33報酬と地位社員がその地位に見合うだけの見識・適性がはたしてあるかどうか。それを見極め、さばいていくことが、経営者に課せられた大きな責任である。 ――先代から引き継いだ幹部社員が数人いて、どうしても彼らの古い価値観にもとづく意見に左右され、思い切った手が打てないでいます。辞めてもらおうかと思ったこともありますが、彼らの功績を考えるととてもその勇気がもてません。彼らの処遇について、どのように考えればよいでしょうか。松下 あなたより、もっと年のいった、商売でもあなたより先輩の人がたくさんおられるわけですね。だからあなたは、ちょっとものを言いにくいのでしょう。どうしても遠慮せななりませんね。そこに私は問題があると思うんです。 結局、適性のない者に対しては、「きみは適性ないぞ」と言う。これは言いにくいですけどね、けれどもそれを言わずして、いい方法は生まれないでしょう。 フォードの二代目はそれで困ったんですね。フォードの先代は自分で一所懸命やって大をなした。ところが先代が死んでしまって、二代目になったわけです。二代目は若いですね。そして大きな部隊のフォードを維持しているのは、みな先代が使って功労のあった人ばかりなんです。その人たちが経営幹部としてトップに立ったわけです。 その結果、どうなったかというと、非常にフォードは後れをとったんです。やはり、時代とともに新しいもの、新しい考えが、その会社に必要であったわけです。 先代の部下として育った人は年がいってしまった。しかし功労ある人だからその衝にあたっておった。その人たちががんばっているから、新しい競争会社に次々に負けてしまった。これがフォードの踏んだ過程の最も顕著な例なんです。 それで二代目か、あるいは三代目になったときですか、非常に困りまして、懊悩煩悶したわけです。しかし、これは捨てておけんということで、若き人々を採用して、古い人たちに対しては、礼を厚くして辞めてもらうとか、礼を厚くして違った仕事をしてもらうとか、重要なポストを替えたわけです。そしてフォード二世みずからも先頭に立って、新知識をもってやったわけです。それでグーッともち直して、今日の地位を得ていると思うんです。 この話を私は聞いたんです。これはアメリカにおいても会社がこうなったんですから、アメリカでも非常にむずかしい。まして日本であったらなおむずかしいですね。それをあなたがどうさばいていくかということは、あなたに課せられた非常に大きな責任ですな。 そういう場合、私はやっぱり一つの拠点というものが必要だと思うんです。拠点とは何かというと、何が正しいかということですね。 そうすると、あなたのご商売は、あなたの店のものであるか、あなたの店のものであると同時に社会のものであるかどうか、お得意先のものであるかどうか。公共性をどれほどあなたがおもちになるかということによって、その決心はできるはずですよ。私はそう思うんです。 たとえば、商売がまったく自分のものであるならば、それはどうやってもいいわけです。しかしこれは公共的なものである、〝私〟の企業といえども本質は社会公共の仕事であると、こうお考えになれば、そこに勇気も出てきますね。改革も出てきますね。私はそういうところにポイントをおいてお考えになれば、自然に道ができてくると思います。情誼なり功労はそれとして認めて、そのうえでやっぱりやる方法がありますね。 西郷隆盛は非常にいい遺訓を残しているんです。それは、国家に功労のあった者には禄を与える、しかし地位は別だ、というんですね。地位は、その地位にふさわしい見識のある者に与えないといかんというんです。 これが西郷隆盛の国家観であると同時に管理観ですね。私はお互いがもっと参考にせねばならんと思います。いま西郷隆盛の教訓を、あなたはいっぺんお味わいになったらいいと思う。私は西郷隆盛という人は偉いと思うのです。〔一九六三〕
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