CHAPTER3やる気が育つトヨタの教え方
01「答え」を教えるな。「目的」を教えろ
言われたとおりにやるな。文句を言ってこい
最近の若者は、指示待ち人間が増えているといわれます。つまり、上司から言われたことしかせず、それ以上、仕事の付加価値を高めることをしない。つまり、自分で考えることをしないのです。
しかし、これは「最近の若者は……」という言葉で片づけてはいけないのではないでしょうか。指示待ちの部下になってしまうのは、上司にも責任の一端があります。
「ああしなさい」「こうしなさい」とすぐに答えを与えていないでしょうか。上司の導き方しだいでは、部下は指示待ち人間ではなく、自ら考え行動する主体的な人間になります。
トレーナーの加藤由昭は、自分の部下にこのような言葉をかけて叱咤してきたといいます。
「どんどん文句を言ってきなさい。言われたとおりに行動するやつは私の部下ではない。会社や上司の指示に従って動くだけの部下はいらない」少し厳しい言い方ですが、主体性をもって仕事に取り組まない部下(=指示待ち人間)は育たないという危機感のあらわれです。
上司がいなくても、自分で答えを出せる部下を育てるには、部下が自らの問題としてとらえ、考えなければいけません。
「だから、私の部下には文句を言う者が多かった。私が『右に行くぞ』と言ったら、『左に行く』と言う社員も多くいました。
誤解してほしくないのは、自分勝手なわがままを言うということではなく、『自分の意見がこうだ』と言える人になってほしいということです。
だから、自分の意見をぶつけてきた部下に対しては、正面から受け止めて徹底的に議論しました。もちろん、急を要する場面では部下を説得してこちらのやり方を貫きますが、部下が間違った意見を言ってきたとしても、よく考え抜いたうえでの意見であれば、部下の言うとおりやらせるようにしていました。
たとえ失敗しても、自分で考えたうえでの失敗なので、同じ過ちは繰り返しませんし、次の仕事につながります」答えを与えてはいけないトヨタの上司は、すぐに答えを与えるようなことはしません。部下に考えさせる機会を与えます。
加藤は、部下から相談されたときは、すぐに答えを与えずに、「目的」をはっきりさせることが重要だといいます。
「これをやりたいのですが、どうでしょうか?」と相談されたら、「どうしてやりたいんだ?」と問いかけます。つまり、その行動をする目的をはっきりさせるのです。
目的を明確に答えられれば安心ですが、答えられないと途中で行き詰まる可能性があります。
たとえば「不良をゼロにする」という目的が定まっていれば、あとはそれに向けて何をするか、どこまでやるかを自分で考えられます。「こんなやり方もある、あんなやり方もある」と手段もわかってきます。
しかし、目的が見えていなければ、何をどうやればいいのかわからなくなり、結局言われたとおりにやるしかありません。
大切なのは、部下本人が自分で考えて行動することです。上司に言われたとおりにやっていたら、壁にぶつかるとすぐにあきらめてしまいます。しかし、自分で決めたら乗り越える方法を考えます。
「私は部下に、自分で考えて、気づいて、決められる社員になってほしいと考えていました。これが『文句を言ってこい』と私が言い続けた真意です。
私は部下と何度もぶつかり合いましたが、文句を言ってくる部下のほとんどは、結果的に昇格するなどステップアップしていきました。
それは、彼らがつねに自分で考えることを習慣にしていたからです」人の脳は、「問い」を入力されると、自動的に「答え」を出力しようとします。
逆に、「正しい答え」を教えてしまったら、相手はそれ以上考えなくなる傾向があります。自分で出した答えは、他人が説得して押しつけた答えよりも、納得した状態で行動に移すことができます。
「言われたとおりに仕事をしろ」では人はついてきません。「仕事をやらされている」という意識ではなく、「自分で知恵を出し、自分でつくり出す」という意識に変えると、がぜん仕事は楽しくなります。
「決められたことを守る」のではなく、「自分で決めたことを守る」ようにさせると、人はついてくるのです。「教えない」という教え方もあるのです。
上司は自分なりの答えをもっておくOJTソリューションズのトレーナーは、上場企業など大手企業の指導に訪れることも多くあります。
改革するためのプロジェクトメンバーに選ばれるような人は、学歴が高いエリートの人も含まれています。彼らは仕事や知識を覚えるスピードは速いけれど、応用が利かない傾向にあるといいます。
自分で考えるというプロセスを踏んでいないので、理屈はわかっていても、実際には現場で応用できないのです。だから、トレーナーは、ヒントを与えながら、現場で考えさせます。すぐに答えを与えずに、考えさせるのです。
「どうしたらいいでしょうか?」と答えを求めてくるクライアントの社員は、一時的に成果を上げても、その場かぎりで終わってしまいます。
一方、「こんなやり方をやってみたのですが、どうでしょうか」と自分なりの答えをもって相談に来るクライアントの社員は、成果が10倍変わってきます。
そういうクライアントの社員には、褒めたうえでさらにヒントを与えると、どんどん伸びていくのです。こうしたやり方は、たしかに時間がかかります。
しかし、ひとたびやる気がある人が自分で考えるようになると成長のスピードがグンと上がります。トレーナーの山田伸一もまた、若い頃、自分で考えることを徹底させられたといいます。
「先輩たちは、仕事の基本は教えてくれるけれど、『あとは自分たちで考えろ』というスタンスでした。おまえがいいと思うならやってみたらいいと。自分たちで考えたことがうまくまわり続けていればそれが正解だ、というわけです」トヨタでは正解を教えるだけではありません。
決められた正解以外のことを部下に考えさせる文化があるからこそ、応用の利く社員が育つのです。ただし、部下に考えさせるだけでなく、上司はそれに対して自分なりの答えをもっていなければいけません。
部下に仕事を任せることは、権限を委譲し、責任をとることです。部下に仕事を任せきってしまい、まったく自分で考えていない上司は、部下が答えをもってきたときに、適切な指導ができません。
数値目標やノルマを出して、「がんばれ、がんばれ」と言っているのは、ただの応援団。上司は自分で一生懸命に考えて、いつも自分なりの答えをもっておくことが大切です。
02面倒な部下から育てなさい
ひとくせある人を育てれば百人力
組織には、成果をどんどん出して組織を引っ張っていく人もいれば、なかなか組織や仕事になじめず、成果を出せないでくすぶっている人もいます。
多くの会社では、いわゆる「できる人」ばかりを評価し、重宝しがちです。もちろん、成果を出している人を評価するのは大切ですが、それだけでは、組織全体の力は頭打ちになってしまいます。
「トヨタには、実力があるのに埋もれている人を引っ張り上げる上司がいた」とトレーナーたちは一様にいいます。
トレーナーの土屋仁志もまた、「組織には必ずひとくせあって、上司に煙たがられていたり、孤立している人間がいる」といいます。
「トヨタのときもそうでしたが、指導先でコンサルティングをしていると、実力があるのに埋もれている人がいます。まわりから『あいつはダメだ』という評価であっても、話してみると自分なりの意見やすごいアイデアをもっている人がいるのです。こうしたタイプの人間を伸ばしていくのも上司の大切な役割です」
土屋は、組織には大きく分けてA・Bの2つのタイプがいるといいます。Aタイプの人は、上司の言うことを聞き入れて、素直に業務を遂行してくれる人。よくいえば従順、悪くいえば平凡。
使い勝手はいいのですが、自分からアイデアを出したり、リーダーシップを発揮する力には劣るタイプです。日本人の大多数は、こちらのタイプだといえます。一方、Bタイプの人は、ひとくせあって、ときに上司に意見を言って、たてつくような部下。
こうしたタイプは、上司にとっては面倒で目障りな存在なので、組織の中でも孤立しがちです。しかし、土屋は「こうしたくせのあるタイプから育てると、組織はどんどん良くなっていく」と断言します。
「上司によっては、こうしたタイプの人間を後まわしにする人もいますが、私は、真っ先に孤立している〝問題社員〟から育てるようにしていました。
Bタイプのような人は、自分の考えをもっているから、『ここがおかしい』『その意見には反対だ』と意見を言ってきます。
つまり、上司にかみついてくるような人は、良い悪いは別にして『信念』をもっています。逆に言えば、Aタイプの人は、あまり考えておらず、自分の意見をもっていないから、何も言わずについてくるのです。
だから、Bタイプのような人をひとたび味方につければ百人力。よく考えているから、アイデアも豊富だし、リーダーシップも発揮できる。
こうしたタイプの人をうまく活かすことができれば、多数派であるAタイプの人を引っ張っていく存在になってくれます」土屋は、コンサルティングで指導先に入るときも、いわゆるBタイプの人から、優先的に伸ばすことを考えるといいます。
「ある指導先の現場をまわっていると、30代の男性社員Cさんが目に入りました。他の人と協力せずに、黙々と作業を続けている。『近寄らないでくれ』というオーラを醸し出していました。まわりの人に聞いてみると、やはり彼も一匹狼のタイプでした。上司に反抗的な態度ばかりをとるので煙たがられて、お荷物扱いされていたというのです。私は、最初に彼と2人きりで話をしました。
『俺は、キミたちの職場を働きやすくし、会社を良くするために来た。キミをいじめるために来たのではない。キミの力を貸してほしい』と率直に話し、彼の意見や不平不満に黙って耳を傾けました。
そして、まずは職場の整理・整頓からはじめようという提案をしました」しばらく経ってから、土屋が再びこの会社を訪れると、Cさんがいる現場は、きちんと整理・整頓がなされ、見違えるように生まれ変わっていました。
土屋が与えていた宿題以上の成果を出してくれたのです。聞くと、Cさんが率先して、7~8人の他のグループの従業員と一緒に整理・整頓をしたといいます。Cさんは、これまで散々、上司にダメ出しをされ続け、相談できる相手がいませんでした。
しかし、土屋が親身になって彼の話を聞いてあげたことで、「この人は味方だ」と思ったのでしょう。
「認める」からはじめる
トレーナーの村上富造は、トヨタが運営する「トヨタ工業学園」の高等部で7年間、指導員を務めたことがあります。
トヨタ工業学園では、通常の高等学校で学ぶ勉強のほか、トヨタの生産現場で実務経験を積むことができ、卒業生のほとんどはトヨタに入社することになります。
村上は、学園での指導員の経験を通じて、孤立したり反発したりするなど問題を抱えている人に対しては、「不平不満を聞くことが第一だ」と学んだといいます。
「トヨタ工業学園で学ぶのは、10代の男子生徒ばかりでしたから、なかには指導員に反発したり、問題を起こす生徒もいました。しかし、根っから悪い子はいません。
彼らは、何かを表現したいだけで、若さゆえにその表現のしかたが間違っていたにすぎません。そういう子に対しては、上から押さえつけずに、とことん聞き役に徹してあげる。すると、少しずつ心を開いてくれて、こちらの話も聞いてくれるようになります。
これは、会社のいわゆる面倒な部下にも当てはまることです」村上は、「ひとくせある部下にも機会を与えることが大切だ」ともいいます。
「トヨタ工業学園で指導した生徒の中に、いたずらや悪さばかりして、集団の規律を乱す子がいました。まわりの指導員や生徒も問題児扱いをして、腫れ物に触るような対応をしていました。
しかし、この子の話に徹底的に耳を傾けたところ、彼は目立ちたがり屋なだけで、その表現の方法がわからないでいることがなんとなく理解できたので、私は彼にひとつの役割を与えました。
普段は、私が生徒に指示する内容を黒板に書くのですが、その情報を彼に先に与えて、黒板に書き写すように頼んだのです。
彼は『先生がどうしてもと言うなら仕方ないな』と言いながらも、その役割を毎回こなしてくれました。彼の目立ちたいという欲求が満たされたのでしょう。
素行の悪さが目立たなくなり、授業にも真面目に取り組むようになりました。この彼は、いまでは立派なトヨタマンとして活躍しています」ひとくせあるタイプの部下は、どの企業にも存在しているものです。
ほとんどの上司は、こうしたタイプから目を背けたがりますが、真正面から向き合うべきです。上司だって人間です。ときに間違ったことを言うこともあるでしょう。だから、素直に部下の声に耳を傾ける。
上司に意見を言ってくるような人は、ある意味、「SOS」を出しているともいえます。「こいつは、こういう性格だから」と決めつけずに、不平不満を聞いてあげる。そうすることで、上司を信頼してくれるようになるのです。
03立場と権力では育たない。「理解・納得」させろ
改善は現状を否定するところからはじめる
上司と部下は上下関係がはっきりしているから、上司は権力や権威をかさに着て一方的に指示を出すだけでは、部下はやらされ感を覚えます。
短期的に見れば、上司の言うとおりに動きますが、部下の自主性を重んじないと結局は元に戻ってしまいます。上司が異動したり、辞めてしまったりしたら、元どおりになってしまうのです。
特に仕事ができるリーダーは、結果が読めるうえに、結果にこだわるため、相手を説得しがちです。
トレーナーの岡村靖は、「立場や権力だけでは人は育たない。理解・納得してはじめて成長する」といいます。
「指導先のクライアントに行って、現場を見れば、作業員の動きにムダがあることに気づきます。たとえば、部品の置き場が遠いために、ムダな動きと時間が生じているとします。
しかし、単に『やり方を変えたほうがいい』と言っても、現場の作業員は、毎日やっている動きがベストだと思い込んでいる。
だから、部品を近くに持ってきて改善しても、長年同じやり方でやってきた作業員にとっては、『やはりこれまでのほうがやりやすい』となってしまいます。
半ば強引に改善させることもできますが、数日後には、元の状態に戻ってしまうのは目に見えています」そういう場合は、本人たちが納得するように、客観的な証拠を示してあげることが有効になります。改善は現状を否定するところからはじまります。
改善前と改善後の両方の動きをビデオに撮っておき、それを本人に見せると、どれだけムダが発生しているのかが客観的にわかり、納得しやすくなります。
自分の動作は客観的に見えないものなのです。ゴルフのスイングが、ビデオを見て客観的に分析することで飛躍的にうまくなるのと同じ。
誰でもわかるように現状を「視える化」することによって、はじめて理解・納得できることも多いのです。「相手が納得する」まで続けるトレーナーの清水賢昭は、オーストラリアやインドネシアの工場で現地の従業員に指導した経験があります。
海外の従業員だからこそ、理解・納得してもらうことが大切だったといいます。
「海外の人は、トヨタのやり方に対する偏見や余計な知識がないから、指導しやすい面もありました。白地のキャンバスに絵を描くようなものですから。
しかし、しっかり説明して、『相手が納得する』まで言わないと、その場で『はいはい』と言うだけです。それでは音頭の合いの手にすぎず、すぐに手を抜いてしまったり、自己流でやりはじめたりします。
だから、標準作業を徹底的に守ってもらうことに集中しました。現地の班長と一緒に標準作業をやって、不良が出ないことを納得してもらったら、それを彼の部下に伝えてもらいました」「なぜこんなことをしないといけないのか」と標準作業に疑問を呈する従業員がいたら「お客様に良い商品を届けるために必要な作業なのだ」と根気強く説明し、納得してもらう。
1年間はまさに理解・納得してもらう作業の繰り返しだったといいます。こうした地道な理解・納得させる努力によって、工場のラインがスムーズに動き、高品質のモノを生み出せるようになるのです。
理解・納得を怠り、部下が職場放棄清水が理解・納得してもらうことの大切さに気づいた原点のひとつが、班長になったばかりの頃の苦い経験です。
「クラウンをつくっているとき、ある部品を工具で締めつける作業を前の工程の人が1日に何回も忘れていました。
すると、部下の一人が『もうやっていられるか!清水さん、前の工程の人にちゃんと指摘しているんですか?』と班長である私に対して怒りをぶつけてきました。私も、忙しかったし、前工程には注意もしていました。
だから、『うるさい!俺だってちゃんとやっている!』と怒鳴ったら、その部下は職場放棄して家に帰ってしまったのです。
結局3日間、部下が欠勤したので、私がラインに入って部下が抜けた穴を埋めるハメになりました」清水はこのとき、大いに反省することになりました。
「前工程に問題があることは明確だったのに、『言っておいたから』としか部下に伝えていませんでした。
本当は、前工程の人に対して、どうして部品を締めつけるのを忘れるのかを考えてもらわないといけなかったのです。
そして、部品を1個締め忘れると、後工程の人が苦労するということを伝える必要がありました。つまり、部下にも前工程の人にも理解・納得してもらうための労力を惜しみ、本人たちの気持ちを重んじなかったのです。
結局、私の上司が職場放棄した部下の実家まで説得しに行って、職場に復帰したのですが、私は理解・納得してもらうことが大事であることを身をもって知ったのです」
04「動く」のではなく「働き」なさい
「付加価値の源泉は何か」を教えてあげる
トヨタでは、「動いているけど、働いていない」という言い方をすることがあります。つまり、体は動いて忙しそうに見えるが、価値を生むような生産的な動きになっていなければ、働いているとはいえないという意味です。これはトヨタ生産方式の基礎をつくった大野耐一の言葉です。
同じ会社の中でも、なんの価値もない作業をして、「忙しい、忙しい」と言っている人が数多くいます。これが、まさに単に「動く」という行為です。
トレーナーの清水賢昭が指導していたクライアントの営業マンは、まさに「働く」ではなく「動く」になっていました。
あるコンピューター機器メーカーA社の営業マンは、家電量販店を営業するときに、とても非効率的な動きをしていました。
まず、売り場を見に行き、自社商品の売れ行きをチェックしてからバックヤードに不足している品物をとりに行き、棚に補充するのが日課になっていました。
ところが、棚からバックヤードまでは片道5分かかります。往復10分を移動に費やさなければいけません。そこで、清水はこう問いかけました。
「あなたの一番の仕事は何ですか?何をやると付加価値が生まれますか?」納得しなければ部下は動かない営業マンにとって、一番大事なのは、売り場の責任者の時間を確保し、商談をすること。
できるだけいい場所に自社商品を置いてもらったり、新製品情報を提供して多く注文をもらうことによって、売上を伸ばすことができます。
バックヤードまで片道5分かけて商品をとりに行くのは価値を生み出さないムダな時間です。品物を出すのが営業マンの最重要な仕事ではありません。その往復10分の時間を商談に充てたほうが売上につながります。
一度売り場に行く前に、事前にバックヤードから品物をピックアップし、補充が必要なものだけ棚に置いてくればいいのです。
そうすれば、売り場とバックヤードをムダに往復する必要はありません。清水はこうしたことを教えるときも、「相手が納得するような言い方をしないといけない」といいます。
「どんな仕事でも、相手が納得しないと、教えても元に戻ってしまう。腑に落ちるような説明をしないといけません。納得させるには、相手に考えさせることが必要です。
『2回も売り場とバックヤードを往復していたけれど、なぜ?』『営業マンの大事な使命は商品の補充?それとも商談をすること?』というように相手が気づくように導くのです。
また、場合によってはストップウォッチなどを使って、実際に移動に費やしているロス時間を測って、客観的なデータを使って説得することもあります」高学歴の人でも、ただ動けばいいと思っている人がたくさんいます。そういう人は、「動いているけど、働いていない」という状態になりがちです。
しかし、自分たちの頭で考えて納得すれば、他の仕事にも応用でき、仕事の成果も何倍にもなるのです。「あなたの一番の仕事は何ですか?何をやると付加価値が生まれますか?」という質問は、あらゆる仕事で問われるべきものです。
05やれること、やりたいこと、やってほしいこと
紅一点の女性社員、「女組長になりたい!」
トヨタには「三現主義」という考え方があります。理論やデータも大切ですが、それよりも「現地・現物・現実」を見てから判断したり、報告したりすることがトヨタでは基本となっています。
たとえば、ある商品がある店舗でよく売れているというデータが上がってきたとします。データだけを見れば、喜ばしい報告ですが、実際に現場を見てみなければ、本当のことはわかりません。
もしかしたら、ライバル会社の商品がたまたま品切れで、隣に並んでいた自社商品をお客様が買ったのかもしれません。つまり、喜んで買ったのではなく、仕方なく買った可能性があります。
こうした真実は、現地・現物・現実を目の当たりにしないと見えてきません。「三現主義」は、部下の育て方についてもいえることです。上司は部下のことを知らなければ、マネジメントすることはできません。
1980年代後半、男女雇用機会均等法の施行とともに女性の社会進出が一般的になり、トヨタの工場にも女性従業員が入社してきました。
トレーナーの中島輝雄が当時、工長を務めていた部署にも高卒の女性社員Aさんが入ってきました。当時、トヨタの生産現場は完全に男社会だったので、入社するAさんも、また受け入れるほうも大変だったといいます。
Aさんは、入社前の健康診断で貧血と診断されて、3週間の通院と自宅療養を余儀なくされました。
元気になって出社してきたAさんは、150センチ足らずの小さな体格でしたが、職場の期待は高く、彼女を温かい拍手で迎えました。
職場に慣れてきた頃、中島はAさんと面談をして、3つの質問をしました。これは部下を知るための質問です。
「やれることはなんですか?やりたいことはなんですか?私は、これをやってほしいと思っていますが、どうですか?」すると、Aさんは、やれることとして「簿記とそろばんができる」と答え、やりたいこととして「女組長になりたい」と答えました。
大きな志と情熱をもって入社してきたことを中島は知ったのです。そこで、中島は「彼女を辞めさせるわけにはいかない」という思いをますます強くしたのです。
結果まで見せないと人は動かない
早速、中島はAさんを辞めさせないための体制づくりに取り組みました。それまでの工場のラインは、男性が作業しやすいようにつくられていました。
小柄なAさんにとっては、高い位置にある作業台で部品を取り出すのは大変な苦労で、また、重くて硬い安全靴によって、ひどく足が疲労している様子でした。
そこで、他部署や外部メーカーの協力を得て、作業台の高さを低くして、床にクッションマットを設置することで、作業環境の改善を行ないました。
また、部品などの入った箱は20キロを最大の重量としていたのですが、女性の体力に合わせて10キロを最大にするようにしました。
これまで働いてきた男性社員にとっては、女性に合わせることで、これまでとやり方を変えなければいけませんし、手間が増えることにもつながります。
従業員の5%くらいからは、「なんでたった一人のためにそこまでする必要があるんだ」というあからさまな反発もありました。
しかし、中島は「女性従業員が入ってくることは改善のチャンスだ」と考えたといいます。
「たとえば、部品の入った箱を10キロに減らすことで、1回で運べるものを2回に分けて運ばないといけません。
しかし、男性にとっても、1回で運ぶものが軽くなれば体に負担がかからないので楽です。また、箱が小分けになることで手持ちの在庫が減るというプラスの効果もある。だから、2回に分けても時間をロスしないような方法を考える。これまでの改善とは違う次元の知恵が出てきて、現場は進化していきます。
私が率先して改善に取り組み、男性も女性も働きやすい職場をつくるという結果を見せることで、まわりの不満を吸収することができました。
『あれをやれ』『これをやれ』と指示だけ出しても部下は動きません。結果を見せるところまでやって、はじめて人は動くのです」多くの人は変化を嫌います。
しかし、大きく環境や人が変わるということは、改善のチャンスでもあり、それを通じて人を育てていくことにもつながります。中島は、入社1年目のAさんにQCサークルのリーダーをやらせたといいます。
与えたテーマは、「溶接現場における女性の働き方」。彼女が従事していたのは溶接の現場だったので、溶接のときに出る紫外線で髪が焼けて赤くなってしまう恐れがありました。
女性にとっては、髪が焼けてしまうのは一大事です。そこで、帽子やヘルメットの形状を変えるといった改善案が出されました。
髪が焼けてしまうのは、男性にとっても好ましいことではありませんから、こうした改善案は、職場全体の働きやすさにもつながっていきました。
結果的に、彼女がリーダーを務めたQCサークルのチームは、部の大会で1等賞をとり、部代表として工場大会にも出場しました。
女性社員がチームマネジャーの駅伝大会で大躍進中島が「Aさんの『女組長になりたい』という思いを実現するには、どう支援すればいいか。
どんな組織、ネットワークにすればいいか」を考えて環境づくりをしてきた結果、Aさんは、その後も中島の課で働き続けました。
トヨタ主催の駅伝大会でのこと。中島の課も駅伝チームを送り出すことになり、「工場で一番になれ」と号令をかけました。
そして、Aさんを駅伝チームの責任者(チームマネジャー)に任命したのです。メンバーはチームマネジャーのAさんと目標を共有して、密にコミュニケーションをとり、強い結束力を武器に練習に励みました。
すると、前年の17位から、見事70チーム中、第3位に大躍進したのです。職場でのチームワークやまとまりの良さというのは、おのずと仕事以外の活動にもあらわれます。駅伝での好成績は、女性従業員が入ってきた職場が、まさに一つになった証拠でもありました。
部下がどんな情熱をもっているのか、どんな考えをもって働いているのかを、上司は部下と接点をもって知っておかなければいけません。それらを把握しておくことで、はじめてその人の能力を引き出し、成長させることができます。
ここでは女性従業員を例として挙げましたが、職場における性別、人種、雇用形態が多様化しているいまは、特に重要な視点です。
この話には後日談があります。中島の元にAさんから年賀状が届いたそうです。
「年賀状には『組長になりました』と書いてありました。組長とは班長より上の職制で数人の班長とその部下を率いる立場。見事、自分の目標を実現したのです。
先日、Aさんの現在の上司を通じて10年ぶりに再会を果たしました。彼女は『最初、男性の部下が指示を聞いてくれるか不安だった』そうですが、職場の上司や先輩、同僚たちのサポートもあって、なんとか切り盛りできているとのこと。
『一生懸命に役職を全うします』と笑顔で話してくれたAさんの表情を見て、トヨタの人を育てるDNAがいまも引き継がれていることを実感しました」
06聞く→見る→体験する
座学と実践はワンパッケージ
部下に口頭で知識を教えるだけでは、本当に教えたことにはなりません。トヨタには、「やってみせ、やらせてみせる」という考え方があります。トヨタでは、座学だけで終わるということはありません。
座学だけでは、どれだけ理解しているかわかりません。ほとんどの人は、数日経てば忘れてしまうでしょう。だから、教えたことはできるだけその場で実践してもらうのが鉄則。
やってみせ、やらせてみせるのです。ある程度の知識は、インターネットで入手できる時代です。また、お金を払って学校や研修に参加すれば知識は得られます。
つまり、知識の多くはお金で買える。しかし、実践から得られる「知恵」は、お金では買えません。
現場でやってみて、訓練を受けてみて、はじめて得られます。あまり良いたとえではありませんが、「80度のお湯に手を突っ込むと火傷する」ということを子どもにいくら言い聞かせても、完全には理解しません。
80度の湯に手をつけて「熱い」と実感し、はじめて「熱湯に手を入れてはいけない」という知恵を肌感覚で身につけることができるのです。
トレーナーの岡村靖は、「実践がともなわない座学は意味がない」といいます。
「座学と実践は1つのパッケージで考えなければいけません。クライアントを指導するときも、座学の直後に実践してもらうようにしています。
当日が無理なら、翌日などにできるだけ早くやってもらう。スルメも見ているだけではおいしくない。かめばかむほどおいしくなる。
それと同じで、座学だけではわからないことも、実際にやってみると見えてくることがあります」つまり、「聞く→見る→体験する」ところまでやらないと、せっかく座学で教えたこともムダになってしまうのです。
それは、張富士夫名誉会長の次のような言葉にもあらわれています。
「人を育てるには、仕事のプロセスに従って、何度も繰り返し、仕事をさせて体感させていくことが大切だ」上司は「やり続ける」ことではじめて教えられる部下に対して、口頭で伝えただけで教えたつもりになっていないでしょうか。
部下に知識やノウハウを教えたら必ず実践させなければなりません。
たとえば、営業マンに効果的な商品説明のしかたを教えるのであれば、知識として教えるだけではなく、実際に商品説明をさせてみる。あるいは、営業の現場に同行して、お手本を上司が自ら示してあげたり、部下に実践させてみたりする。
こうしたOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)による訓練があって、はじめて人は育つのです。ただし、上司の立場になる人は、「聞く→見る→体験する」だけでは十分ではありません。
「聞く→見る→体験する→やり続ける」までやらないと教えられるようになりません。「やり続ける」ことによって、自分自身が現場で十分な経験を積んでスキルを身につけないと、教えられるレベルにまでは到達しないのです。
07「現象」で見るな。「意志」を見ろ
「ラインが止まりました」より「ラインを止めました」を評価する
多くの上司は、現象そのものを叱ります。たとえば、組立ラインがトラブルで止まったとしましょう。トヨタでは60秒に1台というペースで車をつくっているので、もし10分間ラインが止まると、10台分の約3000万円の売上を逃すことになります。
本来10分もラインをストップさせることはやってはいけないことなのです。だから、10分ラインが止まったという現象だけをとらえて、ほとんどの上司は部下を叱ります。
トレーナーの岡村靖が課長を務めていたとき、彼の上長である部長は少し違う視点をもっていました。生産ラインがトラブルで止まったときのことです。
「部長に報告しに行ったとき、『ラインが止まりました』と言ったら、『なんで止まったんだ!』と激怒されました。私が理由を確認することなく、報告に来たことをとがめたのです。
次に、ラインが止まったときは、『ラインを10分間止めました。このままだと不良が続出することが予想されたからです』と報告しました。すると部長は、叱ることなく、『よくやった!』と言ってくれたのです」
現象の良し悪しで叱っていないか「ラインが止まりました」には意志がない。現象を報告したにすぎません。
一方、「ラインを止めました」には明確な意志があります。部長は、ラインが止まった原因と対策までわかったうえで止めたのであれば、それは正しい判断だと考えたのです。
岡村は、この出来事があってから、「自分も上司として、このような判断基準で部下を評価しようと考えるようになった」といいます。
世の中には「うまくいかなかった」という現象そのものを叱る上司がたくさんいます。どんな仕事でもミスやトラブルはつきものです。だからこそ、その原因をしっかり把握し、対策をとることが大事なのです。
起きたことを現象としてとらえる上司と部下ばかりが働く職場では、同じようなミスやトラブルを何度も繰り返すことになるでしょう。
部下のミスを防ぐには、上司が現象だけを見るのではなく、そこに意志があるかどうかを見ることが大切になります。
08会社のメリットだけでなく、本人のメリットも伝える
「こうしなさい」と言うよりも「楽になる」と気づかせる
部下に「こうしなさい」と指導するとき、「会社のためになる」「お客様のためになる」という言葉を使うことがあります。たしかに、それは正しいかもしれませんが、実際には部下の心には響かないものです。
部下に「ここにムダがある。だからこうしなさい」と言っても、その場では言われたとおりにやるかもしれませんが、持続的な行動にはつながりません。
それよりも、「こうすると楽になる」という言い方をしてあげると、納得して行動に移してくれるようになります。
トレーナーの加藤由昭は、ある病院の改善指導に入ったことがあります。
「その病院では、検査業務で目標患者数をこなせない、患者さんの待ち時間が長いという問題が起きていました。
検査業務が行なわれているフロアを観察していると、これから準備室に入る人と、検査室に入る人が1カ所に集められ、入り交じる状態になっていました。だから、看護師さんが『〇〇さん!』と大きな声で呼びながら患者さんを探していました。
そこで、フロア内にある椅子をグリーンの椅子とピンクの椅子に分けて並べ、準備室に入る人はグリーンの椅子、検査室に入る人はピンクの椅子に座って待機してもらうようにしました。
そうすることで、『〇〇さん!』と大声で呼びながら探すことがなくなり、人の流れもスムーズになったのです」また加藤は、患者を運ぶストレッチャーが、一度切り返さなければ部屋からスムーズに出せないことに気づきました。
廊下に椅子が置いてあったのが原因でした。そこで、廊下の椅子を別の場所に移動し、スムーズに出せるように改善したのです。
「改善指導にはじめて入るときは、クライアントも警戒しているものです。『面倒なことになるのではないか』『自分たちのやり方を否定されるのではないか』と。
だから、最初にこうすればすぐに成果が出る、楽になるということを肌感覚で知ってもらうことが大事になります」これは、部下を指導するときにもいえることです。
頭ごなしに「こうしなさい」と言うよりも、「こうすれば楽になる」と気づかせることで、部下が動くようになります。
「100円儲けるのと、105円儲けるのと、どっちがいい?」トレーナーの清水賢昭も、自分の部下には、「どうすれば楽になるか」「どうすれば得になるか」というメリットを伝えるようにしてきました。
自動車工場のラインでは、同じ作業を淡々と繰り返すだけになることもあります。売れ行きが良いときなどは1時間で60台つくるとすると、ひたすらハイペースで作業をこなさなければなりません。
当然、作業自体に飽きてしまう人もいます。そういうときは、彼らにメリットを訴えるのです。
「100円儲けるのと、105円儲けるのと、どっちがいい?俺は105円だ。給料だったら20万円と21万円どっちがいい?もちろん21万円だよな。一生懸命、不良を出さないように仕事をすれば、給料がアップして自分に返ってくる」
自分の利益につながることであれば、人は動くのです。
清水はトヨタを退職したあとも、指導先のクライアントで、メリットを示すことによってやる気を引き出しています。
あるクライアントの営業マンは、すべての店舗をまわって家に帰ると午前様。残業が常態化していました。多くの営業マンはこうした状況に不満を抱いていました。そこで、次のように質問していきました。
清水「残業をなくしたいですか?」営業マン「はい、定時に帰りたいです」清水「そのためには、どうすればいいですか?」営業マン「早く売上を上げてノルマを達成することです」清水「売上を上げるためにはどうすればいいですか?」「自分がメリットを得られる状態になるには、どうしたらいいか」という発想をさせることで、いまの仕事で感じている不満を解消することも可能になります。
第二の自分をつくれば楽になる部下を育てるという面でも、メリットを示す方法は有効です。
たとえば、仕事ができるばかりに一人で仕事を抱えてしまい、部下を育てられない管理職は少なくありません。そういう人には、部下を育成することのメリットを伝えるといいでしょう。
具体的には、「仕事ができる人を育てたら、あなた(管理職)に対する会社の評価が上がり、給料も上がる」「あなたの仕事をフォローできる部下を育てれば、あなたの残業時間が減って、家族と過ごす時間が増える」ということを伝えるのです。
第二の自分(管理職)をつくること、すなわち部下育成が自分のためになることを伝えるのも管理職の上司の役割のひとつです。
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