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なぜ、社長は決算書が読めないのか 会社にお金を残す数字の押さえ方:古田 満

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はじめに  なぜ、社長は決算書が読めないのでしょうか?  こう言うとあちらこちらから、「いやいや、僕は決算書くらい読めるよ。できない人たちと一緒にしないでほしい」という社長の反論の声が聞こえてきそうです。  では、少し言い方を変えて、「なぜ、多くの社長は『月次決算書』を読んでいるにもかかわらず、状況の変化に応じた的確な経営ができていないのでしょうか?」と問い直したらどうでしょうか。  この問いかけに対しては、言葉に詰まるか「月次決算書の読み方って……。そんなのは毎年出す決算書と同じだろう」と開き直る社長が多いのではないでしょうか。  実は、多くの社長が、「月次決算書」には独自の読み方があることを知りません。  多くの方は、「月次決算書を年次決算書の見方で読む」という罠にはまっています。そのうえ、わざわざ間違えるような形で書類を作り、それを見ています。  私が 40年近く中小企業の社長と仕事をするなかで、最初から「月次決算書」をきちんと読めた人はほとんどいません。  正確にいうと、読もうとして挫折しているか、本質がわからず読み間違えているかのどちらかです(「月次決算書」を読もうとしない社長、「年次決算書」も読めない社長は本書では念頭におきません)。  ご存じのように、「年次決算書」は、 1年に 1回、決算時に作る「損益計算書」( P/ L)、「貸借対照表」( B/ S)、そして「キャッシュフロー計算書」( C/ F)という財務三表です。中小企業の場合は、 P/ Lと B/ Sの二表しか出していないところも多いはずです。  これらの財務諸表は、そもそも税務署、株主、銀行などに提出する外部報告用であり、会社経営にはほとんど役に立ちません。  また、年 1回の決算書で数字を分析しても、その結果は決算月から 2、 3カ月もたてば変わります。年に一度決算の説明を受けても、聞くだけで終わり、現場での経営には活かせません。  これに対して「月次決算書」は、外部に報告するためのものではなく、社長が経営のために使う道具です。毎月作成する、すなわち、年に 12回数字を分析し、対策を早く打つための資料であり、誰かに・どこかに提出する必要はありません。ですから、それなりの作り方・読み方をする必要があるわけです。  ところが残念なことに、一般的に経理担当者や会計事務所から「月次決算書」として社長に手渡される毎月の資料は、「月次決算書」ではなく「試算表」です。  当月分のみの P/ Lと B/ Sが、それぞれ 2 ~ 3枚に分かれた形で、経理担当者や会計事務所から社長に渡されているのが通例です。  到底、経営の動きが見える形にはなっておらず、これらの試算表から経営状況を的確に把握することは難しいのです。  多くの社長はこうした試算表を渡されて、 P/ Lは売上高と利益だけを見ていますし、 B/ Sにいたってはどこを見てよいのかわからない状況に置かれています。  さらに、中小企業の場合、 C/ Fを出しているところはほぼないので、現預金の正確な流れがつかめていません。  こうした会社の社長は、渡された試算表にずらりと並ぶ数字を目で追っているにすぎず、毎月、把握すべき重要ポイントにたどり着けていないのが実状です。  逆に、「月次決算書」を正しく作り、正しい読み方ができるようになれば、自ずと本質もつかめるようになります。  先行きの見えない今の時代、会社の状況を教えてくれるデータ、すなわち「月次決算書」を読めなければ、経営の舵取りはままなりません。業種・業態によっては「日次決算の書類がほしい」と言う社長さえいるでしょう。  その時々の会社の状態を見ながら、状況に応じてほぼリアルタイムで対策を打つ「管理会計」の考え方は、今では当たり前となっています。  そして、「管理会計」を実践するためには、「月次決算書」、すなわち、「月次損益計算書」(月次 P/ L)、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)、そして「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)は不可欠のツールです。  当然ながら、世の荒波の中で経営の舵取りをする中小企業の社長は、こうした「月次決算書」の読み方は知っておかなければいけません。  本書では、社長が決算書を読めない理由、そして決算書を正しく読んで経営に活かす方法を丁寧に解説しました。会計や簿記についてよく知らない人でも、本質がわかるように解説しています。  社長の経営に役立つ数字の読み方、指標などはもちろんのこと、その中で使う弊社のツール「古田土式・月次決算書」「経営計画書」などについても適宜わかりやすく紹介しました。  私たち古田土会計グループは「日本中の中小企業を元気にする」ことを目指し、「会社で働く社員と家族を幸せにする」という志を掲げています。  本書を手に取られた経営者の方には、本書に書かれていることを実践して利益を出し、財務体質を改善し、社員と家族そして会社を取り巻く多くの人たちを幸せにする経営をしていただきたい。心からそう願っています。   2022年 11月古田 満

目次はじめにプロローグ経営で求められるのは本質をすばやくつかむこと社長が会社を経営するうえで大切なこと社長の「数字の読み違い」が判断ミスに直結する第 1章「月次決算書」はリアルタイム経営に必要な武器まずは月に一度、正しい月次決算をする月次 P/ Lは変動 P/ Lに整理して用紙 1枚で見る月次 B/ Sは「単月」「累計」を用紙 1枚で見る月次 C/ Fも「単月」「累計」を用紙 1枚で見る社長が見るべきポイントは「計画値と実績値のズレ」と「原因」第 2章難しくない!  「月次 P/ L」の正しい読み方変動 P/ Lに組み替えるだけで数字の意味がつかめる変動 P/ Lで5つの重要な経営指標をつかむ一般的な P/ Lを変動 P/ Lに組み替えるには変動 P/ Lで経常利益の増減を正しく把握できる正しい原因分析は精度の高い経営計画があってこそ月次推移変動 P/ Lの数字を「年計グラフ」で見る第 3章管理会計のもう 1本の柱「月次 B/ S」の正しい読み方 B/ Sの基本を理解するポイント ❶  B/ Sはストックの情報としてとらえるポイント ❷  B/ Sは右から左への流れで見るポイント ❸  B/ Sは上から下へと見るポイント ❹  B/ Sを 1年基準で見るポイント ❺  B/ Sを累計で見る第 4章精緻な資金繰りに欠かせない「月次 C/ F」の正しい読み方社長が月次 C/ Fを読む意味事業活動によるキャッシュの増減がわかる「営業キャッシュフロー」投資活動によるキャッシュの増減がわかる「投資キャッシュフロー」財務活動によるキャッシュの増減がわかる「財務キャッシュフロー」資金繰りは月次 B/ Sと月次 C/ Fを併せてチェックすることから第 5章社長が見るべき「経営指標」とその読み方経営で重要な 11の経営指標「粗利益率」の改善で経常利益が大きく増える「損益分岐点比率」 80%なら理想的損益分岐点比率から「売上高経常利益率」の目標値を設定「生産性」の目標は 1・ 11倍、理想は 1・ 25倍重要な3つの「労働生産性」「労働分配率」で経営の効率がわかる 「ROA」の目標は 5%、理想は 10%「自己資本比率」の目標は 30%超、理想は 60%以上「持続力指数」の目標は 300以上、理想は 600以上

フリーキャッシュフローで財務キャッシュフローがまかなえているかを見る第 6章「自己資本比率の向上」こそ社長の最も重要な仕事「自己資本比率」を高めると財務体質が強くなる自己資本比率を上げるために「当期純利益」を「利益剰余金」に積み上げる「自己資本比率」 60%超で、「信用債務」以上の現預金残高があれば盤石財務状況は B/ Sの形で判断できる「総資産の圧縮」で持たざる経営を目指すおわりに巻末資料 ❶ 未来会計図表(変動 P/ L)巻末資料 ❷ 月次推移変動損益計算書巻末資料 ❸ キャッシュフロー計算書(累計)奥付

社長が会社を経営するうえで大切なこと  本論に入る前に、まずは「社長の責任と仕事」についてお話しします。  これは社長が会社を経営するうえで一番大事なことであり、「古田土式・管理会計」をはじめ、会社経営のやり方・考え方すべての根っこになるものです。  私は公認会計士・税理士として 40年近くにわたり、 3000社以上の中小企業を見てきました。実に 3000人以上の社長とお話ししてきたことになります。  その中で、何人もの腕利きの社長と巡り会い、今もそうした方々とお付き合いをしています。  しかし、そうした腕利きの社長たちでも、「社長の責任、社長の仕事とは何だと思いますか?」と改めて聞かれると、すぐに答えを出せる人はあまりいません。たいていの方が、「うーん……」としばらく考え込んでしまいます。「社長の仕事」「社長の責任」について確かな考えを持ち、人に向かってハッキリと言葉にできる社長は、ほとんどいないのではないでしょうか。 ●責任を果たすための社長の仕事「社長の責任」や「社長の仕事」とはいったい何でしょうか?  私は「社長の責任」とは、「会社で働いてくれている社員とその家族を守り、幸せにすること」と断言します。そして、この責任を果たすためにすべきことが「社長の仕事」なのです。  これは、学術的に導き出された答えではなく、私の経験則です。しかし、 40年近く 3000社以上の社長と現場をつぶさに見てきた経験、そして私自身も長年経営をしてきた経験から、ただ1つの正解だと確信しています。  では、「社長の仕事」とは具体的に何でしょうか?  広い意味での社長の仕事は、次の4つに分類できます。 ① 事業の柱を作ること ② 組織を作ること ③ 後継者の指名と育成をすること ④ 経営計画(経営計画書)を作り、実践すること  ①~③は長期の仕事です。社長になったその日から、長い年月をかけて取り組んでいくものです。 ④「経営計画(経営計画書)を作り、実践すること」は前3つとは少し違う、日々の社長の仕事、言うなれば毎年・毎月・毎日、社長がすべき仕事です。狭い意味での「社長の仕事」に当たります。社長は「経営計画」を作り、その計画と日々の実績と照らし合わせて、経営の舵を取っていきます。「経営計画書」は、社員と家族、そして会社を取り巻くすべての人々を幸せにするための道具です。  すなわち、社員と家族、会社を取り巻くすべての人々を幸せにすることが経営の目的で、その手段として、会社は持続的な成長をしなければならないのです。  一般的には、会社の成長が経営の目的といわれますが、社員と家族を幸せにすることが、経営の目的であると私は考えます。

そして、「経営計画書」の策定と、日々の実績値との照らし合わせで必要になるものが「月次決算書」、つまりは「月次損益計算書」(月次 P/ L)、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)です。  これらの正しい作り方・読み方の理解が、社長にとって必須になってくるのです。

社長の「数字の読み違い」が判断ミスに直結する  社長が作る経営計画、そしてその実体である「経営計画書」は、中長期の目標を前提として、 1年間の売上高や利益などの数字目標を定めることが基本となります。  社長は経営幹部と一緒に、あるいは幹部を含む社員みんなと協力しながらこの計画を作り、目標達成のために組織を動かしていきます。  中小企業では、経営計画は社長が精魂込めて作るものです。  もちろん会社なので、幹部社員の力を借りたり、人によっては全社員の協力を得て作ったりするのが一般的です。  社長が「この計画で進む」と決断したら、「経営計画書」を全社員で共有し、納得してもらってから全社一丸でその達成に邁進するだけです。こうして社長も社員も、経営計画の目標を達成するために日々努力していきます。

 ここで重要なのは、社長は目標の達成度を、「経営計画書」と「月次決算書」で定期的にチェックし、その都度、しかるべき対策を打つことです。  具体的には、 1年間の「経営計画」から導かれる、毎月の利益計画の計画値と、毎月の「月次決算書」の実績値を照らし合わせて、もしズレがあるようならその原因を探り当て、問題に対して対策を打っていきます。「達成度をチェックし、さらに伸ばすところや問題点を見つけ、対策を打つ」  このサイクルを回すことが、「会社を経営すること」なのです。 ●決算時と日々の舵取りでは「数字の読み方」を変える  しかし、多くの社長がこのサイクルを回せていません。なぜでしょうか?  一番の理由は、「はじめに」でも説明したように、社長が「月次決算書」の実績値の読み方を間違えているからです。年度末の決算時の読み方で、「月次決算書」の数字を読んでいるのです。

中身は同じでも、表の形やその読み方が違うだけで、まったく違う結論に達することはよくあることです。  また、そもそも P/ Lや B/ S、 C/ Fの本質を知らず、「月次決算書」の数字の読み間違いをしていることもあります。  経営判断をする際に、月次 P/ Lや月次 B/ Sなどの数字を読み間違えているのは、社長だけではありません。  驚くべきことに、会計のプロである税理士・公認会計士も、多くの人が読み間違いをしています。なぜなら、会計のプロは税務上正しいとされる財務諸表を作ることが仕事だからです。  決算や税務申告に使う書類は法律上間違いのないことが最優先され、多くの社長は経営判断をする際にその方法に沿って作られた決算書の指標を使おうとします。  もちろん、 P/ Lや B/ Sの数字は正しいもので、まさしく経営の成績を表すものです。そこに書かれた売上高や利益、現預金残高や借金などはまぎれもない事実ですし、そこから導かれる経営指標は経営の根幹ともいえる情報です。

ただ、何を間違ってはいけないか、つまり正しさの種類が、決算・税務申告時と、日々の経営判断では違うということです。  イメージしやすいように、次ページに、 ①決算・税務申告用の「年次決算書」、 ②一般的な「月次決算書」、 ③弊社で使っている「月次決算書」を図解しましたので、ぜひ大まかな違いをつかんでください(くわしくは次章以降で丁寧に解説します)。

決算・税務申告用の「年次決算書」は、ひと言でいうなら税金を計算するために正しい方法・書式で計算して作る書類です。「年次決算書」では 1円たりとも間違えることは許されませんし、「年次決算書」を受け取る側(税務署や決算公告を読む株主やステークホルダー)も、それを要求します。  一方で、経営判断の際に必要なのは、数字の意味を理解するための「月次決算書」です。「月次決算書」は、会社経営の本質を正しく表していることがポイントとなります。  忙しい社長がひと目見て、会社のビジネスで何が起こっているのか、会社の財務状況がどうなっているのかを瞬時に把握できる書類であることが重要なのです。  社長の経営判断ミスは、時に致命的で、最悪、倒産にまで直結するものです。ですから社長は、会社の状況をきちんと把握できる資料をできるだけ早く作り、その本質をすばやくつかむ必要があるわけです。  まとめると、決算時に求められる決算書類、いわゆる財務諸表はあくまでも「財務会計」用のもので提出用。一方、経営判断に使う月次決算書類は「経営分析ツール」で、「管理会計」ではこちらを使います。  この2つは、違うものをそれぞれ作るのではなく、そもそも同じもの(残高試算表)から、見え方が違うように作ると考えればいいでしょう。  社長は常に状況が変化する中で、期中にさまざまな経営判断をし続ける必要があります。  その時に、月次の財務諸表の見方をちょっと変えて見ること。それが間違った判断をせず、正しく経営の舵取りをするための最初の一歩になります。

まずは月に一度、正しい月次決算をする  プロローグでは、正しい経営をするためには「管理会計」が必要なこと、そのためには「月次決算書」の数字を正しく読むことが必要だと説明しました。  ところが、多くの中小企業の社長は、「月次決算書」を作るところからつまずいています。なぜなら、そもそも毎月の月次決算がきちんとできていないからです。  中小企業の多くは「月次決算書」を正しく出せていませんし、そもそも「月次決算をする」という発想がない経営者もいます。  一般に、中小企業の社長は、「損益計算書」( P/ L)や「貸借対照表」( B/ S)などの決算書、いわゆる財務諸表については、「年に 1回、決算のときに取りまとめるもので、税務署に申告したり、決算公告をしたり、借金をしている銀行に求められたら提出したりするものだ」と思い込んでいます。これは間違いではありません。

しかし、財務諸表にはもう1つ、「会社の経営分析ツール」という役割があります。  年次決算の決算書類とは別に、財務諸表を毎月の経営分析ツールとして、見やすい形に作り変えたものが、本書で紹介する正しい「月次決算書」です。  具体的には、「月次損益計算書」(月次 P/ L)、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)の3つを使って、毎月の会社の舵取りを進めていきます。  ここでは、この3つの「月次決算書」の役割を簡単に整理しておきましょう。 ●3つの「月次決算書」の本質  弊社では、月次 P/ Lは「運動能力表」、月次 B/ Sは「健康診断書」、月次 C/ Fは「血流検査表」にたとえてお話をしています。

 1つ目の月次 P/ Lからは、会社のその月の「事業収益の能力」がわかります。「運動能力表」でいえば、走る速さや握力などに当たります。  具体的には、「売上高」と「変動費」「固定費」の金額やその推移から「粗利益」や「経常利益」といった儲けの額、売上の増減や費用の内訳を把握できます。  2つ目の月次 B/ Sからは、会社の現時点の「会社の財務状況」がわかります。「健康診断書」でいえば、肥満度や血圧や血糖値などに当たります。  月次 B/ Sには、会社のさまざまな資産がそれぞれいくらあり、どんな借金(負債)がいくらあるのか、すべて詳細に書かれています。  たとえば、手元にある「現預金」、銀行からの「短期借入金」や「長期借入金」がそれぞれいくらあるか、仕入れ先に支払わなくてはいけない「買掛金」や「支払手形」の額などもすべてわかります。

「古田土式・月次決算書」のサンプルのダウンロードはこちらから  月次 B/ Sを正しく読めるようになると、現時点の資産のうち、どれくらいが自社のもので、どれくらいが借金によるものかがひと目でわかります。  3つ目の月次 C/ Fからは、「会社の現預金の流れ方や留まり方」がわかります。「血流検査表」でいえば、血液が「現預金」(キャッシュ)に当たります。  具体的には、事業によるキャッシュの出入りや、借金の借り入れや返済などによるキャッシュの出入り、つまりは「会社の資金繰り」がわかります。  手元にいくらのキャッシュが入ってきて、借金の支払い、仕入れなどの支払いにいくらかかるか、資金ショートの心配がどれだけあるかが把握できます。 ●  ほとんどの社長は P/ Lしか見ていない  ところが、中小企業の場合、多くの社長が月次 P/ Lしか見ていません。  月次 B/ Sは本質を読み解くことが難しく、苦手意識から見ない人が多いのです。多くは目で数字を追っているだけで本質はつかめていません。  ほとんどの中小企業では C/ Fを出していないこともあって、毎月見るべきものだと認識していない人のほうが多いのではないでしょうか。  もし、月次 P/ Lしかチェックできていないのであれば、最悪の場合、黒字倒産もあり得ます。  黒字倒産は、月次 P/ Lでは黒字になっているにもかかわらず、なぜか手元には現預金がなく、支払手形や買掛金の支払いができない、といったことで起こります。  こうしたことを防ぎ、会社を正しく経営するためには、ほぼリアルタイムでの経営状況の把握が理想です。  しかし、中小企業の場合は一部の業種を除いて、そこまでは必要ありませんし、そもそも厳密なリアルタイム会計は不可能でしょう。  ですから、まずは毎月一度、必ず月次決算をし、「運動能力表」(月次 P/ L)だけでなく、「健康診断書」(月次 B/ S)、さらに、「血流検査表」(月次 C/ F)をきちんと出して、必ずチェックするようにしてください。  これができていないと、状況に応じた的確な一手を打てませんし、兆しを捉えて事前に対策を打つこともままなりません。  3つの「月次決算書」は経営の舵取りになくてはならない数字が満載の最重要資料であり、最高の羅針盤なのです。 ●  会計ソフトがあれば「月次決算書」は簡単に手に入る  会計ソフトやコンピュータシステムを使って会計情報を管理しているのであれば、コンピュータ内に数字が積み上がっているので、「月次決算書」の入手は簡単です。  社長は経理担当者や会計事務所に「月次決算書を出してください」と頼むだけです。  ほとんどの会社で使われている会計ソフトや会計システムには、「月次残高試算表」や月次 C/ Fを出す機能がついているので、3つの月次決算書類は簡単に手に入るはずです。  弊社では、この3つの書類を独自のわかりやすい形にまとめて「月次決算書」として、社長に毎月お渡ししています。  この「月次決算書」を一緒に見ながら会社の状況を説明し、今月はどんな手を打てばいいのかを一緒に考えます。社長には日々、「月次決算書を必ず手元に置いて穴があくほど見てください」とお願いしています。  まずは、毎月正しく月次決算をし、3つの「月次決算書」を手に入れること。  これで毎月の「管理会計」の始めの一歩が踏み出せます。  そして、この「月次決算書」を数字の意味がわかるように作り変え、正しく読むことが次のステップになります。

月次 P/ Lは変動 P/ Lに整理して用紙 1枚で見る  では、「月次損益計算書」(月次 P/ L)や「月次貸借対照表」(月次 B/ S)、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)を正しく読むためには、実際にどう作ればいいのでしょうか?  くわしくは次章以降で見ていきますが、ここでは、ポイントを大まかに紹介しておきます。  まず、月次 P/ Lから見ていきましょう。  月次 P/ Lは、当月分の P/ L(月次の残高試算表と呼ばれる)をそのまま出すだけでは、数字の意味は見えません。  会計年度当期分(期首から当月まで)の毎月の P/ Lを、勘定科目の金額を横に並べて、用紙 1枚で出すことが重要です。  こうする理由は、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」の毎月の推移を見たり、黒字や赤字の理由を勘定科目の増減から推し量るためです。  当月の月次 P/ Lだけでは毎月の比較ができず、流れや数字が意味するところをつかむことができません。なかなか本質が見えないのです。  弊社では、月次 P/ Lを「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」が一目でわかるように整理した「変動損益計算書」(変動 P/ L)の形にして、社長にお渡ししています。こうすると毎月の売上高や利益の変動がわかり、その意味も見えます。さらに、前々年と前年の同月と比較できるようにもしています(巻末資料 ②)。  変動 P/ Lは、通常の P/ Lの勘定科目を、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」が一目でわかるように整理し直したものと覚えておけばいいでしょう。「売上高」に比例する費用を「変動費」、「売上高」の多寡によらず常に一定額かかる費用を「固定費」としてまとめることで、「売上高」と「粗利益」(限界利益ともいう)の関係が明確につかめるようになります。「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」は、次のような関係になっています。少し専門的ですが、この考え方を「直接原価計算」と呼びます。・売上高 =変動費 +粗利益・粗利益 =固定費 +経常利益・売上高 =変動費 +固定費 +経常利益  まとめると、月次 P/ Lを正しく読むポイントは、 ① 月次 P/ Lを変動 P/ Lの形に整理する ② 「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」を、期首から当月まで並べて比較する  という2つに整理できます。月次 P/ Lについては、第 2章でくわしく見ていきます。

月次 B/ Sは「単月」「累計」を用紙 1枚で見る  次に、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)を見ていきましょう。  月次 B/ Sは、単月 B/ S(当月)と、累計 B/ S(期首から当月まで)を、それぞれ用紙 1枚に出します( 2種類の月次 B/ Sを作ることになります)。  単月 B/ S、累計 B/ Sをそれぞれ 1枚の用紙にまとめる理由は、 P/ Lと同じです。   B/ Sはそもそも複雑な表で、とてつもなくわかりにくいものです。何枚もの紙に分かれたものから数字の意味を読み取ろうとすると、余計に難しくなります。  単月と累計をそれぞれ 1枚にまとめることで、数字の意味が読み取りやすくなります。

2種類の月次 B/ Sを正しく読むポイントは次の2つです。 ① 「資産」と「負債」、「純資産」のバランスを見る ②  2種類の B/ Sの勘定科目の増減と残高を見る  ①については、特に総資産のうち「純資産」(自己資本)の割合を表す「自己資本比率」、さらに、総資産に対する「現預金」の割合を表す「現預金比率」が重要です。  ②については、とりわけ「現預金」や「借入金」の増減と残高が重要です。資金繰りに直結するからです。「現預金」と「借入金」がそれぞれが前月よりいくら増減し、当月の残高はいくらなのかを見るのです。「現預金」と「借入金」の2つについては、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)と併せて見なければ、本質がつかめません。月次 B/ Sは、必ず月次 C/ Fと併せて見るということを覚えておいてください。月次 B/ Sについては、第 3章でくわしく解説します。

月次 C/ Fも「単月」「累計」を用紙 1枚で見る  次に、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)を見ていきましょう。  月次 C/ Fも、月次 B/ Sと同じように、単月 C/ F(当月)と累計 C/ F(期首から当月まで)の 2種類を出し、必ず月次 B/ Sとセットで見ます(巻末資料 ③)。  月次 C/ Fは、毎月の儲けた利益がどこに消えたのか、なぜ今お金がないのかといったことを明確に示してくれる書類です。   C/ Fは単独の財務諸表というよりも、 B/ Sの「現預金」の勘定科目に焦点を絞って、その増減を要因別に整理した表といえるものです。極端にいえば B/ Sの補助資料です。   C/ Fの中身は、大きく3つに分けられます。 ①事業活動による「営業キャッシュフロー」(営業 C/ F) ②設備投資などの活動による「投資キャッシュフロー」(投資 C/ F) ③主に借入金や資本金の増減による「財務キャッシュフロー」(財務 C/ F)  ①+②を「フリーキャッシュフロー」(フリー C/ F)などと呼びます。  月次 C/ Fで見るべきポイントは、一口でいうと資金繰りです。つまり、手元にある現預金と借金や取引先への支払いのバランスです。  借金がいつの間にか膨らみ、借金返済のための借金をしたり、資金ショートをしたりしないよう、社長は月次 C/ Fにも常に目配りする必要があります。  金融機関への借金の返済や取引先への支払いにすぐに使える現預金がいくらあるのか、すぐには使えなくてもある期間の後に使えるようになる資金がどれくらいあるのか(定期預金や売掛金のようなもの)、さらには固定資産がどれくらいあって、そのうち比較的短期に現金化できる固定資産(たとえば投資有価証券・保険積立金)がどれくらいなのか、といった資金の状況を把握します。  月次 C/ Fについては、第 4章でくわしく見ていきます。

社長が見るべきポイントは「計画値と実績値のズレ」と「原因」  では、社長はこうして手に入れた「月次決算書」をもとに、どこを見ていけばいいのでしょうか。  答えは、毎月の「経営計画書」の計画値と「月次決算書」の実績値のズレと、その原因です。  たとえば、該当月の月次 P/ Lを見れば、その月の「売上高」や「経常利益」(いずれも該当月の実績値)がわかり、経営計画で決めた「売上高」や「経常利益」の計画値と見比べれば、その誤差(計画値からのズレ)が明確にわかります。  計画からのズレには必ず原因があります。なぜそれだけズレたのか、原因を丁寧に分析すれば対策が打てるのです。  正しく出した月次 P/ Lからは、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」がどう変化したかがわかるので、その原因がダイレクトに読み取れます。  また、月次 B/ Sからは、会社の財務状況、たとえば、長期的な財務目標である「自己資本比率」や「借入金依存度」、総資産に対する「現預金比率」の状況がひと目でわかるので、財務的な背景が見えてきます。  月次 B/ Sと月次 C/ Fを併せて見れば、借金の返済や取引先への支払いがどのように影響したか、動かせる現預金が今いくらあるのか、また現金化できそうなものがいくらか、そして「借金」の額自体もわかります。  月に一度、周囲と自社の状況をきめ細かく見ながら、不測の事態に備えるのです。  弊社が提供する「月次決算書」には、独自の月次 P/ Lや月次 B/ S、月次 C/ Fなどの月次決算書類一式が含まれています。これを見れば、会社の経営や財務状況についてさまざまな角度から分析できます。  弊社の場合は、社長に 1年間の「経営計画書」を作ってもらい、年間の利益計画・販売計画を月ごとに定めてもらっています。  この年間の利益計画・販売計画で定めた毎月の計画値と「月次決算書」を照らし合わせて、毎月その誤差(ズレ)について原因を探り、対策を練っています。  このように、弊社の「月次決算書」を使えば、「月次管理会計」による万全の経営ができますが、そこまでできずとも、正しいやり方で「月次決算書」を用意できれば、状況に応じたさまざまな対策が打てます。  月次決算で大切なのは「早さ」です。時間をかけて、厳密で正確な「月次決算書」を作る必要はありません。  社長が一刻も早く、正しく判断できるように、本質が読み取れる「月次決算書」を作ることが大切なのです。細かい修正は後ですればいいのです。  続く第 2章では月次 P/ L、第 3章では月次 B/ S、第 4章では月次 C/ Fをくわしく紹介し、第 5章、第 6章ではこれらの応用的な使い方を見ていきます。

変動 P/ Lに組み替えるだけで数字の意味がつかめる「損益計算書」( P/ L)は、売上高と費用、そして利益の関係が一目でわかる、会社経営の基本中の基本といってもいい書類です。  中小企業の社長の多くは、この P/ Lについては理解していると自信を持っていますし、実際月次 P/ Lを見ながら対策を打っているはずです。  ところが、私の見る限りでは、 P/ Lの本質を理解し、月次 P/ Lをきちんと読めている社長はほとんどいません。結果として、間違った対策を打っている例がたくさん見受けられます。  なぜ、このようなことになっているのでしょうか?  大きく2つの理由があります。  1つは、月次 P/ Lの原価計算の方法を間違えているからです。つまり、毎月の状況が見えるように、月次 P/ Lの費用を分類・整理できていないのです。これは考え方の問題です。  もう1つは、月次 P/ Lの作り方、つまり毎月の変化が見える形にして見ていない、という手段の問題です。  社長が経理担当者に「月次 P/ Lを出してください」と依頼すると、一般的には 2 ~ 3枚の紙で、当月分と累計分を印刷してくれることが多いと思います。  こうした月次 P/ Lを見ている社長に、「毎月、 P/ Lのどこを見ていますか?」と聞くと、たいていは「月々と累計の、売上と利益を見ている」という答えが返ってきます。  しかし、これでは月次 P/ Lを読めているとは到底いえません。その月の売上高や利益の額がわかっても、前月からの変化や、計画と実績のズレを読み取れなければ、実効的な対策は立てられないからです。 ●  目的は「利益の意味」と「数字の意味」を知ること  月次 P/ Lを見る真の目的は、当月の利益の額を知ることと、その意味を知ることです。単に、利益や損失の額だけでなく、その原因がわかることで手は打てるようになります。  良い黒字もあれば悪い黒字もありますし、赤字には赤字の意味があります。こうしたことがわかる月次 P/ Lでなければ、見る意味はあまりないのです。  月次 P/ Lの数字の意味をつかむためには、次の工夫をする必要があります。 ① 年次決算の P/ Lの勘定科目を、変動 P/ Lに組み替える ② 変動 P/ Lの勘定科目を用紙 1枚にプリントし、期首から当月までを並べて見る(月次推移変動 P/ Lにする)  ①の変動 P/ Lにするのは、第 1章でも触れた通り、費用を「変動費」、「固定費」に分類・整理することで、売上が増減する理由が見えてくるからです。

 ここからさらに、変動 P/ Lの毎月の売上や費用などを横並びにして、 ②の月次推移変動 P/ Lの形にすることで、損益の流れが見えてきますし、毎月の計画値を入れておけば計画と実績のズレも認識できます。  当期までの 3期分の平均値も入れておくと、よりわかりやすいものになります。  変動 P/ Lの考え方と、変動 P/ Lの形式で毎月分を横並びで出した「月次推移変動損益計算書」(月次推移変動 P/ L)は「古田土式・管理会計」の肝ともいえる部分です。  この月次推移変動 P/ Lを見ると、「売上高」と「変動費」、「固定費」など費用の増減が、どのように「粗利益(固定費 +経常利益)」、「経常利益」の増減に結びついているかを時系列で知ることができます。

変動 P/ Lで5つの重要な経営指標をつかむ  さて、ここでは「変動損益計算書」(変動 P/ L)について、さらにくわしく解説します。特に変動 P/ Lの考え方は「古田土式・管理会計」の土台となるもので、この見方を知っているか知らないかで致命的な差が生まれます。  変動 P/ Lでは、「売上高」「粗利益」「固定費」の変化がどのように「経常利益」の増減に影響を与えるかがわかります。  使い慣れてくると、売上高と利益の関係、儲かりやすさが直観的につかめるようになります。実例で見てみましょう。  左の図は、中小企業としては規模の大きな、ある会社の変動 P/ Lを図で示したものです。これは推移を示したものではなく、単月の変動 P/ Lです。

この月の「売上高」は 3億円です。売上に比例する「変動費」が 9000万円、「粗利益」が 2億 1000万円、「固定費」が 1億 7000万円なので、「経常利益」は 4000万円です。ひと目見ただけで「売上高の 30%が変動費だ」や「固定費はだいたい売上高の 1/ 2強か」などがわかります。 ●変動 P/ Lなら最重要指標もすぐわかる  また、 P/ Lを変動 P/ Lの形に組み替えると、経営に関する「売上高経常利益率」「損益分岐点比率」「生産性」「変動費率」「粗利益率(限界利益率)」という、5つの重要な経営指標(実績値)を簡単に導き出すことができます。  勘のいい人なら電卓を叩かなくても、月次の「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」を見るだけで、経営状況が正確につかめるはずです。  変動 P/ Lでこれらの重要指標を常にチェックしたうえで、さらに月次推移変動 P/ L(毎月の勘定科目を横並びにしたもの)で毎月の変化を見ることで、毎月起こっていることと、その原因がわかるようになります。

一般的な P/ Lを変動 P/ Lに組み替えるには  ここでは、「変動損益計算書」(変動 P/ L)について、さらに理解が進むように、一般的な P/ Lとの違いを図解で見ていきましょう。  左の図は、一般的な月次 P/ L(一番上)から段階的に変動 P/ L(一番下)へ組み替える過程を示したものです。  一番上の一般的な月次 P/ Lは、年度決算で提出する、法律に沿った形のものです。経理担当者や会計事務所に「月次 P/ Lを見せてください」と頼むと、こうした表形式の月次 P/ Lが出てくるのは先に説明した通りです。  そして、この表形式の月次 P/ Lをさらにわかりやすく整理したものが、中央の図形式の月次 P/ Lです。

ここでは、図の高さが金額の大きさを表しています。売上高がいくらで、そのうちの「売上原価」や「販売費及び一般管理費」(販管費)といった費用、そしてその差し引きである利益額がどのくらいか、それぞれの比率もつかみやすくなります。  このように、 P/ Lは図形化するだけで、今月の事業がどうなっているか、どのくらいの売上高に対して、どのくらい利益が出ているのかがある程度、直観的に理解できるようになります。「今月は売上がかなり上がったけれど、利益が薄い」や、「売上が思ったより上がらなかったけれど利益は出た」などという判断が正確にできます。 ●費用を「変動費」と「固定費」に分けて整理する  ここからさらに、変動 P/ Lに組み替えてみます。まず費用を「変動費」と「固定費」に分けます。  左の図を見てください。

 これは、一般的な図形式の月次 P/ Lを、変動 P/ Lに組み替えたものです。「売上原価」「販売費及び一般管理費」、「営業外費用」といった費用をざっくりと「変動費」「固定費」の 2種類に整理し、「ほぼ変動費」、「ほぼ固定費」という感覚で分類します(これを費用の「固変分解」といいます)。「変動費」とは、売上高に比例して増減する費用です。  勘定科目でいうと商品仕入れ、材料費(材料仕入れ)、外注加工費の3つが代表的です。在庫を多く抱える企業では、期首の商品在庫の増減も「変動費」に加えます。  それに対して「固定費」とは、売上高の額に関係なく固定的に発生する費用です。売上高がゼロでも発生し、売上高が大きく増えても変わりません。  この固定費は、次の3つがあります。  1つ目が人件費です。ここには役員報酬や社員の給与・賞与、法定福利費や福利厚生費などが入ります。

2つ目は家賃や減価償却費、広告宣伝費、通信費といった人件費以外の販管費です。  3つ目が営業外費用です。営業外収益がある場合はマイナスの費用としてここに入れます。 ●業種によって異なる「固定費」「変動費」の分け方  一般的な月次 P/ Lを変動 P/ Lに組み替える方法は以上ですが、業種により多少異なる部分もあるので、ポイントを述べておきます。  小売業・卸売業やサービス業はとても簡単です。  毎月の「売上原価」を「変動費」として、その他の費用を「固定費」にするだけで、通常の P/ Lが変動 P/ Lになります。表形式の P/ Lの勘定科目を一つひとつ見て、「変動費」と「固定費」を分類する必要はありません。  小売業・卸売業・サービス業では、「売上原価」は売上高に比例するもので「変動費」そのものです。「販売費及び一般管理費」や「営業外費用」などは、多少変動費的な性格を持っていてもまとめて「固定費」とすればいいのです。  たとえば、小売業でもフランチャイズビジネスであるコンビニエンスストアは、「本部費用」が売上高に比例するケースが多く、この場合は「本部費用」を変動費に入れます。  製造業や建設業の場合は、「製造原価」中の「固定費」を分けるひと手間が必要です。ただこれも厳密にする必要はありません。  売上高比例のものを「変動費」、それ以外を「固定費」とざっくり分けましょう。  商品仕入れ、材料費、外注加工費などは「変動費」になります。人件費や設備や建物の減価償却は「固定費」。在庫が多い会社は、商品仕入れと材料費に在庫の増減分を入れればいいのです。  業態によって、「変動費」にするか、「固定費」にするか、悩むケースもありますから、判断に迷ったら経理担当者や会計事務所と相談して、「売上高に比例するかどうか」を調べて分類するといいでしょう。 ●「月次推移変動 P/ L」を作るポイント  変動 P/ Lに組み替えたあとは、月次推移変動 P/ Lを作ります。  ポイントは、特定の月にまとまって発生する「固定費」(賞与や設備や車両の減価償却費など)を 12で割って、 1カ月分として計上することです。  このように月ごとに固定費を平準化することを、私たちは「固定費をならす」と言います。設備・車両の減価償却費なども同じやり方で「ならし」ます。  こうすると毎月の状況が正しく把握できます。家賃や給与のように、毎月ほぼ一定の金額で発生する「固定費」はそのまま計上します。  賞与の例で見てみましょう。  年 2回、夏(6月末)と冬( 12月末)に賞与を出す会社の場合、賞与を支給月の6月と 12月に割り振ると、6月と 12月だけ「固定費」が大きく膨らみます。  利益率が低い業種では、会社の事業が好調に推移しているにもかかわらず、賞与月は赤字ということにもなりかねません。これでは正確な分析ができません。  ですから、賞与は支払い月の欄に反映させるのではなく、夏と冬の総額を 1年分にまとめて、 12カ月の欄それぞれに均等に割り振ります。  注意したいのは、社会保険料の会社負担分など、毎月月末に引き落とされる「固定費」です。  これらは月末が休日の場合、翌月に引き落とされます。すると、翌月に 2カ月分計上されるので、経営分析をするうえで判断を間違えやすくなります。  ですから、該当月分に計上されるように、未払いであっても計上しておきます。「変動費」は、多くの場合は商品仕入れ、材料費、外注加工費の3つなので、計算は簡単です。そのまま計上すれば問題ありません。

変動 P/ Lで経常利益の増減を正しく把握できる  一般的な P/ Lを変動 P/ Lに組み替えると、これまで見えなかった P/ Lの本質が見えてきます。ここでは、実際の数字を見ながら、変動 P/ Lのメリットを実感できる例を1つ挙げましょう。紹介するのは、起業して間もない小規模のスタートアップで、毎月 1万個の商品を製造・販売している会社の月次 P/ Lです。「売上高」は 1000万円、「売上原価」のうちの材料費は 500万円、労務費 150万円、製造経費は 50万円、「販売費及び一般管理費」は 200万円です。  一般的な P/ Lの方式で月次 P/ Lを見ると、「売上高」 1000万円で、「売上原価」は「材料費 +労務費 +製造経費」なので 700万円となり、ここから「販売費及び一般管理費」 200万円を引いて、「経常利益」が 100万円となります。

 商品 1個当たりで考えると「売上高」 1000円、「売上原価」 700円、「販売費及び一般管理費」 200円ですから、 1個当たりの「経常利益」は 100円です。  私はセミナーなどでこの例を示して、参加者に「この商品をいつもより 10%多い数量で売ったら、経常利益は何%増えるでしょうか?」という質問をするのですが、ほとんどの人が「 10%の増加」と答えます。   1個当たりの「経常利益」が 100円の商品が、毎月 1万 1000個売れるので、「経常利益」は 110万円( 100円 × 1万 1000個)となり、いつもの月の 100万円に比べて 10%増しだと思うのでしょう。  しかし、これは間違いです。  正しくは、販売数量が 10%増えると、「経常利益」は 150万円となり、「 50%の増加」になります。  これは、月次 P/ Lを変動 P/ Lにすると簡単にわかります。  月間販売数量を 10%増やすと、月の「売上高」は 1100万円となります。違ってくるのは費用の内訳です。

販売数に比例する「変動費」は、材料費の 500万円だけなので、これが 10%増しの 550万円になりますが、労務費の 150万円と製造経費の 50万円は「固定費」なので、販売数量が増えても変わりません(厳密にいえば、製造する数を増やせば残業代が発生したり、製造経費なども若干増えたりするので少しは増えますが、 10%程度の増加であればほぼ固定と考えてよいでしょう)。  また、「販売費及び一般管理費」の 200万円は「固定費」なので、こちらも販売数を増やしても不変です。こうして「固定費」の合計は 400万円となります。「売上高」 1100万円から「変動費」 550万円と「固定費」 400万円を差し引くと、「経常利益」は 150万円となります。  このように、変動 P/ Lにすれば、「経常利益」の増加分を正しく計算しやすく、正しい経営判断につなげることができるというわけです。   P/ Lを正しく使いこなすには、月次推移変動 P/ Lを作り、毎月の数字を比較しながら損益の増減を読むことはもちろんのこと、変動 P/ Lを使って社員にお金の儲け方の〝数字教育〟をすることも大切です。  多くの会社で経営計画や予算を立てますが、「計画より売上高が 100万円下回ったら経常利益がいくら減るのか」といったことを、社長および社員が理解できていません。  数字教育を受けていない人が作った経営計画目標に、なんら意味はありません。  そこで、数字教育の教科書になるのが変動 P/ Lです。  変動 P/ Lを使って、毎月(単月)および累計の売上高の増減や、粗利益率の増減による経常利益の増減を、社員とともに何度も何度もシミュレーションして、社員が数字に強くなるように教育していただければと思います(巻末資料 ①)。

正しい原因分析は精度の高い経営計画があってこそ  ここまで、変動 P/ Lの仕組みやメリット、変動 P/ Lに組み替える理由などを、くわしく見てきました。  ここでは、変動 P/ Lの使い方、特に計画値との比べ方、さらに経営に活かす指標の読み取り方について解説します。  先にも説明しましたが、弊社では、「月次推移変動損益計算書」(月次推移変動 P/ L)というツールを使います。これは毎月の P/ Lの勘定科目を変動 P/ Lの形に組み替えて、会計年度の期首から当月まで毎月分を横に並べたものです。  月次推移変動 P/ Lには、毎月の「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」の数字が、期首から当月まで横に並んでいます。  これを見ることによって、利益や売上高、そして費用がどのように推移しているか、計画に比べてどういう状況になっているかが正しく把握できます。つまり、会社の営業活動による収益の状況とその変化の様子が、ひと目でわかるようになるというわけです。  このツールを使って、「経営計画書」の毎月の計画値と、月次推移変動 P/ Lから得られる実績値を照らし合わせながら、毎月の利益の増減を見ます。  ポイントは、当月と累計の「経常利益」の計画値と実績値を比較することです。「経常利益」の計画値と実績値が一致していれば、特段問題はないと考えられます。こうした場合は「変動費」「固定費」などにおかしな動きがないか、抜かりはないかを見ます。  もし、「経常利益」で計画値と実績値にズレがあるのであれば、原因を探して、何らかの対策を打ちます。  たとえば、なぜ売上高が思ったほど上がっていないのか、予想外の「固定費」がかかっているのか、などと分析して、問題があればただちに修正します。 ●経営計画書で重要なのは短期利益計画と販売計画  ただし、こうした分析をするためには、そもそもきちんとした「経営計画書」を年度はじめに作っておく必要があります。特に、精度の高い短期利益計画と販売計画が必須です。「経営計画書」の作成については、前著『経営計画は利益を最初に決めなさい!』(あさ出版)にくわしく書きましたが、簡単に概要だけ紹介しましょう。  そもそも中小企業では、ほとんどの社長が経営計画を作っていません。経営の舵取りをするうえで、これは論外です。たとえ経営計画を作っていても、それが杜撰なものなら実績値と照らし合わせる意味がありません。  経営計画は、社長がとことん真剣に考え、きちんと分析して作らなければならないものなのです。

 経営計画立案のはじめの一歩は、利益計画を作ることです。  会社を成長させ、社員に給与を配分するために必要な利益(経常利益)をまず計算算し、これに「固定費」を加算し、「粗利益」から「売上高」を逆算して、計画を作ります。  次に、その「売上高」を実現するためには既存の商品・サービスをどれだけ売ればいいのか、また、新規事業や新しい商品・サービスなどをどのように立ち上げるか、新規顧客を何件獲得するかなどを立案して、販売計画に落とし込んでおくのです。  もちろん、前年までの実績や過去の経緯なども踏まえます。  そのうえで、今の会社の状況、商品力、サービスの力、営業力、企画・開発の力、季節要因、会社を取り巻く市場の変化などを読み、ギリギリの精度で利益目標と売上目標を定めます。  さらに、それを月間計画に落とし込みます。安直に「去年の売上や利益に対して前年比 ○%増」とするやり方は愚の骨頂です。  なお、計画を作る際にも、変動 P/ Lが役に立ちます。  変動 P/ Lからは、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」などがすぐにわかり、「粗利益率」や売上高に対する経常利益の比率(売上高経常利益率)などもすぐに計算できるからです。経営計画で目標とする経常利益が決まれば、そこから目標とすべき売上高がすぐに計算できるのです。  このように精緻な経営計画を作り、月次決算をして月次推移変動 P/ Lや月次 B/ S、月次 C/ Fを出していれば、毎月、計画と実績の照らし合わせができます。計画が未達成なら、何かがおかしいわけです。原因を突き止め、改善策を施さなくてはいけません。 ●月次推移変動 P/ Lから得られる指標  月次推移変動 P/ Lで毎月必ずチェックすべき基本指標は、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」です。この基本指標はすぐに見つけることができます。弊社では、さらに月次 B/ Sの数字も使い、次ページにある指標もチェックします。  5つの基本指標と人件費からは、次の6つの重要な指標が計算できます。人件費は「固定費」の中で最も重要な経費で、変動 P/ Lから読み取ることができます。  ・粗利益率 =粗利益 ÷売上高・売上高経常利益率 =経常利益 ÷売上高・損益分岐点比率 =固定費 ÷粗利益・生産性 =粗利益 ÷固定費・労働生産性 =粗利益 ÷人件費・労働分配率 =人件費 ÷粗利益  これらは、月次推移変動 P/ Lから、電卓ですぐに計算できるのです(巻末資料 ①)。

月次推移変動 P/ Lの数字を「年計グラフ」で見る  正しく経営の舵取りをするためには、毎月月次決算をして、「月次推移変動損益計算書」(月次推移変動 P/ L)や「月次貸借対照表」(月次 B/ S)などの月次決算書を見て、そこから経営指標(実績値)をチェックし、経営計画の計画値と照らし合わせることが必要です。  ここでは、さらに一歩進んで、年計グラフを毎月見る重要性について解説します。  年計グラフとは、当月から過去 1年分の合計値を並べたものです。「年計」とは耳慣れない言葉ですが、「移動年計」とも呼びます。  年計グラフを作るのは、数字の後ろに潜んでいる真実を見抜いたり、時系列のお金の流れを見極めたりするためです。  表形式で単月の数字を丁寧に見てもなかなか本質を把握できませんが、年計グラフにすることによって、途端に本質的な動きが見えるようになります  たとえば、年末の大売り出しなどで、 12月に突発的に売上高が上がる会社であれば、 12月単月の売上高だけを見ると、その月だけ数字が跳ね上がっているので、世間の景気や需要の増減を見誤る可能性があります。  しかし、売上高を年計グラフで見れば、 12月時点の数字は1月から 12月までの 1年間の売上高として並べられます。  こうすることで、 12月単月の突発的な数値ではなく、季節要因によらない、「売上高」の純粋な傾向値を把握できます。  弊社では、月次決算で必ず 2種類の年計グラフを作ります。  1つは、収益の状況を月次で精査するために、「売上高」「粗利益」「固定費」「人件費」の年計グラフを 1枚にまとめたものです。  もう1つは、利益と資金繰りの状況を見極めるために、「経常利益」と「営業キャッシュフロー」の年計グラフを 1枚にまとめたものです。  ここで、年計グラフについて、具体的に見ていきましょう。  左の図は売上高を年計グラフにしたものです。

「売上高」以外に、「粗利益」「固定費」「人件費」「経常利益」など、月次推移変動 P/ Lの項目はすべて年計グラフで表すことができます。  さらに、商品別売上、得意先別売上、担当者別売上、支店別売上なども年計グラフで表すことができます。  月次決算時に得られる重要指標は、すべて年計グラフにできるのです。  年計グラフが上向きになっていればプラスの傾向、下向きになっていればマイナスの傾向になっているとわかります。毎月の単独の数字を前月と比較するだけでは、まとまった期間に起こったこと(需要の変化など)をとらえることはできません。  なお、月次決算は、毎月、当月からさかのぼって過去 1年間の数字を出すので、毎月、年度決算しているのと同じことになります。少し細かいことをいうと、年計グラフはできれば 3年分は取りたいところです。 3年分取れば、特殊な変動要因を取り除いた「流れ」が現れ、会社の長期的な傾向が見えてきます。  弊社では、左のような「売上高」「粗利益」「固定費」「人件費」の年計グラフを 1枚にまとめて提供しています。毎月、これを見て、事業の「趨勢」や「潮目」といったものを把握できます。

今月はどれくらい「売上高」が立ち、それがどのように動いていて、翌月以降どうなりそうなのか、流れが変わるポイントはないかといったことです。「粗利益」と「固定費」との差額である「経常利益」も見えます。  また、「固定費」の中で最も重要な「人件費」の年計グラフも合わせて見ることで、数字の裏に潜む会社の「真の」状態や「まだ世間では顕在化していない」市場の動きなどがあぶり出されてくるのです。  年計グラフのパターンからは「流れ」「動き」を見つけ、ある程度の仮説を立てることができます。そこから自社についての詳細な分析と、競合他社を含めた市場動向をつぶさに見て、状況を見極め、正しい対策を立てていきます。

B/ Sの基本を理解する  前章では、管理会計をするうえで土台となる、「月次損益計算書」(月次 P/ L、正確には月次推移変動 P/ L)の読み方を紹介しました。  この章では、管理会計のもう1つの要「月次貸借対照表」(月次 B/ S)の読み方を見ていきます。月次 B/ Sを補足し、精緻な資金繰りをするためのもう1つのツールである「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)については、次章で紹介します。  まずは、 B/ Sとはそもそも何かという基本中の基本、そして B/ Sを深く理解するポイント、という 2ステップで解説します。本章を読み終えれば、月次 B/ Sをどのように見ればいいのかがわかるはずです。 ● B/ Sは「会社の財産リスト」  そもそも、 B/ Sとは何なのでしょうか?  次ページに B/ Sの基本がわかる図を示しました。

 勘のいい人はすぐおわかりですね。そう、 B/ Sとは「会社の財産リスト(持ち物リスト)」です。これが B/ Sの基本であり、本質です。  もう少し正確にいうと、 B/ Sとは「左側には会社の持ち物として、プラスの財産を金額とともに並べ、右側にはそれらを買うために、どのように、いくらお金を集めたかというお金の調達方法を金額とともに並べたもの」です。  つまり、 B/ Sとは、会社の財産のうち「自分のお金で買ったもの」がいくらで、「借金して買ったもの」がいくらかを示すものです。  こうした B/ Sの基本がわかると、会社の健康状態、つまり財務の状況がすぐにわかるようになります。  たとえば、財務関連の重要な指標に「自己資本比率」がありますが、これがパッとわかるようになります。「自己資本比率」は私が最も大切にしている経営指標で、この数字を認識できていない社長は、経営者失格と言われても仕方がないほどのものです。  私は、中小企業経営者向けのセミナーなどで、参加者の B/ Sの理解度を知るために、「あなたの会社の自己資本比率は何%ですか?」という質問をします。  経営の舵取りをする社長であれば、これは常に自分の頭の中に置いておくべきもので、本来は即答できなくてはいけません。  しかし、ほとんどの方が答えられません。 B/ Sの基本がわかっていないからです。  ひと言で「自己資本比率」を表現すると、「全財産のうち自分のものの割合」となります。具体的には、「自己資本」(自分のもの)を「総資産」(全財産)で割った比率です。「自己資本」は「純資産」ともいいます。「自己資本比率」は、「自己資本 ÷総資産 =純資産 ÷総資産」という式で導けます。  中小企業の社長の長期的な目標は、「自分のもの」の割合(自己資本比率)を高めて、現預金を増やすことです。   B/ Sの本質を確実に理解できてはじめて「自己資本比率を高める」「現預金を増やす」という目標の意味がわかり、迷いなく目的に向かって進み、会社を成長させることができます。 ● P/ Lは社員全員で作るもの、 B/ Sは社長が作るもの  また、 B/ Sと P/ Lの異なる点として、「作る人の違い」があります。  中小企業の社長は、「社員が一丸となって努力した結果が P/ Lであり、 B/ Sだ」と思っているかもしれません。しかし、これは間違いです。

  P/ Lは、会社の事業に関する一年間の成績なので、確かに社長をはじめとする全社員の努力の結果で、「社員全員で作るもの」といえます。売上を上げ、コストを下げる、社長以下全社員の努力の結果が経常利益となり、税金を引いた後に残るのが純利益です。   P/ Lは決算後に税務署に提出すれば、その期の P/ Lの役割は終わります。その決算期で出した P/ Lが赤字だったり、思ったような利益が上がらなければ、来期もみんなで新しい P/ Lを頑張って作っていこうということになります。  これに対して、 B/ Sは「社長が作るもの」であり、創業以来の結果です。   B/ Sの項目(勘定科目)をどうするかは、すべて社長が決めることだからです。  たとえば、借り入れ、土地の購入、定期預金の契約・解約、株の購入・貸し付けも、中小企業では必ず社長が決定します。   B/ Sには、歴代の社長の考え、経営方針が表されているといってもよく、創業以来の「社長の成績表」でもあるのです。  まとめると、 B/ Sは創業以来の「会社の財産リストであり、社長が作るもの」が基本になります。

これをしっかり押さえたうえで、さらに深く本質までつかんでほしいと考えています。このために、弊社では B/ Sの5つのポイントをお伝えしています。ポイント ❶  B/ Sはストックの情報としてとらえるポイント ❷  B/ Sは右から左への流れで見るポイント ❸  B/ Sは上から下へと見るポイント ❹  B/ Sを 1年基準で見るポイント ❺  B/ Sを累計で見る  以下の節では、これらを1つひとつ順にくわしく見ていきます。

ポイント ❶ B/ Sはストックの情報としてとらえる  ここからは、 B/ Sの理解をさらに深める、5つのポイントのうち1つ目「 B/ Sはストックの情報としてとらえる」について見ていきましょう。  ここでお伝えするのは、 B/ Sの読み方というよりは、 B/ Sのとらえ方です。   P/ Lが限られた期間の会社の事業成績、つまり「フローの情報」であるのに対し、 B/ Sは創業以来の蓄積された財務の成績、すなわち「ストックの情報」を表します。   B/ Sには、会社創業以来、会社の経営者がどのようにお金を調達し、何に使ってきたか、その結果、どんな財産が会社に今あるのか、創業から B/ Sを出したその時点までの、すべての結果が示されています。   B/ Sの変化を具体例で説明しましょう(左の図参照)。

 山田太郎という社長が、自己資金 1億円を出して、ある製造業の会社 A社を創業したケースです。 B/ Sの右側の「お金の調達方法」には、「資本金」 1億円と記録されています。  そして、山田社長は創業と同時に、自己資金 1億円から、居抜きで 6000万円の工場兼社屋を購入(建物・土地は各 3000万円とする)します。  さらに、 1000万円かけて、その他の設備や什器などの準備を整えました。残りの 3000万円は、仕入れや人を採用する資金として、銀行の当座預金口座に入れてあります。   B/ Sの左側の「会社の持ち物」には、何を買い、それが今どんな形で会社にあるのか、買わなかった分の残りの現金・預金などが記録されているわけです。  どんな会社も、創業時の B/ Sは、おおむねこうしたシンプルな形です。   A社の場合は、資金調達はすべて自前、山田社長自身のお金なので、資本金(自己資本)が 1億円で、借金(負債)はゼロです。  つまり、創業時の会社の全財産は 100%自分のもので、正真正銘の無借金です。「自己資本比率」は自ずと 100%となります。 ●事業活動を進めると B/ Sの形が変わっていく  創業から 2、 3年たつと、健全な会社であれば必ず事業を進め、さまざまな投資も行います。商品販売や製品製造、設備投資、未来への投資でさまざまなお金の出入りがあるので、時がたつにつれて、この B/ Sの形は変わります。  次ページには、創業 3年目を迎えた A社の B/ Sを示しました。矢印は、一連の購買行為(以下の設備投資によるもの)の流れを示しています。

山田社長は、生産力を一気に上げるため、銀行から長期の借入金 3000万円を調達し、そのお金で生産のための機械(設備)を購入したところです。いわゆる、生産拡大を狙った設備投資で、生産のキャパシティを上げて事業拡大を狙っています。山田社長としては創業以来、はじめての「長期借入金」となります。   B/ Sの右側の「長期借入金」は、「 1年後から返済を始める」という条件で借りたので、この時点ではまだ返済は始まっておらず、まるまる 3000万円の借金(長期借入金)が残っています。このお金で、生産のための機械を 2800万円で買ったとしましょう。  買った機械は会社の財産なので、 B/ Sの左側に「機械・装置」として 2800万円分が加算されます。   A社ではまだ投資したい設備があるので、残る 200万円を銀行の普通口座に入れました。「現金・預金」は 200万円増えることになります。「長期借入金」 3000万円が B/ Sの右側(お金の調達方法)に記録され、「機械・設備」 2800万円が左側(会社の持ち物)に書かれます。「現金・預金」に 200万円が追加され、「現金・預金」の欄はほかのこれまでの行為(たとえば借金の返済や売掛金の入金など)と合算された累計額で表示されます。  このように、 A社の B/ Sは、創業時とは様変わりしていることがわかります。  しかし、 B/ Sの基本的な構造そのものは変わりません。  右側には「お金の調達方法」(負債や自己資本)が記録されていますし、左側には「会社の持ち物」として、購入した会社の資産、購入しなかった分の残りのお金などが記録されています。  そして、創業から 2年目、 3年目ともなると、右側の「お金の調達方法」もさまざまになってきます。これは2つに大別されます。  1つは、借りたお金や人に支払うべきお金による調達、つまり「負債」です。  もう1つは、自分のお金による調達、つまり「資本金」や「利益剰余金」などの「自己資本」です。   A社では、資本金の 1億円が「自己資本」に当たり、創業時から変わっていませんが、「負債」が増えているので、「自己資本比率」は創業当初に比べてだいぶ下がり、このときは 40%台となります。  このように、 B/ Sでは歴代の社長がどのような経営をしてきたかがわかります。 B/ Sは毎年積み上げるものなので、過去の会社の歴史や歴代社長の性格がにじみ出るのです。貸し付けをする金融機関は B/ Sを丹念に見て、融資の判断をします。

ポイント ❷ B/ Sは右から左への流れで見る   B/ Sを深く理解するための2つ目のポイントは、「 B/ Sは右から左への流れで見る」です。右側は「お金の調達方法(調達リスト)」、左側はそれを「何に使い、どんな持ち物にしているか(財産リスト)」と考えると、 B/ Sの本質がよく見えます。   B/ Sの右側にある調達したお金は、そのまま左側の財産になるので、右と左の総額は必ず一致します。  一説によれば、右側の高さ(調達リストの総額)と左側の高さ(財産リストの総額)がバランスしている(一致している)ことから「バランスシート」と呼ばれ、別の説では、「残高」の英語「バランス」に由来しているともいわれています。  ここでは、さらに B/ Sの右側の「調達リスト」と、左側の「財産リスト」を少し細かく見ておきましょう。具体的には、どのような勘定科目が並ぶのかに着目します。  左の図に、右から左へのお金の役割の変化(お金から財産へ)を示しました。   B/ Sのすべての勘定科目は、「負債」「自己資本」「資産」という3つの大項目にくくられます。右側の「調達リスト」は、上が「負債」、下が「自己資本」です。

右上の負債には、「支払手形」「買掛金」「短期借入金」「長期借入金」などがあります。右下の自己資本は「資本金」と「利益剰余金」が代表的です。  左側の資産には、「現金・預金」「受取手形」「商品」(在庫)「建物」「車両運搬具」「機械・設備」「土地」などがあります。  現物がある資産とは別に、現物がない資産もあります。誰かに貸した「貸付金」や、支払ってもらえる権利である「売掛金」、「電話加入権」「敷金」「保証金」などがそれに当たります。 ●中小企業の社長は「お金の調達方法」に注目すべし  中小企業の経営者は、 B/ Sの特に右側の「お金の調達方法」に注目する必要があります。なぜなら、 B/ Sの右側には「借りたお金」と「自分のお金」が明確に分けられており、その比率がすぐにわかるからです。   B/ Sの右上の「負債」は、誰から借りているかで、さらに2つに分かれます。1つが「信用債務」で、もう1つが「金融債務」です。「信用債務」とは、簡単にいうと、取引先など金融機関以外からの借りたお金です。仕入れ先へ支払い義務のある「支払手形」や「買掛金」、まだ支払っていない代金である「未払金」「未払費用」です。顧客から請求されたら支払わなくてはならない「預かり金」もあります。どれも借金という感覚を持ちにくいのですが、支払いや返済の義務があるので実質的には借金です。ですから、これを「信用債務」と呼ぶのです。

これら「信用債務」は、利息(利子)が付かないので「無利子負債」などと呼ぶこともあります。  一方、「金融債務」は文字通り、銀行や信用組合などの金融機関からの借金です。こちらは、短期で返済しなければならない「短期借入金」と、長期で返していく「長期借入金」に分かれます。いずれも利息がつくので「有利子負債」です。  注意しなければならないのが、信用債務のほうが金融債務より「返済を強制する力」が強いことです。  金融債務の返済は、いざとなれば、金融機関にリスケジューリング(返済スケジュールの変更)を依頼すれば待ってもらえます。一方、信用債務の返済は待ったなしです。たとえば「支払手形」の返済ができなければ、俗にいう「手形の不渡り」、即倒産の危機です。  では、 B/ Sの右下にある「自己資本」はどういうものでしょうか。「自己資本」は自分のお金での調達を示すものです。「負債」と違い、返す必要がありません。自己資本には、「資本金」と「利益剰余金」が含まれます。「資本金」は「会社設立の際に自分が出したお金」です。株式会社なら株主が出資したお金であり、多くの中小企業では創業時にオーナー社長やその一族が出資しています。  いずれも、自前で調達したお金であり、返す必要のないものです。「利益剰余金」は、ひと言でいうと「過去の利益を積み立てたもの」です。  たとえば、前期の B/ Sで「利益剰余金」が 1億円だった場合、今期 1000万円の純利益が出たら、それが積み立てられ、今期の「利益剰余金」は 1・ 1億円となります。一般に、「内部留保」などと呼ばれます。 ●  自己資金での調達が財務体質強化につながる   B/ Sの「負債」と「自己資本」からは、「自己資本比率」という、重要な経営指標が計算できます。「自己資本比率」とは、「負債 +自己資本」のうち「自己資本」が何%かを示すもので、調達したお金のうち、返す必要のないお金の比率です。  経営の長期的な目標は、「負債での調達」を減らしながら、「自己資金での調達」を増やしていき、財務体質を強化することです。  このために経営者は B/ Sで「自己資本比率」をチェックし、この指標を徐々に上げていくように努力していくべきなのです。  くり返しになりますが、財務体質を強くするためには、自己資本比率を高め、手元の現預金を増やすことが必要です。  まず、「現預金 >借金」となるように、預金をしっかり確保し、財務体質を改善していきましょう。現預金は、いざというときに社員の生活を守れるように年間人件費の 1・ 5倍くらいあれば安心できます。

ポイント ❸ B/ Sは上から下へと見る   B/ Sを深く理解する3つ目のポイントは、「 B/ Sは上から下へと見る」です。このルールがわかれば、早く返さなければいけないものと、すぐに現金化できるものが簡単に見分けられます。   P/ Lは、売上高や経常利益など、経営者にとって比較的わかりやすい勘定科目が並んでいるものなので、まだハードルが低く、理解しやすいものです。  一方、 B/ Sの場合は、資産や負債、資本金といった、実体がつかみにくい勘定科目が数字と一緒に並んでいるため、難しく感じ、遠ざけられてしまうようです。  しかし、実は、 B/ Sの勘定科目の並び方には次の2つのルールがあり、これさえ押さえてしまえば、 B/ Sの理解が一気に深まります。 ① 右側は「早く返さなくてはいけないものほど上に並んでいる」 ② 左側は「早く現金に換金できるものほど上に並んでいる」  上から下へ読むルールを念頭に置いて、 B/ Sを改めて眺めると、途端にその意味がハッキリと見えてくるはずです。  ①は明らかですね。上から信用債務、金融債務、自己資本の順に並んでいます。  ②の「資産」に含まれる勘定科目は少しわかりにくいので、くわしく見ていくことにしましょう。 ●財産リストの上にあるのが「流動資産」   B/ Sの左側の「資産」、つまり「財産リスト」を上から下へ眺めてみると、どんな B/ Sでも一番上に「現金」や「預金」があることがわかります(決算公告などがサイトですぐに見られるので、いろいろな会社の B/ Sを見るといいでしょう)。  一番上には「現金」「預金」「現金・預金」などがあり、その下に、「定期預金」(固定性預金)「受取手形」「売掛金」「在庫」(仕掛品)などの勘定科目があるはずです。これらは、上から順に現金化しやすいものから並んでいるのです。「現金」は、金庫やレジにあるお札や硬貨で、すぐ支払いに使えるものです。「預金」は金融機関の普通預金や当座預金に預けたお金を示します。  今ではオンライン決済や引き落としが手軽にできるので、現金より預金のほうが使いやすくなっています。「現金」と「預金」の2つを合わせて、「現金及び預金」もしくは「現預金」などと一くくりにするのが一般的です。「定期預金」(もしくは固定性預金)は、少し性格が違うので別にします。これは解約すればすぐに現金化できますが、金融機関は解約をいやがります。解約には交渉が必要なので、多少現金化しにくいものになるわけです。  そして、すぐ下の「受取手形」や「売掛金」は、どちらも「支払ってもらえる権利」です。

「受取手形」は取引先に商品やサービスを提供して受け取る「支払ってもらえる権利の証書」です。「裏書き」して支払いに使ったり、割り引いて現金化したりすることができます。「売掛金」は、顧客に品物やサービスを販売したときの対価を「支払ってもらえる権利」です。まだ対価を回収できていない状態です。  一般的には、品物やサービスを引き渡してから入金されるまでは、多少時間がかかります。この間、 B/ Sには権利として「売掛金」と書かれるのです。  信用のおける顧客なら心配いりませんが、何らかの事情で払ってもらえない危険もあるので、比較的現金化しにくいものでもあります。  さらに、製造業なら「原材料」や「仕掛品」、小売業や卸売業なら「商品」(在庫)など、「立替金」などが順に並びます。「在庫」はまだ売れていない商品です。

 このように、 B/ Sの「財産リスト」の上にある現金化しやすい資産を、「流動資産」と呼びます。現金化しやすいとは「流動性が高い」という意味です。 ●財産リストの下にあるのが「固定資産」  そして、「流動資産」の下には、流動性が低い資産、すなわち「固定資産」が記載されます(次ページのように、実際の B/ Sには、「流動資産」の下に「固定資産」という文字があるはずです)。

固定資産は文字通り、固定的なもので、流動性はあまりありません。誰かに売って換金しようとすると、「流動資産」よりずっと手間も時間もかかるものです。  売れないこともあるので、完全に「固定された」資産の可能性もあるわけです。地震や津波によって保有する資産が倒壊したり、設備が浸水被害にあうというような最悪のケースでは、廃棄にお金がかかるマイナスの資産である可能性も含んでいます。「固定資産」には、いろいろな種類があります。「建物」「機械装置」「車両運搬具」「土地」といったものが代表的なものです。これらは、どれも形のあるもので、「有形固定資産」などと呼ばれます。  さらに固定資産の下のほうには、電話の加入権や、ソフトウェアなど、形がないもので換金性の低い資産や、「投資有価証券」や「ゴルフ会員権」「保険積立金」などが並びます。「投資有価証券」とは「株式」や「社債」「国債」など投資目的で所有している有価証券です。「固定資産」は、換金しにくい代わりに、長く所有することで、事業に役立てて利益を生み出すツールと考えるべきものです。  社屋もその土地も、製造業の製造装置、事業で使う車両などはまさしくそうです。長期で所有して会社の売上や利益、社員の福祉などに繋げるための資産といえます。  逆にいえば、会社のために役立たない固定資産は持つ意味はないということです。   B/ Sの左側の会社の財産リストにおける、現金・預金以外の資産は、現金・預金を増やしたり、借金を減らすための「手段」です。ですから、これらの勘定科目の残高はゼロが理想です。つまり、現預金以外の資産を持たず、売上・利益を上げ続ける会社です。実際にはそのような会社はありませんが、これらの科目の残高は少なければ少ないほど効率的でムダのない経営をしていることになります。  投資目的で株式を買ったり、ゴルフ会員権、リゾート会員権といった本業とは関係ないところにお金を使うことは、実は恐ろしく危険なことなのです。 ● B/ Sは左上と右下を鍛える  経営者の大きな仕事は、自分の会社の「 B/ Sを良くすること」つまり、「 B/ Sを鍛えること」です。鍛え方は、先ほどの「上から下へのルール」と関係しています。  左側の資産では「上半身」を鍛えて大きくし、右側の負債と自己資本では「下半身」を鍛えて大きくしていきましょうということです。具体的には、「自己資本比率を上げ、現預金を増やし、ムダな資産を減らす」ということになります。   B/ Sの左側の「上半身」を鍛えるためには、一番上にある「現預金」を増やしていくことが大切です。「現預金」が多ければ、いざというときに困りません。「現預金」が「信用債務」「流動負債」より多ければ、経営的にはかなり安全ですし、「現預金」が「負債」の合計より多ければ盤石と評価されるでしょう。  では、 B/ Sの右側である「下半身」(負債と自己資本)を鍛えていくと、最後はどうなるのでしょうか?  鍛えに鍛えた結果、たどり着く究極の B/ Sの形を左の図に示しました。「資産」には現預金しかなく、「負債」は 0円で、 100%「自己資本」という B/ Sです。  現実には、事業をしている会社でこうした形になることはありません。なぜなら、どの会社も、社員がいて商品・在庫・車両・建物・機械などの資産を使ってビジネスをしているからです。どの会社でも、会社の資産を使って事業をし、売上を上げ、利益を上げようとしています。  もし、こうした資産をまったく使わず現預金が増やせるのであれば、それは究極の事業になりますが、そうしたビジネスはありません。

しかし、この究極の形は、実は会社設立のときに一度だけ現れます。  皆さんの会社も、設立の瞬間はこうだったはずです。資本金を会社に入れ通帳に記帳された瞬間だけは B/ Sがこの形になります。  その後、行動を起こすと、何かしらが増え、 B/ Sの形が変わっていくのです。  たとえば、パソコンや営業車などを買えば B/ Sに載り、現預金はその分減ります。商品を買い掛けで仕入れると、左に在庫、右に買掛金が増えます。在庫が売れれば左の在庫が減ってその分が売掛金に変わるわけです。銀行からの借り入れなら、右に借入金、左に現預金が増えます。  このほか、株主から追加出資してもらえば資本金が増え、毎年の利益を積み増せば利益剰余金が増えます。売掛金を回収すれば売掛金が現預金に換わり、今度はそれを買掛金の支払いに使ったり設備投資に充てたりします。  こうした日々の事業行為がすべて B/ Sに反映され、 B/ Sの勘定科目と金額が合算され、形が変わっていきます。   B/ Sをチェックするときは、「左上と右下が大事」だと肝に銘じておいてください。

ポイント ❹ B/ Sを 1年基準で見る   B/ Sを深く理解するための4つ目のポイントは、「 B/ Sを 1年基準で見る」です。前節で紹介した「上から下へ」ルールと2つ合わせて覚えておけば、さらに深く B/ Sの本質に迫ることができます。特に、会社の安全性など財務状況を簡単かつ感覚的につかめるようになります。 「1年基準で見る」とは、「換金」と「支払い」の期限が 1年より長いものを「流動性が低い」、 1年より短いものを「流動性が高い」とすることです。このルールを使って B/ Sを整理したものが、次ページの図になります。

1年基準で B/ Sを整理すると、 B/ Sが5つのパートから構成されていることがわかります。  たとえば、 B/ Sの左側にある「資産」は、 1年以内に換金できる「流動資産」と 1年以内では換金できない「固定資産」に分けられます。  右側の「負債」は、 1年以内に支払ったり返したりする「流動負債」と、期限 1年を超えて支払ったり返したりする「固定負債」に分かれます。流動性のあるものが固定的なものよりも上に置かれます。  これを見れば、経営者の長期目標となる指標「自己資本比率」(純資産 ÷総資産)だけでなく、会社の支払い能力の目安となる指標「流動比率」(流動資産 ÷流動負債)もすぐにわかります。  さらにくわしく見れば、現預金と信用債務の比率のように、厳密な支払い能力も計算できます。これは社長の大事な仕事である「資金繰り」を考えるうえで、頼りになる指針です。   1年基準で B/ Sを理解できるようになると、会社の財務状況や体質が今どうなっているか、簡単に把握できるようになります。

ポイント ❺ B/ Sを累計で見る   B/ Sを理解するための最後のポイントは「 B/ Sを累計で見る」です。  ほとんどの経理担当者や会計事務所は毎月、当月分の B/ Sしか出しません。  しかし、経営者が見るべきは期首から当月までの B/ Sの勘定科目がどのように変化したかです。  そのため、 B/ Sは累計でも見る必要があるのです。  累計 B/ Sでわかるのは、現預金、借入金、純資産、売上債権、買掛債務、棚卸資産、固定資産の動きです。  当月のみの B/ Sではこれらの動きがわかりません。  特に累計 B/ Sで見るべきポイントは、「長期借入金」の返済額と「減価償却累計額」と「当期純利益」の3つのバランスです。  社長の関心ごとの1つに「借入金」がありますが、「自己資本比率」を高めることによって、「借入金依存度」(総資産に占める借入金の割合)は減ります。つまり、借入金が少なくなるのです。  もし、「長期借入金」の返済額より「減価償却累計額」のほうが多ければ、原則として利益がゼロでも借入金の返済ができます。少なくとも当期純利益 +減価償却累計額が返済額を上回れば、追加借入をして借入金を返済する必要はありません。  しかし、現実はほとんどの会社で借入金返済額のほうが、当期純利益 +減価償却累計額を上回っています。  中小企業の B/ Sの理想は、完全無借金で「自己資本比率」 60%以上、「現預金比率」 60%以上です(第 5章でくわしく説明します)。  まずは「借入金依存度」 33%、「自己資本比率」 33%、「現預金比率」 33%が目標となります。現預金 ≧借入金の実質無借金で、自己資本と同じ額の現預金を持つということです。   B/ Sはお金の動きと残高を表しているので、各科目の金額の増減を見ることはできますが、 B/ Sの各科目の借方、貸方の増減からお金の動きを適切に読み取ることはなかなか困難です。この増減部分を要約して、わかりやすく表現したものが C/ Fなのです。   B/ Sを見るときに、 C/ Fも併せて見る必要があるのはこのためです。

社長が月次 C/ Fを読む意味  前章では、「月次損益計算書」(月次 P/ L)と並ぶ管理会計のもう一本の柱である、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)の基本と深く理解するコツを紹介しました。  会社の健康状態である財務状況を把握するためには、毎月きちんと B/ Sをチェックすべきということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。  本章では、第 3のツール、会社の「血流検査表」に当たる「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)の読み方を紹介しましょう。  財務基盤が弱い中小企業の社長にとって、最大の関心事は資金繰りです。  そして、資金繰りに必要不可欠なツールが C/ Fです。資金繰りに悩む中小企業の社長ほど、 C/ Fは毎月チェックしなければなりません。  ところが、 C/ Fについては、 B/ S以上に理解していない社長が多いのです。「金融商品取引法」という法律が適用される上場企業は、 C/ Fの提出が義務づけられています。ですから、大企業の社長は比較的 C/ Fへの目配りができています。  これに対して、「会社法」や「税法」では、 C/ Fの提出は義務づけられていません。そのため、中小企業の多くは C/ Fを作っていません。中小企業の社長が C/ Fに無頓着なのは、こうした背景があるからです。 ●キャッシュフロー計算書とは何なのか?  では、 C/ Fとは、どういうものなのでしょうか。「キャッシュフロー計算書」は一般に「 C/ F」と書かれ、「シーエフ」などと呼ばれます。英語では「 Cash Flow Statement」となります。   C/ Fはこの英語の頭文字を取った略称で、英語の通り、まさに「お金の流れの明細書」という意味です。   C/ Fは、大きく次の3つのパート(3つのキャッシュフロー)から成ります。 ① 営業キャッシュフロー(営業活動によるキャッシュフロー) ② 投資キャッシュフロー(投資活動によるキャッシュフロー) ③ 財務キャッシュフロー(財務活動によるキャッシュフロー)  これらは、 B/ Sに記載されている「現預金」の勘定科目に注目して、その増減(キャッシュの増減)を原因ごとに3つに分類して示したものです。  この3つに加えて、「営業キャッシュフロー」と「投資キャッシュフロー」を足したものを ④「フリーキャッシュフロー」と呼びます。   C/ Fには、この4つのキャッシュフローがあると覚えておきましょう。  巻末には、弊社が社長にお渡ししている C/ Fを掲載しているので、参考にしてください(巻末資料 ③)。

事業活動によるキャッシュの増減がわかる「営業キャッシュフロー」  では、まず「営業キャッシュフロー」(営業 C/ F)から説明しましょう。  営業 C/ Fは、会社本来の事業活動によるキャッシュ(現預金)の増減を表すものです。「営業活動によるキャッシュフロー」とも呼びます。  会社が何らかの営業活動をすると、その結果として「売掛金」や「受取手形」、「買掛金」や「支払手形」が発生したり、「棚卸資産」の増減が発生したりします。「売掛金」や「棚卸資産」の増加は、営業 C/ Fではマイナスです。  商品を販売しお客さまの手元に渡しても、現金商売でなければ、すぐにキャッシュにならないからです。  左の図で「受取手形 +売掛金の増減」が 47・ 5(百万円)となっているのは、 4750万円の現金化ができ、営業活動でキャッシュが増えたことを示しています。 ●送金・振り込みされてはじめてキャッシュが増える  一般に商品やサービスの売買が行われても、実際のキャッシュになるまでに時間がかかります。「売掛金」や「受取手形」という、いずれ現預金になる資産が増えるだけで、手元のキャッシュは増えません。「売掛金」や「受取手形」は、実際に送金されたり、口座への振り込みがなされてはじめて、キャッシュに変わります。  つまり、商品やサービスの売買が行われた段階では増えるべきキャッシュが増えないので、「売掛金」や「受取手形」の増加は、営業 C/ Fではマイナスなのです。  また、商品を仕入れて「棚卸資産」が増える場合も、営業 C/ Fではマイナスです。手元のキャッシュが減り、「棚卸資産」という資産に変わるからです。

事業活動によるキャッシュの増減がわかる「営業キャッシュフロー」  では、まず「営業キャッシュフロー」(営業 C/ F)から説明しましょう。  営業 C/ Fは、会社本来の事業活動によるキャッシュ(現預金)の増減を表すものです。「営業活動によるキャッシュフロー」とも呼びます。  会社が何らかの営業活動をすると、その結果として「売掛金」や「受取手形」、「買掛金」や「支払手形」が発生したり、「棚卸資産」の増減が発生したりします。「売掛金」や「棚卸資産」の増加は、営業 C/ Fではマイナスです。  商品を販売しお客さまの手元に渡しても、現金商売でなければ、すぐにキャッシュにならないからです。  左の図で「受取手形 +売掛金の増減」が 47・ 5(百万円)となっているのは、 4750万円の現金化ができ、営業活動でキャッシュが増えたことを示しています。 ●送金・振り込みされてはじめてキャッシュが増える  一般に商品やサービスの売買が行われても、実際のキャッシュになるまでに時間がかかります。「売掛金」や「受取手形」という、いずれ現預金になる資産が増えるだけで、手元のキャッシュは増えません。「売掛金」や「受取手形」は、実際に送金されたり、口座への振り込みがなされてはじめて、キャッシュに変わります。  つまり、商品やサービスの売買が行われた段階では増えるべきキャッシュが増えないので、「売掛金」や「受取手形」の増加は、営業 C/ Fではマイナスなのです。  また、商品を仕入れて「棚卸資産」が増える場合も、営業 C/ Fではマイナスです。手元のキャッシュが減り、「棚卸資産」という資産に変わるからです。

一方で、「売掛金」や「受取手形」が現金化されると、「売掛金」や「受取手形」という資産が減って、「現預金」という資産が増えます。  ですから、「売掛金」や「受取手形」の減少は、営業 C/ Fではプラスになります。「棚卸資産」の減少も、営業 C/ Fではプラスとなります。  また、「買掛金」や「支払手形」の増加は、営業 C/ Fではプラスになります。こちらも、商品やサービスの売買と同時にキャッシュが出ていくわけではないからです。

投資活動によるキャッシュの増減がわかる「投資キャッシュフロー」  続いて紹介するのは「投資キャッシュフロー」(投資 C/ F)です。  投資 C/ Fは、設備投資や固定資産購入によるキャッシュの増減を表すものです。いわゆる、設備投資や有価証券、固定資産などの購入や、売却による現預金の出入りを示します。  一般には、設備や固定資産を購入すると、現預金が減るので投資キャッシュフローはマイナスです。  たとえば、生産のための機械や設備、営業のための車両などを買ったときのことを考えましょう。この場合、 B/ Sの資産に計上されますが、購入費用の全額が P/ L上の費用になるわけではありません。  費用になるのは一部(減価償却費)だけで、キャッシュだけが出ていきます。  実際には全額支払っており、支払った分のお金が出ていくので、投資 C/ Fはマイナスです。ですから、利益が出ているのに手元にキャッシュがない、という事態が生じるのです。  逆に、不要な設備を売って代金をキャッシュとして受け取ると、投資 C/ Fはプラスとなります。

そして、「営業 C/ F」と「投資 C/ F」の合計が「フリーキャッシュフロー」(フリー C/ F)です。  フリーキャッシュフローは、会社の営業活動と投資活動を合わせたキャッシュの増減を表します。極めて大事な指標で、言うなれば、会社の本業の活動による現預金の出入りということになります。

財務活動によるキャッシュの増減がわかる「財務キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」(財務 C/ F)は、とてもシンプルで、主に金融機関からの借金の増減を示したものになります。借り入れをすると、財務 C/ Fはプラスになり、返済するとマイナスになります。「長期借入金」と「短期借入金」の増加は、借金した分だけキャッシュが増えることになるので、財務 C/ Fはプラスになります。逆に借入金を返済すれば、その分手元のキャッシュは減り、財務 C/ Fはこの分マイナスになるのです。  この借入金の追加や返済のほかに、手形の割引や役員からの借り入れ、配当によるキャッシュの増減なども、財務 C/ Fにカウントします。  借入金の返済額が多い中小企業の場合、財務 C/ Fのチェックはとても大切です。

●「本業で稼いだ現預金で借金が返せるか」を見る  月次 C/ Fの中で、中小企業の社長が一番見なければならないポイントは、「フリー C/ Fで財務 C/ Fがまかなえているか」です。  本業によって毎月入ってくるキャッシュが借金の返済で出て行くキャッシュより多いかどうかを常に見て、不足しないように目を配り、事前に対策を打つことが資金繰りです。  そのため、月次 C/ Fは、「フリー C/ F」と「財務 C/ F」のバランスが一目でわかるように出す必要があります。

資金繰りは月次 B/ Sと月次 C/ Fを併せてチェックすることから  社長の中には、 C/ Fは、 P/ Lや B/ Sに並ぶ、3つ目の決算書類と思っている人がいますが、実はそれは違います。   C/ Fをひと言でいうと、「 B/ Sの一部であり補足資料」です。  具体的には、 B/ Sの中の1つの勘定科目であるキャッシュ(現預金)に着目して、その増減について、理由ごとに分類したものが C/ Fです。  キャッシュの増減が営業的な理由によるものなのか、投資活動によるものなのか、金融機関などからの借り入れや返済によるものなのかなど、きちんと理由が見えるようにした補助書類なのです。  弊社では、単月 B/ Sと単月 C/ F、累計 B/ Sと累計 C/ Fを、毎月社長にセットでお見せして、財務とお金に強い経営者になってもらう努力をしています。  中小企業の社長が資金繰りをきちんとしていくためには、毎月、単月と累計の B/ Sを見て定点チェックをしたうえで、必ず単月と累計の C/ Fを見ること、つまり2つを併せて見ることが必要です。   C/ Fは、中小企業の資金繰りには絶対に欠かせないツールですが、単独で使うものではなく、 B/ Sと併せて使うものなのです。   C/ Fと併せて見ることで、 B/ Sの理解も進み、深く読めるようになります。  社長がつかむべき情報は、当期にいくら借金をして、いくら返済したのか、これからどれくらい返済するのか。また、今期になっていくら設備投資したのか、その資金はどこからまかなわれているのか。そして重要なのは勘定科目の増減です。  単月 B/ Sだけでは、社長が本当に知るべき情報がつかめないのです。  特に、累計 C/ Fは、累計 B/ Sの借方と貸方の増減を要因別にまとめた、経営において不可欠な資料です。「現預金」の額はもちろん、借金の返済や買掛金・支払手形の支払いなど、お金の流れを把握し、原資となる現預金が手当てできているかどうかを確認できます。 ●月次 B/ Sと月次 C/ Fはこう読む  まず月次 B/ Sを見て、資金の流れを大まかにつかみます。  具体的には、月次 B/ Sの「現金」「預金」の数字が書かれたところを毎月、定点観測します。現預金の増減と手元に残るキャッシュの残高を把握します。「現金・預金合計」の「期首残高」、今月の増加分(借方の欄に記載される)、減少分(貸方の欄に記載される)、そして当月の残高……というように、「現預金」の流れを押さえるのです。  月次 B/ Sに載っている当月の現預金が 3000万円でも、どんどん減った結果の額なのか、あるいはずっと安定して 3000万円前後をキープしているのかによって、状況はまるで違います。前者は資金ショートのピンチですし、後者はもしかすると順風満帆かもしれません。  さらに、月次 B/ Sの「負債」の欄にある「長期借入金」「短期借入金」などの残高、その増減、さらには「買掛金」「支払手形」など、取引先に支払わなくてはいけない「信用債務」の額とその増減も併せてチェックします。  そして次は、月次 C/ Fをチェックしていきます。  月次 C/ Fからは、毎月の現預金の増減とその理由がハッキリとわかります。  月次 B/ Sの「資産」の一番上の「現預金」の残高が、どんな理由でいくら増減したのかが明確に示されています。  会社のビジネス、すなわち営業活動による増減なのか、それとも投資活動(土地建物や設備等への投資や有価証券投資など)によるものなのか、はたまた借金の返済やさらなる借り入れに理由があるのかがハッキリと見て取れます。  月次 B/ Sでは、現預金の残高と増減額はわかりますが、その原因まではわかりません。現預金の増減はさまざまな事業行為が合わさり、その合算結果として月次 B/ Sに出ているので、これだけを見ていても何が原因で、どれだけ影響しているのかは見えません。必ず月次 C/ Fと併せて見る必要があるのです。  私は中小企業の社長が B/ Sを読めず、資金繰りがわからない理由は、会計事務所が累計 B/ Sと累計 C/ Fを作成しておらず、 B/ Sの目的と見るべき勘定科目を教えていないからだと思っています。おそらく、 P/ Lの目的・読み方、 B/ Sの目的・読み方もきちんと説明していません。ましてや、毎月 C/ Fを作っているところはほとんどありません。  それは、多くの会計事務所が「正しい税金計算をすることのみがわれわれの仕事だ」と仕事の範囲を狭くとらえ、中小企業で必要とされるお金の儲け方と、お金の残し方に興味がないからです。中小企業の社長が数字に弱いのは、会計事務所の怠慢だといわれてもしかたないと思っています。  ですから、中小企業の社長は、経理担当者や税理士に月次 C/ Fを毎月出してもらうようにしてください。良い道具を使うことで、数字の意味がつかめるようになるはずです。

経営で重要な 11の経営指標  ここからは、月次決算書類から得られる経営指標のうち、極めて重要なものに絞り、その読み方をくわしく解説していきます。企業経営では、会社の業績や財務力、会社の価値を測るため、さまざまな経営指標が用いられます。  しかし、あまりに多くの指標を見ようとすると、かえって判断を誤ります。経営の舵取りでは、見るべき指標を限り、重点的に見たほうがよいのです。  弊社では、中小企業の社長に毎月「古田土式・月次決算書」をお渡しして、「月次推移変動損益計算書」(月次推移変動 P/ L)と「月次貸借対照表」(月次 B/ S)、「月次キャッシュフロー計算書」(月次 C/ F)などの数字をもとに、会社の状況を正しく把握してもらいます。  その中で、「売上高」「変動費」「粗利益」「固定費」「経常利益」などの基本指標とは別に、「月次決算書」から得られる次の 11の経営指標を共有し、一緒にその意味を考え、経営の舵取りに役立ててもらっています。 ① 粗利益率(粗利益 ÷売上高) ② 損益分岐点比率(固定費 ÷粗利益) ③ 売上高経常利益率(経常利益 ÷売上高) ④ 生産性(粗利益 ÷固定費) ⑤ 労働生産性(粗利益 ÷人件費) ⑥ 労働分配率(人件費 ÷粗利益) ⑦  R OA(経常利益 ÷総資産) ⑧ 自己資本比率(自己資本 ÷総資産) ⑨ 持続力指数( ROA×自己資本比率) ⑩ キャッシュフロー ⑪ 資金力(資金別貸借対照表)  どれも月次推移変動 P/ Lと月次 B/ S、月次 C/ Fが手元にあれば、すぐに計算でき、ひと目でわかるものばかりです(巻末資料 ①)。  たとえば、 ①~⑥の経営指標は、すべて月次推移変動 P/ Lの数字だけで導き出せる収益性の指標で、 ⑦の「 ROA」は月次推移変動 P/ Lと月次 B/ Sから導き出せます。 ⑧の「自己資本比率」は、月次 B/ Sだけで計算でき、 ⑦と ⑧はどちらも、会社の資産や借金などの財務状況も含めた総合的な経営指標です。  さらに、手元の現預金の流れを見る ⑩のキャッシュフローは、単月と累計の C/ Fの情報そのもので、 C/ Fを見ればひと目でわかります。  最後の ⑪資金力は、月次 P/ Lと月次 B/ Sから、「資金別貸借対照表」(資金別 B/ S)という資金の流れを示す特殊な B/ Sを作り、そこから求めるものです。会社の資金力の強さを総合的に判断する弊社独自の指標で、解説すると 1冊の専門書ができるくらいの話になるので、本書では触れません。  ここからは、 ①~⑩までの基本的な経営指標について順に見ていきます。

「粗利益率」の改善で経常利益が大きく増える   11の経営指標の1つ目が「粗利益率」です。これは、簡単にいえば「儲けやすさ」を示す指標です。「粗利益率 =粗利益 ÷売上高」で導き出すことができ、売上高に対する粗利益の比率を表します。「粗利益」(粗利)とは、「変動損益計算書」(変動 P/ L)で、「売上高」から「変動費」を差し引いたもので、毎月の「粗利益率」は「月次推移変動損益計算書」(月次推移変動 P/ L)から求められます。「粗利益率」は会社の事業がどれだけ付加価値を高めているかを、最もシンプルに表すものです。

一般に、仕入れた商品を売る薄利多売の業種では「粗利益率」は低くなり、製造業のように自社で付加価値をつけた製品を作り販売する業種では高くなります。  たとえば、会計事務所やコンサルタント業など、仕入れなどにかかる「変動費」がほとんどない業種では、売上高がほぼそのまま「粗利益」となるので、「粗利益率」は 100%近くになります。このほか、理美容業は 90%前後です。飲食業では 70%前後となります。他に製造業では 40 ~ 60%、建設業では 20 ~ 40%、小売業が 20 ~ 30%、卸売業が 10 ~ 20%といったところです。  経営戦略は、「粗利益率」の高低によって違ってきます。「粗利益率」の高い業種であれば、「数の戦略」で粗利益を増やしていくべきです。  このとき、顧客数と商品販売数がポイントになります。現在の顧客数を減らさず、新規顧客獲得数を増やしていくことが、粗利益を上げることにつながります。  一方、「粗利益率」の低い業種であれば、自分で値決めのできる「付加価値の高い商品」の開発をするべきです。「粗利益率」の低い業種では、価格、仕入値が粗利益に大きな影響を与えます。価格競争型の商品では差別化できず、大企業に潰されてしまうことになります。 ●「粗利益率」 1%アップで経常利益が 10%増加「粗利益率」が重要なのは、この数字を少し改善するだけで収益性が大きく上がるからです。具体的な例を紹介しましょう。   A社の変動 P/ Lは、売上高 1億円、変動費 7500万円、固定費 1500万円、経常利益 1000万円となっています。変動 P/ Lでは、粗利益は固定費 +経常利益なので、粗利益は 1000万円 + 1500万円 = 2500万円となります。売上高 1億円に対して、粗利益 2500万円なので粗利益率は 25%です。  この A社は、仕入れのコストダウンをできる限り進めて、粗利益率を 1%上げ、 26%にすることに成功しました。 1%というわずかな改善では、変動 P/ Lではどの程度よくなったのかは一見するとよくわかりません。  しかし、これ以降、 A社が同じ 1億円を売り上げたとすると、粗利益率 26%なので、粗利益は 2600万円と 4%の増加になります。固定費は 1500万円で変わらないので、経常利益は 1100万円です。経常利益の増加率は 10%にもなります。つまり、「粗利益率」 25%の会社が「粗利益率」を 1%上げると、 4%も粗利益が増えるのです。経常利益にいたっては、 10%もの増加になります。  このように、売上高や粗利益率の増減による粗利益や経常利益の増減を計算することを「増分原価計算」といいます。  社長は毎月変動 P/ Lを使って、こうした計算をしながら数字に強くなっていただくとともに、社員に数字教育をしていただければと思います。

「損益分岐点比率」 80%なら理想的  私が中小企業の収益性を見るときに、一番重要視する経営指標が「損益分岐点比率」です。「粗利益の中で固定費がどれだけあるか」を示す指標で、「損益分岐点比率 =固定費 ÷粗利益」という式で導き出すことができます。「変動損益計算書」(変動 P/ L)の売上高から変動費を引いた「粗利益」と「固定費」から求められます。  損益分岐点比率の数値が小さければ小さいほど、利益が出やすい体質であることを意味します。これは、「損益分岐点比率」を式で見ればすぐにわかります。  一般に、固定費をできる限り減らして、粗利益をできる限り増やせば、収益性は上がります。「損益分岐点比率」の式でいえば、分子の固定費が小さく、分母の粗利益が大きいことを意味します。すなわち、「損益分岐点比率」が低い会社のほうが、収益性が高いのです。  中小企業の場合は、「損益分岐点比率」は 80%が理想的な数値です。 80%を下回れば優良企業、 90%を下回れば中小企業としては健全です。「最低限 90%を下回る」ことが中小企業の目標としては妥当です。「損益分岐点比率」の目標は 90%、理想は 80%と覚えておきましょう。 ●「損益分岐点比率」の数字で自社の成績を知る「損益分岐点比率」は、自社が健全な企業なのか、それとも未来が危ない企業なのか、それとも優良企業なのかを判断できる指標でもあります。  弊社では、 3000社以上の中小企業とお付き合いしてきた経験とデータをもとに、「損益分岐点比率」での格付け表を作っています(左の図参照)。

 たとえば、「損益分岐点比率」が 60%未満なら、その会社は超優良企業です。中小企業ではなかなかここまでの会社はありません。私たちの格付け表では「 SS」ランクとなります。「損益分岐点比率」が 60%以上・ 80%未満は「 S」ランクです。競争力がある優良企業です。  そして、 80%以上・ 90%未満は「 A」ランクの会社です。競争力があって明るい未来が待っている健全企業です。このように「損益分岐点比率」を見れば、自社の収益性の善し悪しがハッキリとわかります。  中小企業の社長は、毎月、自社の「損益分岐点比率」がどのくらいになっているのか、きちんと月次決算をして押さえておくことが重要です。  そして、この格付け表と照らし合わせ、今の状況を把握し、状況が良ければさらに改善の手を考え、状況が悪ければ問題点を探し出し対策を打つ。その繰り返しをしていただければと思います。  自社の「損益分岐点比率」が 90%台なら、 80%台に持っていけないかと考える。それができたら、次は、もっと低く 80%にできないかと考えて手を打っていくのです。 ●「固定費」は単に削ればいいというものではない  では、実際に「損益分岐点比率」を下げるには、どうすればいいのでしょうか。「損益分岐点比率」は「固定費 ÷粗利益」なので、「損益分岐点比率」を下げるためには、次の2つの方法が、経営にとって良いことになります。 ①分母の「粗利益」を大きくする ②分子の「固定費」を小さくする  一見、当たり前のように見えます。ところが、実はとても奥深く、難しい問題を含んでいます。たとえば、「損益分岐点比率」を下げるために、「固定費」を削減しようとする人がいます。よくあるのが、人件費を削り、未来への投資、開発費や人材採用の費用を削るやり方です。人件費を単なる固定費とみなし、とことん削ろうとするのです。

確かにこうすれば、その時点での「損益分岐点比率」は下がります。分母の「粗利益」が変わらない状態で、分子の「固定費」が小さくなるからです。  しかし、このやり方は明らかに間違っています。会社を成長させたいのであれば、人件費を惜しんではいけません。  中小企業は、大企業や公務員に比べて、 1人当たりの人件費は低くなっています。十分な開発費や人材採用費をとらないことによって、売上を上げるための新しい取り組みや、新商品や新サービスの開発といった、会社の未来を切り拓く取り組みが手薄になりがちです。これでは、そもそも社員がついてきてくれませんし、新しい人も採用できません。  当然、こうした会社は衰退の方向に向かいます。売上は次第に減り、粗利益そのものも減っていきます。分母の粗利益が減るので、「損益分岐点比率」が高くなることが予想できます。 ●「未来への投資」は減らしてはいけない  中小企業が「損益分岐点比率」を下げるためには、むやみに固定費を減らす方向ではなく、粗利益を増やす方向で企業努力をする必要があります。  もちろん、固定費のある部分、特にムダな部分は、できるだけ削減しなければいけません。  しかし、未来を切り拓いたり、会社を成長させる部分には使わなくてはいけないのです。  社長には、未来の成長に資する部分はむしろ増やしながら、「損益分岐点比率」を下げていくバランス感覚が求められます。  固定費の中には、会社の成長にとって重要な〝未来への投資〟が含まれます。いわゆる「未来費用」といわれるものです。  既存の商品・サービスの売上を今以上に増やしたり、より収益性の高い新しい商品やサービスを創り出していくための費用がそれにあたります。  特に、人件費のある部分は未来費用と考え、できる限り頑張っている社員に報いていく意識が重要です。  新卒社員の人件費、力のある中途社員の採用費用もれっきとした未来費用です。また、新商品や技術の開発費、設備投資、広告宣伝費、教育費なども未来費用に当たります。こうしたものを一律に減らしてしまえば、未来の成長は望めません。「損益分岐点比率」の目標を達成した場合も、「会社の未来のための固定費を、使っていないのではないか」というチェックを常に怠らないようにしましょう。固定費のムダと未来費用を明確に切り分ける感覚が必要です。  固定費が思ったよりも少ない場合には、未来費用が足りていないことがあります。  未来費用に計画的にお金を使い、なおかつ利益を出すのが正しい経営のやり方です。  銀行や経営調査会社の経営分析表には、収益性の指標として「売上高経常利益率」や「総資本経常利益率」などがあります。これらの指標は自社のみの比較では使えますが、一般的には使えません。業種によって粗利益率がまったく異なるからです。  正しい収益性の指標は、「損益分岐点比率」です。これは全業種に使えます。社長には勘違いをしないようにしていただければと思います。

損益分岐点比率から「売上高経常利益率」の目標値を設定  3つ目の経営指標は「売上高経常利益率」です。文字通り「売上高に対して、どれだけ経常利益が出るか」を示すもので、「粗利益率」よりもさらにダイレクトに儲けやすさを示す指標といえます。  売上高をどれだけ増やせば、経常利益がどれだけ増えるかがわかります。毎月の月次推移変動 P/ Lから、「売上高経常利益率 =経常利益 ÷売上高」という式で導き出すことができます。  さて、この「売上高経常利益率」について、現代の経営の神様ともいえる京セラ創業者の故・稲盛和夫氏は講演や著書で常々、「売上高経常利益率が 10%なければ、経営者失格だ」と述べています。稲盛和夫氏を知る社長は、この言葉を真摯に受け止め、「売上高経常利益率 10%」を目指しているでしょう。  ところが、実のところ、これは製造業以外の業種には適用できない、と私は見ています。なぜなら、先ほど述べた通り、業種によって粗利益率が異なるからです。売上高経常利益率 10%を目指すと、業種によっては判断を間違えることになります。  粗利益率の低い卸売業では、平均的な粗利益率が 10%程度しかないので、「売上高経常利益率」 10%は、そもそもムリな話です。粗利益は、固定費と経常利益を足したものであり、固定費は人件費や家賃など必ずかかるものだからです。つまり、粗利益は必ず経常利益よりも大きくなるので、会社の売上高経常利益率と粗利益率の関係は必ず、  粗利益率 >売上高経常利益率  となります。  粗利益率が 10%の会社は、必ず「売上高経常利益率」が 10%未満になるのです。粗利益率が 20%の会社でも「売上高経常利益率」 10%は、ほぼ不可能というくらいの難しい数値です。 ●損益分岐点比率 80%から目標値を設定  では、「売上高経常利益率」の目標値は、どのように考えればいいでしょうか。  稲盛和夫氏のいう「売上高経常利益率 10%」という目標は、粗利益率が 50%くらいとなる製造業を念頭に置いた数字です。粗利益率が低い小売業や卸売業などの業種では、「売上高経常利益率 10%」という目標はなかなか達成できません。

 逆に、弊社のような会計事務所やコンサルティング業では、粗利益率がほぼ 100%なので「売上高経常利益率 10%」では目標として低すぎます。売上高がほぼそのまま粗利益になるからです。このような会社では、「売上高経常利益率」は 20%が目標値となります。粗利益率と同じように、「売上高経常利益率」も業種によって目標値が変わります。  以下、粗利益率ごとの「売上高経常利益率」のめやすを示します。 ◆粗利益率が高い業種の売上高経常利益率:目標値 15 ~ 20%  主にサービス業(粗利益率 90 ~ 100%)がこれに当たります。理美容業(粗利益率 90%前後)では 18%くらい、飲食業(粗利益率 70%前後)は 14 ~ 15%を目指すのがいいでしょう。 ◆粗利益率が中間的な業種の売上高経常利益率:目標値 5 ~ 10%  主に建設業や製造業がこれに当たります。  建設業(粗利益率 20 ~ 40%)の目標値は 4 ~ 8%、製造業(粗利益率 40 ~ 60%)の目標値は 8 ~ 12%といったところになります。

◆粗利益率が低い業種の売上高経常利益率:目標値 2 ~ 6%  主に卸売業(粗利益率 10 ~ 20%)や小売業(粗利益率 20 ~ 30%)などの薄利多売の業種がこれに当たります。  なぜ、こうした値になるのでしょうか。  稲盛和夫氏の提唱した「売上高経常利益率 10%」は、製造業を念頭に置いた、粗利益率 50%、売上高に対する固定費比率を 40%と仮定すると出てくる数字です。  売上高 10億円の会社であれば、粗利益 5億円、固定費 4億円なので、経常利益は 1億円です。「売上高経常利益率」は、経常利益 1億円を売上高 10億円で割ると、 10%になります。この会社の「損益分岐点比率」(固定費 ÷粗利益)は、固定費 4億円 ÷粗利益 5億円で 80%となります。  前節で述べたように私は、中小企業の理想的な損益分岐点比率を 80%と考えています。中小企業の理想的なバランスは、粗利益率を 100%としたときに、固定費 80%、経常利益 20%、損益分岐点比率が 80%というものです。  業種によらない指標である損益分岐点比率の中小企業における理想値を 80%とすれば、稲盛氏が売上高経常利益率 10%を目標とすべきだと説く理由について、すべて腑に落ちるのです。「損益分岐点比率」(固定費 ÷粗利益) 80%を実現する会社は、自ずと「経営安全率」(経常利益 ÷粗利益)が 20%になります。「売上高経常利益率」は、経常利益 ÷売上高 =(経常利益 ÷粗利益) ×(粗利益 ÷売上高) =経営安全率 ×粗利益率となるので、「売上高経常利益率」は「粗利益率」と「経営安全率」 20%を掛け合わせたものになります。ですから、「売上高経常利益率」は「粗利益率」ごとに異なり、 183、 185ページのようになります。中小企業の理想的な「売上高経常利益率」は、損益分岐点比率 80%を目安として導き出せるのです。

「生産性」の目標は 1・ 11倍、理想は 1・ 25倍  一般社会では「生産性が高い・低い」という言葉が飛び交っていますが、この「生産性」、具体的には何を意味するのか、実のところあまり理解していない人も多いのではないでしょうか。  一般には、「生産性」とは、生み出した何かの「成果」(産出やアウトプットともいう)を「投入」(インプットともいう)で割ったものが、生産性です。「生産性 =成果 ÷投入」という計算式で導き出すことができます。  分子の「成果」や「産出」は、売上高や利益のような金額や、商品の販売量や生産量であったりします。分母の「投入」は、費用や人数、工数(人数 ×時間)です。

分子と分母に何を入れるかによって、さまざまな生産性があります。経営者によっては、社員の働き方の効率を生産性と考えて、働き方改革を進めたりしている人もいます。  このように、人によって「生産性」の定義は違い、会社の中でよく混乱を招いているのです。  これに対して、弊社の「生産性」の定義は明確です。  成果を粗利益(付加価値)、投入を固定費とします。つまり、「生産性 =粗利益 ÷固定費」です。この「生産性」では、「固定費」という投入に対し、どのくらい粗利益が上がるかを見ています。  この「生産性」は、会社の儲けやすさの体質がわかる指標といってもいいでしょう。  また、この「生産性」は、「損益分岐点比率」(固定費 ÷粗利益)の逆数でもあります。2つの指標は同じものを、視点を変えて見たものといえます。  中小企業の「損益分岐点比率」については、最低限の目標が 90%、理想は 80%なので、「生産性」の最低限の目標は 1・ 11倍、理想値は 1・ 25倍になります。

重要な3つの「労働生産性」  先ほどご紹介したのは「固定費」を分母にとった「生産性」ですが、分母を変えると、別の観点からも「生産性」を分析できます。特に重要なのが、次の3つの「労働生産性」です。  いずれも会社の規模や人員構成などによって異なるので、目標の数値化は難しいのですが、前節で示した「生産性」の数字を参考にしながら、自社の目標を設定してください。目指すべきは、分子の「粗利益」を増やすことです。 ① 賃金生産性 =粗利益 ÷人件費 ② 社員 1人当たりの生産性 =粗利益 ÷平均社員数 ③ 労働時間当たりの生産性 =粗利益 ÷社員の総労働時間  どの指標も分子が「粗利益」であることがわかります。つまり、何かを「投入」して、どれだけの「成果」(粗利益)を上げられるかを見ています。  ①「賃金生産性」は、総人件費に対してどれくらいの「粗利益」を上げているかを見る指標です。人件費は「固定費」の中で最も重要な費用なので、よく使われます。  ②「社員 1人当たりの生産性」は、文字どおり、社員 1人当たりどれだけの「粗利益」を稼ぐかを示す指標です。平均社員数は、 1年を通しての平均の社員数です。競合他社の数字や統計データを見ると、業界・業種ごとの適正な「社員 1人当たりの労働生産性」がわかるので、自社の「粗利益」から適正な社員数を計算できます。  ③「労働時間当たりの生産性」は、「粗利益」を社員の総労働時間(社員数 × 1人当たりの労働時間)で割ったもので、働き方の効率を示す指標です。私は中小企業の社長に、よく「生産性を上げてください」と言いますが、これは、こうした分子が粗利益の「生産性」指標を念頭に置いて、「もっと効率よく粗利益が上がるようにしなさい」という意味です。

よく生産性を高めるための議論をする場合、どうしても分母の固定費を小さくすることばかりに目が向きがちです。設備投資による合理化や、人件費の削減、労働時間の短縮、その他の固定費の削減などです。  ところが、こうした分母の固定費の削減は、一時的には対処できますが、継続的に削減はできません。必ずどこかで限界がきます。経営が苦しい中小企業では、どうしても賃金を下げる動きにつながります。しかし、社員の幸せを考えることが経営の根幹であり、賃金を下げようとするのはよほどのことでもない限り、あってはならないことです。  また、 ITツールやソフトなどを導入して、社員の時短勤務を進めて生産性が上がったと喜ぶ社長を見かけますが、社員の仕事の効率が上がっても、粗利益が増えなければ会社としては意味がありません。  結局は「稼げるかどうか」です。粗利益が上がらなければ、生産性は上がったとはいえないのです。  ですから、生産性を高めたいのであれば、まず、どうやって粗利益を上げていくかを考えることです。こういう場合に、これらの「生産性」の指標を駆使していただきたいのです。

「労働分配率」で経営の効率がわかる「賃金生産性」に関連する重要な指標が「労働分配率」です。簡単にいうと「会社が社員に対してどれだけ報いているか」を示す指標です。「労働分配率 =人件費 ÷粗利益」の式で導き出すことができ、「賃金生産性」の分子と分母を逆にしたものです。  この「労働分配率」についても、会社の業態や人員構成などによって目標値は変わってきます。中小企業の社長としては、常に人件費を上げる方向で考えていただきたいのです。  中小企業は大企業ほど社員に給料を出せませんが、それでも、優秀な人材を集めなければ未来は開けません。  社長はこの労働分配率という指標を常にチェックして、自社がどれだけ社員に報いている会社なのかを把握する必要があります。

会社の業績だけを考え、「労働分配率」を常に下げようとして人件費を抑え込もうとする経営者がかなり多くいますが、私はむしろ逆だと思っています。ここでは、典型的な例を取り上げてみましょう。 ●「労働分配率」は人件費を抑える目的で使ってはいけない   A社は、社員 1人当たり 300万円の経常利益がある会社で、中小企業としては十分儲かっている会社です。この A社の社長から、あるとき私に相談がありました。「会社で契約している経営コンサルタントから『あなたの会社の労働分配率を見ると、 60%と高すぎます。社員の給料を減らしましょう。適切な労働分配率は 50%です』と言われているのですが、どうすればいいでしょうか?」というものでした。   A社の社長は、「うちの会社は、社員 1人当たりの経常利益は 300万円あります。競合他社と比べても、会社としては十分儲かっているはずです。コンサルタントの提案とは逆に、うちの給料は安すぎるんじゃないか。もっと給料を出してもいいはずなのですが……」と悩みを私に訴えられたのです。  経営コンサルタントと A社の社長、 2人の考え方・方針はまったく逆であり、どちらかが間違っているはずです。  社長の問いに私は「コンサルタントの方の提案は間違いで、社長の考え方が正解です」と答えました。「労働分配率」は人件費と粗利益の割合で決まりますが、この割合はその会社が労働集約的なのかどうかで決まります。   A社は労働集約的な会社でしたが、 1人当たりの経常利益が 300万円も出ている高収益企業です。さらに給料を上げても問題ありません。  私は「弊社のお客さまには、労働分配率が 40%になると赤字になる会社があります。労働分配率で給料の高い低いを決めるのは間違いです」と答えました。  また、一般的には「労働分配率は 50%が妥当であり、 60%になると利益はなくなってしまい、それ以上になると倒産する」といわれることもありますが、これも間違いです。  会社の業態が多くの社員を必要とする労働集約的なものか、それとも少ない社員で回せるスタイルなのかによって、目標とする「労働分配率」は変わるものです。つまり、「労働分配率」の目標値は、業種によって異なるので一律に決められないのです。  一般的な「労働分配率」の指標はありませんが、自社の適正な「労働分配率」は損益分岐点が 80%や 90%のときの人件費と粗利益の割合で決められます(ちなみに弊社では、変動 P/ Lを含む、損益分岐点比率を 85%とし、「労働分配率」が 60%という経営計画です)。  中小企業の「労働分配率」は、粗利益が上がれば下がり、粗利益が下がれば上がるものと考えるべきです。  中小企業の社長においては、「労働分配率」を人件費を抑える目的で使うのではなく、世間相場や同業者以上の給与水準を目標とし、それをカバーする粗利益の獲得を目指すことこそ正しい経営です。経常利益アップと固定費アップをまかなうのは、粗利益のアップなのです。  社長は、自社の商品やサービスを他社と差別化し、競争力を高め、同時に営業力を強化し、高収益型の事業構造を作ってください。これが粗利益アップの唯一の方法です。

「ROA」の目標は 5%、理想は 10% 「ROA」は、「総資本経常利益率」、あるいは「総資産経常利益率」と呼ばれる経営指標で「アールオーエー」などと略称で呼ばれます。「 Return On Assets」の頭文字を取ったもので、文字通り、「資産」( Assets)に対する「利益」( Return)の割合を表します。  これは「どれだけの資産でどれだけ経常利益を出しているか」、つまり「どれだけ効率よく利益を出しているか」がわかる指標です。  会計の用語でいうと、会社の「総資産」(総資本)( B/ Sの大きさ)に対する「経常利益」の比率を%で表したものです。「経常利益 ÷総資産」で導き出すことができます。   M& Aの観点からは「企業価値(会社を買うときに必要なお金と、毎年どれだけの経常利益を生むか)がわかる指標」ともいえます。  銀行等はこの「 ROA」を収益性の指標としていますが、「 ROA」は収益性ではなく効率性を表す指標です。収益性の指標は「損益分岐点比率」なのです。  中小企業の社長に求められるのは、この「 ROA」を見て、より少ない総資産でより多くの経常利益を出す方法を考える経営なのです。  弊社では、「 ROA」の目標を 5%、理想を 10%としています。業種によって違いますが、多くの中小企業の「 ROA」は 1 ~ 3%といったところです。  では、「 ROA」を高くするために、どういう戦略を取ればいいでしょうか。 「ROA」を導き出す式から考えると、「 ROA」を高くするには、「分子の経常利益を増やす」、もしくは「分母の総資産を減らす」、ということになります。  前者の「経常利益を増やす」というのはもちろん正しいのですが、これでは「もっと儲けましょう」と言っているのと同じです。もう少し精緻に見ていきましょう。 「ROA」の式を、次のようにそれぞれ2つの要素に分解すると、戦略が見えます。   ROA =(売上高 ÷総資産) ×(経常利益 ÷売上高)「売上高 ÷総資産」は「総資本回転数」などと呼ばれるものです。%で表す場合は「総資本回転率」になります。同じ指標の別の言い方です。「経常利益 ÷売上高」は「売上高経常利益率」です。つまり、 ROAは次のように書き直せるのです。   ROA =「総資本回転数」 ×「売上高経常利益率」  この式から、「 ROA」を高めるには、「総資本回転数」と「売上高経常利益率」を両方増やすか、どちらかをほぼ一定に保ちながら他方を増やす、ということになります。  一般に、「売上高経常利益率」は、画期的な新商品や新サービスが生まれれば別ですが、そうやすやすとは上がりません。まして景気が思わしくなければ、頑張って固定費を削減しても売上も下がりがちで、なかなか上がらないものです。  したがって、「総資本回転数」の分母である「総資産」を減らす努力が、 ROAを高める(経営の効率を高める)効果的な戦略となります。

弊社ではこの「総資本回転数」を上げることをおすすめしていて、通常 1回転、目標 1・ 5回転、理想 2・ 5回転としています。  たとえば、「売上高経常利益率」が 2・ 5%と低い会社が、「 ROA」を理想値の 10%に近づけるためには、「総資本回転数 = 4」を目指すことになります。  ムダな資産を売却して、売上高の 1/ 4にまで総資産を減らすのです。同じ会社が「 ROA」を目標値の 5%にしたければ、「総資本回転数 = 2」を目指します。  日本は台風、水害、地震など自然災害が多い国です。万が一、自社が自然災害で被災した場合、棚卸資産、設備や機械がダメになり、廃棄費用がかかります。  すなわち、 B/ Sの左側、資産の部に計上されているものは、現預金以外は多くの資産価値がなくなったり、マイナスの財産になったりするのです。  こうしたことに備えて、総資産を圧縮する経営に舵を切って、経営の効率を高める必要があります。「総資本回転数」の目標を決めることによって、売上高に対して総資産の額が決まるので、あと総資産をいくら圧縮すればよいのか、具体的な数字が見えてきます。 ●「 ROA」からは「持たざる経営」の重要性がわかる  さて、「 ROA」の式(経常利益 ÷総資産)を見ると、経常利益を増やし、総資産を圧縮することが重要とわかります。  前者は売上と粗利益を増やし、固定費を下げる努力であり、社長以下全員が取り組むことです。社長が意識すべきは分母の総資産を減らすことです。  大きな設備投資をしてリスクテイクし大きな利益を目指すのは、有望なスタートアップならいいかもしれませんが、中小企業には向きません。  中小企業は不要な資産を持たずに、いかに効率的に稼ぐかが重要です。 「ROA」は、総資産を圧縮して B/ Sをコンパクトにすることで良くなります。  よく似た指標に、「 ROE」がありますが、こちらは「 Return On Equity」の略称で、「自己資本利益率」です。株主視点での指標であり、「株主が持っている資本(自己資本)で、どれだけ利益が出せたか」を示すものです。自己資本の少ない中小企業では、意味のない指標です。

「自己資本比率」の目標は 30%超、理想は 60%以上「自己資本比率」については、くわしくは第 6章で紹介するので、ここではポイントだけ解説します。「自己資本比率」は、企業の安全性を測るものさしとしてよく使われる指標です。私が財務関連の指標で最も重視するのが、この「自己資本比率」です。「自己資本 ÷総資産」で導き出すことができます。「自己資本比率」は、「貸借対照表」( B/ S)から求めることができます。具体的には、「総資産」( B/ Sの大きさ)に占める自己資本の割合を%で示したものです。  弊社では中小企業の社長に対して、「自己資本比率」の目標は 30%超、理想は 60%以上というめやすを示しています。 ●「自己資本比率」が高い企業は潰れにくい  第 3章で説明した通り、 B/ Sでは左側は会社の財産リスト、右側はその調達方法を示しています。会計の世界では、他者からの借金や債務で調達したものを他人資本、自分がお金を出して調達したものや利益を出して内部保留したものを自己資本といいます。次ページの B/ Sにこれを示しました。

自己資本は「純資産」とも言い、「資本金」や「利益剰余金」などが含まれます。前ページの B/ Sでは「総資産」 1億 8000万円に対し、「純資産」 1億円なので、「自己資本比率」は 55・ 56%となり、理想に近い数値です。  他人資本は、いわゆる「借金」や「債務」を指します。銀行などからの借金(借入金)は「金融債務」です。取引先に後で支払わなければいけない「買掛金」や「支払手形」などは「信用債務」と呼ばれます。「自己資本比率」が高い会社は、他人に返さなければいけないお金が少ないことを意味します。言い換えれば、「安全性が高く潰れにくい企業」です。「自己資本比率」を上げると、次の3つのメリットがあります。 ① 会社経営が安定しやすい ② 金融機関からの融資が受けやすい ③ 会社の売却時に高い評価がつきやすい「自己資本比率」が高い企業は、それだけ自分たちの意志で自由にコントロールできるお金を多く持っていることを意味します。つまり、それだけ会社経営が安定しやすいのです。「自己資本比率」が低く他人資本が多いと、常に返済を意識してお金を使わなければいけません。できることも限られ、経営が思うようにできなくなる可能性が高くなります。  また、「自己資本比率」が高いと、融資が受けやすいメリットもあります。  銀行にとって融資はメインの仕事ですから、お金を貸せる企業には貸したいと思っています。「自己資本比率」が高ければ、第一印象で銀行からの評価が上がります。  さらに、「自己資本比率」が高いと、会社を売却するときに高い評価がつきやすいというメリットもあります。「自己資本比率」が高い会社は財務基盤がしっかりしていると評価されるので、高い値段で売却できる可能性が高くなるのです。  逆に、「自己資本比率」が低いと、それだけ他人資本のお金が多いことを意味します。返済や利子の支払いが膨らむので、資金繰りは厳しくなる傾向にあります。  銀行から見ればリスクが高く、融資に慎重にならざるを得ません。そのため、資金繰りがいっそう厳しくなる傾向があります。 ●自己資本比率と現預金比率の両方を高める  ただし、「自己資本比率」が高い企業がすべて「良い企業」というわけではありません。なぜなら、「自己資本比率」が高くても、現預金が少なければ企業は財務的にリスクのある状態だからです。「自己資本比率」が高くても、現預金が少ないのは危険です。  企業は儲からないから倒産するのではなく、お金が無くなるから倒産します。つまり、「自己資本比率」が高い企業でも、現預金が少なければ、倒産リスクを抱えていることになります。  たとえば、借入金はよくないと考えて借入金の返済ばかりに目がいくと、どうしても現預金が少なくなっていきます。その状態で急な出費が必要になった場合、対応できなくなる可能性があります。  また、借入金が少なくて「自己資本比率」が高い会社でも、資金、つまり手元の現預金が少なかったり、未来に対する投資が適切に行われていないケースがあります。  資金の少ない会社は資金不足で倒産するので、とても危険な企業であると認識すべきですし、未来費用を使わない会社は新しい商品・サービスの開発ができなかったり、未来を担う人材が育ちにくいので事業が先細ったりしていきます。  いざというときのためにも、ある程度の現預金は用意しておきましょう。  取引先への支払い分、つまり「買掛金」や「支払手形」など「信用債務」の額以上の現預金があれば安心です。銀行はいざとなれば「リスケジューリング」を依頼できますが、取引先への支払いは待ったなしだからです。  左の表は、業種ごとの「自己資本比率」の平均値を示しました。自社の「自己資本比率」の目標値を何%にするか、また現状がどうなのかという判断の材料にしてください。「自己資本比率」を高くするにも、取り組む順番や戦略が大切です。「自己資本比率」を高くすることだけに注目するのではなく、現預金や未来への投資とのバランスを見つつ、「自己資本比率」を高める戦略を描いていきましょう。

「持続力指数」の目標は 300以上、理想は 600以上  経営指標の「 ROA」と「自己資本比率」を掛け合わせたものが、「持続力指数」です。企業の持続力を示す指標です。「持続力指数 = ROA×自己資本比率」で導き出すことができます。企業の効率性を表す「 ROA」と、企業の安全性を表す「自己資本比率」から持続力がわかるのです。「持続力指数」が高い会社は、身体が丈夫でなおかつ成長を続けている若いアスリートを思い浮かべるといいかもしれません。「 ROA」が高ければ、企業規模から考えて効率よく利益が上がっていることを意味します。  また「自己資本比率」が高ければ、負債の比率が低いため資金繰りで悩むことが少なくなると同時に、銀行などからの信用も高く融資も受けやすくなります。たとえ赤字が一定の期間続いたとしても資金が十分にあれば、持ちこたえられます。  したがって、この2つの指標のかけ算の数値が高ければ、その企業には持続力があると判断できるわけです。  弊社では、この「持続力指数」を最低限 150以上( ROA 5% ×自己資本比率 30%)にしましょうと言っています。「持続力指数」の目標値は 300以上( ROA 6% ×自己資本比率 50%)、理想は 600以上( ROA 10% ×自己資本比率 60%)です。

フリーキャッシュフローで財務キャッシュフローがまかなえているかを見る  資金繰りの要であるキャッシュフローは、第 4章で紹介した「キャッシュフロー計算書」( C/ F)でくわしく見ましたが、ここでも簡単に整理します。   C/ Fは、 B/ Sの中の1つの勘定科目である「現預金」に着目して、その増減を ① 事業活動によるもの(営業キャッシュフロー) ② 投資によるもの(投資キャッシュフロー) ③ 借り入れや返済によるもの(財務キャッシュフロー)  に分類整理したものです。  財務キャッシュフローは、主に借金の借り入れと返済による現預金の増減です。金融機関などから借り入れをすると財務キャッシュフローはプラスになりますし、返済するとマイナスになります。  ①と ②を足したものは「フリーキャッシュフロー」と呼び、このフリーキャッシュフローはいわば本業による現預金の増減であり、極めて重要なものです。  中小企業の社長は、累計 C/ Fで、フリーキャッシュフローによって財務キャッシュフローがまかなえているかどうかを見る必要があります。  ここからは、本業で稼いだ現預金で、借金を返済できるかどうか把握することができます。  すなわち、会社本来の事業活動によって得られるキャッシュ(フリーキャッシュフロー)の増加分が、借入金の返済によるキャッシュ(財務キャッシュフロー)の減少より多いかどうかを見ることが資金繰りの本質なのです。  さて、本章では、経営をするうえでの重要な 10の経営指標について、くわしく紹介しました。  毎月、きちんと月次決算をして、3つの月次決算書を手にすることで、これらの指標をチェックすることができます。ぜひ、自社の経営に活かしていただければ幸いです。  続く第 6章では、この経営指標の中で最も重要な指標である、「自己資本比率」について、さらに詳細に見ていきます。

「自己資本比率」を高めると財務体質が強くなる  社長の長期的な目標は、「会社の財務体質を強くすること」です。経営の基盤ともいえる財務体質が脆弱なままでは、会社を成長させることはできません。特に中小企業の社長にとっての最大の KPI(重要業績評価指標)は、財務体質を表す「自己資本比率」です。本章では「自己資本比率の向上」について、深く掘り下げます。  目指すところは、「月次貸借対照表」(月次 B/ S)の「借金の比率を減らして、自己資本の比率を増やすこと」、そして同時に「手元にあるキャッシュ(現預金)の額を増やすこと」です。  わかりやすくいうと、左の B/ Sのように、左側のムダな資産を現金化し「総資産を圧縮する」と同時に、右側の借金の比率を減らしていくイメージです(具体的な総資産の圧縮方法については、本章の最後でくわしく紹介します)。

財産を自前のものにしていくことで、「自己資本比率」は上がります。  毎年、利益が出て手元の現預金が残るようなら、できる限り借金の返済に充てること、また有効利用できていないムダな資産があれば、できる限り売却などで現金化していくことが重要です。 ●「売上・利益が大きい会社」が「財務体質が強い会社」ではない  では、経営の安全性を高めるために、どのように財務体質を強くしていけばいいのでしょうか。少し細かく見ていきましょう。  社長が毎月やるべきことは、主に次の4つに整理できます。 ① 資金繰り(資金の調達と運用) ② 利益管理(売上・粗利益・経常利益の確保) ③ 財務体質の改善(借金を減らし、預金を増やす) ④ 新しいチャレンジをする(新事業、新サービスの開発)  この中で、「自己資本比率」の向上は、 ③「財務体質の改善」に当たります。  世の中の社長には、売上や利益さえ上がっていれば手元のお金は増えていくものだ、財務体質が改善されるものだと信じている人がたくさんいます。  しかし、これは大きな勘違いです。  毎年利益が出ているにもかかわらず会社の財務体質が弱い、というのは実はよくある話です。極端な話、黒字にもかかわらず資金繰りで倒産する企業さえあるのです。  売上や利益が上がっていることと、会社の財務体質が強いことは必ずしも一致しません。財務体質が強い会社とは、売上や利益が大きい会社ではなく、「自己資本比率」が高く、手元に潤沢な現預金を持っている会社なのです。  わかりやすい実例で見ていきましょう。 ◆自己資本比率 30%の A社のケース(借金の返済に追われていない状態)  ここでは、 1500万円の現預金が手元にある A社の例を見ていきます。   A社が4月に 500万円で品物を仕入れ、5月に 800万円の売上を上げたとしましょう。仕入れも販売も、いずれも掛けでのビジネスで、仕入れの支払いは 2カ月後、売上の入金も 2カ月後とします。   800万円の売上高に対して費用は 500万円なので、この取り引きとしては、差し引きで 300万円の利益になるはずです。この場合、何となく現預金が増えるようなイメージを持つでしょう。  ところが、現預金の残高を見ると、実際には、仕入れのための 500万円の(買掛金)の支払い期限が先にきて(この場合は6月)売掛金の入金は後になる(この場合は7月)のが一般的なので、6月の現預金残高は 1000万円に減るのです。

 仕入れの支払いから 1カ月遅れて、7月に売掛金の回収分が 800万円入ってくるので、7月になれば 1000万円の現預金が 1800万円に増えますが、6月のタイミングで見ると、利益がでているはずなのに、現預金が減る現象が生じるのです。  こうした出金と入金のタイミングのズレ、さらにはその時の会社の財務状況(手持ちの現預金の額と自己資本比率)によって、事態は大きく変わります。  この A社の例では、6月にいったん手元の現預金が減って一時的に財務体質が悪化しても、その翌月の7月に売掛金の入金があって事なきを得ました。また、 A社は自己資本比率も 30%と、中小企業としては財務状況も悪くなく、手元の現預金に余裕があり、借金の返済にも追われていなかったので特に問題はありませんでした。 ●自己資本比率が低い場合は倒産の危機も  では、もしこの会社の自己資本比率が極めて低く( 10%程度で借金の返済に汲々としている状況)、さらには手元には現預金が 300万円しかないカツカツの状況で同じことが起こると、どうなるでしょうか。  その場合は、6月にいきなり資金ショートに陥ります。つまり、6月には仕入れの代金 500万円を支払わなくてはなりませんが、手元には 300万円しかありません。この時点で、 200万円の資金ショートになります。  この資金ショート分を銀行に借りたり、手持ちの受取手形を割り引いて現金をつくったり、お金の手当を大慌てでする必要が出てきます。  しかも、自己資本比率が 10%程度と低い場合、同じタイミングで借入金の返済のタイミングが重なる可能性も高いのです。もし、不幸にも手元の現預金が少ない状況で、仕入れ代金の支払いと借入金の返済が重なれば、完全な資金ショートであり、倒産の危機ということになります。  これは短期的な例ですが、年度決算のタイミングで考えると、毎年きちんと利益を「利益剰余金」として積み上げていない場合も、利益は上がっているのに年々財務体質は悪化していく、ということになります。  残念なことに、中小企業の経営者の多くは、その年の業績が好調であったりすると、税金を払うのが嫌だからと、事業経営に必要のないムダなものを買って手元の現預金を減らしています。こうなると、毎年利益が上がっていても、一向に財務体質は改善しないどころか、次第に悪化していきます。  財務体質改善の王道は、毎年きちんと利益を上げ続け、税引後の利益を利益剰余金として積み上げていくことです。こうすれば自己資本(純資産)が増え自己資本比率が上がります。これは同時に借金を減らし、手元にある現金や預金を増やしていくことにほかなりません。  つまり、継続的に利益を上げ、それをきちんとした手順を踏んで「自己資本比率」を上げ、「現預金比率」を高めていくことが、真正面からの財務体質改善法といえます。

自己資本比率を上げるために「当期純利益」を「利益剰余金」に積み上げる  では、どうすれば会社を財務体質の強い会社にしていけるのか、ここでは第 2章で述べた変動 P/ Lを見ながら、具体的な手続きを紹介します。変動 P/ Lは、売上から仕入れや材料費などの変動費を引き、粗利益を出し、そこから人件費や販売管理費などの固定費を引いて経常利益を出したものです。ここに特別利益や特別損失を足し引きすると、税引前利益が出ます。  一般に、税引前利益のうち約 3分の 1が法人税などの税金に取られるので、税引前利益の残り 3分の 2ほどが「当期純利益」になります。  毎年決算時に、 1年間の事業成績である P/ Lの「当期純利益」が、毎年 B/ Sの右下の純資産(自己資本)にある「利益剰余金」に積み上がり加算されるのです。 ● P/ Lの「当期純利益」を B/ Sの「利益剰余金」に足していく  時系列に沿って見ていきましょう(左の図参照)。

たとえば、 1500万円ほどの税引前利益が出た会社を想定します。  このうち 1/ 3ほど、つまり 500万円ほどは法人税として支払うので、残り 3分の 2の 1000万円が「当期純利益」になります。  この「当期純利益」 1000万円が、前期の B/ Sの純資産にある「利益剰余金」に加算されて、積み上がるわけです。  来年も税引前利益が出れば、同じように税金を支払って、同じように残りの 3分の 2ほどを純資産に入れていきます。この繰り返しです。  こうして純資産を年々増やしていくことが王道の経営です。  しかし、一般的な中小企業の多くがこの真逆のことをしています。  たとえば、決算前に今期かなりの経常利益が出そうだ、という見立てが出てくると、節税として決算前に何かを買って経費を増やし、税引前利益を減らす経営者がいます。経営者だけではありません。それをすすめる税理士もいます。経費が増え、税引前利益が圧縮されると、支払う税金が減って経営者が喜ぶというわけです。  しかし、これでは純利益も減るので、利益剰余金はあまり積み上がっていきません。当然、 B/ Sの純資産はなかなか増えず、自己資本比率も高くならないのです。毎年、こうしたことを繰り返すと、いつまでたっても純資産が増えず、財務体質は脆弱なままです。  もちろん、必要なタイミングでの節税は大切ですが、不要な経費を増やしてまで節税をするのは論外です。  大きな経済危機やトラブルがあってもビクともしない会社は例外なく、きちんと利益を出し、税金を払って「利益剰余金」という純資産を積み上げてきた会社なのです。

「自己資本比率」 60%超で、「信用債務」以上の現預金残高があれば盤石  第 5章でも述べましたが、中小企業においては、「負債」が 40%よりも少なく、「自己資本比率」が 60%以上となることが理想的な財務状態です。   B/ Sで見ると、右側の「負債」よりも、その下にある「自己資本」のほうが大きいことが、財務体質が良い状態です。  多くの中小企業は、「利益剰余金」が十分積み上げられていませんし、資本金も多くありません。銀行から借り入れをしなければ経営が回らないことが多く、借入金の比率が多くなり、「買掛金」「支払手形」など取引先への「信用債務」もかなり多くなっています。中には「債務」総額が、 B/ Sの左側の「資産」総額とほぼ同じくらいという、「債務超過」寸前の会社も少なくありません。「自己資本比率」が 10%くらいしかない中小企業はとても多いのです。  こうした会社は、金融機関からの借り入れも多く、毎月の返済に四苦八苦しています。財務的には危険な状態です。  危険な財務体質を改善していくためには、「自己資本比率」を常にチェックしてそれを上げるように努力しながら、借入金の残高を徐々に減らしていくことが大切です。  中小企業の社長は、まずは「自己資本比率」 30%超で実質無借金の状態を目指してください。  実質無借金とは、手元にある現預金の額と金融債務の総額、つまり、金融機関からの借入金の合計額がほぼ等しい状況を指します。完全に無借金ではありませんが、金融機関から返済を求められたら返せるという意味で〝実質無借金〟です。  この状態になるためには、まず総資産の 30%の現預金を確保するまで、借入金を増やします。まずは、手元のキャッシュを十分に持ち、経営を安定させるのです。  借入金の残高と同額の現預金を手元に置くことを目指します。  これができたら次は、この「現預金比率」 30%超を維持した状態で、資産の圧縮や利益を出して、借入金を減らしていきます。  こうして負債を減らしながら、「自己資本比率」を上げていきます。

最終的に目指すべき理想は、「自己資本比率」が 60%超で、金融機関からの借入金はゼロ。仕入先からの信用債務よりもずっと多い現預金がある状態です。すなわち、完全無借金状態でかつ、支払い能力が盤石の理想経営です。  完全無借金を否定する経営者やコンサルタントもいますが、世の中には完全無借金で多額の設備投資をして、急成長している中小企業はたくさんあります。  ある完全無借金の企業は、社員数が 430名を超え、自己資本比率は 90%以上で、過去最高の売上高を更新し続けています。 2022年からは、 5年間に未来費用として、システム開発に 12億円投資します。すべて、自己資金による投資です。 ●究極の「自己資本比率」 90%超も可能「自己資本比率」が高く、現預金を潤沢に持っている会社の経営は、当然安定します。大きな経済危機がきて売上が大きく落ちても、しばらくの間は支払いに窮せず、社員とその家族を養っていくことができます。  弊社のお客さまでは、コロナ禍で、一時期、売上高が 6割ほど落ちた会社があります。

しかし、その会社は「自己資本比率」が 90%と高く、資産の内で現預金を 60%も持っていました。危機にもビクともせず、社員の雇用を守り、落ち込んだ売上も、新商品の開発や新サービス、新規市場の開拓によってすっかり回復しました。こうした会社は例外なく、税金をきちんと払って利益を純資産として積み上げてきた会社です。  かくいう、私たち古田土会計グループも純資産 24億円で完全無借金、自己資本比率は 90%以上あります。数字上 100%には足りていませんが、これは事業をするうえで未払いの社会保険料や法人税など一時的な負債が生じるためです。  資産のうち現預金の比率が 60%近くあり、保険積立金を加味すると、 80%の金融資産を保持しています。  経営においては、まず財務を固め、人材が育ってきた段階で、拡大の戦略をとっています。  拡大するのは、 1社でも多くの中小企業に P/ L、 B/ S、 C/ Fの目的を正しく理解し、お金の儲け方と残し方を学んでもらうためです。  そして、儲けた利益を会社で働く社員と、その家族を幸せにするために分配してほしいと思っています。  すなわち、「人を大切にする経営」を日本中の中小企業に広めることが、拡大する目的です。

日本では大災害が 10年スパンよりももっと短く、頻繁に起こっています。そうした被害に遭っても社員を守れるように、蓄えとして利益を積み上げています。さらに、固定資産の半分以上は保険積立金なので、いざというときに換金できます。  弊社では、コロナ禍で苦しむ飲食業等のお客さま数十社の顧問料や決算料などを、 3カ月間半額にしました。こうした即断も、強い財務体質があればこそできるわけです。 ●「現預金比率」の目安は 30%以上  そして、「自己資本比率」とセットで押さえておきたい指標が「現預金比率」です。「現預金比率」は、「現預金」の額を「総資産」で割った比率です。  弊社では、中小企業の目標として「自己資本比率」を 30%以上にするだけでなく、「現預金比率」も 30%以上にしていきましょうとお伝えしています。  左の図のように、 B/ Sの右側は自己資本が 1/ 3、信用債務と金融債務の合計が 2/ 3のイメージです。

 できれば、「買掛金」や「支払手形」などの信用債務も 1/ 3、金融機関からの借り入れである金融債務も 1/ 3とバランスよくするのが望ましい状態です。  これは現預金の合計が、信用債務か金融債務のうちどちらかより多い状況にしておき、どちらかを急遽返さなくてはいけないときに備えるわけです。  これが中小企業の目指すべき財務の状態であり「実質無借金」になります。

財務状況は B/ Sの形で判断できる  この節では、財務状態の善し悪しを、「貸借対照表」( B/ S)の形で判断する方法をご紹介します。全部で 8パターンあり、「自己資本比率」の向上という長期的な目標を目指す際の参考になります(次ページ参照)。

◆パターン ① 完全無借金の B/ S  まずは、最もよい B/ Sの形です。  理想的な財務の状態を示すものであり、弊社では「完全無借金」と呼んでいます。総資産のうち純資産(自己資本)が 60%以上、つまり「自己資本比率」が 60%以上で、「現預金比率」も 60%以上ある状態です。信用債務と金融債務を合わせても 30%台しかないので、借入金をどんどん返済し、さらに「自己資本比率」を上げていける理想的な状態です。 ◆パターン ② 優良な実質無借金の B/ S   2番目が「優良な実質無借金」です。  負債総額は総資産の 50%程度で、金融機関からの借り入れはお付き合い程度です。仕入れ先からの買掛金や、顧客からの預かり金などの信用債務もあります。しかし、両者を合計した額以上の現預金があり、「現預金比率」は 50%以上です。 ◆パターン ③ 実質無借金の B/ S   3番目は「実質無借金」であり、中小企業が目標とすべき状態です。総資産に対して現預金が 1/ 3以上、買掛金や預かり金などの信用債務が 1/ 3、金融債務が 1/ 3、純資産が 1/ 3というものです。 ◆パターン ④ 当面の危険はないが改善したい B/ S   4番目は、いわば金融機関からの借り入れを、借りられるだけ借りている会社に多い形です。現預金が多いのですが借入金も多く、現預金の出入りが多い会社です。  この B/ Sのタイプの会社は、支払利息がかなりの金額になります。先が見通せないような金融危機のときにはこの形が現れ、返済期間・返済が始まるまでの猶予期間が長い融資を受けられたときは、むしろこの形に誘導することもあります。  ただし、平常時はこの形から脱却して、現預金を使って借り入れも減らすべきです。  また、普段から複数の金融機関から借りられるだけ借りるというスタンスでは、いざ業績が悪くなったときにメインバンクがお金を貸してくれない可能性があります。  なぜなら、メインバンクからすれば「どこかが助けてくれるでしょ。こんなときだけうちに頼らないでください」となるからです。ですから、複数行から借りる場合も、メインバンクをきちんと定めて、節度ある借り方をしておくことが重要です。 ◆パターン ⑤ 中小企業の典型で改善すべき B/ S   5番目は、中小企業で最も多い形です。  現預金が少なく(総資産に対する比率が 10 ~ 15%程度で)、借入金が過多という会社の B/ Sです。  こうした会社では、社長が B/ Sの目標を定めていないケースが多々見受けられます。 B/ Sの目標がないのに、気がついたら現預金が増えていたなどということは絶対ありません。社長が意図して B/ Sを作るようにしなければいけません。 ◆パターン ⑥・ ⑦ 隠れ危険企業の B/ S   6番目と 7番目は現預金が少なく、金融債務がない、あるいは少ないという会社です。現預金をどんどん減らして借入金を返すような会社にありがちな B/ Sです。  支払手形の中には、支払利息と危険負担料が入っています。  こうした B/ Sの会社の社長で無借金を自慢する人がいますが、金融機関からは敬遠されます。「無借金なのに今さらお金を貸してくれなんて言われても……。現預金が少ないから危ない」と金融機関は身構えます。  現金商売の会社に多いのですが、こうした B/ Sにするくらいなら、しっかり借りたほうがいいでしょう。  また、金利がもったいないからと、借入金を返済して支払手形を増やしている会社は最も危険な会社です。銀行などからの借入金の返済はリスケジューリングが可能ですが、支払手形は 1円の不足でも不渡りとなり、倒産してしまいます。 ◆パターン ⑧ 超危険企業の B/ S   8番目は最も悪い B/ Sであり、「超危険企業」の B/ Sです。  倒産寸前の会社といってもいいでしょう。現預金が極端に少なく、借り入れも膨らんでいます。取引先への支払い、金融機関への返済でいつ資金ショートが起きてもおかしくありません。  このように、自社の B/ Sの形を見て、自社の現状の課題を見つけていただければと思います。

「総資産の圧縮」で持たざる経営を目指す  長期的な財務の目的として、「自己資本を増やしていくこと」を紹介しましたが、もう1つ重要なこととして、「ムダな資産を減らし、総資産を圧縮すること」があります。「自己資本比率」を導き出す式の分子は自己資本(純資産)、分母は総資産です。自己資本を増やすだけでなく、ムダな資産を減らして分母の総資産を圧縮すれば、「自己資本比率」を上げることができます。これは、今、ビジネスの世界で見直されている「持たざる経営」を目指すことでもあります。  本章の冒頭で紹介した B/ S( 223ページ)をもう一度よく見てください。  ポイントは、 B/ Sの左側の「資産」です。「総資産を圧縮する」というのは、やみくもに資産を減らすことではありません。「持っていても事業に寄与しない資産は売却して現預金に変え、できるだけ借入金の返済をする」ということです。  総資産を圧縮する方法には、大きく5つの方法があります。 ●①定期預金や定期積金を「すぐ使えるお金」に変える  総資産を圧縮する方法の1つ目は、定期預金や定期積金を、変えられるときに普通預金や当座預金に変えることです。「すぐに使えないお金」から「すぐに使えるお金」に変えておくのです。 ◆ 5000万円の定期預金・ 8000万円の融資がある場合  定期預金の利率は 0・ 1%、融資の利息は 1・ 5%とします。受取利息は 5万円、支払利息は 120万円です。差し引き 115万円の利息を支払います。  この場合、実際に手にする現預金は 3000万円です。つまり、 115万円の利息を払って、 3000万円を借りていることとまったく一緒なのです。左の図に示すように、実質金利はなんと 3・ 8%にもなります。金融機関側は十分にこれを理解しています。

 いざ会社の業績が悪くなり、これらを解約して急いで現預金を作ろうとしても、金融機関にとっては大事な融資の原資なので、すぐには応じてくれません。預金にもかかわらず「固定化」しているのです。今の時代、金融機関にお金を預けてもほとんど利息はつかないので、定期にする意味はありません。  借り入れと定期預金、定期積金が複数ある場合は、金融機関ごとに実質金利を出し、借入金の金利が高いところから金利の引き下げ交渉か定期預金等の解約を検討しましょう。 ●②受取手形・売掛金などの債権を現金化する  2つ目は、受取手形・売掛金といった債権を現金化することです。「受取手形」は「裏書き」して支払いに使ったり、「割引」して割引料を払って現金化することができますし、「売掛金」は買い取ってくれる会社に手数料を支払って売り払い、「ファクタリング」での現金化も検討します。「ファクタリング」とは、売掛金などの売掛債権を第三者に売って現金にすることです。第三者は売掛債権を買い取り、その回収を行います。  回収サイト(支払ってもらえるまでの期間)についても、短縮交渉ができるものはないかを調べて、交渉します。また、よくあるのが、長く未回収になっている債権です。こうしたものはすぐにも回収して現金化しましょう。 ●③適正在庫数をチェックし不良在庫をなくす  3つ目は、自社の適正在庫数をチェックし、不良在庫をなくすことです。  商品・製品、原材料等の在庫の圧縮ができないかを考えます。定期的に実地棚卸ができるようにして、常に回転期間を短くする努力をし、不良在庫をなくします。 ●④立替金・仮払金をチェックし精算する  4つ目は、立替金、仮払金のチェックと精算です。立替金や仮払金は、経理担当者に任せきりで、自分で中身を把握していない社長が多くいます。自分でチェックするか、あるいは毎月経理担当者にチェック、精算してもらってください。 ●⑤固定資産をチェックし不要なものを現金化する  5つ目は、固定資産をチェックし、不要なものを現金化することです。建物、付属設備、構築物、車両、器具備品、土地などが相当します。その土地や建物などが本当に必要なのかどうかを、常に考えるようにしてください。  本業以外で所有している資産を売れば、現預金が入り、借入金も返済できます。売却損が出れば節税にもなります。また、購入ではなくリースや賃借に変えることも考えます。本業以外で所有している資産は、売却して現金化を検討しましょう。  投資有価証券、出資金、ゴルフ会員権なども無形の固定資産です。本当に今の経営に必要かどうかを考えてください(中小企業で株への投資がしたいなら、社長個人でやってくださいというのが社員の思いです)。  敷金や保証金は、一部でも返金してもらえる可能性があります。更新時は必ず交渉しましょう。ちなみに、弊社が借りているオフィスは 600坪ありますが、保証金も信じられないくらい安くしてもらっていますし、更新のお金も払っていません。  長期貸付金があれば、一部でもいいので回収の交渉をしましょう。これが残っていると、金融機関からすれば貸せない理由になるので、融資を受ける際に不利になります。「あなたの会社を信用してお金をお貸ししているのに、他に貸しているとはどういうことですか?」と言われます。

保険積立金は不要に積み立てていませんか?  保険については毎年見直すことをおすすめします。以前は適正でも今では過剰だという場合がよくあります。また、今解約するといくらお金が入るか、保険解約益がいくらになるか、保険金一覧表を作成してください。  このような方法で、不要な資産、ムダな資産を見直し、総資産を圧縮していきます。  ただ、単に見直すだけではなく、自社の B/ Sがどういう構造になっているかを念頭に置いたうえで進めてください。  ここまで見てきたように、ムダな資産を圧縮しながら負債を減らし、自己資本を増やしていくこと、さらに手元に十分な現預金を残しておくことが、会社の財務体質を強化することです。  そして、これこそが中小企業の社長にとって最も大事な仕事なのです。

おわりに  私は中小企業専門の税理士・会計士として 40年間、中小企業の経営を会計事務所の経営者としての立場から見てきました。  新しいお客さまに出会うたび、また数多くの経営計画セミナーや財務体質改善セミナーの講師として受講生に出会うたびに、ほとんどの経営者が数字をよく理解していないことを知りました。  私は最初、これは経営者の勉強不足からくるものだと思っていましたが、そうではないことに気づきました。中小企業経営者は誰からも、 B/ S、 P/ Lの目的や読み方、活用の仕方を教えてもらっていなかったのです。  中小企業の経営において、数字面で一番身近にいるのは会計事務所です。  しかし、ほとんどの会計事務所は税務申告やコンサルティングはしても、結果として一番大事な B/ Sと P/ Lの目的と読み方を、経営者や幹部に教えていません。  わかっていて教えていないのではなく、今まで考えてもいなかったので教えられなかったのです。これが中小企業経営者が数字を読めない理由だと気づきました。  私の考える会社経営の目的は、「中小企業で働く社員と家族を幸せにすること」です。そのための手段として、会社は持続的に成長しなければならない。そして、結果を出さなければいけません。  成長するために経営で大事なことは「財務」と「マーケティング +イノベーション」と「人づくり」であると思っています。   B/ Sと P/ Lを読めるようになることが財務の基本です。 B/ S、 P/ Lもまず目的を明確にする。その目的を実現するための手段として、年に一度の決算書ではなく工夫された月次資料が必要です。  古田土式・月次決算書では、年計表、未来会計図表、月次推移変動 P/ L、累計 B/ S、累計キャッシュフロー計算書、 B/ Sレベルで儲けた利益がどこに消えたかを教えてくれる資金別 B/ Sなどがあります。  そして、目的が明確で手段としての資料があったとしても、活用しなければ意味もありませんし結果も出ません。結果を出していただくためにお客様の社長、幹部、ときには社員にも毎月月次決算書の説明をします。  社長、幹部が数字に強くなるコツは、まずは数字に慣れることです。そして、学ぶべき数字を絞り、繰り返し毎月チェックすることです。「月次決算書」と「経営計画書」を使って経営すれば、利益計画も実現し、財務体質も強くなり、絶対に潰れない会社にすることができるのです。  最後に、本書は弊社執行役員で税理士である川名徹氏との共著です。川名氏には主に第 5章と第 6章の執筆を担当してもらいました。この場を借りてお礼を申し上げます。   2022年 11月古田 満

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