1マニュアルは、リターンの良い投資 1 マニュアルに対する先入観を払しょくする この本を手にとった方なら、いわゆるネガティブな「マニュアルに対する先入観」をお持ちではないと思いますが、一応おさらいしておきましょう。
マニュアル人間(マニュアル依存症候群)画一的なサービスや対応(創意工夫がない) という言葉に代表される「マニュアル」についてのネガティブな捉え方。
そして、そこから、マニュアルは、考える力を奪う人間性をダメにする といった極論? を展開する。
「マニュアル」を生業にしている筆者にとっては、由々しきことです。
「ホントにそうなんですか?」と思わず問い詰めたくなります。
逆に、「マニュアル」がないことによる弊害を挙げてみますと、「習うより、慣れよ!」では、育てる(学ぶ)のに時間がかかる勝手にやられては、問題が起こる間違ったやり方を身につけたら、あとで困る ことになってしまいます。
本来、社員全員には「決められたことを決められた通りにできる」ことが求められます。
仕事をするうえでの決まりごとや仕事のルールといったものを、はじめにしっかり把握してもらうことが大切になります。
勝手に仕事を進められては、本当に困ります。
この「決められたこと」が、マニュアルです。
ですから、マニュアルは「知らないことを教える」「できない人をできるようにする」ための便利なツール、という認識をまず持つことが重要です。
よくいわれる「創意工夫」や「もっと考えて仕事をしてほしい」といった期待や要求は、基本的な仕事を覚えてからの話になります。
最初から期待するのは、あまりにも高いハードルです。
「ろくに教えてもくれないのに、要求だけは多い!」 などと言われないためにも、まずは基本的なことをしっかり身につけてもらわなければなりません。
その「成長過程の第一歩」に、マニュアルは力を発揮します。
2 「ない・ない現実」の見方を変える 「マニュアル」は良いものだ・必要だとは思っている……という方も抱きがちな、次のような「誤解」についても見ていきましょう。
お金がない作る人がいない作る時間がない作り方が分からない といったことが代表的な声として挙げられます。
4つ目の「作り方が分からない」については、これからこの本で学んでいただきたいと思いますが、残りの3つは小さな会社にとっては、本当に大きな問題です。
しかし、「ない」は、ないなりにいろいろ工夫する手立てはあると思います。
たとえば、「マニュアル」に関するセミナーは、いろいろなところで開催され
ています。
また、マニュアルに関する書籍もたくさん出ています。
「時間がない、人がいない」と嘆く前に、やること・できることはたくさんあるのではないでしょうか。
もう1つは、外部のマニュアル作成の専門会社を活用することです。
「お金がかかるだろう」と言われそうですが、これも考え方次第です。
外部のこうした会社を活用すると、数百万円の費用がかかります。
もちろん、作成するマニュアルの種類・量によって費用は変わりますが、問題はこの金額をどう捉えるか、ということです。
たとえば、年収 300万円の社員を 1年間雇用する、と考えてみる。
一時的には費用が発生しますが、社会保険や福利厚生の心配はありません。
また、さまざまな補助金を活用することもできます。
それによって、第 1章の「マニュアルで得られる5つの成果」が得られるなら、これは非常にリターンの良い投資になります。
目の前のさまざまな問題に翻弄されて対処療法を繰り返すのか。
言葉を換えれば、モグラたたきを執拗に繰り返すのか、予防方法に切り替えるのか。
ここは大きな分岐点になります。
このように、「ない・ないという現実」を踏まえながらも、できることはあるはずです。
現に、毎月一回、 1日 2時間をマニュアルづくりに充てている会社もあります。
時間は確かにかかりますが、マニュアルづくりは「モノ」としてのマニュアル以外に、さまざまなメリットをもたらします。
これについては、後述します。
要は、トップが会社の現状と将来を考えて、どのような決断をするのかという問題になります。
言うまでもなく「マニュアル」は万能ではありませんし、成果を上げるまでには多くの時間と徹底した取り組みが必要です。
しかし、会社の土台づくりにおいて、大きな力を発揮することは確実です。
会社経営においては、さまざまな投資が必要です。
機械設備に投資する、人に投資する。
そして、設備と人を活かすためにマニュアルに投資する。
投資先として、マニュアルは非常にコストパフォーマンスが高いといえます。
「モグラたたき」状態に陥らないように、早めに手を打つことが必要です。
3 投資効果を高める──社員の抵抗感を減らす 「マニュアル」の導入(投資)を考えたとしても、現実にはすんなりとは進みません。
なぜなら、マニュアルの導入に抵抗感を持つ社員が少なからずいるからです。
このくそ忙しいときに、仕事が増える新しいことをさせられるのは、勘弁してほしい今のままで別に困っていないとてもじゃないが、マニュアルを作る時間がないただでさえ人がいなくて困っているのに、この上…… などなど、せっかくトップがマニュアルの導入を決断しても、社員の抵抗で頓挫することもしばしば。
実際、筆者のところにトップがマニュアル導入の相談に見えた会社の中でも、反発する社員の説得に失敗して断念するケースが目立ちます。
小さな会社では、社員の意見は大きな会社の何十倍もの力を持っています。
いくら社長でも社員の声を無視することはできません。
また、「マニュアル」に対するネガティブな考え方を持っている人も多くいるはずです。
さらに、マニュアル導入に理解を示しながらも、 「もう少し落ち着いてから……」 「人を採用してから……」 「業績が上がってから……」 といった、もっともらしい意見を述べる人がいますが、これは要注意です。
逃げの口実であり、先延ばしの方便とでもいえるものです。
これを採用していたら、いつになっても導入されることはないでしょう。
社員の説得は、導入を決断するのと同じように頭を悩ます大きな問題と言えます。
しかし、マニュアルの導入に反対する社員を説得しておかないと、作成はもちろん、その後の活用や改訂でも大きな影響が出てきます。
では、どうするか。
これを機会に、現状の問題や将来の課題について率直に話し合うことが大切です。
人によって、仕事のやり方がバラバラだ同じミスやクレームなどが繰り返されているもっと効率的なやり方があるのではないか引き継ぎに時間がかかっている会社としてのノウハウが蓄積できていない つまり、「このままで良いのか!」という危機感と問題意識を共有することが大切です。
そして、第 1章で得られる「マニュアルの成果」について、社員の視点で説明し、 「このままだと、何も変わらない。
何かしなければ……」 「これまでの仕事を見直すことが必要だ」 「マニュアルによって、仕事が楽に効率的になるかもしれない」 「マニュアルがなければ、これまでの繰り返しになる」 と思ってもらうことが大事になります。
平たく言えば、「当事者意識を持ってもらう」ということですね。
こうした共通の認識のもとで取り組みが始まると、大きな成果が期待できます。
ただし、説得に時間をかけすぎるのも問題です。
会社のことを一番真剣に考えているのは、言うまでもなくトップ自身ですので、ある程度話し合ったら、実施へと舵を切ることをお薦めします。
繰り返しますが、マニュアルはリターンの良い投資である──この認識が非常に重要です。

2マニュアルは、現場の知恵を会社の財産にする 1 埋もれている会社の貴重なノウハウ どんな会社にも、その会社にしかない「ノウハウ」があります。
それは長年培ってきた本当に貴重なものです。
言葉を換えれば、その会社の DNAとも言えるものです。
問題は、それがどのように継承されているか、そして、共有化されているかということです。
“人から人へ”がよくある形としても、それをもっと効率的で効果的な方法でできないかと考えることは至極当然です。
“人”に頼ることは、ある意味で非常にリスクが高くなるからです。
そのためにも、会社には、貴重なノウハウが眠っている(埋もれている)という認識・自覚が、まず必要です。
また、現場は日々さまざまな問題と真正面からぶつかっています。
これを一人ひとりの工夫や知恵を発揮して、何とか乗り切っています。
現場は、問題解決の主戦場です。
この解決する力、これが現場力です。
そして、現場力が業績を左右するともいわれています。
ノウハウや知恵は、苦しいとき、必死になったときに生まれるものです。
しかし、それはほとんどの場合、個人に蓄積されます。
「私はいっぱい知恵を出して、問題を解決しました」 などと PRする人はほとんどいないでしょう。
ですから、そうした貴重なノウハウを吸い上げる“機会”や“仕組み”が非常に重要になります。
現場では日々新しいノウハウや知恵がフツフツと生み出されています。
現場は、ノウハウの生産工場です。
現場における創意工夫は、新商品の開発につながるものから、トイレの清掃方法の改良といった日常雑多なものまで、多岐にわたっています。
それはどれをとっても貴重なものであり、確実に何かを良くするものです。
一人ひとりの知恵を、現場の知恵にする。
現場の知恵を、会社の知恵(財産)にする この“仕組み”が、「マニュアルづくり」です。
会社がこれまでに蓄積したノウハウ、これから作り出していくノウハウを、もっと有効に活かしていかなければ、宝の持ち腐れ、非常にもったいないということになります。
逆に、何も手を打たなければ、安きに流れるではありませんが、旧態依然の方法を漫然と繰り返すだけです。
誰しも、新しいやり方を苦労して学ぶよりも、これまでのやり方をそのまましていたほうが楽です。
かくして、愚痴や不満だけは増大し蓄積されるという“不の循環”が続いていくということになります。
日々刻々と変化する現場、生み出される貴重な知恵の数々。
それをすくい上げ、会社の施策に反映する。
仕組みが整備されているかどうかで、会社の成否を左右します。
マニュアルは、現場の知恵を誰でもできるカタチに標準化して、会社の財産にしていく、最強のツールといえるでしょう。
2 仕事の基準が、ムダ・ムラ・ムリをなくす(成果を上げる) 日常的に進めている仕事の中で「決められたこと」、つまり、会社(職場)で統一した「仕事の基準」が明確になっている仕事はどれくらいあるでしょうか。
第 1章で説明した、会社(職場)が抱える課題の解決策は、バラバラなノウハウを一本化する属人化したノウハウを見える化する ということです。
この取り組みを通して、「最も良い仕事のやり方」を見極め、そのやり方を「仕事の基準」として統一する。
前述したように、最も良い仕事のやり方に統一することを、「標準化」と言います。
これによって、その仕事のレベルを「最も良いレベル」に設定することができます。
社員全員が最も良い仕事のやり方 =「仕事の基準」で仕事を覚え、身につけることで、より高いレベルの成果が会社(職場)全体として得られるようになります。
また、ベテラン社員も自分の仕事の振り返りができます。
「なるほど、こんな方法があったのか」 「確かに、この方法だとうまくいく」 新人からベテランまで全員が習得する、つまり、共有化することで、仕事のムダ・ムラ・ムリが確実に減少します。
明確にするためには、現状の仕事のやり方をまず把握しなければなりません。
その手順を整理してみます。
① 現状の仕事のやり方を洗い出す(見える化)
「今、どんなやり方で仕事をしているのか」「みんなのやり方が違うね」「無駄なやり方も多いね」 ② それぞれのやり方を検討する「どのやり方が、一番効率的だろう」「どのやり方が、一番成果につながるだろう」「誰でもできるやり方はどれだろう」 ③ 最も良いやり方に統一する(標準化) 「Aさんと Bさんのやり方を統一しよう」「誰でも同じようにできるか」「これは効率的で成果が上がるやり方だ」 これを会社の仕事のルール(決まりごと)として統一するわけです。
このプロセスを通して、仕事のムダ・ムラ・ムリが洗い出され、検証されることになります。
たとえば、2つのやり方を1つにする、3つの工程を2つにする。
1時間かけていた仕事を 30分でできるようにする、などなど。
言い換えれば、無駄なぜい肉を切り取ってスッキリさせるということでしょうか。
そして、ここで重要なことは、その最も良いやり方は誰が見ても、分かる誰がやっても、同じようにできる ものでなければなりません。
そうしなければ、会社の仕事のルール(決まりごと)にはならないからです。
そして、次にすることは、 ④ そのやり方を会社全体に徹底する(共有化)「全員がこのやり方を習得しよう」「全員がこのやり方で仕事をしよう」 ⑤ さらに改良・改善して、引き継いでいく(継承化)「もっと良いやり方を見つけたよ」「こっちのほうが、簡単にできるよ」 という、共有化と継承化です。
このステップを踏むことで、仕事のムダ・ムラ・ムリがなくなり、より成果が上がる仕事のやり方が会社全体に普及・徹底されていくことになります。

3 マニュアルと業務改善は、コインの裏表 「業務改善」は、多くの会社にとって重要な課題の1つです。
これだけ環境や技術、お客様の変化が激しい現代において、その変化に対応できなければ生き残ることはできません。
ですから、これは会社にとって、社員にとって、まさに、最優先で取り組むべきものです。
ところが、現実にはあまりうまく取り組まれておりません。
自分のこれまでのやり方を変えたくないちょっと問題はあるけど、何とかこれまでやってきたただでさえ忙しいのに、そんな活動に時間をとられたくない私たちより、まずトップ(上司)が変わってくれたら、解決することばかりこれ以上、コストダウンはできない(業務改善 =コストダウン?) このように、あまり歓迎されることはないのが現実です。
業務改善(活動) =成果を上げるために、最も良い(効率的・効果的)方法を作り出す(活動)こと つまり、仕事の不便や不都合などを解決することが目的です。
ですから、本来なら全員が積極的に取り組んで当然ともいえる活動なのに、現実にはそうなっていない。
ここではっきりさせておかなければならないことは、業務改善とは、通常業務にプラス αされた別物、余計なものではなく、業務改善 =通常業務 という捉え方をするということです。
業務改善で成果を上げるためには、次の4つを理解して取り組むことが、必要です。
① 目標・ゴールを明確にする 何を・どこまでやるのか、ゴールや成果のイメージを共有する ② アウトプットを明確にする 改善の“形”を具体的に提示する ③ 現場の知恵を集める仕組みを作る より多くの現場の創意工夫を収集・反映させる ④ 改善を「継続する活動」として捉える 一過性のものではなく、日常的な業務の一環として位置づける 業務改善は、現状の問題・課題を把握し、その解決のために業務の見直しをすることから始まります。
業務の見直しを効率的に進めるためには、タタキ台があれば便利です。
「今、どんなやり方でやっているのか」 「なるほど、今はこんなやり方でやっているのか」 「時間を短縮するためには、どこをどのように変えたら良いだろう?」 「目に見える、手に取れる」形のタタキ台があれば、業務改善の検討時間は短時間で密度の濃いものになります。
そして、このタタキ台が、その時点での最も良い仕事のやり方に標準化したものであれば、なおさら良いでしょう。
この業務改善に最適なツールが、マニュアルなのです。
「業務改善」と「マニュアル」の共通点は、どちらも最も良い仕事のやり方を作り出し、そのやり方に統一することが目的という点、そしてどちらも現状把握「仕事の見える化」から始める点で共通しています。
そして、どちらもアウトプット(成果)を求められます。
違いは、マニュアルという形(もの)になっているかいないかだけです。
つまり、業務改善とマニュアルは、コインの裏表のような関係であり、 マニュアルなくして、業務改善なし 業務改善なくして、マニュアルの進化なし ということができます。
業務改善とマニュアルは、表裏一体業務改善 =マニュアル こうした捉え方が、現場の知恵を会社の財産にする、最も効率的な取り組みにつながるのです。

3マニュアルは、会社(経営)の武器になる 1 マニュアル化は、働き方改革のはじめの一歩 ここ数年、「働き方改革」が声高に叫ばれています。
時差 Biz(朝方勤務)、プレミアムフライデー、副業解禁などといった多様な働き方を可能にしようとする取り組みです。
トヨタや花王等、大企業の取り組みが話題になっていますが、多くの中小企業ではどのように取り組んだらよいのか分からないのが現実ではないでしょうか。
「働き方改革」の3つの課題とは、 ①長時間労働の改善(残業時間の上限規制) ②同一労働同一賃金(非正規・正社員の格差解消) ③高齢者の就労促進(労働力人口の不足) が挙げられています。
これらに取り組むうえでも、小さな会社は、「業務の標準化・マニュアル化」から始めるべきです。
足元、土台をしっかり見直す、土台づくりこそが「働き方改革」のはじめの一歩になります。
そうしなければ、たとえば、「長時間労働の改善」1つをとっても
夜 8時になると、 PCの電源を切られる残業はするな。
早く帰れと上司に言われる(上司の責任になる)部下が早く帰る分、上司・管理職にしわ寄せがくる(ジタハラ──時短ハラスメント)「早く帰れ。
でも仕事はしろ!」(会社近くのカフェや自宅で仕事) という状況になる。
つまり、「早く帰れ、帰れ!」では、なんの「改善」にもならないわけです。
「働き方改革」自体は、非常に重要なことです。
ただ、この「働き方」を「仕事のやり方」を改革する、と捉えることが一番現実的な改善につながります。
では、どのようにしたら、「仕事のやり方改革」になるのでしょうか。
それはこれまで述べてきたように、 ① これまでの仕事を見直し、仕事のムダ・ムラ・ムリがないかを検証する ② それを踏まえて、最も良いやり方に仕事を統一する(標準化) ③ それを会社の「仕事の基準」としてルール化する という「マニュアル化」の取り組みが、大きな仕事の改革につながります。
仕事を洗い出し検討する中で、これまで二人でやっていた仕事が一人でできるようになる。
最も効率的で成果が上がるやり方を身につけることができる。
その結果、残業しなければできなかった仕事が定時に帰れるようになる。
つまり、仕事のやり方が変わることで、「働き方」は大きく変わります。
仕事のやり方を変える = 働き方が変わるマニュアル化の取り組み = 働き方改革の取り組み このように捉えることが重要です。
小さな会社にとって、こうしたマニュアル化の取り組みこそが、「働き方改革」のはじめの一歩になるのです。
2 マニュアル化は、マルチジョブ(多能工化)を可能にする 「業務の標準化・マニュアル化」は、多能工化・兼任化の取り組みを進めるうえで有効な対策として認知されています。
従業員にさまざまな仕事をしてもらう、言い換えれば、新しい役割や担当を持ってもらうためには、それなりの学習環境の整備が必要です。
平たく言えば、スーパーなどで一人の従業員が肉の調理だけでなく、魚も野菜も調理できるようになれば、繁忙期などで人員の調整がつき、業務量の平準化や
効率化につながります。
一部の部署や特定の従業員に偏っていた業務をほかの従業員にも担当させることができます。
これによって、人も組織も「総合力」を持つことになります。
「人手不足」で悩んでいる小さな会社にとって、現在の労働力を十二分に活用することができるようになります。
これを可能にするためには、学習環境の整備、つまり、業務のマニュアル化が必須となります。
従来の「見て覚えろ」式の育て方やいろんな仕事を経験させて……では時間がかかりすぎます。
効率的に新しい仕事を覚えてもらうためには、業務の棚卸しや各従業員が保有している能力の確認や今後習得させるべき能力を明確にすることも必要になります。
また、前述したように、社内のバラバラなノウハウの一本化や属人化したノウハウの見える化は、必須の取り組みになります。
そして、必要なすべての業務の「仕事の基準」を、作らなければなりません。
その「基準」に沿って、新しい仕事を覚えていくのです。
業務マニュアルの作成・整備による従業員のマルチジョブ化は、さまざまなノウハウを持った人材の育成効率的な人材育成の仕組みづくり効率的な配置転換・異動人件費のコストダウン など、経営にとっての人材戦略・活用の新しい選択肢を持つことになります。
何よりも、「会社の総合力の向上」に大きな貢献をもたらします。
これは非常に大きな力です。
そして、学習環境の整備、人材育成の環境づくりなどは、これも「働き方改革」のはじめの一歩につながるものです。
「これしかできない、では困る」 「うちの会社は、みんなが何でもできるように育てる」 「うちの全商品をみんなが説明できなければダメだ」 これらは、ある小さな会社の社長が語った言葉です。
これの意味するところはスペシャリストからジェネラリストづくりへということです。
マニュアルを整備することによって、進化した組織づくりも可能になるのです。
3 マニュアル化は、最大のイノベーション 小さな会社にとって、一冊の業務マニュアルを持つことは、その後のさまざまな展開を可能にします。
一冊のマニュアルが、仕事(やり方)を変え、職場(組織)を変え、会社を変える 大げさではなく、マニュアルはそうした“力”を持っています。
一例として、マニュアル導入の先進的な企業である良品計画は、すべての業務をマニュアル化しています。
赤字だった無印良品が V字回復できたのは、「マニュアル」を整備し、徹底的に見える化を図ったおかげであると述べています(『無印良品は、仕組みが 9割』松井忠三著、角川書店)。
赤字の会社を V字回復させる、その原動力になった「マニュアル」。
では、マニュアルの「力」とはいったい何でしょうか。
最も良い仕事のやり方を、標準化できる(仕事のムダ・ムラ・ムリをなくす)最も良い仕事のやり方を、会社の仕事のルール(決まりごと)にできる現場の知恵や経験を、会社全体に反映・共有化できる作成・活用・改訂のサイクルを回すことで、常に最新のノウハウが徹底できる業務改善活動の仕組みができる問題意識・改善意識の醸成ができる(現場力を鍛える) つまり、マニュアルは、「人と組織を鍛える」ことができるのです。
さらに言えば、マニュアルによって理念・価値観・ベクトルを共有することは、新しい「文化」を創ることにもつながります。
筆者は、「マニュアルづくり」は「文化づくり」だと、かねてより主張してきました。
また、先に述べた良品計画や「働き方改革」、そして、中小企業白書も、最終的には新しい「文化」を作ることが必要だと提案しています。
つまり、「文化」を作ることが、さまざまな問題の最終的な解決につながる、ということです。
この「文化を創る」方法の1つに、「マニュアルづくり」がある。
これは、とてつもなく大きな「マニュアルの力」です。
つまり、
マニュアル化は、会社にとって「最大のイノベーション」 にほかなりません。
この「マニュアルの力」を最大に発揮させるためには、標準化、共有化の各プロセス・ステップを徹底的に実行することが必要になります。
中途半端な取り組みでは、疲労感だけが残ります。
マニュアル化 = 「徹底力」が成果を左右する のです。
これが、まさに「会社を変革する」原動力になります。
先述した良品計画がそうであるように、マニュアルは会社(経営)の大きな武器になります。
これは、小さな会社にとっても同じ、いやそれ以上の「力」を発揮することになります。
マニュアルは、会社(経営)の武器になる という捉え方のもと、 マニュアルを、会社(経営)の大きな武器にする! というトップの強い意志が何よりも重要です。
それこそが、イノベーションを最大に展開する秘訣ではないでしょうか。

4マニュアルの捉え方で、成果が左右する 1 マニュアルを、積極的に定義する 「マニュアル」と聞けば、手順書・手引書・取扱説明書などを思い浮かべる人も多いことでしょう。
仮に、マニュアル =手順書・手引書だとしたら、何らかの“方法”が書いてあるものは、百科事典のような厚さのモノからペラ 1枚のモノまで、皆マニュアルになってしまいます。
このことが結果として、マニュアルに対するさまざまな解釈やイメージを一人歩きさせることになっているのでしょう。
そこで、きちんとマニュアルを定義することが、マニュアルの役割や価値を明確にし、また、生み出される成果もそれによって大きく変わってくる、と言えます。
これまで述べてきた、「仕事の基準」づくりのプロセスを踏まえて、マニュアルを積極的に定義すると、次のようになります。
マニュアルの定義 ① 企業の理念(方針・姿勢)をもとに ② 目標・期待を明確にして ③ 考え方・判断・行動・評価の基準(根拠)となるもの 企業のさまざまな活動は、その企業が持つ「理念」の実現・達成のためにあります。
そのために、所属している人たちへの目標や期待を明確に記載することで、何のために・何を・どこまでやればよいのかを共有します。
また、企業が活動をする際に、どのように考え、判断し、行動すればよいのか。
その行動をどう評価すればよいのか。
その根拠を示すのが、マニュアルなのです。
企業における「マニュアル」とは、本来、経営者の熱い思いを出発点として、それを具現化したものです。
変化し続ける社会の中で、経営が求める「ありたい(あるべき)姿」を実現するために、期待する行動を「マニュアル」によって現場で徹底的に実践する。
「マニュアル」とその「行動」を通じて、経営者の熱い思いは組織の隅々まで行き渡り、経営と現場がひとつに結ばれ、一人ひとりの意識と行動が変わっていく。
それは、企業の DNAとともに、新しい文化を継承していくことにほかなりません。
「マニュアル」をこう捉えることが、会社における「マニュアル」の位置づけ、
位置づけ、果たすべき役割の重要性を明確にし、そして、さまざまな成果を上げる基になります。
マニュアルは、単なる“形式知”ではなく、また、「便利な道具(ツール)」として片づけるには、あまりにも大きな役割・価値を持っているのです。
この役割・価値について、もう少し説明します。
マニュアルは、最新・最高のノウハウを集大成したものであり、言葉を換えれば、その会社の知的財産になります。
ですから、そういうマニュアルを作らなければなりません。
また、最も良い仕事のやり方が分かるマニュアルは、目標・ゴールに到達する最も効率的・効果的な方法を具現化したものと言えます。
さらに、「企業の理念」を出発点にしていますので、会社の全員が厳守すべき仕事の基準として捉えることが重要です。
仕事の基準とは、品質の基準、サービスの基準、技術の基準などその会社のレベルを表す非常に重要なものです。
そのため、本来マニュアルは、社外秘として扱わなければいけないものです。
なぜ、このように積極的に定義をするのかといえば、それが成果を上げることになるからです。

近年さまざまな企業がマニュアルを経営の武器として再評価しているのは、マニュアルがそれだけ大きな成果を上げていることの証なのです。
2 マニュアルは、仕組みである マニュアルをより効果的に活かし成果を上げるためには、「作成 →活用 →改訂」というマニュアルの基本サイクルを回すことが必須条件になります。
マニュアルを作成し、そのマニュアルを活用して業務を習得する。
活用する中で気づいた追加すべきことや変更すべき項目を検討して、改訂版を出す。
この基本サイクルを回すことが、マニュアルの成果を上げるためには欠かせません。
「マニュアルを作ろう!」と考えたときには、このサイクルを回すことを前提として取り組むことが、非常に重要になります。

マニュアルの基本サイクル、言い換えれば、善循環の仕組みが機能することで、マニュアルの成果をより大きなものにしていくのです。
つまり、マニュアルの導入とは、「作成・活用・改訂」という仕組みを導入すること、にほかなりません。
マニュアル = 仕組み この仕組みを回し続けることが、成果を上げる必須条件なのです。

「マニュアルは、仕組みである」ということは、マニュアルの特性からも説明できます。
(1)マニュアルは、一人歩きをしない マニュアルを作っただけで、満足している人がいます。
マニュアルがあるという会社は多いですが、 「そのマニュアルは、使われていますか?」 と質問すると、残念ながらはっきりした答えが返ってこないのです。
マニュアルは、使わなければ成果は出ません。
マニュアルは、一人歩きをしないものだからです。
(2)マニュアルは、変化に対応しなければすぐ古くなる マニュアルには、賞味期限があります。
鮮度が命です。
私たちは、環境や技術の変化、お客様の変化など、“変化”の真っただ中にいます。
この変化に対応しなければ、すぐ古くなってしまうのです。
常に、最新の内容を取り入れて、“新鮮な”マニュアルにしておくことが何より重要です。
(3)マニュアルは、さまざまな「仕組み」を必要とする マニュアルは一人歩きをしないのですから、動かすためには電車で言えばレールのようなもの(仕組み)が必要です。
このレールを通す(仕組みを回す)ことで、ようやくマニュアルは成果に向けて走り出すことができます。
マニュアルに必要なレール(仕組み)とは、作成・活用・改訂の3つになります。
こうした捉え方を踏まえることが、マニュアルの導入を成功させることになります。
3 成果を上げる、6つの視点 これまで述べてきたことを整理し、さらに一歩踏み込んで、「マニュアルをどのように捉えることが、成果を上げ続けることになるのか」について考えてみます。
(1)マニュアルは、会社(仕事)の基準 ──会社の土台づくり── マニュアルは、会社の全員が厳守すべき仕事の基準です。
例外はありません。
初心者(新人など)もベテランも、その仕事に関わる人全員に等しく、マニュアルに沿った行動が厳しく求められます。
「仕事のルールを守る」「仕事の基準を守る」ということは、重要な決まりごとなのです。
そうでなければ、自己流がはびこってしまい、マニュアルづくり以前の状態に戻ってしまいます。
全員がマニュアルを厳守する、これができて初めてマニュアルを会社の武器にできるのです。
マニュアルを作成するときやマニュアルを使うときは、マニュアルという基準の重要性、それを厳守することの重要性をしっかりと認識しておかなければなりません。
(2)マニュアルは、最新・最高のノウハウの集大成(会社の知的財産) マニュアルとは、先人のノウハウ・コツ・秘訣が継承されたものです。
口頭であれメモ書きのようなものであれ、それらが自然に受け継がれて、今の仕事のやり方を作っています。
こうしたさまざまな先人の最も良いやり方を、時代に合わせて取り入れていくこと。
さらに、基本サイクルを回すことによって、良いものがより良くなって継承されていくことになります。
このように、最新・最高のノウハウを誰でもできるように標準化したものが、マニュアルなのです。
先人の知恵の固まり、会社の知的財産としてのマニュアルは、さらに進化を遂げて大きな成果を上げていくツールにすることができるでしょう。
(3)マニュアルは、タタキ台 マニュアルは、仕事を再現性の高い具体的な行動のレベルでまとめたものです。
マニュアルが果たす役割の中で最も重要なことは、このタタキ台としての機能です。
「タタキ台があるから、意見を言いやすい」 「タタキ台があるから、アイデアが出しやすい」 「タタキ台があるから、修正や改善がしやすい」 といった現場の声や知恵を、マニュアルに反映させていく。
この繰り返しで、マニュアルの精度がさらに上がっていきます。
(4)マニュアルは、現在進行形 時代や環境は、否応なく変化・変更を要求しています。
従来の「固定したモノ」という考えでは、変化が速く激しい時代には対応できません。
時代や環境の変化に合わせて改訂する、現場の知恵をどんどん反映させていく。
そうして、常に最も効率的・効果的な最新・最高の方法を具現化し続けることが必要になります。
つまり、マニュアルを固定したものではなく、現在進行形のものとして捉えることです。
100%の完成形はないことをしっかり受け止めておかなければなりません。
マニュアルは、飾っておくものではなく、頻繁に変化に対応していく柔軟な“形”なのです。
(5)マニュアルは、活動・仕組み マニュアルは、単なる資料や参考書ではありません。
「マニュアルは、必要な人が必要なときに読めばよい」 と多くの人が思っているかもしれません。
本当にそうでしょうか。
これまで述べてきたように、マニュアルは現場でフツフツと生まれている知恵やコツ、そして、“変化”を積極的に取り入れ反映させていくものです。
固定したものではなく、現在進行形なのです。
マニュアルは、より効率的・効果的な方法を追い求めていく、改善活動そのものです。
別の言い方をすれば、始めたら終わりがない、継続する業務改善活動であるといえます。
このように、マニュアルを活動・仕組みとして捉えることにより、マニュアルを活かし、成果を上げ続けることができるのです。
(6)マニュアルは、人を成長させ、人を活かす マニュアルは、機械的な作業指示書ではありません。
マニュアルは、基礎(基本)といった仕事の土台づくりに威力を発揮します。
個性やセンスというものは、このしっかりとした土台の上に積み上げてこそ、光り輝くものです。
先人の知恵を踏み台にして、自分の仕事の質を高めていく。
そして、自分の可能性を拡げていく。
そのための強力な武器になるのがマニュアルです。
つまり、人を成長させ、人を活かす土台が、マニュアルなのです。
こうした6つの視点が、成果を上げ続ける上で必要になります。
そして、その第一歩は、 「決められたことを決められた通りに、徹底的に実行する」 ことから始まります。
繰り返しますが、どのように「マニュアル」を捉えるかで、成果が大きく左右されます。
「成果を上げる、6つの視点」を念頭に、マニュアルの導入を進めていただきたいと思います。
《成果を上げる、6つの視点》 (1)マニュアルは、会社(仕事)の基準──会社の土台づくり──(2)マニュアルは、最新・最高のノウハウの集大成──会社の知的財産──(3)マニュアルは、タタキ台 (4)マニュアルは、現在進行形 (5)マニュアルは、活動・仕組み (6)マニュアルは、人を成長させ、人を活かす
「決められたことを決められた通りに、徹底的に実行する」ことから始まる 「成果が上がるマニュアルの捉え方」を踏まえて、次章から実際にマニュアルの作り方を学んでいくことにしましょう。

コラムマニュアルはきれいごと? 「マニュアルは、新人向け。
現場では通用しない」 「仕事は、マニュアル通りにはいかない」 だから「マニュアルはきれいごとだ」 などなど、「マニュアル」に対する否定的な声をよく聞きます。
1%の出来事をもって残り 99%を否定する。
1%をさも全体であるかのように説明する──これは、「テレビは目に悪い。
だから、テレビは問題だ」と言っているようなものです。
極端な例かもしれませんが、筆者にはそう思えてなりません。
物事の一面だけを見て、全体を評価しているように思えます。
確かに、仕事はマニュアル通りにいかないことのほうが多いのは事実です。
たとえば、 100人のお客様への対応方法は 100通りあります。
当たり前ですが、一人ひとり個性が違うわけですから、みんな一緒というわけにはいきません。
そうすると、マニュアルには 100通りのやり方を書いたほうが良いのかというとそうはなりません。
一人のお客様でも、答えによってさらに枝分かれします。
極端に言えば、どこまでも延々と枝分れしていくのです。
これを全部マニュアルにすることは到底不可能ですし、意味がないことです。
仕事のさまざまな経験を経て解決できることがいっぱいあるからです。
「マニュアル」は会社としての決まりごと、「基本」を書くことが大切です。
誰でも一足飛びに、応用や個性的なやり方ができるものではありません。
そこには、一歩一歩ステップを踏むというプロセスが必要です。
何事もそうだと思いますが、しっかりした土台(基本)ができて、はじめて次の応用へとつながります。
「基本」こそが、現場では必要なのです。
別の視点で考えてみましょう。
「基本」とは、新人が必要とするもの、といったイメージが強いですね。
ベテランには必要がないのでしょうか。
しかし、「基本」とは最も大事なこと、拠りどころとなるものです。
会社の「基本」という言い方をすれば、それは会社としての原理原則といった意味が出てきます。
つまり、それほど重要なことが、この「基本」にはある、書かれているということです。
仕事に慣れてくると、とかく“自分流”という勝手なやり方でコトを進めがちです。
往々にして、これを“個性的”と履き違える人がいます。
しかし、
しかし、筆者に言わせれば、これは悪い意味で仕事の“癖や垢”である場合が多いのです。
では、枝分かれする個別具体的な例を書かずに、どのようにマニュアルにまとめるのか。
たとえば、よくあるお客様のタイプへの対応は、1つのやり方、基本形としてまとめることができます。
アプローチ、商品説明といったようにステップでの対応方法、セリフなどを一番良い形で「マニュアル化」するわけです。
そうすると、実際にはお客様によってさまざまに枝分れするのに、マニュアルでは“都合よく”クロージングまでいってしまう。
だから、「きれいごと」になるわけです。
確かに、お客様はこちらが期待するようには動いてはくれないと思います。
動いてくれたら、こんなに楽なことはありません。
しかし、どんなお客様であれ、アプローチをして商品説明をするというステップは必要です。
さらに、お客様のお話をよく聞き、お客様のニーズを把握するために、たとえば、「どんな色がお好みですか?」と質問をすることは大切です。
よくあるケースをもとに組み立てることによって、そこで必要な、心構えとか基本話法をしっかり学んでもらう。
そのために、あえてさまざまに枝分かれすることを排除してしまう。
言葉を変えれば、“ぜい肉”を削ぐということですね。
そのほうが新人にとっては、格段に理解しやすいからです。
そして、その基本形が習得できたら、次のステップ、応用編に進んでいきます。
ですから、その基本である習得してほしいことを“都合よく”まとめているマニュアルを使って学ぶことは、習得のステップとしては絶対に必要だといえます。
前述したように、誰でもいきなり応用編にはいけないのです。
必要な原理原則を覚えてもらうために、あえて枝葉をつけずにまとめることが、逆に必要だということです。
繰り返しますが、習得・成長のために、あえて「きれいに」しているということです。
「マニュアルは、きれいごと」とバッサリ切り捨てるのではなく、習得・成長の一ステップとしてしっかり捉え直すことが必要ではないでしょうか。
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