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会社の経営が傾く原因の多くは「撤退の遅れ」

 ここまでも少し触れましたが、経営がうまくいかなくなったとき、真剣に向き合わなければならないのが、「撤退」です。数ある意思決定のなかでも、事業から撤退するか否かを決めるのは、社長にとって最も難易度が高いと言えます(*)。  事業の撤退には大きく分けて、事業そのものから撤退する場合と、複数ある事業のうちの一つから撤退する場合があります。  前者の場合は、あえて大げさに言えば、撤退 =廃業を意味します。  後者の場合は、事業ポートフォリオの面から考えて、見込みのある事業にリソースを割くために、不振の事業から撤退します。リソースをうまく配分しないと、有望な事業の成長機会を奪うことにもなりかねないからです。  大企業に多く見られるケースですが、中小企業やスタートアップでも、単一事業から周辺事業に派生したものの、うまくいかなくて悩んでいる、という相談は少なからずあります。  いずれにしても、会社の経営が傾く原因のなかで多くを占めるのが「撤退の遅れ」です。  私が企業再生の現場で立ち会っていて最もつらいのは、出血しているのをわかっているのに放置して、出血多量になってもはや手遅れのケースです。「もう少し早く意思決定できていれば……」。そう悔しい気持ちになることも少なくありません。  ただし、投資と同様に「損切りは早め」が鉄則ではあるものの、迅速かつ冷静に判断できたら苦労はありません。  特に社長の肝いりの事業だと、「まだ諦めたくないから」とズルズル続けてしまいがちです。会社だけでなく、事業もまた自分の子どもみたいなものですから、わが子に向かって「まだ成人になっていないけど、お前は将来性がないから出ていけ」とはなかなか言えないものです。  スタートアップに限らず、誰もが知っている大企業でも、大きな赤字を出しているのに撤退のタイミングを逃し、全社的な収益を毀損した結果、全社が倒産状態に追い込まれたという例は山ほどあります。私自身もエッグフォワードで事業を閉じたことが何度もありますし、重ね重ね、撤退の判断は本当に難しいと痛感しています。  しかし、撤退の判断こそ安易に先延ばしにすれば、命取りになります。  成功を信じて粘る姿勢は賞賛されても、勝ち筋が見えないまま事業を続けたところで会社がつぶれてしまっては元も子もありません。  さまざまな企業再生に取り組んできた経験から言えるのは、社長は目指す思想やビジョンの実現を決して諦めてはいけない、だが、そこに向かうやり方やアプローチは極めて柔軟に変えるべきということです。  その事業を完全にやめることだけが撤退の形ではありません。  第 4章で話したピボットのように、ビジネスモデルやサービス内容、顧客ターゲットを大きく変えるのも、広義の撤退と言えます。むしろ、そうした機動力を高めることが、スタートアップには求められるのです。*事業の撤退に伴い、関係する社員たちと話をすると、その反応はさまざまです。「やめるなんて聞いていない!」といった反発がある一方で、極めて残念なのは「消化試合」のごとく、仕事に身が入らなくなってしまう社員が続出すること。前々から丁寧にコミュニケーションをとっていかないとあつれきが生まれる一方、とったらとったで、消化試合にもなりえる……。客観的には、自分が事業を切っているけど、自分自身もむしろ誰よりも身を切られている。そんな苦い思いをした記憶はずっと残っています。

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