大阪・船場の老舗である和田哲(現ワテックス)の和田亮介社長は、以前から「扇子商法」と
いう独自の経営哲学を持ち、実行して好業績を上げ続けている。ご存じのように、扇子は普
段は小さくたたみ、必要なときには大きく広げて使う。経営に必要な考え方も同じだという
のである。具体的には、不況のときには会社の事業を縮小し、好況のときには拡大できるよ
う、フレキシビリティーに富んだ経営をつねに心掛け、実行せよというものである。
経営者は誰でも、好況期にはその膨張を避け、不況期にはすばやく縮小すればいい、とよ
く言われるが、実際にこれができるかというと、決して日で言うほど容易ではない。むしろ、
これを実行できる経営者は非常に少ない。
例えば好況期にライバル企業が事業を拡大し、シェアを伸ばしているときに「あんなにス
ピードを出して拡大してはいけない。うちにはうちのやり方がある」として傍観視し、あた
らチャンスを見逃し、競争に負けるのを我慢できる経営者がいるだろうか。我慢できる重役
がいるだろうか。
またその反対に、経済環境の悪いときに事業を拡大できるだろうか。例えば不況期に地価
は下がるし、工場の建設費も安くなり、機械も安く買いたたけるからといって、将来に来る
であろう好況期のために新規の設備投資をすることができるだろうか。いや、うちだけは別
で業績がいいからと言っても、果たして銀行がお金を貸してくれるだろうか。
好況のあとには必ず不況が来る。そのときを考えながらいつでも伸びられる、いつでも縮
小できるシステムを普段からつくっておくことが大切である。
日本にある外資系企業は、不況対策などを打ち出すのが日本の企業に比べて早い。そのよ
い例が平成不況の際の日本IBMだ。日本の企業が対策を打ち出すのに手をこまねいている
間に、いち早く大幅な人員整理や不採算部門の縮小など思い切ったリストラ(事業の再構築)
を断行した。これが功を奏し、業績は急速に回復した。平成九年度(一九九七)には大学卒新
規採用人数を前年度より一気に三倍近くに増やし、早くも攻勢へ転じている。
日本IBMに限らず、日本にある華僑系企業や韓国系企業も好・不況時への対応が早い。
華僑などは、早くから世界各地で事業活動を展開しているだけに、国際的な経営センスを身
につけているためである。日本の経営者は「外資系企業の行動はドライすぎて、日本の風土
には適さない」と言うが、国際化時代の今日、このような見方はむしろ時代錯誤である。外
資系企業に限らず、海外の企業からは、日本企業のこうした経営パフォーマンスを「まるで
慈善事業をやっている感じ」と批判するのももっともだ。資本主義的な考え、契約の精神に
基づいた企業経営が、日本の企業にはまだまだ徹底していない。
世の中が好況で浮かれているときも、不景気で沈んでいるときも、つねに周囲の動きに惑
わされず、自社の着実なピッチ、スピードで走る。そのような優れた企業を見て、こうした
会社に共通している点をあげると、次のようになる。
●自社の活動する領域、事業目的、経営者の意思が明確で、つねに一定している。幅よ
りも深さを追求する。
●強い「信念」と「願望」、さらに確立した「理念」があり、ただ単なるお金儲けに走らない。
●つねに二〜三年先を読み、次に何が来るかを考えて打つ手が速い。
ひとことで言うなら、優れた「専門分野」と「経営理念」および「洞察力」を持ち、さらにこれ
らに磨きをかけ、徹底した独自路線を歩んでいるのである。中小企業の経営者は、よく「銀
行は好景気のときに傘を貸してくれて、雨が降っている不景気のときに取り上げる」と嘆く。
これは何十年も前から言われていることだが、これは別に銀行が悪人ということではなく、
好況時、不況時の金融事情からしてやむを得ないことでもある。
大切なことは、いつも銀行を頼りにして経営をするのではなく、自ら全天候型の経営を目
指せる体質づくりに努めることである。私が勧める二枚腰経営に欠かせない体質というのは、
たとえ小兵でも重心が低く、ムダな贅肉のない、筋肉質な企業のあり方のことを指す。重心
が低いというのは、損益分岐点が低いことを、筋肉質というのは、ヒト、モノ、カネすべて
にムダがないことを言う。こういう経営体質をつくり上げれば、好況、不況、銀行の態度と
は関係なく、つねに安定した高利益を上げることができるのである。
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