私はマーケティング部門のコンサルタントとしてスタートしただけに、 一貫して「つねに
顧客の声を聞き、現地。現場。現品主義」を唱え、独りよがりの「プロダクトアウト主義(生
産現場主義)ではだめだ」と申し上げてきた。
ところが「お客様第一主義」と会社のスローガンを決めたら、その会社の経営トップ陣は、
何でも営業第一主義、つねに営業の声が正しいとなり、それを強力に推し進め、その結果、
営業マンの思いつき開発商品が増えて品揃えの幅がやたらと拡大し、企業の主張や顔が見え
なくなって、個性・特徴を失ったばかりか、不良在庫の山ができ、コストアップ、商品鮮度
の低下となって企業収益は悪化するばかり、という失敗をした経験もある。
だが、昭和四八年(一九七三)の秋に起きた石油ショック後の大不況、低成長時代、ゼロサ
ム時代を迎えて、私の経営についての考え方が大きく変わった。それをひとことで言うなら
「経営は決して販売だけでなく商品化計画(生産、仕込みも含めた)もある、どうしたらそれ
がつくれるか(製造)」が大切ということになる。
これを実現するには、
「売れる商品の企画に徹底すべき」
「売れない商品はつくるな、仕入れるな」
「売れない商品を無理して売るのは、営業マンではなくサギ師である」
とまで心の中で誓った。売れる商品ということでマーチャンダイジング(MD)発想から商
品づくりのため、どんどん川上の生産部門に首を突っ込みだした私は、販売指導よりもむし
ろ生産指導が得手になり、本職の生産コンサルタント(IE、QC専門家)よりも、その部門
には強くなり、クライアントからは実績に直結するコンサルタントと評価されるまでになっている。
人間、ほめられれば恐ろしいもので、自信を得た私は、三五〜四五歳は生産部門の基本知
識の吸収に力を注いだ。そこで再認識したのは、ニーズに対してシーズ(∽国国∪∽)というも
のもあるということである。
「シーズ」、つまり「種子」は仕事のネタを指すが、どの企業でも、それなりに、例えば独自
の設備のネタ、技術のネタを持っているのである。自社の持っている「設備」「技術」「管理シ
ステム」さらに「ビジネスシステム」を革新(イノベーション)すること、もっと磨き上げるこ
とは、ニーズ以上に大切である。
例えば、お客様の要求(ニーズ)のなかの主なものとして「価格」というものがある。価格を
下げようと思えば、自社が持っている償却済みの資産なリソフトなどのシーズを開発、使い
切ることで実現できる。このようにシーズを開発することで、従来は得られなかった力を手
にすることができる。
ところで、技術力とは何であろうか。中小企業の生産現場で考えてみると、
①現有機械設備のメンテナンスがよく、 一心同体で機械の息づかいがわかっており、使いこなしている。
② メーカーから購入した機械でも、自社用に改良・改善、加工されて、もはや自社独自
の専用機械、運用技量を持っているような存在となっている。
③自社の機械設備に対して、次にはここをこのように改善したいと、頭に明瞭に改善策
がイメージされているか、または機械メーカーに「ここをこのように変えてほしい」と
いった要求を持っている。
④現在の機械設備を償却し終えたら、次はぜひともあの新鋭機械を購入したいという計画をもっている。
とくに中小企業の場合は①〜③が大切で、多少は古いが現在の機械を改良。改善すること
で、何か新しい効果が出ないかと考え尽くすような、いい意味での機械バカが必要で、これ
がシーズの開発に役立つ。つねに新しい機械設備ばかりを追い求めるのは感心しない。追い
求めることは必要だが、あくまでも使い切っての話である。
製造業に限らず、小売業の場合でも、つねに新店舗を建設。開発するよりも、既存の古い
店舗でも、その特徴を生かした店づくりを重視して改装するほうがシーズの開発に役立つ。
こうした考えが現場の管理職、監督職の方々にないようならば「イノベーション」も「マー
ケティング」もできるものではない。
生産現場の人間は、営業職の人のようには、すぐさま右から左へと話術巧みにトップを説
得し、動かすという能力には欠けている。経営者はこれら生産現場の管理職の話を十分に聞
き、聞き上手に徹して、会社の技術力の集積を図らなければならない。技術力の革新、向上
というものは、とても一朝一夕には実現できないものだからである。
創業者、あるいは成長型社長の共通点は「せっかち」「能弁」「営業マン」「熱しやすく、忘れっ
ぽい」タイプと言える。マーケティングに力を入れるトップは多いが、どうしてもイノベー
ションには弱いタイプが多い。
建設機械最大手のコマツの安崎暁社長は「競争相手はライバルの米国のキャタピラー社で
はなく、世の中の変化だった。海外展開、情報武装、技術開発、経営者の認識。この四つを
実施できるかどうかに尽きる」
とおっしゃっておられる。企業規模、業種の違いを問わず、情報武装と技術開発による新
製品、新商品、新サービスを開発しなくてはならない。
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