企業が成長・発展を続けるためには次のことが欠かせない。
「つねに客のニーズをつかみ、日の当たる、成長する分野に企業を置きなさい。マーケティ
ングをやりなさい」― 。当たり前すぎて、どうもそれだけではわからないと言われる方も
おられるだろうから、図表31‐
2を見てもらいながら説明しよう。これは一九九四年度(平
成六年四月〜同七年二月)の日本酒の販売用出荷量上位八〇社のランキング表である。ビー
ルなどに食われて、近年、日本酒メーカーはどこもかしこもマイナス成長で、決して日の当
たる業界ではない。ここ二〇数年間、なんと二千数百社が激しい競争に明け暮れ、地方の中
小メlヵlがどんどん潰れていっている。業界自体が非常に古い体質なこともあり、衰退市
場とも言える。
しかし、この表をよく見ると、ほとんどの会社が前年度比マイナス成長のなかで、八社が
プラス成長と伸びている。そのなかでも三二位の鷹正宗(熊本)、三八位の自龍酒造(新潟)、
七六位のキング醸造(兵庫)の三社が大幅に出荷を伸ばしているのが目立つ
鷹正宗は、北九州コカ・コーラボトラーズの部長であった神屋直邦氏が平成元年
(一九八九)、弱冠四四歳で倒産しかかった同社の再建に乗り込んだ。他の飲料種業界からの
参入であったが、コカ・コーラと違い、商品(単品)、市場(北九州)、販売価格の制約がない
日本酒業界は、非常に自由でやりやすいとおっしゃっておられる。やることが革新的で、韓
国から清酒を仕入れて『百済鷹』のブランドで全国に売り、「鷹はホークス」と言われて、プロ
野球のダイエーホークスの地元の福岡では人気を得て飛躍している。
白龍酒造は、私が大好きな『上善如水』のメーカーである。あっさりとして、飲み回のいい、
それでいて決して薄い酒でなく、コクのあるしっかりした清酒。長年この業界に関係してい
る権威者や日本酒好きの老人は「なんだ、こんなしゃぶしゃぶの水みたいな酒」と言われるが、
若者やインテリ、女性からは圧倒的な人気を得ている。
特筆すべきは、前年ゼロでランキング表にはそれまで存在しなかったキング醸造である。
同社は『日の出味酪』『日の出料理酒』で、スーパーマーケット市場をミツカンと両分している
創業九七年目の歴史を誇る液体調味料メーカーである。大西壮司社長は四三歳で日本酒業界
に参入した。同社が躍進している理由は、新しい市場チャネルと売場の開拓である。従来の
酒小売店と違った、まだ酒販店免許数は少ないが今後間違いなく大きな市場に成長する大手


量販店、生協などへのルートを切り開きつつある。日本酒の業界に新規参入し、すぐにラン
キング七六位、次の九六年度には四〇位に急成長している。このほか、六三位の老松酒造は
酒のディスカウンターのやまやの定番商品である紙パック清酒『夢子』で伸びている。
つまり、たとえ日本酒という古い体質の、しかも衰退市場にあっても、伸びる会社は伸び
るのである。要は、これから伸びる市場、具体的には若者・女性市場の開拓、彼らのニーズ
に合った商品の開発、あるいは新チャネル開拓が成功しているのである。マーケットシェア
よりも新商品開発で市場を拡大できることは、アサヒのスーパードライ、服部セイコーのゴ
ルフドライバー『Sヤード』で実証済みである。
先にも触れたように、日本酒の需要量は縮小気味だ。従来からの、商売を守られてきた免
許制などの規制に凝り固まった努力不足の三ちゃん(じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん)
小売店は、遠からずコンビニエンス、スーパー、酒の小売カテゴリーキラーなどに市場を奪
われるのは間違いない。にもかかわらず、長い歴史のある日本酒メーカーは、従来の特約店、
代理店制度を崩すことによる反発を恐れて、これからの成長市場への参入をためらっている。
その結果がシェアのじり貧となって表われているのだ。
また中小零細メーカーは、異口同音に大吟醸、吟醸と唱えて、競って高級市場を狙ってい
る。もちろん、狙って悪いことはないが、製品、販売方法、サービスなど、どこも似たり寄っ
たりで独自性を出すのを忘れている。さらに、パック容器の経済酒は、旦那風を吹かせたい
のかメンツがあってか、この市場へも参入しようとしない。
日本酒という一つのマーケット、それもどちらかと言えば衰退市場にあってさえ、成長す
る市場に向けて積極的に挑戦するかしないかで、会社の盛衰を大きく分けることを、このラ
ンキング表は雄弁に物語っている。
コメント