コンサルタントとしては当初、マーケティング・販売コンサルタントからスタートした私
だが、いろいろと成功や失敗などの経験を積み重ねているうちに、販売部門だけでなく商品
計画など生産部門へもどんどん首を突っ込むようになっていった。この傾向は、昭和四八年
(一九七三)秋に起きた石油ショック後の大不況、それに続く低成長時代を迎えていっそう深
まっていった。おかげでIE(インダストリアル・エンジエアリング)やQC(品質管理)で
もその部門の専門家より強くなり、クライアントからは実績に直結するコンサルタントとし
て評価されるようになった。
世間には「売れない商品でも、こうしたら売れる」と営業マンに教育するのに躍起となって
いる企業や専門家が少なくない。平成不況のように、個人消費の停滞が目立った折には、こ
うした教育が活発に行なわれた。
だが、私は、売れない商品を売れるように努力するよりも、「売れない商品はつくらず、
仕入れない」、「売れる商品をつくり、仕入れる」、この努力を行なうことが本筋であり、賢
明であると思う。経営なり商売というものは、相手が現金を持って飛んで来て、頭を下げ、
行列してまでも、それが欲しいという商品をつくり、仕入れることだ。
いくら販売に注力しても、肝心の商品が顧客のニーズにマッチしていなかったら無駄な努
力に終わるし、仮に売れたとしても顧客を編すようなものである。もちろん、モノづくりに
は顧客の声を聞き、現地。現場。現品主義に徹することが大切で、趣味ならともかく、独り
よがりは許されない。
私がここで言いたいのは、経営には販売だけではなく、マーチャンダイジング活動(商品
化計画、生産、仕入れも含めた)もあり、管理もあるということである。言い換えれば損益
計算書と貸借対照表の両方の発想のバランスが欠けた経営はあり得ない。ところが人間、誰
しも得手、不得手がある。そのため、よほど気をつけないと、どうしても自分の得手に頼っ
た経営に陥りがちになる。
二五年間経営コンサルタントとして中小企業各社のお手伝いをしてきたが、その経験から
言うと、経営者は、多かれ少なかれ次の五つの特徴を持ったタイプに分かれる。
①「売れる商品づくり」に熱心な経営者。
②「管理力(マネジメント)」がうまい経営者。
③「労務管理力(人心収撹術)」にたけている経営者。
④「人脈、得意先会社との強力なパイプ」を持っている経営者。
⑤「営業センス、行動力があり、販売に強い」経営者。
だが、不幸なことに、経営者は自分の強みをこの五つの角度から見ていないし、気がつい
ていない。ただ単に自分に実力があるとか、業種、業界がよいとかというように受けとめが
ちだ。
経営者はとかく自分の得手、得意としている分野に対する思い込み、思い入れが強く、得
手な面での欠点や短所はよく分析している。
例えば、商品力は十分であるのに、それをもっと強化したいというように、得手な分野だ
けに、なおさら弱点が日につくというところがある。
ところが、経営にはいろいろな面がある。おわかりのように、決して商品力だけとか、営
業力だけとか、 一つの分野が突出してもうまくいかない。その意味で「経営の妙はバランス
にあり」と言うこともできる。自転車の前輪がいくら大きくても、後輪が小さければ、速く、
安定して走れないのと同じ理屈だ。
しかも、再三お話ししているように、二一世紀へかけて経営環境は大きく急変しつつある。
一つ間違えても、今日の強みは明日の弱みにもなりかねない。つねに経営の各部門に目を届
かせた、抜かりない観察とク読みクが求められる。
バランス思考を持つには広い視野も大切だ。日常の執務に忙殺され、飛び回っているので
はとても無理と言えよう。会社の現状から一歩離れて、自社の全体像を眺める余裕がほしい。
それでも自分だけの考えでは限界がある。幹部のなかで率直にものを言ってくれる人間をみ
つけるか、外部の専門家の意見に謙虚に耳を傾けるなど、努力しなければならない。
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