お客さまの要望を受け入れられないことは最もつらい部分でもあります。私も、お客さまの要望を受け入れたくてもできず、困った経験が何度かありました。
大抵それは、求人広告を出したにもかかわらず応募者が少ないときに起こります。お金を払いたくないという無理な要望の電話がかかってくるのです。
最初の頃はただただ謝罪するしかできませんでした。そこであるとき、正直な気持ちを言ってみたのです。
「私が社長だったら、半額にするのですが」と。すると、あきらかに今までとは違ったお客さまの反応が見られたのです。「確かにそうだね」「こっちも無理だとわかっていても、一応言ってみただけだから」とやわらいだのです。
中には「そしたら森さん早く社長になってよ」と、笑いながら言ってくれる会社もありました。
それからは、無理難題を要望するお客さまが現れても、「私が社長だったら」仮説でお客さまの心を掴んで取引を継続していきました。
「私が社長だったら、半額にするのですが」「私が社長だったら、次回は無料にします」と、仮説ならいくらでもサービスを作ることができますね(笑)。
もちろん、お客さまのクレーム状況に対して真摯にお詫びをしたうえでの仮説です。
時にはユーモアを感じさせる仮説で、お客さまの無理な要望を乗り越えましょう。
人に人格があるように、お店にも格があります。
誰かを注意するときに、人格を否定しないようにするのと同じで、やむを得ずお店にクレームを言うときにも、〝店格〟を否定しないように意識しましょう。
たとえば飲食店での「料理が出てくるのが遅い」は、よくある話です。「遅いよ!まだ?」と、店員さんに声を荒らげる人を見かけるときがあります。確かに、お腹が空くとイライラして機嫌が悪くなる人はいます。
その原因は、ケンブリッジ大学の研究によると、セロトニンの不足が影響しているのだそうです。セロトニンが空腹により不足するから、感情が不安定になり、イライラしてしまうというのですね。空腹でも、謙虚な姿勢でていねいにクレームを言う人はたくさんいます。
そのような人は、「何かの手違いかもしれませんが、念のためご確認していただけませんか?」と言って、頼んだ料理がまだ来ないことを伝えます。
このような言い方をすれば、お店の格を否定しているようには捉えられないでしょう。
なかなか来ない料理にクレームを言いたくなったら「自分は今、セロトニンが不足しているんだ」と思ってイライラせず、逆に「何かの手違いかもしれませんが」と言って、店員さんの不安を少しでも軽くしてあげましょう。
お店の人を気づかいながら、スマートにクレームを言った友人の話をしましょう。レストランで食事をしたときのことです。単品で頼んだエビサラダを見て、友人と私は思わず顔を見合わせました。
メニューの写真ではたっぷりのエビが載っていたのですが実際に運ばれてきたものにはたった二つのエビしか載っていなかったのです。
「ほかのサラダと間違えたのかも」「エビが二つあるから間違えてはないでしょう」など二人であれこれ言っていると、友人がスタッフの方を呼び冷静な態度で「これは、エビサラダで間違いないですか?」と尋ねました。
「はい」と答えるスタッフに、今度は微笑みながら「あなたに言っても仕方がないことなんだけどね、写真とはずいぶん違うからエビ好きとしてはちょっと残念だって、サラダを作った人に伝えておいてね」と伝えたのです。
頭から否定せず、「これは、エビサラダで間違いないですか?」と確認してから「あなたに言っても仕方がないことなんだけどね」と相手に寄り添う言葉をかけています。
このような言い方をされれば、お店の人はお客さまに恐怖心を抱くことなく、安心してクレームを受けとめることができるのだと思います。
リクルート時代、同期に元気な女性がいました。
その女性は、飛び込み営業をしたケーキ屋さんのひどい対応に我慢ができず、「すっごく感じ悪いですよ!」と、叫んでからお店を後にしたというのです。
チームミーティングでこの話を聞いた上司は注意しながらも「でも気持ちはわかるわね」と、彼女に寄り添いました。
「私もたまに、その場でクレームを言いたくなるような店員さんに遭遇することがあるのよ。
でも他のお客さまに迷惑がかかると思って、言わないで帰ってくる。それでもあの感じの悪さはないと思ったら、後から責任者へ電話をするのね。
そのとき、『こちらの捉え方が正しいかわかりませんが』と言ってから、店員さんの感じが悪かったことを伝えるようにしているのよ」上司いわく「こっちはお客だというような強気な姿勢では責任者だって萎縮してしまう。それに責任者は現場を見ていない。
だからこそ謙虚さを示してから冷静にクレームを言ったほうが、お店の非が浮き彫りとなって事実が伝わるものなのよ」どんなときでも謙虚かつ冷静であるほうが、説得力があるのですね。
そうそう、ケーキ屋さんで叫んだ彼女ですが、その後は、お客としても足を運ばないと決めたそうです。それもある意味、上手なクレームの出し方だと思いました。
お客さまから断りの連絡があったときは、残念な気持ちになりますよね。そんなとき、「残念です」「わかりました」とだけ言って諦めてはいませんか?
「営業は恋愛と同じ。断られてからがチャンス!」
これは、求人広告の掲載を断られて帰ってきた営業マンに、上司がよく言っていた言葉です。
好きな人にフラれた時も「僕は諦めません」と言って、しつこくならないようにアプローチをし続けていく人に、チャンスは巡って来るというのです。
なぜなら人は、自分に強く好意を持ち続けてくれる人に、いつしか同じように好意を返したくなるという心理が働くからです。仕事でも同じです。
お客さまは、自分の会社のことをそこまで思って諦めないでいてくれた営業マンに、「今度はお願いしてみよう」と思うときが来るものなのです。
ただ、「私は諦めません」と直球の言葉を投げるよりも、「一緒に仕事がしたかったので、残念です」「いつか一緒に仕事ができる日を楽しみにしています」と言うほうが、柔らかいイメージがして印象がよいでしょう。
そして、継続してお客さまへの連絡を絶やさないことが、徐々にお客さまの心を動かしていくのです。お客さまから断られたときは一途な気持ちを添えて、改めて行動を起こしていきましょう。
本気度を伝え続けることが、相手の心を動かすのです。
自分より立場が上の人に、直してほしい部分をお願いするときは、「○○さんのことは尊敬しています」と、その人を敬う気持ちがあることを最初に伝えてからにするとうまくいきます。
デスクで仕事をしていると、隣の席の先輩がどうやら「明後日から雑誌に求人情報を掲載して」と無理難題を言ってくるお客さまの対応をしているようでした。
最終的に先輩は、「社長のことは尊敬しています。ですから最低でも1週間前には連絡してほしいです」と言って、お客さまに納得していただいていました。
先輩いわく「尊敬していますと言われたら誰だってうれしいでしょう。最初にちょっといい気分になってもらってから、言うべきことをお願いするから効き目があるのよね」とのこと。
それからは、掲載10日前には連絡がくるようになったのだそうです(笑)。
直してほしい部分をお願いするときは、最初に「尊敬しています」と言って、相手をいい気持ちにさせてからお願いすると、相手の自尊心を傷つけることがないのです。
「お客さまと私たちは、ウインウインの関係。お客さまが正しくないときは、それを諭すことがお客さまへの愛情です」この言葉は、自分は広告料をいただく側、つまり選ばれる側だけだと思っていた私には目からうろこでした。
広告料をいただく側だとしても、採用が成功すればお客さまにも利益が生まれる。だから、お客さまが正しくないときは堂々とそれを伝えましょう、というのです。
まずは、決して命令形だけにならないようにすることが大切です。そして、ウインウインの関係ですから、へりくだりすぎる必要もないわけです。そんな言葉あるの?と思いますよね?それがあるのです。
それは、「どうか、ご理解ください」です。「ご理解ください」は、敬意を表してはいるものの「ください」という語尾が命令形になっていますね。このニュアンスに「どうか」を添えることで、さらなる切実さを訴えるのです。
たとえば、言い方がいつも高圧的なお客さまなら、「もう少し穏やかな話し方をしていただけると、心臓が驚きません。どうか、ご理解ください」という感じです。
本来お客さまへは、「ご理解のほどよろしくお願いします」「何卒よろしくお願いします」と、ていねいにお願いするのがベストですが、困ったお客さまへは、必要以上にへりくだることはないのです。
嫌なことを言われて傷つけられたときは、黙って我慢しないでくださいね。心を傷つけるようなことを言われたときは、上手に反論して自分を守っていいのです。
私がインタビューした20代のE子さんは、電話の出方からコピーの取り方まで、悪意があるかのごとく細かく注意をしてくるお局さまにずっと我慢をしてきました。
頭ごなしに「そんなこともできないの?」「常識ですよ」と毎日言われ、我慢の限界にきたE子さんは、派遣先を変えてもらう決意で「それは、〇〇さんの物差しで言っているのですよね?」と反論しました。
お局さまは無言だったそうです。その後、E子さんは新しい派遣先で事務スタッフとして活躍しています。忙しい会社なので、毎年多くの新人が入ってきます。
時々、「プリンターの設定の仕方もわからないの?」と、先輩に冷たく言われている新人を見つけると、次のように先輩に言って、助け舟を出すのだそうです。
「それは先輩の物差しですよね。知らないことを教えることが、新人に対していま私たちができることだと思うのですが、どうでしょうか」正論を言われた先輩は「確かに」と、その場で納得するそうです。
嫌なことを言う人は、自分の物差しで判断をしてきます。E子さんに助けられた新人は、どんなに心が救われたことでしょう。私の大きなミスでお客さまを怒らせてしまったことがありました。謝罪をしても、お客さまの怒りはおさまりません。
帰社後、事情を知っているチームの先輩が、お客さまの怒りとの向き合い方を教えてくれました。
「私みたいにしょっちゅうお客さまに怒られてるとね、怒りのレベルがわかってくるのね。最初お客さまの怒りは震度5だったけど、翌日には震度3になった。1週間たてば、震度はゼロ、つまり怒りはおさまるってわかるのよ」そう話す先輩は、採用ができなかったことにご立腹のお客さまによく電話で謝罪をしていました。
「申し訳ありません」「本当に申し訳ありません」と言いながら、実はお客さまの〝怒り度数〟を計っていたとは、その心の余裕に感動し、自分も見習おうと思ったものです。
そしてお客さまの怒りについては、某大手生命保険会社の営業マンが次のように言っていたことを思い出します。
「ミスをしたなら『本当に申し訳ないです。深く反省しています』と、ひたすら謝るといい。怒るだけ怒ったらお客さまも疲れるんだよ。そして、怒りを出し切ったことでスッキリするんだね。だからそれまでの辛抱だよ」怒りのレベルを計る先輩の向き合いかたに通じるものがあると思いました。
お客さまを怒らせてしまったときは、ひたすら謝りましょう。
友人や恋人、兄弟姉妹、同僚などを心ない言葉でうっかり傷つけてしまった……。誰もがきっと、一度はあるのではないでしょうか。どんなことでも、自分が悪いと思ったら「ごめんなさい」と謝りますよね。
ですが、「ごめんなさい」を言うときは、言い方に十分注意をしたいものです。なぜなら、心を傷つけられた人と傷つけた人との気持ちに温度差があるからです。
傷つけてしまった人は、言ってしまった言葉を撤回しようと「ごめんなさい」と言います。「決して傷つけるつもりはなかった」「悪気はなかった」と伝えたいのです。
いっぽう傷つけられた人は、そんな言い訳がましい謝罪ではなく、心からの「ごめんなさい」が聞きたいのです。
心からの「ごめんなさい」とは、どんな言葉なのでしょう。それは、「私の配慮が足りなかった」です。
この言葉には、非は100パーセント自分にあることを感じさせます。同時に、本当は相手を大切に思っているという気持ちも伝わってきます。
本当は大切なのに、自分の配慮が足りなかったために傷つけてしまった、と言っているのです。
心からの「ごめんなさい」を聞くことができれば、ちょっとホッとして、少しずつ心の傷が癒されていくのです。知らないことは、決して恥ずかしいことではありません。
知らないことを知っているかのように振舞ってしまうほうが、恥ずかしいのです。とはいえ、知ったかぶりをしてしまう人の気持ちはわかります。
相手に「意外と物事を知らないんだな」と思われないか、不安になるからです。また、その場がしらけた空気になることも恐れてしまうのだと思います。
それでも、知ったかぶりがばれて相手との信頼関係を崩すくらいなら、恥を忍んで「教えてください」と言うほうが、後々気持ちは楽になるでしょう。
そんなときは、自分に知識がないことを素直にさらけ出してから「詳しく教えてください」とお願いすると、素直な人柄が伝わり相手に好感を持たれます。
「勉強不足でお恥ずかしいです。詳しく教えてください」と言えばいいのです。心理的に人は頼られると自分の価値を認めてもらえた気がしてうれしくなるものです。
「教えてください」と言われたら教えたくなります。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』ということわざがあるくらいです。知らないことは知らないと正直に認め、詳しく教えてもらいましょう。
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