マーケティング戦略を展開するとき、固定資産としての新たな土地・建物が必要になって
こようし、機械設備も同様だが、積極的展開によって在庫が膨らむ。仕掛品も膨らむし貯蔵
品も同様という状態に、ただ一方的になっては経営的に困るのである。
ところがマーケティングの部門の人々は、それは当たり前であると思っており、売掛金が
増えたり、受取手形のサイトの長いのをもらったりして平然としている。マーケティング部
門の人々は、運転資金の増大ということがどういうことであるかということに頭がまわらず、
お金は財務の人間が準備するのが当然と思っている。
一つの新商品を開発する。 一つの地域に参入する。また得意先を開拓するような場合、総
資本の拡大ということになってくる。
財務の領域で慎重に検討しておかないと、総資本が膨らんでくることは間違いない。そう
なれば『勘定足りて銭足らず』という結果になる。
マーケティングの部門が強くて積極的過ぎる場合、それらの人達の声に圧倒されて、財務
部門に耳をかさないという、財務的欠落を露呈することになってしまう。
財務に強くなることは、何も計算が早いとか、正確だとかいうことではなく、こうした財
務発想欠落の有無いかんにかかってくる。極言すれば土地も建物も不用というような、常に
総資本縮小指向を財務戦略とせよ、ということだ。
在庫も少なく、売掛金も手形も少なくということを忘れると、危険度は高いといえる。
一つの新商品を開発する、新業態を生み出す、新分野へ出ていく、そのようなことをして
も、いかにして土地も建物も設備も在庫も運転資金も含めて身軽に行動し得るかということ
を企画し、提案していかなければならないのである。
長崎から出て、九州・関東市場で長崎チャンメン「リンガーハット」を展開している船リン
ガーハット(米濱和英社長 東証一部上場)のあの「リンガーハット」の原型は、思案橋の交差
点近くにあった、赤字店舗のラーメン屋であった。私もお手伝いをして努力したが、どうし
ても固定費の高額の物件費(保証金、家貨、リース料)を吸収し得る売上が上がらない。売上
を上げるために種々販促活動を行なったが、黒字にはならなかった。
そして、米濱和英氏のとった手段は、夜の十一時から早朝までの間に他人に貸してラーメ
ン店を長時間営業したのである。高い物件経費もさることながら二四時間営業することによ
る売上増大、固定資産回転率の良さによる早期の資金回収が可能であるという実績、その後
は、物件費の割安な郊外における出店戦略で、次々に多店舗展開していったのである。
昭和五一年秋、先代社長米濱豪氏の菩提寺大音寺へ墓参の折、和英社長に、「実はロイヤ
ルに続いて、私どもも福岡証券市場上場を狙おうと思っているのですが」と打ち明けられた
ときには(リンガーハットの年商は当時八億位)、何と財務発想のすぐれたトップであろうと
おそれいった。
後発の企業は常に、人なし金なしである。その中でいかに少ない資本で売上をあげ、資産
回転を高めて早い回収を図るか、それを企画するのが知恵である。
儲けている会社は、金なし、モノなし、人なしの中で、そうしたものがいらない発想をし、
いらないほうをとって見事に実現してきているのである。
〈実例〉呉服商のA社
呉服屋というのはまず、店舗がいる。しかも一等地。次に多くの商品在庫が必要で高額の
ため売掛金も多い。
A社は、この業界常識に対して、無店舗で商売している。この店舗に代わるものとして、
一流ホテルを展示会場としての利用で対応している。商品在庫については、全部委託、売掛
金は信販とのタイアップでゼロという経営である。
バランスシートを見るとわかるが、固定資産はなし、在庫もなし、売掛金なしという実態
がここにある。部外からは、こうした事例はわからない。
しかし、反面、強力な販売力・マーケティングカが要請されるので、武器としては販売の
システム化を実施している。
在庫回転率は少ないに越したことはない。基本は昔と変わりない。メーカー、卸で○・五
カ月、小売業で○・七カ月以下。
商品、製品の在庫をいかに少なくするか、ダメな会社は、この在庫量は多い。 一五日分の
在庫を持っておれば十分という思想がなければ良くならない。

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