人を見抜くフレームワーク ●人格と能力 私は、人を見るときにもフレームワークを使う。それが人格と能力だ。 人には、人格的価値と能力的価値という2つの柱がある。人格と能力のそれぞれを理解し、その2つを掛け合わせて人を見極めるこのフレームワークは、他人を深く理解するためのツールでもある。 ビジネスでは、人材を見極められることは強みになる。人間というのは感情的な生き物であるがゆえに、時には判断ミスを犯すこともあるが、経営においては、人に対する誤った判断は、時に致命傷となり得る。 どんなに優秀な経営者でも、信頼していた人から裏切られてすべてを失った、などという話は、いくらでもある。だからこそ、主観に頼らない判断基準(フレームワーク)が必要なのだ。 能力とは、何をどれだけできるか、といった物事を成し遂げる素質のことだ。専門的な能力のほかにも、コミュニケーション能力や、実際にどのくらいの売上を生み出すか、という経済効果で見ることもできる。 こうした能力があるか・ないかだけでなく、再現性(同じ成果を繰り返し出せるか)、スピード(その成果をどれだけの早さで出せるか)、スタミナ(その成果をどれくらい続けられるか)といった指標に細分化することで、より詳しい分析ができる。 能力を多角的に評価することで、その人がどれだけ活躍できるか予測することができる。 人格とは、その人固有の人間性、人としてのあり方だ。優しさや誠実さ、協調性、モラルの高さ、教養、信頼性などがある。 これらは人として非常に大事な部分であり、もしも欠落していると、様々な問題が起こりうる。例えば、利己的であったり、攻撃的な面があったり、時間
や約束を守らなかったり、虚偽や失敗の隠蔽といった問題点があるような人がひとりでもいれば、会社の存続にまで関わるかもしれない。 いくら能力が高くても、人格の低い人がいると、会社の ROIが悪くなり、メンバーは幸せになれず、実際の事業収支としても悪くなる。ビジネスでは特に信頼が重要な要素になるため、採用にあたって人格を確認することは非常に大切だ。 ただし、人格が高ければそれでいい、ということでもない。能力が低い人を抱えることは、会社にとってはリスクだ。その人の教育に時間や労力、お金をかける必要があるだけでなく、その人の能力の穴を埋めるために、周りの負担を増やすことにもなる。 人格も能力も高いことが理想的ではあるものの、バランスも大切だ。いずれにしろ重要なのは、その両方の視点から人を判断することだ。高い能力だけ、素晴らしい人格だけで、会社の将来を左右する人材の判断を下してはいけない。 人格と能力を理解できると、非常に ROI高く人材を活用することも可能になる。両輪から把握し、その人が継続的に高いパフォーマンスを出せる場を与えることで、ビジネスに利益をもたらすだけでなく、その人も成長できる。そうすれば、さらに活躍してくれるだろう。 ●感情のクロスモデル 人が行動するとき、それが意識的であれ、無意識的であれ、その行動には必ず意味がある。人が何のために行動しているかを理解できると、ビジネスにおいて非常に役に立つ。「感情のクロスモデル」とは、顧客が何を欲しがっているかを知り、従業員が何を求めているかを知ることができる、ビジネス全体の設計に役立つフレームワークだ。 人の行動の裏側にあるもの、それはすべて「動機」という名の感情だ。 そして人は、基本的に、不快な感情から遠ざかろうとして行動を起こす。つまり、どんな不快があるのかがわかれば、反対に、その人が得たいと願っている快の感情が見えてくるのだ。 人が避けたい感情、言い換えると「悩み」には様々なものがある。身体(健康、美容等)に関すること、人間関係(男女、親子、家族、友人、職場、コミュニティ、社会等)、生き方(生きがい、やりがい、理想と現実等)、それに、お金に関する悩みもあるだろう。いずれも表面的な悩みであり、表面的な「欲求」とも言える。 これらを突き詰めると、4つに分類することができる。それは「不安」「寂しさ」「退屈」「劣等感」だ。この4つを反対側から見ると、「安心・安全」「つながり・愛」「成長・刺激」「貢献・特別感」といったプラスの感情になる。
つまり、人は「不安」という不快な感情を振り払うために「安心・安全」を求め、「寂しさ」を避けるために「つながり・愛」を探し、「退屈」から逃れるために「成長・刺激」を追いかけ、「劣等感」を克服するために「貢献・特別感」を欲する。これが、人の行動の裏側にある真理だ。 また、それぞれの感情のタイプを知ることもできる。 クロスモデルの上下に位置する「不安/安心・安全」と「退屈/成長・刺激」は、自分の中に抱える悩みであり、心の中で感じたい快である。それに対して、左右にある「寂しさ/つながり・愛」「劣等感/貢献・特別感」は、対人関係のおける悩みであり、人との間に生じる感情だ。 では、あなたの会社の顧客は、どの感情を求めているのだろうか? どんな動機で、どの悩み(不快)から遠ざかりたくて、あなたの会社の商品・サービスを買うのだろうか? それによって、どんな感情(快)を得たいと思っているのだろうか? 会社とは、商品・サービスそのものを売っているのではなく、その向こう側にある感情を届けているのだ、と理解する必要がある。顧客は、商品・サービス自体にお金を払っているのではなく、それによって得られる感情にお金を払っている。それが、ビジネスの本質だ。 感情という側面から顧客を理解することで、より良い商品・サービスの開発につながったり、思わぬ問題が浮き出てきたり、あるいは解決方法がおのずと見えてきたりすることにもなる。 また、このクロスモデルを活用することで、人の行動の先にある動機が見えてくるようになると、従業員やスタッフなど周りの人たちのことも、より深く理解できるようになる。 動機を理解すれば、その人に合った適切なアプローチが可能になり、より効果的かつ効率的な人材として活用できるようにもなる。仕事を通して「つながり・愛」を得たいメンバーなら、テレワークを勧めるよりも、オフィスに来てもらったほうがいいかもしれない、という具合だ。 これは他者だけでなく、自分自身についても言える。自分のビジネスの動機がもし「安定・安心」にあるのなら、無用なチャレンジはしないという判断ができるし、ビジネスを通して新しい自分と出会いたいなら「成長・刺激」の動機でビジネスをしているのだろう。これらは、時と場合によって振り子のように行ったり来たりもする。 このフレームワークを使いこなすことで、ビジネスだけでなく、人生の質を高めることができるだろう。
おわりに──人生は「判断」の積み重ね 本書では社長の判断について述べてきたが、そもそも日々の生活も、あらゆる判断の繰り返しだ。いくつもの判断を積み重ねながら、私たちは生きている。 私は以前、自分の残りの人生について、様々な数値に置き換えてみたことがある。車を買い換えるのは、あと何回だろうか。娘が社会人になって家を出るまでに、あと何回、一緒に夕食を取れるだろうか。人生であと何回、親と旅行できるだろうか。あと何回、大切な人に感謝を伝えられるのだろうか……などなど。 すると、面白いことが起きた。普段の何気ない判断が、どれほど自分の人生にインパクトを与えているか、手に取るように明らかになったのだ。 子供や親、あるいは友人などとゆっくり過ごせる時間は案外少ないと気づけば、ちょっとした誘いをよく考えもせずに断ることはなくなる。外食に費やす時間と金額を数字で確認すれば、より良い選択肢を考えるようにもなる。 それは会社も同じだ。十分な検討をすることなく下した判断が、のちのち尾を引いて会社に重くのしかかってくることはある。社長の唯一の仕事が判断だということは、どんな小さな判断もおろそかにしてはいけない、ということでもあるのだ。 会社では、社長の日々の判断の積み重ねが、会社の実績になる。だからこそ、日頃から小さな判断を下すことを、意識的に行っていくことも重要になる。 普段は無意識に行っているような判断を意識的に行うことで、判断の経験値を高めていくのだ。習慣的に行っていることを一度すべて見直すのもいいだろう。コロナ禍で生活を見直せた、といった話はいい例だ。 そうして積み上げられた小さな判断が土台となって、いずれ直面する、大きな判断が必要な場面においても、冷静に、最適な判断を下すことができるだろう。 普段から小さな判断を意識的に行うことで、「判断思考」とも呼べるものが身につく。朝起きてまず水を飲むか、それとも先に歯磨きするかを決めるのも、朝、最初にどんな段取りをするのかも、コンビニでどんな飲み物を買うのかも、すべてが判断だと気づく。 そうした小さな判断の積み重ねで未来が大きく変わるのだとしたら、「人生、何があっても他人のせいにはできない」ということだ。 結局のところ、自分の人生のあらゆる出来事・物事は、自分の判断の結果である、と受け入れることは、リスクを理解し、それを抱えた上で、人生に責任を持つということだ。 日常の小さな判断ひとつでもリスクとリターンが伴う。 Aという選択肢を選ぶことは、 Bへ進む道を自ら捨てることなのだから。だが、そこには可能性やチャンスもある。 時間は有限で、体もひとつしかない。人生には時間的・物理的な限界があることを認識し、すべてにおいて最善の判断ができるよう尽くすしかない。誰しも、2つの道を同時に歩むことはできないのだ。 私たちは日常生活の中で日々、大小様々な判断を迫られる。それらの判断によって、私たちの人生は築かれていく。すなわち、判断力を磨くことは、人生の質を磨くことなのだ。
著者略歴柴田博人 しばた・ひろひと大手住宅メーカー勤務を経て 26歳で独立。年商 8億円規模に成長させたのち、 32歳でセミリタイア。子育てがひと段落したタイミングでビジネス界に復帰。ビジネス構築と経営のプロとして複数の会社の経営に携わり、累計売上は 200億円を優に超える。不動産投資や株式投資にも精通するほか、近年は次世代の経営者の育成にも力を入れる。
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