はじめに 社長が数字を見てつぶれた父親の会社 堀龍市と申します。私はサラリーマンをしていた 25歳のとき、親父に会社を辞めて親父の経営する繊維の会社に来てほしいと言われました。 繊維業界は当時かなり厳しい状況で、うちのような中小企業の経営は火の車でした。 新規のお客様は増えない、既存のお客様はそれほど買ってくれずで、打開策が見つからないまま日々が過ぎていきました。 経営が本当に苦しくなったとき、ワラにもすがる思いで、当時の顧問税理士のところに親父と 2人で相談に行きました。そのとき税理士に言われたのが「社長が会社の数字をきちんと見ていないのが原因。今後は数字をしっかり見て、ムダな経費を削減しなさい」でした。 親父は数字に無頓着だったことを反省し、しっかり数字を見て、ムダに思える経費を片っ端から削減していきました。製品の原価を下げ、給与に見合う働きをしていない従業員の給与はカットしました。 経費が減ればそれだけ利益が増えるか赤字が減るはず、それを信じて。 でも経費の削減を始めると、会社はさらに悪い方向に進んでいきました。 製品の質は落ち、今まで買ってくれていたお客様まで離れてしまったのです。 会社の中でも優秀だと思っていた人に「社長、私はほかでも働けるので辞めさせてもらいますわ。こんな給料じゃやっていけません」と言いに来られ、親父が必死で引き止める姿を見て、これって何か違うと思いました。でも当時の私にはどうすればよいのかわかりませんでした。 また当時、経理の仕事は経理の女性 1人と親父がしていました。 税理士のアドバイス以降、親父が経理の仕事に力を入れるようになって、親父は経理の仕事ばかりしていたように思います。 このことも会社にとってはマイナス要因でした。 社長は、お客様の声を聞いたり、世の中の風を感じ取って会社の方向を決めることが大切です。社内で経理をするのは社長の仕事ではありません。 しかし、逆をやってしまっていたわけです。 そんなこともあり状況は悪くなる一方でした。その後数カ月して、私の提案で会社をたたむことになりました。 裁判所で債権者集会が開かれ、親父と私と債権者の方々と弁護士で話し合いが始まりました。私は悔しいのと情けないのとで、債権者集会の間中、涙が止まらなかったことを覚えています。 今はどうかわかりませんが、当時の債権者集会では、会社の財産を処分していく過程で処分価格等が適正かどうか判断するために、債権者の中から代表者を選ぶことになっていました。 そのときです。債権者の 1人がこうおっしゃいました。「堀の社長の人柄はみんなご存じでしょう。堀さんは悪いことができる人じゃないから、処分価格は堀さんに任せればよいのではないか」 その言葉にそこにいた方々が同意し、代表者を選ばずに会社の財産を処分していくことになりました。 幸いにも会社の土地と建物は高額で売れたので、債権者には金銭でのご迷惑をおかけせずに済みました。 私は悔し涙にむせびながら、こんな状況でも信じてもらえるのは、親父がまじめにコツコツビジネスを行ってきたからだと感じ、誇らしかったのを覚えています。 同時に中小企業の社長は、ただまじめにコツコツやっていくだけではダメなんだとも思いました。「コツコツやるだけではダメだ」という強い思いから、私は会社に必要な数字のプロになり、うちの親父のような社長を助けてあげたいと考えるようになり、税理士を目指しました。 会社に必要な数字の知識を身につけるのはもちろん、多くの成功している中小企業の社長と話をし、その考え方、生き方を学び、成功している中小企業の社長と、成功していない中小企業の社長は何が違うのかを勉強したかったのです。 そしてそれを世間に広め、幸せな中小企業の社長を増やしたい、成功している中小企業で働く幸せな従業員やその家族を増やし、成功している中小企業の幸せなお客様を増やすことが、ひいては日本に幸せな人を増やすことにつながるのではないかと考えました。 税理士はとてもお得な商売で、成功している社長からその成功のノウハウを直接聞くことができます。 普段は忙しくて時間など作れない人たちでも、顧問税理士との時間は無理をして作ってくれます。 そのときに話してもらった数々の体験談や成功の方法を、この本で皆さんに明かしていきたいと思います。「成功している社長はみんな、ものすごく会社の数字に詳しく、税理士が要らないくらい会計にも明るい」 そう思っていました。ところが、実際はまったく違いました。数字をまったく見ていないどころか、「損益分岐点? 何それ?」と、会計の基本的な用語すら知らない人もいたのです。 当初は私も「社長が損益分岐点も知らない会社で大丈夫か?」と思いましたが、成功している社長は、みんな数字を見ていませんでした。 では成功している経営者たちが、共通して見ていたものは――。 これから述べていくことは、きれいごとに聞こえるかもしれません。「そんなことできれば誰も苦労しない!」そう言いたくなるような例も出てきます。 成功している中小企業の社長は、多くの社長たち、成功しない人たちにそう思われることをよく知っています。 だから決して自分たちのノウハウを語ろうとしません。 しかし、間違いなく言えるのは、成功している中小企業は皆、例外なくこの方法をとっているということです。 また、この方法でなければ現代では生き残ることができません。 本書は、当時の親父のように誠実に事業をしているが経営がうまくいかない、でもどうすればいいのかわからないという方に、うまくいく方法を知っていただきたいとの思いで書きました。 経営に悩んでおられるすべての中小企業の社長の、お役に立つものであると確信しております。 本書があなたの成功への第一歩になることを願ってやみません。
2012年 12月堀 龍市
1 なぜ彼らのアドバイスは役に立たないのか? 多くの経営者がカン違いしているものの1つに、「経営のことは経営や数字のプロに相談するのがいい」と思っていることがあります。 世の中に「経営指南」の情報はあふれ返っており、経営について書かれている本や、講演、セミナーなどがたくさんあります。 経営のプロが作成したそれらの内容に従って経営をすれば、状況はよくなる、そんな気がします。 ちょっと待ってください。その本の著者や、講演、セミナーの講師は、どんな人でしょうか。その多くが、一流大学や上場している有名企業等の出身者です。 この本を読んでいただいている方が大企業の経営者ならそれでよいのですが、あなたが中小企業の経営者なら、間違いです。 知らなければならないのは、従業員 30人以下の会社を経営するための基本原則です。「中小企業と大企業では、経営の仕方が違う」 社員 30人以下の会社の経営者は、このことをしっかり認識していただきたいと思います。 私は大企業と中小企業では、規模、資金力、顧客の数などから、失礼を承知で申し上げますが、プロ野球と少年野球くらいの差があると考えています。 少年野球とプロ野球は教え方が違うと思いませんか? プロ野球の名監督が、少年野球の子どもたちにプロと同じ練習をさせたらどうなるでしょう? 強くなるどころか、体を壊して試合もできなくなりますよね。 それと同じで、中小企業の経営者のうち、中小企業の経営の基本原則を勉強している人と、大企業の経営の基本原則を勉強している人、どちらが成功するでしょうか?
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