どんな判断を下すのか、その基準は常に「目的」だが、目的に沿ってさえいれば何でもいいのかといえば、残念ながらそうではない。資金が無尽蔵にあって、無限の時間を持っていない限り、ほとんどのビジネスにおいては「なるべく早く、そして効率よく、目的(目標)に到達する」ことが課題になる。 そこで考慮しなければいけないのが、本書でもすでに何度も登場している「 ROI」だ。「 Return on Investment」、日本語で言えば「費用対効果」「投資対効果」。つまり、かけた費用(投資)に対して、どれだけリターンが返ってくるか、ということで、社長が特に意識しなくてはいけない重要な概念のひとつだ。 判断を下す際には、すべての選択肢について ROIを計算して比較する、ということが必要であり、「なるべく小さな投資で大きな利益を出す」という考え方を持つことが社長には求められる。言い換えれば、判断をするときは必ず ROIを意識し、より「効率の良い道」を選ぶ、ということだ。 建築会社を経営していた 20代の頃のこと。受注単価 2億円ほどのビル建設の見積もり依頼があり、それからというもの、私はその案件の成約に向けて普段より多くの時間を割いた。 当時、私の会社は 3000万円から 5000万円の注文住宅の請負がメインで、 1棟で 2億円を超える受注は、会社にとっても私自身にとっても、かなりの大物だ。仮に利益率 10%だとして、約 2000万円の粗利益は出る。普段は 1棟 3000万円程度で粗利益 400万円ほどだったので、その 5倍になる計算だ。 これは何としても決めたい。だが、当然ながら競合他社もあり、簡単には受注できずに数か月が過ぎていた。設計と見積もりを何度もやり直す日々が続き、他の仕事への影響も少しずつ出始めていた。 そんなとき、自身も建築会社の社長である父から、思いもよらない視点からのアドバイスを受けた。父「その仕事は、受注したらどれくらいの利益になるんだ?」私「たぶん 2000万円以上の粗利は確保できると思う。普段の 5倍はいける」父「工期はどれくらい掛かる?」私「受注してから着工までに 3〜 4か月。着工してから引き渡しまで 1年。引き渡しをしてから直し工事や外構とかもあるから、プラス 2週間くらいかな」父「じゃあ、概算合計で 1年 4か月ってことか。 16か月で 2000万円の粗利。それくらいの仕事なら、現場監督はそこに付きっきりになるな」私「そうだね。その 16か月は、現場監督はほぼその仕事がメインで、他の仕事はあまりできないと思う。それで 2000万円の粗利だね」父「その現場監督が他の現場に付けない分、注文住宅の請負のほうは、どれくらいが先延ばしになるんだ?」私「そうだな、注文住宅なら 16か月で 3件はいけるかな。1つの現場は 5か月もあれば上がるから、 16か月あれば 3回転できる。木造住宅なら、大工も現場を仕切ってくれるから、ひとりの現場監督で同時に 3棟か 4棟は回せるね」父「今、注文住宅の平均請負金額と粗利益はどれくらいなんだ?」私「 1棟の請負は 3000万円くらいで、粗利は平均 13%くらい。 1棟で 400万円くらいの粗利。 16か月あれば、木造注文住宅なら 9棟から 12棟はいけると思う」父「そうすると、 2億円のビルの粗利が 16か月で 2000万円、その間に受注できたはずの注文住宅は、 9棟から 12棟で粗利 3600万円から 4800万円ってことだな。中間をとっても 4000万円の粗利は出せる」私「たしかに!」父「 16か月の仕事で、ビルの粗利は 2000万円。木造の注文住宅なら 4000万円。 2億円のビルの受注なんて、やる意味あるのか?」
目次
コメント