「これで安心して倒産できる」 感情コンサルにこられた藤田さんは、つい最近まで、年商数十億円を超えるゲーム機販売・アミューズメント施設運営会社の社長でした。 しかし、新型コロナの影響で、すべての歯車が狂ってしまい、 84億円もの負債を抱えて、倒産・破産を余儀なくされたそうです。 会社と自分の将来についての不安に関する第 6章、3つめの事例は、倒産に直面した社長さんのリアルな事例についてです。 2時間近くの感情コンサルのなかでとくに印象に残った、倒産・破産に関する部分をお届けします。「倒産にあたって、一番苦しかったことはなんだったのですか?」「バランスシートから経営状況を読み取って、『これはもう、どうしようもないな』と腹を決めました。その後、弁護士に破産の申し立ての相談をしてから、実際に破産するまでの 1か月間が精神的に一番苦しかったですね。私の会社の規模になると、倒産することを、倒産の当日まで、取引先にも社員にもいっさい話せないんです」「影響が大きいから、隠さないといけないんですね」「そうです。『大丈夫ですか?』って聞かれたら『大丈夫です』ってウソをつかないといけない。それがもう、今までの人生のなかで一番辛くて苦しくて、生きた心地がしませんでした。正直、 1か月の準備期間が終わって、倒産を発表できたときは、会社がなくなる悔しさより、やっと辞められるという安堵の気持ちでいっぱいでした」 倒産すると「ホッとする」。 この感情は、どうも藤田社長だけではないようです。 私の知人に、かつて金融機関で、いわゆる「借金の取り立て」をしていた人がいます。その方から、こんな話を聞いたことがあります。「借金をなかなか返済してくれない社長から、突然、『保証人がついている借金』についての解決策の提案があった。そのときの社長が、やけにすがすがしい笑顔なので、『ほかにもまだ、国から無担保無保証で融資を受けた残債がたくさんあるのに、返す当てでも見つかったのかな』と不思議に思った。しかし、そのあとすぐに、その社長の会社が倒産、社長が破産して、すべての合点がいった」 つまり、知人が見たその社長の笑顔は、保証人に迷惑がかかる借金がなんとか片付いて、「これで安心して倒産できる」という笑顔だったのです。 私も感情コンサルをしていて、「倒産で、やっと楽になった」という社長さんとお目にかかることが、何度かありました。 苦しんで苦しんで、それでもダメで会社をつぶす決意をした社長さんにとっては、倒産・破産は、その重圧から逃れられる、ということなのかもしれません。倒産・破産という名の「ふるい」「倒産・破産して、ある意味、安心を得られたわけですね」「そうです。資金繰りに追われていたときは、家でも毎日ピリピリしていました。でも、裸一貫になって、家族に『ごめんな』って謝ったら温かく迎えてくれて……。家族と過ごす時間が増えて、本音で話せるようになりました。人間らしい生活ができるようになったと思います」「ほかには、何か良かったことはありますか?」「周りから、お金だけでつながっていた人たちがいなくなりましたね。正直、羽振りが良いときは、私のことを利用して儲けようという人たちも周りにいたんです。私のほうもそれをわかったうえで、『こっちも利用してやればいい』なんて思ってつながっていました。そういう人たちが、あっという間に離れていきました。そして、今は、信頼でつながってくれていた人たちだけが、周りに残ってくれました」「倒産・破産が、信頼できる相手とそうでない相手のふるいになってくれた」「そう。私は、昔は人が喜んでくれることが好きだったのに。会社が大きくなるにつれて、それがいつの間にか置き去りになってしまっていました。自分を利用しようとする人たちと付き合ううちに、すべてのベクトルがお金になってしまったんです。そういう人たちがいなくなって、今は、信頼関係で残ってくれた彼らと新しい事業を考えています」「そうなんですね」「いつの間にか売上第一主義になってしまって、自分で何がやりたいのか、わからなくなっていました。倒産・破産して、負けを認めることで、そんな殺伐とした戦場から離脱できた気がしています」「そうです、そうです。自分の弱さを認めてフラットになることが、次のステージへのスタートラインです」「これからは、利益のためではなく、自分が本当にやりたかったことに立ち返って事業をやりたい。人との関係を大切にして、『藤田だから』と、信頼に根ざす商売をしたい。今は、とてもワクワクしている状態なんです。自分が今後、いかにこの経験を活かしながら人の役に立てていけるか、楽しみです」 藤田さんは、晴れ晴れとした顔でそう言っておられました。この倒産・破産は、藤田さんが、お金よりも、「自分が本当にやりたいこと」や「信頼」のほうが大切であると気づき、次のステージへ上がるために必要なものだったのかもしれません。
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