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Chapter2 どんな職場にも取り入れられる デイズニー流のマニュアル

目次

マニュアルはどんな業種、どんな会社でも助けになる

ディズニー流のマニュアルを導入できない企業はない

研修や講演先の企業でディズニーのマニュアルの活用法をお話しする機会があります。するとみなさん、その仕組みに感心されるものの、しだいにこんな本音が飛び出してきます。

「うちはサービス業じゃないからマニュアルは作れない」「営業職が中心だからマニュアルでしばるのもね」「うちは関係ない業態だからさ」と。

たとえば、ある製薬メーカーでは「研究員にマニュアルを守れなんてムリですよ。第一、研究開発にマニュアルは必要ないでしょう」とも言われました。

世の中ではマニュアルと言うと「マニュアル式の型どおりの仕事」といったマイナスイメージを持たれがちですが、どうもビジネスの世界にもアンチマニュアル派の方々が一定層いるようです。

しかし、そこには「マニュアルを作ってルール化すると、面倒が増える」「従業員の自由な発想が奪われる」という大きな誤解があります。

実際には、「マニュアルを作ってルール化すると、物事は簡単になる」のです。マニュアルは仕事の質を均質化して低くしてしまうものでも、働く人を型にはめるものでもありません。

なぜなら、マニュアルは、本来の仕事である「ミッション(役割)」を制限するものではなく、「デューティー(作業)」に関する個人差をなくし、より「ミッション」に力を振り向けるためにあるからです。

どんな職場でも、事務作業や報連相、会議や商談の準備、経費の精算など、型式的な作業やルーチンワークといった、本来の仕事ではない作業(デューティー)が発生するはずです。

こういったものをマニュアルによって効率化することで、仕事の質を上げていくことができるのです。

o,S一o■で見てきたとおり、デイズニーランドのおもてなしを支えているのはマニュアルです。

作業内容と順番を簡潔、明確にすることで、誰が取り組んでもデューティーの結果が変わらない状態を作り出す。

マニュアルはチームが積み上げてきた経験値や効率のいい手順など、作業に必要な常識を「みんなの常識」にする役割を担っているのです。

そう考えると、どんな業種でも、マニュアルは助けになるということが伝わるのではないでしようか。

たとえば、上司が口癖のように言う「あたり前だろう」「そんなの常識だろう」という言葉。どの業界にも暗黙知の常識があり、どの会社にも社の流儀とも言える仕事のやり方があります。

しかし、上司から部下に対してこういうセリフが出てしまっている状態にあるのなら、すでにそのチームは問題を抱えています。

上司にとっての常識、あたり前がメンバーにとってはあいまいなものになっている。

その現実を無視して、「あたり前だから、やれ」「こんな常識的なこともできないのか」とマネジメントしても、チームは機能しません。

重要なのは、リーダーの常識をマニュアルに落とし込むことで「みんなの常識」にして、チームの機能を高めることです。

言い換えれば、家族のなかで「靴下は裏返しのまま洗濯機に入れない」「朝、食事が出てきたら新聞を読むのをやめる」「どんなに慌ただしくても『いってきます』と『おかえりなさい』は言う」といったルールを決めるのと同じ感覚。

これを職場にあてはめれば、「トラブルが起きたらどの時点で誰に相談するか」「全員で共有するべき資料は、社内ネットワークのどこに入っていて、誰がどのタイミングで更新するのか」「顧客への御礼のメールや電話はどのタイミングでするのか」など……。

ひらたく言えば、「僕らの常識を作ろうや!」ということです。ですから、営業職であろうと、技術職であろうと、職人の集団であろうと、マニュアルを作り、共有することはできます。

なぜなら、その目的はチーム全員がデューティーに関する「あたり前」を、常識として語り合えるようにするためだからです。

マニュアルを作ってルール化すると、デューティーを行ううえで迷うことが減り、生産性や効率が上がっていきます。

何人かがチームを組んで仕事をするなら、どんな業種、どんな会社でもマニュアルはチームカアップの助けとなってくれるのです。

マニュアルは10割の人材を戦力にする

では、マニュアルによってチームが常識を共有すると、現場には何が起きるのでしょうか。

よく言われる組織論の「2・6・2の法則」を打ち破ることができます。

「2・6・2の法則」とは、チームの上位2割に生産性が高く積極性のある優秀なグループがいて組織を引っ張り、中位の6割は上位とも下位とも言えない平均的な集団となり、下位の2割に実績、生産性ともに低く積極的に行動しない人材がぶら下がるという考え方です。

しかも、上位2割だけを集めて組織を作ると、再び、そのなかで2対6対2に人材が分布してしまいます。

そこで、余裕のある組織は上位の2割を厚遇しながら、6割の人材に平均点を出させ、残りの2割を支えてもらうような組織運営を行います。

とはいえ、経営者の立場からすれば「もう少し優秀な社員が増えれば……」という感想になることでしよう。

また、5人、10人がチームを組む、各現場レベルでも「あいつがもう少し使えれば……」というのが、リーダーの本音のはずです。

ところが、不思議なもので優秀な社員、スタッフだけを残しても「2・6・2の法則」は再現されてしまいます。

責任感が強く、几帳面な人材が集団を引っ張る役まわりに落ち着き、自分に甘く素直にラクをしてしまう人材がぶら下がっていくのです。

じつは、ウォルト・デイズニーも同じ問題に直面しています。

そこで、彼が考えたのが、デューティーとミッションであり、マニュアルの活用によってぶら下がっている2割をマネジメントし、全従業員つまり、10割の人を戦力化することでした。

ここに、できるリーダーとそうではないリーダー。うまくいく組織とそうでない組織の差があります。なぜなら、この2割を「使えない」と断じて放り出してしまうと、また新たな2割のぶら下がる人材が生じてしまうからです。

全体の平均値を押し上げる

ウォルトはマニュアルによってデューティーを徹底させることで、「2・6・2の法則」を打ち破りました。

最初からすべき仕事が9割できる人も、育てて、育ててようやく6割できる人も、本当はできるのに2割しかやらない人も、問題なくデューティーに関してはクリアできる環境を整えること。

特定の個人の力に頼るのではなく、チームに属するメンバー全体の平均値を押し上げること。この2つの仕掛けによって、チームの機能を劇的に高めていったのです。

そして、デューティーとミッションを足して10割の仕事と考え、内容と順序を決めたマニュアルを守ることで結果が出るデューティーを6割、自分の頭で考えるミッションを4割と位置づけました。

つまり、ディズニーランドではマニュアルという簡潔なルールを作ることで、キャスト全員が最低でも6割の仕事をこなせるようにマネジメントしているのです。

だからこそ、ゲストから見ても、現場のリーダーから見ても、ぶら下がっている2割の存在が目立ちません。もちろん、できるキャストと比べれば力の劣るキャストもいます。

それでも全員が6割の仕事をしていれば、ウォルトの求める「毎日が初演」というクオリティを保つことができるのです。

マニュアルによる業務管理、行動管理と聞くと、非常に堅苦しく形骸化した組織を想像します。

しかし、そこにあるのは「みんなの常識」を共有することで、ぶら下がる2割をも戦力に変えてしまう戦略的なマネジメントなのです。

デイズニー流マニュアルのすごい本質

現場のル‥ルに理念を組づける

ウォルトが考えたマニュアルの位置づけを確認したところで、本章ではあなたが実際にデイズニー流のマニュアルを作り、職場を活性化させるための手順や注意点について解説していきます。

まずは、デイズニー流マニュアルの本質を示している、ひとつのフローチャートを使って解説したいと思います。注目していただきたいのは、「SOP」です。

これは「スタンダード・オペレーテイング・プロシージヤーズ」の略で、ここまで何度も出てきているディズニー流のマニュアルのこと。

では、デューティーを支えているマニュアル「SOP」はフローチャートのどこに位置しているでしようか。

そう、上から4段目ですね。

「世界でいちばん美しい場所」「毎日が初演」という目標を実現するための作業手順の上に、「カストーディアルの理念」があり、「デイズニーランドの理念」があり、「ウォルト・デイズニーの考え」があるのです。

じつはこれこそ、一般企業で使われているマニュアルと、デイズニー流のマニュアルの最大の違いです。

一般的に「この部門のマニュアルを作りましょう」と言ったとき、担当者が考えるのは作業手順であり、その作業の目標や目的まで。視野の広いリーダーがいたとしても、部門の理念というところまででしよう。

ところが、デイズニーではカストーディアル部門であれ、アトラクション部門であれ、フードサービス部門であれ、必ず「デイズニーランドの理念」と「ウォルト・ディズニーの考え」までを紐づけて考えていくのです。

すると、どういうことが起きるのか。

カストーディアル部門で言えば、パーク内の地面やレストルームの清掃、テーブルやベンチの掃除が、たんなる作業ではなく「理想の世界を具現化するための行い」だと意識するようになっていくのです。これは一つひとつの作業への取り組みをよりよい方向へと変えていきます。

カストーディアルは「継続多重清掃」という考えのもと、15分に1回、自分の担当エリアを清掃することが課せられています。

これによって「汚れる前にきれいにする」というスタンダードつまり、常識を維持しているわけです。

これは見方を変えるとぐるぐると周辺エリアを歩きまわり、ひたすら掃除を続けなければならないつらい仕事にも思えます。

しかし、大概の場合、カストーディアルは不思議なほどいきいきと作業に取り組んでいます。なぜ、そんなふうにモチベーションを高めることができるのか。

それはマニュアルであるSOPがウォルトの考えに紐づいているからです。

もし、このつながりが途切れ、「カストーディアル=掃除屋」という図式になっていたら、いくら簡潔でわかりやすい作業手順の書かれたマニュアルがあったとしても、実際に仕事をする一人ひとりの取り組み方には、ばらつきが出てしまうことでしよう。

そのとき目につくのはきっと、いきいきとした表情でオンステージにいるカストーディアルではなく、「マニュアルどおりにやればいいんでしょう……」と割り切ったように掃除をする派手なコスチュームを着た作業員のはずです。

意識せずともウォルトの考えを実現できる

前述しましたが、そもそもカストーディアルは、清掃を担うためだけのキャストではありません。

ウォルト・デイズニーは、「人を最も感動させるのは、人と人とのコミュニケーションだ」と言い、「コミュニケーションの場は、マジカル・チャンスだ」とも語っています。

マジカル・チャンスを作ればゲストは喜びを感じ、キャストと対面して話すことが体験になっていく。だから、コミュニケーションの機会を増やすことが大切だ、と言うのです。

そして、その言葉を具現化しているのが、カストーディアルです。

カストーディアルは、一般的にたんなる掃除人だと思われていますが、掃除はあくまでも担うべき作業にすぎません。

彼らが潜在的に帯びている重要なミッションは、歩く案内係としてゲストとコミュニケートすること。

ですから、パーク内には常にたくさんのカストーディアルが行き交い、一方でレストルームや各アトラクションの入口を示す案内板の数はあえて少なくなっています。

すると、ゲストは「困ったな」と感じた場合、最も身近にいるキャストであるカストーディアルに問いかけます。

そして、カストーディアルも自分の担っている作業を確実にこなしながらも、0,Sけ■の「3つのGive」で触れたとおり、キョロキョロしているゲストを見かけたら気軽に声をかけるよう心がけているのです。

こうしてマジカル・チャンスにつながるフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの場を増やすこと。これはまさにウォルトの考えの実現であり、理想世界の具現化となります。

つまり、カストーディアルのマニュアルに「15分に1回ずつ担当エリアを巡回して清掃しなさい」をはじめとして、7項目ほど清掃すべき対象が書かれているのは、掃除のためでもありますが、それだけではないということ。

デューティーであるスタンダードの維持と継続多重清掃を行わせつつ、常にパーク内を動きまわるよう指示することで、彼らのミッションが自然と実現されるよう仕組まれているのです。

もし、カストーディアルがたんなる掃除屋だと位置づけられていれば、汚れが目立ち、掃除が必要なときだけオンステージに出ればいいという話になっていきます。

しかし、それではゲストとのフェイス・トゥ。フェイスのコミュニケーションの場はがくんと減ってしまうことでしよう。

しかも、オンステージにいる以上、彼らの作業中の姿もまたショーの一部であるとウォルトは考えました。

だから、嘔吐物などの清掃中もしゃがまず、スマートな立ち姿で作業を進めていくようマニュアルに記載されているのです。

それはレストルームの鏡を拭き上げているときも、トラッシュカンのゴミ袋を回収しているときも同じ。

人が人のために働く姿、汗を流す姿、その一挙手一投足も理想のショーの一部なのです。

デイズニー流マニュアルの本質であり、すごいところは、このように日々の業務のなかで置き去りになりがちな理念、理想が作業手順とダイレクトにつながっている点です。

しかも、手順そのものは簡潔にまとめられています。

いきなりハードルを上げてしまったようで驚かれるかもしれませんが、ひらたく言えば「なんのためにこの作業をしているのか」ということを明確にすれば、従業員の作業に対する意識が変わるということです。

たとえば「世界中のすばらしい商品を輸入、紹介することで人々の生活をより豊かにする」という理念を掲げた商社の総務部なら、「営業担当者やバイヤーが気持ちよく働ける環境を総務部が作ることで、よりよい商品をより多くのお客様に届けられるよう貢献する。ひいては、それが人々の生活をより豊かにする。そのために事務作業を効率化するマニュアルがあるのだ」ということを念頭にマニュアルを設計していくのです。

あなたの作るマニュアルがすばらしいものとなるためにも、作業の本質について考えることを出発点としましよう。

伝わらないマニュアルの共通点とは?

「何を」「いつ」やるかが明確でない

ここまで、デイズニー流のマニュアルの位置づけや設計思想についてお伝えしました。ここでは、より伝わりやすいマニュアルを作成するコツを解説していきます。

もし、あなたが小学生のとき、夏休みの宿題をいつまでもやらずに、ギリギリで仕上げるタイプだったとしたら、それは先生の指示に問題があったかもしれません。

私もそのくちでしたが、夏休みは楽しいことが多すぎて、いつどこから宿題に手をつけていいのかわかりませんでした。

大人になってデイズニーランドで働くようになり、そのマニュアルを見たとき、これが小学生時代にあればギリギリに追い込まれずにできたのに、と思ったものです。

なぜなら、そこには明確に「これ」と「これ」を「いつ」やりなさいと書かれていたからです。

宿題の話は私の言い訳ですが、「始業式までにやっておきなさい」だけでは動けない人間も、順番と行うタイミングまでがルール化されていれば、取り組めるようになります。

これは、ビジネスの現場でも同じです。

たとえば、あなたが経理部門の担当者で、毎月社員の経費精算が遅れ、ほかの仕事に影響が出ているとします。

「翌月の5日までに前月の精算をすませなければいけない」というルールはあるのですが、何度言っても守らない人がいる。

こういうことが起こるのは、期日だけが示されていて「いつ」やるか、ということが決められていないからです。

たとえば、「毎月4日の17時〜18時の間に精算する」「もし、該当日時に外せない予定が入っている人は、上司に報告のうえ、3日の17時〜18時の間に行う」と決める。

こうすれば「明日やればいいか」と先延ばししているうちに期限が過ぎてしまった、ということはなくなります。

さらに、作業を行う日時があらかじめ決まっていて、全社員が同じ時刻に作業することになるので「忙しいから」「時間がないから」という言い訳もしづらくなります。

これが社内の「常識」として機能するようになれば、遅れる人は激減するはずです。

「手順」「仕上がりのレベル」があいまい

もうひとつ例を挙げましよう。よく、飲食店の洗面所に「清掃のチェック表」がかかっているのを目にします。

しかし、表にチェツクはついていて1時間ごとに清掃されているはずなのに、なぜか汚れている。こんな経験をした人もいるのではないでしょうか。

なぜ、こういうことが起こるのか?これもマニュアルに問題があります。

先ほどの経費精算のケースと違い、この場合は1時間ごとに清掃を行うということが決められていますし、チェック表にチェックもついているので、清掃は行われているはずです。

こういった問題を抱える飲食店は、次のようなマニュアルになっているかもしれません。

﹇洗面所の清掃(悪い例)﹈1.洗面所のまわりにあるゴミをゴミ箱に入れる2.シンク全体を拭き上げる1鏡を拭き上げる4.ペーパーナプキンを補充する

このマニュアルのどこに問題があるのか。

それは「手順」「仕上がりのレベル」が明確ではないということです。「洗面所をきれいに」と言っても、思い浮かべる「きれいさ」は個人個人異なります。

目立つ汚れを取り除けば問題なしと思っている人もいれば、シンクに水滴ひとつ残さないのがきれいだと考える人もいます。

店長は、すべてをピカピカにしてほしいと考えているのに、蛇国の金属部分に水垢が残っていても、「拭いたところで営業中はまたつくからいいだろう」と見過ごす人もいれば、鏡に映った自分の姿が確認できれば十分にきれいだと考えて、拭かない人もいるかもしれません。

さらに、どのように作業を進めるかも明記されていません。

つまり、「きれいにしましょう」「掃除をしましょう」では、何をすべきかが伝わらず、あなたの望んでいる成果はまず出ないと見ていいでしょう。では、どうすればいいのか。

このような問題を解決するには、「理想の仕上がり」から逆算して、必要な作業を洗い出してそれを分解し、手順を組み立てていくのです。

そうすれば、誰がやっても同じレベルの仕上がりになります。

たとえば、シンクまわりをすべてピカピカにしたいのであれば、次のような手順のマニュアルを作成すべきです。

﹇洗面所の清掃(よい例)﹈1.シンクのまわりに落ちているゴミをゴミ箱に入れる2.洗剤とスポンジを使い、シンクの内側の汚れをすべて取り除く3.水滴が垂れないよう固く絞った布巾の50%を使い、シンクの内側を端から端まで拭き上げる生固く絞った布巾の残り50%を使って、シンクの外側を端から端まで拭き上げる5.乾いた布巾の50%を使い、シンク全体に残った水滴をすべて拭き取る6.乾いた布巾の残り50%を使い、鏡と蛇口についた水垢・水滴をすべて拭き取る7.ぺ―パーナプキンが3分の―以下に減っていたら、残っていても補充する

このマニュアルは、従業員に対する要求が明確で、記された手順どおりに取り組めば、必ず店長が求めている結果にたどり着きます。

マニュアルを作成するときは、「何を」「いつ」「どのように」行うのかということを明確にするよう心がけましよう

マニュアル作成時の注意点

優先順位は明確に。

手順は簡潔に

あなたのいる会社、組織に沿った形でディズニー流のマニュアルを作成するにあたり、必ず注意していただきたい点が2つあります。

ひとつは、「あれは欠かせない」「これも必要じゃないか?」と、項目を盛り込みすぎてしまうことです。

私が企業のマニュアルに関するアドバイスを行うとき、真っ先にチェツクするのもこのポイント。

あまりうまくいってない企業に共通しているのは、要領の悪い上司が部下を指導するときのように、だらだらと枝葉の部分まで書きすぎているところです。

マニュアルの基本は、優先順位を明確にし、簡潔に手順を記載することにあります。

たとえば、のFS一のLで紹介したカストーディアル向けの嘔吐物の処理マニュアルをもう一度思い出してみましょう。

次の6つのステップに分かれていました。

﹇嘔吐物処理のマニュアル﹈1.(嘔吐物を発見したら)ぺ―パーナプキンを被せる2.(凝固効果のある)薬剤をふりかける3.待つ4.スイービングして、ペーパーナプキンごとダストパンに入れる5.嘔吐物のあった場所に(消臭消毒効果のある)薬剤をかける6.ゲストパンを持ってコンテナヘ廃棄に向かう

この作業の優先順位は、ゲストに嘔吐物を見せない、存在を感じさせないことにあります。だから、まずは隠し、次に固め、しまい、臭いを消して廃棄するわけです。

ところが、優先順位について練り込まず、あいまいなまま作られてしまったマニュアルの場合、余計な要素が入り込んできます。

嘔吐物の例にあてはめるなら、「嘔吐物を発見したら、誤ってゲストが踏まないよう注意を喚起する」「すぐにペーパーナプキンを被せ、ゲストに不快感を与えないよう気を配る」など、相反する指示が混在してしまうのです。

これではマニュアルを手にした従業員も混乱してしまいます。

あるいは、「嘔吐物を見つけたらすみやかに処理すること」と、シンプルすぎて逆に要領を得ないケースも多々あります。

これは実際に作業の手順に詳しくないリーダーがマニュアルを作成した場合に起きがちです。大切なのは、そのデューティーにとって優先すべきことは何か。

その本質から考え、出すべき成果から逆算して手順を書き出し、さらにギリギリまで簡略化していくことです。

なんのためにその作業があるのかを考える

たとえば、ディズニーランドの清掃には本当にたくさんのマニュアルがありますが、すべてにおいて作業手順は極限まで分解され、簡略化されて、効率を重視したものになっています。

ただし、すべてのマニュアルには核となる共通する本質があります。

それがもうひとつの注意していただきたい点です。

清掃に関しての本質はウォルト・デイズニーのこの言葉に集約されます。

いつもきれいにしておけば、人はそこを汚さない。でも、汚くなるまで放らておくと、人はますますゴミを捨てるんだ」カストーディアルが守るすべてのマニュアルは、「汚れる前に掃除をする」という視点から考え、計算されて作られたものとなっているのです。

だから、「15分に1回は担当エリアを掃除しなさい」「レストルームは45分おきに巡回しなさい」という指示があり、続いて担当エリアやレストルームでの作業手順へと続くのです。

とはいえ、いきなリディズニー流を実現するのは欲張りすぎかもしれません。

私がコンサルタントとして企業にマニュアルを導入する場合、最初に行うのは実現可能なミッションを提示して、テーム全体で実行することです。

いちばんわかりやすいミッションは、クレームをなくしていくこと。

飲食店などで「トイレが汚い」というクレームがあったら、「トインを気持ちよく使ってもらえるようにしよう」というミッションを示し、そのために必要なマニュアルを作成。

常にトインがきれいな状態を保てるような手順を考えます。そして、それを試験的に導入する。簡素化されたマニュアルはやるべきことが明確ですから、成果もすぐに出てきます。

そして、ひとつでも成果が上がると、現場の雰囲気は一気に変わっていくのです。

初心者をフオローし、即戦力にするための仕組み

「何をすればいいかわからない」をなくす

ディズニーランドには「ジャングルクルーズ」というライドアトラクションがあります。

ボートに乗って熱帯のジャングルを探検するというもので、船長役のキャストのトークが魅力のひとつとなっています。

それだけに、船長をまかされるキャストはベテランだと思われるかもしれません。

私もオリエンタルランド入社後、しばらくの間、ジャングルクルーズの船長を務めていましたが、キャストとしての勤続日数はいっさい関係ありませんでした。

基本的なシナリオは用意されており、ジャングルクルーズに配属されて4日もすると船長デビューが待っています。

これはほかの部門のキャストでも同じで、カストーディアルはより短く、2日目には一人でデビューすることになっていました。

自分の経験を振り返ってもデビュー直後は「怖くてしょうがない」というのが、正直なところ。ゲストに何を聞かれるのか。ゲストに楽しんでいただけているのか。周囲に迷惑をかけていないのか。

おろおろした記憶はほぼすべてのキャストが共有していると思います。この一見、乱暴な人材の登用を可能にしていたのが、内線の存在でした。

デイズニーランドでは、キャストが困ったときの専用ダイヤル「フラッシュ3333」が用意されているのです。

そして、「何かわからないことが生じたときは、ゲストにお待ちいただき、必ずこの番号にかけなさい」というマニュアルが共有されています。

これは、場当たり的な対応によるミスインフォメーションを避けるためにも徹底されていました。だから、パークで働き始めて2日目のキャストでも、一人でオンステージヘと送り出すことができるのです。

たとえば、新人カストーディアルがゲストから「パークから出ている東京行きのバスの最終便は何時ですか?」と間かれたとしましょう。

これはかなり経験豊富なキャストでなければ把握していない情報です。

しかし、ゲストにはできるだけ「わかりません」と答えないのが、ディズニーのやり方です。

そこで、カストーディアルは「少々お待ちください」とゲストに伝えた後、「フラッシュ3333」に連絡します。すると、専任のオペレーターがバスの時刻を調べ、教えてくれるのです。

セーフティーネットを整えれば新人も戦力にできる

私もかつて、このいざというときのためのセーフティーネットと言える仕組みに助けられたことがあります。カストーディアルとしてオンステージに出ていたときのこと。

パレードの始まる前に担当エリアの清掃を行っていると、家族サービスでやってきたのでしょう。40代のお父さんが一人、ベンチで休憩しているところに出くわしました。

「お兄さん、きれいだね、デイズニーランドの芝生は」「そうでしょう!冬でも青々としているんですよね!」そんな調子でしばし雑談を重ねていると、お父さん、急にこう聞いてきました。「ところでさ、この芝生、どこで育てているの?」???です。

そんなこと疑間に思ったこともありませんでした。でも、「わかりません」とは言えません。「すぐにお調べしますね!」「そう、なんか悪いね」「いいえ、少々お待ちください」すぐさま「フラッシュ3333」です。

すると、さすがのオペレーターも「芝生……」と呟いたまま、しばし、無言。でも、そこはプロフェッショナルです。すぐに調べて、「千葉県の※※産」と教えてくれました。

ここで重要なのは、キャストが思考停止状態に陥ってしまいそうな状況に対してもサポートの仕組みが用意されていることです。

しかも、手順は「待ってもらい」「内線をかける」という2つだけ。困つたときにどうすればいいか。わからないままに答えてはいけない。それがはっきりしているだけで、働く側には大きな安心感となります。

個別の作業マニュアルのほかに、こうしたトラブルを未然に防ぐ仕組み作りも忘れてはいけません。

とはいえ、普通の企業で、専門のオペレーターを導入することはできませんよね。ですが、同じ主旨の仕組みを導入することは可能です。

この仕組みの目的は、「新人による場当たり的な対応を防ぐ」「思考停止になり、仕事が進まないというムグを防ぐ」です。

よく、新人に対する教育の現場で「よく聞いて一度で覚えろ」「メモを取り、わからないことがあつたらそれを見返せ」という光景を目にしますが、これは間違い。

こういった教育が、前述した「ストレンジャー(何をやっていいのかわからない人)」や「ディスリガード(ルールや作業内容を軽視する人)」を生み出すのです。

もちろん、新人が上司や先輩の話を聞くときは、メモを取りながら一生懸命耳を傾けるべきですが、仕事を覚える速度には個人差があります。

ですから、最初のうちは、「わからないことがあれば、覚えるまで何度でも聞いていい」「直属の上司や先輩でなくても遠慮なく質問できる」といった環境や仕組みを整えるだけで「新人が動いてくれない」という問題を解決でき、即戦力にすることができるのです。

デイズニー流マニュアル作りの5つのポイント

ここでは、デイズニー流のマニュアルを作るにあたっての注意点を5つにまとめました。あなたの働く環境に合わせて活用してみてください。

区ポイント一1本質から出発する

マニュアル作成を始めるにあたって、「この作業はなんのためにあるのか?」ということを会社の理念や作業の本質、目的と照らし合わせて問い直しましよう。

たとえば、震災時に注目を集めたデイズニーの災害対応マニュアルは、「二次災害を防ぐ」という本質から出発して作られています。

また、95ページで例に挙げた経費精算のマニュアルも「遅れる人をなくし、経理部門の生産性を上げ、会社の利益に貢献する」という本質がありました。

なぜ、これをチーム全員で共有するのか。どんな結果に結びつけるのか。その出発点があいまいなままマニュアルの作成に入ってしまうと、焦点の定まらないばんやりしたものとなってしまいます。

大切なのは、このマニュアルで伝えたい本質を明確に決めることです。

ポイント一2作業を分解し、内容を書き出し、最小限の項目だけを書き込む

次に取り組むのは、作業を分解し、マニュアルに盛り込むべき内容を項目として書き出すことです。ただし、あれもこれもと欲張らず、チーム全員にこの程度だけは覚えておいてほしいという最小限の項目数に絞り込むこと。

理想は10項目未満です。10も20も続く項目の羅列は、絶対に覚えられません。

そして、覚えられないマニュアルが、活用されるわけもありません。誰もが覚えることができ、誰がやっても結果の質に差が出ない。これがマニュアルの理想です。

ポイント一3作業の手順、順番を明記していく

書き出した項目についての具体的なスキル、テクニックについて詰め込むことは避け、手順を書くのみに限ること。

また、その手順を伝える言葉は、マニュアルを読む人たちの注意を引くようなキーワードになっているとより効果的です。

デイズニーの災害対応マニュアルを例に取れば、そこには地震等の自然災害発生時に現場のキャストが取るべき対応について、次の4つの手順だけが書かれています。

﹇自然災害発生時のマニュアル﹈1.目をふさぐ2.足をしばる3.手をしばる4口を3さぐ

この刺激的な文言には、それぞれこんな意味があります。

「目をふさぐ」は、キャストがゲストに対して大きな声で「ここは安全な場所です」とアナウンスすることを意味しています。

注目させることで、ゲストがデマなどの誤った情報に惑わされるのを防ぐわけです。

「足をしばる」は、注目させた後、「その場に座ってください」と伝えて、ゲストを座らせる手順のこと。

パニックになって走り出すゲストがいると、その不安が周囲に伝播して、危険な状態となってしまうからです。

「手をしばる」では、座ってもらつたゲストに、キャストがキャラクターのぬいぐるみやクツションを渡していきます。

これは安心感を与えると同時に、手にものを持ってもらうことで、パニックの原因になる手を使えないようにするわけです。

「口をふさぐ」では、食べ物や飲み物を提供し、落ち着きを取り戻してもらいます。

ちなみに、2011年の東日本大震災では、このデイズニーの災害対応マニュアルが完璧に機能し、誰もパニックを起こさず、数万人のゲストを無事、安全な場所に避難させることができました。

ポイント一4導入することで本当に効率がよくなるのかどうかを確認する

本質を見極め、内容を書き出し、精査した項目を必要な順番に並べたとして、それでマニュアルが完成というわけではありません。実際に試してみて、それが本当に作業の効率をよくするものなのかどうか確認する必要があります。

マニュアルができたことで、従来よりも作業が手間取るようならば、手順のどこかに問題があるはずです。

いったん書き上げたマニュアルを試験運用し、手順が現場の状況に一致しているか探ることは、完成度を高めるうえで欠かせないステップです。

ポイント一5チェックリストを用意する

最後5番目は、チェックリストの作成です。マニュアルに記載された手順どおりに作業を進めることができたか。現場のスタッフが仕事をしながら、確認できるチェックリストを用意しましょう。

ここで言うチェックリストとは、マニュアルが頭に入っているかを社員一人ひとりが確認するための、小テストのようなものです。

マニュアルの文言の一部を空白にするなどして作成してみましよう。

ただし、チェックリストは点数をつけることが目的ではなく、マニュアルの内容を再確認してもらうためのもの。

チェックさせることで、マニュアルの本質に気づいてもらうことが大切です。

次ページの表にある問いに対する答えを書き込むと、あなたの職場にデイズニー流のマニュアルを導入する際のヒントになります。

自分のチームの問題や課題を振り返ってみましよう。

マニュアルは作って終わりではない

マニュアルは全員の常識になってはじめて機能する

ここまで、ディズニー流マニュアルに関する5つのポイントと、さまざまな注意点を解説してきました。あなたの職場に適応するマニュアル作成のコツは伝わったかと思います。

ただし、マニュアルができたからといつて安心しないでください。完成したマニュアルがどんなにすばらしいものでも、テキストはテキストにすぎません。

この次のステップでしくじってしまっては、せっかくの努力が水の泡となってしまいます。

たとえば、これは私が研修講師をしたある製薬会社でのエピソードです。当日、私は先ほど紹介した震災の日のデイズニーランドのお話をしました。

すると、研修に参加していた社員の方が、「私たちも年に10回以上、避難訓練をしています」「デイズニーランドほどではないと思いますが、避難時のマニュアルも整っています」と言うのです。

そこからこんな会話になっていきました。

「今ここで地震が起きました。どうされますか?」「安全の点検です」「そうですか。では、あなたは最初にどういう行動を取るのでしょう?」「机の下に身体を入れます」「点検は?」「あ、そうですね……」たしかにこの製薬会社では、一般の会社よりも高い頻度で避難訓練が行われていました。

しかし、防災マニュアルを把握しているのは主導役の社員だけ。

ほかの社員は避難訓練の当日、主導役の社員から回頭でマニュアルの内容の一部を聞いていただけでした。

結果、防災マニュアルは全員の常識にはなっていなかったわけです。また、店舗全体の運営に関するアドバイスを頼まれた、あるスーパーマーケットでもこんなことがありました。

そのお店では、直近の改革として店内を自由に歩きまわるお客様向けのアドバイザーを配置していました。

買い物中のお客様が「あの商品はどこだろう?」などと質問したいとき、専従で対応するスタッフを置き、顧客満足度を上げようという狙いです。

同時に品出しや棚の整理を行っていました。

ところが、私が店を見学させてもらうと、なかなかアドバイザーを見つけることができません。

近くにいるスタッフを捕まえて、「アドバイザーはどこにいるの?」と間くと、「店内にいます」という答えが返ってきました。一店のどの辺りに?」「いや、いるはずなんですけど……」「アドバイザーはどういうルートで店内を歩いているの?」「いや、決まってないと思います……」たしかにアドバイザーは配置されていたものの、ほかのスタッフはどこにいるのかを把握していませんでした。

これではお客様が専任アドバイザーと出会う確率はぐっと落ちてしまいます。

ところが、アドバイザーのマニュアルには店のメインストリートと言える中央の通路を「1分に1回は通ること」と記されていました。問題はその情報が共有されていないことにあったのです。

つまり、製薬会社とスーパーのどちらにも共通するのは、マニュアルは整えられているのに、浸透していないという問題でした。

マニュアルを作成してはじめてスタート地点に立てる

その点、ディズニーランドでは「リマインデイングプログラム」というものが用意されています。これはキャストが一定時間以上の勤務の後、必ず受けなければならないリマインド研修。

言わば、もう一度、デューティーを支えるマニュアルや、ウォルト・デイズニーの考えを継承したミッションについて考える場です。

ここで、マニュアルの内容についてチェックリストつきの試験などが行われ、作業手順の理解が深まるようになっています。また、通常の業務中もマニュアルを現場に浸透させていく仕組みが用意されています。

それが次章で詳しく紹介するブラザーシステム、アニキ制度。

いわゆる指導社員に近い仕組みですが、より身近で、より厳しい存在がデイズニーのアニキです。

彼らがデューティーやミッションの本質について、日常の業務に紐づけながら教えていくことで、デイズニー流のマニュアルは本当の意味で一人ひとりのキャストの心に根づいていくのです。

マニュアルを作ちただけで安心してはいけません。ここはまだ、改革のスタート地点なのです。

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