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社長! 「人にやさしすぎる」経営をしていないか

思えば日本も豊かになったものである。五〇年前の敗戦のときは、「これからの生活はいっ

たいどうなることか」と誰しもが不安におののいていた。その後、わが国の企業は、欧米の

豊かな先進国に学び、追いつこうと必死になって、自由主義経済体制のもとで、豊かさを求

め続けてきた。

そして、教育水準の高さやファンダメンタルズのよさに加え、外から攻められない島国の

有利さと価値観を一つにする民族性のおかげで、ふと気がつくと、大企業、中堅企業は言う

に及ばず、中小企業までが外国企業のそれと比較しても遜色のない規模と内容になってきた。

とくに昭和六〇年(一九八五)九月、ニューョークのプラザホテルで開かれたG5(先進五カ

国蔵相・中央銀行総裁会議)の会議では日本の膨大な経常収支黒字の是正が議題になり、時

の竹下登蔵相は内需拡大を国際公約した。いわゆるプラザ合意である。

以後、貯めるばかりでなく、もっと内需を拡大して国民が豊かさを実感できる国づくりを、

という機運が高まった。当時の中曾根康弘首相は「民間活力を拡大せよ」と号令。これを契機

に、通貨供給がどっと増え、それまで中小企業にはあまりいい顔をしなかった大銀行までが、

ぜひ資金を借りてくださいと、お金を持って来るようになった。その流れの高まりがバブル

の発生につながったのではなかろうか。当然のことながら、勤労意識の面でも大きく変わっ

てきた。それらをざっとあげると、

●よく働く人間はアホだ。

●もっと多くの休暇をとりなさい。とれない人は仕事のやり方が悪い。

●上の人から、仕事をするな、早く帰れ、休日をとれ、を実践する。

●定年は延長しよう。(60才までいてください)

●それ、社宅だ、山の家だ、海の家だ。

● フリーターでいるほうがいい。好きなとき休職して三カ月も四カ月も海外旅行できるから。

●幹部になりたくない、転勤はしたくないc

豊かな時代に育った若者たちが、ワーカホリックも仕事熱心者もごちゃまぜにして、こう

した勤労意識を持つことはわからないでもないが、それ以上にわからないのが、これら若者

に迎合・追従した企業経営者である。バブル時代の求人難もあっただろうが、大企業から中

小企業まで異口同音に、「人にやさしい企業」を看板に掲げだした。それまでは「よい企業」と

は「強い企業」と信じて、それを目指してきていたのに、急に「強い企業」から「人にやさしい

企業」へと宗旨変えし、また経営者も「人にやさしい企業」が「よい企業」なのだという錯覚に

陥ってしまった。

会社から「ゆっくり、のんびりと」と言われれば、誰でも有給休暇は全部消化しようとする

し、遊び人間になってしまう。さらに、社員の定年延長のおかげで退職金の支払いが先延ば

しできる、と浅はかにもほくそえんだ中小企業の経営者も少なくなかった。

だが、そのツケがいま、企業に回ってきている。社内には五五歳以上の高年齢者がはびこ

り、休日や高給を望む若者がいっぱい。「人にやさしい企業」を頭から否定する私ではないが、

現状は「やさしすぎる」のである。

一金持ちを貧しくさせたからといって貧しい人たちが豊かになるわけではない」とは、自助

努力、自己責任の必要性を訴えた英国の夕鉄の女″宰相サッチャー女史の言葉だ。

強者が弱者への同情を示すことはよいことだ。しかし、弱者が施しを受けることを当たり

前と思ったり、資本主義の経済戦争のなかにあって、企業内まで弱者のペースに合わせてし

まうことは私には許せない。

そして、企業貢献義務のある人間の己が義務― ‐収益の実現のために必死に真面目に働

くこと― ,の美しさを讃えないで、海にクルーザーを浮かべ南の島で長期間休むような経営

者をほめ讃えるマスコミにも責任がある。

そしてまた、「消費税」や「住専処理」の論議で、いつも出てくる「企業家からとれ」「大きい

ところからとれ」という、無理解な意見には同調しかねる。いまや日本という国は、社会主

義国家よりも社会主義システムに近い(官僚がこのシステムをつくり上げた)。

世界で法人税が一番高く、交際費も資本金が五〇〇〇万円を超えると香典ですら一円も経

費算入されないのである。その結果、個人も会社も弱いものばかりあふれて、官僚ばかり強

く大きくなっても、経済が停滞すれば国は破滅し、国民が一番悲惨な目を見るのである。

いまだに休暇が少ない、給料が安いと嘆く人たちに、私は声を大にして言いたい。たった

一度の人生で「働く意志と能力があるのに働く場を与えられない」ことほど不幸なことはな

い、と。

私は二五年間の経営コンサルタントとしての経験から言うのではなく、商人だった私の父

を通じて、それはそれは多くの悲劇を見てきたから言うのである。

楽しく六日間働けば、休日は一日で十分。そして一月と八月の正月と盆、五月のゴールデ

ンウィークの連続休日と秋の休みがあれば結構である。「男のロマンは女の不満」だそうだが、

女房、子供も大切だが、男には仕事も大切なのである。

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