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どこから委任すればいいのか

 判断を委任するときは、ボトルネックと思われるところから始めよう。そのひとつは、社長自身が苦手な判断だ。それ、自分自身には知識や経験が少ない分野の判断であることが多い。  法律が苦手、 ITが苦手、税務が苦手など、人にはそれぞれ苦手な分野がある。しかし、その苦手な分野であっても、社長は判断を放棄するわけにはいかない。だからこそ、その苦手な判断にもしっかり取り組む必要はあるのだが、どうしても時間がかかってしまう。  また、何とか判断を下しても、それに対して自信を持てなかったり、精度が低かったりする場合も多い。こうなると、いくら時間をかけても好ましくない判断を続けてしまうことになる。  社長の唯一の仕事は判断だ。まず自分が普段、どんな判断をしていて、どんな判断が得意で、どんな判断が苦手かを把握しておいたほうがいい。今すぐ判断を委任するつもりはないにしても、今後の判断の精度が驚くほど上がるので、ぜひとも時間を取って書きだしてみてほしい。  自分が得意な判断は、時間もかからず、ストレスも少ないので、そのまま自分が行えばいい。その一方、苦手な判断には時間がかかり、ストレスも多く、その割に精度が低くてリスクは高く、 ROI(費用対効果)が悪い。そういう判断は、委任する最優先の候補に上がる。  ただし、いくら苦手だからと言って、判断の丸投げは NGだ。丸投げは、中長期的に見れば ROIも低くなり、だがリスクは高い。丸投げされたほうの責任が重くなるため、トラブルも起こりやすい。丸投げすることなく、しっかりと委任できる体制を作る必要がある。  判断の中には、一度行うとずっと影響が続くものも多い。また、ひとつの判断が事例となって、次回以降はその基準で判断されることも多くなる。  そのため、精度の低い判断や間違った判断を一度でも下すと、ずっと精度が低く、ずっと間違った判断を続けてしまう可能性が高くなる、ということだ。たったひとつの判断が、中長期にわたって会社に悪影響を及ぼすかもしれない。  したがって、社長が苦手な分野の判断に関しては、自分の曖昧な基準で判断しようとせず、まずは一度、複数の専門家の意見を聞いて、判断基準を作っ

てしまうことをお勧めする。  このとき、完璧を目指す必要はない。まずは明文化された基準を作るのだ。その基準を作った上で、自分自身で行う判断と、その基準に沿って判断した場合で差異がないかどうかを確認する。自分の判断と基準による判断のどちらが、より会社の目的と目標に沿って、会社が目指す方向に向かうのかを確認してみるのだ。  そして、基準に従うだけでも概ね良好な判断ができると確認できれば、その基準をもとに、適任と思う人に判断を委任する。最初のうちは、その都度、自分の判断と担当者の判断を照らし合わせてもいい。  また、その基準では判断できない場合は社長や専門家に相談できるようにして、その度に基準を改定する。そうすると基準の精度が上がるので判断の精度も上がり、結果の精度も上がる。  こうしたことを何度か繰り返していくうちに、自分と委任された人の判断の差が少なくなっていく。もしくは、自分で行うよりも良好な結果につながるような判断の基準が出来上がる。基準が、あなたと同じか、あなた以上の判断を下してくれるようになるわけだ。  そうなれば、その判断の委任は完了し、あなたはもっと違うことに時間と労力を使うことができるようになる。これで、判断に伴うストレスは大幅に改善し、未来の可能性は大幅に広がっていくだろう。  もうひとつのボトルネックは、ルーティンになっている判断だ。こうした判断は、それに伴う作業量が多く、それに時間を取られる場合もある。だが、往々にしてルーティンは量が多く、それゆえ判断の基準も十分に磨かれているはずだ。  そのため、ルーティンの判断は委任しやすいもののひとつと言える。社長がやろうとすると負担が大きいものの、委任しやすい判断。あなたの業務効率を大幅にアップさせる委任になるに違いない。委任することの価値と意義  一度判断を委任したら、あとから自分で判断をしたくなっても、我慢することも必要だ。  時には、委任した後で「これは自分が判断したほうが良かったな」と思うことも出てくるだろう。委任した結果、短期的に仕事の質やスピードが落ちたり、思うように売上が上がらない、会社の信頼が落ちるといったことが出てきたりする可能性はある。  そういうときは、やはり口出ししたくなるものだ。しかし、ここは我慢のしどころ。最後まで責任を持って判断してもらうことが大切だ。なぜなら、そのほうが長期的に会社の発展のためになるからだ。  実際のところ、社長である自分が行っていた判断を委任すると、短期的には利益が損なわれることもある。だが、多少は時間がかかっても、会社の繁栄という長期的視野に立てば、委任する価値は十分にある。  世界的なホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン」のクレドについて聞いたことがある人も多いだろう。  クレドは「信条」といった意味で、従業員のあるべき姿や行動規範が示されているもの。つまりは、基準だ。細かなルールではなく、価値観によって行動規範を設定している。そして、この基準に則った行動をするために、従業員には一定の裁量権が与えられている。何度もリピートを生む仕組みを持つ「ディズニーランド」でも、同様に行動規範が採用されている。  リッツ・カールトンやディズニーランドのような世界的企業と違い、中小企業の場合、社長自身の価値観や人生哲学が、そのまま会社のミッションや目的になっている場合も多い。それもあって、社長の考えをいかに社内に行き渡らせるかが重要視されている節がある。  だが、例えば会社がまだ小さくスタッフも少ないのであれば、社長や経営陣だけで会社の目的を決めるのではなく、スタッフ全員と話し合った上で決める、というのも一案だ。そうすれば、そのプロセスに参加した全員が、ある程度、納得した上で仕事を進めることができ、結果として、社長は非常に楽になる。  会社の目的に対して全員が、自分の意見もそこに含まれていて、その上で働いている、という意識が生まれるので、ひとりひとりが積極的かつ前向きになるのだ。当然、判断を委任しやすくなるし、委任されて行う判断の質も上がる。  社長の考えを一方的に押し付けると、目的に向かうための判断としては、どうしても社長本人がする場合よりも精度が劣ってしまう。どんな人であれ、 100パーセント自分の思いどおりにできることはない。だからこそ、違う価値観を持った者同士でも、同じ目的に向かえるようにするために基準を作るのだ。  私が経営に加わっている会社では、定期的に全社ミーティングを行っている。各自が会社の全体像を知ることで、会社の目的を理解し、日々の判断をしやすくするために、部署ごとチームごとではなく、あえて全員が参加する場を設けているのだ。  経営側の考えをメンバーに刷り込もうとするのではなく、全員で目的を掲げ、全員でそこへ向かうという意識が、会社の成長を促進してくれていることを日々実感している。  判断を委任するとき、多くの社長は、自分のイメージするやり方で事を進めてほしいと考えがちだ。なぜなら、それが最良の方法だと思っているから。そのため、ちょっと違うやり方をしたり、方向が少しズレていたりするだけでも、時に苛立ち、時に管理しようとすることがある。  だが、会社が目指す目的を共有した上で、あなたのやり方ではなく、それぞれのやり方で進めてもらうことが、判断の委任における重要なポイントだ。  あなたにとって効率的なやり方と、メンバーにとって最も効率のいいやり方は、必ずしも同じではない。世界でたったひとり、あなただけが正解で、それ以外はすべて不正解、などということは決してない。  すべてのメンバーが常に目的を意識できて、細かなやり方まで指示する必要のない体制をつくることは、会社の発展に大きく貢献するはずだ。各人が自発的に動けるようになれば、ストレスも減り、ひとりひとりの仕事の幅が広がる。そうして、力を合わせて目的と目標に向かおうとする力強いチームが生まれる。

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