私は地元のとあるカフェに行くのが好きで、毎回フレンチプレスのコーヒーを注文します。挽かれたコーヒーの粉にお湯を注ぎ、数分経ったら、蓋についたフィルターで上からプレスして粉をこして飲みます。 先日、いつものように注文をしたところ、何だかとても薄いコーヒーでした。「コーヒーの分量を間違えたのだろう」と思いつつ、特に文句も言わずに飲みました。 2週間後、再びカフェを訪ね、またフレンチプレスのコーヒーを注文しました。 横からガラスの器の中を見るかぎり、また明らかに味が薄そうな色をしています。そこで今回は、コーヒーの粉をプレスする前にユサユサと器を揺すってみました。すると、粉がお湯と混ざり合っていつもどおりの濃さのコーヒーになりました。(あっ!)私は思い出しました。そういえばこの店では、コーヒーの粉にお湯を注いだ後、店員がスプーンでお湯をかき混ぜてから提供していたのです。 ところが直近の 2回ではその作業が省略されていました。こうして薄いコーヒーが提供されたわけです。店員のうっかりミスなのか、マニュアルの不備なのか、スプーンでかき混ぜなくなった原因はわかりません。 私は、現場の仕事はこうも簡単に損なわれてしまうものなのだと改めて思いました。息の長い社長であるためには、現場の仕事は絶対死守。基礎ですから崩壊させてはなりません。 私のクライアントの社長からは、驚きと怒りをもって、現場の従業員をしかり倒した話を聞いたこともあります。 その会社では、社長のアイデアで、コミュニケーションカードという仕組みをつくって、お客様とスタッフがやりとりできるようにしていたそうです。「カードのやりとりで隠れていた問題に気づかされることがあるし、やりとりがあることで、お客さんはウチの会社に親近感や帰属意識を持ってくれる」と、社長は導入の意図を教えてくれました。 ところが、現場がそれを廃止してしまいました。「返事を書くためにかなり時間がかかっていたし、コミュニケーションカードで売上が増えるわけではないのでやめました」とのこと。 社長はそれを聞いて、これまでにないレベルで激怒したそうです。廃止を主導したのが、経営幹部だったということで、さらにがっくりと肩を落としました。「何が大切なことか、会社の中心メンバーですらわかっていない。長年ウチで働いてきてこのありさまですよ……」 読者の皆さんもこんな経験はありませんか。 現場の仕事が損なわれていないかは、いつも警戒しておくべきポイントです。 ここを従業員にまかせておくわけにはいかないのでしょう。こんな言い方をしたら失礼なのは承知の上ですが、従業員は従業員です。社長のようには考えないし、社長くらい本気で仕事や顧客に向き合ってもいません。 思えば、権限移譲だとか、スタッフが自動的に動く経営だとかの類は、一定周期で流行る気がします。「たしかにスタッフが勝手に動くようになってくれたらいいなぁ」と、つられて心奪われる社長も出現します。この手の社長の本音はおそらくほとんどの場合、自分が楽をしたいから、でしょう。そう思うのは普通のことだし、悪いことでもありません。 ただ、はた目から見ている限りやっぱり無理があります。理想ばかりが先走っていて、小さな会社の現実にはそぐわない気がしてなりません。実際、トライしてもうまくいかなかった会社ばかりを目にしてきました。指示しないで動くことを求めるより、言ったことをちゃんと実行できる組織をつくるほうがずっと優先すべき事項です。「この部分の仕事は自分にしかできないから」 息の長い社長から、現場の仕事に対してよく聞くコメントです。 息の長い社長は、現場を手放すことなんてできないと肚をくくっている気がします。従業員に現場をまかせようとあれこれ画策するより、こちらのほうがずっとストレスもない気がします。 09 生き残る社長は、現場を従業員まかせにしない
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