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生き残る社長は長く続けることを目的にし、潰れる社長は大成功を目的にする。

はじめに「はい、 ○ ○司法書士事務所です!」   1コール鳴りおえる前に、若手の女性スタッフが元気な声で電話に出た。   5秒すると、顔が曇った。落ち着かない様子となり、こちらに助けを求めるような視線を送ってきた。(また、トラブルか……)  私の心臓の鼓動は速まり、胃の中がゾワゾワしはじめる。  当時の私は、現場の仕事をスタッフにまかせ、事務所経営に専念していた。経営と言えば恰好がいいかもしれないが、結局は、内部で起きた問題や外部からのクレーム対応が仕事の大半だったりした。  事務所スタッフの人数は増え、人が増える割合にもまして起きる問題の数が増えた。お客様と揉めることになったトラブルも少なくない。  クレーム処理のために奪われる私の時間は長くなった。  苦しいのは、心労だ。  仕事の心配事や不安は、私のプライベートな時間まで浸食していった。風呂に入っていても、ベッドで横になっていても、それらは私の頭を支配し続けた。  自分なりにもがき、頑張ってはいたと思う。  だが現実は冷酷だ。生産性は急激に下がって利益が出にくくなった。お客様に頭を下げ、スタッフには気をつかい、資金ぐりに腐心することが常態化した。  いつのまにか私は自覚を失うほどに疲れ果てていた。ストレスが積み重なり、限界に達してしまったのだろう。  トラブルの電話に出ているスタッフの姿をぼんやりと眺めていたら、ふと、私の心の底が破れ、緊張感も闘志も流れ出てしまった。(ダメだ、もう。すべておわらせよう)  私は直感的に決断した。事務所を閉鎖する。何としても、だ。  どうやって解散するか、その後どうするか、そんな計画性なんて知ったことではない。とにかく目の前の現実を終わらせなければ、自分が闇に飲まれて消えてしまう……。  ・・・  筆者の私は、司法書士の資格を取得して 27歳のときに事務所を開業しました。今より 20年ちょっと前のことです。  幸いすぐに仕事が舞い込むようになり、開業 4年目くらいまでは、この世の春を謳歌させていただきました。「お金を稼ぐことなんて超簡単 ♪」  当時の偽らざる私の感覚です。商売をちゃんとやったこともない若造が、調子に乗って、世界をなめまくっていた時代です。本当にお恥ずかしいばかり。  ところが、あるとき経営方針を変えたことで、世界が一変しました。  事務所の組織化、大型化、多角化に向けてアクセルを踏み込み、泥沼にはまっていったのです。  すべてがうまくいかなくなってしまったことでストレスを抱え、当時の私の心理状況としては、リセットしてゼロからやり直す以外の道がなくなりました。  一度は解散を決めた事務所ですが、ご縁のおかげで、同業の大手グループに引き継いでいただくことができました。  廃業を覚悟していたものが、 M& Aになったのです。スタッフを解雇しないで済んだうえ、事業売却の対価までいただけました。想定をはるかに上回る最良の着地点にたどり着けました。  創業した事業を M& Aで売り抜けた。  ここだけ切りとると、なかなかカッコいいものがあるのでしょう。成功の二文字も目に浮かんできます。  でもやっぱり、私にとっては完全なる挫折経験でしかありません。経営の失敗です。「私はなぜうまく経営できなかったのか」「どこで間違ってしまったのか」  後悔のようなこの問いはその後もずっと後をひきました。  司法書士事務所の経営を終えた私は、コンサルタントに転身しました。お客様と直接やりとりする手ごたえに飢えていたのでしょう。中小企業の社長という方々に対して強い愛着を抱いてもいました。  コンサルティングの対象は「社長が、社長をやめる場面」に設定しました。  誰しも社長をやめるときがきます。  会社を社内の誰かに継がせるケースがあれば、私のように外の第三者に売却する場合もあります。廃業を選択し、自ら会社を消滅させることもあります。これらのとき、社長は社長をやめることになります。  また、人によっては、会社の命運に決着をつける前に、自分の命が尽きてしまうこともあります。  社長人生の終焉という場面に対して、警戒し、準備し、うまく着地させるためのコンサルティングを実施することにしました。  立場上、私はたくさんの社長人生を垣間見ることになりました。  志半ばで力尽きた社長や、悲惨なおわり方を迎えた社長がいました。その一方で、長く生き残り、最後は安泰の中で社長人生の幕を下ろした人もいました。

 特に私は、後者の社長に刮目させられました。  とんでもなく失礼な表現をすることを、あらかじめお詫び申し上げます。  たいしたことない会社の、たいしたことない社長が、悠々と幸せに社長人生を全うしていたのです。実は、結構な額の退職金までもらって会社をやめていたりするわけです。  こんな方々がたくさんいました。  かつての経営者時代の私は「普通では生き残ることはできない」と思い込み、勝手に焦りを感じてジタバタしていました。  しかし、たいしたことのない社長たち(重ねて失礼!)を知ったことで、どうやらそんな必要はなかったと、手遅れながら気づかされることになりました。  では、どうすればいいのか。さらに調査と探求を進めました。  見つかったポイントの紹介と解説は本編に譲るとして、その方法論を一言で表現するならば「息の長さを目指す」ということになります。すごくなくていい。たくさん儲けなくていい。いかに長くやれるようにするかが勝負です。  こう聞くとあなたは、普通過ぎて拍子抜けしてしまったかもしれません。  しかし、息の長さを価値基準としたとき、現在の常識とされるものの多くは誤りであることが露呈します。  駆け出し経営者だった頃の私は、こんなアプローチを試みました。  ・売上を一気に増やして、シェアや市場をおさえてしまう  ・事務所の規模を大きく成長させる  ・ほかに真似できない特別な事業やサービスをつくる  ・目標達成のためにトップが全身全霊で会社に尽くす  ・自分が有名になる……など  これらは世間一般でよいとされていることではありませんか。  ところが、「息の長さ」に役立つのかという視点で見たとき、これらは無意味か、むしろ逆効果になっていました。  悲しくなります。昔の自分に教えてあげたいくらいです。  息の長い社長を目指す道は、地味かもしれません。やり切れたとして、それがものすごく大きな成功につながることもないでしょう。  しかし、ほどほどの成功は待っているし、何より勝率は悪くありません。誰であっても、それこそ私をはじめとする特別すごい才能を持っていない人間であっても、十分に目指せる道なのです。  コツコツとやるべきことをやり、世間から注目されることはなくても、着実に稼ぎ続ける。目指すのはこんな成熟した大人の姿だったりします。  そもそも我々が商売をしている日本がすでに成熟社会です。本来、経営をする私たちだって、成熟した戦い方ができなければならないはずです。  ところが、ちまたで見聞きする経営論や人生哲学は、幼稚化が進んでいるような気がしてなりません。  成熟し、息の長さを体現する者にとって、この世界には追い風が吹いているのでしょう。  小さな会社の生き残る社長の習慣を、ともに見に行きませんか。

 世の中には、誰かの成功物語があふれています。  今ならメジャーリーガーの大谷翔平の活躍であったり、経営の世界ではアップルの故スティーブ・ジョブズの物語であったり、古い話では豊臣秀吉の立身出世物語であったり。  皆さんこういう「すごい人」による「すごい成功物語」が大好きです。  たしかに、他者の成功物語を見聞きすると、自分の気持ちが高まります。まるで自分まで、そんな大成功ができたかのような気分になることすらあるでしょう。  ところで、あなたも、そんな大成功ができますか。「可能性は誰にだってあるはずだ」  こう答えるかもしれません。そうですね、可能性ならばあるでしょう。  しかし、可能性という言葉を持ち出してくるのであれば、私も可能性で語りましょう。世の中で語られるような大成功を私たちがおさめられない可能性のほうが、はるかに、はるかに高いのです。  帝国データバンクによると、 2023年に全国で新設された企業は、 15万 2860社だそうです。では、一般的に企業経営における成功のひとつとされる、上場を実現した企業数はどうでしょうか。   96社しかありません。  皆が上場を目指すわけでもないし、上場 =成功だとも言えません。しかし、これらの事情を差し引いたとしても、たったこれだけ、という数ではありませんか。  大人の私たちは、夢だ、可能性だとばかり言ってはいられません。現実的であることも求められます。  とはいえ、やっぱり、成功を求める気持ちを捨てられないのも人の常でしょう。そこで成功とは何かをもう少し掘り下げてみます。  私は、成功には2つのパターンがあると考えています。  ひとつは、「バーン!」と大成功するパターンです。わかりやすい、目を見張るような、大きな成果を実現する成功です。大谷翔平やスティーブ・ジョブズです。あっという間に、一気に大成功を手にしてしまう感じも受けます。  世間で語られる成功物語というのはこちらです。  もうひとつの成功パターンは、小さな成果を積み重ねるタイプです。コツコツと努力し、そうして長い距離を走り切ります。  こちらの成功パターンは、はっきりいって地味です。だから、人から憧れられることも少なく、成功物語として語られることはありません。  しかし、これはこれで、立派な成功ではないでしょうか。  成果にフォーカスすると悪くはありません。時間をかけて積み重ねられた小さな成果は、ときに、世間で語られる大成功を凌駕します。  私がお会いしてきた、幸せに社長人生を全うした方々も、こちらのタイプばかりです。  私は本書で、長く社長業を続けられること自体を、ひとつの成功と定義します。  そしてあなたを誘います。「長く続けることを、経営と人生の目的にしませんか?」  コツコツと長く続けるスタイルを『ロングライフ戦略』と呼ぶことにします。長く続けることを前提とし、息の長い社長になることを目的とします。「ロングライフ戦略なんて名前をつけたって、言っていることが当たり前過ぎるぞ」と反感を抱いた方がいらっしゃるかもしれません。  しかし、私に言わせれば、長くやることを明確な目的としている社長なんて、ほぼいません。忌憚なく言えば、皆さんただ何となく続けているだけです。  長く続けることを意識すれば社長の立ち居振る舞いが変わります。ゴールまでの完走を、実現できるようになります。  こんなロングライフ戦略は、すべての小さな会社の社長にオススメできる戦略です。誰でも、無理なく、十二分に狙える成功パターンだからです。 01  生き残る社長は、長く続けることを目的に置く

正直なところ、私は世の中に本当にすごい人なんてそんなにいないと思っています。  たしかに、一時的に成功してのし上がる人が出現します。勢いに乗り、時代の寵児としてメディア等からもてはやされたり、と。  動きが派手なので人目を引きます。しかし、本人の実力なのでしょうか。  本人は「自分の力だ」と勘違いしやすいようですが、たまたま環境が味方してくれたり、時代の波に乗れただけというのが実際のところかもしれません。  一方で、時間軸が長くなると話は変わります。  運の要素は減り、より実力が試されることになります。  新人のプロ野球選手が、運よくデビュー戦でいきなりヒットを打つことはあっても、その後もずっと活躍し続けるためには本当の実力が不可欠です。  会社経営という世界でも同様です。時間軸を長くとれば、実力がある社長ならば手堅く成功できるようになるのです。幸い中小企業経営の世界は、プロのスポーツ選手のように、特別な才能を持った人間同士が、わずかな勝利の席を奪い合うようなシビアな世界ではありません。  であれば、運まかせになってしまう短期的な成功を狙うより、長く仕事をする戦略のほうが合理的だということになりますね。  ところがそれでも、刹那的に勝負に出たがる人は後を絶たないのかもしれません。  たとえば、宝くじの当選確率なんて本来めちゃくちゃ低いものです。冷静に数字を検討したら普通は手を出さないはずです。  しかし人の心理には「ほかの人は当たらなくても、自分ならば当たる」というバイアスが働きます。  こんな心理が、まっとうな努力を軽視し、無謀と思える博打を仕掛けさせるのでしょう。絵にかいたような短命でおわる社長に直行です。  生き残る社長ならば、時間を長く使って、確実な勝利を選びます。  人生の時間の使い方という意味でも、私はロングライフ戦略を好みます。  世間では、 FIREとか何とか言って、資産運用により不労所得を得て、早く仕事を辞めようという思想や生き方が流行っているようです。  しかし、ロングライフ戦略に立てば、早期リタイアを目指すことは、ナンセンスです。  金を稼ぐ手段という意味において、どこかの誰かに投資するよりも、本業のほうが堅実です。自分の事業ならば、自分でコントロールできるのですから。  また、環境が変化しようとも、自分で事業をやっていれば対応が可能です。不労所得に依存している人間よりも生き残る力が強いことは間違いありません。  さらに日本の税制は累進課税制度です。少しずつ、長く、ほどほどに稼ぎ続けるロングライフ戦略が有利にはたらきます。  納める税金をセーブしながら、長くお金を貯めることで、最終的に手元に残せるお金を大きくすることができるのです。  問題は金だけではありません。  生きがいという精神的な意味合いは、時に、金以上に大切です。  人生 100年時代だとか言われていますが、 FIRE志望の方々は、仕事をしないでどうやって人生の長い時間を埋めるのでしょうか。「趣味を楽しめばいい」という意見があるかもしれませんが、仕事ほど熱中できるのか疑問です。私のような、これといった趣味もない人間には、仕事以上の生きがいなんてありえません。  仕事があるから社会との接点ができて、生きがいを持てるのではありませんか。  そんな大切な仕事を、自ら早期に捨てようとする発想は、謎でしかありません。  もし、仕事がつまらないなら、楽しめるようにすればいいし、本気になれないならば、熱中できる仕事をみつければいい。私たちは事業主なのです。 02  生き残る社長は、長く働くことを選んで満たされる

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