はじめにプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか 秘書という仕事を、みなさんはどのように捉えているでしょうか。テレビや映画の世界のイメージが先行して、「華やかな仕事だろう」と思っている方もいるでしょうし、実際に秘書の仕事に就いていたり、秘書の仕事を間近で見ていたりする方は、「上司の雑用係だ」と思っているかもしれません。 秘書の仕事には、たしかにその両面の要素があります。上司とともに企業の要職に就く方とお会いする機会も多いため、それなりに身だしなみは整えますし、会食やちょっとしたパーティなどの華やかな場所に顔を出すこともあります。また、秘書の仕事に特別なスキルは必要ありません。主な秘書業務は、上司のスケジュール管理や接遇業務、上司の仕事の事務的なサポート、電話対応などです。事務職に就いている人なら、上司のかわりに文書作成を行うこともあるでしょうし、営業職の人が上司の出張の段取りを行うこともあるでしょう。秘書の具体的な業務は、普通のビジネスパーソンなら誰もが日常的に行っていることなので、「雑用だ」と感じる方もいると思います。 しかし、秘書の本質は、上司が働きやすい環境作りのために動くこと。ただ美しい身なりをしていればいいわけではありませんし、言われた「雑用」を淡々とこなすだけでは、十分とはいえません。「言われる前に動く」「細かく言わなくても伝わる」「どんなタイプの上司にも合わせられる」……秘書に求められているのは、どこまでいっても「気遣い」なのです。そして、「かゆいところに手が届く」気遣いができる秘書が、上司にとっての良い秘書「 =プロ秘書」なのだと思います。 さらにいえば、プロ秘書に求められる素養は、どんなビジネスパーソンも身に付けておいて損はないことです。それどころか、どんな上司も本心では「気遣い上手な部下がほしい」と思っているのではないでしょうか。そのため、私のこれまでの秘書としての経験は(成功も失敗も含めて)、どんな仕事に就くビジネスパーソンの方にも役立てていただけるのではないかと思い、こうして筆をとりました。 私はこれまで数名の上司につき、三〇年以上秘書として働いてきました。壱番屋での秘書生活は、創業者である宗次德二にはじまり、二代目社長の宗次直美、現社長の浜島俊哉、そして今はまた、宗次夫妻の秘書として働いています。入れ替わりが激しい秘書という職にあって、ここまで長きに渡り同じ上司に就くことができたのは、本当に幸せなことだと思っています。おかげで、上司の人となりについてじっくりと時間をかけて知ることができましたし、たくさんのことを学ばせていただきました。 その間に、宗次夫妻の推薦で、日本秘書協会が毎年選出する「ベストセクレタリー」に挑戦する機会もいただきました。挑戦 2年目にしてその年の「日本一の秘書」に選ばれた時は、自分の仕事が認められたようで、とても嬉しかったことを覚えています。しかし、それもこれも素晴らしい上司あってのこと。秘書の能力を伸ばしてくれる優秀な上司に恵まれるかどうかは、本当に運次第です。その点私は幸運だったと感謝しています。また、壱番屋というサービス業にあったために、より「気遣い」の大切さを学ぶことができたのも、秘書としては得難い環境でした。 次の章からは、誰からも求められる気遣いと、私が学んできた仕事術について、秘書の目線から具体的にお話していきます。なぜその場面で、そのような気遣いが求められるのか。納得することができれば、実践に移すのもたやすくなるだろうと思い、できるだけ詳しく解説したつもりです。この本によって、みなさんの仕事や人間関係が少しでもスムーズになれば幸いです。
はじめに
プロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか日本一のプロ秘書 チェックリスト
chapter 1お客様応対のオキテ
●プロ秘書は電話番号の「下四桁」を覚えている ●プロ秘書は「雨の来客」にタオルを差し出せる ●プロ秘書は真夏に「熱いお茶」を入れる ●プロ秘書は数字の「一」と「七」の違いに気をつける ●プロ秘書は「ニコ・キビ・ハキ」をモットーとする ●プロ秘書は「自分以外の人はお客様」と思う ●プロ秘書は「自分が相手ならどうしてほしいか」想像できる ●プロ秘書は「声色」を使い分ける
chapter 2上司に仕えるオキテ
●プロ秘書はどんな上司にも仕えることができる ●プロ秘書は上司がよく話す話題を見逃さない ●プロ秘書は「ゴミ箱」で上司の優先順位を知る ●プロ秘書は「上司の機嫌」を判断できる ●プロ秘書は「ネガティブなサイン」を見つけることができる ●プロ秘書は「引いたほうが勝ち」と知っている ●プロ秘書は「心ある叱責」に感謝できる ●プロ秘書は相手の良い点を二つ見つける ●プロ秘書は「必ずやりとげる方法」を見出す ●プロ秘書は自然体で話すことができる ●プロ秘書は自ら手柄を求めない
chapter 3守秘義務と危機対応のオキテ
●プロ秘書は「お客様のクレーム」にこう答える ●プロ秘書は「つけこまれるスキ」をつくらない ●プロ秘書は「取引先からのいただきもの」を自腹で買い取る ●プロ秘書は「かわいい情報漏えい」ができる ●プロ秘書は「噂話」に耳を貸さない ●プロ秘書は「悪口大会」に参加しない ●プロ秘書は上司が出張先で倒れても動じない ●プロ秘書は新幹線で「上司の隣の席」に座らない ●プロ秘書は「上司からの誘い」をこう受ける ●プロ秘書は「同性の秘書」を薦める
chapter 4華麗なる仕事のオキテ
●プロ秘書は「 6 W 3 H」で仕事を効率化する ●プロ秘書は「アポを入れてはいけない」間合いを知っている ●プロ秘書は双方が気持ちのいい「時間調整」ができる ●プロ秘書はスケジュールを「色」で管理する ●プロ秘書は上司の思考回路に合わせたファイリングをする ●プロ秘書は名刺管理を一カ月単位で考える ●プロ秘書は「ゴルフ会」のお礼状をこう書く ●プロ秘書は「オープンスペース」でも業務ができる ●プロ秘書は「お客様の斜め前」に座る ●プロ秘書は「ヌキどころ」を知っている
chapter 5評価が上がる会話のオキテ
●プロ秘書は「断る」ときほど礼を尽くす●プロ秘書は「親しい間柄だから代われ」との電話にこう対応する ●プロ秘書は「相手と同じペース」で話す ●プロ秘書は「復唱」で予防線を張る ●プロ秘書は言いたいことを「提案型」で伝える ●プロ秘書は「クッション言葉」を上手に使う ●プロ秘書は「オープン&クローズド」質問を使い分ける ●プロ秘書は「おおらかな上司」から視線を外す ●プロ秘書は「神経質な上司」に変則的な問いかけをする ●プロ秘書は「マイペースな上司」を上手に誘導する
chapter 6癒しをもたらす立ち居振る舞いのオキテ
●プロ秘書は浅くてもキレイな「お辞儀」をする ●プロ秘書は自分の個性を消せる ●プロ秘書は「メイク」を引き算で考える ●プロ秘書は社風に合った「ワードローブ」を作る ●プロ秘書は視線を「肩の線」に外す
chapter 7明日を担う新人教育のオキテ
●プロ秘書は新人に「あなたが秘書になった理由」を教える ●プロ秘書は入社一年目の新人にまずこれを叩きこむ ●プロ秘書は新人がつまずくポイントを知っている ●プロ秘書は「かわいがられる新人」を育てる ●プロ秘書は「マイペースな新人」に一度ミスをさせる ●プロ秘書は「不安だらけの新人」を叱らない ●プロ秘書は新人に先輩のフィルタを外させる ●プロ秘書は新人に息抜きをさせるあとがき
checklist日本一のプロ秘書チェックリスト ●お客様対応のオキテ □「自分は覚えられている」という実感は、相手が望む「特別感」になる □自分だけキレイに身なりを整えて「お足元の悪いなか……」と言っていないか? □自然体でお客様の心をほぐす対応を心がけてみる □「承知しました。明日の『ナナ時』に御社ですね」と復唱する □「大変だ」と愚痴を言うよりも、「必要なこと」と前向きに □お客様には、自分がどのような状況であろうともベストを尽くす □意識して雑談をして、上司の気持ちに寄り添ってみる □まずは一度、自分の声を録音してじっくりと聞いてみる ●上司に仕えるオキテ □「合わないな」と感じる上司のほうが、仕事においてはプラス □上司の「昔話」や「よく出る話題」には特に注意せよ □捨てられた資料や DMから上司の関心がわかる □上司の表情や、思考や行動パターンを日頃からよく観察する □気楽な気持ちで心理学の関連書を読んでみる □長い目で見れば、反論せず黙っておいたほうがいい □部下への期待があるからこそ、叱責がある □「苦手だ」ととらえるのではなく、「自分とは違う」と考えよ □「できません」の報告より、「 ○ ○日あればできます」という代案を提示 □自分のカッコ悪い部分や欠点もさらけ出せ □自らの手柄を求めた段階で上司の信頼を失う ●守秘義務と危機対応のオキテ □クレームはやっぱり宝の山である □声のトーンはできるだけ低く、落ち着いた話し方にする □いただきものは定価の三割を会社に支払い、自腹で買い取る □秘書が周りに話していいのは、かわいい小ネタだけ □どんなに孤立しようとも中立であることがプロの証 □マイナスの空気を察知したら、サッとその場を立ち去る □上司の病歴や常備薬をリスト化しておくべき □出張先でのランチは駅ビルのカジュアルレストランで □「それでは、部署の皆の予定を取りまとめておきますね」 □ベースの考え方が〝真逆〟なくらいのほうがよい秘書になれる ●華麗なる仕事のオキテ □時には基本に立ち返って確認してみる □アポの提案は、一一時から一三時半は避けたほうが無難 □あえて期待を抱かせない対応が必要なときもある □寒色は定例のもの。暖色は流動的なもの、とファイルを分類する □人なのか、時間なのか? 上司の思考の優先順位を見抜け □名刺管理の最初は時系列、その後「五十音」「業態」「地域」など □「生きた情報」を、礼状のひと言コメントとして盛り込む □環境のせいにして、いい加減な対応をするべからず □お客様の正面は上司。自分はその横に座る □時には仕事から離れて自分を解放してあげる ●評価が上がる会話のオキテ □ごまかさないではっきり断ったほうがいい □「絶対に親しくないな」と気づいても、相手の言葉を否定しない □心理学のミラーリングとペーシングを活用する □「復唱」はいろいろな場面で活躍する □あくまでも「選択権はあなたにありますよ」という提案型で □クッション言葉プラス提案で事態は改善される □クローズドは「確認」。オープンは「具体的な答え」 □長引く話を切り上げるには時計に目をやったりしてみる □上司が席を外した際に、時にはデスク周りを観察してみる □準備ができていても、上司には決して悟らせない
●癒しをもたらす立ち振る舞いのオキテ □名刺交換は、秘書にとってある意味戦いの場である □メイクよりも先に、手先、毛先、足先を意識する □「感じよく見える」と「流行りのお洒落」は一致しない □服の色や形を選ぶには、謙虚に体型や顔立ちを見つめ直す □視線をコントロールして、心にコンタクトする ●明日を担う新人教育のオキテ □秘書課に配属されたこと自体が才能と伝える □まずは自分で「自分の限界値」を決めない! □自分で自分を評価しないということを肝に銘じる □上司に「媚びへつらわないこと」もポイント □「二度目はないわよ。確認してから行動ね」と釘をさす □反省させる。しかし、人格の否定はしない □自分の判断でなく、上司の判断で仕事を進める □「すべてを忘れさせる時間を持ちなさい」と助言する
01プロ秘書は電話番号の「下四桁」を覚えている プロの秘書は、電話対応が違います。丁寧な言葉遣いや相手への気遣いはもちろんですが、その差が一番はっきりとあらわれるのは第一声。 私が電話に出て「はい、中村です」と言うのは、社員からの電話の場合です。社内の人間に対して社名を名のる必要はないので、そこはあえて省きます。コンマ何秒の世界かもしれませんが、時間短縮になり、スムーズに本題に入ることができます。「壱番屋の中村でございます」と名のる場合は、社外の方からの電話です。さらに、プロの秘書であれば、「いつもお世話になります、 ○ ○様」。「 × ×の件でございますね」と続けます。そして、手はすでに関連の資料のファイルに伸びています。 お祝い事などがあった企業なら、「このたびはおめでとうございます」などとひと言添えてから本題に入るといいでしょう。 ここまでの流れがスムーズにできてこそ、プロの秘書。電話に出てから相手を確認し、それから「ご用件は?」と聞いているようでは遅いのです。ましてや主要なお取引先であるならば「少々お待ちください」と保留ボタンを押すなどというのは、もってのほか。間違っても「おかけ直しください」などと言うことは許されません。 そのためには、よくかかってくる電話番号の下四桁を覚えておく必要があります。電話が鳴って、番号表示を見る。そこで、下四桁を見ただけで「取引先の × ×さんだ」とわかるのがプロです。もし覚えきれないほど多種多様な企業から電話がかかってくるような職場なら、電話番号と会社名、担当者の名前を一覧表にしておく必要があるでしょう。最近は携帯に電話がかかってくることも多いので、きちんと登録さえしておけば、番号を覚える手間も省けます。 電話対応という仕事は、企業によっては「新人さんの仕事」とされているようです。ですが、お客様の大切な時間を無駄にしてはいけないという考えから、創業期の壱番屋では決して「入ったばかりの新人さん」には電話を取らせませんでした。相手の時間を無駄にせず、かつ好印象を与えられる対応ができると認められた人から、電話に出ることが許されていたのです。 実は私も壱番屋に入社したての頃、電話対応で創業者の宗次德二に注意されました。 かかってきた電話に出たところ、相手はお取引先で、こちらの担当者は不在。そのため、用件をメモし、復唱したうえで、もう一度相手のお名前と社名を確認して電話を切りました。自分としては相手に失礼のない無難な対応だと思ったのですが、それを聞いていた宗次がピシャリ。「電話に出るのはまだ早い」と言われました。 というのも、当時は電話の相手に名前を聞き直すのはご法度に近く、それこそ声を聞いただけで相手がわかり、担当者に素早く取り次ぐことが当たり前だったからです。私がそのとき行った、いわゆる「丁寧だけの電話対応」は、自己満足でしかなかったというわけです。 たしかに、スムーズに担当者に取り次いでもらえたり、担当者が不在でも用件を理解しているとわかる対応を受けることで、安心感は増していきます。電話をかけただけで「お世話になっております、 × ×様。営業の △ △ですね」と対応してもらえたら、「自分は覚えられている」と実感できます。それが相手が望む「特別感」になるのです。 スタートラインでいかに早く相手を知り、対応できるかで、電話は長くも短くもなります。そして、常にスムーズな電話対応を続けることが、企業に対する信頼感につながっていくのです。 □「自分は覚えられている」という実感は、相手が望む「特別感」になる
02プロ秘書は「雨の来客」にタオルを差し出せる 雨の日にも雪の日にも来客はあります。そんなとき、ハンカチで濡れた肩を払うお客様を見ながら「お足元の悪いなかお越しいただいて……」と頭を下げるのは、ただの自己満足。プロの秘書ならお名前を聞くより先に「よろしければ、タオルをお使いください」と、清潔なタオルを差し出します。杓子定規な丁寧さより、「お客様が本当にしてほしいことは何か」を考えるのです。 そのため、壱番屋では受付のカウンターに雨用のタオルが常備されています。そして、雨が降り始めれば、素早く傘立てと傘を出す。 傘を持ったお客様には傘立てが必要だし、すでにいらっしゃるお客様は、傘を持っていない可能性もある。だから、返していただかなくてもいい傘をご用意しておいて、お帰りの際に「よろしければお使いください」と差し出すのです。そうすれば、お客様が傘を持っていないことがわかってから慌てて取りに行くロスタイムもありません。 宗次ホールでは傘袋をご用意しています。「お客様の大切な服を濡れた傘で濡らさない」ということを一番に考えれば、傘袋は必要です。 これはどちらも、創業者である宗次德二の発案です。もしかしたら、喫茶店からスタートしたことが、お客様に「おしぼり」を出す感覚と同じような発想を生んだのかもしれません。 どんなに偉い方でも、服が濡れたら気持ちが滅入る。急な雨には途方に暮れる。 当たり前のことですが、必要以上に「相手を敬う」という形式を意識しすぎて、本質を見失ってはいけません。テレビドラマに出てくるような「秘書」らしく、自分だけはキレイに身なりを整えて「お足元の悪いなか……」と言われても、「自分を気遣ってくれた」と感じる人は少ないでしょう。それよりは、どんなにぎこちない新人の対応でも、まず笑顔で「タオルをお使いください」と言われたほうが嬉しいはずです。 不思議なことですが、壱番屋でも宗次ホールでも、傘をお渡ししたお客様の多くは「先日お借りしたのですが」と傘を返しにいらっしゃいます。もちろん、返却は無用なのですが、良い記憶があるからこそまた来てくださったのだと思うと、とても嬉しい瞬間です。 雨の日にさりげなくタオルを差し出すという、「本当にしてほしいこと」を実践できてはじめて、お客様の心に「心配りができる会社」という強い印象が残るのです。 □自分だけキレイに身なりを整えて「お足元の悪いなか……」と言っていないか?
03プロ秘書は真夏に「熱いお茶」を入れる 寒い冬の日なら熱いお茶、暑い夏の日なら冷たいお茶をお出しする。これが多くの企業で実践されている来客マニュアルでしょう。しかし、時にプロの秘書は、暑い夏の日でも熱いお茶を出します。 というのも、営業職の方は一日中いろいろな企業を回っています。そのたびにクーラーの効いた部屋で冷たいお茶やアイスコーヒーを飲んでいたのでは、美味しいのは最初の数杯だけ。あとは「そんなに飲みたくないな」と思いながらも、仕方なく飲み干すことになるのではないでしょうか。お腹の調子を悪くする人もいるかもしれません。 そのため、マニュアル通りでなかったとしても「熱いお茶にしますか。それとも、冷たいお茶にしますか」とひと言聞いてみるのです。そこで「冷たいお茶を」と言われれば、そのとおりお出しすればいいだけのこと。質問は何であれお互いにとってタイムロスになりえますが、大切なのは、お客様の立場に立って選択肢を提示するということです。聞いてみると、「実は熱いお茶が飲みたかったんだ」と言われることもあるからです。 全社員がお客様に失礼のない同じレベルの対応をするためにはマニュアルが必要です。そのとおりにすれば、たしかに皆が「丁寧な対応をしている」という印象は残るでしょう。しかし、それではまだ不十分。お客様によって味の好みが違うように、一人ひとりに合わせた対応ができてこそ、はじめて本当のプロなのです。 たとえばお客様に対しては、「左様でございますか」とお返事するのが丁寧だとされています。でも、本来フランクに話すのがお好きな方であれば、話は別。たまには「そうなんですか! ビックリですね」と自然体で話をしてもいいのです。どんな話をしても楚々として「左様でございますか」と返されるより、よほどその場が楽しくなります。 こういう気遣いがうまいのは、創業者であり、二代目社長となった宗次直美でした。彼女はどんな人と話をするときでも態度を変えません。相手が偉い方でも、宅配便のお兄さんであっても、自然体で心から会話を楽しみます。 これは、女性ならではの感性なのかもしれません。ビジネスライクに仕事の話をするときはスマートに。でも、その後の会食では、食事が美味しくいただけるような楽しい話をしよう、というわけです。 自然体でいつの間にかお客様の心をほぐしていく様子を見ていたからこそ、私も「お客様にとって本当に心地よい対応」がわかったのだと思います。 型を意識しすぎてのマニュアル通りの対応より、さりげない心からの対応がお客様の満足につながることもあります。 □自然体でお客様の心をほぐす対応を心がけてみる
04プロ秘書は数字の「一」と「七」の違いに気をつける 仕事相手と電話で話をするときは、会って話をするときよりも注意が必要です。なぜなら、電話では相手の顔が見えず、状況もわからないからです。プロの秘書は、相手の時間を無駄にせず、「感じのいい」電話ができます。 最近は誰でも携帯電話を持っているので、いつでもどこでも電話がつながります。便利なことではありますが、実は厄介な状況でもあります。というのも、仕事相手から電話がかかってくれば、誰でも反射的に電話に出てしまいます。しかし、本心では「このタイミングでこの人からかかってくるなんて……」と思っていることもあるでしょう。実は仕事が立て込んでいて、「できれば早く切り上げたい」という場合もあるはずです。 そのため、こちらから電話をかける場合は最初に「今、お時間宜しいでしょうか」と聞きましょう。もし「大丈夫です」と言われても、電話は極力短めに。ダラダラと話すのは、コスト的にも時間的にもロスになります。 電話を短く済ませるには、用件を明確にしておく必要があります。何の準備もせずに折り返しの電話をかけて、「どのようなご用件でしたか?」と聞いたり、間違っても「自分で調べるのが面倒だから」と気軽に問い合わせの電話をかけるようなことがあってはいけません。さらに、相手の顔を見て話せない電話では、明瞭な発音を心がけ、数字の「一」は「イチ」。「七」は「ナナ」と発音するなど、聞き間違いの多い単語にも注意します。会話をテンポよく運ぶためには、特殊な専門用語や、マニアックな略語なども避けるべきでしょう。わかりやすさが重要です。「承知しました。明日の『ナナ時』に御社ですね」などと要点を復唱して、こちらが正しく内容を理解していることを伝え、相手を安心させる気遣いも大切です。 また、手早く電話を切ることばかりを考えて、畳みかけるような早口になってもいけません。聞き違いなどのミスが生じやすくなり、肝心の用件が伝わりづらくなってしまいます。相手に忙しない印象が残るのもマイナスポイントです。 顔が見えない状況だからこそ、口調は対面で話すとき以上に心を込めて、明るく丁寧に。マメに相づちを打ちながら頷き、「お願いします」という言葉と同時に頭を下げる。明るい話題のときや御礼の言葉は、軽く微笑むといいでしょう。言葉に動作や表情を伴わせることで、実際に姿は見えなくても気持ちが伝わります。 便利なツールほど、気持ちよくコミュニケーションをとるためには気遣いが必要なのです。 □「承知しました。明日の『ナナ時』に御社ですね」と復唱する
05プロ秘書は「ニコ・キビ・ハキ」をモットーとする いつもニコニコ笑顔で、キビキビと動き、ハキハキとした態度で応える。すべての人がどんな場面でもこれを実践できていれば、日常生活をするうえで誰も嫌な思いをすることはないでしょう。常に「ニコ・キビ・ハキ」を実践できるのが、プロの秘書です。「ニコ・キビ・ハキ」はシンプルな言葉です。仕事のみならず、人間関係やコミュニケーションの基本ともいえるでしょう。しかし、どんなコンディションでもこれを貫くのは、簡単なことではありません。仕事が立て込んでいたり、少しでも気分が乗らなかったりすると、必ずどれかが欠落してしまいます。 たとえば「ニコニコ」。仕事に追われていると笑顔が消え、ふと気がつくと眉間にしわを寄せていることもあるでしょう。しかし、不機嫌そうな顔をした人が一人でもいると、すぐにその緊張感が伝わり、嫌な雰囲気になってしまうのが職場です。自分がその負の連鎖の源になってはいけません。 寝不足などでコンディションが優れないと、「キビキビ」動くことはできません。つい作業が遅くなったり、ダラダラと動いてしまったりすることもあるのではないでしょうか。しかし、たった一度の手抜きが命取りになるのが仕事です。せっかく長年積み重ねてきた信頼を損なわないためにも、常に誠実な働きをする心がけが必要でしょう。 また、仕事への理解が足りなかったり、進め方に不安が残っていたりすると、「ハキハキ」した応対はできないはず。質問に対して言いよどんだり、「少々お待ちください」という言葉が口をついて出たりするのではないでしょうか。 私の場合、せっかちな上司でしたから「少々お待ちください」はほぼ禁句だと考えているところがあります。「あの件は?」と聞かれれば、すぐに答えて、資料を出す。電話がかかってきたら、すぐに対応して次の行動に移す。 慣れないうちこそ大変でしたが、できないことではありません。「大変だ」と愚痴を言うよりも、「必要なこと」と前向きに態勢を整える努力をしたほうが、自分にとってもプラスになります。「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」は創業者である宗次德二が考えたモットーであり、壱番屋の社是でもあります。何事もスピーディにテンポよく。決してお客様をお待たせしないこと。特に壱番屋のようなサービス業では基本となる接客姿勢ですが、自分以外の人をすべて「お客様」と考えれば、ある意味すべての仕事がサービス業。もちろん、秘書の仕事もその例外ではありません。 とはいえ、仕事をしていれば腹の立つことも、気が乗らないこともあります。そういうときは、少しその場を離れてクールダウンしたり、短時間の休憩をとったり。休日にはたっぷりと休養をとり、趣味に没頭して気分転換してもいいでしょう。 オフの時間を上手に使って「ニコ・キビ・ハキ」を実践できるコンディションを維持するのも、ビジネスパーソンにとって大切な心がけなのです。 □「大変だ」と愚痴を言うよりも、「必要なこと」と前向きに
06プロ秘書は「自分以外の人はお客様」と思う 自分以外の人をすべてお客様だと思うこと。これは、創業以来「お客様第一」の姿勢を貫く創業者である宗次德二の言葉です。私はプロの秘書として、常にこの言葉を胸に仕事をしています。 上司も部下も同僚も、親も子どもも、もちろんお取引先も。すべての人は自分にとってのお客様。相手がお客様であれば、大変なことでも、多少イレギュラーなケースでも、そのニーズに応えるのは当然で、「ここまでやれば大丈夫」などというラインはありません。ましてや、「これくらい言えばわかってくれて当たり前」という甘えがあってもいけません。 身近な人に対してはつい甘えが出てしまうのが人間ですが、甘えはすべての成長をストップさせます。しかし、自分以外のすべての人を「お客様」と思って接することで、誰に対しても自然と十分な気遣いができるというわけです。 たとえば、お客様をこちらの事情でお待たせすることがあってはいけません。そう思えば、上司の「これ、やっといて」という急な指示にも迅速に対応できるはず。わからないことがあるたびに「少々お待ちください」「後で確認します」と先延ばしすることもなくなることでしょう。 また、お客様を不安にさせてはいけません。それがわかっていれば、自分の仕事への理解力を高め、上司や部下から質問があればすぐに答えられる態勢を整えるはずです。相手が安心できるようにと思いやれば、説明をする際の口調も変わってくるでしょう。 さらに、お客様が満足するように対応することが「お客様第一主義」です。そう考えれば、上司の仕事に必要な資料を予測して揃えたり、たとえ自分がいなくても「どこに何があるか」がわかり、資料を見ただけで誰にでも仕事の進捗が把握できる状況をつくれるのではないでしょうか。 とはいえ、電話をかけて「担当者がいないのでわかりません」と言われるのは珍しいことではありません。「それなら仕方がないな」と思う半面、「それは本当にお客様のことを考えているのかな」とも思います。「担当者は今はおりませんが、 ○ ○頃にはご連絡できます」と聞けば、お客様は少しは安心するのではないでしょうか。 お客様には、自分がどのような状況であろうともベストを尽くさなくてはいけません。立場上の優劣に関係なくその精神を貫けるのが、プロのビジネスパーソンなのです。 □お客様には、自分がどのような状況であろうともベストを尽くす
07プロ秘書は「自分が相手ならどうしてほしいか」想像できる 秘書の仕事は、上司が働きやすいようにサポートをすることです。資料を整える、スケジュールを管理する、会議中にお茶を出す、という大小すべての秘書業務の前提として、上司が「本当にしてほしいこと」を予測して提供し続けなくてはいけません。プロの秘書は、上司の立場に立って考えることができるのです。 先に「自分以外の人はすべてお客様だと考える」というビジネスパーソンとしての大前提をお話ししましたが、なかでも秘書として仕える上司に関しては「お得意様」と考えるとわかりやすいでしょう。仕事で接する機会が多いぶん、多少気心が知れた相手ではあるものの、一番気を引き締めてかからなくてはいけない存在でもあるからです。 お得意様の満足を第一に考えれば、気遣い・思いやりは基本です。これは、サービス業で言うところの「おもてなしの心」に通じるでしょう。 しかし、それが自己満足の押し付けがましいものであってはいけません。これは上司にかぎらず、部下や同僚であっても同じこと。気遣いのつもりで言ったひと言が「余計なお世話」だったり、言葉足らずであらぬ誤解を生んだり……ということは、コミュニケーションをしていくうえでよくあることです。厳しい言い方をするようですが、「見当違いの思いやり」は、相手にとって「迷惑」でしかないのです。 そのようなミスを犯さないためには、「どうすればその人が満足するか」を考える。つまり、自分のなかに「自分が相手だったらどうしてほしいのか」という第三者的な視点を育てることが必要です。 相手の身になって考えるためには、まず第一に相手への理解を深めること。そして、相手を知るには「オープンマインド」の精神で自分から心を開き、近づいていかなくてはいけません。自分に対して本音を見せる人間には、相手も本音を見せるものだからです。 私は上司の人となりを知るために、意識して雑談の時間をつくりました。始業前の時間を使って、ほんの少し仕事から離れたプライベートなこと、たとえば家族や休日の過ごし方などについて話してみたのです。すると、徐々に相手も自分の話をするようになり、お互いの基本的な考え方やスタンスなどについての理解も深まりました。 また、日頃から上司を観察し、情報収集することも重要です。そして、わずかなサインを見逃さず、そのつど誠心誠意対応していくことで、正解が見えてきます。 たとえば、朝のお茶はいつもコーヒーだとしても、「今日は体調があまり優れないようだな」と思ったら日本茶を勧めてみる。そこで上司が「コーヒーに決めているから」と断れば、「朝は必ずコーヒーを出す」とインプット。 昼食前にミーティングを入れてみて「なんだか打ち合わせ中ずっとイライラしていたな」と感じたら、次からはミーティングを昼食後にしてみる。そこでミーティングが和やかな雰囲気で進めば「お腹が空くと機嫌が悪くなるタイプなのだ」とインプットする。 最初は失敗もあるかもしれませんが、コミュニケーションと学習を重ねることで、自然と上司の気持ちに寄り添えるようになるはずです。すると、「今はこうして欲しいのではないか」というところまで考えが及び、上司が「 ○ ○してくれ」と言う前に準備ができる、お役に立てる存在になれるのです。「かゆいところに手が届く」とはこのことでしょう。 一つひとつは小さなことでも、上司と秘書との付き合いは毎日続きます。日常の些事まで上司の思いどおりに進んでこそ、「本当にしてほしいこと」を提供したことになるのです。 □意識して雑談をして、上司の気持ちに寄り添ってみる
08プロ秘書は「声色」を使い分ける 留守番電話などで偶然自分の声を聞き、「自分はこんな話し方をしているのか」と驚いた経験がある人もいるでしょう。人は、それくらい自分の話し方に対して無頓着なものです。しかし、 TPOに合わせた声色が出せるのがプロの秘書。声の出し方ひとつで、相手に与える印象がまったく違うことを知っているからです。 同じ言葉を声のトーンを変えて言ってみると、その違いがはっきりします。 たとえば、楽しそうに話す相手に対して、低い声で「そうなんですか」と返事をすると、どうしても興味が薄く、気のない印象になります。ぶっきらぼうな印象を抱く人もいるでしょう。 逆に、高い声でハキハキと「そうなんですか!」と言えば、興味を持って聞いていることが伝わります。言葉と同時に身を乗り出したり、驚いたような表情をしてみせれば、さらに気持ちのこもった返事になるでしょう。 声の出し方は、基本的には「高い」か「低い」かです。高い声は明るく、若々しい印象になりますが、半面、少し頼りない印象を与えることもあるようです。低い声は落ち着いた大人の印象を与えますが、場合によっては暗く意欲のないイメージを持たれることもあります。さらに、話すスピードが「速い」か「遅い」かでも、印象はかなり変わります。速いスピードで話せばハキハキした印象を与えますが、速すぎると忙しない印象を抱く人もいます。ゆっくりとしたスピードで話せば自信ありげな発言であるかのように演出できますが、語尾を伸ばすようなのんびりした話し方をすると、間延びした頼りない印象を与えてしまうこともあるようです。 つまり、話す相手や場面によって声の高さと話すスピードを組み合わせ、使い分ける必要があるということです。 まずは一度、自分の声を録音してじっくり聞いてみましょう。そして、どんな声をしているのか冷静に判断するのです。話し方やスピード、抑揚など、細かくチェックしてみてください。すると、意外と早口で話していることがわかったり、思ったよりずっと高い声だったり、「でも」「えっと」を会話中に何度も連呼するなど、話し方のクセのようなものがあることにも気づくでしょう。 そうやって自分の話し方の気になる点を洗いだしたら、次はお手本を見つけること。何も難しいことではなく、「ステキな話し方だな」と思う人を意識して探せばいいのです。 あとは、練習あるのみ。声の高さやスピード、口調など、まずは真似からはじめて、自分のものにしてしまうことです。 TPOに合わせて、相手の心に届きやすい声色で話すのも、プロの仕事なのです。 □まずは一度、自分の声を録音してじっくりと聞いてみる
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