不況のときこそ原点に戻って静かに考えてみる。熱心に商売をやっていれば、その人なりの答えが出てくるはず。自分の果たすべき役割が見えてくるはず。この機会を逆に生かすくらいの心持ちでいたい。
――厳しい不況に直面し、何から手をつければよいのかで困っています。
今、経営者がなさねばならないことを具体的にお教えください。
松下 一番目は、身を慎むということでしょうな。経営者としても会社の運営という面でも。
そして、二番目として、静かに世の中を眺めることです。
改めて、これから自分は何をすべきなのか、自分の商売はどうあるべきなのか、もとに戻って一度じっと考えてみることですね。これは他人に教えてもらうことやない。
商売を熱心にやっている人なら、静かに考えればその人なりに分かってくるはずです。その意味では、一度自分を突き放して考えてみる必要がありますな。
先が分からん、先が読めなくて不安だと、よく言いますね。
けれど、うっかりすると、そういう対応のしかた自体が、世間のざわつきに心を奪われてしまうということでしてね。
そして今、経営者にとっていちばん大事な、自分をしっかり握るということができないで、ただ右往左往することになってしまう。
これが最も悪いですね。
順調な時代、景気のいい時代というのは、いってみれば大勢と一緒にやっていればいける時代やったということです。
それが不況時は、おのおのが自分の商売の意義を考え、自分の商品を見直し、自分の立場はどうあるべきかといったふうに、おのおのがもっている自分の役割というものをはっきりつかまねばならん。
そうでないとやっていけないことになってくる。
自分なりの錦の御旗をもたないといかんというわけですね。
その人なりの使命感といいますか、それをつかまえたら強いものですよ。
それがないと、これからの時代を乗り切ることは非常にむずかしいですね。
心ある経営者は、今のような不景気、混乱の時期を迎えて内心ニンマリしていますよ。
〝ああ、いい機会やな。
これで従業員の教育もできるし、経営者としての勉強もできる〟といった具合でね。
もちろん、一面でやりにくいということは事実ですけれど、逆にこの機会を生かしてやるという考え方ですわ。
戦いでも一服して戦線を整えるということがありますでしょう。
今はやむをえず一服するかたちだけれど、反省する機会ですわ。
そう考えて、甘んじて受けるということです。
悪い、困ったとばかり言う前に、じっと静かにすべてを考え直してみることです。
〔一九七六〕
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