事業承継は、ある意味で経営者にとって、最後の大仕事といえるでしょう。
ちなみに、承継とは「先人の地位・事業・精神などを受け継ぐこと」。
継承は「先人の身分・権利・義務・財産などを受け継ぐこと」で、多少、意味が異なります。
会社や事業を次世代に受け継いでもらうことは「承継」に当たり、法律用語や税制でも「承継」が使われています。
会社の承継は後継者に「経営」、つまり、人、資産、知的資産の3つの要素を受け渡すことです。
中小企業の場合は、こうした要素や事業のノウハウ、取引先との信頼関係などすべてが経営者に集中しているケースが多いことから、承継には十分な準備期間をとることが必須。
通常 5 ~ 10年ぐらいの期間を考えておくべきでしょう。
承継を成功させるためには、できるだけ早く、遅くとも 5 ~ 10年前には「後継者」を選択しておく必要があるということです。
才能や適性がないのに、無理に承継させると悲惨な結果になることがあるので、十分、見きわめて適切な人事をすべきです。
間違った承継をすると、社員や社員の家族までも不幸にしてしまう結果になります。
❖増えている女性の後継者。
なかには外国人の後継者もいる ところがその後継者が圧倒的に不足しているという、もう1つの悩みがあります。
東京商工リサーチの調査によれば、 2017年は中小企業の「人手不足型倒産」が従来の 2倍にものぼっており、なかでも目立っているのが「後継者不足」だといいます。
帝国データバンクの調査でも、 3分の 2近くの中小企業が「後継者不在」と答えているという結果が報告されています。
その背景には「後継者は息子」と考えている社長がまだまだ多いという事情が隠れているのではないでしょうか。
私のところに見える中小企業の社長もほとんどが「息子が継いでくれない」とか「うちは娘しかいないので養子をとらないと後継者がいない」などと口にされるのです。
最近は雇用に関して「ダイバーシティ」の重要性が声高に叫ばれているのに、なぜか、後継者は「息子」と限定してしまうのです。
もっと頭を柔軟にして、発想の幅を広げることが求められていると気づくべきです。
不動産大手の森トラスト株式会社、森トラスト・ホテルズ&リゾーツ株式会社の社長は女性。
二代目社長の長女だそうです。
二代目社長には息子さんも 2人いますが、諸事情で長女が承継することに。
父の先代社長は「不動産業界は男の世界といわれてきましたが、かえって希少価値があっていいんじゃないか」とコメントしています。
ほかにも、精密部品メーカーを率いる女性社長もいれば、花火製造会社を引き継いだ女性社長もいます。
さらに視野を広げれば、アメリカ人の老舗の温泉宿社長もいます。
この旅館の娘さんと結婚した縁で社長に就任したそうです。
このアメリカ人社長は、この温泉地の旅館の多くが鉄筋コンクリートのホテル形式に建て替えるなか、あえて古びた木造建築を残し、日本の伝統文化を集中的に体験できる宿であり続けることを選択しています。
その結果、いまではこの宿の宿泊客の 10%は外国人。
外国人社長だからこそ、思いついた戦略が当たったのです。
ある社長から、「息子と娘があり、息子は非常にいい子だがおとなしい。
娘は商売人でなかなか才覚がある。
どちらに継がせるか迷っている」と相談されたことがあります。
私が、「実際に会社の経営に対して、どちらが強い関心をもっているのでしょうか」と尋ねました。
答えは、いうまでもなく「娘でしょうね」でした。
そこで、私の顧問先にも女性経営者が増えていること。
その多くは真面目で、真摯に仕事に取り組み、まわりからも信頼され、事業を拡大しているとお話ししたところ、深くうなずいて帰っていかれました。
❖後継者には早期に代表権を与えない 後継者は親族でなければならないわけではありません。
社員のなかから、社長の思いに共感し、会社に対する思いの熱い人を次の社長候補にする選択肢もあるでしょう。
しかし、単に昇格させるのではなく社長にする。
するとその瞬間から、会社が抱える負債の個人保証を迫られるという新たな負担が生じることになってしまいます。
私の顧問先でも才能のある社員が後継者に適任でした。
しかし、個人保証の問題があり、家族と相談して、断ってきました。
そのようなことがあり、会社を売りたくなくても M& Aで会社を売却するという選択肢を選ぶ社長も少なくないのも現実です。
そうした課題をクリアするためにも、親族であれ、親族外の誰であれ、承継する前に、経営状況や経営資源などを健全な形に整えておくことが非常に重要な課題になります。
いずれにしても、事業承継に当たって、後継者に早期に代表権を与えないほうがいい、と私はアドバイスしています。
どの業態、どの市場でも、これまでより、これからのほうがずっと厳しくなると考えなくてはならない時代です。
現社長の目から、後継者として本当の覚悟があるかどうか、しっかり見きわめる必要があると考えましょう。
ある機械会社の社長は息子に全権を渡した後も代表権を与えていません。
息子には荷が重すぎるかもしれない。
本当に経営者として全責任を負っていく
覚悟があるかどうか。
それは、自分が亡くなったときに決心すればいいと考えているからだというのです。
息子などが役員に入っていると、会社の財務状態が悪くなったとき、銀行は支援の条件として、息子などの個人保証を求めることもあります。
私が 140億円の借金を背負ったのはまさにそのケース。
息子である私に 140億円の個人保証を求められたのです。
▼後継者問題はかなり深刻。
幅広い対象から最適の選択をすると同時に、経営状況を改善しておくことが重要な課題。
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