の4
事業を起こしたとき、調達した資金は、土地・建物(借地・借家なら差入れ保証金や敷金
として)および機械などの固定資産として、そして原材料・製品(商業では仕入れ商品)など
の棚卸資産および、営業活動を行なってそれらを販売した売掛金・受取手形などの流動資産
として回転してゆき、最終的には現金として回収されていく(図表314で理解していただ
きたい)。
これらの固定資産、流動資産は貸借対照表の左側に表わしてあり、このように調達した資


金をいかに効率よく回して売上げたかの指標を「総資産回転率」と呼び、図
表315の公式によって示される。
年間売上高を貸借対照表の左側の総資産で割った、資産利用の効率性を
見る総資産回転率の値を、最低でも丁○以上は確保しなければいけない。
よいと言われるのは丁五以上。私は二・五を目指せと申し上げている。つ
まり、年間売上高は、総資産の二・五倍以上はなければならないのである。
図表314および次ページ図表316でおわかりいただけるように、土
地・建物などの固定資産と棚卸在庫商品や売掛金、現・預金の流動資産の
合計が総資産である。
この総資産を二・五回転以上に効率よく回して、総資産の二・五倍以上の
売上げをあげる回転主義に徹しなくてはならないのである。そして、この
公式から明らかなように、一下五回以上の回転をさせようと思えば、分子
の売上高を伸ばすか、分母の総資産を減らすかの二つしか方法はない。
私はつねに、総資産のほうを圧縮せよと申し上げている。図表316は
貸借対照表を私がいつもやる方法で百分比の面積図表にしたものである

が、売上げが上がる好況のときは、どうしても総資産が増大してゆく。売上げ増大は、受取
手形、売掛金が増え、在庫が増大し、甘い見通しの投資が増えるということになる。 一転し
て不況になると、売上げ増大をしようと思ってもなかなか上がるものではない。贅肉のとれ
た筋肉質の、無駄のないスリムな総資産額(土地、建物、機械、在庫、売掛金、受取手形)
の少ない体型であれば、不況への抵抗力が強いのである。
分母の総資産が水膨れのように増えれば増えるほど効率は悪くなる。減れば減るほど効率
はよくなる。こんな簡単なことがわからず、資産は多くあったほうが信用を得るとでも思っ
ているのか、固定資産、流動資産を多く持つ企業がどうしてか多いのである。実は貸借対照
表を十分に見ていないのである。
平成のバブル景気のとき、財務コンサルタントまでが株、土地、絵画さらにゴルフ会員権
を持てと、企業のトップにけしかけた。私は、友人の財務コンサルタントに「君はいつも資
産回転率と自己資本の充実が大切だと言っていたのに、宗旨変えしたのか」と、あきれて質
問したほどだった。
それも自己資本で持つのならまだしも、ほとんどの企業では、バランスシートが図表31
7のようになって、左側の投資物件に見合う分だけ右側に銀行借入金が増えたものだ。総資

産回転率がたちまち悪くなる借り入れまでし
て株や土地、ゴルフ会員権などに投資したこと
について、これら投資物件の値上がり率は銀行
借入金の支払金利より高いと期待したからで
あろう。
そのとき、私は確信したのである。経済評論
家、世相評論家、新聞記者など、これらジャー
ナリスト、オピニオンリーダーの方々は、総資
産回転率をご存じないし、バランスシートを分
析する力がないのではと。
私は、つねに、バランスシートの左側の資産
の部を圧縮して高回転率経営を行なえ、と叫
び続けている。とくにインフレが長く続くと、
次のような考え違い、思い違いをしがちだから
である。
﹇その1﹈インフレ時などは、正直に生産、販売、サービス活動を行なって利益を上げるよ
り、値段の上がっている物を安く買って高く転売すれば簡単に儲かる。そこで、こうした投
機的な行動が活発になり、真面目に汗を流して苦労するまともな経営者がバカに見えてくる。
﹇その2﹈企業がこれだけ利益を上げ、私はこれだけ利益貢献を行なったから、これだけの
利益分配、賃上げをしてくださいという本来の考え方が歪められて、物価が上昇し、生活が
苦しいから、その補償として賃上げをしてほしいという考え方なり要求が当然という錯覚め
いた風潮が広がる。
これはとんでもない思い違いだ。利益に貢献している社員や経営の収益体質を高めようと
努めている経営者にとっては、たまらない。
さらに、インフレが長く続く間は、水膨れ経済であるにせよ、デフレ期よりも経済は成長
し、雇用は増え、たしかに企業としては儲けやすい環境である。そこでインフレ期には銀行
へ預けて、元金が実質値下がり損する預金者のようなことはせずに、少々金利が高くてもう
まく借金をして土地・建物、他社の株式を購入し、設備を増やし、在庫も増やして値上がり
を待ったほうが儲かるという、恐ろしい考え方が経営者の間にはびこる。インフレ歓迎論が
高まるゆえんである。
しかし、こういう考えに汚染されてしまったら、抵抗力のある二枚腰経営にはなかなか戻
れない。
とくに土地の価値を信じている人達は危険である。土地は減価償却がきかないので、
一〇〇%借入金で調達した場合、月々の返済は税引後利益額で返済していくことになり、自
己資本がない会社では、たちまち返済金不足に陥り、返済金のために借入金が増大するので
ある。
総資本利益率とは利回りのことである。
土地を買って利回りがよくなるだろうか?
今回のように不動産価格が低下するデフレ経済になれば、たちまち倒産という危機が来て
しまうのだ。
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