できる社長は、「これ」しかやらない伸びる会社をつくる「リーダーの条件」小宮一慶
はじめに ロシアの作家、トルストイの代表作、『アンナ・カレーニナ』。その有名な冒頭には、「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである」(木村浩訳、新潮社)とあります。 私は経営コンサルタントとして多くの会社を見てきて、これは企業経営にもそのまま当てはまると思っています。うまくいっている企業経営は、似かよっており、失敗している経営の理由はさまざまであるということです。 成功している企業経営は、ある意味ワンパターンなのですが、実は多くの経営者がこの「ワンパターン」を知らない。とても残念なことです。 逆に言えば、その似かよった成功パターンさえ知れば、高い確率で成功するということです。そして、それは、社長にかかっているところが大きいのです。「会社には良い会社とか悪い会社とかはない。あるのは、良い社長と悪い社長である」 これは経営コンサルタントの大先輩として私が尊敬する故・一倉定先生の言葉です。 この言葉のとおり、会社の浮沈の鍵を握っているのは社長です。 社長が良ければ、会社は良くなる。社長が悪ければ、会社は傾く。 会社の良し悪しは社長で決まります。 では、どんな社長が「良い社長」なのか。 私の考える「良い社長」とは、次の 3条件を充たす会社がつくれる社長です。 1.お客さまに喜ばれる商品やサービスを提供して、社会に貢献している 2.働く人が幸せである 3.高収益である どれかが欠けてもダメで、この3つすべてを充たす会社にしていける人。 それが「良い社長」、言い換えれば「できる社長」です。こういう会社づくりを目指して、社長が行うのが「経営」という仕事です。 「本当に社長がやるべきこと」に集中できていますか? ところが、実際のところ、経営の仕事の中身は漠然としがちです。 社長は会社全体を統括する立場なので、「いろいろなことに目を通しておかなければならない」という意識で、毎日多忙にしている社長さんも多いことでしょう。 ですが、経営には「これだけは社長がやらなければいけないこと」が存在します。 営業や経理と言えば、それぞれ何をやる仕事かが明確なように、経営にも「本当に社長がやるべきこと」があるのです。 それは同時に、「社長がやらなくてもいい仕事」も存在しているということです。 世の中には、そのことを理解しないまま、「本当にやるべき仕事」に集中できていない社長が意外に多いのです。 目についた仕事や、社内外から次々に求められる仕事の山の中に埋没し、その対処に追われて、経営の最も大事な部分に注力できなくなってしまっている状況がよく見受けられます。 とりわけ中小・零細企業の社長の場合、現場の仕事もしながら、一人で何役もやらなければならず、このような状況に陥りがちです。 本書を手に取られたあなたはどうでしょうか。 多忙な毎日のなかで、社長として「本当にやらなければいけないこと」が後回しになっていませんか? あなたの行っている努力は、社長として本当に必要な、正しい努力でしょうか? 会社を良くしていきたいという情熱を持って頑張っていても、それが正しい努力の仕方でなければ、結果につながらず、「残念な社長」になってしまいます。 限られた時間、さまざまな制約のなかで、「社長にしかできない仕事」に集中し、成果を上げられる会社にしていくこと。正しい判断のもと、正しい頑張りをすることこそが「良い社長」「できる社長」に求められていることなのです。
この本の狙いは、「経営に対する漠然とした認識を整理し、社長の仕事のムダや間違いをなくす」ことです。成功の「ワンパターン」を理解していただくことです。 トップとして、これだけは社長自身が絶対にやらなくてはいけないことは何か。 経営の本質に集中できるようにする考え方やコツを、いろいろご紹介していきます。 会社をもっと良くしていきたいと考えている社長の皆さんのみならず、これから経営に携わることを目指している皆さんにも役立てていただけると思います。 できる社長は「やらないことを決める勇気」がある あらためて、自己紹介をしておきます。 私、小宮一慶は、これまで約 25年にわたって経営コンサルタントとしてさまざまな会社の経営のあり方を見てきました。 役員会や経営会議に出席させていただいた回数は、優に 1000回を超えます。 現在、社外役員や顧問を務めている会社は 11社。定期的に開催しているセミナーにご参加くださる会員経営者の方々は、約 450名いらっしゃいます。 そして、私自身も小宮コンサルタンツという 15人ほどの小さな会社の代表として、実際に経営を担う立場にあります。つまり、経営のアドバイザーであると同時に、私もまた経営の当事者であるということです。 役員をしている会社の中には、親友が経営するプライベート・エクイティ・ファンドという、会社を経営するかたちの投資ファンドもあり、企業買収による経営支援もしています。 こうした仕事柄、実にいろいろな経営者の方々とお付き合いさせていただいてきました。アドバイザー役の私よりも経営の原理原則をよく分かっておられて、会社を大きく成長させてきた方、素晴らしい成果を上げてきた方とも数多くお会いしました。その中には一代で東証一部上場企業を築かれた方も何人かおられ、親しくしてもらっています。 優れた経営者の方は、成功の原理原則を理解しています。 成功の「ワンパターン」を知っているのです。 そして、「社長には、社長にしかできないことがある」ことをよく理解しておられます。自分が何をすべきかをはっきり把握しているのです。もっと言うと、やるべきこととやらないことの判断に長けています。とくに、やらないことを決める勇気があります。 現代経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは、「優先順位の決定よりも難しいのは『劣後順位』、なすべきでないことの決定だ」と言っています。 現実には、何からやるべきかという優先順位の判断も難しいものです。しかし、取り組むべきでないことを決め、その決定を守るのはもっと難しい。なぜなら、それは、経営者としての姿勢に基づいた勇気と覚悟を必要とするからです。会社を良くしていくためには、社長が正しい判断をし、正しい道を示すことが必須です。 とくに、リーマン・ショック以上の経済的ダメージとなったこのコロナ禍を乗り切っていくためには、社長として何をやり、何をやらないかの判断は、いっそう重要になってきます。コロナ禍が終わっても、また、大きなショックが高い確率でくるでしょう。社長が間違った方向に舵を切り、社員みんなが間違った頑張り方をしたら、崖っぷちに早くたどり着いてしまうだけです。 みんなが大変な時代を迎えています。 社長としてどういう考え方や姿勢を持って臨んでいくべきか、ぜひ見つめ直してみてください。そして、本書に書いてあることを理解した気になるだけでなく、ぜひ実践してみてください。 経営は実践です。結果を出さなくてはいけません。 本書を読んで、厳しい時代を乗り切るために、成功の「ワンパターン」を知り、正しい努力をして会社を、そして社会を良くしていける真の「良い社長」が増えてくれることを心より願っています。
第 1章できる社長と残念な社長の「7つの違い」
01できる社長は「この3つ」に注力している経営とは「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」最初に「社長がやるべき仕事とは何か」を確認します。シンプルに言えば、実は3つだけなのです。 「経営の本質」を一言で説明できますか?「はじめに」で、経営者が「絶対にやらなければいけない仕事」の重要性を述べました。具体的に整理すると、次の3つに絞り込むことができます。 1.方向づけ 2.資源の最適配分 3.人を動かす 1の「方向づけ」とは、「何をやるか、やらないか」を決断して方向性を示すこと。 2の「資源の最適配分」とは、ヒト・モノ・カネといった会社の有する資源を、適正に配分して成果を上げられるようにすること。 3の「人を動かす」とは、資源のなかでも最も重要な、人材の活かし方です。 社長が何を言い、何をすれば、社員が生き生きと働き、パフォーマンスを上げていけるか。それを考え、実行する。この3つが、経営の最も本質的な要素です。 この3つに関して、「正しい努力」を積み重ねていくのが社長の仕事なのです。 もちろん、中小企業の場合、社長はこれらの仕事だけをやっているわけにはいきません。しかし、部下が経営の仕事をやってくれるわけでもありません。社長が自ら経営の本質に関わる仕事をすることが、会社を発展させるためには、ぜひとも必要なのです。 「方向づけ」が社長の仕事の 8割 なかでも、方向づけ、「何をやるか、やらないか」を決めることこそ、社長がやらなければいけない仕事の第一です。社長の仕事の 8割は、この「方向づけ」だと言えます。 方向づけとは、言い換えれば「戦略」です。 現在のように経済環境が激変し、先が読みにくい時代には、どういう戦略で独自性を出していくかということが、経営を大きく左右します。 外部環境の変化や、同業他社と比べての自社の強みなどを認識したうえで、他社と差別化を図り、業績を上げるために、「何をやるか」「何をやめるか」の判断をする。 これは社長でなければできないことです。 方向づけを間違ってしまうと、企業はどうなるか。 資源も問題なく配分され、人も前向きに動く態勢が整っているなかで、間違った方向に向かってみんなが頑張ったら、崖っぷちに早く到達するだけです。 うまくいかない会社というのは、たいてい方向づけの間違いが原因です。 危機に瀕している会社も、社員はみんな、目の前の仕事に頑張っているのです。しかし、方向づけに関して何度かあったはずの修正ポイントで、社長が正しい進行方向へと舵を切り直せないから、沈没してしまうわけです。 正しい方向づけには、「知恵」がものを言う 適切に方向づけをしていくために必要なのは、「知恵」です。 方向づけをする際、まず判断の根幹となるのは、会社の存在意義(ミッション)や将来構想(ビジョン)、行動規範(ウェイ)などの理念に合っているか、ということです。 そこに、外部環境や内部環境の分析結果を加味して、具体的な戦略を構築していくわけですが、それには適切な判断材料が必要
です。 幅広く正確な知識や情報を収集していれば、それだけ判断の精度が高くなりますが、それは普段からの習慣や思考パターンがものを言います。。 さらに言えば、ものの考え方の基軸となる思想、哲学を持っていれば、決断にブレが生じにくくなり、正しい判断を速やかにできるようになります。 例えば、ファーストリテイリングの代表取締役会長・社長の柳井正さんは、経営判断に当たってはドラッカーの教えに基づいて考える、と公言しています。 ドラッカーの考え方を経営の基軸としている経営者は多いですが、ベースにしっかりとした考え方を持つことで、方向づけの正確性を増すことができます。 優秀な経営者は、勉強熱心です。自分の経営判断のバックボーンが充実すればするほど、方向づけの間違いがなくなることをよく分かっているからだと思います。だから、どんなに忙しくても、経営に必要な知恵を身につける姿勢をおろそかにしないのです。 残念な社長は、目先の「やっている感」に満足している「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」──。 もし社長が、この3つの仕事をやらない会社はどうなるか。 以前、ある大企業の会議に出て、驚いたことがありました。社長がある子会社の一つの店舗の「椅子の足を何にするか」という話に一生懸命になっていたのです。 その社長はオーナー経営者で、絶対的な権力を持っていました。細かいことも口うるさいので、後で「お叱り」を受けないようにと、部下たちは何から何まで逐一お伺いを立てていたのです。 この手のことは分かりやすい話で、「やっている感」があります。社長本人も、「俺がいると、いろいろすぐ決まるだろう」という顔で、喜々としてやっているのです。 中小・零細企業では社長が何でもやらないといけないということはありますが、会社の規模がここまで大きくなっていながら、まだこんなことをやっているのか、とこの会社の今後が心配になりました。 私はそのとき、一倉定先生のこの言葉を思い出しました。「ダメな会社というのは、社長が部長の仕事をし、部長が課長の仕事をし、課長は係長の仕事をし、係長は平社員の仕事をしている。平社員は何をしているかというと、会社の将来を憂いている」 社長が自分のやるべき仕事をせずに、現場に細かく介入してしまうと、本来ならそれぞれの裁量で決め、報告だけ上げればいいようなことが、思うように進められません。すると、その下の部長たちも自分で考えなくなり、忖度ばかりするようになります。実際に現場で仕事をする社員の立場からすると、将来が嘆かわしくなるわけです。 つまり、社長が社長の仕事をしていないと、部下も立場に応じた仕事ができません。だからこそ社長は、社長の仕事 =「経営」を行わなければいけないのです。 それぞれが立場に応じた仕事のできる会社にするためには、トップが自分のすべき仕事に集中し、部下に任せられる部分は任せる姿勢を示さなくてはいけません。 賢い社長は、余計なことにムダな労力をかけません。それは社長自身のためにも、社員のためにもならないことをよく分かっているからでもあるのです。「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」のそれぞれについては、第 2章以降で個別に詳しく説明していきます。 Point社長は社長の仕事をする。
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