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CHAPTER2思考力が育つトヨタの問題解決

目次

CHAPTER2思考力が育つトヨタの問題解決

01人づくりは、問題解決のプロセスにある

問題があることは問題ではない。解決されていないのが問題

2001年に制定されたトヨタの行動原則である「TOYOTAWay(トヨタウェイ)」の中で、改善は大きな柱として掲げられ、「常に進化、革新を追求し、絶え間無く改善に取り組む」ことの大切さが説かれています。トヨタの代名詞ともいえる「改善」を行なうためのツールが問題解決です。

OJTソリューションズの専務取締役である海稲良光は、「人づくりは、問題解決のプロセスの中にある」といいます。

「トヨタには、『人をつくるとは、自ら課題・問題を発見し、解決するプロセスを習得すること』という考え方があります。

つまり、部下が物事の本質・根本から考える習慣を身につけるように、上司は導いていくことが求められます」トヨタの人材育成は、思考や問題解決のプロセスを通じて訓練していくことだといえます。

トヨタの上司は、問題解決のできる(=自分で考えることができる)部下を育てることが仕事なのです。問題解決は、日常的に行なうべきことです。

たまに「うちの職場には問題はない」と言う人もいますが、そんなことはありません。どんな職場でも大なり小なり問題はいつも発生しています。問題がひとつもないという職場は皆無です。問題解決は、絶好の教育の場となります。

問題は、あることが問題なのではありません。解決されていないことが問題なのです。だから、トヨタでは、毎日現場で問題解決が行なわれ、社員は日々成長していくのです。

トヨタの問題解決の8ステップ

トヨタの問題解決の具体的な方法では、次の8つのステップを踏みながら、このサイクルを何度も繰り返していき、現場の改善を図っていきます。

  1. 問題の明確化(問題を明確にする)
  2. 現状把握(問題を層別し、問題を特定する)
  3. 目標設定(目標を設定する)
  4. 要因解析(真因〈真の原因〉を特定する)
  5. 対策立案(真因に対する対策を立案する)
  6. 対策実施(実行計画にもとづいて対策を実行する)
  7. 効果の確認・評価(結果と取り組み過程を評価する)
  8. 標準化(成功のしくみを定着させ、横展開する)

本書は、問題解決がメインテーマではないので、本章では、問題解決を通じて人を育てるうえでのポイントに絞ってお伝えしましょう。

02きづくうずくねづく

「きづく→うずく→ねづく」のサイクルをまわす

「改善」は、問題解決の手法に沿って進めることになります。

問題解決とは、「問題に対して、真因(真の原因)を特定し、真因に対する対策を立案・実行し、効果を継続させる行動」のこと。

OJTソリューションズの海稲良光は、トヨタの現場力の強さは、「きづく→うずく→ねづく」という問題解決のサイクルの繰り返しの中にある、といいます。

「きづく」とは、問題に気づくこと現場を視える化(こちらを参照)することによって、問題に気づきやすくなります。

「うずく」は、顕在化した問題を改善することです。

ひとたび問題が明確になると、治りかけのかさぶたがかゆくなるように、人はそれを解決したくてウズウズしてくるものです。

「ねづく」は、改善をした結果、その状態が定着し、現場の管理がレベルアップすることです。文字どおり、改善結果が根づくという意味です。

こうしたプロセスを何度も繰り返す、つまり現場の社員が考えるくせをつけて、問題を見つけて解決する訓練をしていく。そうすることで問題解決能力が向上し、強い現場力が培われていくのです。

「あるべき姿」と「現状」のギャップが「問題」

問題解決をするには、まず何が「問題」であるかに気づくことが大切です。

問題解決における「問題」とは、「あるべき姿」と「現状」のギャップです。あるべき姿とは、「期待される状態」や「望ましい状態」のことを意味します。

トヨタでいうところの「標準」もあるべき姿のひとつだといえます。一方、現状とは、「実際に起きた状態」を指します。

また、このままではこうなると「予想される状態」も現状に含まれます。あるべき姿と現状に差がある場合に、「問題がある」と認識するのです。

たとえば、「不良率1%」があるべき姿である場合に、「不良率3%」が現状だとしたら、そのギャップが問題となります。

「あるべき姿」を示すのが上司の仕事

「きづく→うずく→ねづく」という問題解決のサイクルを繰り返し部下にやらせるのは、上司の仕事です。

トレーナーの岡村靖は、「上司があるべき姿(標準)を示して、部下の気づきを促してあげるのも大事な役割だ」といいます。

たとえば、ある部下が改善の結果、ある工程の作業を完了させるのに1分10秒でできるようになったとします。

「改善の結果、スピードが速くなったのであれば『このやり方は良かったな』とプロセスを評価してあげることが大切です。ただし、プロセスを褒めて終わりではいけません。

次に『もっといいやり方はないか?』とさらなるステップアップを目指すように促す必要があります。そのためには、『あるべき姿』を示さなければいけません。

それは上司の仕事です」たとえば、「あるべき姿」が作業を1分で完了させることであれば、それを部下に提示してあげる。「1分でできるようになれないか」と。

あるべき姿と現状のギャップ、つまり「問題」があきらかになれば、それを解決しようと部下はうずき、知恵を絞りはじめます。

「このように『あるべき姿』が明確になっていると、部下は自然と問題を解決しようと自律的に動きはじめます。

こうして部下が無事、自分で問題を解決することができれば、その改善は根づき、真の力になっていきます。もしも部下が、問題を改善できずに悪戦苦闘しているなら、〝七味〟をかけてあげることもあります。七味というのは方法論ですね。

たとえば、『部品の置く場所を工夫してみたら』といった具合に、改善のヒントを与えてあげるのです」「あるべき姿」が見えていないと、問題それ自体に気づくことができません。ですから、上司は常に「あるべき姿」を部下に示しておく必要があるのです。

03まずは「片づけ」からはじめる

気づきを与える「なんでも提案」

トヨタのリーダーたちは、部下が問題に気づき、問題解決能力が身につくように、さまざまな工夫をしています。トレーナーの岩月恒久は、改善につながるツールを自ら考案して、現場で活用していました。

それが「なんでも提案」。現場で起きている小さな問題を紙に書いて、なんでもいいから提案するというもので、大きく分けて「提案日・者」「問題」「対策」「対策担当」「提案者の満足度」の欄に分かれていました。

38ページで「3行提案制度」(こちらを参照)を紹介しましたが、それと同じで気軽に改善提案をしてもらうことを目的につくられたものです。

「『なんでも』というネーミングがポイントです。

昔は、『ヒヤリハット提案』という名称でしたが、ヒヤリあるいはハットするような事故につながるケース以外の内容は書かないので、なかなか提案が上がってきませんでした。

しかし、『なんでも提案』という名称に変えたら、小さな問題もどんどん出てくるようになりました。

しかも、記入欄は1~2行しか書けないスペースなので、気軽に書けるのもよかったのでしょう」「なんでも提案」のようなツールは、製造業はもちろん、他の業種でも応用できるはずです。

気づいたことをなんでもいいから書き出してもらい、それに対して上司が確認し、フィードバックをする。

そうすることで、問題解決に対する意識を植えつけることができるでしょう。

片づけによって現場を「視える化」する問題に気づきやすくするために、「片づけ」から入るのもトヨタのやり方です。トヨタには、「5S」という考え方があります。

  • 整理(いるものといらないものを区別し、いらないものを捨てる)
  • 整頓(いるものを使いやすいように、置き場を決める)
  • 清掃(キレイにそうじをする)
  • 清潔(整理・整頓・清掃した状態を維持する)
  • しつけ(決められたことを守らせる)

改善のやり方がわからない、改善が進まないという職場では、問題が顕在化せずに隠れてしまっているケースが多くあります。

在庫が多いのかわからない、機械故障の兆候が見えない、事故の予兆が見えない……という状態では問題を見つけ、改善することはできません。問題を顕在化するには、現場を「視える化」することが大切です。

視える化とは、情報を組織内で共有することにより、現場の問題の早期発見・効率化・改善に役立てることを目的とする手法です。

図やグラフにして可視化する場合など、視える化にはさまざまな方法がありますが、5Sも視える化する方法として有効です。

トレーナーの多くは、指導先の企業にコンサルティングに入ったとき、最初に5Sを手がけます。

5Sによって職場を片づけると、ひと目でキレイになったことがわかり、職場の人たちに変化の兆しを実感してもらうことができるからです。

また、片づけをすることで、改善すべき問題が浮かび上がってくるからです。必要のないモノが現場に散乱し、床が汚れている状態では「問題」がひと目ではわかりません。

たとえば、床にこぼれているオイルが機械故障の予兆だったとしても、床が汚れていては気づくことができません。

オイルがこぼれていれば、「なぜ、こぼれているんだろう」と問題に気づき、それを解決する方法を考えることが可能です。片づけは、問題に気づきやすくする視える化の大きな第一歩です。

「何を改善したらいいかわからない」という職場では、自分が抱えている問題の整理からはじめてみることをおすすめします。

04「原因」を探すな。「真因」を探せ

「なぜなぜ」を5回繰り返す

問題が起きている原因ばかり探して解決しても、また同じ問題が発生してしまう。本当の意味で問題を解決するには、真因を探し出さなければいけない」トレーナーの土屋仁志は、問題解決の肝をこう話します。

74ページで紹介した「トヨタの問題解決の8ステップ」(こちらを参照)においては、見つけ出した問題を解決するために、④「要因解析」がひとつのポイントとなります。

このステップでは、問題が起きている要因を考えられるかぎりピックアップし、根本的な真の原因(真因)を探り出します。

原因はいくつも出てくるかもしれませんが、真因を見つけて対策を立てないと、何度も同じようなトラブルが起きるようになります。

真因とは、対策を打ったときに同じ問題が再発しないことを意味します。真因を見つけ出すためのトヨタのツールが「なぜなぜ5回」です。

原因を絞り込んだら、「なぜその原因が起きているのか」を探っていきます。これを5回繰り返すことによって真因にたどり着くことができる、というわけです。土屋はこう証言します。

「トヨタでは現場の日常業務を通じて、問題解決のステップが日々繰り返されていますが、特に新人のうちは、QCサークルを通じて真因を見極める力が鍛えられます。

QCサークルでは、『不良品を3カ月でゼロにしよう』といった現場の問題に関するテーマが与えられ、問題解決のステップを徹底的に繰り返します。

この中で『なぜなぜ5回』を実践することで、真因をつかみ、問題を解決するスキルが身についていくのです」もちろん、5回にこだわる必要はありません。

3回で見つかることもあれば、10回目で見つかることもあります。「その原因に手を打てば、問題が解決され、同じ成果を上げ続けられる」というところまで「なぜ」を繰り返していくのです。

「なぜ問題が起きたか」を考えさせるのが上司の仕事トヨタのように問題解決のしくみやQCサークルのような場がないという会社でも、できることはあります。

それは、上司が「なぜ問題が起きたのか?」を部下に問いかける習慣をつけることです。問題が起きると、多くの上司は問題が起きたことを一方的に叱りつけるだけで終わってしまう。あるいは、上司が自ら問題の火消しに乗り出してしまいます。

もちろん、緊急を要する案件は別ですが、少し余裕のある問題であれば、部下に考えさせることが必要です。

たとえば、「営業部全体の月間売上目標が未達で、大半の個人も目標未達だった」という問題があったとします。ここで1回目の「なぜ?」を投げかけます。

すると、「営業戦略が個人の営業マン任せで有効な営業活動ができていなかった」という原因が浮かび上がりました。ここで「なぜ?」をやめてしまえば、「営業部全体の戦略を練り直す」という対策で終わってしまいます。

ここでもう一歩踏み込んで、なぜ有効な営業活動ができていなかったのかを考えさせます。2回目の「なぜ?」です。

すると、「顧客の優先順位を考えず、もぐら叩き的な営業活動を行なっていた」ことがわかります。

さらに、「なぜ?」を繰り返していくと、「優先すべき有望顧客の情報を集約できていなかったから」→「有望顧客のデータ(名刺、商談ノートなど)の整理法が個人任せだった」といった要因が見えてきて、「顧客情報を入力するフォーマットがなかった」が真因であると判明しました。

このときの対策は、「顧客データの統一フォーマットをつくる」というものになりました。どの職場でも、真因が解決されることなく、多くの問題が発生しています。

上司は部下に対して、常に「なぜ?」と問いかけて真因を考えさせることで、成長を促すことができるのです。

05「2つ上の目線」でリーダーを育てなさい

トヨタのリーダー研修では2つ上の職制が教える

トヨタでは、「班長」→「組長」→「工長(係長)」→「課長」と職制が上がっていきます。ここで、簡単にそれぞれの職制について説明しておきましょう。

入社10年目あたりから選ばれる最初のリーダーが「班長」。はじめて部下を率い、QCサークルなどの改善活動を中心となって行なっていくのも班長の役割です。

「組長」は数人の班長を束ねるリーダーで、たくさんの部下たちと親密にコミュニケーションをとりながら仕事をしている、まさに〝現場のオヤジ〟といった存在。

その上の「工長」は、数人の組長とその部下たちをまとめる存在で、現場の仕事と並行して、いわゆる管理業務も増えてくるポストです。

「課長」は、トヨタの現場のトップ。工長以下、数百人の部下を抱え、職場全体を円滑に運営する力が求められます。

それぞれの職制に上がる前には、「階層別研修」という研修を受けることになっています。OJTソリューションズの専務取締役である海稲良光は、この階層別研修の特徴をこう話します。

「トヨタの階層別研修の大きな特徴は、現場の2つ上の職制(リーダー)が中心となって次世代リーダーを育てることにあります。

トヨタでは、『現場のあらゆる教育や研修は内製でやる』ということが基本方針になっているのです」班長前教育を70(ななまる)特別研修、組長前教育を60(ろくまる)特別研修、工長前教育を50(ごうまる)特別研修といいます。

この研修には各職場から選抜された候補者が参加し、受講によって昇格資格を得ることになります。

「2つの上の職制が中心となって教育する」とは、班長前教育(対象は一般社員)は組長が行ない、組長前教育(対象は班長)は工長が行ない、工長前教育(対象は組長)は課長が行なう、ということになります。

このように現場のリーダーが、これからリーダーの階段を上っていこうという次世代リーダーを教えることには、大きなメリットがあります。

それは、理屈ではなく、実際にどのようにリーダーシップをとり、どう動かなければならないかを身をもって示すことができるというものです。だから、内容もきわめて現場に即した実践的なものとなります。

一般の会社では、管理職研修を外部の講師や専門家に委託する場合もありますが、そうすると、机上の空論で「実践ではまったく役に立たない」という問題も起きがちです。

海稲は、「2つ上の職制が教える階層別研修は、自分がこれからなろうとしている職制よりも高い目線で見ることの大切さを学ぶ機会にもなる」といいます。「トヨタの人事・管理部門で働いていたとき、上司から『2つ上の目線で見なさい』とよく言われました。

人事部の仕事をしていると、こちらが一般社員であっても、さまざまな部署の課長クラスと一緒に仕事をする機会があります。そのときに、自分も課長クラスの人と同じ発想をもてないと、話がかみ合わないというわけです。

これは工場の現場や階層別研修にも当てはまることで、2つ上のリーダーから直接教育を受けることで、リーダーにふさわしい視点やモノの見方を学ぶことができるはずです」「発生型問題解決」と「設定型問題解決」トヨタの管理職研修でも、問題解決は大きなウェイトを占めています。

階層別研修では、当然ながら職制が上がるにつれて、教育内容も高度になっていきます。その際の大きなテーマとなるのが問題解決です。

つまり、「あるテーマについて考えさせる」というメニューが共通して用意されているのです。問題解決のテーマは、自分が所属する職場の問題を取り上げ、数カ月かけて取り組んでいきます。

問題解決には、おもに「発生型問題解決」と「設定型問題解決」があります。70の班長前教育は発生型の問題解決、60の組長前教育は設定型の問題解決を行なっていきます。

発生型問題解決は設定した目標に対して、なんらかの原因があり、目標の水準に達していない状態です。つまり、現状がマイナスの状態にあり、ゼロの状態に戻すことが求められます。もっと平たくいえば、昨日今日発生した問題や、日々慢性的に困っていることです。

たとえば、工場の組立ラインの中で何もしないで待っている「手待ち」の状態が生じているといったことや、必要以上に在庫がたまっているといった、すぐに解決しなければならない問題です。

班長前教育では、こうしたレベルの問題をテーマにして、ディスカッションを重ねていきます。一方、設定型の問題解決では、問題のレベルが1段上がります。

設定型問題は、現状は目標どおりに進んでいるが、さらに目標水準を上げた結果、新たなギャップが生じている状態です。

発生型問題解決の問題が、すでに明示された「標準」と現状とのギャップだとすれば、設定型問題解決の問題は、より高いあるべき姿(基準値・目標)を新たに設定し、意図的につくり出すギャップだといえます。

これは、数カ月、数年といった中長期で解決すべき問題といえるでしょう。

たとえば、リードタイム(生産にかかる時間)は、現状では問題ないが、将来的には半分の時間にしなければならないといったケースが当てはまります。

研修は「学ぶ場」ではなく「確認の場」一般に社内研修というと、職務上必要な能力を習得する講習会などをイメージする人が多いでしょう。すなわち、レベルアップするために必要なものをこれから「学ぶ場」というイメージです。

しかし、トヨタの階層別研修は、一般的な研修とは少し意味合いが違います。研修は「学ぶ場」にとどまらず、能力の「確認の場」という位置づけです。

研修では、問題解決を8つのステップにもとづいて、紙に書き出して、体系立てて学んでいきます。ただ、こうした問題解決は、現場やQCサークルでも日常的にやっていることです。紙には書き出さないものの、頭の中で問題解決の8つのステップを踏んで、実際に問題を解決しています。

したがって、トヨタの階層別研修は、新しいことを学ぶ機会ではありません。あくまでも、昇格に必要な能力があるかどうかを確認する場なのです。階層別研修に送り出す人数は枠が決まっています。

たとえば、車体部で12人なら、各現場からふさわしい者を選ぶことになります。ただし、4つの各課から平等に3人ずつを選ぶというわけではありません。

昇格の基準に達している者が選ばれる実力主義です。だから、日頃から上司は部下を鍛えていないと、他の現場に枠を奪われてしまうことになります。

階層別研修にかぎらず、トヨタではQCサークルの発表や創意くふう提案制度といった場は、上司が部下をいかに育てたかをアピールする場なのです。

トレーナーの岩月恒久は、課長時代に「創意くふう提案制度」の発表を、提案を出した班長本人にさせようとしたことがあります。

するとある上長にこう言われたそうです。

「岩月、おまえはわかってないな。こういう場は、工長がいかに班長を育成したかを試す場でもあるんだ。だから、工長に発表させなさい」これらのエピソードは、日々の業務の中で部下を育てておくことが必要であることを物語っています。

だから、トヨタは次から次へと人が育ち、人を育てることが文化として受け継がれていくのです。上司が負っているのは数字の成果だけではありません。日頃から部下をどう育て、どんな優秀な部下が育ったかも大事な成果になるのです。

06部下を困らせなさい

人間の知恵には限界がない

トレーナーの村上富造は、組長や工長など中堅どころの人材には、あえて難易度の高い課題を与えていたといいます。

「『標準を守っているからいい』『言われたとおりにやれば十分だ』と考える指示待ち人間が増えるのを防ぐために、部下のレベルを超えた課題を与えることがありました。

たとえば、『コストを現在の50%にしなさい』という課題を与える。

トヨタでは日々改善してコスト削減を図っているのですから、コストを半分にするのは乾いたぞうきんをさらに絞るようなものです。

案の定、部下は『そんなの無理です』と言ってきますが、それでも部下に考えさせます。そうすると、必死で知恵を絞り出そうとするのです」トヨタでは、人が生み出す知恵を重要視しています。

戦後のトヨタは、資金が豊富になかったので、すぐに設備を充実させたり、人をむやみに増やすことはできませんでした。

そのような状況の中でできることは何か。「知恵」を出すことにほかなりませんでした。知恵を出すには、お金はかかりません。

人が頭を使って、とことん考えれば、作業のムダを省いたり、効率化を図って、生産性を上げることが可能です。

トヨタの元副社長であり、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一は、「人間の知恵には限界がない」というと同時に、こんな言葉を社員に伝えていました。

「知恵を出す環境をつくり出すために困らせる」つまり、高い目標を与えることが重要だと考えていたのです。

トヨタの元社長である渡辺捷昭も「二律背反の克服という高い目標を与えなさい」ということをいっていました。相反する2つの課題を、同時に解決しなさいというのです。

たとえば、「コストを下げながら品質も良くする」「走れば走るほど空気がきれいになる車を開発する」「販売を効率化しながら、お客様の満足度を上げる」といった課題設定型の問題解決です。現場での目標は、「コストを下げる」という一面ばかりに気をとられがちです。

しかし、「コストを下げながら品質も良くする」という目標であれば、これまでどおりのやり方では、同時に達成することはむずかしいかもしれません。

そういった状況に置かれたとき、人ははじめてこれまでとは違う発想で、知恵を振り絞ろうと考えるのです。アドバイスを与えるタイミングも重要こうした高いレベルの改善は、これまでの延長線上では、まず実現することはできません。鳥のように高い視点から物事をとらえることも必要になります。

先ほどの「コストを現在の50%にしなさい」という課題を与えられた部下のケースであれば、生産ラインを鳥の目で眺めて、前工程や後工程などを巻き込む必要が出てきます。

高い視点からあれこれ考え、試しているうちに、部下が後工程にヒントがあることに気づいたとします。そして後工程を見に行って、そこの人間と話をはじめるようになります。

トレーナーの村上は、部下が本気で悩んでいたり、なんらかの気づきを得たタイミングで声をかけることが大事だといいます。

「悩んでいないときにアドバイスをしても相手の心には響きません。自分の目の前の工程ばかりを見ていた部下が、後工程に目を向けるようになったら、『どうだ?いけそうか?』と声をかけてあげる。

すると、『30%までは削減できそうです。でも、50%はむずかしいです』といった声が返ってきます。そこで30%削減できたことを褒めたうえで、はじめてアドバイスをしてあげる。

そうすると、部下はモチベーションが高いまま50%を目指して、突っ走っていきます」もちろん、考えさせても、なかなかアイデアが出てこなくて動けない部下もいます。

本気で悩んでいる部下には、「後工程の○○君のところに行って相談してみたらどうだ」とヒントを与えてあげます。

大事なことは、最初から「こうしなさい」と答えを与えずに、大いに悩ますこと。悩んだ末に改善できれば、それが大きな自信となり、成長することができるのです。「悩む力」を鍛えるとことん困れば、何か知恵が出てきます。困り方が少ないと、これまでの知識や経験(悪知恵)といったものが邪魔をして、思考が停止してしまいます。

トヨタの元副社長である大野耐一は、「能力・脳力・悩力」という言葉を使っていました。

物事を能率的に行なうための「能力」や物事を考えるための「脳力」も大事だが、それらの力を発揮するためには、「悩む力」が大事だと説いていたのです。

「どうやって部下を悩ますか」を考えるのが上司の役割といえます。ある程度、考える力がついてきた部下に対しては、悩み、困るような課題を与えることも大切なのです。

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