とんかつ専門店KYK(本社大阪市、曲田秀男社長)が百貨店にデリカテッセンで出店した。
当初は全部揚げてから商品を陳列し、販売していた。だが、その方法だと売れ残りが出る。
百貨店の閉店時間直前に行くと「これ、半値にしておくから」といった半値サービスをして売
れ残りを避けようとし、残った分は廃棄処分していた。
実は、このロスだけで利益が吹っ飛んでしまうのである。そこで陳列商品を全部蝋細工に
するようにした。レストランに行くとよく見かける、人口のサンプルケースに入っているあ
の蝋細工で、本物そっくりにつくられている。百貨店は、このやり方に最初はクレームをつけ、
「なんちゅうことするのや、贋物を置くなんて」
「いや、贋物ではない、隣の漬物屋さんも置いてますがなぁ」
奈良潰けは蝋細工でないと、色が汚いからである。
「わが社はレストランでもサンプルでやってきていますから、どうしてもダメだとおっしや
るのなら店を引き上げますが」
「……まあ、まあ、仕方がないか」
そうこうして結局、KYKはその百貨店でも、お客様より注文をもらい、それから揚げる
ようにした。熱いやつを買っていただくのである。するとお客様は、
「先にお金払っとくわ」と言う。
「さようでございますか」と、証拠としてレシートと整理番号をお渡しし「一〇分ほどお待
ちいただけますか」と了解してもらう。するとお客様は、
「私、そこらへんをちょっと回ってくるわ。それまでにつくっといて」
「承知しました」というように先にお金をいただいて、整理番号を渡し、お客様に商品をお
渡しする。このなんでもない行動に対して、またもや百貨店からクレームをつけられたのだ。
「なんちゅうことするのや」と。
「なんちゅうことと言われるのは」
「あのねえ、お客様には商品を先に渡して、後でお代をいただくものやねん。商品を渡さ
ずに先に金をとるとは何事や」
こういうことを言っているから百貨店はだめなのである。商売も傾き、倒産してしまうの
だ。百貨店の外商からモノを買ってみればよい。支払いは少々延ばしても、文句は言われない。
「すまんなあ、支払いは待ってくれんかな、ニカ月後に来てや」。「はい、わかりました」と、
困りますとは絶対に言わない。待ってくれる。
「その百貨店に言っとけ。君んとこの関連企業の遊園地に行ったら観覧車に乗ってから金
を払うのか、払ってから乗るのか」
「先生、あれは入場料ですや」
「それでは商品券は、どうなるのか」
「いやぁ―、理屈を言わないでください」
もう一度言うが、こんな感覚で商売をしているから百貨店は潰れるのだ。スーパーマーケッ
トでは商品を渡すのと金を払うのと同時だ。しかも売掛金や受取手形はない。全部キャッシュ
で買掛金、未払い金はなく、商品を売っても支払いは後でもいいという例はない。スーパー
は一日に現金がいくら溜まるだろうか。計算してみなさい。お金はどっさりある。
回収ということをもう一度考えてみよう。古い体質になっているとお金をいただくことは
悪いことだというようになっていないだろうか。どうして商品なリサービスの代価としてお
金をいただくことが悪いのか。売り手と買い手は五分と五分である。先にお金を取れといっ
たら無理かもしれないが。
また、石油ショックのときに、名古屋のある木材貿易商社のお手伝いをした。ここの在庫
商品はものすごくあった。あわや倒産するかというところまでいっていた。
そこで私は、開口一番、こう言ったのである。
「なんや、この在庫は」
「先生、貿易のことはあまりご存じありませんね。このなかにはTR在庫というものもあ
るのです。先生、TR在庫はご存じですか」と営業部長に言われた。
「なにやねん、それは」
「私たちは、LC(信用状)を組んでいますから金を先に払わないといけない。アフリカか
らブビンガの木材が船で、象牙海岸から喜望峰を回って運ばれてくるのです」
そういうオンデッキー船の中に入っている在庫もここに入っているとの説明だった。
「それがどないしたんや」
「どないしたんと言われましても、そんなのはどないして売ったらいいのですか」
「知らん。しかし商売の原理原則から言えば在庫は月商の三分の一が正しいんや」と言った。
結局、その会社は再建できたのである。二年後の昭和五二年になって貸借対照表をみると在
庫が月商の三分の一になっていた。
「この在庫のなかにはTR在庫は入っているんか? なければTR在庫はどないなったん
や」
「TR在庫は日本に着くより先に売るようにしたんです。現地に行って一つずつ写真を撮っ
たものに番号を付け、お得意先に先に売ったのです」
その結果、在庫が月商の三分の一になったのである。
「TR在庫とか言っても、考えれば売れるじゃないか」
「できるものですね」と、営業部長は答えた。
大切なことは、はじめから「できっこない」といった固定観念にとらわれずに、知恵を絞っ
て、できる方法を考えることだ。残念なことに、この営業部長は、その後、アフリカの風土
病にかかって亡くなられたが、いい部長さんだった。いまでも惜しいと、ときどき思い出す。
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