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CHAPTER4チームが育つトヨタのコミュニケーション

目次

CHAPTER4チームが育つトヨタのコミュニケーション

01ほうきとちりとりを持って現場を歩け

「5S」は人づくりの基本でもある

部下とのコミュニケーションというと、飲みニケーションなどを想像する人も多いでしょう。たしかに、飲みニケーションも距離を近づける方法のひとつですが、最近はお酒の席を嫌がる若者も多くいます。飲みニケーションをとらなくても、もっと身近な方法が日常の中にあります。日常業務の中でコミュニケーションを図るのがいちばん効率的です。

トレーナーの中島輝雄が、工長時代に、ある課へ配属されたときのこと。その課は比較的新しく、個性の強い一匹狼的な社員が集まっている部署でした。

それだけに、職場の士気も低く、中島がそれまでいた部署とは、チームワークの面でもかなり劣っていたのです。

その部署に工長として入った中島が最初に行なったのは、ほうきとちりとりを持って、毎日工場内を歩いてまわることでした。

約3カ月間、現場を歩いて、できるだけたくさんの部下と接することを一番に考えました。どんな問題が起きているかは、現場を見ればわかりますし、1対1で話をすれば、部下がどんな考えで仕事をしているのかもわかります」ほうきとちりとりを持って歩いていると、自然と現場と接点がもてるといいます。

「今日もナットが落ちているね。なぜだろう?」と質問すれば、現場の部下がその原因を考えてくれます。

部下「部品箱から取り出すときに落ちたのかもしれません」上司「とりにくい場所にあるからナットが落ちるんじゃないの?」部下「高い場所に置いてあって見づらいかもしれません」上司「それなら、ナットを置く場所を変えてみたらどうだろう?」部下「こっちの棚に置き換えたほうがいいと思います」上司「そうだね。やってみようか」このように落ちているナット1つでも、部下と接点をもつことができますし、仕事のやり方を指導するきっかけとなります。

整理・整頓などを徹底する「5S」は、人材育成をする絶好の機会なのです。

こうして中島は、問題の多かった現場をコツコツとまわり、少しずつ現場の従業員と対話を重ねることで、職場を変えていったのです。部下の意見には必ず応える。だから、人が動くトレーナーの清水賢昭は、海外の工場で海外スタッフを指導した経験があります。

「とにかく現場に入って、海外の現地従業員と対話を重ねることを重視しました。彼らから、作業の中でやりづらい点を聞き出したら、すぐに改善してあげる。いい提案があればすぐに採用する。

すると、『この日本人に意見を言うと、すぐに対応してもらえて、自分たちの仕事も楽になる』と思ってもらえます。

しかも、彼らの意見が通るということは、トヨタの工場で働いていることに価値を見出すことにもなります」こうしたコミュニケーションを重ねていくと、こちらが考えていることも理解してもらいやすくなるといいます。

清水は現場で不良が出たとき、現地従業員たちにこんな説明をしました。

「100万円で車が売れても、不良が出てお客様からクレームがあったら、それに対処するコストに10万円かかる。そうしたら、キミたちの給料は払えなくなる。だから、私たちは不良を出さずに、いいものをつくらなければならない」

このような対話を重ねていくと、彼らも家族を養うために必死なので「標準」やルールを守って働いてくれるようになります。

どんなに忙しくても、現場を見てまわっていた上司トヨタの上司は、現場を見ることに時間を割きます。トレーナーの山田伸一は、上長である役員が会議で報告するための資料をつくったとき、驚いたことがあります。

「上司は役員ですから、現場を細かく見ている時間も機会もないと思っていました。しかし、その役員が報告するのを見ていたら、私たちがつくって渡した資料以上の内容についても把握し、報告してくれていました。

これには驚きました。現場を見ていなければ、決して話せないことでしたから。トヨタのリーダーは、役職が上になっても現場をよく見ているのだなと感動したものです」オフィスの場合は、ほうきとちりとりを持ってまわることは、現実的ではないかもしれません。

しかし、部下との接点はいくらでもあるはず。書類の受け渡しをするとき、ホウレンソウの場、会議の場、休憩時間などの接点を使って、現場の社員と対話してみましょう。部下のことを知り、自分たちの考えを伝える場をつくることが大切なのです。

02コミュニケーションは朝とりなさい

朝の気分で、一日のモチベーションは決まる

トヨタの生産現場では、必ず朝礼が行なわれています。朝礼では、「昨日の反省」「今日何をやるか」「今日の課題」などについて確認するのがおもな目的ですが、もっと大事なのは、朝礼で部下の表情をうかがい、心をひとつにすることだといいます。

トレーナーの岡村靖も、朝礼の大切さを身に染みて感じていた一人。

朝礼では、部下のハートをどうつかむかが重要です。毎日見ていれば、すぐに顔色が悪いとかわかりますから、様子がおかしい場合は、声をかけてあげます。

上司にとって部下は子ども同然です。子どもを育てるときは、便の色まで見て健康管理をしますよね。こうしたことを続けていくと、部下は関心をもたれることをうれしく思い、信頼してくれるようになっていきます」

職場によっては、朝礼が単なる儀式になっているところもあるのではないでしょうか。しかし、単に業務の確認をするだけでは、朝礼の意味はほとんどありません。情報を伝達するだけなら、掲示板やメールなどで事足りるからです。

岡村は、こういいます。

「朝礼という言葉のイメージが悪いのかもしれません。意味合い的にはコミュニケーションタイムですね。一方的に上司が話すだけでなく、部下が発言する機会も設ける。私の部署では1分間スピーチをやって、部下になんでもいいから話すように促していました。『昨日ドラゴンズが勝ってうれしかった』でもいい。目的は、部下が考えていることを知り、調子の良し悪しを判断すること。内容は問いません」

オフィス系の職場では朝礼をしていない会社も多いでしょうが、毎朝、ひと言声をかけるくらいであれば無理なくできるはずです。部下が気分よく働けるようなコミュニケーションをするのも上司の大事な仕事だと心得ましょう。

「おはようミーティング」で300人と対話

トヨタのリーダーには、朝礼にかぎらず、朝の時間を部下との大切な対話の時間と位置づけている人が多くいます。

トレーナーの岩月恒久は、朝7時半~8時半までを「おはようミーティング」と称して、現場の組長や班長と対話する時間に充てていたといいます。

8時半からは通常の会議や業務が入ってしまうので、その前に現場をまわったのです。

「私も30代の頃はやんちゃで生意気だったと思いますが、そんな自分に上司は関心をもって接してくれました、だから、こちらも期待に応えたいと思うし、やる気になります。

私も部下をもつようになってから、個人作業や個人の言葉に対して関心をもつようになりました。そうすることで、現場の抱えている問題もわかるし、個人がもっている強みや能力なども見えてきます。

そうして部下と接する時間を設けるためにつくったのが、『おはようミーティング』でした」岩月はコーヒーを飲みながら、班長クラスの部下2~3人と対話をする機会を設けました。

毎朝班長2~3人と、さらにはその部下に会うこともあるので、1カ月で約200~300人の部下と顔を合わせて、対話をすることになります。

「おはようミーティング」は、まさに現場の声を聞き、同時に上司の思いを伝える場でした。だから、部下が「こんな改善をした」と言ったら、その場で見て褒めてあげる。

「うちの若いやつがこんな仕事ができるようになりました」と班長が報告してきたら、班長もその部下も一緒に褒めてあげる。

もちろん、褒めるだけでなく、「こうしたほうがいいのではないか」とアドバイスをすることもあったといいます。

こうした活動は、習慣化しないと継続するのは簡単ではありません。昼間は日常の業務で忙殺されてしまい、部下との対話に時間をとるのは後まわしになりがちだからです。

「現場をよく見ている上司のスケジュール帳には『現場』と書いてありました。現場に行く時間を、他のアポイントと同じように、スケジュールに組み込んでいたんです。朝飯を食べるのと一緒で、習慣化すれば決して困難なことではありません」

岩月は、現場を見てまわるときのポイントは「けもの道」を通ることだといいます。

「おはようミーティングに向かう途中でも、本来の通路を歩かずに、あえて機械の間を縫うように歩いていく。すると機械のオペレーターの顔を見ることができるし、彼らの仕事の痕跡が見えてくる。また、人が通らない場所には、いらないモノが隠されがちなので、だらしない、きちんとしているといったことも見えてきます」

こうした対話によるコミュニケーションは、普段の会議の場を活用することでも可能です。たとえば、会議がはじまる10分前に会議室に入って、早めにやって来たメンバーと世間話をする。そうすると、場の空気がゆるみ、部下から意見が出やすくなったり、本音が聞けたりすることもあります。

03関心をもって、期待をかけて、対話する

いきなり「困ったことはないか?」と聞いてはダメ

トヨタの上司は、部下に関心をもって対話する機会を積極的につくっています。「対話が重要だ」といっても、何を話したらいいかわからない人もいるかもしれません。そして、苦しまぎれに「困ったことはないか?」と聞いてしまう上司も少なくありません。

しかし、信頼関係もないうちに困ったことを正直に打ち明ける人は、あまりいないでしょう。トレーナーの村上富造は、ある程度時間をかけて接する必要があるといいます。

「最初のうちは、『今日は暑いなあ』でもいいし、『今朝、妻とケンカをして困ったよ……』といった日常会話でもいいのです。『キミに関心をもっている』『キミのために、時間を確保している』ということが伝われば十分。

ときには、上司が部下に『こんなことで困っている』と悩みを打ち明けてもいいでしょう。

『上司も自分と同じように悩んでいるんだ』と思ってもらえるように部下と同じレベルまで目線を落としていく。そうしたことを繰り返していくうちに、『実は、こんなことを考えていて……』と徐々に心を開いてくれるようになります」部下200人×30分=100時間の面談トヨタの上司が行なう部下との対話のしかたは、人それぞれ。

「このようにしなさい」という決まりはなく、トヨタでは「主権在現」という言葉どおり、現場の裁量に任されています。

トレーナーの土屋仁志は、500人の部下を抱える部署に課長として赴任したとき、班長以上の200人と1対1で30分の面談を行ないました。

毎日5~6人ずつ面談することからスタートしました。すべての人と面談するまでに約3カ月はかかったはずです。

雑談を交えながら『不平不満はあるか?』『考えていることはあるか?』と、メモをとりながら徹底的にヒアリングしていきました。そこで挙がった意見の中で、すぐに改善できるものは実行に移しました。

特に5大任務のうち『安全』に関わるものは、従業員に直接、影響があるものなので、多少お金がかかっても、機械を買い換えるなどの対策をすぐに施しました」大事なのは、時間をかけずに改善できるものは、すぐに行動に移し、改善すること。

すると部下は、「上司は、本気で自分のことを考えてくれている」と実感します。もしすぐに改善できない場合でも、そのまま放置しては、部下の信頼を失います。

「いまはこういう理由で改善はできない」「キミの言うとおりにはできないが、代わりにここまではできる」このように必ずリアクションを返す。

それだけでも、部下の言葉に関心をもっていることが十分に伝わります。土屋も最初の面談から半年後に、もう一度面談をして、きちんとフォローをしていたといいます。

部下がどんなことを考え、どんな気持ちでいるかを把握するのも上司の仕事です。部下が10人もいないのに、「部下が何を考えているかわからない」と言う人もいます。

しかし、それは部下がわからないのではなく、上司がわかろうとしていないだけです。この例は少し極端かもしれません。

しかし、大事なのは、少しずつでもいいから部下と対話する時間をつくること。できる範囲で部下との対話を重ねていきましょう。部下の名前を毎朝呼ぶ上司に関心をもたれていることがわかると部下はやる気になります。

しかし、トヨタの場合、1人の課長が200~300人の部下を見なければいけません。だから、物理的に全員と対話をするのはむずかしい。

そこで、トレーナーの山田伸一は課長時代に、毎朝名前を呼ぶことを習慣にしたといいます。

「私のいた部署ではラインで組み立てをしているので、作業の区切りがついたところで、部下の名前を呼んで声かけをしてまわりました。

『○○くん、元気か?』と、この程度です。しかし、これを毎日1時間ほど続けていると、部下の声の響きと顔つきで、体調や精神面がわかるようになります。

声の調子が悪いときは『調子が悪いのか?』『嫁さんとケンカでもしたか?』と声をかけると、『風邪気味で』『実は、朝ケンカをして』といった答えが返ってきます」こうして一人ひとりに声をかけてまわることで、部下は自分が関心をもたれていることをうれしく感じ、モチベーションも上がります。

山田は、声をかけるときに一人ひとりの名前を呼ぶことにこだわっていました。ラインでは基本的に通路に背を向けて仕事をしています。

そこで、山田は帽子のうしろに刺繡で名前を入れさせました。そうすれば、名前を間違えることなく、覚えられます。

やはり、名前を覚えてもらえたら、部下はうれしく感じます。部下が数百人もいるケースはまれかもしれません。

だいたいは数人から多くて50人程度の部下をもっているリーダーが多いでしょう。そのような職場で、部下とひと言も会話をしなかったという日があったとしたら、異常事態です。

そのリーダーは、部下のことをほとんど理解できていませんし、部下も放っておかれていると思っていることでしょう。対話は、部下の信頼を得るうえで効果的なツールなのです。

04縦だけでは半人前。

「横のつながり」ができて一人前

インフォーマル(社内団体)活動から人の動かし方を学んでいく組織は上司と部下という縦の関係ばかりになりがちですが、トヨタでは、インフォーマル(社内団体)活動を通じた横のつながりも同じくらい重視されます。

たとえば、職制ごとの会(班長会、組長会、工長会)、入社形態別の会(豊養会、豊隆会など)があり、職場以外の別の部署、別の工場の社員とのコミュニケーションをとることができるようになっています。

具体的にいえば、交流会を開催したり、弁論大会などの相互研鑽をしたり、ゴルフ大会などのイベントをやったりといった活動がメインです。

トレーナーの中島輝雄は、インフォーマル活動によって横のネットワークを築くことが日々の仕事にも生かされることを何度も経験してきたといいます。

「工長のとき、横のつながりが何度も役に立ちました。たとえば、ラインでトラブルが起きたとします。そのとき、他の工場の工長ともネットワークがあるので、よその工場に直接連絡をとって、対処することができる。

電話一本で仕事ができるのは便利です。

こうした横のつながりがないと、自分の上長に報告して、そこから別工場の工場長に連絡が行って、さらにその現場の作業員に伝わる……というように時間を大きくロスしてしまうことになります」他の職場や工場を見ることは、改善や仕事のやり方のヒントをもらうことにもなります。

「こんなやり方をやっているのか、うちでもやってみよう」といったような学びがあり、良い改善がどんどん横に広がっていきます。

また、横のつながりをもつことでリーダーに必要な話す力や人を束ねる力も身につきます。

バックグラウンドや価値観の異なる職場の人間たちと行動をともにして、何かを一緒にやろうとしたら、リーダーシップを発揮せざるをえません。

トヨタの人間は、インフォーマル活動を通じて、リーダーに必要なスキルを身につけていくのです。「横のつながりが人を育てる」といっても過言ではありません。

部署横断の「場」をつくるそうはいっても、「インフォーマル活動はトヨタのような大企業だからできる」「いまどきの社員を交流会(飲み会)やイベントに参加させるのはむずかしい」といった声があるのも事実です。

中島は、「トヨタのやり方をそのままマネする必要はない。大事なことは、組織間に横串を刺すことだ」といいます。

中島が指導したある中堅企業は、コンサルティングが終了したあとも、その改革メンバーをプロジェクト組織として残し、意図的に横のつながりをつくっているといいます。

同社の全国にある6つの工場の代表者や各部門のコアとなる人材で組織される数十人のメンバーは、月に1度集まって、情報交換をしています。

こうして情報を共有するメリットは、異なる工場や部署間で共通の話題ができるということです。中島は、その効果についてこう述べます。

「横の組織をつくるまでは、『10%利益率が上がった』といった数値だけで他の工場を見ていた。

しかし、他の工場の人間と直接、情報交換をすることによって、数字だけでなく、そのプロセスも共有できるようになったのです」

たとえば、A工場の人が、「こんな改善をしたら利益率が上がった」という報告をすれば、B工場の人は、「そんなやり方があるのか。うちの工場でも使える」とノウハウを持ち帰ることができます。

つまり、より良いやり方や考え方が、組織全体に横展開されていくのです。多くの職場では、縦割りの組織になっていて、横同士のつながりがない。ひどい場合は、部署同士で対立することもあります。

たとえば、営業部門と開発部門では、「もっといい商品を開発してくれないと売れない」「なんで、営業はもっと積極的に売ってくれないんだ」とお互いに不満を抱え、対立しがちです。

こういう組織では、両方の部署で共通の課題に取り組む「場」をつくるのもひとつのやり方です。たとえば、「顧客満足を高めるためのプロジェクト」を組織してみてもいいでしょう。最初は意見がぶつかるかもしれません。

しかし、お互いにコミュニケーションをとることで、「向こうは、そういうことを考えて仕事をしているのか」「こんな問題を抱えているのか」ということに気づくことになり、解決策も生まれてきやすくなるのです。

05「どうありたいか」があって、はじめて褒められる

単に褒めても効果はない「褒めて社員を伸ばす」という方法があります。だからといって、やみくもに褒めるだけでは、部下はつけ上がるだけで、育ちはしません。

うわべだけを褒めても、ご機嫌とりをされているようで、部下のモチベーションアップにはつながらないのです。

トヨタにも良いことは手放しで褒める文化があります。しかし、なんでもかんでも褒めるわけではありません。

トレーナーの中島輝雄は、褒めるときのポイントをこう話します。

「部下の『どうありたいか』が見えていないと褒められません。たとえば、部下が『整理・整頓がきちんとできること』を目指して努力をしているのであれば、整理・整頓について褒めてあげるのがいちばん効果的です。もちろん、整理・整頓以外のことを褒めてもいいのですが、いちばん部下が評価してほしいことを褒めてあげるのが大切です」この考え方は、叱るときも同じ。

ただ、頭ごなしに怒るのではなく、「キミは〇〇になりたいと言ったじゃないか。だから、しっかりやりなさい」と叱ってあげるのです。

部下の「どうありたいか」に合わせて褒めたり、叱ったりしないと、部下の心には響きません。ということは、「部下のことを知らないと褒めることも叱ることもできない」ということになります。

部下が「どうありたいか」を日頃からのコミュニケーションで知っておくことによって、はじめて効果的な褒め方、叱り方ができるのです。

長所を認めるから短所を正すことができるトレーナーの岡村靖は、中国の工場では特に叱ることよりも、褒めることに重点を置いてコミュニケーションをとっていたといいます。

1つ叱ったら、10個褒めるくらいの感覚だったとか。トレーナーの山田伸一も厳しく叱るだけでは、部下は育たないと断言します。

「同じようなやり方で、金太郎飴のような同じ人材をつくることなど不可能です。個性は千差万別なので、いいところを見つけて褒めてあげる。長所を認めると、その人の短所も指摘しやすくなります。

信頼関係ができているから、相手も『ここは直さないといけない』と思ってくれるのです」あら探しをするより、良いところを探して褒める。

そのくらいのほうが、部下との関係はうまくいき、部下もすくすくと育っていきます。小さなアイデアでも褒めてあげれば、「次はこんなことを考えてみました」と次々とアイデアを出してくれるようになります。

1つ褒めると、10倍になって返ってくるのです。

06〝四季〟のある上司になれ

見て見ぬフリがいちばんいけない人を育てるうえで褒めることは重要ですが、ケースによっては、厳しく叱らなければならないときもあります。

たとえば、風紀が乱れていたり、たるんだ空気が職場に漂っているとき。職場の雰囲気がゆるんでいると、部下の安全に関わるような事故につながることもあります。

だから、そのようなケースでは叱りつけることも必要です。トレーナーの村上富造は「上司は、本来〝四季〟のある人になる必要がある」と表現します。

「叱るべきところは厳しく叱り、褒めるべきところは手放しで褒めてあげる。悩んでいるならやさしく包み込んであげる。そんな上司に人はついてくるのだと思います。

村上がトヨタ工業学園で指導員をしていたとき、授業中にふざけて他の学生に迷惑をかける生徒がいました。

そんな生徒には、なぜそんな態度をとるのか、彼の話に耳を傾けたうえで『でも、迷惑をかけてはいけない』とぴしゃりと注意する。相手の言い分を聞いてから叱れば、たいていは素直に注意を聞くものです。それは、職場でも同じ。

部下を育てたいという気持ちが少しでもあるのなら、見て見ぬフリがいちばんいけません」昨今では、褒めるコミュニケーションがもてはやされ、褒めて伸ばすのが上司のあり方だと勘違いしている人もいますが、本来、叱るのも上司の大事な役割なのです。

叱るときは逃げ道をつくってあげるトレーナーの岡村靖は中国で指導をした経験から、褒めること、叱ることの大切さをさらに痛感することになったといいます。

「中国人は、一般的に日本人よりもプライドが高いと感じました。だから、人前で叱ることは彼らを傷つけることになり、逆効果になります。だから、個別に呼び出して叱るのが原則です。反対に、褒めるときは、そのプライドをくすぐるように、できるだけ人前で『よくやった』と褒めてあげる。10人の前で褒めれば、その効果は10倍になります叱るときは、その場で叱るのが鉄則です。

「あのときはダメだった」とあとになって言われても、「なんでいまさら過去をほじくり返すようなことをするんだ」と思われるだけで、部下は聞く耳をもちません。

叱るチャンスは、そのときにしかないのです。また、叱るときは逃げ道をつくってあげることが大切です。一方通行で、理論で攻め立てられると、逆切れしたくなるのが人情です。

「このやり方をしていたから、ダメなんだ」と断定するのではなく、相手の言い分も聞いてあげるのです。

「あなたはどうして、それが正しいと思ったのですか?」「あなたが逆の立場だったらどう思いますか?」言い訳を聞き、「そういう考え方もあるけど」と理解を示してあげてから説明すると、部下もすんなりと聞き入れてくれるようになります。

07社員のスキルを「視える化」せよ

情報をオープンにすることは〝ニンジン〟になる

部下をどうやってその気にさせるかは、上司の大切な役割です。そのために、〝ニンジン〟をぶらさげることも、ときには必要です。

ニンジンといっても、賞金や表彰といった金銭や名誉だけとはかぎりません。「情報を与える」ことも部下にとってはニンジンになります。

トレーナーの岡村靖は、「部下がどんな情報を欲しがっているかに気を遣っていた」といいます。

「情報、方法、手段などをできるだけ出してあげるようにしていました。特に、会社がどういう方向に向かっているのか、課が抱えている問題などはオープンにしたほうがいいでしょう。

情報をオープンにすることで、部下は信用してくれますし、なんのために働いているのかを意識して仕事ができるので、モチベーションアップにもつながります」

たとえば、残業が続いている部下から「最近、残業が多すぎませんか」という不満が上がってきたとします。そのときに、このように説明すれば、部下は理解してくれるのではないでしょうか。

「お客様が商品を待っている。あと○千台をつくらないと、お客様をお待たせすることになり、他社の商品に流れてしまう」「お客様の注文はこれだけなので、○日までがんばれば作業は一段落する。

だからこの日まではがんばってくれないか」このとき、「上からの命令だから、とにかくがんばれ」「売れているんだから、感謝して働け」と言うだけでは人は動きません。

トヨタでは、プロセスや問題、結果、知恵などあらゆるものを「視える化」して改善や問題解決へとつなげていきますが、部下への情報を視える化することも大切にしているのです。

全員の顔写真や表彰状を貼り出してモチベーションアップ!

トレーナーの中島輝雄も、情報をオープンにすることが部下のモチベーションにつながると考えています。

「私が課長をしていたとき、課の全員の写真を会議室の壁に貼り出しました。ベニヤ板4~5枚のスペースだったと思います。

各人の写真のわきには、どの部署で働いているか、どんな仕事ができるか、どんなスキルをもっているか、どのインフォーマル活動の役員をやっているかといった情報も掲示しました。技能顕彰をとった社員がいれば、その表彰状を貼ったりもしました。

表彰状が貼ってあったりすると、みんなが『すごいな』と言ってくれるので、褒められる機会も増えて、モチベーションも上がっていきます」みんなの顔が見えるようにすることで、一人ひとりが「まわりの人は自分を見てくれている」という感覚をもつことができます。

つまり、「大事に思われている」と思わせる効果があるのです。

また同時に、他人に興味をもつことにもつながり、人材の交流や職場の活性化にも役立ちます。このやり方は、トヨタ以外の指導先でも効果を上げていると中島はいいます。

「組織が小さい会社でも、このような視える化は効果的です。ワンフロアで顔が見える職場で働いていても、意外と他の社員がどんなスキルをもっているかといったことは見えていないものです」たとえば、パソコンスキルや資格など社員のスキルなどをあきらかにすることで、「この仕事は、○○さんに相談してみよう」というように人材活用の機会や仕事の幅が広がっていくケースもあります。

このように「スキルの視える化」を図ることは、人材育成や活用のうえでさまざまな効果があるのです。

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