はじめに
経営コンサルタントとして独立したとき、いくつかの目標を立てました。
そのうちのひとつが、本を百冊書くことでした。本書がその百冊目になります。
百冊目にふさわしく、この二十年のわたしの経営コンサルタントとしての経験を集約し、経営の本質、原理原則、経営者としての正しい考え方や生き方とはどういうことなのかをお届けしたいと思います。
「社長の心得」と題しました。
仕事柄、わたしの周りには経営の現場や現象がたくさんあります。
毎日、膨大なサンプルの中に生きているようなものです。
人生の師匠である曹洞宗円福寺の故藤本幸邦老師から「小宮さんの仕事は、多くの人の経験を集約することだね」と言われたことがありますが、まさにわたしの仕事は、その現象を集約し、その裏にある本質を見つけ出すことです。
そして、経営者の方が道に迷いそうになったとき、いつでもそこに戻って来られるような原理原則を示していくことです。
わたしは、いくつかの会社の顧問や役員のほか、会員の方向けのセミナーを年に六回開いています。
基本的には、毎年、同じ話をします。
でも、長い方は、もう十五年も毎回聴きにいらしています。
セミナーでは、現預金はどのくらい持たないといけないかなどの話もしますが、中心は経営の原理原則、そして、経営者としての姿勢、生き方についてです。
聴きにいらっしゃる方も、それを求めていらっしゃいます。
定期的に聴いて、ご自分の経営者としてのあり方が正しい方向を向いているか、ずれてきていないか、チェックなさっているのだと思います。
本書は、そのセミナーのような役目を持つものです。
つまり、経営の原理原則、経営者としての姿勢、生き方の基準を示したものです。
折に触れて、いつでも読み直していただけるよう、そして、毎回なんらかのヒントを得ていただけるよう、本質や原理原則を説きながら、できるだけ簡潔に、まとめたつもりです。
セミナーでは、最新の日本経済の話もします。環境変化を読み取ることも経営者にとってはとても大切なことだからです。そして、みんなで日本をもっと良くしていきましょう、と話します。
というのも、わたしは、この国を良くしていくうえで、もっとも力を発揮するのは、日本に二百万以上ある会社の、それぞれの経営者だと思うからです。
経営者が良くなれば、会社が良くなる、会社が良くなれば、日本が良くなります。だから、経営者は、日本を良くする要、根本なのです。
経営者の方には、そして、将来、経営に関わりたいと思っている方にも、まずは経営者としての正しい考え方や生き方、経営の原理原則を身につけ、自分の会社を良くして、日本を発展させる、そういう志を持っていただきたい、自分はそのための「経営者のコーチ」だと思って、この仕事を続けています。
わたしのセミナーには、息子を後継者として教育してほしいと、現社長である親が送り込んでくる場合もあります。
残念ながら、自発的に参加する若い後継者はあまりいません。
そして、正直言って、創業社長や自らそれを目指す人たちと比べると、手間がかかります。
周りからちやほやされて育ってきた人が多いからです。
でも、そんなかれらも一年もすると、目つきが変わります。
経営者としての心構えができてきます。
ある意味、わたしの仕事は、経営者の生活指導員、ちょっと厳しいレッスンプロのようなものであるのかもしれません。
さて、本書では、まず、序章で、「良い会社とは何か、社長の仕事とは何か」を定義し、次に、第 1章で、「社長と社員の基礎力を高める」方法、第 2章では、「社長が持つべき仕事観」、第 3章では、「社長が知っておくべき人材育成の要諦」、第 4章では、「社長としての人物力」、を述べ、全九十五項目を挙げました。
お気づきのように、財務諸表の見方とか経営戦略の立て方などの項目はほとんどありません。
それらは一度勉強すれば、あとは実践のなかで身についていくことだからです。
もちろん、数字を読むにも原理原則はありますし、本書でも取り上げていますが、それらは、実は、社長にしかできないことではありません。
場合によっては、他の役員に任せることもできます。
社長には、社長にしかできないことがあります。それが、社長としての正しい考え方であり、正しい生き方です。経営や人生の原理原則を守ることです。
それらが間違った方向を向いていると、戦略立案もマーケティングもリスクマネジメントも人材育成も、すべてが間違った方向に増幅して進んでいってしまいます。大きな悪い会社ができあがっていきます。そして、結局最後は、消えていくのです。
それは、わたしが「目的」とすることではありません。
本を百冊出すと、二十年前に周囲に宣言したとき、みんな苦笑していました。
そんなことできるわけないと。
それが、思ったより早く、その目標を達成することができました。
これも、お客さまや読者のみなさまのおかげです。
この場を借りて、お礼申し上げます。
でも、「目標」は「目的」ではありません。
わたしの目的は、わたしの関わった経営者の方に、良い会社をつくっていただくことです。
そうして、その会社が提供する商品・サービスを手にするお客さまに幸せになっていただくことを通じて、経営者も、その会社で働く従業員の方にも、幸せになっていただきたい。
そして、そういう会社がひとつでも多く増えることによって、この国日本が良くなることに貢献すること。
それが、わたしの人生の目的であり、使命だと思っています。
本書もまた、わたしの「使命」から世に出させていただくこととしました。
あなたの「経営のコーチ」として、あるいは、「生活指導員」として、あるいは、「レッスンプロ」として、永くお手元においていただければ幸いです。
小宮一慶
序章 良い会社とは何か? 社長の仕事とは何か?
1 良い会社を定義する良い会社とは何かを知り、常に意識していくことが、良い会社にする第一歩である。
経営者が良くなれば会社は良くなります。経営者で会社は決まります。良い会社をつくるためには、まず、良い会社とは何かを知り、理想像を持って、それを経営方針の根底に置くことです。
「散歩のついでに富士山に登った人はいない」のです。
では、良い会社とは何か?それは、次の三つの要件を満たす会社です。
- ① お客さまに喜ばれる商品・サービスを提供して社会に貢献する会社。
- ② 働く人が幸せな会社。
- ③ 高収益の会社。
これらが同時にすべて揃っている必要があります。
どれかひとつでも欠けていては、良い会社とは言えません。
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