「うちが売っているものは、他社でも普通に売っているものだから、そんなこと言われたって無理だよ」と言う社長もいると思います。果たしてそうでしょうか。 私の起業当時の話です。 会社を設立して 2年ほど経った頃、前職の先輩からパソコン会計ソフトを売ってみないかという電話がありました。当時、当社は一つの注文で数千円しか儲からないフロッピーやトナーを売っていました。しかし先輩から紹介された会計ソフトは定価が 20万円で、仕入値が 12万円とのことです。一つ売っただけで利益が 8万円というのは、当時の私には夢のようなお話です。ぜひ、販売させてくださいとお返事をさせて頂きました。 その後、先輩からよく話を聞いてみるとこの会計ソフトを売る販売店は当社以外にも全国に 10社以上あり、大手の販売店も含まれていました。当社の社員は私しかいませんし、広告しようにもお金がありません。会社と言っても月末には数万円のお金しか残らないような零細企業です。とはいえ愚痴ばかり言っていてもしようがありません。私はこの会計ソフトを販売することにしました。 会社にはコピー機がないので夜中にコンビニで 9時間コピー。 DMを出すお金がないのでバイクで午前 1時から 3時までポスティングです。営業を開始してから 3カ月後、ついにこのソフトが 1本売れました。 メーカーへ注文し商品の到着を首を長くして待つ毎日。数日経ってからようやくメーカーからソフトが届きました。早速、開封してみると、茶封筒にフロッピーが入れられ、マニュアルは汚いバインダーに綴じられていました。 20万円のものを売ったのに、これではお客様に失礼だと思い、フロッピーには電気店で高級そうに見えるようにフロッピーケースを買いました。バインダーと箱は文房具屋で買った綺麗なものに移し替えて納品しました。その後、買ってくれたお客様のところには何度も足を運び、操作を教えに行きました。 しかしこれでは利益が出ません。そこで他の販売店がどうしているのかを聞くために先輩の会社に電話してみました。すると「井上くん、俺たちは販売店なんだからメーカーから送られてきたものをそのままお客様に送ればいいんだよ。操作説明だってメーカーがやるべきなんだよ。俺たち販売店は売るのが仕事なんだ。井上くんみたいなことしてたら、いくら売っても利益なんか消し飛ぶぞ」と言われました。 でも私は、私を信じて買ってくれたお客様にそれはできないと思いました。私はいい加減な性格なのですが。なぜか変なプライドだけは高いのです。 手間がかかるソフトでしたが、買ってくれたお客様から近所のお客様を紹介してくれたり、イベントに参加してみたらと声をかけて頂いたりして、徐々に売れ行きが伸びていきました。 そんなとき、前職の先輩からまた電話がかかってきました。「井上くん、毎月コンスタントにソフトが売れているみたいだね。ところで、今度はもっとメジャーで利益額が大きい勘定奉行やエプソンのソフトを売ってみないか。こっちだったら今の何倍も利益が取れる。販売店なんだから何を売ったってメーカーは文句なんか言えないよ」 確かに今のソフトを 1本売っても利益は 8万円です。メジャーな会計ソフトなら利益は何倍にもなります。苦渋の選択でしたがこの誘いを私はお断りしました。たとえお金になったとしても今売っているソフトのライバル商品を売るのは、私の哲学に反するからです。また何でも屋になったら、誰からも相手にされなくなってしまうのではないかという「勘」もありました。 それから数年後、この会計ソフトのユーザーの 8割は当社が販売したお客様になりました。当社が販売店ではなくメーカーだと思っているお客様もいるくらいです。 他社が同じものを売っていても、自社にお金がなくても、営業社員なんて誰もいなくても、誰にも負けない商品への執念があれば何でも売ることはできるのです。 事業の本質の二つ目は商品への執念です。
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