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一〇年はかかる二枚腰

私は、この章で「井上式二枚腰経営」についていろいろな観点から説明してきた。もう一度、

そのポイントを要約すると、

●貸借対照表の構成をバランスよくしなさい。

●商品力を磨きなさい。

●景気に左右されない不動心を持ちなさい。

●早くたためる機動力、意思力を持ちなさい。

●若い社員で戦闘体制を組みなさい。

●成長する分野に企業の身を置きなさい。

ということになる。しかし、これらは一年や二年では実現できない。五年でもやっとで、

一〇年は十分にかかる。そして、夢が実現するまでには二〇年はかかるだろう。

「願望なきものは実現しない」

「願望を描かざるも実現しない」

「企業エネルギーを集中しないと実現しない」

だから、「長期五カ年計画として定量、定性的にまとめ上げる作業を行ないなさい」と私は

言っている。ところが、数字化された夢のような立派な経営計画をよく見る。聞くと、経営

企画室の数人でつくり上げたという。だが、本当にその経営計画を実現させるのだったら、

決して一部の特定の人だけで策定するのではなく、必ず幹部全員でつくり上げることだ。そ

のようにして自分たちの真の願望実現書として書き上げるのを、私たちはお手伝いさせてい

ただくのである。

そう説明すると、

「なぜ、先生が手伝うとうまくいくことが多いのか?・うちにも経営計画をつくる能力は

ある」

と問われるだろう。その問いの答えはこうだ。私は経営コンサルタントとして、契約した

私の立場(雇用関係)にとらわれず、トップの社長や経営陣の方とは異なった目、視点でその

企業の強みや弱み、課題などを冷静に、しっかりしたモノサシ、尺度で判断し、決断するこ

とができるからである。

もう少し普遍的に言えば、その企業が直面している難題が何であるか、いま、その企業に

とって何が大切かという価値判断、何か強いものを持っていないか、どんな闘争武器を与え

れば企業戦争に勝てるか、やめることは何か、撤退すべき部門は何か、新設すべき部門は何

か― などについて客観的な判断、勧告、決断を行なうのである。とくに、やめること、潰

すこと、閉鎖すること、これが内部の人間では発言できない。

経営陣をはじめ、企業の社員はとかく内側にいるため、自社の欠点がよく見えるあまりに

ネガティブ(否定的)に自分の会社を見がちである。だが、そういう会社でも違った視点から

見ればよい点もある。富士山と同じで、遠くから見ると美しい。その中に入ってしまうと、

そのよさが見えないのである。そして企業幹部は自分のポストと待遇を守りたいために、社

長の前ではホンネを押し殺し、ご無理ごもっともと、建前だけで生きていることを私は知っ

ている。それだからこそ、第二者である専門家の目や指摘、アドバイスが必要になってくる

のである。

だが、ダメな経営コンサルタントは社長の御用コンサルタントに成り下がり、あるいは欠

点ばかり指摘して、相手が未熟な企業ではとてもできない方策を、優先順位を明らかにせず、

実施するよう言う。 一社だけに雇用されていない私は、契約先の社長や重役には耳の痛いこ

とでも必要ならばズバッと言う。だが、決して「威張りちらして」は申し上げない。人間、ど

んなに強いといってもつねに真実や本音を言えるものではない。かくいう私でも、 一社だけ

に雇用されていたら、そこの社員だったら、やはり、できないだろう。

「いくら賢人でも、側近が苦言を言わず、調子のいいことばかりを耳に入れていれば二年

でバカになる」

とは勝海舟の言葉である。別にコンサルタントに頼らずとも結構なのだ。自社の五年先の

到達すべき目標を定め、毎年、毎年それをチェックし、着実に経営課題を解決してゆくこと

である。

例えば、粗利益率を一ポイント改善するために何をやるべきか。在庫高を月商の五日分減

らすことを目標にしても、何度やっても、いろいろな方法でやっても失敗する場合がある。

経済環境の悪化で計画が狂ったり実現できないこともある。イトーヨーカ堂の業務改革運動

は在庫削減を主目的として、愚直に一〇年以上にわたって続けられたのであって、すぐ厭き

てしまう日本人経営者にあって半端でない長期的な活動は頭が下がる。

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