ご注意ご利用の前に必ずお読みください本書は紙書籍『社員 100人までの会社の「社長の仕事」』( ISBN 978-4-7612-7104-6)を元に製作した電子書籍です。紙書籍とは一部レイアウトが異なります。本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた運用は、必ずお客様自身の責任と判断によっておこなってください。これらの情報の運用の結果について、株式会社かんき出版および著者はいかなる責任も負いません。本書記載の情報は、特に断りのない限り、 2015年7月のものを掲載しております。ご利用時には変更されている場合もあります。ご利用時には、端末のフォントの選択を、必ず「オリジナルフォント」にしてください。以上の注意事項をご承諾いただいた上で、本書をご利用願います。これらの注意事項をお読みいただかずに、お問い合わせいただいても、株式会社かんき出版および著者は対処しかねます。あらかじめ、ご承知おきください。
はじめに前の4つの質問に、瞬時に明確に答えられた社長は、本書を読んでいただく必要はないかもしれません。しかし、ひとつでも答えられない質問があったなら、ぜひ本書を熟読してください。ここで取り上げた4つの質問は、社員数 100人程度までの会社が、将来にわたって安定的に成長していく上で、とても大切な要諦となるものばかりです。どれかひとつでも答えに窮するようであれば、社長は、社長としての仕事をきちんとやり遂げているとはいえません。でも、がっかりしないでください。実は、多くの中小企業の社長はこれらの質問にきちんと答えられないのが実情です。「答えられなくてあたりまえ」とはいいませんが、本書を読み終わった後には、これらの質問に即答することの重要性を理解し、かつ明確に答えられるようになっていただけるでしょう。ここで大切なことをひとつお伝えしておきます。それは、社員数 100人までの中小企業と、いわゆる大手企業とでは、経営の要諦は違うということです。大企業と同じ考え方で経営をしていても、中小企業の経営がうまくいくことは少ないのです。書店のビジネス書コーナーに並ぶ経営指南書の多くは、大きな会社の経営論が中心です。もちろん、そうした経営指南書の中にも役立つ知見はたくさんありますが、それをそのまま中小企業経営に活かすことができるかというと、そうではないのです。本書では、社員 100人までの会社の社長に向けて、社長として何をなすべきか、について書きました(もちろん、 100人というのは方便ですから、社員数 30人の会社でも 150人の会社でも活用していただけます)。これまで多くの会社を支援させていただいた経験からいえば、経営がうまくいっていない会社、業績が低迷している会社の多くは、社長がやるべき仕事を、社長自身がわかっていないことが、その原因となっています。逆にいえば、中小企業においては、社長がやるべき仕事を明確に理解し、その仕事を愚直に実行さえしていれば、会社は着実に成長することができるのです。では、社員数 100人までの会社の社長は何をなすべきか。答えは簡単です。ひとつには、会社の経営理念、経営ビジョンを明確にして、社長の考えを社内に浸透させること。ひとつには、社員が一丸となれるような施策を打ち出し、社長以下、全社員が気持ちをひとつにして、がんばって働ける環境を整備すること。ひとつには、会社の収益構造を社長自身が正しく認識し、事業を通じてお金を稼ぎ、会社にお金が残るようにすること。これだけです。これらの社長の仕事を着実に遂行し、成果を生み出すためのツールとして、「経営計画書」と、古田土式の「月次決算書(未来会計図表・資金別貸借対照表・古田土式キャッシュフロー計算書)」があります。この2つのツールを有効に活用できれば、経営は必ずうまくいきます。なぜ、そのようなことがいい切れるのか?それは、私たち古田土会計が実践してきたことであり、私たちがそのノウハウに基づいてこれまでご支援してきた多くの会社のほとんどが、着実に業績を伸ばしているからです。本書でご紹介するツールも、ノウハウも、すべてその効果のほどは実証ずみなのです。私は会計事務所を開業して 33年になります。この間に上場した会社もあれば、上場はしないものの毎期 3億円以上の利益を出している会社もあります。上場している会社を見ると、会社の成長に貢献した社員が今も役員、幹部として働いているのかといえば、多くの人が辞めています。反対に業績はよいのに、急成長は目指さない会社の社員は、給料・賞与も高く、役員、幹部が生き生きと働き続けています。上場していないので、株主ばかりを重視する必要がないので、配当を少なくして社員のために決算賞与として分配している社長もたくさんいます。社員を大切にしている経営者は、上場している会社よりも未上場の優良会社に多いことは間違いありません。上場企業(大企業)は株主重視の経営をせざるを得ませんが、中小企業は社員を重視した経営をすべきです。
これほどに大企業と中小企業の経営の要諦は違うものだということを理解してください。私たち古田土会計は「日本中の中小企業を元気にする」という経営ビジョンを実現するために中小企業の「お金の儲け方」と「お金の残し方」を古田土式「月次決算書」と「経営計画書」というツールを使って支援しています。支援させていただいている会社は平成 27年度では 1950社を超えています。なぜ「中小企業を元気にする」のか。それは中小企業で働いてくれている社員と家族を幸せにするためです。中小企業こそ、社員と家族を幸せにできるからです。わが社でもっとも大切しているのは、 1番目が社員と家族、 2番目がお客様の社員と家族、 3番目が地域社会と社会的弱者です。重度の知的障がい者も精神障がい者も、わが社では一般社員と一緒に同じフロアで机を並べて仕事をしています。社風がよくないと、こういう働き方はできません。私は中小企業の社長に社員を大切にする経営をし、社員に尊敬される社長になっていただき、日本を元気にしてもらいたいと思っているのです。この本を書かせていただいたのは、社長が数字に強くなり、数字を活用してもっともっと儲けて、お金を残して、財務体質を強くして社員と家族が安心して働ける会社を作っていただきたいからです。社長が「経営計画書」を作成し、わが社は何のために、誰のために存在するのかという経営理念や経営ビジョンを創り、全社員が同じ価値観を共有し、社員が夢や希望の持てる仕事をすれば必ず利益は出ます。今、本書を手にしている社長も、ぜひこのことを信じてください。さて、私たち古田土会計では、支援させていただいている会社に対して、「指導する」というスタンスはとっていません。あくまでも、私たち自身が実践してきたことを「お見せする」というスタンスです。古田土会計の「経営計画書」も、大勢の方にご覧いただいています。「経営計画書の作り方がわからない」というお客様には、「まずは古田土の経営計画書を真似てください」と申し上げています。シンプルに真似するだけでいいのです。本書では、紙幅の関係もあり、私たちの「経営計画書」をすべて掲載するわけにはいきませんので、エッセンスを解説しています。「月次決算書」についても、本来なら個々の会社ごとに私たちが作成した上で、どうやって会社を成長させていくかを社長と話し合いながら詰めていくのですが、書籍では個別対応ができませんので、「月次決算書」をどうやって作成し、どう活かすのかを解説しています。「経営計画書」も「月次決算書」も、本書に書かれていることをとにかく真似してください。きちんと真似をしていただければ、必ず結果がついてきます。最後に本書の構成をお伝えしておきます。まずはプロローグで、小さな会社の社長の仕事を概括しています。全体像を押さえてください。第 1章からは「経営計画書」の作り方と、その活用のポイントを解説しています。とくに重要なのは、それをきちんと活かす、それも全社員で机のそばにおいて、日々、使いこなしていくことにあります。そして、第 2章、第 3章では、「月次決算書」を取り上げています。第 2章が「未来会計図表」、第 3章が「資金別貸借対照表」と「キャッシュフロー計算書」を中心テーマとしています。「利益が出ているのに、お金が足りない」という中小企業は少なくありません。この2つの章では、なぜそんなことが起こるのか、そうした事態を回避するために何をしなければならないのかについても説明しています。きちんと儲けて、きちんとお金を残すための要諦です。場合によっては、これらの章は、経理の責任者の方と一緒に読んでいただいてもいいかもしれません。ぜひ本書を活用、いや真似をして、儲かって、かつお金に困らない、強い財務体質の会社になってください。必ずや、本書はその一助になるものと確信しています。 2015年7月古田圡 満*著者の名前は、「古田圡」ですが、会計事務所等の法人名称は「古田土」と表記されているので、本書はそれにしたがっています。
古田土式を実践した会社のみなさんからの声飲食業 社員 13名懇親会で笑いながら話している社員の姿を見て、私は本当の意味の「社員の幸せ」を心から感じることができるようになりました。 6年前は 7割がアルバイトスタッフだったのが、いまや 13名全員が社員。若い男性スタッフが元気に働く職場となりました。頼もしい限りです。さてこれから半年間で、 12月に今まで払えなかったボーナスを、最低でも手取り 5万円出すことを私の目標にしました。そのためには合計 135万円必要です。これから、経営幹部に数字の開示をしながら、みんなの会社であるという思いを持ってもらえるようにやります。もう、社長個人の会社ではなくなりつつあります。今回つくづく、古田圡先生のアドバイスは正しいと思わざるを得ませんでした。参りました。吉岡さん、そして久保田君、いつもいろいろありがとうな。小売業 社員 250名古田土会計の「経営計画書」をいただき、何時間も精読しました。「経営計画書」を読めば読むほど、いかに考え抜かれて作られたか、そして人としての正しい生き方と経営の正しいあり方を結びつけることの大切さがズシズシ伝わってきました。また古田圡先生のファンになりました!先生がほめてくださるような「正しい経営」を、いや「経営道」を邁進してまいります!卸売業 社員 20名数年前に古田圡所長のセミナーを受けてから、いつか業績がよくなったら、古田土会計にお願いしようと考えていました。本当は会計事務所にお願いするのに業績は関係ないのですが、なんとなく恥ずかしかったのです。半世紀以上営業して債務超過、毎年赤字という状態ではお願いできないという思いでした。業績回復の兆しが見えた 58期、ついに古田土会計にお願いしました。そこからは年計グラフでも V字を描くほどの業績回復を果たしました。長年の債務超過も 60期に至って解消、今ではもっと早く古田土会計にお願いすればよかったという思いです。産業廃棄物処理業 社員 30名数字に弱いのでもっと勉強したいと感じました。値決めをもっと大事に徹底して行うべきであると感じました。今まで社内の数字についてはなかなか身近に感じることができず、自分の部門がどのくらい会社全体の役にたっているのかもわかりませんでしたが、あらためて無関心ではいられなくなったと感じています。まだまだ勉強しなければならないと思いました。固定費を下げて粗利益を上げる。言葉では簡単ですが
実行は難しいので、今、できることから挑戦したいと思います。まずは値上げ後もそのままルート回収している客先を一刻も早く切り替えたい。「未来会計図」はとてもわかりやすい。数字で理解するよりも、図にしたほうが理解しやすいです。来期の「経営計画書」には、全社、全部門の方針とそれぞれの未来会計図をとじこむと数字が身近に感じると思います。広告業 社員 5名古田圡さんとの出会いが、出口の見えない私に光をくださいました。大袈裟なようですが、本当なんですよ。そのくらい孤独で、さ迷っていました。美容業 社員 10名古田土会計の担当者の方にご協力いただき、とても立派な「年間計画書」、「利益計画書」ができました。月次決算の大切さ、数字の見方も教えていただき、感謝いたします。本当にありがとうございました。
実行は難しいので、今、できることから挑戦したいと思います。まずは値上げ後もそのままルート回収している客先を一刻も早く切り替えたい。「未来会計図」はとてもわかりやすい。数字で理解するよりも、図にしたほうが理解しやすいです。来期の「経営計画書」には、全社、全部門の方針とそれぞれの未来会計図をとじこむと数字が身近に感じると思います。広告業 社員 5名古田圡さんとの出会いが、出口の見えない私に光をくださいました。大袈裟なようですが、本当なんですよ。そのくらい孤独で、さ迷っていました。美容業 社員 10名古田土会計の担当者の方にご協力いただき、とても立派な「年間計画書」、「利益計画書」ができました。月次決算の大切さ、数字の見方も教えていただき、感謝いたします。本当にありがとうございました。
社員 100人までの会社の「社長の仕事」 ▪目次はじめに古田土式を実践した会社のみなさんからの声プロローグ 大きな会社には真似できない、小さな会社が社員を幸せにするための「経営の原理原則」 No. 01 社長は「社員第一主義」、社員は「お客様第一主義」 ■ ESと CSは自転車の両輪 ■小さな会社こそ「人を育てる経営」にこだわる No. 02 「利益 =社員と家族を守るためのコスト」この考え方を全社員で共有する ■経営に関するすべてのことに責任を持てるのは社長だけ ■会社存続に絶対必要なものは粗利でも営業利益でもなく税引後当期利益 No. 03 継続的に安定的に成長していくには「正しい拡大のやり方」がある ■会社は「お金」でつぶれる ■高収益型の店舗、商品をまずひとつ作る。拡大はそれから No. 04 「損益計算書」は全社員で作り上げる「貸借対照表」は社長ひとりで作る ■売上を増やし経費を削減するのは社員、手形を振り出すのは社長 ■「貸借対照表」は〝蓄積された歴史〟 No. 05 過去の数字の分析からではなく安定成長に必要な利益額から考える ■社長の感覚による売上予算で本当に必要な利益を獲得できるか? No. 06 「月次決算書」と「経営計画書」、そして「社員の一体感」。この3つが回れば会社は確実に大きくなる ■社員数 100人までの会社に必要な経営の要諦 ■道具は揃った。あとは社長と社員全員で使いこなすだけ第 1章 小さな会社だからこそ、社員と気持ちがひとつになる「経営計画書」を作って使い倒してください No. 01 小さな会社で社員が長く安心して働くには「経営計画書」が不可欠 ■数字だけを追いかけていては会社は成長できない ■ 5年後のイメージからさかのぼって考える No. 02 「何のために経営するのか」社長の思いを社員や外部の人と共有する ■社長は何を思い、考えて会社をはじめましたか? ■経営ビジョン、経営理念はわかりやすい言葉で ■会社の成長は社員が幸せになることで実現する ■お客様に感謝される会社は成功する ■理念を具体的な行動指針に落とし込む ■基本方針は総合的な指針 ■環境整備の本質は人づくり ■「お客様第一主義」と「重点主義」 No. 03 「 5 ~ 10年後にこうなっていたい」を、社員の未来を軸に、組織、事業のそれぞれの未来像を描く ■ 10年後のあるべき姿から、 5年後の到達目標に落とし込む ■長期事業構想とは 5 ~ 10年後のあるべき姿 ■どんなふうにキャリアアップしていけるか「社員の未来像」が一番
No. 04 3 ~ 5年後のあるべき姿を「中期事業計画」にまとめる ■ 3 ~ 5年先ぐらいは過去の延長線上にある No. 05 中期事業計画からさかのぼって、「短期の目標」を決める ■短期利益計画で 1年間の数値目標を明確にする ■あげるべき売上と利益の決め方 ■戦術作りは全社員で No. 06 「経営計画書」は机において、日々、全社員で使い倒す ■経営計画は実践してなんぼ ■「経営計画書」を社員一体化に使う ■短期利益計画の達成度合を週単位でチェック ■全社員が自己チェックして達成度合を月 1回発表 ■「経営計画書」に基づいて社員を叱る第 2章 御社の「稼ぐ力」、ここが問題です No. 01 「稼ぐこと」と「会社にお金を残すこと」の違い、ご存じですか? ■損益計算書の利益だけを見てませんか ■お金が足りなくなる理由は4つ No. 02 いろんな経営指標があるが、一番気にしたい指標はコレ ■業界平均はひとつの目安になるが・・・ ■損益分岐点比率は業種・業界を問わず使える数字 No. 03 5つの絶対額から見ていこう ■直近 2期分の損益計算書で収益状況を把握 No. 04 過去の利益構造を見える化して、予算作りに活かす ■費用と利益のバランスが一目瞭然 No. 05 「収益性」は妥当でしょうか? ■粗利益額に占める固定費の割合を見てみよう ■借入金の返済額を賄えるだけの利益額が出せているか ■人件費は自社が最も高い利益を上げたときの労働分配率を目安に考える No. 06 小さな会社だからこそ「教育費」や「研究開発費」にお金を使う ■「未来費用」とは将来的な成長のための投資 ■中小企業こそ社員の成長や商品の革新のためのお金が大切 ■未来費用は会社の体力に応じて支出すべき No. 07 「コスト削減」だけでなく5つの視点で改善点を探す ■固定費の削減ばかり考えてはいけない ■5つの視点でどこを改善すべきか考えてみる No. 08 借入金の返済額を基準に「目標経常利益額」を計算してみる ■重要なのは経常利益 ■必要な経常利益額は、借入金の返済額が基準となる ■経常利益額からの逆算で目標売上高が決まる No. 09 この手順で御社の利益率を改善してください ■改善に取り組みやすい項目と影響度の高い項目は違う
■取り組みやすい項目から始めるか、影響度の高い項目から始めるかは社長の判断 ■ 1項目ずつ可変させながら落とし所を見つける ■最終的には達成可能な売上を軸に決める ■重要なのは利益を出すこと ■過去の実績に基づく根拠のある計画作りが大切 No. 10 金額的に厳しい案件を受注したいとき、それでも儲けが出るかどうかの判断基準は? ■「未来会計図表」を使えば値引きをしてでも受注すべきかがわかる No. 11 月単位で売上・利益を見ていても問題点は浮かび上がってこない ■「年計表」を使って〝傾向〟を把握する ■「年計表」を作ると課題が浮かび上がってくる第 3章 社長!これではいつまでたっても会社にお金は残りません No. 01 御社の貸借対照表はどんなカタチになっていますか? ■まず、貸借対照表を理解しよう ■左側は頂点を下にした逆三角形、右側は頂点を上にした三角形が理想 No. 02 現金預金にある 1000万円、好きに使える自由なお金ですか? ■お金に色はないというのはウソ No. 03 「貸借対照表」をアレンジして、いつでも何にでも使える自由なお金がいくらあるか把握しよう ■「資金別貸借対照表」は既存の「月次決算書」を組み換えて作る ■月次決算書から各費目の数字を転記、各部の「現金預金」の額を記入する ■「損益資金の部」が潤沢だと経営は安心 ■「損益資金の部」で賄えないとなったら「固定資金」の出番 ■サイト負けになっていないか「売上仕入資金の部」を見る ■売上・利益が増えているのに現金預金が目減りしている事実に注目 ■緊急時に短期の借入ができるかどうかを見る「流動資金の部」 ■古田土印刷にお金が残らない理由は・・・ No. 04 儲かっているのに、なぜ御社にはお金が残らないのか? ■財務体質を悪化させている4つの問題点 ■サイト負けを解消する ■借入金の組み換え(借り換え)を検討する ■棚卸資産(在庫)を見直す ■支払手形を減らす No. 05 「貸借対照表」からはじき出す必要利益額と「損益計算書」から考える利益額には、大きな差がある ■必要な収益(利益)を小さくすることもできる ■内部蓄積を重視した経営を心掛ける No. 06 「キャッシュフロー計算書」で短期的なお金の流れをつかむ ■キャッシュフロー計算書から今月の利益がどこに消えたかわかる ■古田土式キャッシュフロー計算書にはお金の出入りが事実として記載される ■「営業キャッシュフロー」 +「投資キャッシュフロー」がとくに重要 ■キャッシュフロー計算書で現状把握し、資金別貸借対照表で改善策を考える ■お金が減る原因がわかったら、その改善に尽力するのが「社長の仕事」
■ ESと CSは自転車の両輪社長以下、全社一丸となって、「お客様第一主義」「顧客満足至上主義」を掲げている会社はたくさんあります。お客様第一主義自体は正しいことです。しかし中小企業の社長が「お客様第一」を標榜することに、私は違和感があります。古田土会計では、「経営者は E S(従業員満足)を第一とし、社員は CS(顧客満足)を第一とする」という考え方が浸透しています。中小企業の社長が考えるべきは、社員の幸せであるべきです。社員とその家族が幸せになるために、社業を発展させていくのです。来期は今期よりも高い給料を社員に払いたい。そのためには売上・利益を増やさなければなりません。だから、会社は成長・発展し続けなければならないのです。第 1章で詳しく説明する「経営計画書」にも、「社員の幸せ」を経営理念に必ず盛り込んでください、と顧問先の社長にお伝えしています。しかし、社長が社員の幸せを第一に考えているからといって、社員も一緒になって自分たちの幸せだけを考えていては、社業は発展しません。社員の役割は、お客様が「ありがとう」といって、お金を払ってくれるように、付加価値の高い商品・サービスを提供することです。つまり、社員はお客様第一主義で仕事をしなければいけません。古田土会計では、これを自転車の両輪に例えています。前輪が顧客満足( CS)で、後輪が従業員満足( E S)です。自転車が進むべき方向を決めて舵取りをするのも、後輪( E S)に動力を与えるのも社長です。そして社長が後輪( E S)を回すことで、社員による前輪の CSが回っていきます。この2つの車輪が適切に連携することで、企業という自転車がどんどん目指すべき方向に走っていけるのです。顧客第一主義は社員の行動原理、社長の行動原理は、従業員満足でなければなりません。 ■小さな会社こそ「人を育てる経営」にこだわるでは、社員の幸せ、満足とは何か?それは、社長が「人を育てる経営をする」ということです。大企業で働いているビジネスパーソンと、中小企業で働いているビジネスパーソンでは、プライドの持ち方が違うのではないかと思うことがあります。だからこそ中小企業は社員を大切にして、社員とその家族の生活を守り、幸せになってもらえるような経営をしなければならないのです。「この会社で働くことが、私の幸せだ」と思えれば、社員はがんばって働いてくれます。社員が一丸となり、がんばって働いてくれれば、利益という形で結果がついてきます。その利益を内部留保して、現金預金が増えていけば、万が一の事態が発生しても、社員の雇用を守ることができます。毎年、利益が増えていけば、社員の給与も上げることができます。お金がすべてではありませんが、がんばった分だけ報われるとなれば、ますます「この会社で働けて、私は幸せだ」と思ってくれます。こうしたプラスのスパイラルで、毎期着実に売上と利益を伸ばすことができます。その結果が毎期の増収増益です。机上の空論ではありません。古田土会計が実践しています。 33期連続増収で、赤字は一度もありません。売上高経常利益率は 20%を超え、 3期連続で 3億円以上の経常利益を出しています。自己資本比率は 90%あります。総勢 160名のスタッフがいて、無借金で 10億円以上の預金残高があります。社員の家族が病気になって医療費が大変だということになっても、会社が 1億円ぐらい貸せます。こういうことを社員にもいっています。古田土会計では、経理を全社員に公開しています。社長が公私混同しないように、総勘定元帳は社員の休憩室においてあります。私の給料も公開しています。社員はみんな経営状態を把握しています。自分たちのがんばりによって、会社がどんな状態にあるのか、それによって自分たちが安心して働けることを理解しています。ですから、みんなで、ますますがんばれるのです。
■経営に関するすべてのことに責任を持てるのは社長だけ会社が成長・発展できるか、倒産の憂き目に遭うかは、ひとえに社長にかかっています。売上が伸び悩むのも、利益が出ないのも、すべて社長の責任に帰することです。社長の仕事のほとんどは、意思決定することです。とくに社員 100人前後の中小企業の社長は、経営戦略はもとより、商品開発やマーケティング、人事や財務など、企業経営にかかわるあらゆることについて、最終的には自分自身で意思決定しなければなりません。社長自身の意思決定で、すべての事業活動が回っていくのですから、すべての事業活動の結果について責任を持つのは当たり前のこと。社員ががんばってくれないとしたら、それは社長が社員にきちんと働きかけていないからだとしっかり肝に銘じてください。中小企業が成長できるかどうかは、すべて社長のがんばりで決まるのです。社長が経営理念に基づいて正しい経営を実践できれば、よしんば今、現在が厳しい状況であったとしても、必ず成長の軌跡を描くことができます。ですから、中小企業の社長は、経営に関するあらゆることに責任を持つという不退転の意思を持って、経営に臨んでいただきたいと思います。 ■会社存続に絶対必要なものは粗利でも営業利益でもなく税引後当期利益そもそも企業はなぜ利益(経常利益)を追求すべきなのか。社長、あなたならどう答えますか? ここでいう利益とは、粗利益でも営業利益でもなく、経常利益のことを指しています。もっといえば、税引き後当期利益です。中小企業の場合、それは〝社員とその家族を守るため〟だといえます。いい換えれば、「利益とは、社員とその家族を守るためのコスト」だと定義づけることができます。利益は、企業の中に内部留保という形で蓄積されていきます。このお金は、非常事態の際に、社員を守るための原資です。利益を出すと、その約半分は税金や配当・役員賞与として支出されます。その額を見て、「こんなに税金を払うくらいなら、経費で使おう」と考える社長がいます。しかし、この考え方は間違っています。注目すべきなのは、税金を支払った後に残る「税引き後の利益」です。これが内部留保です。内部留保がなければ、不況や貸し倒れにあったりすると、とたんに経営が厳しくなります。そんなとき、内部留保されたお金の多い少ないが、社員をどれだけ守れるかを決めるといっても過言ではないのです。ですから、社長は「内部留保できる利益額を増大させること」を常に考えなければいけません。
■会社は「お金」でつぶれる会社がなぜ倒産するのか、それはお金がなくなるからです。つまり資金繰りです。倒産は4つのタイプに分けることができます。 ①売上が伸びて、利益も伸びているが、お金がなくて倒産するタイプ ②売上は伸びたが、利益が減って、お金もなくなり倒産するタイプ ③急激に売上・利益が減少して倒産するタイプ ④本業の業績とは無関係に、何らかの事故で倒産するタイプ中小企業が注意すべきは、 1番目から 3番目までのタイプです。ここは社長がきちんと経営していれば防ぐことのできる倒産原因だといえます。 1番目のタイプは「膨張拡大」の例です。過剰な設備投資、身の丈を超えた急速な事業拡大の結果、売上・利益は伸びているのだけれど、きちんとお金が残せないために、資金繰りに行き詰まるというものです。 2番目は、売上至上主義で、利益を度外視した営業展開をした例です。売上は伸びているものの、利益率が悪化して、結果として必要な利益を確保できずに、経営が立ちいかなくなるというタイプです。 1番目も 2番目も、ともに売上は伸びていますが、古田土会計では、これを「成長」とは呼びません。お金が残らない、利益が出ない拡大は、成長ではなく「膨張」です。成長はあくまでも、売上が増えて利益が増え、そしてお金が増えている状況をいうものと考えています。膨張で拡大している企業は、経営的には危うい状況だといえるでしょう。 3番目のタイプはとくに説明の必要はないと思います。どんな会社でも、経営を続けていくには、従業員の給料や事務所の家賃など最低限必要なコストがあります。売上が下がって、利益が下がれば、これらのコストを賄えなくなるわけですから、当然つぶれてしまいます。おそらく、多くの経営者がイメージしやすい倒産のタイプといえるのではないでしょうか。なお、 4番目のタイプは特殊なものです。デリバティブなどの金融取引が原因で大きく損失を出してしまうとか、土地などの不動産に投資して、景気の悪化とともに資産価値が大きく下がって損失を出すといったことにより、結果的に資金繰りが回らなくなるといったものです。バブル経済の崩壊後や、リーマンショックの後などにはこのタイプがよく見られました。しかし、このタイプは本来の企業経営とはいえませんから、本書では取り上げません。 ■高収益型の店舗、商品をまずひとつ作る。拡大はそれからでは、事業を拡大することは〝悪〟なのか? 決してそんなことはありません。継続的に成長していくためには、正しい拡大のやり方というものがあります。飲食業でいえば、まずは最初の店舗で徹底的に成功することです。高収益型の店舗をまずひとつ作るのです。最初の 1店舗がそれほど儲かっていないのに、第 2、第 3の店舗を出してはいけません。また、最初の店舗で成功をおさめ、次の出店をする場合でも、一定の自己資金を初期費用にあてることを前提とし、借入をする場合でも、どの程度の借入金が適正なのか(厳密にいえば、月々いくらぐらいの返済なら適正なのか)をきちんと精査する必要があるのです。飲食業以外でも同様です。まずはひとつのビジネスモデルや、ひとつの商品・サービスで徹底的に儲かる構造を作ることが重要です。新商品開発や事業の多角化、周辺ビジネスへの進出などは、徹底的に儲けられる事業構造が確立した後に取り組むべきなのです。とくに、新規創業の場合、創業後 1年目から利益が出せることは、とても恵まれた状況で、通常は最初の 2 ~ 3年は利益が出ないものとして、資金計画を立てておく必要があります。とりわけ設備投資が必要となる事業の場合はこうした準備が大切です。少ない自己資金にもかかわらず、多額の借入金で事業をスタートすると、あっという間に立ちいかなくなり、倒産してしまいます。これから起業しようという場合には、この点は肝に銘じてほしいところです。
■売上を増やし経費を削減するのは社員、手形を振り出すのは社長社長にまず理解していただきたいことがあります。それは、「損益計算書は全社員が作り上げるもの、貸借対照表は社長ひとりで作るもの」ということです。貸借対照表に記載される在庫をどうするか、固定資産の購入や売却、支払手形の発行や借入金など、これらは、すべて社長の経営判断の結果として表されています。貸借対照表を見れば、その会社の社長の経営姿勢を垣間見ることができます。たとえば、現金預金が少ないのにゴルフ会員権や有価証券、事業に使われていない不動産などを保有しているとすれば、お金を使うのが好きな社長なのかなと推測できます。海外から輸入して国内で販売している会社は、入金のサイトよりも支払いのサイトが極端に短いために、常に資金繰りに苦労していて、借入金に頼っているということがあります。逆に、長い時間をかけて堅実な経営をしていれば、それも貸借対照表に表れます。堅実な経営とは、きちんと利益を生み出し続けること。利益をきちんと出し続けていれば、利益が蓄積されていきます。中には、少し利益が出ると、せっかく稼いだ利益を会社の成長のために有効活用するのではなく、社長の個人的な趣味嗜好や、利殖のために使ってしまっている社長もいます。それも貸借対照表に表れます。 ■「貸借対照表」は〝蓄積された歴史〟繰り返しいいますが、貸借対照表には、社長の会社経営の歴史が蓄積されています。社歴 10年の会社なら 10年分の、 20年の会社なら 20年分の経営の結果が、今現在の貸借対照表に明確に記載されています。これはとても重要なことです。損益計算書はそのときの勢いですから、社員が一丸となって、「会社をよくしよう。売上を伸ばし、利益を増やそう」と思えば、努力次第でただちに成果を生み出すこともできます。前期は赤字だったが、今期は V字回復で、大きな利益を計上するということも可能なのです。しかし貸借対照表をよくしようと思ったら、一朝一夕では達成できません。 10年、 20年かけて蓄積した歴史を、 1年程度で大きく改善するなど現実的なことではありません。「財務体質を強くする」とは、貸借対照表をよくすることに他なりません。このことは、中長期的な視点で取り組むべき課題だということを理解してください。時間がかかるからこそ、一刻も早く取り組み始める必要があるのです。
■社長の感覚による売上予算で本当に必要な利益を獲得できるか?財務諸表は、「過去の営業実績」や、「これまでの事業活動を通じて蓄積された資産の状態」を表しています。前者が「損益計算書」、後者が「貸借対照表」です。ただし、損益計算書も貸借対照表も、過去を表しているにすぎません。もちろん、これまでの事業活動の内容・結果を、財務諸表を通じて分析・理解することはとても重要です。しかし、それだけでは未来志向の経営はできません。多くの中小企業が来期の売上予算を考える際、「対前年比 5%アップ」といったように予算を策定しています。社長のところはいかがですか。「前期の売上がこれくらいだったから、 5%アップくらいならイケるだろう」と社長の感覚で決めていませんか?その背景にあるのは、過去の実績をまとめた財務諸表であり、その財務諸表だけを拠り所に、予算を策定しているのが実態ではないでしょうか。こうした予算策定は、どう考えても根拠に乏しく、そもそも「対前年比 5%の売上アップ」で、本当に必要な利益の獲得につながるのか怪しいものです。古田土会計では、「御社の安定成長のために、いくら利益を獲得する必要があるのか?」という考えを出発点として、その利益を獲得するためにはどれだけの粗利益が必要で、その粗利益を達成するためには、どのくらいの売上が必要なのかを様々な視点から分析して、予算(目標売上など)を策定します。そのためのツールとして「未来会計図表( →第 2章 4項参照)」を用います。これは、『人事屋が書いた経理の本』(ソーテック社刊)を参考にして古田土会計が開発したオリジナルの表で、どこをどう改善すべきなのかを見極めた上で、目標数値を策定していきます。「未来会計図表」を使うと、「売上高がいくら増えると、利益はどれだけ増えるか?」「粗利益率が ○%改善すれば、利益はこれだけ増やせる」「固定費をどれだけ削ると、利益額はどの程度改善するのか?」といったシミュレーションが可能になります。その結果、指標となる数値を少しずつ変えながら、着実に達成し得る予算を導き出すことができるのです。また、古田土会計の「資金別貸借対照表」( →第 3章 3項参照)を用いると、稼いだキャッシュがどこに消えているかが明確になります。この「資金別貸借対照表」は、「資金会計理論」の創始者である佐藤幸利先生が開発したものをアレンジしました。資金別貸借対照表は、資金を現金収支と捉え、次の4つに分けて表示します。 ①損益資金 ②固定資金 ③売上仕入資金 ④流動資金これら4つの、どの要素で資金が増え、どの要素でお金が減っているのかを明確にすることで財務体質を把握していくのです。詳しくは第 2章でお話ししましょう。
■社員数 100人までの会社に必要な経営の要諦会社の規模によって、経営の要諦は違ったものになります。社員数 300人超の大企業と、 100人に満たない中小企業(定義によっては、社員数 50人の大企業もあるにはありますが)では、継続的に会社を成長させるための方策も自ずと異なります。本書はあくまでも、社員数 100人程度までの会社を対象にしたものであり、現状の 3人を 10人に、 10人を 30人に、 30人を 100人に、そして 100人を 300人にするために、どのような経営をなすべきかという点に重きをおいています。古田土会計では、社員数 100人程度までの中小企業を主な取引先としており、「未来会計図表」と「資金別貸借対照表」の「月次決算書」、そして「経営計画書」は、中小企業を主な対象として開発され、改訂を重ねてきた経営ツールであり、「月次決算書」は重要な会社経営の道標です。いわゆる中小企業といわれる会社では、社業の成長も衰退も、社長の取り組みひとつで変わるといえます。これが三十有余年の長きにわたり、会社経営を会計の側面から支援してきた私たちの実感です。これまでの経験に基づき、社員数 100人までの会社における成長の要諦について、ここで確認しておきます。まずは、「社長がなすべきことをなす」──これが絶対条件です。社長が社員に対して「必死で働け」と檄を飛ばしておきながら、社長自身がゴルフ三昧では社員はついてきません。それは極端な話だとしても、社員に対して「がんばれ、がんばれ」といいながら、社長自身はあまりがんばっていない会社というのは少なくないのです。社長が率先してがんばるからこそ、社員はついてくるのです。次に、社長は「社員の幸せを最優先する」ことが大切です。本章の冒頭でお話ししたように、顧客第一主義は大切な経営の要諦ですが、それは仕事の最前線にいる社員が守るべき行動原理。社長は、社員第一主義でなくてはなりません。中小企業は、大企業に比べれば、資源が少ないというのが実情です。いい方はよくないかもしれませんが、優秀な人材は大企業に流れてしまい、中小企業では人材の確保にすら苦労するかもしれません。会社に対するロイヤリティも大企業に比べて、中小企業のそれは弱いかもしれません。しかし、だからこそ、社員を大切にする、社員の幸せを第一優先とした経営が、中小企業には不可欠なのです。こうした考え方を頭では理解できていたとしても、それを具体的に実践できなければ、会社の成長は覚束ないものとなってしまいます。そうならないために必要な経営ツールが、本書で紹介する「経営計画書」です。思いつきや、そのときの気分で社員を叱咤激励するのではなく、きちんとした方針とルールに従って社内をまとめ、すべての社員のベクトル合わせをすることが、社長の使命だといっても過言ではありません。中小企業では、そうした全社一丸の体制が整って、はじめて売上予算・利益予算の達成があるのだということを、社長は肝に銘じてください。 ■道具は揃った。あとは社長と社員全員で使いこなすだけまた、経営計画書はもちろん大切ですが、そこに描かれる未来像を数字で表すための道具が「未来会計図表」であり「資金別貸借対照表」です。これらの詳しい使い方については次章以降に譲りますが、道具立てはすべて揃っています。あとは、社長自身の不退転の覚悟であり、道具を使いこなすためのノウハウです。道具を使いこなすためのノウハウについては、余すところなく本書に網羅しました。自身の会社の状況に応じて、ぜひ使いこなしてください。ここで大切なのは、役割分担です。社長が戦略を考え、社員が戦術を練って、全社一丸で実行するという役割分担の体制構築こそが、会社成長の要諦です。その戦略について、「経営計画書」を通じて明文化するとともに、具体的な数値目標とその根拠を「未来会計図表」と「資金別貸借対照表」を通じて明らかにしてください。これは、何も難しい話ではありません。「はじめに」でもお話ししましたが、とにかく本書に書いてあることを、真似して愚直にやりきっていただけばいいのです。そうすれば近い将来、御社なりの考えややり方が必ず出てきます。社長と全社員が、自分のなすべきことをきちんと理解し、そして愚直にその遂行に邁進すれば、会社は必ず成長していくのです。
■数字だけを追いかけていては会社は成長できない古田土会計は、開業以来 33期連続で増収を達成しています。営業活動はしなくても毎年お客様からの紹介で新規顧客が 100社 ~ 150社増えていますが、会計事務所だからといって企業努力をしなければ、淘汰されてしまうのは一般企業と同じです。ではなぜ成長を続けることができたのか。それは、毎年「経営計画書」を作成してきたからです。この経験から顧問先の社長にも、「経営計画書」を毎年作成してくださいとお願いしています。古田土会計は 2014年に経済産業省の「おもてなし経営企業 30選」、 2015年に「がんばる中小企業 300社」に選ばれました。また 2014年には東京都から「障がい者雇用優良企業」に認定され、また厚生労働省より「精神障がい者雇用優良企業」に認定されました。日本で 20社しか選ばれていません。そのうち 15社程度は大企業の特例子会社でした。このような賞に選ばれたのは経営計画書を全員で実践し、「よい社風」の会社になったからにほかなりません。経営計画書は、「方針編」と「諸表編」に分冊され、今では両方を合わせると 300ページほどにもなっています。「方針編」には、 ①経営理念、経営ビジョン ②経営の基本方針 ③中期事業計画 ④長期事業構想 ⑤当期の経営目標 ⑥個別方針が入ります。「わが社は何のために存在するのか」を明らかにし、その存在意義を具現化するために、「どんな商品・サービス」を、「誰に向けて」提供していくのかを明文化します。「諸表編」は、短期利益計画をはじめとして、商品別・得意先別・担当者別など、細かい数値計画にまで落とし込み、それぞれの達成状況を分析・評価できるような仕組みにしています。いずれにしろ、私どもの経営のすべてがここに詰まっています。本書でそのすべては紹介できませんが、エッセンスを紹介していきましょう。 ■ 5年後のイメージからさかのぼって考える社長にとって、経営の仕事とは何だと思いますか? 社員を幸せにすること、お客様を幸せにすること、世の中の役に立つこと……いろいろな思いがあるでしょう。古田土会計では、「経営とは、未来を創ること」と定義しています。未来を創るからには、〝どんな未来を創りたいのか〟が明確になっていなければなりません。ですから、顧問先の社長には、自社の未来像( =あるべき姿)を明確にしてくださいとお願いしています。〝どんな未来を創りたいか〟社長の思いがはっきりしないままだと、社員はどこへ向かって走っていけばいいかわかりません。「経営計画書」の中に盛り込まれる計画は、すべて、この〝目指すべき未来像〟が出発点となります。そうすると、 「5年後はこうなっていたい。 3年後までにこれだけのことを達成しておきたい。だから今期はこれだけの売上と利益を獲得しなければならない」といった計画が具体化されていきます。そして目指すべき(描くべき)未来像には、「社員の幸せにつながる未来像」、「お客様の幸せにつながる未来像」、そして「社会貢献」が入っているべきだと考えています。なぜ売上を増やして、利益を増やすことが必要なのか?社長の自宅を新築したり、社用車を買うためだったら、社員はがんばる気になどなりません。売上・利益を増やさないと会社が生き残れないからといっても、「そんな会社にしたのは社長でしょ」と社員は思ってしまいます。社長だけが幸せになる未来像や、会社が生き残るためだけの未来像を描いても、社員は絶対にがんばりません。社員を動機づけし、がんばりを引き出せるようなビジョンや理念を明らかにするとともに、必要な売上・利益の目標額を提示する。そして、その達成のために、
社員一人ひとりがどんな行動をとるべきなのかを、社長以下すべての社員で共有することが、「経営計画書」の大きな目的です。
■社長は何を思い、考えて会社をはじめましたか?ここでは「方針編」の経営理念から説明しましょう。経営理念は社長の志、「何のために経営をするのか」をわかりやすく表したものです。「なぜ、この会社を起業したのか」を思い出せば、経営理念は明確になります。たとえば「自分の考えた技術・製品やサービスを世の中に広めたくて起業した」「先代の起こした事業を続け、働いている社員の生活を守るために後を継いだ」などと思い浮かぶのではありませんか。そして経営ビジョンとは、「会社の事業を通じて実現したいことは何か」ということです。第 1章 1項で、「経営とは、未来を創ること」といいました。そして、未来を創るためには、〝どんな未来を創りたいか〟が明確になっていないとできない、ということも。「どんな未来を創りたいか」とは、未来像そのものです。経営ビジョンとは、まさに〝未来像(経営ビジョン)〟のこと。未来像を実現するための基本的な考え方である経営理念があり、その下に戦略や戦術があって、さらに具体的な数値目標としての売上計画や利益計画が導き出されます。よって、まず自社の経営理念・経営ビジョンを明確にします。そして、その経営理念・経営ビジョンは、社員と共有されなければなりません。また社員だけでなく、お客様をはじめとした関係者と共有できれば、さらに目標達成はより現実に近づきます。ちなみに、古田土会計では、毎年「経営計画発表会」を開催して、お客様や取引先にその年の経営計画を発表しています。 2015年度の経営計画発表会には、 700名を超える方が参加しましたから、それだけの人に公表することになります。思い( =理念)は、考えているだけでは実現しません。社員や関係する多くの方にきちんと伝え、共有すると、実行しなくてはならなくなります。これが、大切なのです。経営理念・経営ビジョンなどというと、難しそうと考えられがちですが、かんたんでいいのです。古田土会計の経営ビジョン・経営理念は、次のものです。【経営ビジョン】日本中の中小企業を元気にする【経営理念】一、社員の幸せを追求し、人間性を高める二、お客様に喜ばれ、感謝されるこれだけです。難しい言葉は使いません。誰にでも理解できます。社員は〝自分は何をなすべきか〟に迷ったとき、ここに立ち返ることで、迷いを払拭し、何をなすべきかを明確にすることができるようになります。たとえば、古田土会計の経営理念では、お客様に対して「原理原則に則った正しい経営をするように導く」というものがあります。お客様が脱税思考であったり、公私混同が甚だしかったり、社員をいじめるような場合には、顧問料がいくら高くてもお断りしています。 ■経営ビジョン、経営理念はわかりやすい言葉で外部の経営コンサルタントに高い報酬を支払って経営理念を作成してもらう社長もいます。とてもすばらしく、かっこいいビジョンや理念ができ上がりますが、意外に、社内に浸透しないようです。社長は、自分の思いをコンサルタントに伝え、議論し、その思いが凝縮された言葉で表現されるので、満足感もあるし、理解もできます。しかし、社長以外の人にとっては十分に理解できなかったり、納得感のない言葉であったりします。これでは意味がありません。経営ビジョンや経営理念は、社長がいつも使っている言葉で、短い文章で簡潔に表現してください。難しい言葉はいりません。場合によっては、古田土会計の言葉を真似していただければいいのです。顧問先の大半はそこから始めていただいています。小さな会社の経営理念には、キーワードがあります。たとえば「社員の幸せ」です。社会貢献やお客様に満足していただくことはもちろん大切ですが、そのために社員が過重労働になってつらい思いをするようでは本末転倒です。日々がんばって働いている社員が幸せになるという要素を、経営理念には盛り込むべきです。古田土会計の顧問先の経営理念を参考までにいくつか紹介しておきましょう。
㈱ヤザワコーポレーション(家庭用電気製品の企画・販売)経営理念幸福循環企業経営ビジョンわが社は「従業員幸福度の高い企業でありたい」そして「社会に必要とされる企業であり続けたい」 ㈱サンワ(スポーツ用品の製造販売)事業目的全社員の物心両面の幸福を追求し、社会の発展と調和に貢献する経営理念当社は損得よりも先に善悪を考え社会に貢献する企業となり、永続的存続を目指します経営ビジョン世界一尊敬される会社になり未来永劫に存続すること ㈱関根エンタープライズ(運送業)経営理念わたしたちは日本一のありがとうを運びます経営理念は、3つでも4つでもかまいません。ただし、その中に必ずひとつは社員に関することを盛り込んでください。そして、できれば、社員に関することを 1番目に表現します。「この会社は、社員を大切にしている。社員の幸せを第一に考えている」ということの表明となるからです。 ■会社の成長は社員が幸せになることで実現する法政大学大学院政策創造研究科教授である坂本光司先生も、会社経営で社長は「社員とその家族」を第一に幸せにしなければいけないと述べていらっしゃいます。先生によればそのあとにくるのが「社外の外注先などの社員とその家族」「現在のお客様と未来のお客様」「地域社会・社会的弱者」「株主・出資者」だそうです。経営理念の一番上に「社員の幸せを追求します」と書いてあれば、社員はがんばります。がんばった結果が自分の幸せに返ってくることがわかっているからです。大きな動機づけになるのです。 ■お客様に感謝される会社は成功する工学博士の五日市剛さんは、「ありがとうございます。感謝します」という人は幸せになれるとおっしゃっています。感謝する人がいれば、感謝される人がいます。人様に感謝される人は成功するのだそうです。そのとおりだと思います。これを会社にたとえれば、「感謝される会社は成功する」ということになります。だから、古田土会計では、これを 2番目の経営理念に掲げています。「会社はそこで働く人たちが幸せになるための場所」だと私は思っています。そして、自分が幸せになるためには、自分以外の人を幸せにすることが大切です。「やり甲斐」という言葉があります。「やり甲斐がない」というとき、自分に対しての見返りが少ないことをいっています。「がんばっているのに給料が安い、満足感がない、達成感がない」ということです。「生き甲斐」という言葉もあります。「あなたの笑顔が、私の生き甲斐だ」などというとき、それは自分のためではなく、他人のためであることを意味します。古田土会計の2つの経営理念には、やり甲斐も生き甲斐もあります。 1番目の経営理念がやり甲斐で、 2番目の経営理念が生き甲斐につながるのです。「社員の幸せ」を追求する、そして「お客様に感謝される」事業活動に邁進する。業種や規模は違っても、この根本は変わりません。すべての会社に当てはまるものと確信しています。
経営理念を考えようという社長は、ぜひ参考にしてください。 ■理念を具体的な行動指針に落とし込むどんなに経営理念がしっかりしていても、それだけでは社員は「具体的にどうやっていいのかわからない」と迷います。そこで、経営理念に基づいて、〝何を大事にして、経営をするのか〟を、具体的に社員に向けて表したものが「経営の基本方針」です。古田土会計では、経営の基本方針を大きく次の4つに分けて記載しています。 ①経営方針 ②環境整備 ③お客様第一主義 ④重点主義 ■基本方針は総合的な指針基本方針とは、経営理念を実効性のあるものにするための総合的な方針です。まず、「 ①経営方針」で基本方針の全体像を示し、その後に続く「 ②環境整備」「 ③お客様第一主義」「 ④重点主義」で、さらに各々の方針を詳細に記述する構成になっています。ですから、「 ①経営方針」は、経営基本方針に関する総論的な位置づけと考えてください。 「( 1)社員が一生幸せに暮らせる会社にする」をはじめとして、具体的に7つの項目を列記しています。いずれもが、経営理念の本質を、より具体的な考え方・行動指針に落とし込んだものです。たとえば「社員の幸せを追求し、人間性を高める」という経営理念は、意味はわかりやすいものの、「では、具体的にはどういうことなのか?」という具体性に欠けます。そこで、基本方針の中で、より具体的な内容でひも解いているわけです。2つ目の経営理念である「お客様に喜ばれ、感謝される」ということについても同様に、より具体的にひも解いています。そして、総論を受けて、以下3つの基本方針が個別具体的に記載されていきます。以下、それぞれについてみていきましょう。 ■環境整備の本質は人づくり環境整備は、仕事をする環境を整えることですが、その本質は「人づくり」です。ですから、ここはいい換えれば「人に関する方針」だともいえます。あらためていうまでもないことですが、経営の 3大要素(資源)はヒト・モノ・カネですね。最近は、これに情報を加えて 4大要素ともいわれます。これらの中で最も大切なのは、やはりヒトです。とくに会計事務所のようなサービス業では、ヒトが商品そのものであるといっても過言ではありません。社員の人間性が高まると、もっとお客様に喜ばれようと、一所懸命に仕事をするようになります。ですから、人間性を高めるための環境整備はとても重要なのです。では、人間性を高めるにはどうすればよいのか。それは行動すること、そして行動を習慣化することです。そのための手段のひとつとして、古田土会計では「挨拶と掃除」を重視しています。挨拶・掃除を徹底するという行動を継続して、習慣化しています。行動を継続する習慣が身につけば、「経営理念を繰り返し読む →経営計画書に立ち戻る」という行動も習慣化できます。だから、経営理念が浸透します。経営理念が全社員に浸透するというのは、同じ価値観を持ち、同じ目標に向かって行動するという「連帯感や一体感のある組織」になります。環境整備は、そうした価値観の共有(経営理念の浸透)や、同じ目標に向かって一体感を持って行動する組織作りに有効なのです。 ■「お客様第一主義」と「重点主義」「お客様第一主義」と「重点主義」は、仕事を進める上で、常にお客様の立場に立ってサービス提供することの大切さを表明したもので、「お客様に喜ばれ、感謝される」という経営理念を、より具体性のある方針に落とし込んだものです。「重点主義」は商品に関する方針です。どんな商品・サービスに重点をおいて事業展開するのか、どこに付加価値を持たせ、競合他社の類似商品・サービスと差別化するのかの方向性を示しています。会社経営には、「選択と集中」が重要だとよくいわれます。古田土会計は「重点主義」の中に、まさにこの〝何に集中するか(徹底して絞り込むか)〟を明記しています。社員はここを見ることで、自分たちがどんな商品・サービスをお客様に積極的に提案すべきなのかを判断できるのです。
■ 10年後のあるべき姿から、 5年後の到達目標に落とし込む経営ビジョンで表される未来像は、会社の理想であり、会社が存続する限り永遠に追い求めるべき姿です。理想である経営ビジョンに到達できるのは、 50年先か、 100年先かわかりません。しかし、そこに向かって突き進むことを決めた以上、その実現に向けたステップを刻む必要があります。そして、ステップを刻むポイントは、未来のあるべき姿を出発点として、現在へ引き戻してくるということです。現在の姿をベースにして未来へ向かって計画を作ると、「今期の売上高が 1億円だったから、毎年 10%ずつ売上高を増やせば、 10年後にはこうなるだろう」というように、計画自体が成り行き的なものになりがちです。未来を出発点にするということは、「 10年後にはこうなっていたい」という長期的なあるべき姿をまず描き、「 10年後にそうなっているためには、 5年後までにはここまで到達していなければならない」という積極的な計画になります。前者の「将来のありたい姿」が長期事業構想であり、後者が「中期事業計画」ということになります。「長期」という場合、未来の夢、 5 ~ 10年程度の未来を指しています。数字は大雑把でも大丈夫です。「中期」という場合は、概ね 3 ~ 5年です。長期構想に到達するために 1年単位の数字と方針を書くのが中期計画です。ですから、まずは「長期事業構想」を策定して 5 ~ 10年後の姿を明確にし、その姿を実現するために「中期事業計画」で 3 ~ 5年後の姿をより詳細に策定していくことになります。ただし中期事業計画には、具体的な売上目標や利益目標も明記する必要があるので、現在の状況から未来に延ばしていく視点も欠かせません。以下、「長期事業構想」の考え方、「中期事業計画」の作り方について説明していきます。 ■長期事業構想とは 5 ~ 10年後のあるべき姿「長期事業構想」は、経営ビジョンによって描いた〝未来像〟を、より具体化したものと考えてよいでしょう。そして、中小企業の長期事業構想は「社員の未来像」そのものです。いわゆる世間一般でいわれている長期計画とは違います。社長が社員に「今はまだ無理だが、 5年後には分社して社長を 10人作りたいと思っている」「給料を 5年後にはこれぐらいにしたい、社員旅行もしたい」「残業時間はこれぐらいにする」など、未来に夢の持てる構想を語るのです。長期事業構想では、たとえば 10年後に到達していたい会社の姿を描いて明文化します。基本的に目標数値の設定は不要で、定性的な〝あるべき姿〟を構想します。古田土会計では、基本的な未来像(経営ビジョン、経営理念を具現化した未来の姿)を示し、その上で ①社員の未来像、 ②組織の未来像、 ③事業の未来像、という3つの構想で「長期事業構想」を記述しています。 ■どんなふうにキャリアアップしていけるか「社員の未来像」が一番なかでも、古田土会計では社員の未来像を一番に書いています。事業の未来像よりも社員の未来像のほうが先です。中小企業は残念ながら離職率が高いです。ですから、社長としては、社員が夢を持って、ずっと働き続けられる会社にしていく努力をしなければなりません。長期事業構想を明文化する一番の意味は、社員にこの会社にいれば自分は成長していけるというイメージを持ってもらうため、将来ビジョンを描いてもらうためでもあるのです。そのためにも、社員の未来像が一番目なのです。
ちなみに古田土会計では、「社員の未来像」では、「将来への5つのコース」を示しています。グループ会社の社長や役員などの経営者になるコースや、財務会計コンサルティングのプロとして活躍するエキスパートコース、税理士として独立を目指すコースなどです。社員が自分自身の夢や希望に沿って、どのようなキャリアのステップアップを図ることができるのかを具体的に示しています。さらに、税理士法人や株式会社など様々な事業体がグループを構成しているので、それぞれの事業体を、長期的にどのように構成・再編成していくかを「組織の未来像」として描いています。古田土会計の経営計画書「方針編」の中には、「中長期組織計画」というものがあります。グループ内の事業体の位置づけを明確にし、中核となる株式会社古田土経営の将来あるべき組織形態を示しています。最後の「事業の未来像」では、商品やサービスをどう発展させていくか、今後どういう事業を核にしていくべきかという方針と方向性を示します。長期事業構想を作成する際のポイントは、「社員の未来像を盛り込む」ことと、「具体的な数値よりもわくわくする可能性を盛り込む」ということです。「残業時間をゼロにする」ではなく、「全社員に 2週間の特別休暇を付与できるような高業績を達成する」という表現のほうが夢を持てます。「3つの事業部で社員数 100人体制を作る」というのではなく、「3つの事業部それぞれの収益性を高めて別会社化し、グループ経営を推進する」という表現のほうが、豊かな可能性を感じられます。あくまでも、社員の未来像を示しつつ、わくわくするような可能性を感じられる長期事業構想を構築してください。
■ 3 ~ 5年先ぐらいは過去の延長線上にある社長は、御社の 5年後のあるべき姿をイメージできますでしょうか。売上規模、社員数、利益額……目標数値を決めていくことに難しさを感じる社長は少なくありません。「変化の激しい時代に 5年先のことなどわからない」と多くの社長がいうのです。そのとおり、 5年先のことなどわかりません。しかし 5年後の世界経済を予測するわけではありません。「わが社は 5年先にはこうあるべきだ」であれば書くことができるでしょう。 5年先ぐらいは過去の延長線上にあります。今進めている事業を今後はこういう方針で、このぐらいの規模にする、新期事業を立ち上げなければならないなど、かなり具体的に書けるでしょう。中期事業計画に盛り込む数値とは、 3年後、あるいは 5年後にわが社をどうしたいのかを計画に落とし込むことが目的です。どの商品・サービスをどのぐらい伸ばしたいのか、そのために人件費はどれだけ増やさなければならないのか、売上高はどうなっていないといけないのかを明確にします。
■短期利益計画で 1年間の数値目標を明確にする短期利益計画では、当期経営目標で掲げた 1年間の売上・利益計画を月単位でまとめます。「月別利益計画」が基本となります。第 2章で説明する「未来会計図表」を活用すれば、年間の経常利益の達成目標はいくらで、そのための固定費をどうするか、変動費等をいくら減らせるかと改善策を考えられます。そうすると粗利益額をどうするのか、そしてそのために必要な売上はいくらかが明らかになってきますから、それを月別に落とし込んでいきます。どの月にいくら売り上げるかは、過去 2 ~ 3期の実績に基づいて決めていきます。もちろん、過去のトレンドだけで決めるのではなく、何らかの積極的な戦略的意思があれば、それを加味して月次の計画を作ることになります。たとえば、毎年2月と8月は赤字月だからといって、今年も赤字前提で計画する必要はありません。販売強化月間としてキャンペーンを展開し、例年になく売上・利益を増大させるというのなら、そういう前提で数値を配賦すればよいでしょう。 ■あげるべき売上と利益の決め方「当期経営目標」とは、今期、どれだけの売上を達成し、利益をあげるかという、会社全体の基本的な数値目標です。厳密にいえば、「経営数値目標」ということになります。中期事業計画の 1年目の目標数値が当期経営目標となります。どのような項目を取り上げるかというと、およそ次のようなものが必要となります。・売上高 ・変動費 ・粗利益・内部費用(人件費、未来費用、減価償却費、一般経費) ・営業利益・営業外損益 ・経常利益 ・税引き前当期利益第 2章では、借入金の返済額から逆算して、最低限度の必達目標を設定する方法を説明しますが、経営数値目標の決め方はそれだけではありません。 ①社員 1人あたり 100 ~ 200万円の経常利益を基準にして社員数を掛ける ②過去 2 ~ 3期の実績推移から見込額を決める(黒字が数期続いている場合) ③過去 2 ~ 3期の累積赤字を埋められる額とする(赤字が数期続いている場合)状況に応じて、より納得感のある方法で考えることをお勧めしますが、 ①の場合だと、かなり金額が大きくなってしまう可能性があります。また逆に、 ②だと過去の業績に引きずられて低めの目標になってしまうことがあります。 ③は、会社が問題を抱えているような状況下で、とりあえず目指すべき目標という位置づけになります。 ■戦術作りは全社員で社長は年間の利益計画を作ります。利益計画から計算された必要売上高は、得意先別や商品別の販売計画に落とし込みます。得意先別・商品別・担当者別の販売計画は全社員で月次ごとに目標を設定します。古田土会計では、各チームごとに一人ひとりが目標を設定し、年度月末の 12月の第 1金曜日に 1日かけて全体目標と、チーム・個人目標のすり合わせを行います。単一商品だけを扱っていて、ひとつの営業部門だけで販売を担当しているのなら、「商品別」や「事業部別」の販売計画は不要で、その場合は全体の月別利益計画に加えて、「営業担当者別」の販売計画だけあれば、事足りるかもしれません。ちなみに古田土会計では、短期利益計画として 30余の資料を作成して、社員全員で共有しています。いくつか挙げると、「月別利益計画」などの売上関連のものや、「固定費年計表」「人件費年計表」など、経費に関するものもあります。
短期の利益計画策定でポイントとなるのは、先にもお話ししたように、全体的な数値目標は社長が作り、個別具体的な商品別販売計画や、担当者別販売計画などは、担当する社員全員で作り上げるということです。商品ごとに事業部が分かれているなら事業部間の調整も必要でしょうし、単一商品であっても、複数の営業担当者がいれば、担当者間の調整が必要であることはいうまでもありません。また、最終的には個人の目標数値にまでブレイクダウンすることになるわけですが、その際は各自の計画が前年実績よりも上回るように設定すべきです。前年実績が売上 1億円だった営業担当者に対しては、今期 1億円を上回る予算設定を行うということです。高すぎる目標設定はやる気を削いでしまう危険性もありますが、低すぎる設定でも、個人の成長を阻害してしまいます。だから古田土会計では 1日かけて全体目標とチーム・個人目標のすり合わせをする機会を作っているのです。
■経営計画は実践してなんぼ経営計画書は、作って終わりではありません。経営計画書に書かれていることをきちんと実施するためには、当然のことながら、全社員がその内容を理解していなければなりません。経営計画書を上手に活用すれば、会社は成長拡大することができます。うまくいかないとすれば、それは「実践していない」からです。なぜ実践できないのでしょう。「そもそも実践する気がない」「何をすべきか社員がわかっていない。つまり経営計画書の内容をきちんと理解していない」からです。どちらにしても、その責任は社長にあります。社長は社員に号令をかけるだけではダメです。自ら率先して経営計画書に書かれていることを実践して、社員にそのうしろ姿を見せなければいけません。「俺は何度も社員にいってるんですよ。でもやってくれないんだよな」と嘆く社長がいます。それならいうだけでなく、まず社長自身が行動してください。 ■「経営計画書」を社員一体化に使う経営計画書は、全社員に渡します。しかし、配っただけで社員がそれに基づいて日々行動するかといえば、そう簡単ではありません。経営計画書を有益な道具として活用するためには、いくつかのポイントがあります。これは古田土会計で実践している活用法ですから、実効性は証明されているものです。まず、経営計画書の内容を全社員に浸透させます。経営ビジョンや経営理念を、全社員がきちんと理解して、同じ価値観を持って仕事に邁進できるようにします。すると、一体感が生まれてきます。さらに一体感を高めるために、古田土会計では、挨拶と掃除に全社員で取り組んでいます。経営計画書でも、挨拶・掃除の大切さは明記しており、経営理念を実現するために必要な経営基本方針のひとつと位置づけています。経営計画書についての勉強会も実施しています。経営計画書、とりわけ「方針編」には社長の思いがつまっています。社員一人で読むのもいいですが、細かいところで思い違いや理解不足が発生することもあります。それを解消する手段として、定期的な勉強会は有効です。月 1回でもかまいません。古田土会計では毎週月曜日の朝 8時から 45分間、全社員を前に私が直接解説しています。だからきちんと浸透しています。 ■短期利益計画の達成度合を週単位でチェック経営計画書を実効性のあるものにするためには、短期利益計画の達成状況をきちんと確認することが欠かせません。毎月の積み重ねが 1年の実績になり、その繰り返しで 5年・ 10年の実績ができ上がるのです。また可能であれば、週単位で売上の達成状況などを確認できると、なおよいでしょう。古田土会計では、毎週月曜日に会議を行って、前週までの状況を確認しています。このままの調子でいけば、今月は目標を達成できるとか、未達の危険性があるから何か対策を講じようということを話し合います。期初に予算計画は立てるものの、決算が近づくまで一切チェックしないなどというのは論外としても、四半期単位でしかチェックしない企業や、毎月チェックしていたとしても、売上と粗利益程度しか確認しないという企業は少なくありません。しかし、それではチェックの意味がありません。売上・利益が計画通りにいかずに利益が予定よりも低くなってしまうとすると、その分はどこかで資金ショートにつながることになります。今月、計画とのかい離が 1000万円あった。その 1000万円は、来月か再来月には資金ショートという形で顕在化してくることになります。四半期に一度のチェックでは、気づいたときにはもはや手遅れです。月次でチェックしていれば、そうした事態にも対処ができます。
古田土会計が、月次決算にこだわるのは、未達があったときに、いつまでにどれだけの資金手当てが必要なのかを、早い段階で明確にすることで、対策を講じやすくするためです。 ■全社員が自己チェックして達成度合を月 1回発表毎月、定期的に予算会議を開いて、社長が全社的な計画達成度を報告して、未達であれば社員に発破をかけるという会社はよくあります。しかし、全社的な売上・利益の推移や、部門単位の売上・利益の推移をチェックするだけでは、十分ではありません。中小企業の場合には、全社員が自分の達成度をきちんとチェックして、未達があるのかどうかをしっかり把握する必要があります。古田土会計では、月 1回、短期利益計画の進捗について会議で確認しています。経営計画書の「諸表編」は書き込み式になっていますから、全社員が自分の担当部分に実績を書き込み、それを発表します。個人の売上・粗利益計画はそれぞれを自分で設定します。すでに説明しましたが、全体の計画は社長が作成しますが、それを個人別の予算に落とし込むのは各社員です。設定にあたっては、前年よりは上回るように指導します。社員自身が成長することが大事ですから、前年と同じ、前年より低い目標設定ではダメですが、経営サイドが「お前はいくらの売上・粗利益をやれ」というような押しつけもしません。「最低限、去年よりは成長しなさい」というだけです。外部の方にこの話をすると、「成績が悪い人は恥ずかしい思いをするのでは」といわれることがあります。確かにがんばれていない社員は恥ずかしい思いをするかもしれません。しかし、会社に属して給料をもらっている以上、その方針に従ってすべきことをする義務はあると思っています。自分で設定した目標をきちんとクリアすることは、自分自身の成長にもつながるものなのです。 ■「経営計画書」に基づいて社員を叱る経営計画書は、会社の行く末を決める羅針盤であると同時に、すべての社員の行動指針を示す行動マニュアルでもあります。社員が経営計画書に書かれている行動指針に沿わない行動をしたら、経営計画書に基づいて指導することが大切です。たとえば、きちんと挨拶ができない社員に対して、社長が「きちんと挨拶しなさい」と叱ったとしても、「きちんと挨拶をする」ということが行動指針として明文化されていなければ、叱られた社員は「なんで突然、そんなことをいうのだろう!?」と疑問に思ったり、「今日は社長の機嫌が悪いみたいだ」と感じて、いわれたことを守ろうとはしないかもしれません。しかし、経営計画書の中に具体的に「挨拶は相手に元気になってもらうためにするもの、相手の目を見て笑顔と笑声で行う」と書かれていれば、「うちの会社の経営計画書にこう書いてあるだろう。だから、方針のとおりに挨拶しなさい」と指導すれば、単なる社長の思いつきでもなければ、機嫌が悪かったせいでたまたま叱られたわけでもないことが容易に理解できます。中小企業のような小さな集団で「全社一丸」体制を作る上では、また、社長や上司が社員を叱ったり、指導する際にも、経営計画書に書かれている内容を拠りどころにすることは極めて重要なのです。経営計画書は、会社が拡大成長していくために目標数値を社員全員が共有するためのツールであるだけでなく、日常の行動を律するためのツールでもあります。きちんとした経営計画書を作成することはもちろん重要ですが、作られた経営計画書を十二分に活用することはもっと重要です。
■損益計算書の利益だけを見てませんか「今月の売上はどれぐらいだ!?」「予算通りに利益が出ているのか?」「今期は対前年比で 105%の売上・利益目標で頼むぞ!」社長が、社員に檄を飛ばすために日常的に使っていたり、経営上の関心事だったり、あるいは目標予算を設定する際の視点は、おおむねこうしたことではないでしょうか。売上がどれだけ伸びたか(伸ばすか)。利益はどの程度獲得できているのか。たしかに、いずれも会社経営においては重要な指標といえます。しかし、社長、はっきりいいます。損益計算書上に表される売上の増減や利益の増減だけを指標とした経営では、うまくいきません。もちろんこれは、社長、あなただけのことではありません。多くの社長さんが、損益計算書を中心にした経営に偏り過ぎています。「売上がいくらぐらいで、原価がどうで、販管費がこうだから営業利益や経常利益が増えた(減った)」と、損益計算書はよく見るが、貸借対照表をしっかり読み解くことはできないという社長さんが実に多いのです。しかし、損益計算書上に表される売上・利益だけを指標とした経営では、会社のかじ取りを誤ってしまう危険性があります。「勘定合って、銭足りず」黒字倒産を表すこの表現、社長もよくご存じですよね。では、そもそも〝黒字〟なのに、なぜ倒産するのでしょうか?このことをきちんと理解されている社長さんは驚くほど少ないのです。「利益が出ていても、支払手形を決済する現金が不足しているんだ。不渡り手形を出したら、会社は潰れてしまう」はい、その通りです。しかしそれは、黒字倒産の本質ではありません。もう一度伺います。利益が出ているのに、なぜ、手形決済資金が不足するのでしょうか。利益が出ているのなら、利益の分だけ現金が残るはずだと思いませんか。たとえばこんな会社がありました。製造業である古田土機械では、次の損益計算書のように、4月の売上高は 1000万円、売上原価は 400万円( ❶)で、販売費及び一般管理費が 500万円( ❷)だったので、営業利益は 100万円でした。
損益計算書上、営業利益の下に続く項目(営業外損益と特別損益)がゼロだとすれば、4月度の古田土機械の損益計算書には 100万円の経常利益( ❸)が残ります。古田土機械では4月に限らず、前月も前々月も 100万円程度の経常利益を稼ぎ出しています。毎月 100万円程度の経常利益が上がっているにもかかわらず、来月末に外注先 A社に支払うべき 200万円の資金が不足している。このときの古田土機械の状況がまさに「勘定合って、銭足りず」です。 A社への支払い 200万円は、損益計算書では「売上原価( ❶)」に計上されています。その原価を支払っても、なお 100万円の利益が残る( ❸)ということが損益計算書には表現されているわけです。にもかかわらず、支払いのための資金が不足している。かかった売上原価や社員の給料などの経費を支払っても、なお 100万円残るはずなのに、きちんと計上ずみの売上原価を払うお金が不足しているのはなぜか?実は、古田土機械では、毎月、借入金の返済が 200万円もあったのです。銀行からの借入れの返済額が、稼ぎ出している利益の額よりも多いと、こうした〝銭足りず〟の状況が発生することがあります。たとえば、 1億 2000万円の借入金を 5年で完済する返済スケジュールで銀行から借金しているなら、金利分を無視しても年間の返済総額は 2400万円です。月々にすると 200万円もの返済になります。月に 100万円の利益が出ていたとしても、その利益 100万円を借金の返済に充ててもなお足りず、結果的にさらに足りない 100万円をどうするか、新たに借入れするのか……いずれにしても厳しい資金繰りを余儀なくされてしまうのです。ところが、そうした実情、つまり毎月、借入返済で 200万円もお金が出ていってしまうという事実は、損益計算書には出てきません。儲かっているのに、支払い資金が不足してしまう原因は、損益計算書以外のところに表されています。ですから、損益計算書だけを見て、「儲かった!」「儲からなかった…」と一喜一憂していると、会社を〝黒字倒産〟させてしまうことになりかねないのです。 ■お金が足りなくなる理由は4つ会社にお金が残らない理由をここでは4つに絞ってお話ししましょう。ひとつは、借入金の返済額が、稼ぎ出している利益の額よりも多いという状況。古田土機械がこの状況でした。2つ目は、売掛金の入金サイトよりも、買掛金等の支払いサイトが短い。たとえば古田土機械の入金サイトは 90日なので、4月の売上 1000万円が回収(入金)されて現金化するのは( 4 + 3)で7月末日。これに対して、外注先への支払いサイトは月末締めの翌月末日なので、入金される 2カ月前に支払いが発生します。毎月同じ金額の売上 1000万円と原価 400万円が発生しているとすれば、7月末に4月分の売上 1000万円が入金される前に、4月、5月の 2カ月分の原価を先払いすることになります。古田土機械は、原価の支払い分だけで総額 800万円の資金が必要になるということです。
3つ目に挙げておきたいお金が残らない理由が、「在庫」です。受注生産型の製造業であれば、在庫の問題は発生しませんが、在庫を持って受注に応じて出荷するメーカーだと、一定量の在庫が必要になって、売上が発生する以前に、外注先などへの支払いが生じます。作り置いた製品は、売上が発生するまでは「在庫」という形で資産計上され、貸借対照表では、「現金預金」も「在庫」も「流動資産」として計上されます。たとえば、現金預金 1000万円、在庫 500万円という資産状況も、現金預金 200万円、在庫 1300万円という資産状況でも、(他の要素を無視すれば)流動資産の残高はいずれも 1500万円です。しかし、手元にある現金預金が 200万円しかない後者の状況では、 400万円の支払いはできません。4つ目の理由は、「支払い手形の問題」です。以上、これら4つの問題をどう解決すればいいかは第 2章で詳しくお話ししますが、ここで申し上げておきたいことは、ここに挙げたようなお金が残らない原因は、毎月の損益計算書では確認できないということです。現在、いくらの借金が残っていて、今期(あるいは今月)いくら返済しているのかは、貸借対照表の「借入金」の増減や、キャッシュフロー計算書のキャッシュアウトの項目を見なければわかりません。どれぐらい先に支払わなければならないのか、在庫がどれだけ増えたのかということも同様です。損益計算書を見ているだけでは、4つの「お金が残らない理由」を無視した経営をしているようなものなのです。「損益計算書はわかるが、貸借対照表はわかりにくい」という社長が多くいらっしゃいます。しかしそれでは、「来月の支払いをどうしようか」とお金不足に悩む経営からは抜け出せません。稼げているのかを確認するためには、損益計算書はもちろん大切ですが、経営にとってはそれ以上に貸借対照表が重要なのです。損益計算書とキャッシュフロー計算書は一緒に毎月必ず、そして貸借対照表も定期的にきちんとチェックして、自社にお金が残らない原因を理解した上で、その改善策を練っていく経営を目指してください。
■業界平均はひとつの目安になるが・・・「ライバル会社に比べて、うちは給与や賞与は払っているほうでしょうか?」「利益率はよそに比べてどうなんでしょうか?」こんな質問を社長からよくいただきます。たしかに社長にしてみれば、ライバル会社の動向は気になるところでしょう。その視点が不要だとはいいませんが、でも、あまり意識しすぎる必要もありません。業界平均という視点はひとつの目安になりますし、「ライバル会社に比べて、わが社は売上高経常利益率が低い」といったことはわかります。しかし、だからといって「売上高経常利益率をライバル会社と同じ水準まで引き上げる」というのが、自社にとって正解ということにはなりません。会社経営で重要なのは、「収益構造(儲けの構造)はどうなっているか」を理解・把握すること。つまり 1万円の売上をあげるのに、原価がいくらかかっていて、粗利益はいくらなのか。さらに、その粗利益のうち、いくら人件費にかかっていて、その他の諸々の経費にどれぐらい費やされているのか、その結果として営業利益はどのぐらい残るのかを把握しておくことが大切なのです。同じ業種でも、収益構造は会社によって違います。同じ製造業でも、製品によって原価率は異なります。ですから、「製造業の原価率」という平均値と比較しても、あまり意味がありません。同様に「ライバル会社がこうだから、うちの会社もこうする」という視点もあまり重要ではなく、それよりも、自社の収益構造の、どこをどう改善すれば、利益がもっと出るようになるかを見極めるほうが重要なのです。経営学や財務分析の書籍などを読むと、いろいろな経営指標が紹介されています。粗利益率や総資本経常利益率、自己資本比率や売上高経常利益率、損益分岐点比率、労働分配率……などなど。古田土会計では、顧問先の社長と、どこをどう改善すべきかをまずじっくり話し合います。たとえば、「粗利益率を 5%改善することはできないか?」「損益分岐点比率を、 10%改善するためにどうすべきか?」「労働分配率の目標をこのくらいに設定しましょう」という内容であったりです。 ■損益分岐点比率は業種・業界を問わず使える数字これらの経営指標の多くは、業界によっておおむねの平均値があります。たとえば、粗利益率では、製造業は 50%、飲食業なら 70%、美容業であれば 90%、卸売業なら 20%などです。しかし、業種・業界にかかわらず、目指すべき目標数値が一定の数値があります。損益分岐点比率です。損益分岐点比率は売上高・粗利益率に関係なく、粗利益額と固定費の比較なので業種業界に関係なく使える数字です。多くの中小企業経営者が考えている利益率は売上高経常利益率です。京セラの稲盛和夫さんも、売上高経常利益率 10%を目指しなさいといっています。私もよくお客様からうちの会社の目指すべき利益率は何%ですかと聞かれますが、売上高経常利益率ではなく、損益分岐点比率で答えています。目標とすべき売上高経常利益率は、業種・業界によってまったく異なるからです。たとえば粗利益率 10%の業界では売上高経常利益率 10%は無理です。すなわち、業界の粗利益率によって、目指すべき売上高経常利益率は違うということです。しかし、粗利益率と損益分岐点比率を組み合わせることにより、理想的な業界の売上高経常利益率は計算できます。たとえば粗利益率 50%の業界で損益分岐点比率 80%を目指すなら、理想的な売上高経常利益率は 10%になります。計算式は粗利益率( 50%) ×( 100%-損益分岐点比率 80%) = 10%です。理想の損益分岐点比率は 80%。目標は 90%。製造業もサービス業も同じです。損益分岐点比率は、粗利益額に対して、固定費がどれだけの割合を占めているかという指標です。損益分岐点比率が 80%というのは、粗利益額 100に対して、固定費が 80であること。つまり、万が一、売上高が 20%下がっても収支はトントン。損益分岐点比率は低ければ低いほど、会社としての優良性が高いということになります(第 2章 4項参照)。損益分岐点比率が 100%を上回っている会社は、赤字の会社ということになります。粗利益で固定費を賄えていないということ。こういう状態の会社は、まず 100%を切ることを目指す。そして次に、目標の 90%程度を目指す。それが達成できたら、理想の 80%を目指すというステップを踏みます。
どんな業種であれ、まずは損益分岐点比率を用いて、あるべき姿(目標 90%、理想 80%)を目指す経営を心がけることのほうが重要といえるのです。
■直近 2期分の損益計算書で収益状況を把握古田土会計では、新規に顧問を務めさせていただく会社の社長さんからは、直近 2期分の決算書をお預かりして、収益状況を把握することからスタートします。社長も手元に 2期分の決算書を用意してください。単年の決算書だけでは何も見えてきません。時系列に比較する中から、問題点や原因が浮かび上がってきます。たとえば、 2期分を比較して、「売上高は増えているのに、粗利益が減っている」ということがわかれば、変動費率に問題あり、と判断できます。また、「売上が増えて、それに伴って粗利益も同じ割合で増えているのに、営業利益が前年より減っている」場合は、販管費の増加が原因であることは明らかです。こうした問題点は複数年を比較することで明らかになることで、単年度の決算書だけではわからないことです。以下、損益計算書に基づくチェックポイントを説明しますが、時系列での比較については、チェックポイントごとに、社長ご自身で確認してみてください。まずは「売上高」の絶対額を見て、御社の事業規模がどの程度かを確認します。「今さらあらためて確認するまでもないだろう」と社長のつぶやきが聞こえてきそうですが、年間の売上高が 5000万円規模の会社と、 20億円規模の会社では、改善策として、打つ手がまったく違ってくるので、この点は重要です。たとえば年間売上高 5000万円の会社が、まず人件費の見直しから始めたとしても、そもそも従業員数が 2 ~ 3名なら、大きな金額にはなりません。ところが売上 20億円、従業員数が 50人という規模なら、人件費の 10%削減は大きな効果を生み出します。売上 20億円で人件費 4億円の会社が人件費削減に手をつけることは有効であっても、売上 5000万円で人件費 1000万円の会社では、焼け石に水。他の策を考えるほうが得策です。次に粗利益と営業利益の絶対額を確認します。粗利益率についてはどの程度が妥当なのかは、おおむね業種ごとにわかっていますので、それに対して高いか低いかは、一目瞭然です。すでに触れましたが、粗利益率は飲食業で 70%程度、美容業で 90%程度、製造業なら商品によって異なるが、ざっと 50%程度が目安となります。ただし、これらはあくまでも大まかな目安であって、業界平均に比べると低いから(あるいは高いから)悪いとかよいということは一概にはいえません。営業利益の状況は重要なチェックポイントです。営業利益は、売上から変動費を差し引き、さらに固定費(営業外損益を除く)を差し引いて残った利益です。営業利益は〝本業の儲け〟ともいわれ、その会社の本業での収益性を把握できます。営業利益を見る際には絶対額が重要で、ひとつの目安としては、「営業利益 +減価償却費」で、借入金の返済額を賄えているかどうかがポイント。単純化していえば、本業の儲けで、借金を返せているのかどうか、が大きな分析ポイントということです。たとえば、毎月の借金の返済額が 200万円あるのに「営業利益 +減価償却費」が 150万円しかなければ、資金繰りはかなり苦しいだろうなとわかります。中小企業のほとんどの会社は借入れがあります。借金を毎月返さなければならないから、中小企業は利益を出さなければならないのです。極端な話ではありますが、会社が無借金で、借入金の返済がゼロなら最終的な収支がトントンでも会社は継続できます。厳密には利益が出る・出ないにかかわらず、支払わなければならない税金などもありますから、まったく利益ゼロでよいということにはなりませんが。次に、経常利益( =利益獲得力)を確認します。経常利益は営業利益に本業以外の損益(営業外収益・営業外費用)を加減して算出される利益ですから、その会社全体としての「利益獲得力」を把握することができます。各年度の損益計算書でチェックポイントを確認するとともに、 2期分を横に並べて、増減の傾向も確認します。 2期分の損益計算書を比べることで、売上は伸びているか? 経常利益は増えているか? 売上が増えているのに、経常利益が減っているのならその原因は?といったことがわかります。
人件費が増えていたとして、その理由を社長にお尋ねしても、明確に答えられる社長ばかりではありません。社員数は増えていないが、定期昇給で増えているのか、退職金を支払ったために増えているのかなど、各費目ごとに増減の理由を社長自身が言葉にできるかどうか、そういうことが改善策を考え出す上では重要なのです。このように、まず損益計算書をベースに確認したら、次に「未来会計図表」に組み直して、あらためて分析をすることになります。
■費用と利益のバランスが一目瞭然「未来会計図表」とは、損益計算書の内容を元に、経費を変動費と固定費に分けて、過去の利益構造を見える化したツールです。同時に、このツールを活用することで、適切な予算作りも可能となります。過去を分析する以上に、未来に活かすことで大きな価値があるツールなので、「未来会計図表」と呼んでいます。ベースにある考え方は、「変動損益計算書」です。「変動損益計算書」とは、通常の損益計算書とは費目の集計が少々異なります。通常の損益計算書では、売上高の下には、売上原価が記載され、「売上高-売上原価」で売上総利益を計算し、その売上総利益から、さらに販売費・一般管理費を差し引いて利益(営業利益)を算出しますね。しかし、「変動損益計算書」では、売上高から変動費を引いて粗利益を算出します。「変動損益計算書」では、売上高から変動費を差し引いたものを「限界利益」と呼びますが、つまりは粗利益と同じと考えてください。「未来会計図表」の構造は簡単です。次の全体像を見てください。これは古田土会計が顧問先の社長にお渡しする「未来会計図表」の資料です。左が未来会計図表です。右はその解説になっています。
通常の損益計算書は、売上高からはじまって、売上原価、粗利益(売上総利益)が書かれ、その下に人件費をはじめとした経費が費目ごとに列記されます。すべて数字で表されているので、パッと見で、直感的に「多いのか、少ないのか」ということを判断するには不向きです。ところが、未来会計図表は、グラフ化していますので、売上 100に対して、変動費が 50なら、「ちょうど売上の半分だな」といった状況が、すぐにわかります。粗利益と固定費のバランスや、固定費と営業利益のバランス、それぞれの関係性なども一目瞭然なので、とても便利です(未来会計図表の例では、各項目の説明を記載しているために、必ずしも比率通りにはなっていません)。未来会計図表は、単月と累計をそれぞれ作成します。月次の予算管理は当然に単月の未来会計図表に基づいて行うわけですが、同時に「これまでのところ、今期の予算達成度合いはどのくらいなのか」ということについては累計の数字で確認することはいうまでもありません。一般的に作成される月次の試算表が「当月」と、「当月までの累計」で表現されるのと同じことです。では古田土印刷を例に説明しましょう。次の図を見てください。一番左に「売上高」の棒グラフをおきます。古田土印刷の売上高は 5億 1842万 4000円。その右側上段に「変動費」を表示します。
変動費とは、売上の増減にともなって、比例的に増減する原価の項目です。製造業でいえば、製品を作るための原材料費や外注費などが変動費にあたります。会社によっては、「広告によって、売上が増えたり減ったりするので、広告宣伝費も変動費だ」とおっしゃる社長もいますが、広告宣伝費は変動費ではありません。広告が売上にある程度の影響を及ぼしたとしても、比例して連動することはありません。売上高から変動費を差し引いて残ったのが「粗利益額」となります。古田土印刷の場合、変動費が 2億 4552万 9000円ですから、粗利益額は( 5億 1842万 4000円- 2億 4552万 9000円 =) 2億 7289万 5000円です。よって、粗利益率は 52・ 6%と計算できます。次に、粗利益額の棒グラフの右わきに「固定費」の棒グラフをおきます。固定費はすべての原価・経費から変動費を差し引いたものです。人件費や事務所家賃、光熱費や教育研修費、研究開発費などが含まれています。「人にかかわる費用(人件費など)」「モノにかかわる費用(事務所家賃など)」「借入金などの金利」「未来費用(教育研修費・研究開発費など)」に分けておくとよいでしょう。未来費用とは、要は将来の会社の成長のために必要な経費で、社員の業務スキルが向上すれば、将来的な売上・利益に貢献しますので、教育研修費は未来費用になります。 5年後、 10年後に新商品を市場に投入するための研究開発費用も未来費用ですし、広告宣伝費も先々の売上に寄与し得るという点で未来費用といえます。粗利益額からこれらの固定費を差し引いて残ったものが「利益(経常利益)」です。古田土印刷の場合は、粗利益額が 2億 7289万 5000円で、固定費が 2億 3940万 400円ですから、経常利益は 3349万 1000円になります。
■粗利益額に占める固定費の割合を見てみよう「未来会計図表」に必要な数値を入れ込んだら、次に指標を計算していきます。まずは「損益分岐点比率」、粗利益額に占める固定費の割合です。損益分岐点比率は、「固定費 粗利益額」で計算します。損益分岐点は社長もよくご存じだと思います。利益も損失もない状態のポイントで損益分岐点売上といえば、収支がトントンとなるときの売上高を指しますが、ここでは収支がトントンになる粗利益額を示します。つまり、「粗利益額 =固定費」となるポイントです。さて、第 2章 4項に出てきた古田土印刷の損益分岐点比率は、 87・ 7%( = 2億 3940万 4000円 2億 7289万 5000円 × 100)になります。この数値は、粗利益額に占める固定費の割合が 87・ 7%であり、損益分岐点となる粗利益まで 12・ 3%の余裕があるということを表しています。逆のいい方をすれば、古田土印刷の場合には売上高が 12・ 3%ダウンすると、利益がゼロ、すなわち損益分岐点になるということがわかります。 ■借入金の返済額を賄えるだけの利益額が出せているか次に「売上高経常利益率」です。古田土印刷では、売上高経常利益率を計算すると 6・ 5%となります。すでに触れた通り京セラの稲盛和夫氏は、「売上高経常利益率は 10%を目標にすべき」とおっしゃっています。これもひとつの知見ではありますが、その数値にこだわる必要はありません。あくまでも、会社ごとに必要利益は異なり、一律に 10%が正解ということではありません。むしろ、重視すべきは、自社に必要な利益額を出せているかどうかという視点です。必要な利益額とは、その利益で借入金の返済額を賄えるだけの絶対額だと説明しました。「営業利益 +減価償却費」によって、必要な借入金返済額を賄えるかどうかということです。これは損益計算書上、営業利益以下に記載される営業外損益や特別損益がゼロだった場合の話で、実際には営業外損失が発生していたり、特別損失が計上されることもあるでしょう。また経常利益が 1000万円あったとしても、原則的にはそこに法人税が課税されます。経常利益の半分くらいは税金の支払いにあてなければならないことを考えると、より厳密にいえば、「税引き後当期利益 +減価償却費の額 ∨借入金返済額」こういう状況でないと、資金繰りは円滑には回らないということになるのです。 ■人件費は自社が最も高い利益を上げたときの労働分配率を目安に考える次に今の人件費は妥当かどうか、「労働分配率」を計算します。労働分配率とは、会社が生み出した付加価値に対して、人件費の割合がどれだけであったかを示す指標です。労働分配率は「人件費 付加価値額(粗利益)」で計算します。ここで、付加価値額というのは、粗利益のことを指します。労働分配率を分析することで、人件費が適正かどうかを判断することができます。例に挙げた古田土印刷の場合には、人件費 1億 4723万 1000円に対して、粗利益額が 2億 7289万 5000円ですから 54・ 0%( = 1億 4723万 1000円 2億 7289万 5000円 × 100)となります。労働分配率についても、他の経営指標と同様に、業界平均などの目安の数値はありますが、そうした平均値を目安にするよりも、「自社が最も高い利益を上げていたときの労働分配率」を目安にするほうが目標設定としての妥当性は高まります。さて、第 2章 4項の未来会計図表の解説の中の「経営指標の目安」に、総資本経常利益率と自己資本比率が取り上げられています。この2つは、損益計算書の数値だけでは計算できない指標なので、ここでは簡単に触れておきます。総資本経常利益率とは、会社が運用するすべての資本(総資本 =総資産:貸借対照表の一番下に記載される総額です)を使って、どれだけの経常利益を稼ぎ出したのか、ということを見る指標です。「会社の収益性」がわかります。たとえば、総資本 1億円の会社と、 2億円の会社があって、ともに経常利益が 1000万円だったとすると、前者は総資本経常利益率が 10%で、後者は 5%となり、前者のほうが〝少ない資本でたくさん稼いでいる会社〟だということがわかります。次に、自己資本比率ですが、これは「会社の健全性」を表す指標です。会社の資本が他人資本と自己資本に分けられることは社長もご存じですよね。借入金は他人資本で、資本金や内部留保した利益は自己資本です。要は会社のすべての資本の中に占める自己資本の割合が大きければ大きいほど、健全な会社だということがわかります。
■「未来費用」とは将来的な成長のための投資私たち中小企業は、「未来費用」というものを重視しなければ、将来、生き残れません。「未来費用」とは、文字通り、未来のための投資的な経費のこと。具体的には、社員の教育研修費や、新しい商品を開発するための研究開発費、広告宣伝費が該当します。小さな会社では、ほとんどが計上されていなかったり、会社の業績が悪化すると真っ先に削減対象となる経費項目ばかりではないでしょうか。しかし、中長期的な成長を考えれば、これらの費用投下をゼロにしてしまうのは得策ではありません。私たちは顧問先の財務状況を分析する際、これらの未来費用をきちんと支出しているかどうかで、その会社の成長性を見るようにしています。未来費用の支出がまったくない会社は、よしんば現時点で利益を出していたとしても、将来的な成長が危ぶまれるのではないかという判断です。社長の会社ではいくら計上しているでしょうか。 ■中小企業こそ社員の成長や商品の革新のためのお金が大切第 1章の「経営計画書の作り方」で詳しく触れましたが、中小企業では、利益を稼ぎ出すのは社員です。ですから、個々の社員が成長して業務遂行能力が向上すれば、会社の業績も伸びます。つまり、会社が将来にわたって成長し続けるためには、社員の能力開発(資質の向上)が重要なポイントとなり、教育研修費はそのための投資なのです。製造業における研究開発費も同様です。日進月歩で、新しい商品・サービスが次々に市場に投入される時代です。旧態依然とした商品だけでは、やがてライバル会社に駆逐されてしまうかもしれません。駆逐されないまでも、ライバル会社の競合商品に市場のシェアを奪われ、売上・利益の低迷という苦境に追い込まれるかもしれません。そうした事態に陥らないためには、今、利益を出すことに汲々としていてはいけません。 5年先、 10年先の成長のために、計画的に研究開発のための投資をすることは欠かせない費用といえるのです。広告宣伝費は、現在の売上確保のための施策と考えられがちです。たしかにそうした側面もありますが、同時に新しい顧客を開拓するきっかけともなるものです。 P・ F・ドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造である」といっています。広告活動は、まさに新しい顧客を創造するために不可欠の施策であり、教育研修費や研究開発費と並んで、重要な未来費用だといえるのです。 ■未来費用は会社の体力に応じて支出すべき未来費用の重要さについて説明すると、「売上の(あるいは粗利益の)何%くらいを支出するのが適切なのか?」という質問をされることがあります。古田土会計では、何%が妥当かというようなお話はしません。会社の現況を分析する際にも、未来費用については絶対額でみています。会社の状況によって費やせる未来費用の額は違ってくるものですが、基本的には、必要な利益を確保した上で、余裕部分を未来費用にあてるという考え方でよいでしょう。中には、「売上高の ○%を未来費用に使う」と決めて実践している会社もあります。しかし、そうした会社は決して多くはありません。業績が厳しくなれば、必要な利益を獲得するのが精一杯で、未来費用を支出する余裕がないということもあるでしょう。そういう場合には、利益の確保を優先すべきであり、無理をして未来費用を捻出する必要はありません。
■固定費の削減ばかり考えてはいけない前項までで、損益計算書を使って、損益分岐点比率、売上高経常利益率、労働分配率と労働生産性、未来費用の絶対額を確認・分析してきました。さらにもうひとつ、古田土会計で重要視している視点を紹介しましょう。それは、「固定費生産性」です。過去の損益計算書を分析して、御社の売上高経常利益率が低いことがわかったとしたら、社長はどんな手を打ちますか? 実は多くの社長が、「じゃあ、固定費を削減します」という判断をされます。もちろん状況によっては固定費の削減に手をつけることが重要な場合もありますが、その前に考えていただきたいのが「固定費生産性」で、かかっている固定費によって、その何倍の粗利益を稼ぎ出しているかという指標です。「固定費生産性 =粗利益 固定費」で計算します。損益分岐点比率の計算式を分母・分子を逆転させただけの指標ではありますが、見方を変えることで、「利益を増やすために固定費は削減するもの」という守りの視点から、「今の固定費生産性を向上させるにはどうすべきか」という攻めの視点に転換できます。まだまだ生産性を向上させられる余地があるのなら、固定費を削減して利益を増やす方策を模索するのではなく、固定費生産性を高める方策を志向すべきです。第 2章 4項の古田土印刷の例でいえば、粗利益額 2億 7289万 5000円に対して、固定費 2億 3940万 4000円なので、約 1・ 14倍ということになります。この 1・ 14倍が高いか低いかを議論するのではなく、この数値を 1・ 2倍、 1・ 3倍にすることは可能かどうかという視点で戦略を考えることが重要なのです。つまり固定費を削減することではなく、粗利益額を増やすことに全社員が知恵を出しましょうということです。 ■5つの視点でどこを改善すべきか考えてみる損益計算書を「未来会計図表」に組み替えて、5つの視点、 ①損益分岐点比率、 ②売上高経常利益率、 ③労働分配率と労働生産性、 ④未来費用の絶対額、 ⑤固定費生産性、これらを中心にどこを改善すべきかを判断します。改善ポイントを見極める際には、まず最初に、「経常利益段階で黒字か赤字か」をチェックします。もし赤字なら、経常利益段階での黒字化が最優先の改善ポイントということになります。つまり、いかにして黒字化するのかが課題になるということです。経常利益が黒字化できている場合には、次のステップとして、「損益分岐点比率が 90%の水準に達しているかどうか」を確認します。もし 90%に満たないなら、損益分岐点比率 90%の達成が、当面の課題ということになります。損益分岐点比率については、健全企業の目安としての 80%というあたりまで見据えて、「どこをどう改善すれば 80%に到達できるのか」という視点を持つことも大切です。さらに改善ポイントを見極めるポイントとしては、目標(予算)利益に対しての達成度合いを見て、未達成であれば達成のための改善策を講じる。年間の借入返済額を賄えているどうかをチェックして、返済額に不十分な経常利益なら、あとどれくらいの経常利益の上乗せが必要かを判断して、その達成のための方策を講じるといった視点も考えられます。いずれにしろ、どこをどう改善すべきかは、御社がおかれている状況によって違ってきます。損益計算書を分析するというのは、あくまでも過去会計。過去と向き合うことで、問題点が明確になりますが、大切なのは、その問題点をどうやって改善していくかということです。次項では、未来会計図表の本来の目的である、〝未来会計〟の作り方について説明していくことにします。
■重要なのは経常利益多くの社長さんは予算の策定にあたって、「対前年比 ○ ○%アップ」という目標設定をしがちです。しかし、会社経営で重要なのは、売上高ではなく、経常利益額です。「会社の存続に必要な経常利益はいくらなのか?」から出発して、「そのために必要な粗利益はいくらか?」「その粗利益を獲得するのに必要な売上高はいくらか?」というステップで予算を策定すべきです。どんな小さな会社であっても、必要な経常利益額を出発点に予算を策定することは鉄則だといっても過言ではありません。 ■必要な経常利益額は、借入金の返済額が基準となるでは、具体的にどういう基準で経常利益額を設定するかについて説明しましょう。前にもお話ししましたが、自社に必要な経常利益額を正確に把握している社長さんは多くいらっしゃいません。「どれくらいの利益が必要だと思いますか?」と質問すると、「多ければ多いほどいいんでしょう」といった答えが返ってくることもしばしばです。もちろん、利益は多いに越したことはありませんが、そもそも、このような漠然とした考え方では、適正な会社経営はできません。では、どのように目標利益を設定すべきか。当然のことながら、いくらくらいの経常利益額を予算として設定するかは会社の状況によって千差万別ですが、考え方のひとつとして、「借入金の返済額を基準にする」というものが挙げられます。中小企業の多くは、金額の多寡の違いはあっても、たいていは借入れをしているものです。たとえば、 5000万円の借入金を 5年返済で借りていれば、金利を無視しても、年間 1000万円の返済をしていることになります。ですから、設定すべき目標は、この 1000万円の借入返済を賄えるだけの経常利益を稼ぎ出すことが、絶対的な目標となります。厳密にいえば、「経常利益 =税引き前当期利益」だと仮定すると、そこから税金、配当、役員賞与が約半分くらいかかりますので、 1000万円の借入返済を賄うための目標経常利益額は約 2000万円ということになります。 ■経常利益額からの逆算で目標売上高が決まる過去の損益計算書を分析することで、現状の会社の利益構造はわかっていますから、「今の固定費のままなら目標経常利益額を達成するのに必要な粗利益額はいくらか?」「粗利益率が変わらないとしたら、達成すべき売上高はいくらか?」は、自ずと明らかになります。こうした手順で算定された売上予算が十分に達成可能なものであったら、あとは予算達成に向けて、全社一丸となって事業活動に邁進するということになります。しかし、たとえば長らく赤字体質だった会社が、いきなり来期の予算策定で、経常利益目標を 2000万円と設定して、そこからの逆算で目標売上高を算出したとしても、そう簡単に達成できる数値目標になるかといえば、それは稀です。そのため、「未来会計図表」を活用して様々なシミュレーションをして、より実現可能性の高い目標設定(予算策定)を導き出す必要があります。「固定費を削減できないか?」「取引条件や、場合によっては取引先そのものを見直すことで、原価を抑えて粗利益率を向上させることはできないか?」「販売単価を引き上げて、結果的に粗利益率を向上させることはできないか?」など、とり得る戦術を想定しながら、固定費額や粗利益率などを可変させて、「固定費を 5%削減したら、利益はどうなるか?」「粗利益率を 5%改善すると、利益はどう変化するか?」といったシミュレーションをして、御社の状況にあわせてより実現可能性の高い改善策に落とし込むのです。
■改善に取り組みやすい項目と影響度の高い項目は違うシミュレーションしていく際に、どの項目の改善を目指すかについては、一定の考え方があります。「未来会計図表」に沿って説明していきましょう。もう一度第 2章 4項の「未来会計図表」を見てください。そもそも売上は「単価( P) ×数量( Q)」で決まります。売上を増やすというのは、単価を上げるか、数量を増やす、あるいはその両方を実施することです。そして、粗利益を決めるのは、「その売上を達成するのに必要となる変動費( V)」です。現状の変動費率が 60%とすると、売上 100に対する粗利益は 40となります。もし、この場合に変動費率を 1割削減できれば 54%となり、粗利益は 46になって 1・ 15割増しとなります。変動費を 1割削減することによって、粗利益は 1割増しではなく、 1・ 15割増しになるということです。さらに固定費( F)があります。固定費の中に削減できる費用がないかどうかを精査し、改善できるところは改善します。つまり、利益構造を改善するということは、販売単価( P)・販売数量( Q)・変動費( V)・固定費( F)の4つのどれをどう改善していくかを見極めていくことだといえます。さて、このときに重要なのは、これら4つの項目は、取り組みやすさの順番と、影響度の強さの順番が異なるという点です。最も取り組みやすい項目は、固定費( F)です。社長の決断で削減することが可能です。逆に、利益向上に最も影響度が高いのは販売単価( P)です。しかし、一般的に考えて、販売単価を上げる(いわゆる「値上げ」)のは、最も取り組みが難しい項目ですよね。変動費( V)と販売数量( Q)については、会社ごとの事業構造によって異なりますから、どちらが影響度が高いか、取り組みやすいかなどは、一概にはいえません。 ■取り組みやすい項目から始めるか、影響度の高い項目から始めるかは社長の判断とにかく赤字体質からの脱却が緊急の課題であるなら、取り組みやすい固定費( F)の削減から着手するということでもいいですし、営業力に自信があって販売先に対して値上げを交渉できる余地が多分にあるのなら、販売単価( P)から着手してもよいでしょう。最終的にどこから着手するのかは、御社のおかれた状況と、社長自身の判断です。そして、その判断をより適切なものにするために、「未来会計図表」を使ってシミュレーションしてみてください。 ■ 1項目ずつ可変させながら落とし所を見つける実際のシミュレーションでは、「販売単価( P)をここまで下げたら、全体の利益はどうなるのか?」「社員を 2人増やしたら( F)、どれだけの売上増が必要になるのか?」というように、4つの項目( P、 Q、 V、 F)をひとつずつ可変させていきます。たとえば、「社員を 2人増やしたい( F)」となったら固定費が 10%増えるので、必要な粗利益も 10%増えます。それに伴って売上を 15%増やさなければならない。そこで、社長に伺います。「この売上は達成できそうですか?」「難しい」となれば、「では、変動費( V)率を 10ポイント下げることができれば、売上増は 5%ですみます」ということで、さらにシミュレーションします。これに対して、なお社長が「売上は達成できそうだが、変動費率を 10ポイント下げるのは難しい」と考えるなら、「では、変動費率を 5ポイント削減でやってみましょう」とさらにシミュレーションします。このようにシミュレーションを繰り返す中で Pや Q、 Vといった項目を具体的に可変させながら、社長自身が「これならイケる!」という落とし所を見つけてください。
■最終的には達成可能な売上を軸に決めるしかし場合によっては、必要な経常利益を達成するためには、変動費率を改善して粗利益率を向上させたり、固定費を一定割合削減したりしても、達成が難しい大幅な売上増が必要となることもあります。借入金の返済額をベースにして算出した経常利益額は、本来、必達目標ではあるものの、実現可能性のない予算では意味がありません。その際には、がんばれば達成できるという売上予算をまず設定し、 P、 Q、 V、 Fの4つの項目についても、可能な限りの改善策を講じた上で、不足する経常利益額は、追加の借入等で賄うことを検討することになります。もともと、借入金の返済額をベースにした経常利益額を出発点にする場合には、追加借入なしで、これだけの利益を確保しなければならないというのが前提です。逆のいい方をすれば、追加の借入ができるのなら、そこまでの経常利益でなくてもすみます。先の例でいえば、年間の借入返済額が 1000万円あることを前提として 2000万円の経常利益額を目標にしたわけですが、それが極めて難しい目標であるならば、 4割削って 1200万円を目標経常利益額として設定し直します。約半分が税金であったとしても、 600万円を返済原資にあてられます。不足する 400万円については追加借入で賄えれば、資金繰りは回っていくことになります。 ■重要なのは利益を出すこときちんと資金繰りを回していくためには、借入返済額を賄える経常利益額を確保することですが、それが難しければ、追加借入も視野に入れて可能な限り、利益の極大化を目指します。また、現状が赤字体質で、必要な返済額の半分でも厳しいということなら、 3分の 1は利益で賄い、残り 3分の 2は追加借入で賄うという判断もあるかもしれません。あるいは、とにかく赤字体質から脱却することを目標に、 100万円でも 200万円でも、経常利益を計上できるように計画することが直近のテーマになることもあるでしょう。重要なのは、きちんと利益を出すことなのです。 ■過去の実績に基づく根拠のある計画作りが大切古田土会計では、顧問先の予算策定にあたっては、一つひとつの改善テーマについて社長とじっくり話し合いながら、納得していただくことを前提にしています。根拠に基づく、納得感のある目標でなければ、どんな社長も本気で取り組むことができないからです。ですから、シミュレーションの際には、「去年と比べて(あるいは一昨年と比べて)も、無理のない数値目標ですから、今期はできるはずです」ということを説明します。機械的に数値を当てはめるだけのシミュレーションでは、納得感は得られません。本書を読んでいただいている社長にお伝えしたいのは、次のようなことなのです。 「2000万円の経常利益が必要だな。固定費が 4000万円だから、 6000万円の粗利益が必要になってくる。粗利益率が 50%だから、 1億 2000万円の売上が必達目標になるか……」とシミュレーションしたとして、もしその売上目標が、前年対比 150%という数字だったら……その時点で社長の気持ちは萎えてしまいますよね。それでも「経常利益目標を 1000万円にしてみよう。変動費率を 10%改善できないかな。固定費は 300万円削減したいな」と、自問自答を繰り返して、 「10%の改善は難しいが、 5%ならなんとかなる」 「300万円は削減できないかもしれないけど、 150万円ならやってやれないことはない」そういった落とし所を社長自身に見極めていただきたいのです。そうして策定された予算なら、必ず意欲を持って取り組んでいただけるはずです。
■「未来会計図表」を使えば値引きをしてでも受注すべきかがわかる「未来会計図表」は、会社全体の売上・利益をどう高めていくかということを見極めるためのツールですが、特定の案件について受注すべきかどうかを判断するツールとしても活用できます。例を挙げて説明しましょう。古田土部品は、自動車部品を製造するメーカーです。古田土部品の現状の「未来会計図表」は次の上の図の通りです。
今、古田土部品に 1000万円規模の引き合いがありましたが、ライバルがいて、単価を 20%下げれば受注できるという状況です。一般的に考えれば、 20%もの値引きをしたら、大幅に利益が減るので、取引は見合わせたいと考えます。「未来会計図表」で、 1000万円の受注が成立した場合の損益構造を表してみます(前の下の図)。図でわかる通り、値引きなしで受注した場合には、粗利益率が 44%ですから、 1000万円の売上増に比例して、粗利益が 440万円増えることになります。しかし、今回の受注の条件は 20%の値引きです。値引きした前提で「未来会計図表」を修正すると、次の図のようになります。
本来の値引きなしなら、 440万円の粗利益が獲得できるところ、 20%の値引きによって、粗利益は 240万円に減ってしまっています。ところが、固定費は増えませんので、この案件の受注によって獲得できた 240万円の粗利益は、そのまま経常利益の増加となります。したがって、この案件は 20%の値引きをしてでも受注するほうがよいという判断ができます。最終的に重要なのは、利益の絶対額です。利益の絶対額を増やすことのできる取引なら、積極的に受注すべきであり、率の悪化にこだわる必要はありません。「未来会計図表」を活用すると、このように「値引きをしてでも受注すべきかどうか」という個別の案件(課題)に対して、正しく答えを出すことも可能になります。ぜひ、「未来会計図表」を積極的に活用することをお勧めします。
■「年計表」を使って〝傾向〟を把握する多くの中小企業で、月単位の売上推移などをグラフ化して、会社の業況を把握しようとしています。しかし、月単位で売上推移を分析しても、前年同月と比較してどうか、前月と比較して今月はどうかという短期的な売上の増減しか把握できません。そこで、自社の業況が上向きの傾向にあるのか、下向きの傾向にあるのかを把握するために、「年計表」を活用することをお薦めします。年計表の作り方は簡単です。売上の年計表で説明しましょう。まず、当月から直近 12カ月分( 1年分ということです)の合計を計算します。1月分であれば、前年2月から当月(1月)までの売上合計となります。2月分であれば、前年3月から当月(2月)までの売上合計です。要は「当月を含む直近 1年間の総売上」ということになります。これを折れ線グラフで表現します。年計表を使うことで、ある月を基準として、過去 1年間の売上の推移がわかります。この折れ線グラフを見れば、会社の業況が右肩上がりで伸びている状況なのか、あるいは横ばいなのか、逆に下がっている傾向なのかを〝見える化〟することができます。単月ベースの売上推移では把握しにくい中長期的な傾向が明らかになってきます。 ■「年計表」を作ると課題が浮かび上がってくる年計表は売上の推移を把握することで使われることが多いのですが、必ずしも売上にしか活用できないというものではありません。様々な指標を使って年計表を作成することで、会社の経営状態や課題を明らかにしていくこともできます。たとえば、「得意先別の年計表」「取扱商品別の年計表」「営業担当者別の年計表」なども有効でしょう。「総売上の年計表」と、「得意先別の年計表」を比較しながら分析すると、全体の売上推移としてはゆるやかな上昇傾向にあるが、それを牽引しているのは、特定の得意先様の売上の増加であるということがわかったり……。あるいは「総売上の年計表」と「商品別の年計表」を比較することで、総売上の推移は横ばいであるものの、特定の商品が非常に高い伸びを示しているといったことが明らかになったりします。年計表を有効活用することで、今後、自社の業績を伸ばすためには、どの得意先を積極的に攻めるべきか、どの商品に営業力を集中すべきかという戦略の方向性を発見することもできるのです。ちなみに、古田土会計では、担当者個人個人の売上推移を年計表にしたことがあります。当然のことながら、入社 10年目のベテランと、入社 3年目程度の若手では、月単位、年単位では売上に差が出ます。しかし年計表にして、入社 3年目の ○月ということで横並びで比較してみると、実は、今の若手のほうが同じ 3年目では成績が良かったということがわかったりします。年計表を使うと意外な発見があるのです。とくに個人の営業成績を年計表にすると、成長度合いも把握できますので、さらなる成長に向けて、どんな教育研修を実施すべきかの指針にすることもできるでしょう。その他、粗利益率の推移や、経常利益の推移など、自社にとって有効と思われる指標があれば、ぜひ年計表にして分析してみることをお勧めします。
■まず、貸借対照表を理解しよう貸借対照表は、お金に換わるスピードが速いものから順番に並べられています。これを「流動性配列法」といいます。次の図を見てください。
左側は「資産の部」、大きくは流動資産・固定資産という順番で記載され、流動資産の中も、さらに現金化するスピードの速い順に、現金預金、受取手形、売掛金、棚卸資産(在庫)といったように並びます。右側は、上段が「負債の部」、下段が「純資産の部」です。「負債の部」は大きくは「流動負債」と「固定負債」で、お金を支払うスピードが速い順にならんでいます。 ■左側は頂点を下にした逆三角形、右側は頂点を上にした三角形が理想よい貸借対照表のカタチというのは、左側(資産の部)については、上のほうが大きくて下のほうが小さく、右側(負債・純資産の部)については、上のほうが小さくて、下のほうが大きい状態です。つまり、早く現金化できる資産の割合が高く、かつ負債が少なくて、純資産がたくさんある状況ということになります。強い財務体質にする、よい貸借対照表を作るというのは、貸借対照表を理想形に近づけることに他なりません。御社の貸借対照表がどのようなカタチになっているかをよく見てください。まず左側(資産の部)を見てください。流動資産が固定資産よりも多いことがひとつの理想です。流動資産の中身も、現金預金がより多いほうが理想的です。次に右側(負債・純資産の部)。負債部分である流動負債・固定負債よりも純資産が多いほうが理想です。かつ、流動負債よりも固定負債のほうが多い状態がひとつの理想形ということができます。「現金預金」という流動資産がたくさんあって、かつ返済の必要のない「自己資本」といわれる純資産である「資本金」や「利益」などの蓄積が多い貸借対照表が、強い財務体質の証です。単純な話です。借入金を返済するのも、取引先に支払いをするのも、すべてお金です。お金がなければ、借入金の返済も取引先への支払いもできないので、会社は倒産してしまいます。そのため、現金預金がどれだけあるかが重要なのです。たとえば、現金預金 100万円と棚卸資産(在庫) 900万円の古田土機械でも、現金預金 600万円と棚卸資産(在庫) 400万円の A社であっても、ともに貸借対照表の流動資産の総額は 1000万円です。しかし、棚卸資産(在庫)の金額が、古田土機械と A社では違います。もし今月末に 500万円の取引先への支払いがあるとすれば、古田土機械は 100万円しか現金預金がないので支払うことができません。まさにこのことが、財務体質が強いか否かの分かれ目となるのです。
■お金に色はないというのはウソよく「お金には色がない」といういい方をします。自分で稼いだ 1万円も、借金した 1万円も、 1万円は 1万円だということです。しかし実は、お金には色があります。お金に色がないというのはウソ。古田土会計では、お金の色を見ます。今、手元にあるお金が、借入金で用意されたお金(あえていえば、「借金色」でしょうか)なのか、これまでに蓄積した利益から手元に残ったお金(「利益色」ということですね)なのかがとても重要なのです。借金はいずれ返済するものですから、その分のお金しか手元にないとすれば、それは必ずしもよいお金とはいえません。たとえば、現金預金が 1000万円ある古田土機械と B社があったとします。古田土機械は借金が 200万円で、現金預金が 1000万円、 B社は借金が 1000万円あって、現金預金が 1000万円だったとします。同じ現金預金 1000万円でも、古田土機械と B社では意味合いが違ってきます。貸借対照表は左側が資産の部で、右側が負債・純資産の部で構成されていることはすでに説明しましたね。さらにいうと、貸借対照表の左側は「運用」を表し、会社の財産をどう活用しているか(使っているか)が記載されています。これに対して、右側は「調達」を表し、会社が運用している財産はどんな方法で調達されたものかが記載されています。先の例でいえば、古田土機械の現金預金 1000万円は、「借入金 200万円と内部留保された利益(これは貸借対照表の純資産の利益剰余金に出てきます)」で調達されていて、 B社の場合には、借入金に 1000万円が計上されているので、借入で調達されているとわかります。現金預金として支払いにまわせる 1000万円は、どのような方法で調達されたのかが右側を見ればわかるのです。古田土機械は、手元にある 1000万円の現金預金で借金 200万円を全額返済しても、まだ 800万円の現金が残ります。これに対して、 B社は、借金を全額返してしまうと、手元に 1円も残りません。どちらが財務的に強い会社かは、いわずもがなでしょう。 B社の現金預金はすべて借金色。お金にも色があるというのはこういうことです。ここでは、話を単純にするために、現金預金と借入金の額だけで比較しましたが、実際の会社の財務は、これほど単純でなく、一般的な貸借対照表を見ていても、なかなかお金の色を見極めるのは難しいというのが実情です。しかし、次項で説明する古田土式の「資金別貸借対照表」を活用すると、簡単にお金の色を見極めることができるようになります。次からは、「資金別貸借対照表」を使って、強い財務体質の会社にするためのポイントについて説明していくことにします。
■「資金別貸借対照表」は既存の「月次決算書」を組み換えて作るまずは「資金別貸借対照表」の作り方と基本構造を古田土印刷の例で説明します。当月の月次決算書と、前年同月の月次決算書を用意します。次の例を見てください。平成 27年2月を当月、その前年同月である平成 26年2月の月次決算書を使います。
資金別貸借対照表の構成は、まず縦の系列で見ます。左側に「資金運用」項目が列記され、右側に「資金調達」項目が列記されます。横の系列は 4段階に分かれます。 ①損益資金の部( →何に使ってもいい自由に使えるお金があるか) ②固定資金の部( →損益で賄えないようならこの固定資金で賄えるか) ③売上仕入資金の部( →勘定合って銭足らずになっていないか) ④流動資金の部( →緊急時に短期で資金を手当てできるか)この順番も重要で、まさしくお金の色の順番にもなります。上のほうで稼いだお金のほうがよいお金。ここで稼げていることが最もよい状態といえます。これら 4段階の左側に、それぞれの現金預金の増減を記載する欄を用意します。 ■月次決算書から各費目の数字を転記、各部の「現金預金」の額を記入するまず「損益資金の部」を見ます。ここには、古田土印刷の創業以来の利益額が明記されています。「資金調達」側の合計を見ると、前期は 5億 5870万円( ❶)で、今期はさらに上積みされて 6億 7220万円( ❷)が創業以来の利益で蓄積されていることがわかります。これに対する「資金運用」は、前期が 4億 2620万円( ❸)で現金預金の残高(調達 ❶-運用 ❸)は 1億 3250万円のプラス。今期は資金運用が 4億 9570万円( ❹)で現金預金の残高は 1億 7650万円( ❺)のプラスです。前期と今期の資金増減で見ると対前年同期で 4400万円( ❻)の増加となっています。同様に、「固定資金の部」「売上仕入資金の部」「流動資金の部」についても、調達と運用の差額と、対前年の増減額を確認します。「固定資金の部」では、前年同期の現金預金の差額が 490万円のプラスであったものが、今期は 4980万円( ❼)のマイナスとなっています。「固定資金の部」では、会社運営上、必要な在庫や設備関係をどういう資金で調達しているか、その現金収支がどうなっているかがわかります。基本となる考え方として、固定的な資産等は固定的な資金(長期的な資金調達方法)によって賄われるのが理想です。具体的には、長期借入金であったり、資本金等です。古田土印刷のように、ここでマイナスになっているということは調達以上に運用しているということで、固定的な資産の調達を固定的な資金で賄い切れていないことを示しています。つまり、この部分で現金預金を減らしてしまっているということです。次に「売上仕入資金の部」を見ると、前期は 7740万円( ❽)、今期は 7810万円( ❾)のマイナスです。これはどういうことかというと、支払いを繰り延べることで(支払いのサイトを長くすることで)生まれる資金的な余裕よりも、売上が入金されるまでのサイトが長いということ。お金の先出しのほうが大きいため現金預金が減ってしまっているということを示しています。これが俗にいう「サイト負け」の状態です。資金別貸借対照表では、「損益資金の部」「固定資金の部」「売上仕入資金の部」の現金預金の合計額が「安定資金」を示します。古田土印刷の場合の安定資金は今期 4860万円( ❿)となっています。固定資金の部で約 4980万円( ❼)、売上仕入資金の部で約 7810万円( ❾)の現金預金を減少させていながらも、古田土印刷がなんとか資金繰りをつないでいられるのは、それらを補って余りある利益を稼ぎ出しているからだということがわかります。さらに、流動資金の部でも、 7710万円( )のプラスを生み出しています。 ■「損益資金の部」が潤沢だと経営は安心ここからはお金の色の見極め方を説明していきましょう。古田土印刷では「損益資金の部」の現金預金が 1億 7650万円( ❺)あり、「固定資金の部」と「売上仕入資金の部」のマイナスを補って、かつ 4860万円の安定資金を確保できています。安定資金というのは、その会社が実際に資金繰りに使えるお金と考えてよいでしょう。つまり、「安定資金」が多ければ多いほど、会社の資金繰りが安定的だということです。その原資となっているのが、古田土印刷の場合は、これまでの事業活動の蓄積である利益(損益資金)ということです。とても優秀ですね。 ■「損益資金の部」で賄えないとなったら「固定資金」の出番次が「固定資金」です。固定資金の調達は、長期借入金で賄われることが多いのですが、長期借入金は文字通り、すぐに返済する必要のない資金ですから、短期的には会社の資金繰りに悪影響を及ぼす可能性が少ないのです。ですから、もし損益資金の部で十分に現金預金を確保できないなら、次善の策としては、長期借入金やそれに準ずる固定資金で賄うべきです。
■サイト負けになっていないか「売上仕入資金の部」を見る 3番目の「売上仕入資金」は、売掛債権の回収サイトと買掛債務の支払いサイトの差で現金預金を生み出せているかどうかを見るポイントとなります。古田土印刷はここがマイナス 7810万円( ❾)となっています。つまり、売掛債権の回収サイトよりも、買掛債務の支払いサイトのほうが短いために、ある時点(資金別貸借対照表の作成時点)では、支払いが 7810万円( ❾)ほど先行してしまい、その分、現金預金が実質的に減ってしまっていることを表しています。これがまさに「サイト負け」で、それがひと目でわかるのが、この資金別貸借対照表なのです。製造業は「サイト負け」が起きやすい業界です。一般的に売掛債権は手形で回収されるために、現金化するまでに 90日、 120日と時間がかかります。一方で、外注先への支払いは翌月末日に現金で支払うことが多いので、支払いが先行するわけです。このような「サイト負け」は多くの業種で見受けられます。ちなみに、サイト負けしない業種もあります。飲食業、小売業、美容業などは、ほとんどが、いわゆる「現金商売」。「売上 =現金回収」ですから、基本的には入金が先行するわけです。 ■売上・利益が増えているのに現金預金が目減りしている事実に注目サイト負けが大きい会社では、売上が急増したタイミングで倒産してしまう可能性が高まります。売上の増加に伴って、先行する支払いの金額が大きくなってしまうからです。まさに「黒字倒産」になってしまうわけです。 ■緊急時に短期の借入ができるかどうかを見る「流動資金の部」倒産を回避するためには、何らかの資金手当てをしなければならず、それを「流動資金の部」で賄うことになりがちです。どういうことかというと、短期の借入をしたり、手形を割引いて資金を調達するのです。しかし、短期の借入金で資金をつないでいる状況では、万が一、銀行から「次の更新はできません」と追加の借入を打ち切られた瞬間に倒産に至ってしまうという危険性をはらんでいます。ですから、資金状態は、「流動資金の部」を加味せずに、「損益資金」 +「固定資金」 +「売上仕入資金」の合計で見ることが大切なのです。
■古田土印刷にお金が残らない理由は・・・古田土印刷は、 1億 2570万円( )の現金預金があります。しかし、古田土印刷が実質的に使えるお金は 4860万円( ❿)。古田土印刷の場合、前期の「安定資金」が 5990万円( )ありましたが、今期は 1130万円( )のマイナスです。差引の現金預金で見ても 2210万円( )のマイナスになっています。注目すべきは、今期、売上・利益とも増加しているにもかかわらず、現金預金が減っているという点です。前期と比較すると、損益資金では 4400万円( ❻)増えていますが、固定資金で 5470万円( )マイナスになっています。マイナスの原因は何かといえば、「長期借入金と社債の返済」です。固定資金の部の現金預金の増減額が 5470万円( )のマイナスですが、長期借入金 +社債の返済額が 5570万円( )で、ほぼ現金預金の増減額と同額です。借入金の返済スピードが速すぎるのです。「売上仕入資金」については、前期がマイナス 7740万円( ❽)の現金預金に対して、今期もマイナス 7810万円( ❾)ですから、ほぼ変わりありません。売上は前期の 3億 9010万円( )に対して、今期は 5億 1840万円( )と、大きく増加しているにもかかわらず状況が変わっていないというのは、うまくバランスが取れていると評価できます。すでに説明した通り、サイト負けの会社は、売上の増加が、先行する支払いの増加につながり、資金繰りは悪化(売上仕入資金のマイナス幅が増加)するものですが、古田土印刷では、サイト負けしていません。つまり古田土印刷の財務体質が弱い理由は、支払いサイトの問題ではないということがわかります。
■財務体質を悪化させている4つの問題点ここからは、「資金別貸借対照表」のどこを見れば、お金が消えていく原因がわかるか、そしてどのように解決していけばいいかについてお話ししましょう。繰り返しお話ししていますが、そもそも、会社の財務体質を悪化させる原因はそんなに多くありません。大きく4つです。ひとつは、サイト負けという問題。入金よりも支払いが先行することで資金繰りを悪化させ、結果的に財務体質を弱いものにしているという問題です。この状況は、資金別貸借対照表の「売上仕入資金の部」を見ればわかります。ここがマイナスになっている場合には、具体的な費目をチェックし、サイト負けを解消する手立てを講じる必要があります。2つ目は、借入金の状況です。会社の体力以上に、多額の借金を返済しなくてはならない状況では、やはり資金繰りを圧迫して財務体質を弱体化させる原因となります。資金別貸借対照表では、「固定資金の部」「流動資金の部」に表れます。短期借入金が増えると、「流動資金の部」はプラスになりますが、これはすでにお話しした通り、自転車操業のようなものですから、長期借入金に組み換えて、返済をできるだけ伸ばす方向を検討する必要があります。3つ目としては、製造業に顕著ですが、過剰な在庫によって、お金を寝かせてしまっている状況。これも、財務体質悪化の大きな原因となります。資金別貸借対照表では、「固定資金の部」に表れます。固定資金の部の費目を見て、在庫が増えたことで「固定資金の部」がマイナスになっていると、在庫の圧縮・削減を検討する必要があるかもしれません。そして4つ目が、支払手形の問題。これは「売上仕入資金の部」に表れます。支払手形が増えるということは、「払うべきお金を先延ばしにして、お金を調達」していることになります。性質だけでいえば買掛金と同じですが、支払手形の不渡りが倒産の危険性をはらんでいることを考えると、支払手形での資金調達は極力減らすべきだということが理解できると思います。借金が嫌な社長と借金の好きな社長がいます。借金の嫌な社長は、「儲かっているのになぜお金がないんだ」と不思議がっています。借金の好きな社長は、余分な利息を払い、手元にお金があるので経営が甘くなっています。どちらも問題です。これらの問題をどのように解決していくか、一つひとつ見ていきましょう。 ■サイト負けを解消する入金サイトよりも、支払いサイトのほうが短い「サイト負け」が明らかになったら、手を打つ必要があります。基本的な考え方は、「入金は早く、支払いは遅く」取引先(売掛先・買掛先の両方です)に対する交渉ごとになりますから、一朝一夕でどうにかなるということではありませんが、売掛先に対しては 1日でも早い入金サイトにしてもらうよう
交渉し、買掛先に対しては 1日でも支払サイトを遅くしてもらうべく交渉します。どの社長も「お願いしてもムダ」と思い込んでいるようで、交渉を一度もしていないという方が大勢いらっしゃいます。まず新しい取引先から支払いを長くしていきます。すでに取引している相手に対しては、今年は 45日、来年は 60日と少し先に目標日付を設定すればいいのです。 ■借入金の組み換え(借り換え)を検討する中小企業では、借金の返済額が多いことが原因で資金繰りを圧迫してしまうケースが多く見られます。こういう場合は、銀行に借金の組み換え(借り換え)を交渉して月々の返済額を少なくするようにしてください。社長の心情としては、「借りたお金は早く返して、楽になりたい」という思いもあるに違いありません。しかし、借金の返済はできるだけ長期で設定し、月々の返済額を極力小さくするほうが、経営的には得策といえます。金融機関は、会社の返済能力を見て、お金を貸しています。返済能力とは結局、利益獲得能力です。返済に必要なお金を稼げるかどうか、です。一般的には「税引後利益 +減価償却費」で見ますが、リスケジューリングを金融機関にお願いする状況というのは、そもそも返済のためのお金を稼げていないわけですから、「いつになったら、きちんと返済できるようになるのか」「その根拠は何か」を納得してもらうことが必要です。過去の財務諸表の提出は当然求められるでしょうが、むしろ重要なのは「今後の利益計画」です。「未来会計図表」を使って、改善ポイントを明らかにして、「ここをこれだけ改善するので、 1年後には着実に回復して、約定通りの返済が可能になります。ですから、 1年間だけは利息分の返済とさせてください」というお願いすることになります。また、短期的な(今期の)利益計画だけでなく、第 1章で説明した「経営計画書」の中期、あるいは長期事業構想といったものも資料として添付し、「今後、わが社はこのように成長していきます。そのためのステップはこうです」と説明することも大事です。「経営計画書」を使って金融機関に説明することも有効でしょう。うまく返済期間を長くする方法として、メインの銀行のライバル銀行によい条件を提示させ、その提案書をメインの銀行に見せるという方法があります。銀行が一番嫌うのが、ライバル銀行に取引先を奪われることです。支店長、担当者の責任問題になるからです。 ■棚卸資産(在庫)を見直す在庫は、流動資産ではありますが、その中にあって現金預金や売掛金などに比べれば、現金化に時間のかかる資産です。適正な在庫は必要ですが、在庫を持ち過ぎると、お金を在庫という形でねかせてしまっていることになります。そこで、私たちは資金別貸借対照表の「固定資金の部」の棚卸資産で、在庫金額の増減を示して過剰在庫か調べるようアドバイスしています。在庫減らしの原則は、まずデッドストックの退治、次に「 95%の原理」による品種淘汰です。 3番目は、仕入締切日前の「駆け込み納入」を防ぎ、締切直後の納期指定とその実行です。 ■支払手形を減らす 6カ月の間に、支払手形の不渡りを 2回出してしまうと、ただちに銀行取引の停止処分となり、実質的に倒産となってしまいます。支払いを手形にすることで、短期的には資金繰りが楽になったように感じてしまいますが、これはとても危険です。金融機関からの借金返済が厳しくなれば、返済を猶予してもらうようリスケジュールを折衝したり、また通常の買掛金なら取引先に事情を説明して、支払いを少し待ってもらうなどの対応をとれます。しかし手形になると、待ったなしです。常に「不渡り =倒産のリスク」を抱えることになります。手形をやめてしまえば、不渡手形による倒産の恐れから解放されます。これまで支払手形で決済していた会社が、明日から手形を全廃するのは難しいと思いますが、できるだけ早く手形をなくす方向で財務体質の改善に努めるべきです。いっぺんに支払手形をなくすのが難しければ、取引先に交渉して、少しずつ減らしていくようにすべきです。ただし、これまで支払手形で資金調達していたのに、それを買掛金にすると、お金の支払い時期が早まることにもなります。その分、短期借入金で調達
しておく、売掛金の回収を早めるようにする、あるいは受取手形を減らすということも同時に考える必要があります。どちらも交渉事になりますが、会社を安定的に経営するためには必要な方策です。会社は借入金で倒産するのではなく、支払手形で倒産するのです。支払手形をなくし、短期借入金にすると、コスト削減にもなります。支払手形の期日が 4カ月で毎月 1億円発行している会社の支払手形残高は、 4億円ですが、支払う額の中には金利や手形割引枠、危険負担料というものが入っていますので、全額現金で払うかわりに仕入れ価格を 2%引かせたなら、年間 12億円 × 2% = 2400万円のコストが下がります。 4億円の手形残高を借入金にすれば、 2%の金利でも 4億円 × 2%で年間 800万円の利息です。差し引き 1600万円のコスト削減になるのです。
■必要な収益(利益)を小さくすることもできる「資金別貸借対照表」は、会社がどんな方法で資金を調達し、その調達した資金をどのように運用しているか、資金構造を明らかにするツールともいえます。「未来会計図表」からは、どれだけの売上を獲得すれば粗利益がいくらになり、経常利益がどれくらいになるかをシミュレーションできますが、「資金別貸借対照表」では、資金の調達方法と運用方法をどのように改善すれば、強い財務体質の会社になるかをシミュレーションできるわけです。逆のいい方をすれば、未来会計図表では、必要な経常利益を獲得するためには、これだけの売上を達成しなければならないという結論が導き出せますが、資金別貸借対照表では、資金の調達と運用を改善することで、同じ利益の額であったとしても、より余裕のある資金繰り状況を生み出すための方策を導き出せるのです。ですから、未来会計図表を使ってシミュレーションすると、「こんなに大きな売上が必要なのか」という数値になったとしても、資金別貸借対照表で分析した結果、サイト負けの状況を改善したり、借金を借り換えて返済額を圧縮したり、在庫を調整したり、固定資産を売却したりすれば、未来会計図表の結果ほど大きな売上を目指さなくても、十分に資金を賄える結論に達することがあるのです。古田土会計が手掛けた会社の例でいうと、未来会計図表だけによる損益中心のシミュレーションでは、向こう 5年間で 10億円の借入金を返済しようとすると、総額 20億円の経常利益が必要になる会社が、資金別貸借対照表を使ってシミュレーションしたところ、向こう 5年間で 1億円の利益計画でも十分に資金が回ることが明らかになりました。この会社の場合、資金別貸借対照表に基づいて、支払手形をゼロにして、不要な土地などの不動産を売却し、 18億円ほどあった借金残高を、 8億円程度にまで圧縮すると、資金繰りを回せることが明らかになったのです。この例は極端に感じられるかもしれませんが、貸借対照表をベースとした利益計画と、損益を中心においた利益計画では、これほどの差が出るということです。古田土会計が、資金別貸借対照表を重視した財務指導を重視している理由がここにあります。 ■内部蓄積を重視した経営を心掛ける強い財務体質になるということは、内部蓄積、つまりお金、現金預金を増やして、潰れにくい会社にすることです。最終的に会社を守るのは、土地などの不動産ではなく、有価証券でもなく、現金預金です。総資産の額が大きいことも、古田土会計では重視していません。総資産が大きい会社は一見するとよい会社に見えますが、利益による内部蓄積がなかったり、多額の借金があったり、不必要に土地などの固定資産が多い会社は、必ずしも健全とはいえないのです。これからは、ぜひ内部蓄積を重視した経営を、もっといえば現金預金で内部蓄積できる会社の財務体質を目指してください。
■キャッシュフロー計算書から今月の利益がどこに消えたかわかる前項までで説明した資金別貸借対照表は、佐藤幸利先生が開発したものを古田土会計流に応用したものですが、そのベースは一般的な貸借対照表にあります。あくまでも貸借対照表と損益計算書の内容を、現金収支という視点で4つの要素(損益資金、固定資金、売上仕入資金、流動資金)に分けて分析し直しているに過ぎないので、これまでの経営の蓄積である各費目の残高が反映されるのです。しかしこれだと、今月の資金の動きはどうだったのか、あるいは先月の資金の動きはどうだったのかという短期的なお金の流れを把握するには不向きです。そこで、短期的なお金の流れを把握する上では、「古田土式キャッシュフロー計算書」が重要なツールとなります。古田土式キャッシュフロー計算書を見れば、〝当月儲けた利益はどこへ消えたのか〟ということを把握できます。 ■古田土式キャッシュフロー計算書にはお金の出入りが事実として記載されるキャッシュフロー計算書とは、端的にいえば、「ある期間におけるお金の増減」を計算した財務諸表のひとつといえます。すでに説明した通り、損益計算上の、「売上-原価-必要経費 =利益」と、実際のお金の出入りである「入金-支払い =現金残高」は必ずしも一致しません。そこで、実際のお金の出入りに着目して、ある期間において、どれだけお金が増えたのか(減ったのか)を明らかにするのが「キャッシュフロー計算書」です。キャッシュフロー計算書には、お金が増えたり減ったりする原因が大きく次の3つに分けて記載されています。 ①営業(活動による)キャッシュフロー ②投資(活動による)キャッシュフロー ③財務(活動による)キャッシュフロー「営業(活動による)キャッシュフロー」は、文字通り、その会社の本来の事業活動(営業活動)で増減したお金が記載されます。ここで注意したいのは、本来入ってくるべきお金が入っていない状態はキャッシュのマイナスであり、本来出ていくべきお金が出ていっていない状態はキャッシュのプラスとして計上されるという点です。具体的には、売掛金の増加はキャッシュのマイナスであり、買掛金の増加はキャッシュのプラスとして計算されることになります。支払うべき買掛金を支払っていない状態というのは、その分だけお金が手元に残っているものと考えるわけです。売掛金はその逆で、現金として入金されるべきお金がまだ入金されていないので、キャッシュの増減としてはマイナスと考えるのです。キャッシュフロー計算書では、あくまでも「お金そのものが、増える要因なのか、減る要因なのか」でプラス・マイナスを判断します。「投資(活動による)キャッシュフロー」とは、投資活動によるキャッシュの増減を記載する項目です。たとえば、設備投資で機械を購入すると、その代金分のキャッシュが減るのでマイナスです。逆に設備を売却してその代金を受け取れば、キャッシュのプラスとなります。「財務(活動による)キャッシュフロー」とは、主に借入金の増減や資本金などの増減が表される項目です。新たに借金すれば、その分のお金が会社に入ってきますので、キャッシュはプラスとなり、逆に借金を返せば、その分のお金が出ていっているので、キャッシュはマイナスとなります。以上3つの項目のキャッシュの増減を総合計することで、その期間におけるキャッシュの増減が算出されます。 ■「営業キャッシュフロー」 +「投資キャッシュフロー」がとくに重要キャッシュフロー計算書では、「フリーキャッシュフロー」がとりわけ重要です。
フリーキャッシュフローとは、会社が自由(フリー)に使えるお金のことで、「営業キャッシュフロー」 +「投資キャッシュフロー」で求められます。たとえば、営業キャッシュフローが 1000万円あって、設備投資に 300万円使っていたとすると、フリーキャッシュフローは「 1000万円- 300万円」で 700万円となります。この 700万円は、その会社が自由に使えるお金であり、もし借入金の返済(財務キャッシュフローの借入金のマイナスとして記載されます)が、 500万円だったとすれば、差引 200万円のキャッシュがプラスで残ることになります。もし、フリーキャッシュフローが 400万円しかなかったとすれば、借入金の返済 500万円に 100万円不足しますから、その分は新たな借入金などで賄わなければならないことになります。
キッシュフロー計算書を見る際のポイントは、長期借入金の返済額をフリーキャッシュフローで賄えているかどうかという点です。損益計算上の利益は、あくまでも計算上の利益で、フリーキャッシュフローは、現金で見た場合の利益です。フリーキャッシュフローで必要な返済額を確保できていないと、借金の返済が滞ってしまう危険性があることを意味します。例として、次に古田土印刷のキャッシュフロー計算書を掲載します。
このキャッシュフロー計算書作成の時点で、古田土印刷は 3150万円( ❶)の当期純利益が出ていますが、「 Ⅳ 現預金の増減額」では 3350万円( ❻)のマイナスになっています。なぜ、当期純利益が 3150万円のプラスなのに、最終的な現預金の増減額がマイナスになっているのか、営業キャッシュフローから順に見ていくとわかります。 1.営業キャッシュフローを見ると、 610万円のプラスになり当期利益( ❶)との合計は 3760万円( ❼)になっており、営業キャッシュフローには問題がありません。 2.投資キャッシュフローですが、ここで固定資産の購入があったために 330万円( ❽)のマイナスになっています。しかし、フリーキャッシュフローでは 3430万円( ❾)のプラスを確保できています(キャッシュフロー計算例では小数点 2位以下の処理のため 0・ 1数字がずれています)。 3.財務キャッシュフローがマイナス 6780万円( ❿)もあり、結果的にキャッシュを減らしています。つまり、現預金が減っている原因は、財務キャッシュフローであり、長期・短期の借入返済で約 6780万円もあるマイナスが大きく影響していることがわかります。 ■キャッシュフロー計算書で現状把握し、資金別貸借対照表で改善策を考えるキャッシュフロー計算書は、現状の実態を把握するためのツールです。どこでキャッシュを生み出し、どこに消えているのかを明確にすることが目的です。本書で何度もお話ししている通り、損益計算書だけを見て経営をしていると、実際のお金の動きが把握できません。社長の会社でもよくある光景ではないかと思いますが、社長は損益計算書で「今月はこんなに儲かった」と喜んでいると、経理担当者は「今月は資金繰りがとても厳しいです」と窮状を訴える。そうならないように、社長がキャッシュフロー計算書もきちんと読み解いて、早め早めに対策を講じるようにしてください。ただし、キャッシュフロー計算書はあくまでも、〝お金の増減〟という事実を記載した財務諸表であり、実態を把握するためのツールです。「勘定合って、銭足りず」の状態に陥らないようにする打ち手は、資金別貸借対照表を活用して様々なシミュレーションをして考えなければなりません。キャッシュフロー計算書を見れば、「在庫が過剰になったために、お金が寝てしまっている」( ❸)「売掛金が増えたことでお金が寝てしまっている」( ❷)といったことがわかります。 ■お金が減る原因がわかったら、その改善に尽力するのが「社長の仕事」在庫が原因なら在庫を減らす方策、売掛金の増加が原因なら売掛金を小さくします。また、会計上の利益が増えたからといって、すぐに設備投資をしてはいけないということも、キャッシュフロー計算書は教えてくれます。設備投資にかかる費用は、損益計算書には出てきません。しかし、設備を購入すれば、その支出は確実にキャッシュフロー計算書の投資キャッシュフローに表れます。飲食業などで新規出店する際に、新たな店舗物件を借りるために保証金を支払うことは一般的です。この保証金という支出も損益計算書には出てきません。しかしキャッシュフロー計算書ではお金が減る原因として表れます。一般に物件賃貸の保証金は月間賃料の 10カ月分だったり、 8カ月分だったりとかなり高額です。賃料 50万円で 8カ月分なら 400万円ものお金が寝てしまうのです。「賃貸契約では保証金を減らす交渉なんてできないもの」と思い込んでいる社長は少なくありませんが、そんなことはありません。現に古田土会計では交渉によって更新料を払ったことはありません。保証金は 600坪借りていて 500万円です。キャッシュフローを改善するためには、多少賃料が上がっても、保証金や更新料の軽減に努めるほうが得策といえるのです。*古田土会計の「月次決算書」と「経営計画書」は希望される方には、有料で販売しています。ご興味をお持ちの方は、ホームページからお申し込みできますのでご覧ください。
著者紹介古田圡満(こだと・みつる) ◉──公認会計士・税理士。税理士法人古田土会計代表社員。 1952年生まれ。法政大学卒業。「中小企業の経営に役立つことこそ、会計事務所としての社会的使命」が持論。 ◉──「数字はこうとらえるべき」という理論のみで顧問先を指導するのでは説得力がないと考え、自ら顧問先の手本になるべく、「月次決算書」と「経営計画書」の PDCAを全社員で徹底的にまわし、〝教える〟でなく、〝見せる〟スタンスで顧問先と向き合っている。創業以来 33年連続の増収、赤字は一度もなく自己資本比率 90%、クチコミだけで年間 180件の新規顧客がくる日本有数の優良会計事務所を経営。 2015年の顧問先数は 1950社以上、さらに全国の会計事務所 300法人を指導。「月次決算書」による会計指導と「経営計画書」の作成指導は業界内でも有名。また 2014年に士業界初の経済産業省『おもてなし経営企業 30選』に、 2015年には『がんばる中小企業 300選』に選ばれ、 2014年には障がい者を率先して雇用し、その能力の活用に積極的な民間企業に与えられる『東京都障がい者雇用優良企業』に、厚生労働省からは『精神障がい者雇用優良企業』に認定されている。 ◉──おもな著書に『掃除、挨拶、計画で会社は儲かる』『 CD-ROM付ドロくさいけど必ず結果が出る!経営計画のつくり方 』(ともにあさ出版)、『中小企業は行列のできるラーメン屋を目指せ!』(秀作社出版)などがある。お問い合わせについて本書に関するご質問については、本書に記載されている内容に関するもののみとさせていただきます。本書の内容と関係のないご質問につきましては、一切お答えできませんので、あらかじめご了承ください。なおご質問は株式会社かんき出版サイトより、お問い合わせください。電話でのご質問は受け付けておりません。書名社員 100人までの会社の「社長の仕事」発行日 2015年7月 13日更新履歴や補足情報は Webサイトを参照してください。著者古田圡満 装丁遠藤陽一( DESIGN WORKSHOP JIN)本文デザイン・ DTP松好那名( matt’ s work)編集協力小澤浩之・笠原仁子・小山晃( BOOK PLANNING)発行者齊藤龍男発行所株式会社かんき出版東京都千代田区麹町 4-1-4西脇ビル電話 03( 3262) 8011(代)営業部 03( 3262) 8012(代)編集部本書は紙書籍『社員 100人までの会社の「社長の仕事」』( ISBN 978-4-7612-7104-6)を元に製作した電子書籍です。紙書籍とは一部レイアウトが異なります。本書の一部または全部を著作権法の定める範囲を超え、無断で複写、複製、転載、テープ化、ファイルに落とすことを禁じます。造本には細心の注意を払っておりますが、万一、乱丁(ページの乱れ)や落丁(ページの抜け)がございましたら、株式会社かんき出版までお知らせください。 Copyright (C) Mitsuru Kodato 2015
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