価値観が違うだけで…… 相談にこられた堀口社長は、大きなコンサルティング会社から独立して、ご自身が同じ業種で開業されたばかり、とのことです。 しかし、自分の許容範囲の狭さ(ご本人の表現)から、「少しでも自分が嫌だと思う相手や、価値観が違う相手」との関係を次々と断ってしまい、「これではいけない」と、感情コンサルを受けてみる気になったとのことでした。 誰も信用できないので、当面は、部下を雇うつもりもないそうです。 自分と意見が合わない相手を信用できず、「こんな人間とは一緒に仕事はできない」との思いから、「受け入れられない」 =「切るしかない」という方程式で、相手との関係を断ち切ってしまう方がおられます。 そうすると、つき合う相手が限られてきて、業績も頭打ちになってしまいます。 聞けば、堀口社長は自分のなかで、「この人は OK」と、許せる相手としか付き合えないそうです。そこから少しでも外れた人は、もうフェイスブックでつながっていることさえ我慢できず、ブロックしてしまうのだとか。 どうして、意見や価値観が違うだけで、相手をそこまで遠ざけてしまうのでしょう? 実は、このタイプの方は、自分のプライドが高いために、将来、自分のことを批判して、そのプライドを傷つけてきそうな相手に対しては、「批判される前に関係を断っておきたい」という深層心理が働いているのです。 言わば、相手を切ることで、自分を守っているということです。 相手との関係を断つときには、「これで安心」という、一種の快感を得ています。 しかし、人間の脳というのは、単純ではありません。快感の裏には、必ず反対の感情が乗っかってきます。 相手との関係を断つことによって、「自分はなんて嫌なことをするんだろう」という罪悪感も溜めてしまうのです。 なぜなら、「関係を断たれる」という行為を相手からされたとき、すごく嫌な自分がいるから。「自分がやられて嫌なこと」を、自分から相手にやっているという深層心理が働いて、それが罪悪感として残ってしまう、というわけです。 心のなかの深いところで「相手を切ってばかりで、自分はダメだ、自分はダメだ」と自分を責めて、次第に許せなくなって苦しくなっていく……。 さらに、実質的な問題として、人を選んで仕事をしていると、自分の会社のテリトリーがどんどん狭くなってしまいます。意見が違う相手は、会社にとって貴重な存在 堀口社長のなかでは、自分のプライドを傷つけてくる、自分と価値観が合わない相手を切ることは、この段階ではまだ、「快感」だと認識されていると考えた私は、まず、この認識を変えることにしました。「堀口さんにとって、今、もっとも望んでいることはなんですか?」「それはやっぱり、立ち上げた自分のコンサル会社が大きくなって成長することです」「そのためには、何が必要ですか?」「それは、もっと多くのクライアントさんを得て、仕事の幅を広げることですかね」「それをやるのには、 1人では限界がありますよね」「まあ、たしかに」「その限界を超えるためには、自分の価値観と違う相手との関係を切って、誰も雇わないでいたら、仕事の幅が広がらないですよね。もう少し言わせていただくと、社員だけでなく、クライアントさんにも価値観が違う相手はたくさんいるはずです。そういう人たちと一緒にやっていくことが、売上を伸ばして、会社を大きくする原動力ではありませんか?未来につながる人脈づくりにもなりますよね」
「未来につながる人脈づくり……」「そうです。それに、自分と正反対の意見や才能を持っている人と一緒に仕事をすると、お互いに補い合えます。堀口さんが不得意な部分を、その人に任せることもできます」「なるほど」「自分と価値観が違う相手を、好きになる必要はありません。ただ、『コイツは嫌い』って遠ざけるのではなく、好きと嫌いの中間点、グレーゾーンに入れておけばいいではありませんか。もし、相手が堀口さんのことが嫌いだとしても、痛くもかゆくもないし、仕事や売上に貢献してくれるなら、嫌われたっていいじゃありませんか」 私は堀口社長が嫌う「価値観が異なる相手」こそ、堀口社長が一番望んでいる「売上アップ」に欠かせない「素晴らしい存在」であると、認識を変えていただきたかったのです。 さらに、「価値観が違う相手を受け入れると、嫌われるかもしれない、自分が傷つくかもしれない」という思い込みも、「それでもいいじゃないですか」と言って、恐怖心を外すことにしたのです。 私のこの感情コンサルは、堀口社長の認識を変化させたようでした。「社長の器」という言葉があります。「自分と異質なものを受け入れる心の大きさ」も、その器を大きくします。リーダーになったら、違うタイプの人をどんどん受け入れて化学反応を起こさないと、強い会社は作れないことでしょう。器を大きくしてみたら、思いもしなかった展開に! 感情コンサルを受けた堀口社長は、その後、自分と意見が合わない相手との関係をすぐに切るのをやめて。意識的に受け入れるようにしました。好き嫌いは別にして、カチンとくる前に、とりあえず相手の意見を聞いてみるようになったのです。 すると、ウソのような出来事が起こりました。 堀口社長によると、独立前にいたコンサル会社とは、ケンカ別れのような形でスピンアウトしていたそうです。しかし、考え方を変え、その会社の社長と久しぶりに話をしてみたところ、「そういうことだったのか」と理解し合えたのだとか。 そして、なんと今では、その会社がクライアントになってくれて、さらに、「この案件はそちらでコンサルしてもらったほうがいいかも」って、仕事を回してもらえるようになったと聞きました。 器を大きくしたら、ウソのように仕事が広がったというわけです。 自分と合わない人との関係を断ち切るのは、簡単です。 でも、それでは、やがて一匹狼になってしまいます。 社長として社員を率い、会社を成長させるためには、意見や価値観が異なる相手を、白黒をはっきりさせないグレーゾーンに置くことも大切だと思います。 別にグレーゾーンに置くことは、ズルでもなんでもないのですから。 グレーゾーンに置いておいた人と、ちょっとしたきっかけで理解し合い、深いお付き合いになることだって、ないとは言えません。 こんな言葉を聞いたことがあります。「真夜中に困ったことが起きたとき、相談できる相手が 10人いたら、その人は成功できる」 私は、 10人どころか、いつでも親身になって相談に乗ってもらえる人が周りに 5人いるだけでも、その人は、たぶん一生困らないのではないかと思っています。
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