社員への罪悪感が消えない お金というのは魔物です。 人間関係を簡単に壊してしまいます。遺産相続問題で、血のつながりがある者同士の関係がこじれてしまうこともあります。私はそういう実例も見てきました。 多くの社長さんにとって、もっとも切実で現実的な悩みは、このお金に関する悩みではないでしょうか。 順調なときでさえ、「いつ、この売上がなくなるかわからない」と心配している。歯車が1つ狂っただけで利益が減ると、もう、不安で、夜もろくに眠れなくなる。本当に苦しくなると、翌月のお金を回していくために、ここをこうして、あそこをああしてって、資金繰りだけの毎日になってしまう……と、そんなお話をよくうかがいます。 私も、父の会社で経理を担当していたときは、売上が少し下がるだけで、ビクビクし、お金がなくなることが恐怖でした。 1人で事業をしている方なら、ダメなら辞めればいい、と腹をくくれるかもしれません。でも、社長さんには、社員とそのご家族の生活がかかっています。「給料が出せなくなったらどうしよう」「リストラで解雇しなくてはならなくなったらどうしよう」って、心がやさしい社長さんほど苦しんでしまうものだと思います。 さて、東田社長の事例です。製造業で社員の数は 40人くらい。なんとか赤字にはなっていませんでしたが、利益がままならず、一生懸命に働いてくれる社員に対して「ボーナスが払えない、昇給もできない」という状態が続いていました。 東田社長は、感情コンサルの場で、辛い心境を語ってくれました。「自分が至らないばっかりに社員に申し訳ないという罪悪感がずっとあるんですよ。『子どもが生まれました』なんて聞いても、素直に喜べなくて、最初に浮かんでくるのは『ボーナスも出せなくてすまない』っていう思いなんです」 胸に溜めていた思いを吐き出していただき、感情コンサルを進めていくと、東田社長がいかに社員思いの素晴らしい方なのかがわかってきました。「東田さんがこんなに胸を痛めて、苦しい思いをされているのって、全部、社員に対しての温かい想いがあるからですよね。自分のことはさておき、社員にボーナスを出してあげたい、昇給もさせてあげたい、子どもが生まれたらお祝い金だって出してあげたい。そういう想いがあるから、業績が振るわないことをご自分だけのせいにして、苦しんでおられるんですよね」「そうですね。はい」「それって、東田さん。無茶苦茶に『イイ奴』じゃないですか!」「はは、そうですね。たしかにイイ奴ですね」 東田社長の顔に、少しだけ笑顔が戻りました。本音を伝えてみると、社員たちから意外な言葉が 思いを吐き出して、自分の「苦しみの元」になっているものが、実は「社員への愛」なのだと確認してもらったところで、私は提案しました。「東田さん。東田さんは、社員に対して『ボーナスが払えなくて申し訳ないと思っているんだ』という気持ちを、社員のみなさんへ伝えたことはあるのですか?」「ええっ、そんなこと伝えたことないです」「もし、社員のみなさんへ伝える機会があったら、東田さんの申し訳なく思っている気持ちを包み隠さずに伝えてみてはいかがですか?『君たちを愛している』とまでは、恥ずかしいでしょうから言わなくてもいいと思いますが……。お話をうかがっていると、社員のみなさんとの関係は良好のようですので、きっと、社員のみなさんの心に伝わるものがあると思いますよ」「そうですね。わかりました。いつも申し訳ないと思っているということを、今度、伝えてみます」 その後、東田社長は、全社員の前ではありませんでしたが、幹部社員たちの前で、「ボーナスも出せなくてすまない。こんな社長についてきてくれて、本当に感謝している」という自分の苦しい胸の内を伝えたそうです。 そうしたら、幹部社員たちからは意外な言葉が……。「えーっ、社長がそんなに苦しんでいたなんて、思ってもみませんでした!」 社員たちは、東田社長が思うほど、気にしていなかったんです。 社長の苦しみなんて、幹部社員レベルでもわからないもの。社長と幹部では、プレッシャーの重さが天と地ほど違うのですから、当然と言えば当然のことです。社員との関係が、良好でないときは? 感情コンサルにお越しになる社長さんのなかには、東田社長のように、「倒産の危機まではいかないけれど、なかなか利益が出ない。社員に、なんとか給料は出しているけれど、ボーナスは出せない」という社長さんが結構おられます。さらに、 2020年からは、新型コロナウイルスの影響で業績が振るわず、そういうギリギリの線でやっている社長さんが増えています。 中小企業の社長さんの場合、社員の給料を支払うために、自腹を切ってお金を出すこともよくある話です。その場合は、「オレが自腹まで切って頑張っているのに!」って、社員に対して、愛ではなく、怒りの感情を抱いてしまう社長さんもおられます。 あくまで私の印象ですが、東田社長のように、自責型の社長さんは、二代目社長とか、守り型の方に多く、他責型の社長さんは、創業社長でガンガン業績を伸ばしに行く攻め型の方に多い気がします。自分でガンガン仕事を進められるので、社員の動きがスローモーで、何も考えていないように見えるのかもしれませんね。「東田社長は、社員と良好な関係を築いていたので、本音を伝えやすかったのでは?」と思われる方もいると思います。
同じようなケースで、その社長さんと社員の関係があまり良くない場合、私は、「社員に本音を伝えてもいいし、伝えなくてもいい」とお伝えしています。 問題をテーブルに上げて、答えは本人に選んでいただくのですね。「ぜったい、社員に本音を伝えたくない」って思いながら伝えても、うまくいきませんから。 ただ、「ぜったい、社員に本音を伝えたくない」と思う理由が、社長さん特有のプライドによるものなら、まず、そのプライドを外すようにします。「プライドを外す」というステップを踏んでから、「社員に本音を伝えてみては?」と提案をしています。 東田社長の後日談です。 感情コンサルを行って半年くらい経ってからいただいたメールによると、どうやら、幹部たちが、「社長の辛さと感謝の想い」を社員全員に伝えてくれたようで、社員から新しい事業の提案があり、それが少しずつ芽を出しはじめているとのこと。「これも、自分の正直な想いを、社員に伝えることができたおかげです」と、感謝のメッセージをいただきました。 東田社長の想いに社員が応えてくれたのは、「東田社長の社員たちへの愛」に気がついた社員たちが、感動したからだと思います。社長にとって、社員は「写し鏡」のようなもの。とはいえ、どんなに社員のことを気にかけ、愛していても、それを伝えなければ相手にはわかりません。社員のことを考えて、悩んでいる社長さん。社員に「愛の告白」をしてみることをお勧めします。
コメント