多くの会社で、「社員の意識改革」というのが、方針やスローガンに掲げられています。もう何十年も掲げられてきていると思います。もちろん、働く人の意識が向上するのは望ましいことです。けれども、現場で会社を見れば、そう簡単に実現できるものではないことは明らかです。 もともと、方針やスローガンに掲げるには無理のある目標だともいえます。社員の意識がよいほうに変わったかどうかというのは、先に説明した「メジャラブル」ではありませんから。「がんばってます」と言われると、経営者といえども、もうそれ以上何も言えなくなってしまう……それでは会社がよくなるかどうか分かりません。 でも、このスローガンには、もっと根本的な問題があります。それは、 お客さまは社員の意識改革などべつに望んでいないということです。お客さまが望んでいるのは、よい商品やサービスです。つまり、実際のモノや行動です。「意識改革のできた社員」が、電話が何回鳴ってもとらない、というのでは意味がありません。お客さまとしては、意識改革してくれるよりも、気持ちよく挨拶をしてくれるほうがよほどうれしい! メジャラブルという観点から言ってもそうです。そんな「意識改革」よりも、電話を三コール以内にとるとか、お客さまを玄関先まで見送るといった、やっているかやっていないかがはっきりする行動を変えるほうが、よほど社内の雰囲気を変えられます。やっていない人にプレッシャーをかけられるし、何をやればよいかがはっきりするからです。(電話応対や挨拶などの基本動作について言えば、近頃はダイヤルインになっている企業も多いようですが、ある大企業の部長に電話したところ、先方の部長が「もしもし」とだけ返答しました。社名を名乗るわけでもなく、「もしもし」と言ってそのまま待っているわけです。家の電話ではないんですよ! 有名な大企業でもそんなありさまです。) わたしは意識改革を否定しているわけではありません。ただ、経営の現場ではそんなことを悠長に待っている暇はないのです。お客さまは、その場その場の社員の行動でその会社のよし悪しを決めているのです。 剣道や茶道でもまず、形から入ります。基本動作や作法から覚えます。それを繰り返しやっているうちに、その「心」が分かり、意識が変わってくるのです。 したがって、行動を変えるには、基本動作を繰り返すとともに朝から環境整備するなど、実際に、身体を動かすことも有効でしょう。 「そんなの時間のムダだ」と言う人もいますが、 自分の机やゴミは自分で片付けるといった基本的なところから、 ほんとうの経営は始まると、つくづく思います(このことに関連して、決められた行動をとらない社員をリーダーが厳しく叱れるか、という課題があります。「社長力 5 リーダーシップと人間力」の章の「『甘さ』より『厳しさ』」を参照してください。できれば、いますぐ読んでください)。 さて、この「小さな行動を変えさせる」方法をもうひとつお話ししておきましょう。それは、人にやってもらいたいこと、やってもらいたくないことは、言うより書いて渡したほうが有効だ、ということです。 「何度言ったら分かるのだ」と言っている本人だって、「何度言われても分からない」のが現実です。「理解は偶然、誤解は当然」と思って、コミュニケーションを高める努力が必要です。 「言ったか、言っていないか」というような不毛な議論をするよりは、書いてあることを「やったか、やっていないか」というふうにしたほうがずっと建設的です。 厳しいようですが方針に従わない人に辞めてもらうときも、文書で示した基準があったほうが、「言った、言わない」よりずっと説得しやすいものです。 それでは、具体的には、どういうことを書いて渡せばよいのでしょうか。 ある会社の例では、「お客さまに関する方針」、「環境整備に関する方針」、「利益に関する方針」、「新規事業に対する方針」、「クレームに対する方針」などの項目ごとに、具体的に従業員にやってほしいこと、やってほしくないことを定めています。 具体的には、「電話は三コール以内にとる」、「電話に出たら、『有り難うございます。 ○ ○会社 △ △部、 ☆ ☆です』と受ける」といったように、細かいところまで規定しています。クレームに関しては、「直ちに上司に報告し、何をさておいても対応する」といった具合です。 ただ、紙を渡すだけでは十分な効果が出ない場合も多いのが現実です。それを繰り返し読む機会を提供するとよいでしょう。朝礼などで、毎日一ページずつでよいから、だれかが順番に当番になって読んでいく。毎日それを繰り返す。また、会議などの機会があるごとに、その内容について具体的にみなで話し合うといった具合です。 それにより、会社では何をするべきか、何をしてはいけないかが、ゆっくりかもしれませんが確実に、みなに浸透していくものです。これこそが「意識改革」です。そうした地道な手間をかけることにより、少しずつ会社は変わっていきます。 いま、「そんなことで効果があるのか」などと思ったあなた! そう思っている間は、まだ頭で経営を考えている段階です! 頭で水泳の泳法を考えているだけで泳げるようになると思っているのと同じです。ほんとうの経営者ならお分かりでしょう。 経営は実践であり、行動なのです。
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