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5「コンピュータ」よりも「ハート」

 病院関係者向けの講演で、「誕生日の患者さんが来られたら『お誕生日おめでとうございます』と言っていますか?」と質問してみたことがあります。案の定、聴衆の医師や看護師の大半がキョトンとした顔をしていました。  講演後、ある医師は「年寄りは誕生日のことを言われるといやがる」と、分かったような分からないような理屈を言ってこられましたが、そんな考えを持っているうちは患者さんが喜んでくれる病院になどなれないだろうなと思いました。  お客さまを十把一絡げに扱っていながら、「一生のお客さま」になってもらえたり、「この会社が一番」と言ってもらえるようになったりすることはありえません。  お客さまは、自分が特別に扱われることが好きなのです。先の医師だって自分が特別に扱われたほうがうれしいはずです。  したがって、お客さまに喜んでいただくには、「あなたは特別」をまめに実践することです。名前を呼ぶ、誕生日にカードを贈る、いつもちょっとしたひと言をかけるなど、何でもいい。それが特別をつくります。小さなことを積み重ねることが大切です。  「あなたは特別」をするのに、必ずしも、お互いを知っている必要はありません。  たとえば、わたしはふだん、朝八時前に会社のそばのコンビニへ行きます。たいてい同じ店員さんが店にいて、わたしがレジ袋を不要なことと電子マネーで決済するのを知っているので、何も言わずにその手続きをしてくれます。ほかの店員さんの場合にはいちいち説明しなければならないので、その店員さんだとうれしい。でも、お互いがだれかはいまだに知りません。これでも十分「特別」です。  こういう話をすると、「うちは何百万人もお客さまがいるから、そんなことは不可能」と言う方が必ず出てきます。でも、そんなふうに考えているから、可能なことも不可能になるのです!  コンピュータを活用すれば、数百万件のデータも簡単に扱えます。データベース・マーケティングやワンツーワン・マーケティングと呼ばれるものです。  実際、多くのお客さまがいる会社では、お客さま情報をたいていデータベースにしているようですが、残念ながらお客さまが喜ぶようにそれを使っている会社は少ないように感じています。  たとえば、わたしの家の近くにスーパーが二軒あって、両方ともポイントカードを発行していて、接遇もまずまずです。でも、いつも不満に思っていることがあります。  それは、せっかくポイントカードを発行して、こちらの名前や購買回数などが分かっているにもかかわらず、レジの最中に「小宮さまいつも有り難うございます」や「 ○ ○以来のご来店ですね」といった個別の会話をしないこと。カードをカードリーダーにかけているので、それらのデータを呼び出すことなど簡単なはずですが、どちらのスーパーでも行っていません。せっかく「あなたは特別」を行うチャンスがあるのに、その機会をみすみす逃しているわけです。  つまり、コンピュータシステムがあるから個別対応ができるわけでもなければ、ないからできないわけでもない。それは、システムの問題ではなく、資本の問題でもなく、「ハート」の問題なのです。  コンピュータを使わなくても、ハートがあればお客さまを喜ばせることはできます。  ずいぶん以前、新聞で読んだ話ですが、ホテルニューオータニのあるドアマンは、六千人の顔と名前を一致させて覚えていたといいます。新聞の切り抜きを集め、覚えたそうです。そして、顔を覚えているお客さまがいらっしゃったら、「 ○ ○さま、いらっしゃいませ」と言う。言われたほうはいやな気はしません。プライドをくすぐられます。それまでほかのホテルを使っていた人も、次回からはニューオータニに、ということにもなるでしょう。大切なのはお客さまに喜んでいただこうという気持ちです。  その気持ちがあれば、コンピュータを使わなくとも「あなたは特別」を行えます。  データをお客さまのために使おうという気持ちが大切なのです。それが「マーケティングハート」です。  モノやサービスを売るのも買うのも人間です。人が何か行動をするときには必ず「好きか嫌いか」ということがついて回ります。そこで、  お客さまに好かれるにはどうすればよいか?ということを常に意識して行動することがマーケティングの大原則です。そして、それは、  自分ならどうされたいか  を考えるところから始まります。  個人情報保護法が施行されてから数年たちます。法律の根本概念は「個人データは当該個人のもの」ということのようですが、ビジネスの現場ではそれを一歩進めて、「個人データは、当該個人の『ための』もの」と考えてはどうでしょうか。  個人情報保護のため「プライバシーマーク」を取得している企業も多いと思いますが、単にデータ保護だけの観点ならコストにしかならないものも、お客さまのためにデータを使うという気になれば投資になります。そして、それは、お客さまにも、ひいては企業にも利益をもたらすこととなります。  要するに、企業の姿勢やハートの問題なのです。

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