実際にニュービジネスを展開して業績を大きく伸ばしている企業の例を紹介しよう。宝石・
貴金属の中堅卸売業の桜花宝飾(仮称)(本社東京、桜井誠社長(仮名))である。現在、同社は独
自のカタログを制作し、電話による受注販売を主体に顧客である小売店に販売しており、古
い体質を持った宝飾。貴金属業界のなかではユニークな存在として知られている。
桜花宝飾は当初、他の問屋と同様に訪間販売的な営業活動を行なってきたが、この業界に
目立つ高額商品の「押し込み販売」の横行、あるいは間屋からの過剰な委託在庫を抱えたまま
のんびりした商売をしている中小の小売店が多いことから、この業界特有の流通機構を変革
しようとカタログ販売の導入に踏み切った。
宝飾・貴金属の小売店は、百貨店、専門店、大規模チェーン店など店舗を持った業者と、
無店舗業者に分けられる。なかでも台頭が著しいのは大規模チェーンで、GMS(郊外大型
小売店舗)やショッピングセンターヘの出店で多店舗展開を図り、主に価格競争で売上げを
拡大している。 一方、専門店は、 一握りの老舗大型店のほかは、ほとんどが時計、眼鏡など
を併売する街の時宝店である。年間売上げもよくて数千万円といった規模で、大規模小売店
舗法(大店法)の緩和もあって危機的な状況に陥っており、後継者難も深刻である。
無店舗販売の代表は訪問販売だが、ホテルやイベント会場のワンフロアーを借り切って短
期間に集中的に売り込む展示会販売もある。
一方、卸売業者は比較的中小規模で、東京。東上野界隈に集中している。小売業者へ販売
を委託して商品を預け、 一定期間内に売れた分だけを形式的に卸す取引なので、在庫リスク
をすべて卸売業者が負い、過剰な在庫金利に悩まされ、経営体質も脆弱化しているところが多い。
さらに、メーカーは東京と甲府に集中し、八割以上が従業員一〇人足らずの小企業であり、
生産方法は基本的に手作業で、職人的技術に依存している典型的な多品種少量生産業種であ
る。
ふく
わが国の宝飾・貴金属市場は高度成長とともに膨らんで、市場規模は二兆円とも二兆円と
も言われており、バブルの崩壊で一時落ち込んだり、新しい価値観に基づく購買傾向が目立
つものの、比較的コンスタントに成長している。
だが、業界を取り巻く問題は、依然残されている。第一に、価格に対する不安感である。
流通経路が複雑なため、業態ごとにばらばらな価格体系が出来上がっていて、商品に対する
妥当な値段がわからないし、比較しにくくなっている。第二に、品質に対する不安感である。
もともと商品を眺めただけでは品質のよし悪しが即座にはわかりにくく、客観的な評価尺度
がほとんどないからである。
こうした課題に対応するため、桜花宝飾は、取扱商品として、 一生に一度しか身に着けな
いような商品でなく、日常生活のなかで気軽に着けて楽しめる商品を選び、ゴールドジュエ
リーを主力商品とした。さらに得意先の小売店へ、販売努力をしやすい手段・ツールを提案
するとともに、過剰な在庫を持たずとも、多品種少量の商品について迅速で確実な受注。物
流を実現できる仕組みを開発し、適正な価格で販売できるようにした。
また仕入先との間に多品種少量の商品を確実に供給できる体制を整備し、商品開発力の強
化、受注管理・納期管理を確実に行なう「売れる仕組みづくり」を実施した。
すなわち、桜花宝飾の最新の総合カタログは掲載商品が七〇〇〇点以上にのぼり、総ペー
ジ数は三四〇ページ近く、しかも全ページがフルカラーで、発行部数は二〇万冊に及んでい
る。これだけの商品を店頭に並べきれない得意先には、頼りになる有力な販促支援活動の機
能を果たしている。さらに、印刷物であるカタログの限界を打破するため、全国の主要都市
に店舗を展開し、いずれの店頭でも在庫のほとんどを陳列する方式を採用、陳列の順番もカ
タログに明記されている単品番号のオーダーに従っており、カタログ・ビジネスの補完的な
役割を持たせている。カタログ・ビジネスにピッキング(検索・品揃え。展示)支援型店舗を
組み合わせることによって、「売れる仕組み」をつくり上げているのである。
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