信用して、信頼して、裏切られたときに信頼が相手を育てる 第 4章では、「社員(や仕事相手)を信用できない」「態度が許せない」という事例を、4つ紹介しました。「相手を信頼できないのは、実は自分が自分を信頼していないから」「自分を信用できる人は、相手も信用することができる」「こっちが信頼すれば、相手は『信頼に足る人』に育ってくれる」 まるで禅問答のようですが、それが感情の不思議です。いずれにしても、社長にとって、「信頼」がいかに大切なものであるか、伝わりましたでしょうか。 もちろん、いくら信用して任せても、仕事ができない人もいます。その場合は、単に、仕事の内容がその人に合わないのかもしれません。 そのケースでは、信用が本人の負担になってしまいますから、配置換えで仕事の内容を変えてあげるのも、1つの手だと思います。 ある製造業の社長に聞いた話ですが、どこの会社に行っても「ダメ社員」と呼ばれていた人が、心機一転、資格を取って司法書士になったら、事務所を構えて大成功しているケースがあるそうです。役員たちのクーデターにあってしまった! では、信用と信頼についてお話をしたこの章の最後に、「信頼していた人に裏切られた」というリアルな事例を紹介したいと思います。 製造会社の 2代目社長、小野誠さん(仮名)が体験した話です。 社長に就任してから 4、 5年が経ったある日のこと。 自分の会社とまったく同じ業種業態の会社が、隣町で創業しました。 突然のライバル会社の出現です。 そのライバル会社の謄本を見た小野社長は、目を疑いました。 なんと、自分の会社の専務が社長になっているではありませんか! その専務、ここのところ体調不良を理由に会社を休むことが多かったのですが、実は、会社を休んで、新会社の設立に奔走していたのです。 まさにクーデターです。しかし、それだけではありませんでした。 そのライバル会社の主要幹部の 5人全員が、小野社長の会社の幹部だったのです。 つまり、自分が社長になると思っていた専務が、思いが叶わなかったことに腹を立てて、幹部社員 5人を引き連れて、隣町に新会社を設立した……、というのが真相でした。 しかも、この幹部社員たちは得意先に対して、「小野社長の会社はもうすぐつぶれるから、新会社に取引を移してください」と触れ回っていたのです。 まるでドラマのような話ですが、すべて実話に基づいています。ビジネスの世界では、珍しいことではないのでしょうか。裏切られたときに、救ってくれたもの 突然の出来事に、目の前が真っ暗になった小野社長でしたが、この件を知った社員たちが、こう言ってくれました。「社長、大丈夫です! 幹部たちはいなくなったけど、実務をやってきたのは私たちだから、仕事は全部、わかりますから!」 幹部たちには裏切られたけれど、信頼していた社員たちに救われたのです。 そして、もう1つ。 お得意様のなかでも最大のお客様が、新会社から営業を受けたときに、「ウチは、 ● ●さん(小野社長の会社)と付き合っているから、おたくとは付き合いません」と、キッパリと売り込みを断り、取引を続けてくださったのです。 小野社長の会社はそれまで、高い品質と真面目な商売で、取引先と信頼関係を築いてきました。 とても無理な納期の仕事を頼まれたときも、無下に断ったりせず、誠心誠意、期待に応えてきました。「本当にありがたい!」と取引先の担当者から手を合わせて拝まれたこともあったのです。 先代社長から会社を引き継いだ小野社長は、これまでの会社の方針どおり、信頼を基盤とした商売を続けてきました。 そうやって、培ってきた取引先からの「信頼」が、会社の危機を救ってくれたのでした。 小野社長は、信頼を基盤に商売をしてきたことに感謝しました。 その後、小野社長の会社は、幹部の大量離脱という危機を乗り越え、現在でも事業を継続中。先代社長の創業から数えて、 60年を越える老舗となっています。 いっぽう、元専務が隣町に創業した会社は、顧客が定着せず、その後、倒産してしまったそうです。 渡る世間は、決して、きれい事だけではありません。 信用していた相手から裏切られることだってあります。 でも、信用して、信頼していた相手に裏切られたとき、手を差し伸べてくれるのも、やはり、信用して、信頼してきた人たちなのではないでしょうか。 1つの信頼が裏切られてなくなっても、別の信頼でつながっている人たちが助けてくれる。 信用と信頼を大切にしていれば、必ず拾う神がいる。 小野社長の事例は、そんなことを私に教えてくださいました。
多くの会社の社長さんの感情コンサルをやらせていただき、数々の事例を見てきた私が思うこと。 それは、「信用と信頼は、社員を育て、そして、会社も育ててくれる」ということです。
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