はじめに経営コンサルタントとして独立したとき、いくつかの目標を立てました。そのうちのひとつが、本を百冊書くことでした。本書がその百冊目になります。百冊目にふさわしく、この二十年のわたしの経営コンサルタントとしての経験を集約し、経営の本質、原理原則、経営者としての正しい考え方や生き方とはどういうことなのかをお届けしたいと思います。「社長の心得」と題しました。仕事柄、わたしの周りには経営の現場や現象がたくさんあります。毎日、膨大なサンプルの中に生きているようなものです。人生の師匠である曹洞宗円福寺の故藤本幸邦老師から「小宮さんの仕事は、多くの人の経験を集約することだね」と言われたことがありますが、まさにわたしの仕事は、その現象を集約し、その裏にある本質を見つけ出すことです。そして、経営者の方が道に迷いそうになったとき、いつでもそこに戻って来られるような原理原則を示していくことです。わたしは、いくつかの会社の顧問や役員のほか、会員の方向けのセミナーを年に六回開いています。基本的には、毎年、同じ話をします。でも、長い方は、もう十五年も毎回聴きにいらしています。セミナーでは、現預金はどのくらい持たないといけないかなどの話もしますが、中心は経営の原理原則、そして、経営者としての姿勢、生き方についてです。聴きにいらっしゃる方も、それを求めていらっしゃいます。定期的に聴いて、ご自分の経営者としてのあり方が正しい方向を向いているか、ずれてきていないか、チェックなさっているのだと思います。本書は、そのセミナーのような役目を持つものです。つまり、経営の原理原則、経営者としての姿勢、生き方の基準を示したものです。折に触れて、いつでも読み直していただけるよう、そして、毎回なんらかのヒントを得ていただけるよう、本質や原理原則を説きながら、できるだけ簡潔に、まとめたつもりです。セミナーでは、最新の日本経済の話もします。環境変化を読み取ることも経営者にとってはとても大切なことだからです。そして、みんなで日本をもっと良くしていきましょう、と話します。というのも、わたしは、この国を良くしていくうえで、もっとも力を発揮するのは、日本に二百万以上ある会社の、それぞれの経営者だと思うからです。経営者が良くなれば、会社が良くなる、会社が良くなれば、日本が良くなります。だから、経営者は、日本を良くする要、根本なのです。経営者の方には、そして、将来、経営に関わりたいと思っている方にも、まずは経営者としての正しい考え方や生き方、経営の原理原則を身につけ、自分の会社を良くして、日本を発展させる、そういう志を持っていただきたい、自分はそのための「経営者のコーチ」だと思って、この仕事を続けています。わたしのセミナーには、息子を後継者として教育してほしいと、現社長である親が送り込んでくる場合もあります。残念ながら、自発的に参加する若い後継者はあまりいません。そして、正直言って、創業社長や自らそれを目指す人たちと比べると、手間がかかります。周りからちやほやされて育ってきた人が多いからです。でも、そんなかれらも一年もすると、目つきが変わります。経営者としての心構えができてきます。ある意味、わたしの仕事は、経営者の生活指導員、ちょっと厳しいレッスンプロのようなものであるのかもしれません。さて、本書では、まず、序章で、「良い会社とは何か、社長の仕事とは何か」を定義し、次に、第 1章で、「社長と社員の基礎力を高める」方法、第 2章では、「社長が持つべき仕事観」、第 3章では、「社長が知っておくべき人材育成の要諦」、第 4章では、「社長としての人物力」、を述べ、全九十五項目を挙げました。お気づきのように、財務諸表の見方とか経営戦略の立て方などの項目はほとんどありません。それらは一度勉強すれば、あとは実践のなかで身についていくことだからです。もちろん、数字を読むにも原理原則はありますし、本書でも取り上げていますが、それらは、実は、社長にしかできないことではありません。場合によっては、他の役員に任せることもできます。社長には、社長にしかできないことがあります。それが、社長としての正しい考え方であり、正しい生き方です。経営や人生の原理原則を守ることです。それらが間違った方向を向いていると、戦略立案もマーケティングもリスクマネジメントも人材育成も、すべてが間違った方向
に増幅して進んでいってしまいます。大きな悪い会社ができあがっていきます。そして、結局最後は、消えていくのです。それは、わたしが「目的」とすることではありません。本を百冊出すと、二十年前に周囲に宣言したとき、みんな苦笑していました。そんなことできるわけないと。それが、思ったより早く、その目標を達成することができました。これも、お客さまや読者のみなさまのおかげです。この場を借りて、お礼申し上げます。でも、「目標」は「目的」ではありません。わたしの目的は、わたしの関わった経営者の方に、良い会社をつくっていただくことです。そうして、その会社が提供する商品・サービスを手にするお客さまに幸せになっていただくことを通じて、経営者も、その会社で働く従業員の方にも、幸せになっていただきたい。そして、そういう会社がひとつでも多く増えることによって、この国日本が良くなることに貢献すること。それが、わたしの人生の目的であり、使命だと思っています。本書もまた、わたしの「使命」から世に出させていただくこととしました。あなたの「経営のコーチ」として、あるいは、「生活指導員」として、あるいは、「レッスンプロ」として、永くお手元においていただければ幸いです。小宮一慶
目次序章良い会社とは何か?社長の仕事とは何か? 1良い会社を定義する 2良い会社の要件 ① 3良い会社の要件 ②─1 4良い会社の要件 ②─2 5良い会社の要件 ③ 6利益とは何か ① 7利益とは何か ② 8社長の仕事 ① 9社長の仕事 ② 10社長の三つの時間 11事業を定義する ① 12事業を定義する ② 13小さくなる能力を持つ 14財務諸表で会社の状況を知る 15月末には預金残高を確認する 16常に余裕を持つ第 1章社長と社員の基礎力を高める 17働く人の基礎力を高める 18並の人をスーパーマンに育てる 19お客さま第一を仕組み化する 20環境整備の徹底が企業を変える 21工夫がさらなる工夫を生む 22目的と成果を間違わない 23お客さま第一の本質は何か? 24お客さまが求めているものの優先順位 25ビジョンを体現する第 2章社長が持つべき仕事観 26仕事に対する思い込み 27仕事に対するモチベーションを阻害するもの 28成功する人の仕事観 29そもそも仕事は何のため? 30モチベーションより働きがい 31社会貢献 32数字は結果
33目的と目標 34数字を目的化させない 35数字に対する社員の意識 36論語と算盤 37商道の真ん中 38営業活動とは何か? 39営業会議で共有されるべきこと 40潰れる会社、踏ん張る会社 ① 41潰れる会社、踏ん張る会社 ② 42会社が社員に求めるべきもの ① 43会社が社員に求めるべきもの ② 44詰めを怠らない ① 45詰めを怠らない ② 46詰めを怠らない ③第 3章社長が知っておくべき人材育成の要諦 47人材育成の基本 ① 48人材育成の基本 ② 49良いところを見つける ① 50良いところを見つける ② 51適材適所 52褒めることとおだてること 53進歩の徹底 ① 54進歩の徹底 ② 55進歩の徹底 ③ 56規律の中の自由 ① 57規律の中の自由 ② 58規律の中の自由 ③ 59仕事の基本の徹底 ① 60仕事の基本の徹底 ② 61生き方を教える 62行動の結果で評価する 63教育より採用第 4章社長としての人物力 64社長が語るべき三つのこと 65理念を語る ① 66理念を語る ②
67理念を語る ③ 68理念を体現する ① 69理念を体現する ② 70理念を体現する ③ 71現場を語る ① 72現場を語る ② 73夢を語る 74プロ集団をつくる 75努力し続ける 76会社を経営する目的 77会社を潰す社長 ① 78会社を潰す社長 ② 79会社を潰す社長 ③ 80会社を潰す社長 ④ 81会社を潰す社長 ⑤ 82公私混同の基準 83カリスマ社長の限界 ① 84カリスマ社長の限界 ② 85カリスマ社長の限界 ③ 86社長の器 87長く成長し続ける会社の社長の条件 ① 88長く成長し続ける会社の社長の条件 ② 89長く成長し続ける会社の社長の条件 ③ 90長く成長し続ける会社の社長の条件 ④ 91長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑤ 92長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑥ 93長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑦ 94社長の信念 ① 95社長の信念 ②
序章 良い会社とは何か? 社長の仕事とは何か?
1 良い会社を定義する良い会社とは何かを知り、常に意識していくことが、良い会社にする第一歩である。
経営者が良くなれば会社は良くなります。経営者で会社は決まります。良い会社をつくるためには、まず、良い会社とは何かを知り、理想像を持って、それを経営方針の根底に置くことです。「散歩のついでに富士山に登った人はいない」のです。では、良い会社とは何か?それは、次の三つの要件を満たす会社です。 ① お客さまに喜ばれる商品・サービスを提供して社会に貢献する会社。 ② 働く人が幸せな会社。 ③ 高収益の会社。これらが同時にすべて揃っている必要があります。どれかひとつでも欠けていては、良い会社とは言えません。
2 良い会社の要件 ①会社は、お客さまが喜ぶ商品・サービスを提供することで、社会に貢献し、存続していくことができる。
良い会社の要件の最初は、「社会に貢献する会社」であることです。会社が社会に対してできる最大の貢献は、事業そのものが商品やサービスを通じてお客さまを喜ばせ、社会に対して付加価値をもたらすことです。本業から得た利益の一部を、直接的に社会貢献事業に充てる会社もありますが、本業そのものが社会貢献になっていることが先決です。それでこそ、社会での存続が許されます。具体的には、良い商品・サービスを適正価格で提供することです。すなわち、お客さまが喜ぶ商品・サービスです。お客さまは、それに価値を感じれば、喜んで対価を支払います。さらに言えば、 Q(クオリティ)・ P(プライス)・ S(サービス)で、他社との差別化が明確にできていることです。この Sは、そのものが商品となっている場合のサービスではなく、営業時間の工夫や対応の良さなどの「その他」の要素です。
3 良い会社の要件 ②─1働く人の様子を見れば、良い会社かどうかが分かる。お客さまと同時に、働く人も幸せにすることが大切である。
「働く人が幸せであること」もとても大切なことです。どんなにお客さまが喜ぶ商品・サービスを提供している会社であっても、働く人が幸せでない会社は良い会社ではありません。働く人を犠牲にしてはいけません。 会社は、働く人を幸せにするものでなければ、存在意義がありません。わたしの人生の師匠の故藤本幸邦老師は、「経済も政治も、人を幸せにするための道具だ」と断言されました。会社も同様です。ドラッカーも同様の意味で「人を活かす」ことが大切だと言っています。社会はそれを構成する人のためにあるからです。働く人が生き生きとしているかを見れば、良い会社かが分かります。良い会社の社員の表情は明るく、何事にも前向きです。
4 良い会社の要件 ②─2会社が働く人に与えることのできる幸せの第一は、働くことそのものから得られる幸せである。
会社が働く人に与えることのできる幸せは二つあります。 まず、働く幸せ、働くことそのものから得られる幸せです。お客さまやともに働く仲間、ひいては社会に喜んでいただく喜び、そして、自分が仕事を通じて成長する喜びです。これが第一です。そして、次が経済的な喜び。この順番を間違えてはいけません。働くことそのものに喜びや感謝の気持ちを持ち、仕事を通じて「自己実現」をする幸せを、会社は社員に感じてもらうことです。そのためには正しい経営を行わなければなりません。そして、そのような会社は繁栄しますから、社員にも適正な配分を行えば、経済的幸せを感じてもらえるのです。
5 良い会社の要件 ③高収益企業であること。これは、良い会社に必須の要件であり、利益率は、良い会社であるかどうかを客観的に知る指標である。
良い会社の要件の三番目は、「高収益企業であること」。どんなに社会に貢献するサービスを提供していたとしても、あるいは、社員が幸せでも、収益が上がらないのであれば、良い会社とは言えません。そもそも会社の存続がむずかしくなります。本来、先の二つの要件が本当に満たされていれば、高収益になるはずです。すなわち、高収益企業であることは、先に挙げた二つの良い会社の要件の結果です。と同時に、その二つが満たされているかどうかを客観的に測る指標とも言えます。では、どの程度の利益率なら、高収益企業と言えるのでしょうか?業種によっても異なりますが、付加価値(売上高から仕入れを引いたもの)に対する営業利益率が二十%以上あれば、高収益企業と言ってよいでしょう。
6 利益とは何か ①利益は、お客さま、働く人、会社、社会を良くするためのコストであり、良い仕事をしている結果であり、評価である。
利益とは、未来に働きかける手段です。利益によって、人材を育成し、働く人の待遇を改善し、設備投資をすることは、働く人や会社の未来を良くするための手段です。利益により、新しい商品開発をすることは、お客さまの未来の生活を良くするための手段です。利益の一部を税として社会に還元することは、社会の未来を良くするための手段です。株主に還元するための手段でもあります。すなわち、利益とは、お客さま、働く人、会社、社会を良くするコストです。さらには、利益は、「良い仕事」をしているかどうかの尺度です。「良い仕事」とは、 ①お客さまが喜ぶこと ②働く仲間が喜ぶこと ③工夫です。社会から資源を預かっている以上、社長には適正な利益を出す義務があります。不正な手段から利益を得ることは論外ですが、利益なくして社会の発展も働く人の幸せもありません。どんな会社も高収益企業を目指さなければなりません。
7 利益とは何か ②利益は、「目的」ではなく「目標」である。
利益を出すのは、社長や会社の義務ですが、それを「目的」にしている企業は働く人が疲弊しています。利益はあくまでも「目標」です。目的とは最終的に行きつくところや存在意義です。何のために会社が存在しているかの根本的なことで、「ビジョン」や「理念」に表現されているものです。良い商品やサービスでお客さまや社会に貢献し、働く人を幸せにするのが、企業の存在意義です。株主に貢献するのも存在意義です。利益にこだわらなければならないのは、それが、「良い仕事」をしているかどうかの尺度であるとともに、社会や働く人を発展させる手段だからです。「利益のため」ではなく、「利益が出るくらい」の良い仕事をしなければならないのです。藤本幸邦老師は「お金を追うな、仕事を追え」とおっしゃいました。良い仕事をまず優先しろということです。常に「良い仕事」を追求し、その結果、高収益企業をつくるのが、社長の仕事です。
8 社長の仕事 ①社長は、遠い将来を見据えて、環境の変化を予測し、会社の方向づけを行う。
社長は根本的には、次の三つを行わなければいけません。 ①会社の方向づけ ②資源の最適配分 ③人を動かすこれらのすべてについて、未来を見据えて行っていく必要があります。環境の変化の兆しを常にとらえ、将来の大きな変化を予測し、それに向けて会社を変化させていくのが、社長の仕事です。社長は常に、世界経済の大きな動きと社会の変化をとらえ、それに基づいて、中長期的な会社の方向づけを行います。部下は、短期的な動向には対応してくれるかもしれませんが、中長期的な方向づけは社長以外に行う人はいません。そのためには、常に、素直で謙虚な姿勢で人の話や新聞や本から、活きた情報を取り入れていくことが必要です。
9 社長の仕事 ②良い会社には必ず、しっかりとした理念があり、それが徹底されている。そして、社長がそれを「指揮官先頭」で実践している。
社長が行う「会社の方向づけ」は、事業戦略に関することだけではありません。もうひとつの重要な方向づけがあります。それは、理念です。行動指針やモットーと言ってもいいでしょう。わたしのあるお客さまの会社の玄関には大きな額が掲げられ、そこに、「凡事徹底」と書かれています。当たり前の事を徹底する、という意味です。その理念に従い、その会社では、海外展開を積極的に行いながらも、一方で、小さな凡事を大事に徹底し続けているのです。業績を伸ばし続ける会社には必ず、しっかりした経営理念があり、それが社内で徹底されています。そうした「正しい方向づけ」で、人を育て、動かしているのです。そのためには、社長自らが、先頭に立って、その理念を実践していかなければなりません。「指揮官先頭」です。
10 社長の三つの時間現状維持と問題解決に費やされる時間のどれだけを、新しいビジネス機会の追求に充てられるかで、会社の成長と将来が決まる。
社長の仕事の時間は、次の三つに大別されます。 ①機会追求の時間 ②現状維持の時間 ③問題解決の時間いうまでもなく、社長は、 ①の機会追求にもっとも多くの時間を費やすべきです。しかし、現実には多くの社長が、現状維持と問題解決に追われています。現状維持は、現実的には当面のキャッシュフローを生み出す場ですからとても重要ですが、場合によっては部下に任せられます。意図的に、機会追求の時間をとっていくことが必要です。現状の事業の拡大も機会追求に入ります。問題解決の時間こそ、時間の浪費です。そもそも大きな問題が起きないよう、事前に察知し、小さいうちに解決できるよう、ふだんから現場を注意深く見るのと同時に、風通しの良い社風や仕組みをつくるのも社長の仕事です。
11 事業を定義する ①自社が社会に対してできる「独自の貢献」を考える。お客さまは「相対的に」他社と見比べている。ライバルを常にチェックせよ。
ドラッカーは、事業は次の三つで定義するようにと言っています。 ①目的(何のためにそれをやるかという使命・志) ②市場 ③自社の強みそして、この三つが重なったところで事業を定義しなさいと言っています。自社の強みについてはさらに、「独自の貢献」という言い方もしています。社会が必要としている商品・サービスについて、自社にしかできないことは何か? を考えるのです。 Q・ P・ Sでの違いをつくり出すのです。必ずしも最高品質の商品を提供することだけが社会への貢献ではありません。同じ品質のものが他社より安く提供できる、他社は絶対やらないような場所で提供する、どこよりも速く提供できる、ということも、独自の貢献です。そのためには、常にライバルの Q・ P・ Sをチェックしていなければなりません。そして、自社の強みを見つけたら、それを圧倒的な強みに育てることです。
12 事業を定義する ②社長も社員もお客さまもワクワクできる高収益の事業を行う。
ドラッカーの定義は事業を考えるときの基礎ですが、一方、『ビジョナリー・カンパニー ②』では、飛躍的に伸びた会社に共通する事業は、次の三つの円が重なるところにある、と言っています。 ①世界一になれる分野 ②経営者も含めて、働く人がワクワクすること ③経済的原動力になること「世界一」については中小企業では「小さな日本一」を目指すことからスタートするとよいでしょう。そこで高収益を生み出し、経済的原動力とするのです。そして、次に、ワクワクする事業。経営者も働く人も、またお客さまも社会もワクワクするようなビジネスです。そのような会社では、常に社内に自発的な「工夫」が生まれ、「良い仕事をすること」が自然に目的になります。だから、飛翔し続けるのです。みんなで「ワクワク」する会社にできたら、最高です。
13 小さくなる能力を持つ会社は、「小さくなる能力」を持たなければならない。
会社は環境変化に応じて、「小さくなる能力」を持たなければなりません。会社は大きくなり過ぎて潰れることが少なくないからです。危険なのは、設備投資などの過大投資による固定費の増大です。景気後退などで売上高が大きく減少したらどうなるか。そんなときでも自己資金で賄っていれば損を出すだけですみますが、借り入れで賄っていると倒産の危機に瀕します。小さくなる能力を得るには、まず外注を活用することです。調子の良いときには自社ですべてを行ったほうが儲かりますが、そんなときも、利益率を多少下げてでも外注にしておいたほうが安全です。いつでも確実に売れる分だけを自社で扱うべきです。高収益企業を目指しつつも、安全性の確保を優先させなければならないのです。さらには、 M& Aで部門を売却できるかも考えておかなければなりません。他社に任せたほうがうまくいくことも少なくありません。そのためには、各部門が常に自立している必要があります。
14 財務諸表で会社の状況を知る社長は自社の財務諸表で「安全性」「収益性」「将来性」を常にチェックしていなければならない。
財務諸表から、「安全性」「収益性」「将来性」を常にチェックしておくのも社長の仕事です。まず、貸借対照表から「安全性」を分析します。この際に、お金に近いところから見るのが大原則です。会社はお金がなくなったときに潰れるのです。第一は「手元流動性(すぐに資金化できるお金が月商の何ヵ月分あるか)」です。これが心もとない場合には、すぐに資金調達をする必要があります。次に「流動比率(流動資産 ÷流動負債)」。さらには、中長期的な安定性を表す「自己資本比率(純資産 ÷資産)」です。自社にとってのこの適正値を把握することは社長にとっては絶対に必要なことです。この適正値を切らせない経営が必要です。さらには、損益計算書やキャッシュフロー計算書から「収益性」や「将来性」を分析します。他社との比較も必要です。社長には、財務諸表のつくり方は必要ありませんが、どこかで一度、きちんとその読み方を学んでください。
15 月末には預金残高を確認する社長は、月末には預金残高を確認しなければならない。
銀行員時代に「現預金はうそをつかない」ということを習いました。現預金の残高はその会社の状況を如実に表しているのです。どれだけ架空の売上げや利益を計上したとしても、それが現預金に反映されることは絶対にありません。ある会社で、財務担当者が資金ショートを起こしそうだと社長に報告したところ、「営業部長からは売上げが上がっていると報告を受けている」と反論されました。実は、営業部長は社長を恐れて、見込み分までを売れたと報告していたのです。社長がもし預金残高を毎月把握していれば、うそは見抜けたはずです。預金通帳をチェックすることは不正防止にもつながります。ハンコを預けるなどは論外ですが、「いつも社長は通帳を確認している」と思えば、経理担当者の思わぬ出来心を防げます。そして、何より、会社はお金がなくなったときに潰れます。必要な手元流動性を確認する意味でも預金の確認は必須です。大会社でも、通帳までは見なくても、社長は預金残高を確認しなければなりません。
16 常に余裕を持つ常に、ヒト、モノ、カネに余裕を持った経営を行う。
松下幸之助さんは「ダム経営」を行いなさいとおっしゃっています。ダムに水が貯まっていると、日照りの日が続いても、下流に安定して水を供給できるように、企業も、少し余裕を持った経営を行うことが大切だということです。とくに、お金の余裕は必要です。時間の余裕も必要ですが、時間はお金によって買うこともできます。もちろん、効率性を追求することは大切です。ただ、それをあまりにギリギリまで行うと、少しの環境変化にも耐えられなくなります。とくに、ギリギリまで設備投資などで使っていると、急な売上げの減少などに耐えられなくなります。企業はお金がなくなったときに、即座に倒産の危機に瀕します。赤字のときではありません。手持ち資金をすべて使わずに、ある程度をいざというときのために貯えておくことです。お金や時間の余裕をなくしたときに、経営者は判断を誤りがちです。常に、余裕を心がけるべきです。一方、中小企業では、人と設備の余裕にも気をつけていないと、いざというとき、すぐに事業に支障をきたします。
第 1章 社長と社員の基礎力を高める
17 働く人の基礎力を高める中小企業では、お客さま第一のために、働く人の「基礎力」を高めることが重要。
高い収益を上げる大企業の多くでは、必ずしも挨拶や環境整備が一人ひとりの社員に徹底しているわけではありません。朝礼をやっていない優良企業もあります。それでもなぜ高収益を上げているのでしょうか? それは、お客さまが望む商品やサービスを提供する「基礎力」がある人を多く採用しているからです。中小企業では残念ながら働く人の基礎力が一流企業ほど高くない会社が少なくなく、まず基礎力を高めることが求められます。そのために、挨拶、お客さま対応サービス、環境整備などの「小さな行動」を徹底するのがいちばんなのです。業種によっては、それらが収益に直結する会社もありますが、間違えてはいけないのは、基本的にはそれらはすべて、社員の基礎力を鍛え、お客さまが求める商品・サービスを提供できるようにするためのものだということです。ほとんどの会社では、挨拶や対応サービス、社内の環境整備そのものがお客さまが求めるものなのではなく、お客さまが求める商品・サービスを生み出していける社員を育てるために徹底すべきことなのです。
18 並の人をスーパーマンに育てるお客さま第一の「小さな行動」や環境整備は、社員の基礎力を上げる最良の方法である。
新卒社員の入社時の基礎力のレベルは、それまでどのように生きてきたかによってかなり異なります。誤解を恐れずあえて言えば、やはり一流の大企業にはすでに基礎力、とくに思考力の高い学生が集まりやすく、入社後は、同レベルの社員間の激しい競争により、さらに基礎力や現場での対応力が高まります。そのなかで、短期的にも中長期的にもお客さまが求める商品を開発し、提供していくことが可能になります。一方、とくに特色もない、有名ベンチャーでもないような中小零細企業には、そんなピカピカの学生はなかなかやって来ません。一流企業がもともとスーパーマン予備軍の集団なら、中小企業は、並の人をスーパーマンに育てなければならないのです。挨拶や対応マナーなどのお客さま第一の「小さな行動」や環境整備の徹底は、この「並の人をスーパーマンにする」ための、シンプルだけどもっとも効果のある方法です。
19 お客さま第一を仕組み化するお客さま第一の「小さな行動」の徹底が、離職率を低め、高収益企業をつくる。
徹底した電話応対や挨拶は、社員の基礎力を間違いなく鍛えます。それ自体が会社の業績を高めるわけではありませんが、結果として、それらが徹底されている会社の業績が良いのも事実です。それは、それらを徹底していく過程のなかで、「もっとこうしたら、お客さまに喜んでもらえるんじゃないか」といった、社員の自発的な「工夫」が生まれ、社員も仕事が楽しくなるからです。「工夫」を促し、定着させる「仕組み」ができあがるからです。わたしのお客さまのある自動ドアの施工販売会社では、わたしがよく言う「良い仕事」である ①お客さまが喜ぶこと、 ②働く仲間が喜ぶこと、 ③仕事の工夫、の三つについて、すべての社員が、 ①毎月、目標を立てる、 ②毎月、その結果を自分と上司が評価する、 ③担当役員、社長がコメントする、を繰り返すことにより、働く人も前向きで、若い社員が「会社に来るのが楽しい」と言う、しかも高収益の企業をつくりだしています。離職率も格段に下がりました。
20 環境整備の徹底が企業を変える環境整備の徹底によって、基礎力の高い従業員をつくる。
環境整備の徹底も、従業員の基礎力を高め、工夫する前向きの従業員をつくります。金閣寺のエクステリアや皇居二重橋の欄干など、多くの歴史的建造物の建造に関わってきた創業千二百年の鋳物製造会社は、事務所や工場の環境整備を徹底して行うことで、社員の基礎力を高めてきました。この会社では、「定量」「定位置」「定数」の「三定」を合い言葉に、不必要な物をなくし、かつ、必要な物がなくならないための工夫を徹底していきました。具体的には、机の引き出しの中に、ホッチキス、定規、はさみなどの形にくりぬいたウレタンフォームをしき、そこに備品を置くことなど、社内のすべてに「三定」の徹底的な工夫をしました。それにより、働く人の工夫力が高まり、前向きになりました。最近では一般家庭の高級門扉や郵便受けなども手がけ、業績を伸ばしています。何事も徹底と継続が結果を生み、社員もとても明るく前向きです。
21 工夫がさらなる工夫を生むお客さまに喜んでいただくための小さな行動や環境整備を徹底すれば、結果として確実に業績に結びつく。
お客さまに喜んでいただくための小さな行動や環境整備を、必ずしも業績に結びつけられずにいる会社が多いのは、それが徹底されていないからです。創業千二百年の鋳物製造会社の会議と懇親会に出て、ホテルに戻ったときのことです。「ウコンの力」と入浴剤、小さなお菓子が、社員の手書きのお礼状とともに届けられていました。さらに、その「ウコンの力」には、「 ○ ○会社ウコンの力〜これは特製のウコンの力です」と書かれたシールまで貼られていました。現場にこれほどの工夫ができる社員がいる会社の商品やサービスが、良くないわけがありません。お客さま第一主義とは、お客さまが喜ぶ商品・サービスを提供することです。商品・サービスがお客さまの求めるものであれば、社員に基礎力がなくても一時的には売れますが、お客さま対応や環境整備を徹底すれば、社員の基礎力が上がり、確実にお客さまの求める商品・サービスを提供する力を高めます。
22 目的と成果を間違わないお客さま第一の結果、売上げが向上するのであって、売上げのためにお客さま第一を行っても、うまくいかない。
お客さま第一を会社の隅々まで徹底していくのは、口で言うほど容易なことではありません。あるレベルまでやらないと結果は出ません。社員の基礎力が上がらないからです。それが、業績に結びつかない第一の理由です。お客さま第一が業績に結びつかないもうひとつの理由は、金儲けの手段として、お客さま第一を考えるからです。そういう会社は役員会に出ればすぐ分かります。重要なお客さまの名前を「さん付け」しない、そもそも「客」と言う等々。お客さま第一と言いながら、その実、金儲け第一の社風なのです。そういう会社の社員は、疲弊し、しらけています。お客さま第一を社内に徹底するためには、そのこと自体を「目的」にしなければなりません。儲けるための「手段」ではないのです。そして、社長がそれを心から信じて指揮官先頭で実践し、社内で徹底することです。社長の金儲けのためという目的が透けて見えるとき、すべてのお客さま第一の行動は形だけのものとなり、社員の基礎力にもなりません。
23 お客さま第一の本質は何か?お客さま第一主義とは、お客さまの喜ぶ商品・サービスを、開発し続け、提供し続けることである。
「お客さま第一」が言われるようになって久しく、そのために、電話などの応対マナーや挨拶の徹底、オフィスの掃除などの環境整備の徹底を行っている会社は、とくに小さな会社では少なくありません。わたしの会社でも、朝から皆で掃除と朝礼を行います。わたしは男性トイレの担当です。そして、実際、それらが徹底されている会社の業績は良く、業績の悪い会社は、おしなべてそれらが徹底されていません。しかし、ここで間違えてはいけないのは、対応マナーや挨拶、環境整備そのものは、お客さま第一そのものではないということです。これらはあくまでも、お客さまに喜ばれるための社員の「基礎力」を上げるためのものです。「お客さま第一主義」の本質は、お客さまが喜ぶ商品・サービスを開発し、提供していくことです。短期的にも中長期的にも、お客さまが喜ぶもの、それによって社会に貢献する商品・サービスを見極め、新しい需要をつくりだしていくことでもあります。「顧客の創造」とはまさにこのことです。
24 お客さまが求めているものの優先順位お客さまは、「商品・サービス」を買う。気合や精神論を買うわけではない。
以前、売上高数億円の会社のある社長を別のお客さま A社に、紹介しました。しかし、商談はうまくいきませんでした。理由は、訪問したその社長が、 A社の価値の本質を見抜けなかったからでした。というのも、その社長の目には、 A社は応対などでまったくお客さま第一がなっていない二流の会社に映ったからです。しかし、実際には A社は、最先端の特殊な技術力で世界を相手に売上高一千億円、純利益も百億円近くを稼ぎ出す超優良企業でした。そうした会社では、お客さま対応の優先順位は低くなることもあります。しかし、お客さまが求める商品開発は徹底しています。社員は徹夜してでもお客さまの求めるものを開発するのです。ライバル会社の製品の研究も怠りません。小さな行動の徹底は多くの会社で重要です。ただ、それは基礎力を高めるためであって、最優先順位でない場合もあるのです。そのための基礎力向上なのです。お客さまが求めるのは、あくまでも満足できる商品・サービスなのです。
25 ビジョンを体現する社長は、「歩くビジョン・理念」でなければならない。
社長の仕事の第一は、「正しい価値観を共有した組織をいかにつくるか」です。正しい価値観に基づく会社のビジョンや理念を徹底するには、社長が「何が何でも自分の目の黒いうちは、これを求め続ける、守り通す」と決めることです。そして、わずかでもぶれないように常に注意し続けることです。ぶれたら、すぐさま軌道修正しなければなりません。ときには、社員や幹部からの抵抗に遭うこともあるでしょう。それでも、守り抜く強い意志が必要です。そして何より、社長が自ら体現することが必要です。お客さま第一と言いながら、自分はゴルフばかり、良い仕事が目的だと言いながら、それを儲ける手段にして自分の贅沢に夢中になる社長には、社員はついて行きません。そのためには、社員に言い続け、自分にも言い続け、自ら実践していくことです。ある成功した経営者が、自社の理念を朝礼で読みながら、「自分に言い聞かせている」とおっしゃったことが印象的です。社長が「歩くビジョン」となるのです。
第 2章 社長が持つべき仕事観
26 仕事に対する思い込み社員のモチベーションアップに努めるより、働きがいを高めれば、人はもうやめておけというほど働く。
多くの会社が、社員のモチベーションアップのために多大な努力をしています。けれども、わたしは、それほどムダなものはないと考えます。たとえば、ディズニーランドのゲートをくぐって、さあ、モチベーションを上げよう! などと思う人がいるでしょうか? それなのになぜ、会社に行って仕事をするには、モチベーションアップが必要なのでしょうか?よく若い人に尋ねます。ディズニーランドに行くのと会社に行くのと、どちらが楽しいかと。皆さん、きょとんとします。会社がディズニーランドより楽しいはずがないと決めてかかっているのでしょう。仕事を辛いものだと決め込んでいるのでしょう。でも、働きがいを見つけると、会社はディズニーランドと同じように楽しいのです。そのためには、モチベーションアップを図るより、あなたと社員の仕事観を見直し、働きがいを高めることから始める必要があります。仕事で社会に貢献し、「自己実現(なれる最高の自分になること)」の楽しさを知ってもらうのです。
27 仕事に対するモチベーションを阻害するもの「仕事は楽しいからやるものではなく、生活のためにやらなければいけないもの」という仕事観が、モチベーションを阻害している。
ディズニーランドに行ってもモチベーションが上がらないときもあります。たとえば、お目当てのアトラクションがお休みになっているとき。二日酔いで本当は家で寝ていたいのに無理してやって来たとき。どうやら、モチベーションというのは、意図的に上げるものではなく、むしろ、それを阻害する要因を除去していけば、自然に上がるものだということが分かります。仕事についても同様で、本来、仕事は、仕事観さえ間違えなければ、それ自体モチベーションの上がる楽しいものです。にもかかわらず、モチベーションが上がらないのだとしたら、それを阻害しているものがあるからです。その筆頭が、「仕事は楽しいものではない。楽しくないけれどやらなければいけないもの、生活のため、お金のためにやるものだ」という、そもそもの仕事観なのです。一流の人は生活のために仕事をしている比率はとても小さい、という事実に気づくべきです。「良い仕事」をして、その結果として稼げば稼ぐほど、生活のために働く比率は下がります。
28 成功する人の仕事観仕事は楽しい、仕事自体が生きるモチベーションだ、と考えている人が成功する。
仕事は、確かに楽なものではないかもしれません。けれども、まったく同じ仕事をしていても、楽しんで行っている人と、お金のために我慢して行っている人がいるのもまた事実です。そして、世の中には、仕事は楽しいものだ、仕事それ自体が生きるモチベーションだ、と感じている人は多数ではないかもしれませんが存在します。成功者の多くがそうです。かれらは、成功したからそう思えるのではなく、そう思っていたから、成功したのです。会社は、モチベーションアップの研修をする暇があったら、社員の仕事観を変えていく工夫を考えるべきです。そのためにも、良い商品やサービスを社会に提供するという、真の「お客さま第一」を目的として実践しなければなりません。社長がそれを先頭に立って行っている必要があるのは言うまでもありません。
29 そもそも仕事は何のため?お金のために働いている時間が短い人ほど稼いでいる?社員が仕事を楽しんで行うために何ができるかを考える。
わたしたちは、仕事はお金のために行うものだと考えています。しかし、それだけでは長期的な働きがいは出ません。全盛期のイチロー選手の年収は二十億円ぐらいだったと言われています。一試合出ても家族が一年間十分に暮らしていける収入です。かれは、お金のために働いていたのでしょうか?不思議なことに、お金のために働いている時間が短ければ短い人ほど、稼いでいます。お金のため、お金のため、と言っている人ほど実は稼げていません。──楽な仕事はないが、楽しい仕事はある。これは、本田宗一郎さんの言葉です。楽ではない仕事を、いかに楽しめるか? 社員が仕事を楽しむために、何をすべきか? それを考え、実行していくのも社長の仕事です。そして、仕事を楽しめる人のほうが、稼げるのも事実です。そしてもちろん、社長自身が、社長という楽ではない仕事を楽しまなければなりません。
30 モチベーションより働きがい社員に与えられる幸せは、「働く幸せ」と「経済的幸せ」であり、この順番を間違えてはいけない。
松下幸之助さんは、「働くことそのものの喜びを知らない人は不幸である」とおっしゃいました。働くこと自体の喜びを社員に分かってもらうことは、社長が従業員にできる最大の貢献とも言えます。それを知れば、従業員は一生幸せに精いっぱい働けます。もちろん経済的幸せも与えなければなりませんが、働く幸せが先です。それを知って「良い仕事」をする人が経済的幸せを得られるのです。では、どうしたらそれを伝えることができるのでしょうか?結論から言うと、「働きがい」を知ってもらうことです。自分の仕事の結果が、お客さまや職場の人に喜んでもらえる、地域社会と社会全体に貢献している、そして、自分も物心ともに豊かになると、実感できるようにすることです。実感できると、さらにそれをまたやりたいという動機づけになります。具体的には、お客さまが喜ぶ小さな行動目標を立てて、その結果を評価していく方法もよいでしょう。ただし、この場合、売上高や利益などの目標は二次的であることが重要です。
31 社会貢献社員にとっての最大のインセンティブは、自分が仕事を通じて、人に喜んでもらい、社会に貢献しているという手応えである。
社員のモチベーションアップのために、多くの会社がとる方法が、昇級、昇給、表彰、ボーナス、休暇など、何らかのインセンティブです。もちろん、それらも大切ですが、本物のモチベーションというのは、そうした外的要素ではなく、内側から湧いてくるものです。その内的要素のいちばんが、そもそもの仕事の意義です。そして、その仕事を行う共同体である会社の存在意義です。その会社の一員である自分の、社会や会社における存在意義です。それを具体的に実感してもらうことです。つまり、毎日、お客さま、働く仲間などに喜んでもらうことです。仕事がつまらなくなる人が口にすることは決まっています。「自分はいったい、何のために働いているんだろう?」自分の仕事が、お客さまや同僚に喜ばれ、それが社会にどんな貢献をしているのか? その意義が明確になり、実感できているとき、社員は、ディズニーランドと同じように会社も楽しい場であると感じるようになります。
32 数字は結果数字は、目的なのではなく、「良い仕事」の結果を検証するためのものである。
会社の経営においては、「数字」は非常に重要です。正確に言えば、常に、「数字でチェックする」ことが重要です。数字というのは、最終的には、売上げや利益ですが、それ以外にも部署ごとにさまざまな数値目標があると思います。ここで決して間違えてはいけないのは、「数字」はあくまでも「結果」であり、「目的」ではない、ということです。何の結果かと言えば、「良い仕事」の結果です。「良い仕事」とは、「お客さまが喜んでくれること」「周りの仲間が喜ぶこと」、そのための「工夫をすること」です。それがどの程度できているかを、数字でチェックするのです。その意味で数字は「良い仕事」の目標となり得ます。「良い仕事」をすれば、結果としてここまで数字は出るはずという目標です。もし、数字が目標に達していなかったら、「良い仕事」をしていない、または足りない証拠です。あくまでも、より良い仕事を追求し、数字をチェックしていくのです。数字のためでなく、数字が出るくらい良い仕事をしていくのです。
33 目的と目標「目的」と「目標」の違いを知る。
「目的」と「目標」は違います。これも間違えやすい点です。「目的」とは、会社の存在意義であり、個人の存在意義です。「目標」は、それを達成するための手段で、客観的に評価のできる形式のものです。売上高や利益率、シェアなどが、これにあたります。個人にとっても同様です。たとえば、わたしの存在意義は、関わるお客さまに成功していただくことです。目標はいくつかありますが、そのひとつが本を百冊出版することでした。本書がその百冊目になります。本を百冊出版するという目標は達成されましたが、わたしの目的は、まだまだ続きます。企業も同様です。目的は、商品やサービスを通じて、社会に貢献すること、働く人を幸せにすることなどのはずです。売上げや利益は目的ではなく、目的の達成度合いを表す目標であることをかたときも忘れてはいけません。社長がそれを混同したとき、会社はおかしくなります。
34 数字を目的化させない「お金を追うな、仕事を追え」。
「お金を追うな、仕事を追え」──この言葉は、わたしの人生の師匠、藤本幸邦老師に教えていただいたものです。売上げや利益そのものが会社の目的ではない、と分かっていても、実際に売上げ目標を立て、数字を競争し、数字で評価し……としているうちに、いつのまにか、売上げを上げることが会社の目的のようになってしまいがちです。そういう会社は、社員の様子を見れば分かります。疲弊しているのです。そうなればなるほど売上げは上がりません。たとえば、売上げが目的化している会社では、ノルマを達成してしまうと、どうせ来月もたいへんだからと、以後の売上げを来月に回したりします。しかし、お客さまに貢献することを目的とすることが社内に徹底されている会社では、もっと貢献しよう、もっとお客さまに喜んでもらおうとしますから、数字が達成したからといって終わりになることはありません。どちらが結果として、高い数値を達成するかは明らかでしょう。
35 数字に対する社員の意識数字のために働いているという意識を社員に持たせてはいけない。儲かっているときも、数字のゲームに興じてはいけない。
大事なことなので、何度でも言いましょう。数字で結果を出すことは重要です。ただそれは、良い仕事の結果です。あくまでもやっていることが正しいかどうかの評価やチェックのためのものです。そのためにこそ、数字にこだわります。いくら社長であるあなたはそう思っていたとしても、役員はどうですか? 営業部長はどうですか? 課長は? かれらもあなたと同じ意識でいますか?数字のために働いている、という意識を社員に持たせてはいけません。仕事は数字を上げるためのゲームではないのです。儲かっているときの数字のゲームは面白いのでつい興じてしまいがちですが、そんなときこそ要注意です。お客さまや社会はそんなことには何の興味もありません。仕事の意義を知らせるのです。あなただけでなく、すべての社員が、いつどんなときでも、その意義を共有できている会社にするのです。すなわち、あなたの会社が、社会に提供している商品やサービスの価値です。
36 論語と算盤長期的にビジネスを成功させる経営者は、普遍的な哲学を持っている。
『論語と算盤』、これは、渋沢栄一さんの著書の題名です。渋沢さんは、五百の営利企業と六百の非営利団体を設立し、そのほとんどを成功させたことで知られる明治を代表する実業家です。営利企業で有名なのは、現在のみずほ銀行、非営利団体の代表は、現在の一橋大学です。渋沢さんは、論語に精通することでも知られ、論語の考え方をもってビジネスを成功させました。論語と算盤(商売)が矛盾するものではないこと、むしろ、「基本的な考え方をしっかり持っていれば、ビジネスも成功させられる」ということを、身をもって示した人でもありました。かれの考え方は、松下幸之助さんや稲盛和夫さんらに継承されていきました。たとえば、稲盛さんは、成功は「能力」 x「熱意」 x「考え方」だとおっしゃっています。有名になる経営者は皆、かれらなりの哲学を持っているものですが、なかでも長期的に成功する経営者は、論語のような普遍的な哲学を持っています。
37 商道の真ん中社長は普遍的な哲学を生き方の根本に置き、それを会社の求心力にしなければならない。
わたしのお客さまのひとつに、埼玉県が毎年もっとも優秀な経営者に授与する「渋沢栄一賞」をとられた会長さんがいらっしゃいます。かれのモットーは、「商道の真ん中を行く」でした。正々堂々と、お客さまに良い商品・サービスを提供して、喜んでいただいて、その結果、その利益をいただく──まさに、商道の真ん中です。かれもまた、普遍的に長く人々に支持されてきた哲学を持っていたのです。お客さまも従業員も社会も応援してくれるような哲学を持っていたのです。そしてそれを建前ではなく、本気でやっていました。強い会社は、普遍的な哲学、つまり正しい考え方を求心力にしているのです。それはやはり、論語や仏教など長い間多くの人が信じてきた考え方です。自分だけが良ければいい、単に儲かればいいといったものでないことは明らかです。
38 営業活動とは何か?営業活動とは、お客さまが求める商品・サービスがここにあることを伝える「親切活動」である。
ダメな会社の営業会議には共通点があります。売上げが上がらない、それなら訪問回数を上げろ、営業マンを管理しろと、要するに、「数字を追え」と言うばかりの会社になっているのです。ドラッカーは、「目的を目標に落とし込む際、目標の最初は、マーケティングの目標だ」と言っています。数字はあくまでもその結果であると。さらには、本当に適正な商品やサービスがあれば、「営業活動をしなくてもいい」と。わたしは、営業活動とは親切活動だと思っています。お客さまの求める QPS(質、価格、サービス)はここにありますよ、と教えてあげる親切活動だと。したがって、営業会議で話し合われるべきは、自社の商品の QPSがどれだけ優れているか、ということであり、正しい営業会議とは、自社は他社に対して、どういう優位性を持っているのかを営業社員全員が十分理解する場なのです。優位性のない状況での営業活動など、お客さまに迷惑な押し売りでしかありません。
39 営業会議で共有されるべきこと営業会議では、自社の商品やサービスが広がることが世の中にどれだけ貢献するか、それを共有することが先決である。
もし、あなたの会社の営業社員が十分には営業活動をしていないと感じるとしたら、基本的にはかれらには、「自社の商品やサービスを買っていただくことがお客さまや世の中にどれだけ貢献するか」が分かっていないからでしょう。責任は、それを伝えていない社長にあります。管理を強めることは逆効果です。「言われたことだけやっていればいい」という体質を招きます。数字ばかり追いかける会社、使命感を忘れた会社になってしまいます。善し悪しは別として、宗教団体の人たちがあれほど熱心に勧誘に回るのは、それによって多くの人を救いたい、救えるはずだと信じているからでしょう。社長がまずすべきは、自社の商品によってどんな社会貢献をしようとしているのか、そこをもう一度、営業社員一人ひとりに伝えていくことです。そのためにはまず、お客さまから評価される商品やサービスを用意することが必要なのは言うまでもありません。
40 潰れる会社、踏ん張る会社 ①社員が会社に貢献しようと思っているうちは、会社は潰れない。
小泉政権時代、ある著名金融コンサルタントが「危ない会社 30社」というリストをマスコミに発表したことがありました。まったくの偶然なのですが、そのとき、連日でそのリストの中の二社の研修をすることになりました。最初の会社は、二十五人ほどの新任課長の研修でした。従来二日間で行っていたプログラムを、予算の関係で一日にした研修でした。人事部のはからいでプログラムの最後に、一人一分ずつ思っていることを話すセッションを設けました。そこでいちばん若い男性が立ち上がって言いました。「会社がとてもしんどいなか、こういう研修をしてもらってたいへん有り難い。今日は多くのことを学びました。会社に帰ったら、みんなで一人十人ずつに、今日学んだことを話しませんか? そうすれば二百五十人に伝わります。かれらがまた十人に話せば全社員の二千五百人に伝わります」それを聞いて、わたしは思いました。この会社は、生き残ると。人の底力があるからです。そして、実際、そうなりまし
41 潰れる会社、踏ん張る会社 ②最後の最後に、社員が踏ん張れるかで、会社の命運は決まる。
「危ない会社リスト」のもうひとつの会社の話をしましょう。もうひとつの会社で行ったのは、全国から四十人ほどの部長さんが集まる研修でした。大きな会社だったので、お互い初対面の人も多く、最初に一人一分で自己紹介をしてもらうことになりました。自己紹介を聞きながら、わたしは、この会社は本当におしまいだ、と思いました。全員が「ゴルフクラブの改造が趣味です」「毎週釣りに行っています」などと趣味の話をするのです。会社が危機的な状態にあるというのに、それに対してどうしようと思っているとか、そういう話はひとつも出ないのです。案の定、その会社はほどなく大再編にあい、いまは跡形もありません。会社はやはり人なのです。最後の最後に、人が踏ん張れるか、なのです。しんどくなったときに踏ん張れるのは、お金のためではありません。会社に貢献しようとする強い気持ちです。そのベースとなるビジョンや理念が浸透し、志が共有されていることです。弱い会社は「金の切れ目が縁の切れ目」です。
42 会社が社員に求めるべきもの ①会社が社員に求めるのは、社員の「時間」ではなく、「貢献」であることを社員にきちんと伝えなければいけない。
社長は、社員の「会社や仕事に対する考え方」をきちんと育てる必要があります。会社が社員に本当に求めているのは、「貢献」であることを教えなければいけません。もちろん、社長に求められているのも会社への貢献です。すなわち、社員は会社に時間を売っているわけではない。いるだけで給料をもらって当然、という発想を社員に持たせてはいけません。毎日毎日、自分の職務のなかでアウトプットを出していく、そのアウトプットに対して、給料が出るのです。むしろ、残業せず良質のアウトプットを出す人が望ましいのです。よくインプットばかりで何も結果を出さない人がいます。努力しているその過程を評価しろ、と要求する人もいます。自分の給料のお金がお客さまへの貢献や工夫から生まれてきているのだということが分かっていない人は意外に多いものです。自分はどのように、給料に見合う貢献をしていくのかを、一人ひとりの従業員が考えていくよう促さなければいけません。
43 会社が社員に求めるべきもの ②会社は勉強しに来るところではなく、お客さまや会社に貢献するために働くところであることを、社員に教えなければならない。
わたしの会社のような小さなところにも、ときどき、ただでもいいから働かせてくれ、という人が来ます。けれども、すべてお断りしています。わたしは、お金を払ってでも、お客さまのために役立ち、貢献する人がほしいからです。ただでもいいから働きたいという人は、お客さまに貢献するのではなく、自分が勉強したいだけだからです。同様に、採用面接で、「小宮さんの会社に行くと勉強になりますから」と志望動機を述べる人がいます。そういう人もお断りです。会社は勉強しに来るところではないからです。そんな人には「勉強してから来てください」と言います。本当に勉強したいなら、お金を払ってわたしのセミナーに参加すればいい。それを、お金をもらって勉強したいなどと、そもそものスタンスが間違っています。学校は勉強を教えるサービス業であり、会社は働く場所なのです。もし、すでに勘違いしている人を雇ってしまっているなら、その仕事観から教育し直していく必要があるでしょう。会社は仕事をしに来るところです。
44 詰めを怠らない ① PDCAは、月に一度ではなく、何度でも回す。
どこの会社でも、業務に目標を立てます。けれども、それを確実に達成し、業績を上げ続けていく会社は、ごく一握りです。わたしのお客さまの会社のひとつは、その一握りの会社のひとつでした。いったいどこがその他大勢の会社と違っていたのでしょうか?それは、結果に対する詰めの徹底度にありました。いわゆる PDCA( PLAN・ DO・ CHECK・ ACTION)の Cと Aが違っていたのです。つまり、目標と結果の間に生まれるギャップを細かく分析し、徹底的に埋めていっていたのです。たとえば、製造部門で現在のロス率四%を二%に下げる目標を立てたのに、三・五%にしか下がらなかったとしたら、残り一・五%を埋めるために何ができるのか、毎週 PDCAサイクルを回して徹底的に話し合っていったのです。気合だけでなく、どうすれば具体的にできるのかを毎週、話し合ったのです。その会社では、全部門でどんな小さなことでも PDCAを頻繁に回し、目標達成の精度を格段に上げていきまし
45 詰めを怠らない ②あと一歩踏み込む「詰め」が、会社を変える。
PDCAのチェックの部分を細かく行うことは、管理につながりませんか? という質問をときどき受けます。もしそこで、担当者の行動そのものを管理しようとすると、確かにそうなるでしょう。重要なのは、結果──たいていは数字そのもの──をチェックすることです。結果や数字がすべてを物語りますから。そして、その過程で、何をすることが必要かを自発的に考える力を養成することです。 PDCAを毎週行い、徹底的に目標と結果のギャップを埋めていった会社では、業績が飛躍的に上がりましたが、それは、一定規模以上の売上げが見込めるような新商品を十個つくるという目標に対して、数十個の有力新商品が生まれるなど、全社的に、自発的に工夫し、最後まで詰める習慣が根づいたからでした。チェックだけでなく、その後のアクションも素早く徹底していったからでした。わたしはよく、あと一歩踏み込む紙一重の詰めが個人の成果を変えるという話をしますが、会社も、あと一歩踏み込む社風があれば、大きく変わるのです。
46 詰めを怠らない ③徹底的に「詰める」とは、仮説を立てて、実行し、検証し続けることであって、人を数字で追い詰めることではない。
PDCAサイクルでは、 Cの検証の頻度を上げて行うことと、それに応じた Aのアクションプランがうまく出せるかどうかが肝となります。アクションプランとは、新たな仮説です。検証可能な「具体的」な仮説です。たとえば、ロス率が減らないのであれば、「機械のこういうところを清掃したらロス率が減るのではないか?」とか「他社製品を五十個取り寄せて自社製品との違いを検証しよう」などといった新しい仮説を立てることです。アクションプランがうまく機能しないのは、多くの場合、最初の仮説を変えることなく、「なぜ数字が出ないんだ!」と担当部署を責めて、とどのつまりが、「もっと頑張りましょう」という精神論になってしまうからです。「詰める」というのは、人を数字で追い詰めることではありません。そうでなくて、細かく検証し、新しい具体的な仮説を立てることです。そして、やってみて、その結果をまた検証し、必要ならまた新たな仮説を立て、実行する。それを繰り返していくことです。
第 3章 社長が知っておくべき 人材育成の要諦
47 人材育成の基本 ①平均値で、人を見ない。トップランナーを下位の人と同じように管理してはいけない。
経営の格言に、「平均値でものを見ない」というものがあります。これはそのまま、人材育成にも当てはまります。とくに社長が人材育成を考えるときに最初に知っておくべきは、「平均値で人を見ない」ということです。同じように人を見てはいけないのです。マネジメントが下手な会社ほど、社員を「平等に」扱います。正確に言えば、悪平等です。トップランナーも含めて同じように管理しようとします。お客さま第一の小さな行動を徹底させるのは、平均的な社員をスーパーマンに育てるためのものであり、基礎力が十分にある場合は、さらに高度なことをさせる必要があるのです。基礎力が十分にあり、自発的に良い仕事をどんどん工夫してできる人は、ある意味、規律を守らせながら自由にやらせたほうがいい。上位、中位、下位の三つに分けて育成方法を変えている会社もありますが、理想的には、一人ずつ各自に合った指導法があるべきです。
48 人材育成の基本 ②全員をオールラウンド・プレイヤーに育てようとするより、各人の強みを見つけて伸ばすほうがチームは強くなる。
強い会社の事業の定義のひとつは、他社との差別化です。強みを圧倒的な強みにしていったとき、会社は飛躍的に伸びます。これは、人についても同様です。わが国の企業では伝統的に、オールラウンド・プレイヤーを育てようとします。すべての人を、オールラウンド・プレイヤーに育てなければいけないという思い込みがあるかのようです。しかし、個人のそれぞれの強みを見つけ育てていく方向に、育成の方針を変えるべきです。理由は二つあります。まず第一に、チームとしてとらえれば、各人の強みを持ち寄るほうが、全員に平均点をとらせるよりも、圧倒的に強い組織をつくれるからです。ホームランバッターも、確実にバントできる人も、両方必要なのです。もうひとつは、人は、欠けている部分を補うよう指摘されるより、強みを使ってもらったほうが伸びるからです。各人の強みをうまく使うことが「適材適所」で、それは社長の仕事です。
49 良いところを見つける ①部下を心から褒められることが、人を使えるようになる第一歩である。
会社は、自分たちにしかできない強みを伸ばすことによって、よりお客さまに喜ばれ、社会に貢献していくことができます。働く人も、個々の強みが生かされていると感じるとき、やる気が高まります。個々の強みを生かすには、人の良いところを見つけることが大前提です。良いところを見つけられれば、心から褒めることができるからです。ところが、よく聞くのが、「どこを褒めたらいいのか分からない人材が多い」という声です。よく聞く愚痴です。けれどもそれは、「自分は人の悪いところしか目に入らない性悪説の人間だ」と宣言しているのも同然です。前向きな人は人の良いところを見ます。そして、良いところを見つけたら、褒めます。人の良いところを見つけるのもまた能力であり、姿勢の問題なのです。人には良いところが必ずあります。部下も子どもも、良いところを見つけて褒めると、必ず育ちます。
50 良いところを見つける ②どこからでも誰からでも学ぶ人が、人の良いところを見つけ、心から褒めることができる。
社員を心から褒められるか、というのは、つまるところ、「人には必ず良いところ、学ぶべきところがある」と考える素直さ、謙虚さを持っているかどうかの問題です。一代で一部上場企業を築いたある社長さんが昔、「どんな本を読んでも、必ず勉強になることがある」とおっしゃっていましたが、それと同じです。もちろん、全体としてつまらない部類に入る本はたくさんあります。優秀とは言えない社員もたくさんいるでしょう。けれども、そんななかでも何か学べるところがあるのではないか、どこか良いところがあるのではないか、と考えて、そこを見ようとする人には、必ず何かしら得るものがあります。話を聴く態度にも同じことが言えます。講演をしていて思うのは、立派な人ほど、熱心に聴いてくださることです。最初からつまらない本だ、分かりきった話だ、自分より劣った人間だ、という上から目線で人やものを見る人には見えてこないものが見えてくるのです。
51 適材適所適材適所とは、長所を見つけて、それを使うことである。
社長をしていれば、つい「どいつもこいつも」と愚痴りたくなるときもあるでしょう。そもそも偉くなる人というのは部下より仕事ができるから、その立場にあるわけです。部下が劣っていると感じてしまうのはしかたのないことかもしれません。けれども、それでは、部下はあなたよりすべての面で劣っているのでしょうか?ダメな上司はすべてを二分化して考えます。自分より劣っているかいないか、 1か 0かで考えます。けれども、 1と 0の間には、 0・ 3もあれば、 0・ 75もある。わずかかもしれないけれど 0ではない部分を見つけて育てていくのです。長所を見つけて、それを使う──それが、適材適所ということです。社長や上司の仕事は組織全体のパフォーマンスを上げることです。結果を出すことです。そのためには、良いところを見つけて伸ばし、それぞれが、他者が持たない自分の力を最大限に出し切るよう促すことです。それが適材適所をつくります。
52 褒めることとおだてること「褒める」とは、良いところを良いと言うことである。ダメなところを良いと言って、「おだてて」はいけない。
「褒めて育てる」とは言いますが、「褒める」ことと「おだてる」ことは違います。良いところを良いと言うのが褒めることで、ダメなことまで良いと言うのはおだてることです。褒めると人は伸びますが、おだてると人は、仕事を甘く見、そして上司をも甘く見るようになります。ダメなところはダメと厳しく言わなければなりません。上に立つ者は、褒めることと叱ることをきちんとできなければなりません。原理原則や会社の方針に関わるようなことに反する場合には、とても厳しく言う一方、些細な間違いについては、それとなく間違いを指摘するのがよいでしょう。何でもうるさく言っていると、下の人はついて来られなくなります。重要なことと些細なことの区別がつけられなくなります。物事には軽重というものがあるのです。些細なことにはうるさい割に、大事なことをきちんと言えない社長をときどき見ますが、それでは社長は務まりません。
53 進歩の徹底 ①精いっぱい働いたかどうか、〇・〇一歩でも進歩したかどうかを反省してから帰らせる。
わたしの会社では、社員に次の二点について反省してから帰るように言っています。まず、今日一日、精いっぱい働いたかどうか。第二に、〇・〇一歩でもいいから、進歩したかどうか。わたしは、残業は基本的に好みません。業種にもよりますが、わたしのような会社では、求められるパフォーマンスを与えられている時間内で一生懸命やるほうが、だらだら時間をかけて行うよりずっと良い結果を生むからです。事実、早く終わる人のほうが腕がいいのです。一生懸命、工夫して仕事をするからです。もちろん、コツコツ努力することは重要です。大事なのは、それを速くやること。速くコツコツ努力することです。「工夫」とはある意味、スピードです。確実に地道にやるのは当然のことで、社員には、それをより速く、より効率的にやる方法を工夫させなければなりません。目いっぱい働いて、毎日少しでも進歩して、さっと帰る部下が理想です。
54 進歩の徹底 ②個々人が自分の生産性を上げていくこと自体が、より多くの人を喜ばせ、経済を発展させる社会貢献となる。
なぜ、効率を上げなければならないのでしょうか?同じ仕事を半分の時間でできるようになるということは、生産性が上がるということです。一人の人が生み出す付加価値が増加するということです。もし、日本中の働く人の生み出す付加価値が増加すれば、日本全体が豊かになるはずです。 GDPは付加価値の合計だからです。それにより、より多くの給与が支払われるようになります。 GDPの成長率の定義にはいろいろありますが、原則的には、生産年齢人口の増加に生産性の増加を加えたものです。日本のように生産年齢人口が減少していく国は生産性を上げていくことでしか、 GDPを上げていくことはできません。すなわち、個々が自分の生産性を上げていくことが、社会を豊かにし、ひいては、社会に対する大きな貢献になるのです。そのためにも、人材育成においては、徹底して工夫させ進歩させることが重要です。
55 進歩の徹底 ③常に、「改善点はないか?」と考え、工夫させることで、人は伸びる。
個々人の生産性を上げていくためには、「徹底して工夫・進歩」させることが必要です。たとえば、いままで五時間かかっていたことを四時間でできるようにする、四時間かかっていたことを三時間でできるようにする。場合によっては、機械を使うことでゼロにできないか、と考えることも必要でしょう。たとえば、いまは多くの会社でお客さまにメルマガを配信していると思いますが、少し前まではダイレクトメールでした。印刷して封筒に入れて、宛名シールを貼って、郵便局に持っていってと、それだけで延べ何時間もかかる作業でした。それがいまでは、配信の部分ではほとんど数秒しかかかりません。それでも導入時においては、ダイレクトメールをメルマガに替えるのにも、抵抗があったはずです。誰かがそれを率先して行ったはずです。「何かもっと良くできる方法、改善できる点はないか?」と常に社員に考えさせていくことが重要です。
56 規律の中の自由 ①「管理」と「規律」は違う。「規律の中の自由」が正しい社風である。
社員がさぼったり時間を守らなかったりといったことが起こるため、管理を強化する会社があります。非常にムダなことです。管理とは人の行動を規制することです。この管理で、まともに働いている社員までもがやる気をなくします。その結果、全員が言われたことしかやらなくなります。こういうことが起こる最大の原因は社内に規律がないからです。規律とは意識の統一です。社長が指揮官先頭で規律を守り、守らせようとしないからです。よく、社員がマニュアルどおりにしか動かないと嘆く声を聞きますが、そういう会社に限って、細かいマニュアルで社員の行動を管理しようとしています。けれども、規律さえあれば人を管理する必要はありません。あとは数字をチェックするだけです。数字が、良い仕事を行っているかどうかを如実に表すからです。良い会社にするためには、規律は必ず必要です。そのなかで、社員がある程度自由に自己裁量で行えるようにするのです。そこでは、数字は目的ではなく、良い仕事をしているかどうかを検証するものとなっています。
57 規律の中の自由 ②自発的に能動的に学んでいく一流の人間を育てるのが、人材育成の要である。
以前、日曜日の電車で素晴らしい若者を見かけました。座って英語の勉強の本を読んでいたかれは、お年寄りが乗り込んでくると、さっと立ち上がり、すぐさま席を譲りました。わたしは心の中で言いました。「きみはきっと成功する」。自分がなすべきことをさっとさりげなく行えるのは素晴らしいことです。自己啓発のための勉強をするのも素晴らしいことです。最近は、マニュアルが整備されていない、ちゃんと教育してくれないと言って会社を批判する若い社員も少なくないようです。会社というのは、教育してくれるところだと思っているのでしょう。もちろん、会社は一人前になるまでは育てます。そうしないと人件費に見合いませんから。けれども、一流になるようにまでは育ててくれません。それは各自で行うことだからです。一人前と一流は違います。一人前のさらに先に一流があるのです。自発的に勉強し、一生学び続ける一流の人に育てるのが人材育成の要です。
58 規律の中の自由 ③人は管理するものではなく、コーチするものである。
新卒の社員や基礎力が不十分な社員には、マニュアルやハウツーを教え、徹底することが必要でしょう。けれども、レベルが上の社員になるほど、それらはなくなります。実際、経営者にはマニュアルなんぞありません。では、レベルが上の社員、一流を目指す社員の育成は、どのように行うべきなのでしょうか?かれらに必要なのは、コーチングです。その場に応じて、自分で考え、自分で行動し、自分を高めていける人間を育てるためには、管理よりコーチングが必要なのです。行動の結果は数字に表れますから、その数字をチェックすればいい。数字でパフォーマンスをチェックしたうえで、各人に応じて、それぞれ何をすればよいかをコーチするのです。全体を一律に管理すると組織は硬直化し、一人ひとり各人に応じてコーチすると組織は柔軟で風通しが良くなります。
59 仕事の基本の徹底 ①社長は、数字を常にチェックし、部下にも数字で具体的に考えさせなければならない。
人は管理するものではないといっても、数字をチェックしなくてもいいということではありません。数字は、各人が、良い仕事をしているか、各部署が適切に運営されているかどうかを判断する大きな判断基準だからです。そのためにも、常に数字をチェックするのは、社長の重要な仕事です。そして、従業員に対しても、常に、数字で具体的に物事を考える習慣を持たせることが重要です。かれらにも数字のチェックを欠かさないよう指導します。この際、数字を目的化しないようくれぐれも留意してください。数字を追うと、ともすればゲーム感覚になりがちですが、ゲーム感覚で仕事をすると、お客さま、働く仲間に対する、そして何よりも仕事に対する真剣さが失われてしまいます。あくまでも、規律というルールのもとで「良い仕事」やお客さま志向の小さな行動に専念させ、その結果を数字でチェックする、この基本からぶれないよう細心の注意を向けていなければなりません。
60 仕事の基本の徹底 ②ダブルチェックは責任を分散させ、人を甘くする。甘いプロなどいない。一人で仕事をまっとうさせなければプロは育たない。
多くの会社が、さまざまな局面で、「ダブルチェック」の仕組みを取り入れています。わたしの会社でも、数字の間違いなどのミスが起こった場合、「これからは、大切な数字についてはダブルチェックする体制をとります」という改善策が出てきます。わたしはこれをすべて却下します。なぜなら、それは責任の分散にほかならないからです。自分が間違えても、次の人が見つけるだろうという甘えにつながるからです。この考えは、中途半端な甘い人間をつくるだけです。お客さまへの迷惑は絶対避けなければなりませんが、銀行などでダブルチェックが求められる最大の理由は、不正防止です。通常の日常業務では、違う方法で検算するなど、自分でダブルチェックする仕組みを考えるべきです。矛盾する数字が出たらエラーが出るようにシステムをプログラムすることもできるでしょう。間違いに自分で気づき、一人で完全な仕事にしあげられるよう指導すべきです。そうしなければ、プロは育ちません。甘いプロなどいないのです。
61 生き方を教える若いころから、「正しい考え方や生き方」を社員に学ばせることが、社長が行うべきもっとも重要な人材育成である。
稲盛和夫さんは、人の成功は、「能力」 ×「熱意」 ×「考え方」の掛け算だとおっしゃいます。仕事をしていくうえでは、新入社員には新入社員の、社長には社長の能力が必要です。さらに、能力だけでなく、熱意やエネルギーが必要です。しかし、能力や熱意がいくらあっても、考え方やそれに基づく生き方が違っていたら、すべてがダメになります。稲盛さんは、能力と熱意はゼロ点から 100点まであるが、考え方はマイナス 100点からプラス 100点まであるとおっしゃっています。仕事を成功させ、人生を成功させるためには、正しい考え方や生き方を学ぶことが何よりも大切なのです。社員には、それを若いころから、きっちりと腑に落ちるまでコツコツと学ばせなければなりません。一朝一夕では身につかないからです。
62 行動の結果で評価する考え方を行動に落とし込み、その行動の結果を評価する。
考え方はとても大切ですが、それが行動に落とし込まれない限り何も変わりません。思っているだけ、言っているだけではダメなのです。考え方は必要条件、十分条件は行動とその結果です。社長は、社員の行動の結果を評価しなければなりません。社長自身も行動して結果を出してこそ評価されます。良い本を読むことも、コツコツと努力することも、自分が会社での仕事を通じてできる社会貢献について考えることも、すべては「正しい考え方」を持つためのものです。それらは、行動に落とし込むことによってはじめて実現されます。評論家ではどうにもなりません。孔子も、その人の言っていることだけでなく、やっていることを見て人を判断すると言っています。強い組織を育てるためにはやはり、社員の全員が、正しい考え方を持ち、正しい生き方をし、行動に落とし込み、結果を出していけるようにすることです。それが遠回りのようでいて、もっとも強力な、強い組織への近道です。
63 教育より採用教育も大事だが、採用に時間とお金をかけて、最初から適切な人をバスに乗せることが結局はいちばんの近道。
『ビジョナリー・カンパニー ②』に、飛躍的に伸びる会社は、「適切な人をバスに乗せる」とあります。人材育成を語る章の最後で、身も蓋もない言い方かもしれませんが、曲がった杖をまっすぐにするのは至難の業です。やはり最初から良い人、つまり、正しい考え方や生き方を持っている人、素直な人、規律を守り、そもそも管理など不要な人を採用するのです。スキルはある程度の教育で身につきますが、それも、基礎力が高い人とそうでない人とでは、身につくまでの時間も到達可能なレベルも異なるでしょう。きちんとした採用を行おうとすると、時間とお金がかかります。けれども、基礎力や人間性を高めるための教育に今後生じる教育コストと比べたら、そしてかれらが生み出す付加価値の差から考えたら、比較になりません。教育も大事です。けれども、採用にもっと時間とお金をかけることも考えなければなりません。さらには、社長が指揮官先頭で会社のレベルを上げることです。会社のレベルが上がるほど、より良い人が採用できるのです。
第 4章 社長としての人物力
64 社長が語るべき三つのこと社長は常に、「理念」と「現場」と「夢」を語れ。
社長は、社員に常に、自分の言葉で、次の三つを語っていく必要があります。 ①理念 ②現場 ③夢理念とは、そもそもの会社の存在意義です。目的です。ビジョンとミッションと言ってもいいでしょう。さらには、「公明正大」などの基本的な行動規範も含まれます。現場とは、お客さまとの接点や製品がつくられる場所です。事務の現場もあります。本来、現場を知らずして、戦略を語ることはもちろん、社員の心を動かすことも不可能です。夢とは、会社の目標と個人の目標とが重なるところです。社長の夢と社員の夢が大きく重なり合うとき、会社は大きく成長します。
65 理念を語る ①優れた企業には、明確な「理念」がある。
社長が会社の善し悪しを決定します。では、社長の何がそれを決定するかと言えば、「基本的な考え方」です。それが会社全体に表されるのが、「理念」です。会社の理念がしっかりしている会社は、多少の波はあっても、最終的には強い。大正時代に松下電器産業を興した松下幸之助さんは、昭和七年に、「今年を松下電器創業の年とする」とおっしゃいました。それは、会社というものの使命を明確にし、「理念」としてはじめて社員に明確に示した年でした。会社の理念とは、「企業の存在意義」です。仕事を通じて、市場や社会にどんな貢献をしていくのか、ということです。あるいは、そのための根本的な行動規範です。松下電器の場合は、その根幹は「産業報国」──より良い商品を、広く皆に、より安く提供し、国民生活を豊かにすることでした。住友家の「浮利を追わず」も行動規範であり、理念です。理念が明確でない、あるいはそれが働く人に徹底しない会社は弱いものです。理念は単なるお題目ではなく、社長の信念でなければなりません。
66 理念を語る ②事業を通じて社会に貢献する気概を持つ。その使命感が、会社をより強く大きくする。
経営コンサルタントとして、たくさんの社長を見てきました。多くが、最初は家業から始めた、あるいは、家業を継いだ事業を一代で大きくしてきた方たちです。上場まで至った会社もあります。そのなかで思うのは、ある程度事業に成功した人というのは、二つに分かれるということです。ひとつは、お金儲けの楽しさにおぼれ、いわゆる金の亡者になってしまう人。もうひとつは、その欲をより良い、高次の欲に変えていくことに成功した人。すなわち、お客さまへの感謝、社会に対する感謝に目覚め、その感謝の気持ちから自分が社会に支えられていることに気づき、より良い仕事を通じて社会に還元していこうとする人です。社員にもそれを目覚めさせる人です。どちらが、会社をより大きくすることができるかは言うまでもないでしょう。大きくなる会社には、社会に対する使命感とそれによる働く喜びがあります。
67 理念を語る ③常に、理念を語り続け、社内に浸透させ続けることは、社長のもっとも重要な仕事のひとつである。
「理念」が明確になったら、それを、常に社内で語り続ける必要があります。そして、先頭に立って実践していく必要があります。ただ、額に入れて飾っておくだけでは、社内に浸透しません。会社のすべての活動、事業戦略を、それに基づいたものとし、語り続けるのです。自分たちの会社は、社会にどんな還元をしているのか、自分たちの仕事は、社会にどんな貢献をもたらしているのか。それが明確になっているとき、人は、最大の力を発揮するからです。と同時に、それは常に語っていないと、忘れられたり、各自がそれぞれ別の活動を始めていたり、あるいは、少しずつ違う方向に変容していってしまったりするからです。戦略を考えることは、誰かに任せることもできるでしょう。けれども、理念を常に語り続け、社員の一人ひとりに伝えていくことは、社長にしかできない、そして、社長のもっとも重要な仕事のひとつです。
68 理念を体現する ①いったん理念を制定したら、まず社長自身がそれに従い、理念を体現し続けなければならない。
社長がどんなに理念を語っていたとしても、それが、社長自身の行動と結びついていないのであれば、社員はそれを信じません。ただのお題目だとみなします。そして不幸なことに、多くの会社で、立派な「企業理念」はただのお題目となっています。あるとき、非常に厳しい経営状態にある会社で研修を行ったことがありました。そのなかで、一人の若い女子社員が言った言葉をいまも忘れません。「わたしたちは、社長のセルシオのためにこんなに無理して頑張っていたのかと思うと、アホらしくなります」ほどなく、その会社は倒産しました。理念は、まず社長自身が自分の行動で示し続けなければなりません。いったん理念を決めたなら、社長もまたそれに従わなければなりません。理念を、自分自身より上位概念としなければならないのです。
69 理念を体現する ②リーダーシップとは、理屈ではなく、「覚悟」である。
「理念」に基づき、より具体的な「経営計画書」、あるいは、「行動規範」を定めることがあります。わたしの会社でも、「電話は 3コール以内にとる」といった具体的行動規範を含む「経営計画書」をつくり、毎朝、朝礼で少しずつ順番に当番の社員が読み上げ、基本が揺らがないように努力しています。ある会社の社長が同様の「行動規範のリスト」をつくり、社員の行動を評価するチェックリストにしようと言うので、申し上げました。「それもいいですが、最初にあなた自身をチェックすることが大切ですよ」と。わたしの顧問先のある会社の「経営計画書」には、冒頭に次のように書かれています。「この経営計画書は、わが社の憲法です。これに違反することは許されません。これは、社長といえども、例外ではありません」最初に、行動規範を守らなければいけないのは、社長自身です。リーダーシップとは理屈ではなく、先頭に立って行動する「覚悟」なのです。
70 理念を体現する ③指揮官先頭。教え、指示するのではなく、先頭に立って行うのが、リーダーである。
社長とは、会社のリーダーです。当たり前のことをここであえて言うのは、口ではリーダーだと言いながら、「ティーチャー」をしている人が多いからです。「自分は社長だから」、社員に「あれはこうだ」と聞きかじったことを「教え」、「だからこうしろ」と「指示する」ような社長が少なくないからです。社長はそれでは務まりません。先頭に立って行動する「リーダー」なのです。根幹に関わる部分は、まず自分が先頭に立ってやらなければいけません。根幹に関わる部分とは、「理念」や「行動規範」に関する部分です。もし、社内の基礎力をつけるために、オフィスの清掃などの「環境整備」を徹底させるなら、社長自身が率先して掃除することです。山本五十六の有名な「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」のいちばん最初は「やってみせ」です。掃除のしかたを教えたり、サボる人を評価するのは、ティーチャーの仕事。リーダーは皆を励ましながら、自分の背中を見せて、率先して行うのです。
71 現場を語る ①社長は、お客さまとの接点である現場を熟知し、現場に出て、いちばん厳しいお客さまの目を持たなければならない。
社長は、「理念」とともに「現場」を語る必要があります。語るためには、現場を知らなければなりません。ところが、社長室に閉じこもって出てこない社長がいます。一倉定先生は、それを「穴熊社長」と呼びました。そのほうが居心地がいいからです。社内だとちやほやされるからです。どんな業種であれ、提供する商品・サービスを買ってくれるお客さまがあってこそ会社は存在できます。逆に、そうしたお客さまのために、それぞれの会社が存在するとも言えます。お客さまとの接点の現場を知らなければなりません。また、その製品をつくる「現場」を知らないというのも、経営者にとって致命的です。経営者の仕事である「企業の方向づけ」のためにも、「資源の最適配分」のためにも、「人を動かす」ためにも、社長は現場の喜びや苦労を知り、それを語らなければなりません。そして、いちばん厳しいお客さまの目を持たなければなりません。
72 現場を語る ②大名行列の「視察」では現場は見えない。社長に現場の真実が見えなくなったとき、会社は傾き始める。
現場に出る、といっても、それが「社長の視察」では意味がありません。時を隔てずして、ふたつの大きな外食チェーンのトップを偶然目にする機会に恵まれました。一方のトップは、いわゆるファストレストランのその店で、一般客に混じって昼食をとっておられました。高齢のため、さすがにお供の方を連れてはいましたが、店の階段ですれ違うとき、道を譲ったわたしに対して、ていねいにお辞儀をして、お礼をおっしゃいました。片や、もう一方のトップは、これみよがしに黒塗りの車を正面の入り口につけ、お供を引き連れて訪れ、平身低頭する店長たちから商品の説明を受けていました。後者が、「現場に出る」こととは無縁の行為であることは、言うまでもありません。そして、自社でちやほやされたいと思うようでは、社長失格です。
73 夢を語る「理念」と「現場」だけでは社員は動かない。社長は常に、「夢」を語り続ける必要がある。
社長は、「理念」を語り、「現場」を語る必要があります。が、それだけでは十分ではありません。それだけでは人は動きません。自分も動けないかもしれません。社長は、これに加えて、「夢」を語らなければなりません。「理念」「現場」「夢」の三つを語れてこそ、社長です。とくに社員には、ここで働くことによって、どれだけ幸せになれるのかという夢を語らなければなりません。社員も社長と同じくらいに幸せになりたいのです。ここで注意していただきたいのは、会社が大きくなることは経営者にとっては夢でしょうが、社員にとっては必ずしもそうとは限らないということです。経済的に豊かになることよりも、アットホームな会社の雰囲気や、小さな会社だからこそ発揮できる働きがいを求めている人もいるからです。ですから、会社が大きくなることによって、社会により大きな貢献ができること、働きがいも増え、社員一人ひとりもさらに幸せになることを語っていく必要があります。
74 プロ集団をつくる楽でない仕事を楽しくやり、社員に自分の名前で仕事ができるプロになってもらう。社長も同じくプロになる。
わたしは、社員に残業させるのがとてもきらいです。勤務時間内はめいっぱい働いて、そして個人の時間も楽しんでほしいと思っています。と同時に、会社や仕事そのものを好きになってもらいたいとも思っています。この場合、楽でない仕事を楽しくやることが大切です。誰にでもできる程度の仕事では楽しくありません。どんな仕事でも、自分にしかできないレベルにまで高めるのです。そのとき、仕事が楽しくなります。わたしはプロとは、自分の名前で仕事ができる人だと思っています。プロというと、弁護士や会計士のように資格を持っている人を想像するかもしれませんが、資格だけで仕事をしているうちはプロではありません。ビジネスマンでも自分の名前で仕事ができるようになればプロです。「あなたにこの仕事をしてほしい」と言われたらプロです。会社の名前だけで仕事をしているうちはプロではありません。他社でも通用する能力です。社長も同じです。他社でも社長ができないのなら「ぶら下がり社長」です。
75 努力し続ける一流の人ほど努力をする。
一流になる人に共通するのは、人一倍努力しているということです。その努力を人に悟らせない、というのも共通しています。ダイエーホークス(現・ソフトバンクホークス)の主砲だった小久保選手と現役の松中選手は、ナイターがある日、練習の集合時間は二時であるにもかかわらず、十一時前には球場に来て練習を始めていたそうです。ところが、二時前にはいったん球場を出て、その後、何食わぬ顔で再び二時にやって来ては、早めに練習を切り上げてしまうものですから、周りは、さすが一流選手は練習しなくてもできると感心するわけですが、そうではなかったのです。別の言い方をすると、努力する習慣を持っている人が成功するのです。毎年ドラフトでプロ野球選手に選ばれるのは、わずか七十二人。才能のある青年はたくさんいますが、その多くが、一流選手になれず、脱落していきます。そういう人と野球史に残る名選手となる人との違いは、努力の差です。才能にプラスして、人の何倍も努力しているのです。努力が才能を開花させるのです。
76 会社を経営する目的「良い仕事」をすることを目的とする限り、終わりはない。
お金や名誉が、会社経営という厳しい仕事の大きなモチべーションとなることは事実です。ところが現実には、より良い仕事を行うことそれ自体をモチベーションとする人の会社のほうが結果として成功します。名誉も得られます。なぜなら、世の中が求めているのは、あなたの会社が儲かることではなくて、あなたの会社が世にもたらす付加価値、すなわち、良い仕事だからです。世の中が求める商品・サービスをもたらす会社が、結果として儲かるのです。そして、より良い仕事をすることを目的とする限り、会社に終わりはありません。わたしが師と仰ぐ故藤本幸邦老師は、「お金を追うな、仕事を追え」とおっしゃいました。すなわち、お金や名誉を得るための手段として仕事をするのか、それとも、良い仕事それ自体を目的とするのか、です。良い仕事をして儲かった結果、お金を使うのは、経済や文化の向上のためにも悪いことではありませんが、社長がお金や名誉のために会社を経営すると、どこかで行き詰まります。
77 会社を潰す社長 ①明るく、元気で、大雑把で、見栄っ張りな社長が会社を潰す。
多くの社長を見てきて、会社を潰す社長には共通点があることが分かりました。それは、「明るく、元気で、大雑把で、見栄っ張り」。明るく元気でなければ社長は務まりません。それ自体はもちろん悪いことではありませんが、大雑把は良くありません。最後の「見栄っ張り」は致命的です。個人の蓄財とは別に、名門カントリークラブの会員権や有力な財界団体や政府の委員会の委員の地位、あるいは運転手付きの高級車、はては自家用ジェットなどを手にして格好つけたがる人がいますが、これは危険です。もちろん、それが、理念を守り、良い仕事をして、社員も誇りを持てる良い会社をつくった結果ならよいでしょう。しかし、いい格好をしたいがために無理をした結果だとしたら、おそらくそれが理由で会社は潰れます。会社は銀行からお金を借りられる、つまり、その気になれば、借金しても見栄を張ることができるからです。借金してまで見栄を張る社長は最低です。
78 会社を潰す社長 ②事業欲の行き過ぎる社長が会社を潰す。「成長と安定のバランス」をとることが大切である。
事業欲の強すぎる社長も会社を潰します。とにかく会社を大きくしたいという人です。実力に見合って会社が大きくなるのならよいのですが、ちょっとしたチャンスがあれば、借金をしてでも事業を拡張するタイプの社長です。企業を経営するうえでは、「成長と安定のバランス」をとることが大切です。常に成長を目指すことは、より社会に貢献することですから、とても大切ですが、バランスを崩してはいけません。会社を潰してしまっては、お客さまや社会への貢献どころか、自身も社員も路頭に迷ってしまいます。そのためには、自社の財務諸表をよく読み、無理な挑戦はしないことです。具体的には「自己資本比率(純資産 ÷資産)」「流動比率(流動資産 ÷流動負債)」「手元流動性(すぐに使える資金が月商の何ヵ月分あるか)」などの自社の適正値を学び、その適正値を「絶対に割り込まない」と決め、絶対にうまくいく投資などないことを肝に銘じて、チャレンジもその範囲内で行うことです。
79 会社を潰す社長 ③会社を潰す社長は、習うより教える側、聞くより話す側、自分を変えるより相手を変える側に立とうとする。
社長を務める人には、自分をより大きく見せようとする自己顕示欲の強い人が少なくありません。社内でも高圧的な態度をとり、持ち物や乗り物などに見栄を張る人もいます。謙虚な人が基本、聞く側に回るのに対し、自分を大きく見せようとする人は、喋る側に回ります。自分の成功や少し学んだことを語りたがります。以前、地方の会社に行き、講演後、社長ら数人で居酒屋に行ったことがありました。そのとき、対応があまり良くない若い店員を相手に、その社長が説教を始めたのです。「きみ、お客さま第一というのを知っとるのかね」と。自分の会社の社員に言うならともかく、たまたま入った店の店員に話す内容ではありません。その若者のためではなく、自分を誇示するための行為にしか見えませんでした。これも会社を潰す社長によく見られる「見栄っ張り」のひとつです。ほどなくして、その社長は会社を潰しました。
80 会社を潰す社長 ④社長は、誰よりも、会社の数字に強くなければならない。
会社を潰す社長として、見栄っ張りに次いで特徴的なのは、「大雑把な」こと。特に数字に大雑把なのは致命的です。経理をごまかされても気づきません。優れた社長は、社内の誰よりも数字に強いものです。数学や統計分析や財務の数字の扱いに、担当者よりも優れている必要はありません。ただ、大事な数字は何かを知っていて、常にそれをきちんと把握しているのです。顧問を務める会社の役員会に出ていると、自社の売上げも正確に言えないようなダメな社長がいる一方で、そこで配布される資料の大事な数字のわずかな間違いに、いちばん初めに気づく社長もいます。膨大な数の数字が並ぶなかで、直観的に誤まりを見つけるのです。「その数字が目に飛び込んでくる」と表現する人もいます。なぜでしょうか?真剣さの違いです。社長は会社の業績にもっとも責任を負っているからです。逆に言えば、数字が見えないのは覚悟や真剣さが足りないということです。
81 会社を潰す社長 ⑤常に「 For the company」で行動せよ。社長が公私混同をやめれば、会社は強くなる。
ある一定以上の大きさになかなかならない会社には共通点があります。それは、オーナー社長の「公私混同」です。社用車をプライベートのゴルフや家族旅行に使ったり、なかには、自宅で使うテレビまで会社の経費で落とす人もいます。売上げが数千万円程度の個人事業主ならともかく、数十億円ほどの会社でも、そういう人がいます。そういう会社に限って、社員の給料は安い。おそらく自分も満足な給料をとれないから、会社の経費で私物も買おうか、ということになるのでしょうが、これは悪循環です。だから、売上高百億円の壁を越えられないのです。大きな会社でも、会社をダメにする社長の多くは公私混同をします。部下にとって、社長や上司のプライベートのために稼がされていると感じることほど嫌なことはありません。上が公私混同をすると、下の人も公私混同をしたくなるのが人情です。社長から新入社員まで、「 For the company」で行動するのが強い会社です。
82 公私混同の基準それを社員がやっても許せますか?──許せない行為は、社長もしてはいけない。
「公私混同」の基準について訊かれたとき、わたしは次のように答えます。──自分がしようとしていることを社員がしても許せますか?社員が会社の営業用の車をデートに使うことを許せないと感じるのなら、あなたも、社用車を家族旅行に使ってはいけません。すると、こんな声も聞こえてきます。「でも、都心では駐車場代も高い。だから、節約のために、私用にも会社の車を使っているんです」と。そんな方には、わたしは、費用の一割を自己負担することを勧めています。たとえば、一千万円でレクサスを社用に買うとしたら、うち百万円を個人負担とするのです。維持費が百万円なら、十万円を個人で負担するのです。これを、「細かいことにこだわりすぎだ」ととらえるか、「一千万のレクサスが百万円で乗れる。会社も九百万円の経費ですむ。ラッキーだ」ととらえるか──会社を大きく高収益にする社長と、低収益の中小企業のまま終わらせる社長の違いです。
83 カリスマ社長の限界 ①「カリスマ社長」を求心力にする会社より、「考え方」を求心力にする会社が強い。
株を買うとき、わたしはカリスマ社長のいる会社の株は買わないことにしています。なぜなら、カリスマ社長のいる会社とは、「人」が求心力になっている会社であり、人を求心力としている組織は、案外弱い、脆いものだからです。二百年、三百年と続く会社は、日本では欧米より多いとはいえ、それほどあるわけではありません。しかし、宗教団体なら、千年、二千年はざら。なぜなら、宗教団体というのは「考え方」が求心力となっているからです。明治時代から続く超大企業も同様です。強いリーダーはいますが、カリスマ社長は存在しません。カリスマ社長がいなくなったときにおかしくなる会社は少なくないのです。ユニクロ、楽天、ソフトバンク、グーグル、アマゾン、アップル……新興の会社にカリスマ社長はつきものです。急成長に創業社長の求心力は欠かせません。けれども、歴代ずっとカリスマ社長が出る可能性はほとんどありません。社長のカリスマ性があるうちに、それを会社の「考え方」にシフトさせ、誰が社長になってもやっていける会社にしていかなければなりません。
84 カリスマ社長の限界 ②カリスマ創業社長の仕事は、自分がいなくても回り続ける会社をつくることである。
会社というのは、いわば「はずみ車」です。回り続けるためには、「仕組み」と「考え方」が必要です。中小企業の場合、「仕組み」も「考え方」もともすれば未整備です。それをつくるには、社長の強力なリーダーシップが必要です。つまり最初は、カリスマ的な社長が求められます。しかし、ある意味、皮肉にも、カリスマ社長の仕事は、自分ではなく、考え方を求心力とする会社をつくることです。『ビジョナリー・カンパニー』には、カリスマ社長が「時を刻む」会社より、ビジョンや考え方という「時計」をつくった会社が長く続く、とあります。カリスマ社長がいなくなっても時間が分かるからです。「徹底する」「誠心誠意お客さまに尽くす」「他の追従を許さない製品をつくる」……中身はどうあれ、正しい考え方に基づき自社の「イズム」をつくり、そのイズムを全社員に血液のように浸透させることです。
85 カリスマ社長の限界 ③社長は、会社の「理念」「ビジョン」の「教祖」ではなく、「宣教師」にならなくてはならない。
カリスマ創業社長に限らずすべての社長には、自分ではなく、「考え方」を求心力とする会社をつくることが求められます。これは言い換えれば、会社の「理念」あるいは「ビジョン」の「宣教師」になることです。すると、その「理念」「ビジョン」が会社を動かし始めます。しかし、宣教師になるというのは、口で言うほどたやすくありません。問題は、多くの創業社長が、宣教師ではなく、「教祖」になりたがることです。なにしろ、その「理念」「ビジョン」をつくったのは自分なのだから「教祖」で当たり前だ、と考えがちです。若いころにはそうではなかった人も、ちやほやされているうちに歳を経て、「教祖」になりたがるようになりがちです。そうして、かれの死とともに、会社が傾く……よく聞く話ですね。社長が宣教師のトップとなり、多くの宣教師を育てる会社が強くなります。
86 社長の器社長の器が会社の器を決める。器を大きくするために、社長は正しい生き方を学び続け、それに基づき断を下さなければならない。
社長の器より大きくなる会社はありません。後継者の器が会社よりも小さければ、会社は小さくなります。会社を大きく強くするには、経営者が自身の器を大きくしていかなければなりません。では、「器を大きくする」とはどういうことでしょうか?もっとも重要なのは、「生き方」です。社長は常に、正しい生き方を学び続けなければなりません。それに基づき断を下していくのがあるべき社長の姿です。それにはまずは、論語などの中国の古典や、松下幸之助さんや稲盛和夫さんの本のように、多くの人に読み継がれている本を読むことです。生き方というのは、一朝一夕に身につくものではありませんので、何度も繰り返し読みます。腑に落ちて、自然にその考え方に基づいた判断や行動ができるようになるまで読むのです。朝からマンガを広げているような社長や後継者は論外です。尊敬できる人の話を聴くこともいいでしょう。心に響くものがあれば、何度でも聴きます。そのなかで、師と仰ぐ人と出会うことができるかもしれません。
87 長く成長し続ける会社の社長の条件 ①アンテナは高く、腰は低く。業績を上げる社長は、謙虚に人の話を聴く。
長期間にわたって業績を上げている会社の社長に共通するのは、まず第一に謙虚であるということです。学ぶ姿勢がしっかりしているのです。謙虚かどうかは、人の話の聴き方を見れば分かります。松下幸之助さんが新入社員の話にもメモをとりながら耳を傾けていたように、謙虚な社長は、誰からも学ぼうとします。すなわち、謙虚であるということは、自分の足りなさを自覚しているとともに、ある意味、貪欲だということです。会社をより良くする種を貪欲に探し続けているということです。──アンテナは高く、腰は低く。この言葉の本当の意味は、腰を低くしておかないと、アンテナは高くならないということです。世の中には、腰は高く、アンテナの低い社長が少なくありませんが、それではうまくいきません。多くの知恵を活かせないからです。人の知恵を活かすには、「自分は分かっていない」という謙虚な姿勢が必要です。
88 長く成長し続ける会社の社長の条件 ②どんなに出世しても、謙虚でいないと、感度が鈍る。
地方のある会社の経営方針発表会に招かれて行ったことがあります。そこには、ほかのゲストもいらっしゃいました。一代で、グローバルに事業を展開し、上場企業と同じ規模の会社を育て上げた七十歳代の社長ご夫妻でした。発表会の後、その社長らと市内観光をすることになりました。社長は、ご自分でレンタカーを運転して来られました。驚いたのは、その車が国産の小型大衆車だったことでした。地元ではたいへんな名士です。ベンツに乗っていてもおかしくありません。実際、見栄を張る人だったら、家では大衆車でも、こういうときにはベンツにしたはずです。やはり偉い方は違うな、と思いました。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉がありますが、社会的地位が上がるほど謙虚でいたいものです。ちょっと成功しただけで傲慢になる社長ほどみっともないものはありません。社員も家族も本人も恥をかいていることに気づかなければなりません。
89 長く成長し続ける会社の社長の条件 ③強い会社の社長は、常に貪欲に、学び続ける。社長が学ばずして従業員が学ぶことはない。
多くの会社の研修を依頼されて行っていますが、強い会社には共通点があります。それは、社長もそこに参加することです。従業員一万人の会社の社長が新入社員研修で、わたしの話をいっしょに聴いておられたこともありました。いちばん熱心に聴いておられました。たとえ一度聞いた話であっても、熱心に聴くのです。そんなところにも、謙虚さと貪欲さが表れます。これに対し、横着な社長は、どうせ知っている話だからと出てきません。学ぶ姿勢がないのです。自分は学ばずに、従業員だけを学ばせようとします。出てくるとしたら、自分も何か教えようとします。ときどき、従業員や後継者の息子だけを教育してくれという依頼を受けることもありますがその前に、社長自身が勉強し続ける姿勢が必要だと申し上げます。社長が教育されずに、社員だけが教育されるということはあり得ません。もし、自分の話を社員が聞かないというのなら、社長であるあなた自身が教育される必要性がある、ということです。
90 長く成長し続ける会社の社長の条件 ④強い会社の社長は、自分の関心を世間の関心に合わせることで常に環境の変化を読み取り、企業の方向づけを行う。
環境変化を読み取り、適切な「企業の方向づけ」をすることは、社長に何よりも重要なことです。要するに、「何をやるか、やめるか」の適切な判断です。勘が頼りの経営でも、ときにはうまくいきますが、やはり世の中の動きを知り、それに応じて、短期的、長期的に企業の方向づけを行うことが必要です。環境変化を読み解くことが、マーケティングやイノベーションの大前提です。それには、経営者が、「自分の関心を世間の関心に合わせる」努力をすることが必要でしょう。そのための最良の方法は、新聞の一面のトップ記事を毎日読むことです。多くの人は見出しだけ見て、自分の関心のある記事しか読みませんが、それでは、関心の幅が広がらず、世間の関心を自分の関心とすることができません。さらには、人の話を真剣に聴くことによっても関心の幅を広げることができます。関心のないことは、何万回見ても見えないからです。いずれにしても、自己中心的ではどうにもなりません。
91 長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑤チャンスは、準備していた者だけが活かせる。環境変化に対応できる人材を育てておく。
環境変化を読み取れても、それに対応できなければ、企業は発展しません。そのためには、その環境変化に対応できる準備が必要です。チャンスの対の言葉は準備です。準備している人と企業だけが、チャンスを活かし、環境変化に対応して勝ち残っていけます。企業にとっての最大の準備は「人材」です。新たなことにどんどんチャレンジしていける人材です。「イノベーション」に対応できる人材です。現事業を守るだけの保守的な人ばかりでは、環境変化にとても対応できません。環境変化に適切に対応できず消えていった会社は、枚挙にいとまがありません。そのためにも「変わる」ことが当たり前という社風を社長は常につくっていかなければなりません。そのためにあえて、社内に波風を立てるようなことも、社長はときにはやらなければなりません。
92 長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑥飛躍的に会社を伸ばす社長は、心から反省する。
『ビジョナリー・カンパニー ②』のなかに、次のような一節があります。──飛躍的に会社を伸ばした経営者は、うまくいったときには窓の外を見、失敗したときは鏡を見る。うまくいったときには、成功要因を自分以外のところに見出し、失敗したときは、失敗要因を自分のなかに見つける。自分の技量や徳が足りなかったことを反省するのです。これが逆ならたいへんです。うまくいったときは自分の手柄にして、失敗したときは部下や周りのせいにする。それでは誰もついて来なくなります。松下幸之助さんも、うまくいったときは運が良かったと思い、失敗したときは反省することが大切とおっしゃっています。論語にも「吾、日に三度吾が身を省みる」とあります。反省するということはとても重要で、それにより同じ過ちを繰り返さず、自分を大きくしていくことができます。そのベースはやはり素直さや謙虚さです。
93 長く成長し続ける会社の社長の条件 ⑦成功している会社の社長は、いまの場所で安住しないために、ときに自己否定もいとわない。
成功している会社の社長は、常に謙虚に反省します。ところがさらに、「反省では足りない。自己否定するぐらいでないと、人間は進歩しない」とおっしゃった社長がいます。一代で上場会社をつくり、経済的にも大成功しているだけでなく、多くの人々の尊敬を集める人格者でもあります。そのかれが、「いまの場所に安住しないためには、自己否定が必要だ」と言うのです。人の意見を本当に聴こうと思ったら、あるいは、新しい戦略に切り替えようと思ったら、いったん自分を無にする、つまり、それまでの自分を否定するくらい徹底しないとダメだということです。ちょっと成功したからといって、その自分に満足し、それまでの自分のやり方、考え方を引きずったままでは、新しいレベルには行けません。成長し続ける社長は、いまの地に安住しないで、さらに自身を成長させ、会社を成長させ続けるのです。
94 社長の信念 ①成功する人は、世の中がより良くなることを信じている。
東洋哲学の大家、安岡正篤先生は、世の中は「生成化育」するものだと述べておられます。松下幸之助さんも「生成発展」するのが自然の理法だと説いておられます。そして、この世の中の生成発展に寄与する限りは、企業や人は自然に成功するようになっている、とも言っておられます。社長として、社会の発展に貢献することが、自社の発展の原動力であり、自然の理法にも合致していることを認識することができれば、成功はもう手中に収めたも同然です。あとは、それを、お客さまが望む商品やサービスに落とし込むだけです。「お客さま第一」とは、このことを言っているのです。逆に、自分や自社だけが良ければそれでいいという考え方は、世の中の発展に矛盾する考え方ですから、それでは自然の理法に反し、一時的にうまくいくことはあっても、そのうち必ずうまくいかなくなります。経営者は、自然の理法を理解し、起きていることを前向きにとらえ、それに、対応していくことが大切です。
95 社長の信念 ②会社経営を成功させる社長に共通するのは、素直で謙虚なことである。
松下幸之助さんは、人が成功する条件として第一に「素直さ」を挙げておられます。人の話を聴き、ときにはそれまでのやり方を一切捨てるくらいの素直さ。そして、素直さは謙虚さにつながります。松下さんは、素直でない人の弊害として、素直でない人は人の話を聴けないので、「人の知恵を活かせず、自分が大きくなれない」とおっしゃっています。自分だけの能力や知恵では限界があります。組織を動かすには多くの知恵が必要で、衆知を集めなければならないのです。それは、人を活かすということにもつながります。素直でない人は、他人の協力も得にくくなります。素直ということは、人の話を聴き、人の知恵を活かすということですが、さらには、起こったことを前向きにとらえ、どんなことにでも、最善を尽くして対応するということも含まれると、わたしは思っています。そのためには、常に「素直で謙虚」であるかを反省することが必要でしょう。
あとがき本文でも、少し触れましたが、稲盛和夫さんは、人が成功するかどうかは「能力」 x「熱意」 x「考え方」だとおっしゃっています。そして、考え方が正しくなければ、成功はとてもおぼつかないともおっしゃっています。本書では、わたしの経験から得た、経営者としての正しい姿勢や考え方について説明してきました。ここまでお読みの方なら、その内容を十分に理解していただいていると思います。しかし、それだけでは十分ではありません。いわゆる「腑に落ちる」ことが大切なのです。「腑」とは「五臓六腑」の腑です。内臓という意味です。西洋人は「ハート」と言いますが、いずれにしても、首から下に落とし込み、それが自分の実となり、信念とならなければ本物ではないのです。頭で理解しているだけではダメなのです。何度も何度も読み、そして、それを実践していく。それでこそ本物となるのです。松下幸之助さんは、「ビジネスも人生も自然にうまくいくようになっている」とおっしゃっています。ただし、多くの方はこの「自然」が何かを知りません。それこそ、この本の中にある原理原則なのです。本書を自分のものとされ、企業経営や人生に大成功されることを心より祈っています。なお、本書作成にあたり、ディスカヴァー・トゥエンティワンの干場弓子社長にはたいへんお世話になりました。本書がここまでできあがったのも、そして、わたしが百冊の本を世に出せたのも、干場さんのおかげと言っても過言ではありません。この場を借りて心より感謝申し上げます。 二〇一四年一月小宮一慶
著者紹介小宮一慶(こみや かずよし)経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。 1957年、大阪府堺市生まれ。 81年に京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。 84年7月から 2年間、米国ダートマス大学経営大学院に留学。 M B A取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムや M& Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の 93年初夏には、カンボジア PKOに国際選挙監査員として参加。 94年5月からは、日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。 96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。 2012年、名古屋大学経済学部非常勤講師に就任。主な著書に、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』等、ディスカヴァーのビジネスマン・シリーズ、ならびに『ビジネスマン手帳』のほか、『「 1秒!」で財務諸表を読む方法』(東洋経済新報社)、『あたりまえのことをバカになってちゃんとやる』(サンマーク出版)、『日経新聞の数字がわかる本』(日経 BP社)他多数。小宮コンサルタンツ ホームページ http:// www. komcon. co. jp/小宮一慶 フェイスブック http:// www. facebook. com/ kazuyoshi. komiya. 94
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