このように新規事業だけ、 一意専心でやってきて、私は自身の経験から次の3つの結論に至った。
まず1つ目は、①企業は必ず新規事業を生み出せる、ということ。
しかし、②社内起業は99%同じ失敗をしている、ということ。
そして、①であり②であるならば、②を回避することで成功確率は飛躍的に上がる、ということだ。
まず「①企業は必ず新規事業を生み出せる」と結論づけた理由からお話ししたい
それは、新規事業は多産多死が当たり前で、生存確率を許容できる資金力において、ヒトもカネも情報も信用もほぼゼロであるベンチャーとは比べものにならないくらい、社内起業が有利だからである。
第3図をご覧いただきたい。これは、新規事業が生まれ育つサイクルを表したものである。
縦軸は事業の採算で、横軸は時間だ。曲線に沿って大小の黒丸が配置されているが、この黒丸の一つ一つが事業であり、大きさは事業の価値を表している
この図が示すとおり、最終的に大きな黒丸(価値の高い事業)を1つ生み出す過程には、おびただしい数の事業アイデアがあり、さまざまな理由でこれらはどんどん死に絶えていく。なぜなら、大抵の新規事業は、最初に描いた事業計画どおりにはいかないからだ。
何しろ、新規事業の存在意義は、世の中にある未だに解決されていない課題の解消であり、その対象とする顧客すら存在するかが定かではないものだ。
したがって、事業開発のプロセスというのは、顧客を想定し、その顧客に対して、
「こういうことで困っていませんか?」
「こういう解決方法があったら、いまの方法からスイッチしますか?」
と幾度も仮説をぶつけてみて、その誤差をもとに磨き直して、また顧客にぶつけてみる…という「市場・顧客と仮説のすり合わせ」の繰り返しである。
そして、新たな事実がわかるたびに仮説を修正し、事業の確度が高まるたびに高まった分だけリソースを追加、やがて、これならば勝てるという「勝ち筋」にたどり着くことで一気呵成のスケールに突入していくというプロセスをたどる。
ただ、実際には途中で資金が底をついたり、人材を集められなかったり、そもそも起業家自身の心が折れたりと、さまざまな理由でほとんどが死に絶えていくのである。
私の経験からいえば、最初に事業プランを100件立てても、最終的に勝ち筋に至るのは、わずかに1つか2つしかない。世の中には「千二つ」という言葉もあるくらいだから、もっと確率が低くてもおかしくないのかもしれない。
つまり新規事業は失敗が当たり前で、1つの事業を生み出すためには数を試すのが重要だという点で、フルタイムで働く優秀な人材がいて、数十年にわたり商いをしてきた信用とネットワークがあって、本業からキャッシュフローが生まれているのだから、企業はゼロからすべてを始める独立起業に比べて、新規事業を生み出せる確率が高い。
ちなみに、前述のラクスルの創業当時の資本金はわずか200万円だ。創業したばかりだから、当然、営業キャッシュフローはマイナス。その状態の中で、どれほどのトライ&エラーが許されるかを考えてみれば、社内起業がいかに有利かということがおわかりになると思う。
しかし企業は、この有利な条件をもってしても、なかなか新規事業を生み出すことができない。理由は2つある。ひとつは、いま確実に利益を稼いでいる自社の本業が最優先される、いわば「本業の汚染」があるからだ。
本業の汚染というのは、本業の常識や都合によって新規事業を生み出すのを妨げるものであり、それが社内起業の失敗の99%を占めているといっても過言ではない。たとえば、つい先日も出版社でネット媒体の立ち上げにアサイン(任命)された担当者から、こんなボヤキとも相談ともつかぬことを聞いた。
「紙の雑誌の市場規模が年々右肩下がりの中、ウチでも紙の媒体に代わる、次の収益源としてのネット媒体をつくれと言われたのですが、まだ売上利益の小さい新規事業に人員を増やすわけにはいかないから、専任ではなく兼務でやれと言われました。すると、1人当たりの業務負荷が増え、新規事業が中途半端になるばかりか本業の質も下がってしまう」
「初期の段階で、3年後の売上利益とその明確な根拠を求められ、それがなければ投資できないと言われます」
「成功よりも失敗の確率が圧倒的に高いから、新規事業の担当になったら人事評価が下がります。チャレンジするほうが損をするなら、誰も新規事業なんかやりたがらないですよね」いずれも、どこの会社で聞いたのかわからなくなるくらいの「本業の汚染あるある」で、せっかく現場でイノベーションの芽が見えていても、社内のしがらみのためにその芽が育たないことが往々にしてあるのだ。
だから私は、企業から新規事業の相談をいただいたときには、まず最初、案件の詳細を聞く前に、「何をやっても、どうせうまくいきませんよ」と、とんでもなく失礼なことをわざと
意地悪く言ったりして、本業の汚染を回避する施策の必要性を訴えている。
とにかく、会社は本業を最適化するためにすべてが設計されているため、新規事業にそのルールを押し付けてしまうと、どんな新規事業の種を蒔こうが、本業の汚染で全部枯れてしまう。
たとえるならば、本業はその企業が創業来、この道何十年とやってきている熟練の事業構造、組織体制で、すべてが「大人」。 一方、新規事業は生まれたばかり、もしくは生まれる前の「赤ん坊」で、未成熟で不確実性の塊のようなものである。
赤ん坊にいきなり大人のルールを押し付けてもそれは土台ムリな話で、新規事業という赤ん坊がスクスク育つためには、本業の汚染に遭わないよう環境を整える必要があるのだ。そして、企業が新規事業を生めないもうひとつの理由としては、ゼロからイチを生み出す「基本の型」が身についていないことである。
前述のとおり、私はミスミの創業者・田口弘さんのもとで20年にわたり新規事業だけをやり続けてきたが、勝ち筋に至らず失敗した事業の数々を分析してみると、そこには必ずいくつかの共通要素があり、その要素を回避して失敗を防ぐことで、成功確率は上がるのだ。
残念ながら、破壊的イノベーションを伴なう新規事業には、「こうすれば必ず成功する」という百発百中の必勝法はない。
ラクスルのような時価総額1千億円超のユニコーンを生み出すような大成功は、創業者の能力やアイデアの魅力だけでなく、追い風となる運も必要であり、そこに再現性を求めることは難しい。
ただし一方で、失敗を回避することは再現可能だ。新規事業の型というのは、「こうすれば必ず失敗する」という要素を回避するための正しいフォームのようなもので、このフォームに則ることで新規事業成功の再現性は格段に上がるというのが、私の結論のひとつである。
これらの理由によって、私が社内起業に参画するときには、第4図のように「本業の汚染を回避する3つの視点」と、「新規事業を再現性をもって成功させる基本の型」という2つの柱をノウハウの両輪として、これをベースに事業それぞれの独自要素と照らし合わせながら、新規事業を進めている。
図の上側、企業が抱える「構造的な失敗要因」から脱する策は3つあり、
①3つの切り離し
②2つの機能
③l人の戦士
という3つのポイントがある。
そして図の下側、「新規事業を再現性をもって成功させる基本の型」は、
①マーケットアウトの型(どういう事業をつくれば成功するか)
②仮説。実証・参入の型(どういう手順でやれば成功するか)
③新規事業のプロと対象市場のプロの型⌒どういうメンバーでやれば成功するか)
という3つだ。
本書では、4章以降で、新規事業を生み出すための実務をこれら「3つの視点」と「3つの型」に沿って述べていくが、その前に2章と3章において、これらのノウハウの土台となる考え方やポイントについて、私がミスミとエムアウトの計2社で20年にわたって学んだ「新規事業の原理原則」を述べたいと思う。
その軌跡は、はっきりいって成功よりも失敗のほうがはるかに多いのだが、新規事業の成功パターンはいろいろだが、失敗には共通要因が多く、パターンはだいたい決まっている。
したがって、私の失敗の数々を教訓として、皆さんには自社に合った新規事業創出の仕組みを構築することで、新規事業を量産できる高収益体制への転換を図っていただきたいのである。
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