えます。「思考」と「整理」のミスの怖ささて、廊下が騒がしかったのは仕方ありませんが、そのとき、あなたは課長に「6月15日、4時ですね。承りました」と復唱して確認すればよかったのです。課長は、「4時じゃなくて、14時だから」とすぐに情報を正しく修正してくれたはず。あるいは、自分の机に戻ったときに、課長に「6月15日、4時からのプロジェクト会議、承りました」と確認メールを送っておけばよかったのです。そこでも、誤りが修正されたでしょう。つまり、「確認を怠った」ことが、ミスを引き起こしているのです。これは、「思考」のミスと言えます。普段から重要事項を確認することを習慣にしていればインプットのミスが起きても、それを修正することができます。こうすれば、ミスは未然に防止できます。だからこそ、ミスをしない「思考術」を習慣化することが大切なのです。

別の例を見てみましょう。これから営業に出かけようというときに、課長が来て言いました。「チラシの見本ができたので、誤字脱字がないかチェックしてくれ。もし誤字脱字がある場合は、5時までなら修正できるから」。あなたは、営業のアポの時間が迫っていたので、「営業から戻ってきてチェックすればいいや」と、見本を机の上に置いたまま、出かけました。翌朝、あなたはいきなり課長から呼び出しされます。「チラシのチェックはしたのか?クライアントの社名が間違っているぞ!1万枚の印刷代がパーになったじゃないか!」あなたは、自分の机の書類の山の上に「チラシの見本」を置いたまま出かけましたが、他の人が別の書類を机の上に置いたため、チラシが書類の山に埋もれてしまいました。営業先でのトラブルに気をとられて、チラシのチェックを忘れていたのです。机の上がきれいに整理されていれば、このトラブルは防げていたかもしれません。あるいは、営業先でのトラブルで気分がむしゃくしゃしていたことで、ミスが起きたのかもしれません。感情の整理ができていれば、このミスは防げていたかもしれません。ミスを起こさないためには、普段からの「整理」の習慣が大切です。物品の整理、机周りの整理などものの整理に限らず、ストレスや感情の整理をしておくことも、あなたの質の高いコンディションを維持するためには不可欠なのです。「入力」「出力」「思考」「整理」。ミスが起きやすい4つのシチュエーションごとに、普段からしっかりと対策を立てておく。ミスが起きにくい流れを習慣にしておくことで、ミスを限りなくゼロに近づけることは可能です。

 

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