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判断を委任できない3つの理由

 ここまで見てきたように、判断を委任することには多くのメリットがある。だが現実には、多くの社長が判断を委任できていない。  かつての私も、「全部、社長の私に聞いてくれ」というスタンスで、限界を感じるまで、すべての判断を自分自身で行っていた。世の中の多くの社長も、「もっと時間が欲しい」「自分があと 3人いれば」などと言いつつも、大変な作業であるはずの判断を手放そうとしない。  もちろん、すべて自分で判断することで自身の経験を蓄積し、さらには自尊心を満たし、それこそが会社を経営する上位の目的であるならば、それもいいだろう。特に、初めての会社を立ち上げたばかりの新米社長なら、むしろ手放したくないことだらけだろう。そういう場合は、手放したいところだけ手放せばいい。  だが、もう何年も会社を率いて、判断に追われる日々に疲弊しているにもかかわらず、人に任せることができないでいる社長が、実に多い。  なぜか。その理由は3つ考えられる。  1つ目は、そもそも判断の基準ができていない、または共有できていないこと。2つ目は、社長である自分の判断が最も優れていると思い込んでいること。3つ目は、判断することに社長としての存在意義を感じていることだ。  ひとつずつ見ていこう。まずは、判断の基準ができていない、または共有できていない場合について。  判断の基準となるもの、それは会社の目的だ。だが多くの社長は、そもそも会社の目的を考えることをせずに、売上や利益といった数字上の目標だけを設定して、それを判断基準にしてしまう。つまり、原因となるべき目的を持たず、結果としての目標という短期的な視点だけで判断しようとしている。

 会社の明確な目的がないまま、目標や条件という結果だけで判断を委任しようとしても、それではうまくいかない。なぜなら、なぜその判断をするのか、その判断によって会社はどこへ向かおうとするのかを理解していなければ、会社の成長に必要な適切な判断は下せないからだ。  どこへ向かおうとするか、という会社の目的は、顧客にどんな価値を提供するか、という原因として存在するのであって、その結果たる売上や利益に向かうのではない。  なぜなら、会社は、必要とされる価値を提供してこそ顧客に信頼され、それが売上につながるからだ。判断を下すことによって提供する価値(会社の目的)を明確にしないまま、自社の利益や目先の営利に向かっても、そこに継続的な繁栄はない。  また、会社の目的があったとしても、それを社長以外のスタッフやメンバーに共有できていなければ、やはり適切な判断にはつながらない。  私も、目標や条件だけで判断を委任しようとして、うまくいかなかった時期がある。だが、目的や会社が大切にしている価値観を共有し、全員がそれを基準として常に意識することで、委任が可能になった。また、メンバーのモチベーション向上にもつながった。  会社の価値提供における目的が明確でなく、結果としての数値目標を基準にすると、モラルや法律を無視した不正が起こったり、商品やサービスの劣化を引き起こしたりもする。結果的な目標を目指すことの重大な落とし穴であり、不正にせよ劣化にせよ、いずれ会社の価値を下げる要因になり、やはり継続的な繁栄は難しくなる。  次に、社長である自分が判断することが最も効率的で優れていると思い込んでいる場合について。  多くの社長は、判断を委任すると結果が小さくなる、と思いがちだ。実際、人に任せることで売上が少なくなってしまうことも、当然あるだろう。委任された人が常に自分より良い結果を出す保証はない。  多くの社長にとって、この点こそが障壁となり、なかなか人に任せる踏ん切りがつかない。判断を任せた結果が望んだものにならないとイライラもするし、判断に至る細かなプロセスさえも気になってしまう。一旦は任せたものの、途中で口を出してしまったり、文句を言ってしまったりすることもあるかもしれない。  たしかに、自分以外の人間に判断を委ねると、短期的には売上が減る可能性もある。しかし、長期的な視点を持てば、一定の判断については委任をしたほうが、会社の発展のためになる。それは、これまで述べてきたとおりだ。  社長は、会社において誰よりも長期的な視点を持っていなければいけない。短期的なデメリットに囚われすぎず、判断の委任とは、会社の未来を見据えれば必要不可欠なものだと考えたほうがいい。  最後に、判断することに社長としての存在意義を見出している場合がある。  誰だって、自分の存在が薄れてしまうようなことはしたくないものだ。判断を委ねることで、社長としての役割がなくなり、結果として、社内における存在意義までも失われてしまうのではないか……と心配しているかもしれない。  もちろん、判断を委任したからといって、社長の存在意義がなくなるわけではない。なぜなら、あくまでも委任であって、「委任する」という判断を下しているのは社長だからだ。  なかには、自己重要感を満たすために社長をやっている、という人も少なからずいるだろう。何を隠そう、私自身も、若い頃にはそう思っていた時期もある。こういうタイプの社長は特に、存在意義が揺らぐことへの不安が、判断の委任を妨げていることが多い。  そういう社長は、まず、「自己重要感を満たしたい」という思いと会社の発展の、どちらがより重要なのかを考える必要がある。優先順位をつけるのだ。その上で、どうしても手放せない判断は自分で行えばいいし、手放してもいいと思えるところから、判断の委任を進めていけばいい。  どんなに時間がかかっても、やっぱり自分が判断したいというなら、それでもいい。だが、繰り返し説明しているように、すべてを社長が判断しようとすると、自分の能力や時間の限界が会社の限界になることは、忘れないでほしい。  自分の能力や器を超えた大きな判断を迫られたときには、意固地になって自分ひとりで判断しようとするのではなく、誰かを頼ることも検討しよう。ひとつ上の自己重要感を満たすために、多くの委任を経験してみると、また違った世界が見えてくるのではないかとも思う。

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