本書の最初で、経営という仕事の二番目は「資源の最適配分」だとお話ししたのを覚えていますか? 経営は、理屈で覚えるにはそれほどむずかしいものではありません。むずかしいのは、実践です。なかでも、ヒト・モノ・カネや時間を有効活用するための「資源の最適配分」はほんとうにむずかしい。なぜなら、それには「私利私欲」が働くからです。 以前、噂で聞いた話ですが、ある大手銀行の頭取は、だれを取締役に昇格させるかという際に、「あいつは以前、引越しを手伝いに来てくれた」と言って某取締役を選んだそうです。実際にはここまでひどくはないと思いますが、地位や権限を持つと、私利私欲でものごとを判断してしまう人がいるのは事実でしょう。 お金を使う場合もそうです。価格や品質は二の次にして、友人の会社から購入するなどまだいいほうで、なかには私用にまで会社のお金を使う経営者がいます。 人間は弱いもので、放っておくと、ついつい自分優先となります。だれも文句を言わない立場になると、特にその傾向が強まります。でも、リーダーがものごとを判断するときの基準は、「 For the company」でなければなりません。 わたしは、社外役員や顧問として、毎月十社程度の役員会に出席しますが、そこでチェックしているポイントのひとつがこれです。社長や役員が、「 For ourselves(自部門のため)」や「 For myself(自分のため)」といった発言をしないかどうかを、チェックしています。「『自部門のため』もだめ?」と思われる方もいるかもしれませんが、だめです。役員なら全社全体がよくなることを考えなければなりません。 「 Σ部分最適 ≠全体最適」、つまり、 部分最適の集合が全体最適とは限らないのです。 もし、あなたが社長の立場で次期社長を選ぶとしたら、自部門のことばかり主張している役員と、自部門は少し犠牲にしても会社全体のことを常に考える役員と、どちらがふさわしいと考えるでしょうか? 答えはいうまでもないでしょう。 また、ときどき、「 For the company」を拡大解釈して、「俺が気分が悪ければみなに迷惑をかける」とか「社会勉強も必要」と称して飲み歩くのも「仕事」だと言ってはばからない経営者もいますが、それが「 For the company」かどうかの基準は簡単です。 同じことを部下がやっても許せますか? 部下が営業車で家族旅行に行くのを許しているなら、自分も会社の車を私用に使ってもいいでしょう。それがいやなら、個人用を買うか、一割でいいから車の費用を個人で負担することです。 リーダーには、こうした小さなことにも注意が必要なのです。
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