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「何のための知識なのか?」

 私はそれまで、父の背を見て建築会社の社長になるつもりでいた。だから、高校や大学の進路も、いずれ建築士や宅地建物取引主任者(現在の宅地建物取引士)の資格を取得するときに有利になるところを探したほうがいいだろうと思っていた。  将来、建築会社の社長になるために、たくさんの勉強をして、たくさんの知識を詰め込んで、たくさんの資格を取るつもりでいた。それが素晴らしい社長になる、最高の道だと思い込んでいた。だが、その考え方は、父とは真逆だった。  ふと、父の周りにいる人たちを見渡してみれば、たしかに、取引先の業者には資格を持っている人がたくさんいた。高学歴の人もいた。でも、みんな父の言うことを聞いている。父に判断を仰いでいる。そして、父のほうが成功している。「成功する社長になるために、たくさん勉強したり、深く知識を詰め込んだり、資格を取ったりするのは、時間の無駄だ」  父のこの言葉は、そのときから私の頭に染み付いて離れなくなった。同級生が受験勉強している様子を見ても、私自身は受験そのものに全く興味がなくなり、学歴に対する焦りもなくなった。「成功に学歴は関係ない」──遊びたい盛りの学生が、成功して幸せそうな父親にそんな言葉を投げかけられたら、勉強などするはずがない。結局、学生時代は大いに遊んでしまった。「判断さえできればいい」という部分も全く抜け落ちたままではあったが、そういう学生時代を送ったことには満足しているし、後悔もしていない。  そして今では、建築、不動産、金融、法律、営業、マーケティング、コミュニケーションなどそれぞれの分野で、経営や投資のための判断に必要な一定の知識を身につけている自負がある。ただし、それらはあくまでも判断のための知識であり、私が最も効率が良いと考える、最低限だが必要十分な知識だ。  言うなれば、知識には 2種類あるということだ。つまり、効率の良い知識と、効率の悪い知識だ。  効率の悪い知識をいくら溜め込んでも、社長として適切な判断を下すための助けにはならない。それよりも、効率の良い知識を必要なだけ備えていれば、それで社長としての役目は十分に果たすことができる。「何のための知識なのか?」  中学生のときに父に発したひとつの質問が、私にとって大きなターニングポイントであったことは間違いない。この問いは、のちの人生を大いに豊かにしてくれた。

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