30プロ秘書は 「6 W 3 H」で仕事を効率化する 多くのビジネスパーソンの仕事は、単一作業ではありません。特に秘書の仕事は、書類の作成や整理などの事務作業から、上司のスケジュール管理や出張の手配、電話対応、来客対応、慶弔手配など、実に多岐にわたります。それら膨大な仕事を、期日に間に合うよう確実に同時進行できてこそ、プロの秘書。迅速かつ正確に仕事をこなしていくためには、作業の進め方を考える必要があります。 仕事を進める際には、常に「 6 W 3 H」を意識するといいでしょう。これは、文章を書くときにいわれる「 5 W 1 H」「誰が( Who)」「何を( What)」「いつ( When)」「どこで( Where)」「なぜ( Why)」「どのように( H o w)」と基本的には同じこと。それに、経費や数量、関係者など、ビジネスパーソンならではの項目が加わります。なぜ( Why) 仕事の目的、方針、理由など、「なぜ」行うのか把握する何を( What) 仕事の内容、関係先など、「何を」行うのか把握する誰が( Who) 担当者、対象者は「誰なのか」を把握する誰と・誰に( with Whom) 「誰と」「誰に」行うのかを把握するいつ( When) 仕事の納期や締め切りなど、期限は「いつなのか」を把握するどこで( Where) 仕事を行う場所は「どこなのか」を把握するどのように( H o w) 方法、手順を「どのように」進めるのかを把握するいくら( H o w much) 経費、費用は「いくら」かかるのかを把握するどれだけ( H o w many) 数量は「どれだけか」を把握する 「6 W 3 H」を毎回書きだして確認する必要はありませんが、これらすべての解を把握できていれば、仕事に漏れがないことがわかります。また、「期日が早いから Aの仕事から進めておこう」「上司に提出するものだから、余裕を持ってとりかかろう」「この作業は時間がかかるから……」など、優先順位を決める際にも有効です。「 6 W 3 H」をはっきりさせれば、作業の全体像が見えてきます。そのため、あれこれ中途半端に手を付けて、どれも期日に間に合わない……という最悪のケースを免れることができます。 電話やメールをする際にも、確認し忘れたことはないか、伝え忘れたことはないかというチェックに使えます。さらに、ダブルチェック、トリプルチェックを重ね、不測の事態を想定した時間の逆算ができれば、たいていのことは段取りよく、正確にこなせるでしょう。 「6 W 3 H」は、仕事を進めるうえでの基本になるものです。そして、ミスは慣れてきた頃にこそ起こりやすいもの。社会人経験が長い方も疎かにせず、時には基本に立ち返って確認してみてください。 □時には基本に立ち返って確認してみる
31プロ秘書は「アポを入れてはいけない」間合いを知っている 上司のスケジュール管理は、秘書にとってもっとも重要な仕事だといっても過言ではないでしょう。上手に予定を組み、管理するには、それが絵に描いた餅にならないよう、上司の性格を知ることから始めなくてはなりません。 まずは日頃から上司をよく観察し、会話の中からヒントを得ることです。たとえば、「お腹が空くとイライラしちゃってダメだね」という上司なら、一一時以降は打ち合わせや商談のアポイントを避け、昼食後に入れたほうがいいでしょう。逆に、「ごはんを食べると眠くなっちゃうんだよね」というタイプなら、昼休みの直後を避け、昼食前や一五時以降などに入れたほうがいいということになります。 ほかにも、「毎朝、出社時間がまちまちである」「来客が一日に何件も重なると疲れてしまう」「終業時間ぴったりに帰れないと機嫌が悪くなる」「予定がびっしり詰まっていたほうが安心する」などの好みや意向、行動パターンから、自分の上司に寄り添ったスケジューリングを探っていきましょう。そうすれば、「 ○ ○様との打ち合わせはこの日時でよろしいですね?」と自分から戦略的に提案していくことができます。 また、一般的には、次のような日時には予定を入れないほうがいいとされています。 ●月曜日の午前中、金曜日の夕方 ●会議の直前、直後 ●出社直後、昼食直後、退社直前 ●出張や長期休暇の直前直後の半日 これらは、何かと仕事が立て込みやすいタイミングです。最悪の場合、せっかく来てくださったお客様をお待たせすることにもなりかねないため、基本的には避けたほうがいいでしょう。ちなみに、こちらから先方にアポイントの時間を提案する場合は、一一時から一三時半頃という時間帯も避けたほうが無難です。というのも、昼休みの時間は企業によってまちまち。知らず知らずに相手のランチタイムを削ってしまう可能性があるため注意したいものです。 実際に予定を組む場合には、最初に外せない年間行事を入れていきます。その次に、月例会議などの月間スケジュール、週間スケジュール、一日のタイムスケジュールという優先順位です。大切なのは、「ムリ、ムラ、ムダ」を省くこと。たとえば、同じエリアへの出張をまとめれば、移動時間の「ムダ」を省くことができます。出張や外出の多い上司でも、数日に一回はデスクワークをする日をつくることで、出ずっぱりになって社内の決済が滞る「ムラ」が省けます。さらに、予定を詰め込みすぎる「ムリ」にも注意が必要です。緊急の案件や予定変更が発生することも考えて、予備日の確保を忘れないようにしましょう。 私は、上司のスケジュールについては、月別カレンダーを縮小して持ち歩いています。バックアップ用原本は B 4のサイズの紙なので、当然、一日の予定を書くスペースはあまり大きくありません。「書ききれないのでは?」と心配されることもあります。しかし、そう思ってもっとスペースの広いカレンダーを使っていたときに、予定を詰め込みすぎて見づらい、用件が多すぎる等々で、失敗した経験があるのです。それからは二〇年以上このサイズ。「このスペースに収まるだけしか予定を入れない」と決めてしまえば、パッと見て「あと二件くらいはアポイントが入れられるな」などと判断できる点も便利です。特に、一時間単位で予定を書き込めるタイプのものなどは、タイトに予定を詰め込んでしまいがち。忙しいからといって分単位で予定を組んでしまうと、結果的に、いつも慌ただしいスケジュールになってしまいます。時間配分に頭を悩ませているという人は、スケジュール表自体を見直してみてもいいでしょう。 上司の予定は多くの人に影響があるので、簡単には変更できません。上司にとって心地の良い間合いを把握して、確実な予定を組んでいくのがプロの秘書の仕事というものです。 □アポの提案は、一一時から一三時半は避けたほうが無難
32プロ秘書は双方が気持ちのいい「時間調整」ができる 多忙な上司であれば、一日に何件もの面談の申し入れがあるでしょう。しかし、時間は限られています。そのなかでうまくスケジュールを調整していくのがプロの秘書です。 たとえば、面談の申し入れに対して、「日程的に厳しい」と感じた場合。上司に確認する前の電話の段階で、「日程的に厳しいかもしれませんが、一度調整してみます。いつまでにお返事すればよろしいでしょうか」とお聞きします。ポイントは、断ることを前提に、あまり相手に期待を抱かせる答え方をしないことです。上司の優先順位によっては、「すでに入っているほかの予定を変更してでも会いたい」というケースもあるため、余程のことがない限り、その場ではお断りしません。しかし、あくまで「難しいと思いますよ」というニュアンスはお伝えします。もし、上司がどうしても会いたい相手だとわかっているなら、「前向きに検討させていただきたいのですが、今月でないと難しいお話でしょうか」「その日程だと難しいかもしれないのですが、来週であれば少しはスケジュールに余裕があります」など、相手の状況を探り、代案を出す場合もあります。 日程的には空きがあるものの、「その内容が受けられるかわからない」などの検討が必要な場合も、「非常にスケジュールが立て込んでおりまして」と、期待を抱かせない返答を心がけます。期待させた結果、「申し訳ありませんが……」と断られると、期待値が高かったぶん、裏切られたような気持ちになるものです。せっかく「会いたい」と言ってくださった方をガッカリさせるのも、お断りしたことで企業にマイナスイメージを持たれるのも、お互いにとって非常に不幸な結果です。それだけは避けられるよう、保険をかけておきましょう。もし、スケジュールに空きが出て「なんとか調整がつきました」とお返事をしても、それはいい意味での裏切り。先方も「わざわざ時間をつくってくれたのだ」と喜んでくれるはずです。 面談の申し入れがあった場合、通常のケースであれば、「 ○ ○製薬の ○ ○様から、ご面談をお願いしたいというお電話がありました。来週の水曜日の一五時が希望ですが、ご面談は可能でございます。お入れしてよろしいでしょうか」という具合に上司に確認します。「予定を入れてください」と言われれば日時を確定させ、スケジュール表に書き込んでいきます。この際に、上司の間合いを読む必要があるのは、先述したとおりです。 しかし、もし先方が遠方からお見えになるのであれば、少しだけ伝え方を変えます。「九州の ○ ○製薬の ○ ○様が、出張で名古屋にお出でになるそうで、もしお時間があれば〝ぜひ〟お目にかかりたいとおっしゃっていますが……」と確認するのです。九州という遠い場所から来るお客様が「ぜひ」と言うのであれば、上司も「これは時間をつくってでも会わないわけにはいかない」と感じることでしょう。そして、いざ面談をする際にも、「わざわざ来てくれた」という思いがお互いにあるので、気持ちよく話ができるはずです。このように、ちょっとした工夫で気持ちのいい面談を演出するのも秘書の腕の見せ所です。 ただし、上司の性格によっては「ぜひ」という表現に下心のようなものを感じ、警戒されてしまう場合もあります。気を利かせた「つもり」でさじ加減を間違えることのないよう、注意してください。 □あえて期待を抱かせない対応が必要なときもある
33プロ秘書はスケジュールを「色」で管理する 上司のスケジュールを管理する際には、上司にとって見やすく、わかりやすいスケジュール表を作成することが大切です。紙ベースか、データベースかなども、企業によって異なりますが、ここでは私なりの作成法をご紹介します。 私は、ここ一〇年ほど、三人の上司のスケジュールをパソコンによるデータで管理していました。しかし、パソコンは不測の事態によってデータが失われてしまう恐れもあるため、社長室にはホワイトボードのスケジュール表を置き、パソコンの内容と連動させていました。さらに、バックアップを兼ねて、紙ベースのスケジュール表を作成していました。こちらは変更があった際にすぐ書き直せるよう、鉛筆書きです。最近ではスマートフォンでスケジュール管理するケースも増えているようですが、機械の類は完全ではありません。保険として、紙ベースのスケジュール表も作っておいたほうが安全でしょう。 データのスケジュールは社内の人間も見ることができるので、その空き状況に合わせて、上司とのアポイントを入れてきます。そのため、スケジュール表を共有する場合は、誰が見てもわかりやすい文字と表現で書くことが必要となります。そうでなければ、わざわざスケジュールを公開する意味がないからです。手書きであれば丁寧な文字を書くのはもちろんのこと、社内全員に浸透していない略語や名称を使ってはいけません。 スケジュール表に記載する予定は、その内容によって色分けしていました。 ①寒色系 =定例のもの青 定例会議、打ち合わせ、報告会紫 店舗巡回、視察濃いグリーン 社内の部署主催の講演会、懇親会蛍光グリーン 取締役会、 IR関連蛍光ブルー 業界団体の幹部会、理事会、総会 ②暖色系 =流動的なもの赤 新しく入った予定、時間変更、個人的要素の強いもの(ゴルフや人間ドックなど)オレンジ お取引先関係、新聞・雑誌の取材 さらに、色の濃淡も使い分け、状況がより詳細に伝わるよう工夫しました。たとえば、出張用のチケットやホテルの手配がすんでいない状態のときは色を薄くしておき、手配が済んだ段階で濃い色に変えるのです。また、重要な会議がある場合などは「絶対に忘れてはいけない」という注意喚起の意味を込めて、太字を使うこともあります。 これはあくまで私のやり方ですが、スケジュールの内容をここまで細かく分けないまでも、色で分類すると、視覚的にわかりやすいのでおすすめです。とはいえ、たびたび書き方が変わるのは周りにとっても混乱のもと。新しい上司に就くタイミングなどに話し合い、最初に表記ルールを決めてしまうのがスマートでしょう。 □寒色は定例のもの。暖色は流動的なもの、とファイルを分類する
34プロ秘書は上司の思考回路に合わせたファイリングをする 上司のもとには、常に大量の資料が届きます。それを機械的に仕分けして、ファイルの背表紙にラベルを貼るだけでは、プロの秘書の仕事とはいえません。プロの秘書は、上司の思考回路に合わせて「すぐに探せて、わかりやすい」ファイリングをします。 上司の思考回路とは、上司の頭の中で資料がどのように分類されているのかということです。時系列、商品別、企業別……など、さまざまな分類方法がありますが、上司が「あの資料を出して」と言うときの指示の仕方を思い出せば、自ずとそれが見えてきます。たとえば、「 ○月の会議に使った……」と言うなら時系列、「 ○ ○会社の資料……」であれば企業というように、必ず傾向があります。それがわかれば、あとは「すぐに探せて、わかりやすい」よう、ダブル、トリプルのガイドをつけてファイルしていけばいいのです。 ファイルするアイテムも、こだわって選ぶ必要があります。クリアファイルやフォルダ、 2穴ファイルなど、たくさんの種類があり、使いやすいものも続々登場しています。どれが一番便利で、簡単にファイルできるのか。職場によって、よく使用する資料の大きさや厚みなどにもバラつきがあるので、最適なものを選び出してください。ちなみに私は、電話しながらでも片手で資料が取り出しやすいよう、背表紙を奥にし、開いたほうを手前にして、逆さ向きにファイルを使っています。 また、スケジュール表と同じく、ファイルの色も内容によって使い分けています。赤色 急ぎ、新しい情報黄色 注目情報青色 定例業務 信号と同じく「赤は止まれ、黄色は注意、青は進め」となっているので、感覚的にもわかりやすいというメリットがあります。使用するクリップやラベルなども、資料に合わせて統一しておけば、ひと目で緊急性や内容のわかるファイルになるでしょう。「すぐに探せて、わかりやすい」ファイリングができていれば、たとえ秘書が不在でも、上司が自分で必要な資料を取り出すこともできます。たとえすぐには見つからなくても、ガイドがあれば必ず目的の資料にたどり着けるでしょう。ファイリングは面倒な仕事ではありますが、後で膨大な資料の山の中から探し出す手間を考えれば、先に活用に合わせた仕分けをしておいたほうが効率的。ただ見た目にきれいなだけのファイリングになっていないか、ぜひ一度視点を変えて見直してみてください。 □人なのか、時間なのか? 上司の思考の優先順位を見抜け
35プロ秘書は名刺管理を一カ月単位で考える 上司が受け取った名刺を管理するのも、秘書の仕事のひとつ。大企業の重役ともなれば、会う人の数も多いので名刺の数も膨大になります。それらを、必要なときに取り出せるようファイリングできてこそプロの秘書なのです。 名刺の管理も、原則的には資料のファイリングと同じです。上司の思考回路や、業態に合わせて、探しやすいように仕分けしていきます。ただし、名刺を受け取ってから一カ月間は、ガイドを付け時系列にファイルします。というのも、名刺が必要になるのは、受け取った直後のタイミングが多いもの。上司から、「先日 ○ ○会で会った社長さんの名刺を出して」などと言われたり、「先日 ○ ○会でお会いした ○ ○ですが、改めて一度面談を……」などと連絡をいただいたりすることが多いからです。そのため、一カ月間はあえて通常のファイルに仕分けせず、保留の状態にして取り出しやすい場所に置いておきます。 その後は、基本的には社名を「あいうえお順」にし、さらに業態別、会社の所在地別に分けたりします。たとえば同業企業のファイル、関連会社やお取引先のファイルなどに分けたうえで、あいうえお順に並べます。しかし、企業の業態によっては会社の所在地がポイントになる場合もあるでしょうし、たくさんの名刺を受け取る上司なら、「あいうえお順」以前の業態による仕分けをもっと細かくする必要があるかもしれません。「すぐに探せて、わかりやすい」という視点で考えれば、ダブル、トリプルでファイリングしておくとよいでしょう。最近では、名刺の内容をそのままデータ化できるスキャナもあるので、改めて入力し直す手間もありません。 さらに、ただファイルしていくだけでは、時間の経過とともに記憶が薄れてしまい、「どこかにあるのに見つけられない」ということにもなりかねません。名刺にも資料と同じくガイドが必要なのです。そこで、いただいた名刺には、「いつ、どこで受け取ったのか」「本人にはどんな特徴があるのか」など、できるだけ詳しい情報をメモしておきましょう。また、住所録や電話帳としての機能も果たせるよう、住所や電話番号の変更や役職の変更、部門異動があれば、わかった段階ですぐに訂正しておきます。 名刺は、企業と企業のご縁を結ぶきっかけになるものです。必要なときに取り出すことができるよう、わかりやすくファイリングするのはもちろん、個人情報の取り扱いに厳しい昨今、不要になった名刺の処理にも気をつけてください。 □名刺管理の最初は時系列、その後「五十音」「業態」「地域」など
36プロ秘書は「ゴルフ会」のお礼状をこう書く 秘書は、お礼状やご案内、挨拶状、祝電、弔電……と、ビジネス文書以外の書簡を多く扱います。ひな形を用意して作業の効率化をはかることも大切ですが、それだけでは無味乾燥で、「形ばかりの文章」になってしまいます。プロの秘書は「その人ならでは」のひと言をプラスして、心が伝わる書簡を送ります。「その人ならでは」といっても、何も難しく考える必要はありません。たとえばお礼状を書くなら、上司と少し話をしてエピソードを引き出すのです。「週末はよく晴れましたね。ゴルフのほうはいかがでした?」と話しかければ、「特に ○ ○さんのスコアが良くてね……」などという話が聞けるでしょうし、「 ○ ○さんはグルメでいらっしゃるから、おいしいお店をご紹介いただけたんじゃないですか?」と聞けば、「あんな穴場があるなんて知らなかったよ」と、機嫌よく会食の話をしてくれるのではないでしょうか。 お礼状には、そうして得た「生きた情報」を、ひと言コメントとして盛り込みます。たとえば、「先日はご一緒いただきありがとうございました。 ○ ○さんはさすがの好スコアで……」「ご招待いただき、本当にありがとうございました。会社の近くの場所に、あんなにすてきなビストロがあるとは知りませんでした……」という具合です。光景が目に浮かぶようなひと言を添えるだけで、こちらの楽しさや感謝の気持ちが相手に伝わるのです。これは、社内での簡単な伝言メモや、資料送付の際に添える一筆箋などにも言えること。ぜひ実践してみてください。 各種礼状は、できれば手書きがよいでしょう。パソコンで作成した文章より情感が伝わりやすく、「自分のために書かれたものだ」という特別感が伝わりやすいからです。どうしても時間がなく、パソコンで作成する場合も、宛名だけは手書きにしたほうがいいでしょう。 時短ができる便利なツールほど、気持ちを伝えるのは難しいものです。最近は、仕事上のやりとりもメールで行うことが多く、出先からスマートフォンなどでメールを送る場合もあるでしょう。しかし、用件のみのメールを送ると、こちらにそんなつもりがなくても「指令・命令」のように受け取られてしまうこともあるのです。相手が社内の人間でも、「用件のみ、すいません!」などとひと言添える心遣いを忘れてはいけません。また、「お世話になっております……どうぞよろしくお願いします」というマナー通りのビジネス文章を送っていても、それだけでは不十分の場合があります。メールでは、相当意識して文章に気持ちを乗せないと、相手には冷たい印象を与えてしまうことを覚えておきましょう。やはりここでも、「先日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました」など、「その人ならでは」のひと言が効いてきます。親しい間柄であれば、「追記」として、少しフランクな内容の文章を添えてもいいのではないでしょうか。 プラスワンのひと言が、型通りの文章を生きた言葉に変えます。どんなツールを使う場合も、「心を伝える」ひと手間を怠らないでください。 □「生きた情報」を、礼状のひと言コメントとして盛り込む
37プロ秘書は「オープンスペース」でも業務ができる 秘書は、守秘義務を伴うような機密性の高い情報を扱います。そのため、書類や電話ひとつをとっても、取り扱いには注意が必要です。これまで、「社長室」や「秘書室」がある職場という前提でお話をしてきましたが、なかには、会社全体でワンフロアという企業もあるでしょう。パーテーションすらない職場もあるはずです。しかし、プロの秘書は、どんな場所でも工夫して秘書業務を進めることができます。 まずは電話をする場合。秘書は上司の仕事相手と話をすることも多く、会話の内容はもちろん、場合によっては会話の相手も知られてはいけないことがあります。しかし、オープンな環境の職場では、わざわざ聞き耳を立てなくても会話が聞こえてしまいますし、周りは会話の端々から「あ、 ○ ○さんだな」などと推測することもできるでしょう。そのため、知られたくない内容の電話の場合は極力周りに人がいない場所にさりげなく移動します。相手から電話がかかってきた場合も、「すぐにおかけ直しいたします」と断っていったん電話を切り、必要な資料を揃えて使用していない会議室等の空いた部屋に移動するといいでしょう。 資料や書類の扱いに関しても、できる限り機密性を保つ工夫をします。重要な書類を作成する場合は、人が行きかう時間帯は避け、可能であれば移動して作業を行いましょう。また、誰にでも見られるような場所に書類を置いてもいけません。上司に渡す書類は、濃い色付きのクリアファイルに入れたうえで、茶封筒に収めるなど、二重三重にブロックすることが必要です。間違っても、机の上に簡単に読める状態で置きっぱなしにするようなことがあってはいけません。 実は、私もオープンスペースで秘書業務を行ったことがあります。組織変更で、それまで所属していた「社長室」がなくなり、「総務部秘書係」となったためです。総務部のフロアは広く開放的な空間で、今までと同じ作業をどのように進めればいいのか、最初は非常に戸惑いました。しかし、機密性の高い電話を受ける際はどのようにすればいいか、書類の場合は……と試行錯誤を繰り返すうち、何とかオープンスペースでも仕事ができるようになりました。そして、その不便な状況を見かねた上司が、今までどおりに仕事が進められるよう、取り計らってくれたのです。頑張っていれば認めてくれる人がいるということを実感できた経験でもありました。 秘書業務を進めやすい環境もあれば、そうでない環境があっても当たり前です。しかし、環境のせいにして、「仕方ない」といい加減な対応をしてはいけません。工夫をすれば、きっと活路が見えてくるはずです。 □環境のせいにして、いい加減な対応をするべからず
38プロ秘書は「お客様の斜め前」に座る お客様や上司と話をするとき、プロの秘書は決して正面には座りません。意外かもしれませんが、斜め前か横に座ります。 心理学的に、座る位置には大きな意味があるとされています。相手との心の距離が、それによって決まってしまうからです。したがって、商談などの場合は、座る位置によって話の展開が変わる可能性すらあります。 お客様と話をするときによくあるのが、正面に座るケース。一見、顔と顔を突き合わせて話すことができる、良いポジショニングのような気がするかもしれません。しかし、向き合うということは、お互いの体や視線が対峙するということ。言い換えれば、逃げ場のない状態だともいえます。大切な商談だと意気込んでいると、「絶対に成功するぞ」という気持ちから余計に視線は鋭くなり、相手にとって居心地の悪い空間になってしまうこともあるでしょう。また、こちらが戦闘モードだと、相手も応戦してくる可能性があります。正面というのは、いらぬ意見の対立を引き起こさないためにも、実は避けたい位置関係なのです。 その点、斜め前に座れば、視線を合わせて話すこともできるうえ、正面に座った場合のように、逃げ場のない状態にもなりません。相手を必要以上に意識することなく、自然に会話ができるのです。コの字型のソファであれば、直角の位置に座るといいでしょう。もし机を挟んで話をするなら、お客様の正面には上司に座ってもらい、自分はその横に座ります。最初に大枠を説明するのは上司でも、細かい説得に当たるのは部下なので、商談の本当の主役同士は自然と斜め前の位置関係になるというわけです。 真横の席は、心理的な距離が一番近づくポジショニングです。仲の良い恋人同士を見ていればおわかりでしょう。しかし、距離が近づくからといって、突然お客様の横に座るのは不自然です。また、急に体が近づいて、相手のパーソナル・スペースを侵してしまうと、警戒心が先立ち不快に感じる人もいます。そのため、最初からその位置に座るのは避け、資料を使うタイミングなどに「お隣に座ってもよろしいでしょうか」とひと声かけてから横に座るといいでしょう。資料は同じ方向から見たほうが説明しやすいという点でも、メリットがあります。 上司に対しても基本は同じ。自分の提案を通したい場合などは、斜め前の席で話をしたほうが、事がスムーズに運びます。ただし、女性の秘書が社外で上司と行動する場合だけは別です。この場合は、上司との心理的な距離感よりも、「第三者から自分たちがどう見えるか」という第三者の視点を優先します。秘書とはいっても、常に大きな名札を下げているわけではありません。他人から見れば「女性である」ということしかわからないので、あらぬ誤解が生じることもあるでしょう。レストランや乗り物の中では、できる限り隣の席は避けること。上司のためにも、自分のためにも、誤解を生まない努力が必要なのです。 □お客様の正面は上司。自分はその横に座る
39プロ秘書は「ヌキどころ」を知っている 情報をインプットしてばかりでは、いい仕事はできません。やるべきときに、どれだけ確実にアウトプットできるかが、結果を左右します。そのため、がむしゃらに努力し続けるより、時には仕事からきっぱりと離れて自分の時間をつくり、心の充電をしたほうがいいこともあるのです。プロの秘書は、「ツメどころ」と「ヌキどころ」を心得ています。 もちろん、インプットは必要です。勉強でも経験でも、必死にツメるべきときというものがあります。しかし、高いモチベーションを保ち、ずっと努力し続けられる人はなかなかいません。「頑張りすぎた」「疲れすぎてもう何もやる気が起きない」となってしまう前に、心のガス抜きをしましょう。それが「ヌキどころ」というものです。ツメすぎてパンパンになり、心がパンクしてしまっては元も子もありません。 私もオフのときには、好きな音楽を聴きながら絵を描いたり、ちょっと贅沢なエステでのんびりしたり、小旅行を楽しんだり。食べることが好きなので、気の置けない友人とおいしい食事をしに行くこともあります。これが私にとっての「ヌキどころ」です。人によってはアウトドアなどの趣味を充実させてもいいですし、スポーツで汗を流してもいいでしょう。とにかく自分の好きなことをして、気分転換するのです。 仕事から離れて自分を解放すると、それまで頭の中を占めていた仕事上の問題が小さなことのように思えたり、職場では思いつかなかったような、ブレイクスルーにつながるアイデアが浮かんだりすることもあります。これは、リフレッシュによって頭や心に余裕が生まれた証拠。その余裕の部分に、また新しいものをツメていけばいいのです。 ちなみにこの方法は、目の前の仕事に対して「どうしてもやる気が出ない」というときにも応用できます。それが、どうしても今すぐに始めなくてはいけない仕事でなければ、いったん脇に置いて、脳を休ませてあげるのです。集中力が切れた状態でダラダラと机に向かっているより、いったん休んでから再び仕事に取りかかったほうが効率もアップします。とりあえず席を立って軽く体を動かしたり、濃い目のコーヒーを飲んで頭をシャキッとさせたり、脳に糖分で栄養を与えたり。集中力を回復させる方法を、自分なりにいろいろ試してみてください。 ツメるときはツメる。良いタイミングでガス抜きをしたら、また新しいものをツメていく……これを繰り返して自分のコンディションを常に良い状態に保てる人が、本当にいい仕事ができる人なのです。 □時には仕事から離れて自分を解放してあげる
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