組織全体で「成長しない痛」を克服するには、前項で述べたような左脳的な方法だけでは足りません。矛盾するようですが、右脳的なアプローチも必要です。 私はもともと左脳寄りのコンサルタント上がりではありますが、数多くの社長を見ていて、言えることがあります。それは、しつこく「口に出すこと」です。 実現が困難な高い目標や打ち手について、社長が「将来的には必ずこの目標を達成する」「その先にこんなビジョンや世界を実現する」と何度も言い続けるのです。 もちろん、プロセスには波がありますし、途中でうまくいかないこともあります。でも業績が好調であっても停滞期を迎えても関係なく、将来的に目指す姿を口にする。何度も言い続けるのです(* 1)。 先述したように、成長フェーズにある企業のなかでも特にスタートアップは実現できるかどうかわからないチャレンジングな目標を掲げます。資金調達をするとき、容易に達成できそうな保守的な目標を掲げていると、「その程度の数字を達成しても会社の価値は上がらない」と判断され、投資してもらえなくなるからです。 また、会社は社長や経営陣が目指している目標以上に成長することはありません。非連続な成長を遂げていくようなスタートアップの社長は必ず、「無理ゲーでしょう」と言われるほど高い目標を掲げることから始めています。 目標設定の方法に「ルーフショット」と「ムーンショット」という考え方があります。 ルーフショットは「ゴルフで屋根に届くほどのショット」という意味が転じて、「ちょっと頑張れば達成できる目標」のこと。一方、ムーンショットは「ゴルフで月に届くほどのショット」という意味が転じて「実現が極めて難しい目標」を言います。 はじめからルーフショットのつもりで打っていたら、高くは飛びませんが、ムーンショットを狙って打つと、ルーフショットではありえないような高さまで飛ばすことができます。 孫正義さんが、創業したての頃に、「いつか必ず、売上も利益も 1兆(丁)、 2兆(丁)と豆腐屋のように数えられる会社にしてみせる」と社員の前で言ったことは有名ですが、孫さんに限らず、大きく成長している企業の経営者には必ずそのような姿勢が共通しているのです。 トップが本気で信じていないゴールを、メンバーが目指せるはずがありません。論理的に多少飛躍があったとしても、信念を持って言い続ける。それに周囲の人たちが共鳴し、目標達成のためにベストを尽くす。そうやって、金やモノなどのリソースも集まってきます。 上場して時価総額が数千億円超に上っている企業も、全社員が皆、「絶対に行ける!」と思っていたかというと、「どうやって達成するんだよ」と、最初は疑心暗鬼だったということがほとんどです。しかし、社長が言い続けていたからこそ、社員もその背中を追いかけ、組織が成長を遂げていったわけです(* 2)。 *1より正確には、中長期の目標やビジョンは野心的に、短期のゴールは冷静に。どこかで短期の成功体験をつくることは絶対に必要なのです。 *2「信じて頑張り続けたものの、どう考えても厳しい」と頭を抱えるケースもあります。実態が伴わないような目標は思い切って軌道修正するのも一法です。事業のピボット(詳しくは第 4章で後述します)も含め、非常に難しい意思決定を迫られるため、社長の胆力が問われます。
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