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Chapter4スタバで実践したモチベーションアップ

目次

Chapter4スタバで実践したモチベーションアップ

なぜ学生でも誇りを持って働けるのか

モチベーションとは、「動機づけ」「意欲」という意味の言葉です。仕事に対する意欲は個人の内面の問題であり、それを外側から向上させることは簡単ではないかもしれません。

しかし、スターバックスの仕組みや考え方には、パートナーのモチベーションを上げるヒントがたくさんあると思います。

2013年、アルバイトが悪ふざけをした画像をツイッターに投稿し、炎上する事件が相次ぎました。冷蔵庫に入ったり、洗浄機に足を突っ込んだり、ピザ生地を顔に張りつけたり。

昔から若者はふざけた行動で大人から大目玉を食らうのが定番でしたが、ネットで情報が拡散され、批判が集中しました。

なかには閉店に追い込まれる店も出て、アルバイトに損害賠償を請求する話も出るなど、冗談では済まされない大問題へと発展したのです。

スターバックスにも学生アルバイトは大勢いますし、とんがっているタイプもなかにはいますが、こういった事件が起きたことは、少なくとも私は聞いたことがありません。

なぜスターバックスでは、悪ふざけのような行為が起きにくいのか。それは、パートナー1人1人が「誇り」を持って働いているからだと思います。

自分がスターバックスのブランドを作っている一員なのだと自覚しているのです。では、ブランドとはそもそも何でしょうか。ブランドとは、お客様に対する「約束」です。

たとえば、ブランド品と呼ばれる高価なバッグには、厳選された素材やデザイン、専属契約を結んだ縫製技術など、お客様との約束を裏切らないだけの卓越したクオリティが保証されています。だから、高価な値段で提供できるうえ、お客様も買い求めるのです。

スターバックスも、同じような業態のお店の中では、値段は決して低くありません。しかも、コーヒーをただ売るのではなく、お客様に喜んでいただくことを看板にしているようなものです。

スターバックスというブランドがお客様に約束しているポイントは、3つあります。

  • ①お客様においしいと言っていただける、商品のクオリティ
  • ②お客様にとっての居心地のいい空間、サードプレイス
  • ③パートナーの存在、お客様の心を潤すサービス

この3つがそろって、スターバックスというブランドは初めてお客様に信頼していただけるのでしょう。どれか1つでも抜け落ちると、ブランドは崩壊していきます。

パートナーの1人がスターバックスの考えから逸脱した言動をすれば、その店舗だけでなくスターバックス全体の信頼は簡単に崩れていくでしょう。

それがわかっているから、「ちょっとふざけちゃおう」とタガが外れることはないのかもしれません。つまり、学生でも大人としての行動を取っているのです。

子供は目の前の楽しいことに流されてしまいますが、大人はそこで理性が働き、「周りの人に迷惑をかけるかも」とブレーキをかけられます。

スターバックスで働くパートナーは、ここは自分のお店だという意識と自覚を持っているのでしょう。スターバックスでの仕事が「単なるバイト」ではなく「プロの仕事」であると、自覚しているのだと思います。

スターバックスのミッション(使命)は、お客様に感動経験を与えることだと常日頃説いているので、自分さえよければそれでいいという空気がないのです。

もちろん、周りのパートナーも「学生だから」という態度で接することはありません。バイトを雇う企業のなかには、学生アルバイトを「バイト君」と呼んでいるところもあると聞きます。

そのように周りが軽んじていたら、「仕事に誇りを持て」と説いても相手はピンとこないでしょう。また、実力を身につけていけば、たとえ学生であっても、シフトスーパーバイザー(時間帯責任者)を任せることもできます。

責任のある仕事に就けば、自然と学生気分は抜けていくでしょう。社会人になる前に、すでに社会人としての意識を身につけているのです。社会貢献も、誇りを持たせるための手段の1つです。

社会貢献と聞くと、きれいごとのようにとらえる人もいるかもしれませんが、世の中の役に立っているという喜びは、誇りに直結します。スターバックスでは、社会に貢献しようと多くの取り組みを行っています。

たとえば、お店のある地域を掃除するクリーンアップ活動は、あちこちの店舗で活発に行われています。パートナーだけではなく、近くの住人にも呼びかけて、ちょっとしたイベントとしてやっているお店もあるようです。掃除が終わったらパートナーたちがコーヒーを配り、近隣の人と交流を図るのです。

こういう活動は多くの企業でやっていますが、街がきれいになるのは単純に気持ちいいですし、身近な社会参加にもなります。

また、スターバックスは国際的ボランティア団体「メイク・ア・ウィッシュ・オブ・ジャパン(MAWJ)」と一緒に、さまざまな取り組みをしています。

MAWJは難病とたたかう子供たちの夢をかなえるお手伝いをしている団体です。クリスマスの時期には、MAWJと一緒に「プレイサンタ・プロジェクト」と題して、子供たちにプレゼントを贈る取り組みが長い間続けられています。

パートナーたちが絵本やぬいぐるみ、文房具などのプレゼントを選び、手書きのカードを添えて贈るのです。こういった社会貢献を通して、学生アルバイトでも自分も社会の一員だという誇り高い意識が芽生えるのです。

1つ上の仕事が、一番の学びの場

2014年4月から、スターバックスコーヒージャパンは約800人いる契約社員のほぼすべてを正社員として採用しました。この話題は、テレビやネットでも取り上げられたので、ご存じの方も多いでしょう。

これは出店拡大への準備として、即戦力でストアマネージャー(店長)になれる契約社員を取り込むという狙いもあるようですが、契約社員のモチベーションアップを図ってサービスの質を上げるのが大きな目的のようです。

これによって、スターバックスの正社員数は1800人から2600人に増えたと言われています。元々スターバックスは、アルバイトから正社員への道が開かれていました。

スターバックスでは、入社して80時間の研修を受けている期間は「トレーニー」と呼ばれ、バリスタ(コーヒーを作る役割)への昇格を目指します。

バリスタはショート、トール、グランデ、ベンティの4段階の育成レベルに分かれています。なお、この呼び方はスターバックスのドリンクの大きさにならっています。

ステップアップするごとに時給は高くなっていくというシステムです。

バリスタとして経験を積んだ後は、シフト管理、資材の発注やお金の管理などを任されるシフトスーパーバイザーになる道が開かれています。

これも3つのステップに分かれ、時給はアップしていきます。その後が、ストアマネージャーを補佐するアシスタントマネージャーです。

以前は、アシスタントマネージャーにステップアップすると、契約社員になれました。そして、ここで一定の経験を積めば、正社員登用試験を受けることができたのです。

もちろん簡単な道のりではありませんが、これまでもアルバイトから正社員になり、サポートセンター(本社)で部長職を務めた人もいます。

スターバックスは実力主義であり、頑張って成果を出せば認めてくれる組織なのです。このようなチャレンジができる企業体質は、パートナーのモチベーションを大いにアップさせます。

最初は「スタバが好きだから」「コーヒーに興味があるから」という理由で入ったパートナーも、ステップアップしていくうちに、もっと上を目指したいと向上心がわいてくるのです。

では、そのステップアップで得られる、一番大きなものは何でしょうか。もちろん、給料は上がります。

地域によって異なるものの、トレーニーからストアマネージャーになる一歩手前までの時給は500円以上アップします。

しかし、お金以上に得られる大きなものがあります。それは「成長」です。1つステップアップするごとに、求められるスキルは変わっていきます。

たとえば、バリスタ・ショートではレジやバーでドリンクを提供するスキルの他、フロアでお客様が帰った後にテーブルを拭いたり食器を片づけたり、食品衛生や危機管理の知識やスキルなどを求められます。

最初のステップの仕事量として、かなり多いでしょう。トレーニーからバリスタ・ショートになったばかりのころはまだ経験が少ないので、最初は誰でも仕事を覚えられず、失敗も数えきれないほどします。

なかなか次のバリスタ・トールにステップアップできないパートナーもいます。なかには脱落してしまう人も少なくありません。それでも、すべての仕事ができるようになった時の喜びは、苦労した分、得難いものです。

そして、次のステップに進めたら、さらに高度な仕事を求められます。その繰り返しで、絶えず成長を続けられるのです。私はディストリクトマネージャー(地区責任者)だったころ、ストアマネージャーを認定するのも仕事の1つでした。

その時の私の方針は、「1つ上の仕事が、一番の学びの場」でした。ですから、少し不安のあるアシスタントマネージャーであっても、「ストアマネージャーで頑張ってね」と送り出していました。

もちろん、本人は人一倍の苦労をします。1つポジションが変わるだけで、責任の重さは大きく変わります。

お店の売り上げ目標を立てたり、パートナーの指導をするなどのマネジメントをしなければなりませんし、お店でトラブルが起きた時はストアマネージャーが判断し、対応しなければなりません。

しかし、それまでとは視点が変わり、多くの新たな気づきを得られるのです。そういう成長した自分に出会えるのが、モチベーションアップにつながるでしょう。成長には2種類あります。

1つは、スキルや能力を身につけること。

もう1つは、人格や人間性を高めること。

日本は地位や職種、所属する団体で人を判断する傾向があります。

たとえば「社長だから偉い」という考え方はよくありますが、人間的にはそれほど素晴らしさを感じられない社長も残念ながらなかにはいることは、みなさんも日頃実感しているはずです。

本当は、人間性や人格を向上させるために、人は生きているのだと思います。それは医師でも弁護士でも、農業や漁業でも、あらゆる仕事で磨くことはできます。

人はお金だけに生きがいを感じるわけではありません。確かに給料が上がると嬉しいでしょうが、それは一時的な喜びです。モチベーションを保ち続けるには、成長を実感できるような場を用意するのが一番なのです。

人に教えて自分も成長しよう

今までの章でお話ししてきた研修のファシリテーター(講師)は、実はチャレンジ制です。サポートセンターで指名して決まるわけではありません。ですので、学生でもファシリテーターになることは可能です。

自主性を重んじるスターバックスならではのシステムだと、私は思っていました。ファシリテーターになりたい人は多く、人気がありました。それだけ最初の研修で感銘を受ける人が多いのでしょう。

スターバックスで働き、フィードバックし合ううちに、教える楽しさに気づく人もいるのかもしれません。ただし、ファシリテーターになるには試験も受けなければなりません。

最初のパネルインタビュー(面接)で「お客様にタンブラーを販売する時にどう説明すればいいのか、短時間で教えてください」といった課題を出して、実演してもらいます。

合格した人にはファシリテーター育成プログラムを受けてもらい、スキルを磨いてもらいます。そして最終面談で合格し、正式にファシリテーターに認定されるのです。私もこの研修に参加しました。

1日目はファシリテーターとは何か、どのようなことに注意して教えればいいのかという基本的なことを教わります。

2日目と3日目は80時間の研修の中から、「あなたはスターバックス・エクスペリエンス(体験)のところを教えてみて」「ミッションのところをやってみて」と割り振られて、実演します。

そのクラスには、マスターファシリテーターと呼ばれるファシリテーターを育成する人がいて、実演を見てフィードバックをしてくれます。何度か実演して、OKをもらえたら、晴れてファシリテーターとしてデビューできます。

けれども、1回でパスする人はほとんどいません。それでも、何度も研修を受けて再チャレンジしてファシリテーターを目指す人は大勢います。ファシリテーターには研修を進行するためのガイドブックが用意されています。

教える内容も、全体的な流れも決まっています。ただ、ガイドブックを棒読みしていたらまったく伝わりません。いかに自分の言葉として伝えるかが重要なのです。

また、研修は参加者と議論しながら進めていく方式なので、ガイドブックの内容を覚えておけばいいというものでもありません。想定外の質問が出ることもあるので、臨機応変に対応できなくてはならないのです。

こういった、人に教えるという体験こそ、人を成長させるのだとつくづく思います。「わかったつもり」でいる程度では、人には教えられません。

本当に理解していないと人には教えられないので、自分自身が学び直すいい機会になります。

以前、テレビで截金師の長谷川智彩さんを紹介していました。截金師とは、仏像や仏画に金箔を施す職人です。長谷川さんは、弟子を持つことを条件に、師匠から独立を許されたといいます。

その理由は、弟子に見られることが成長につながるから。

人に教えることでいつまでも緊張感を維持できますし、初心を忘れず、自分を成長させられるでしょう。みなさんも、新入社員のメンターや、社内研修のファシリテーターになるチャンスがあるなら、ぜひチャレンジしてください。その体験は決してムダにはなりません。

部下のモチベーションは上司の行動に左右される

スターバックスには熱意を持ったパートナーが大勢います。その熱意が行き過ぎると、1人で突っ走ってしまうなど、時に間違った方向に働いてしまう人も出てきます。

これは、ディストリクトマネージャーの任に就いていた、ある女性の話です。

彼女は中途入社で、前の会社の考え方ややり方を引きずったまま、店舗に配属されました。

とても優秀なのですが、高い理想を求めるあまり他人を思いやることを忘れ、「なぜ私が言うことをできないの?」とパートナーに詰め寄ってしまうところが彼女にはありました。

しばらくすると、少しずつ、彼女に対する不満の声が上がるようになりました。ディストリクトマネージャーは、担当地域のストアマネージャーをサポートするのが主な仕事です。

ところが、彼女はストアマネージャーたちに時には高圧的な態度で、「私の指示通り動け」と言い渡していたようなのです。

せっかくストアマネージャーとパートナーがいい雰囲気のお店を作っていても、彼女が来店すると緊張感が走り、モチベーションが下がるという報告が上がってくるようになりました。

結果的に、彼女は自ら退職の道を選びました。彼女に態度を改める様子があればよかったのですが、自分のやり方が周りにどのような影響を与えているのか振り返ることをせず、周りが変わることを求めてしまったのです。

どんなに仕事の能力があっても、スターバックスのミッションを理解して自らが体現できないと、周囲との協働も難しくなります。

部下が働きやすい環境を作るのも、上司の役割です。もちろん、部下に対して毅然とした態度を取るのは大事です。友達感覚で接すれば働きやすくなるわけではありません。

しかし、それと「厳しく接する」というのは別の話でしょう。そこを間違えて、部下に必要以上に厳しく接したり、部下に対する敬意をなくしてしまったりすると、パワハラと取られる行動につながっていくのです。

上司のなかには、部下に厳しい一方、自分の管理が甘くなる人も少なくありません。部下には「時間に遅れるな」と叱っておきながら、自分は部下とのミーティングについ遅れてしまう。

それを「まあいいじゃないか」と笑って済ませられるのは上司だけで、部下はそうは思っていません。「言ってることと、やってることが違うじゃないか」と上司に不満を持ってしまうと、仕事に対する意欲は下がってしまいます。

部下のモチベーションは、上司によって高くなったり低くなったりする場合がほとんどなのです。上司が厳しく接すると、部下たちは怯えながら働くようになってしまいます。そうなると、ミスやトラブルを上司に隠す部下も出てくるでしょう。

不健全な上下関係は、風通しの悪い組織を生み出します。それが、組織のパワーを衰退させる原因になっていくのです。部下は、上司の命令にすべてしたがう家来ではありません。

そういう理不尽な主従関係を作らないために、スターバックスでは、働くすべての人を「パートナー」と統一して呼んでいます。前述したコヴィーの『7つの習慣』によれば、相手との信頼残高を増やす方法として、「約束を守る」ことを挙げています。

また、「信頼残高を引き出してしまった時は、誠意を持って謝ること」と述べています。人の上に立つ立場になると、自分は何をしても許されると思い込んでしまうことも少なくありません。

しかし、上司だからといって、部下への対応をぞんざいにせず、何か不手際があれば「すまなかった」と素直に謝罪する。こういった、敬意のある関係、対等に話し合える関係を持つことができれば、健全な職場、風通しのよい組織になるでしょう。そんな環境であれば、部下は自然とモチベーションを保っていられます。

「自己評価+リーダーの評価」で納得

スターバックスのパートナーの人事考課は、雇用形態に応じて年に1~3回行われます。それぞれのポジションが求めるレベルを満たしているかどうかが、評価されます。

学生のアルバイトでも、新卒でも、あるいは中途採用の人間でも、分け隔てなく公平に適用されているのが、スターバックスの人事考課の最大の特徴でしょう。

アルバイトのパートナーもストアマネージャーとの面接を通じて人事考課を行い、その結果が時給に反映されます。すべてのパートナーが同じ考課を受け、1つ1つステップアップしていくのが基本です。

この評価システムで使われる人事考課シート、つまり「評価表」は、評価する側だけではなく、それを受ける側にも渡されます。評価表はポジションごとに細かく分けられており、求められる内容が明確に書かれています。

評価される側は、何をしなければいけないのかがわかりますし、それができているかできていないかもわかります。このように評価が透明化されていると、「自分の何をどう評価されているのかわからない」といった不満は上がりません。

評価表は「ハウスルール」と「ミッション」、そして「行動評価」の3つに分かれています。ハウスルールという項目で求められるのは、働くうえでの基本です。

「勤務スケジュールを守っているか」「シフトを必ず2週間前に出しているか」「休憩時間を守っているか」といった基本ができているかどうかを、○×で判断します。

ミッションの項目では、「ジャストセイイエスを理解し、実践しているか」「スタースキルを理解し、実践しているか」といったスターバックスのミッションやポリシーを守れているかどうかを評価します。

これも○×です。

ハウスルールとミッションは、どの段階のパートナーでも同じ項目が評価されます。

つまり、ここはスターバックスのパートナーとしての基本であり、ここができていなければ他の仕事ができていても評価されないのです。そして行動評価は、パートナーとしての技術的な部分です。

バリスタ・ショートのころは、レジやバー、フロアでの振る舞いや食品衛生などが評価対象になり、ステップアップするごとに求められるスキルの数は増え、高度になります。

次のステップのバリスタ・トールでは、コーヒー豆を販売するための知識も必要になり、ピアコーチとしての人材育成も評価されます。少しでも先輩の立場になると、後輩を教える能力が求められるのです。

行動評価は、3段階で評価するようになっていて、まずはパートナーが自己評価を記入したシートをストアマネージャーに提出します。ストアマネージャーはパートナーの日頃の行動を振り返り、自分の目線で項目ごとに評価します。

この時に大事なのは、ストアマネージャーが相手の何ができていて、何ができていないのか、自己評価とマネージャー評価が異なっている項目とそのポイントなどを1つ1つ伝え、相手にきちんと納得してもらうことです。

自己評価と他者の評価には、たいていズレがあります。一方的に評価を下して、「今度は昇格ね」「今回はダメだよ」と伝えるだけでは相手は納得しません。

できていないところがあれば、それがどこなのかを伝えないと、相手は改善につなげることはできないでしょう。また、ストアマネージャーはできていると思っているけれど、本人はまだできていないと思っている時も同様です。

できていないところは、これからの課題となります。がむしゃらに働くのではなく、課題が明確になっていれば、本人も何を目標にすればいいのかがわかるので、ステップアップしやすくなります。これがモチベーションアップにつながるのです。

ブラックエプロンを目指せ

スターバックスのユニホームといえば、グリーンのエプロンを思い浮かべる方は多いでしょう。その中に時々、黒いエプロンを着けたパートナーがいます。

そのブラックエプロンは、バリスタの中で、コーヒーに関するより深い知識を持つ者のみに与えられます。スターバックスには「コーヒーマスタープログラム」という研修があり、すべてのパートナーが受けてコーヒーの知識を高めます。

さらに熱意あるバリスタは、社内試験を受け、合格するとブラックエプロンを着けることができるのです。ブラックエプロンは、スターバックス全バリスタの中でも10%に満たない人数しか着けていません。

まさに彼らは、「バリスタ中のバリスタ」と言える存在なのです。さらに年1回、ブラックエプロンの中からナンバーワンを決める「アンバサダーカップ」を実施します。アンバサダーとは「大使」という意味。

これはいわば、スターバックスの「バリスタ甲子園」のようなもので、各地域の予選を勝ち抜いたパートナーが全国大会で競い合います。

全国大会は、選ばれたパートナーの仲間たちが応援に駆けつけ、大変盛り上がります。なかには選ばれたパートナーの特訓に付き合う仲間もいるようで、単なる試験とは違う、店を挙げての一大イベントなのです。

決勝では「Smell(香り)」「Presentation(コーヒーの説明)」「Tasting(味わい)」を審査します。

香りを嗅ぐだけでローストの深さや産地を言い当てるのですから、「すごい」のひと言です。そして、総合得点の高いパートナーがファイナルステージに進みます。

ファイナルステージは、スターバックスならでは。「カスタマーサービス」を競います。舞台には店舗の内装が再現され、お店を訪れたお客様に、お客様のニーズに合ったコーヒー豆を勧めるロールプレイングが行われます。

コーヒー豆の知識を求められるだけではなく、接客の仕方も審査の対象となるのです。優勝したパートナーはアンバサダーとなり、スターバックスのバリスタの顔として、1年間サポートセンターで勤務することになっています。

シアトルの本社での研修にも参加してもらい、コーヒーに対するスキルをより磨く機会を用意します。

また、特定のコーヒーにぴったり合うフード開発に参加してもらい、高い知識とスキルを活かした活躍の場も提供しています。晴れて優勝したパートナーは、涙ながらに受賞の言葉を語ったりするので、見ている側も胸が熱くなるイベントなのです。

実は、ブラックエプロンに選ばれることと、昇進とは別の道です。ブラックエプロンに選ばれればストアマネージャーになれるわけではありません。

ストアマネージャーになるには、やはり1つずつステップアップしていかなければなりませんし、パネルインタビューも受けなければならないのです。

それでも熱心に取り組むのは、自分の知識やスキルを高める喜びがあるからでしょう。自分がどれだけのスキルを身につけたのか、普段の業務ではなかなかわかりませんが、大会のような場があると自覚できます。

努力して、それを認めてもらえるのはモチベーションアップのもっとも効果的な方法です。人には「認められたい」「褒められたい」という欲求が基本的に備わっています。そのハードルが高くなればなるほど、やりがいも高まるのです。

そして、ブラックエプロンに選ばれたバリスタは、各店舗で開かれるコーヒーセミナーで講師も務めます。コーヒーセミナーは、自宅でもおいしいコーヒーを飲みたいお客様のために、さまざまなコーヒーの淹れ方や豆の知識などを教えるセミナーです。

お客様と触れ合いながら、自分の知識やスキルを提供すれば、人に教える喜びを感じるでしょう。このように、スターバックスでは随所にモチベーションアップの仕組みが作られているのです。多くの企業で、営業成績がいい人を表彰する制度はよくあるでしょう。

しかし、仕事の能力だけで優劣を決めると、たいてい同じ人が選ばれ、選ばれない人はモチベーションが下がってしまいます。そこで、業績に直接結びつかなくても企業へ貢献している人を評価する企業もあります。

たとえば、社内でのエコ活動を推進した、地域の人が参加するイベントを企画したなどの働きを評価するのも、モチベーションアップにつながります。

昇進や昇給には結びつかなくても、みんなの前で称賛されるという体験は何物にも代えがたい喜びになります。岡本化成という装飾用テープや工業用のロープを製造販売する会社が愛媛県にあります。

この会社では、毎月のテーマに沿った「ナンバーワン」を社内で表彰する制度があるそうです。一例として、営業が受注して売り上げに貢献した時、営業マンではなく、情報収集をしたり資料を作ったりしてその営業マンを支えた人たちを表彰するのです。

こういう制度があると、「これなら自分も頑張れるかもしれない」と誰もが思えますし、自分の能力を発揮できる場を探すでしょう。「アシスト賞」や「縁の下の力持ち賞」など日頃スポットが当たらない役割にも注目すれば、自分がいかに貢献しているのかを実感し、やりがいを感じられるようになります。

何らかの賞を設けるのは、思っている以上の効果があるものです。みなさんもぜひ試してみてはいかがでしょうか。

多様なマンパワーを活かす制度

これまでは、店舗でのモチベーションアップの取り組みをご紹介してきました。今度は、サポートセンターでのある取り組みについてお話しします。それは、社内の人材の流動化を促進するためのプログラムです。

元々、人材が必要な部署で即戦力となるパートナーを募集する「社内公募」という制度はありました。これは、多くの企業で実施されているものでしょう。ただ、社内公募はストアマネージャーを何年か経験した正社員が対象といった条件がありました。

そのため、対象者が限られていたことに加え、ニーズが出た時でないと公募されないため、実施回数が少なく、1年で数えるほどのパートナーが異動する程度でした。

ストアマネージャーの経験がなくても、お店で働くパートナーはさまざまな経験やスキルを持っています。そのマンパワーを活かす手はないかと考えたのです。

そこで、従来の公募を「社内採用」に名称を変え、求めるスキルを保有してさえいれば、誰でも応募できることにしました。もう1つは、「内部チャレンジ」です。

内部チャレンジとは簡単に言うと、お店で働くパートナーに、サポートセンターで期限つきで働いてもらうという企画です。サポートセンターでの勤務を通して業務の幅を広げ、店舗の課題や問題を解決するために取り組んでもらうことが目的でした。

こちらは、正社員であることだけが応募の条件でした。そして、この内部チャレンジ制度の運用推進が、私がスターバックスで最後に手がけた仕事になりました。

内部チャレンジは2年間サポートセンターで勤務してもらい、その後は店舗勤務に戻って、身につけたことを活かして仕事を続けるというシステムになりました。

10の部署にそれぞれ1人ずつ配置することになり、募集したところ、新卒生からストアマネージャー経験10年以上のベテランまでが集まりました。

部署の調整は、思っていた以上に大変でした。チャレンジ生が別々の部署を希望してくれればベストですが、人気の部署と、そうでない部署に分かれてしまったのです。

人気の部署はマーケティングと教育でした。お店での仕事と関わりの多い部署なので、働くイメージを持ちやすかったことが理由です。そこで、10人のうち半分以上は、希望以外の部署に配属になりました。

この10人に、どんな2年間を過ごしてもらうか。その受け入れのプログラムを作成し、制度の目的を達成することが、私の担当でした。彼らがそれぞれの部署でどのような仕事に取り組んでいくのか、プログラムを考えました。

せっかくサポートセンターに配属になったのに、コピー取りや資料をそろえるといった簡単な作業だけで終わらせてしまうのは本末転倒です。

専門的な仕事を1つでも身につけるレベルまではいきたいと考えていました。そこで、各部署で教える担当のトレーナーを決めてもらいました。

トレーナーは、チャレンジ生の育成担当であり、自分の仕事をしながら彼らに対して業務のステップやポイントを伝え、1人でできるようにすることが役割です。

私はまず、チャレンジ生を受け入れる前に、トレーナーの育成から始めました。受け入れの態勢を整えてからスタートしたかったからです。

1年間を4つに分けて大きな目標をチャレンジ生に立ててもらい、さらにそれを達成するために1カ月ごとに何をすればいいのかを、トレーナーは考えてあげてほしい。

1週間ごとにフィードバックして、チャレンジ生の話を聞いてください、と教えました。実は、受け入れる側の部署は賛否両論でした。

スターバックスのミッションを考えれば、どんなパートナーでも喜んで受け入れて育てようという意識になってほしいところですが、現実的にはそうもいきませんでした。

2年間だけ配属されるパートナーに教えるのは時間のムダではないかという意見もありましたし、店舗ではベテランであるストアマネージャーが、専門分野をまた一から学べるのかという疑問も出ました。

これまでのサポートセンターの各部門では、即戦力があるパートナーを受け入れてきたため、専門スキルを持っていない人の受け入れに対して不安視する声が多かったのです。

このように、受け入れる側がすべて賛成していない状況で、果たして内部チャレンジは機能したのでしょうか。

ゼロからの挑戦で自信をつける

内部チャレンジで経理部へ配属になったパートナーの寺島さん(仮名)は、経理の「ケ」の字も知らない女性でした。寺島さんは、ストアマネージャーとしてはとても優秀な人でした。

いつもパワフルで、お店のパートナーたちからも信頼され、マネジメント能力は抜群です。寺島さんは経理に配属されると決まった時、大きな不安を抱いたようです。

「私、そういう専門的な知識はまったくありません。パソコンもほとんど使えないのに」という声に人事メンバーは耳を傾け、「大丈夫だから、周りの人が教えてくれるから」と励ましました。

寺島さんは、「それならやります」と自らを奪い立たせてくれたのです。

しかし、受け入れる経理部にも不安が残っていました。

「そうでなくても人員が不足しているのに、プログラムを行う必要はあるのか」そんな意見がすぐに私のところに届きました。

確かにパソコンのノウハウから教えるとなると、教える側にとっては負担が大きいでしょう。それでも、私は経理部をこう説得しました。

「今までは、自分たちでやりやすいように仕事をしていたかもしれない。でも、他の企業では新しい人たちが毎年入ってくるのが普通です。そのたびに教えて育てているから、人材が育っていくわけで。『人は必要だけど、育成はできない』なんて考えているのだとしたら、それは大きな間違いではないでしょうか。育成の手法を考えることとそれを実行することが、今は求められているんです」

そう言うと、自分たちの考え方を振り返り、納得してくれました。私はチャレンジ生へのサポートもできる限りしたいと思い、各フロアにたびたび足を運んでいました。経理部に顔を出すと、寺島さんはエクセルやパワーポイントの使い方をトレーナーからちょうど教えてもらっているところでした。

子供のころからパソコンを使っている若い世代には理解できないでしょうが、パソコンをほとんど使ってこなかった人が、30歳を超えてから覚えるのは相当な苦行です。

寺島さんも必死で、「あれ?これ、どうすればいいんだっけ?」とあちこちいじっています。隣で教えているトレーナーも辛抱強く接してくれていました。こういう時、私はあえて明るく声をかけます。

「お、元気にやってる?トレーナーはちゃんと教えてくれてる?」「はい、でも私の覚えが悪くて、迷惑をかけてばかりで」「そんなことないよ。

すごく頑張ってるって、部長もこの間褒めてたよ」そんなやりとりをトレーナーを含めた周りの人の前ですると、暗に「彼女は頑張ってるから、よろしく頼むね」という周りの人へのメッセージになるのです。

本来はストアマネージャーになっただけの熱意も能力もあるのですから、混乱するのは最初だけだろう、と私は考えていました。その期待通り、寺島さんは覚えるのは大変でも投げ出したりはしませんでした。

周りもそんな寺島さんの様子を見ているうちに、「ちょっと教えてあげるよ」「わかんないことがあったら聞いて」と言ってくれるようになったのです。

やはり、スターバックスのパートナーたちは、困った人に手を貸すマインドを持っていました。最初は不安や反発があったものの、次第に理解し、協力する姿勢が強く表れてきました。そして、半年で彼女はとても成長しました。

最初のころは必死で取り組んでいたのに、パソコンもある程度使いこなせるようになり、自信がついたようです。顔つきが大きく変わっていました。もちろん経理の全部がわかるはずはありません。

しかし、「ここは自信を持ってできます」という経理の一分野を、彼女は持てたのです。おそらく、自分でもかなり勉強したのだろうと推測できます。

2年間を終えてお店に戻るころには、きっと一回りも二回りも成長したでしょう。内部チャレンジの2年間は、新人経理として一から教わる体験をしました。新人がどのようなことに不安を感じ、どう教えてあげれば不安を解消できるのか。

それを身をもって体験したので、きっとお店でも今までとは違う人材育成ができるようになったと思います。寺島さんは、1年が過ぎた頃、私にこう話してくれました。

「ほんとに大変でつらかったけれど、周りの人のサポートがあってここまで来られました。周りの人がいなかったら、ここまでやれなかったと思うんです」そして彼女は「これからも経理の勉強をしたい」と、経理の学校に通い始めたのです。そうやって、自分の興味を持てる分野を仕事を通して見つけられるのは、得難い体験でしょう。

キャリアを見つめ直す

内部チャレンジで法務部に配属された女性の山本さん(仮名)は、元々法務を希望していました。山本さんは学生時代、法学部で法律の勉強をしており、こういう仕事をやってみたいとずっと思っていたそうです。

そういう念願をかなえられたのはこちらとしても嬉しかったのですが、あまりにも元気があり過ぎていたので、ちょっと心配になってしまいました。

法務部は、出店する時や協力会社との契約など、あらゆる業務上の契約書を管理する部署です。業務でトラブルが起き、法的な解決が必要になった場合も法務部の出番になります。

つまり、とても責任の大きな部署なのです。採用を決めたものの、明るくてテンションの高い山本さんは法務部で浮いてしまうような気がしました。学校の勉強と企業の実務は大きく違います。

現実を思い知らされた時にショックを受けるのではないか、と心配になったのです。そこで、私は思わず山本さんに、「本当に大丈夫?法務だぞ?」と聞いてしまいました。

「え~、わかりません。でもやりたいです~」「いや、そうは言ってもさ。専門性も高いし、わかるの?」「わからないから勉強させてもらうんですよ」「……そうか」謙虚でありながら前向きさが出ている姿を見て、今は不安でもやってみなければわからないし、とにかく走り出そうと、彼女の笑顔に背中を押されました。

私にとって嬉しかったのは、意外にも法務部のパートナーたちはこの制度に理解を示し、前向きだった点です。期待以上のプランを作ってきて、「このプロセスでやります」「トレーナーはこの人がつきます」と、山本さんの育成プログラムをしっかり組んでくれました。

そして、早い段階からかなり重要な仕事を山本さんに任せていました。

「この分野を押印するの、私なんですよ」「えっ、ほんとに!?」サポート体制もしっかりしていましたし、法律の知識はあったので、山本さんは活き活きと働いていました。

内部チャレンジの中では、本人のキャリアとうまく合致した事例です。1年が経ち、山本さんと話し合いの場を設けた時、私は尋ねました。

「あと1年あるけど、それが終わった後はどうするの?」すると、彼女は「お店に戻るつもりはないです」ときっぱり言いました。山本さんは、法務の仕事に携わりたいという思いが強くなったのです。1回お店に戻ったとしても、その経験を活かして社内公募でまた法務に応募するか、もしできなければ諦めて、法務の仕事ができる会社に転職する、と話していました。会社としては、せっかく教え育てたパートナーが他の企業に行ってしまうのは、損失になるのかもしれません。

しかし、パートナーがこれからの自分のキャリアを見つめ直す機会にするのも、内部チャレンジの目的です。内部チャレンジをバネにして新たなステージに踏み出すきっかけになるのなら、目的を果たしたのではないかと思います。

今もおそらく、山本さんはサポートセンターで法務の仕事を続けているのではないでしょうか。推測になってしまうのは、私は内部チャレンジの結果を最後まで見届けられなかったからです。

私は、1期生がちょうど1年を終えた時に、スターバックスを辞めました。辞めること自体に未練はなかったのですが、彼らのチャレンジを最後まで見守れないのは心残りでした。

それを伝えた時は、「途中で放り出すなんてひどい」と非難されるかと覚悟していたのですが、彼らは驚いてはいたものの、素直に受け止めてくれました。

そして私が出勤する最後の日。チャレンジ生に「お昼の時間、空けておいてください」と言われ会議室に行くと、そこには10人全員が笑顔でそろい、お弁当が並べられていました。

「今日はここで、みんなでご飯を食べましょう」チャレンジ生は私にこう話してくれました。

「これからまだ1年間あるので不安はあります。でも、教えてもらったことを大事にして、僕たちが先駆者として内部チャレンジの仕組みを動かしていきます。

そして、自分自身のキャリアについてもしっかり考えていきます」そして、最後に1人1人が気持ちを込めて書いてくれたGABカードを手渡してくれたのです。

私は涙が止まりませんでした。

プログラムとしては完遂できなかったものの、新たな視点でそれまでにない気づきや発見が多く生まれました。そして、チャレンジ生のキャリアにも、大きな一石を投じることになりました。何より私自身も成長させてもらい、最後にこのような仕事ができて本当に幸せだったと思います。

最近は、社内公募制度やFA(フリーエージェント)制度を設ける企業が増えてきたようです。異動ではポストの数が少ないので対応しきれず、意に沿わない異動で社員のモチベーションが下がることが少なくありません。

そこで、社員の不満を解消するために、社員が就きたい職種に自由に応募できるような制度を作っているのです。私は、こういう制度を積極的に利用するほうがいいのではないかと思います。気心の知れた仲間と慣れた仕事をするのは楽ですし、居心地がいいでしょう。

しかし、そこに収まって安心しているようでは、仕事の幅が広がっていきません。キャリアアップというと、とかく上向きのベクトルをイメージする人が多いと思います。

すでに持っている専門性を高め、管理職を目指すことも決して悪いことではありませんが、キャリアの可能性は横にも広がりを持っているのです。

時には、今の仕事から勇気を持って飛び出し、新しい仕事にチャレンジする経験も必要ではないでしょうか。常に「自分を高めたい」という気持ちで今までやったことのない仕事にチャレンジし、自分に刺激を与え続けていれば、モチベーションが途切れることはありません。

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